閉じる


レジスタンス・ミッション

 世の中は機械で溢れ、人も動物も体の一部が機械である事は珍しくなく、むしろそれが当たり前となっていた。

 それでもなお、機械とする事を拒む人々はいたが、迫害され思想犯として囚われていた。

 そんな人たちを収容する施設の一角から、大きな爆発音がしたかと思うと、煙が空に向かって伸びていた。

 その煙の中を、一組の若い男女が駆けていた。

 二人は黒い服に身を包み、防護マスクをつけていた。服にはいくつかポケットがあり、そこからナイフが顔をのぞかせている。

「ハヤト、こっちよ」

 女の方が指示を出す。

 目の部分はモニターになっていて、施設内の地図が表示されている。暗視機能もあり視界は良好だった。

「了解、イブキ」

 ハヤトはその指示に従う。

 その手には、大きなナイフが握られている。

「左手に階段があるから、そこを下りて。牢はその先よ」

 ハヤトは頷くと、イブキの指示通り階段を下りていく。

「なっ」

 階段を下りると、スプリンクラーが作動しているようで、まるで雨が降っているようだ。ハヤトは一瞬、足を止める。

「ったく……」

 いくら服が防水だからといって、濡れるのは気分的にいいものではない。

 ちっと舌打ちをして、その中を突っ切っていく。イブキも舌打ちをしてそれに続く。

「あれだな」

 進むとすぐ、目的の牢が見えた。その中には、思想犯として囚われた人たちがいた。ハヤトは牢の鍵を破壊するため、服のポケットから道具を取り出す。

「あんたたちは……」

 髭面の男が訊くが、ハヤトはそれを無視して作業を続ける。

「とにかく、逃げて」

 ハヤトは液体と刃物で鍵を壊す。

「さあ、逃げて」

 その間に、イブキも別の牢を開放している。

 ハヤトも次の牢を開放し始めている。

 そんな二人の脇を、捕らえられていた人々が外に向かって走っている。

 全ての牢を開放し、ハヤトとイブキも逃げようとすると、そこには最初の牢にいた髭面の男がいた。

「あんたたちは、もしかしてレジスタンスなのか?」

 その質問にハヤトとイブキは顔を見合わせる。

「まあ、そんなのはどうでもいいじゃないか。それよりも、さっさと逃げようぜ」

 二人は男の横を通って外に向かう。男は少し遅れて、二人を追いかけるように外に向かった。

 

 外は施設のあちこちからの爆発で賑やかだった。警備兵たちは、その処理でパニックになっており、それに加えて脱走だ。とてもではないが、完全に対応する事は困難だった。

 消火作業を続けている間も、次々と爆発が起こっている。

 捕らえられていた人たちは、その隙に外へと散り散りに逃げていく。

 ハヤトとイブキも、その流れに紛れて逃げるつもりだった。

「待てっ」

 後方から、体の半分を機械化された警備兵と、同じくほぼ全身を機械化された強化犬が追ってきていた。

 だが、二人は動じる事なくそのまま逃げ続ける。追いつかれない自信があった。

 しかし、それは二人以外には当てはまらない。

「あっ」

 それに気付いたのはイブキだった。だからこそ、体が自然に動いた。

 二人より後方には、あの髭面の男がいた。彼はドタドタと走っているのだが、今にも追いつかれてしまいそうだ。

 もとより、生身の人間が機械化された人間に勝てるはずもない。男が捕まってしまうのは、時間の問題だった。

 その状況に、イブキは突っ込んでいく。

「おい、イブキ」

 イブキの行動でそれに気付いたハヤトは、自分も向かおうとする。

「大丈夫。ハヤトは他の人たちをお願い」

 そう言われてしまうと、どうする事もできない。確かに、イブキと一緒に向かうのは非効率だ。現に、他の方向に逃げた人たちにも、警備兵たちが向かっている。

「了解。逃げ切れよ」

「もちろん」

 イブキはサムアップをして向かっていく。

「ったく……こっちも、なんとかしてやるか」

 ハヤトは銃を取り出すと、他の警備兵の元に向かっていく。

「ほれほれ」

 ハヤトは警備兵に向かって銃を撃つ。撃たれた弾丸は、もちろん普通のものではない。警備兵にも通用する特殊な弾丸だ。

「うわぁぁぁっ」

 被弾した警備兵は、悲鳴を上げて倒れる。

 その弾丸は、着弾すると強力な電気を発するように改良されていた。

 その影響で、周囲の警備兵も巻き添えで倒れる。

「いっちょあがり」

 ハヤトはにやりと笑う。

「ほれ、さっさと逃げな」

 もちろん、ハヤトに言われるまでもなく逃げている。ハヤトはそれを見届けて、自身も外に出る。

「よっしゃ、とりあえずのミッションは終わりだな」

 施設を振り返ると、あちこちで爆発が起こり、瓦礫となっている。

「まあ、これでいいでしょ」

 ハヤトはイブキとの合流場所に向かった。

 

「遅い」

 合流場所は、あの施設が見える高台だった。施設からは煙が上がっている。

 捕らえられていた人たちは、全員が逃走できたようだが、イブキがまだ現れない。

 ハヤトは双眼鏡で施設を見る。

「……っ!」

 ハヤトは見えた光景に息を呑む。

「イブキっ!」

 イブキが警備兵に捕らえられていた。

「あいつ、逃げきれなかったのか」

 ハヤトは迷う事なく、再び施設に向かっていく。

 

 施設の壁は破壊されているので、容易に中に入る事ができる。ハヤトはその一角から中に侵入する。

「ったく……ドジりやがって」

 愚痴りながらも、イブキの救出で頭がいっぱいだった。

 そのせいだろう、ハヤトは接近してくる強化犬に気付かなかった。

「なっ」

 気付いた時には、もう逃げきれる距離ではなかった。

「くそっ」

 このまま捕まるわけにはいかない。もちろん、イブキを救出したいのだが、一旦出直す事にした。

 その瞬時の判断が彼を救う。

 ハヤトは銃を取り出して、強化犬の方に向かって撃つ。そうしながらも、既に外に向かって走り出している。

 弾丸は命中せずに、施設の瓦礫に着弾する。

 しかし、弾丸から放たれた電気が、強化犬を足止めする事に成功する。それは一瞬だったが、その一瞬に施設の外に出るための距離をかせぐ事ができた。

 

「くそっ」

 イブキを救出できなかった事を悔やみ、目の前の岩を殴り付ける。

「おやおや、穏やかじゃないな」

 ふいに声がして振り返ると、そこにはあの髭面の男がいた。

「あんたは……」

 こいつのせいだと思い、ハヤトは反射的に胸ぐらを掴む。

「お、おい……やめてくれないか」

「黙れ。お前のせいで……お前のせいでイブキが……」

 ハヤトは髭面の男を睨むが、男は平然としていた。

「それに関しては、責任がないとは言えないが、自業自得だろ。覚悟はあったはずだ」

 髭面の男はハヤトの手を払い、自分の首をなでる。

「お前ら、レジスタンスか?」

「だったらどうした」

 ハヤトはぶっきらぼうに答える。

「なるほどな」

 髭面の男は地面に座り込み、ハヤトにも座るように言う。

「あんたたちがレジスタンスか。名前を聞いた事はあったが、実際に目の前にすると、案外普通なんだな」

「………………」

 ハヤトは座り込むが、男の方を見ようとはしない。

「殺しもするんだよな、レジスタンスは」

 それは確認だった。

「それがどうした。俺たちは、仕事ならたいていの事はする。殺しは、機械野郎に限るけどな」

「生身の人間は殺さない……まあ、その辺は本当みたいだな」

「あんたは、さっきからなんなんだ?」

 ハヤトは苛立ちを隠そうともしない。そもそも、今すぐにでもイブキの救出に向かいたいのだ。ここで、無駄話をしている時間はない。

「くだらない世間話なら、俺は暇じゃないんで」

 そう言って立ち上がる。

「まあ待てよ。依頼だ」

「依頼だって?」

 ハヤトは男を見下ろす。

「そうだ、依頼だ。殺して欲しいヤツがいる」

「……ダメだ。他の用事がある」

「いや、依頼は受けてもらう」

 男はじっとハヤトを見る。

「ダメだと言ったはずだ。後でなら考えなくもないけど」

「今すぐだ。とにかく、話を最後まで聞け」

 男はハヤトの手を引いて引き留める。

「放せ」

「あの施設の所長を殺してもらいたい。依頼料は、お前の相棒の救出の協力だ」

 男は一気にまくし立てる。

「なに?」

 それを聞いて、ハヤトは動きを止める。

「どうだ、悪い話じゃないはずだ。それとも、後で引き受けるってのか?」

 髭面の男は、にやりと笑う。

 ハヤトはため息を吐き、地面に座る。

「所長を殺せってか? まあ、あの施設の所長なら、ついでに処理してやれる。だが、協力ってのはどういう事だ?」

「その言葉の通りだ。あんたたちが逃がしてくれた連中が協力する」

「おいおい、また施設に戻るつもりか?」

「ぶち壊すんだよ、あそこを。どうだ? 警備兵なんかは、こっちで引きつけられるぞ。ついでに、車両も提供してやろうじゃないか」

「…………さっきまで施設にいたあんたたちに、そんな事ができるのか?」

「そうだろうな。そう思うのが普通だ。だが、それができちまうんだな。そもそも、あんたたちに依頼したヤツがいるだろ」

「……なるほどな。確かにそうだ」

 依頼人がここまで手配していても不思議ではない。

「向こうに準備できている」

 髭面の男は施設近くの林を指す。

「わかった。所長だな。殺してやるよ」

「契約成立だ。早速行くか」

 施設が破壊されて混乱状態にある今こそ、彼らにとってもチャンスだ。相手に体勢を立て直す時間を与えるわけにはいかない。

 ハヤトとしても、一刻も早くイブキを救出したい。

 利害が一致した。

 二人は林に向かう。

 

「すげぇな」

 林には武装した人たちでいっぱいだった。さっきまで施設にいた人たちだ。

 武装されたジープやバイクも用意されている。

「想像以上だ。これなら、なんとかなりそうだな」

「あんたには、こいつを貸そう」

 髭面の男が指したのは、サイドカー付きのバイクだった。

「これで我慢しといてやるよ」

「そうしてもらおう。さあ、このレジスタンスがあいつを殺してくれる。俺たちは、施設を破壊しまくるぞ」

 髭面の男が集まった人々に叫ぶと、鬨の声が返ってくる。

「さて、やってやるか」

 ハヤトたちは、再び施設を襲撃するため、戻っていく。

 

 即席ながらも充分な装備を用意し、囚われていた人たちは全員が施設を襲撃するために戻っていく。

 武装されたジープからは、四方に向けて銃弾が放たれ、手榴弾もあちこちに飛んでいく。

 既に破壊された施設が、さらに破壊されていく。

 警備兵たちが応戦するために、施設内から出てくる。そうすると、今度は警備兵に向けて銃弾が放たれる。

 しかし、機械化された警備兵たちには、致命的なものとはいかない。それでも、引きつける程度には役立っている。

 そんな混乱の中を、ハヤトは施設内に向かって疾走する。

「イブキはどこだ?」

 施設内の地図を確認して、ひとまず牢に向かう事にした。

 といっても、ハヤトたちが破壊したので、ほとんどが瓦礫だ。到底、こんな場所に捕らえておく事はできそうにない。

 事実、ここにはいなかった。

「ったく……どこだよ」

 再び地図を確認する。

 比較的破壊が少ない場所を探す。

「……ここか?」

 一番奥まった建物は、ほとんど破壊していない。重要な部屋がなかったため、ほどほどに破壊しただけだった。

「ここしかないか」

 他の場所がほとんど破壊されているために、結果的にここが本拠地になっているかもしれない。そう期待し、ハヤトはそこへ向かう。

 途中、瓦礫を乗り越えて向かうが、警備兵には出会わなかった。どうやら、全員が表に向かったようだ。

 

 ハヤトは壊れたドアから、建物の中に入っていく。

 一階は人の気配がないので、階段を上がっていく。

 すると、ドアが壊れた部屋があり、そこにイブキの姿を見つける。

「イブキ」

「ハヤト」

 イブキは縄で拘束され、柱に括りつけられていた。

 その近くには、一人の男がいた。この施設の所長だ。

「仲間か……。捕まえろ」

 男のそばに控えていた警備兵がハヤトに向かってくる。

「イブキを返してもらうぞ」

 ハヤトは怯む事なく、むしろ向かっていく。

 警備兵の警棒をひらりとかわし、銃で警備兵をしとめる。

 あっという間の出来事だった。

「さて、次はあんただ」

 ハヤトはナイフを抜き、所長に向かっていく。

「ま、待てっ」

 しかしハヤトが止まるはずがない。

 ハヤトは所長の体を後ろから抱えるようにして、ナイフを突きつける。

「悪いが、依頼なんでね」

 ハヤトはナイフを引き、所長が絶命する。

「ハヤト……」

 拘束を解かれたイブキが、所長の亡骸を見る。言いたい事は、ハヤトにもわかっている。

「ったく、あの髭野郎……」

 所長の亡骸を見下ろし、ハヤトは毒づく。

 所長は機械化された人間ではなく、生身の人間だった。

 レジスタンスは生身の人間を殺さない――それを知りつつ依頼したという事に、ハヤトは苛立ちを感じる。

 しかし問い詰めたとしても、所長が生身の人間だと知らなかったと言い張るだけだろう。

 殺してしまったものは、生き返らせる事はできない。

「まあ、いいさ。さっき受けた依頼を果たすだけだ」

「そうね」

 二人は思考を切り替える。とにかく、依頼を全うするだけだ。

 二人は建物の外を目指す。

 

 建物の外では、脱走者たちと警備兵たちの戦闘で混乱状態だった。

 生身の人間と機械化された兵との差はやはりあり、警備兵たちが優勢に思えた。

 そこに、サブマシンガンを持ってハヤトとイブキが参戦する。脱走者たちはそれを見て、強力な戦力に期待した。

 しかし――

 二人は、その場にいた誰もが想像しなかった行動に出た。

 ハヤトとイブキは、そこにいる全員に向けて銃を撃つ。

 強化された警備兵には通常の銃弾は通用しないため、イブキが対機械用の銃を的確に撃ち込んでいく。

 両者ともに悲鳴を上げて倒れていく。

「なにしてんだ、あんたたち」

 髭面の男が、銃弾を避けて叫ぶ。

「依頼を果たしてるだけだ。脱走者の皆殺し――所長さんからの依頼なんだ」

 そう言い、ハヤトは髭面の男に銃を向ける。

「あんたたちの依頼ももちろん果たしてやるよ。警備兵は全滅させる。ついでに、建物も全部破壊しておく。だから、安心しなよ」

 冷静に告げると、ハヤトは引き金を引く。

 髭面の男は、茫然としたまま死んだ。

「さて、残りの処理だな」

「そうね」

 二人は容赦なく処理していく。

 

 やがて動いているのは、ハヤトとイブキだけとなった。

 イブキは建物の奥から、大きなジュラルミンのバッグを持ってくる。所長から提示された報酬だった。

「残念だったな。レジスタンスは生身の人間を殺さない――まあ、建前はそうなんだけどよ、殺しを許可されたメンバーもいるんだよ」

 ハヤトが髭面の男を見下ろして言う。

「ハヤト、準備できたわよ」

「了解」

 二人は瓦礫となった施設を背に歩き出す。

 二人が施設から離れる頃、巨大な爆発が起こり、わずかに残っていた建物は、全て破壊された。

「さて、次の任務に行きますか」

「そうね」

 爆炎を背に、二人は歩いていく。

 

 

 

Fino.

 

 


奥付



レジスタンス・ミッション


http://p.booklog.jp/book/111385


著者 : 芳田尚哉
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/studiosaix/profile


感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/111385



電子書籍プラットフォーム : パブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社トゥ・ディファクト




この本の内容は以上です。


読者登録

芳田尚哉さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について