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(7)

 

 

「お。なに。殴り込みかけんの。おっもしれーっ」

「おまえなー、栗原っ! わかって云ってんのかよっっ??」

「小姑みたいにわめいてないで、ま、諦めんだな磯原。

 杉谷が一度やるっつったら、やるのさ。」

 わーってますよ先輩、そりゃ俺がいちばんっ。

 わーってますけどねっっっ

「やだよーっ俺まだ死にたくないッッ☆」

 云いつつ仕方なくクォクに積んである武器類ひっぱり出し。

「イヤですョ。あたしゃゴメンですね。」

 最後までつっぱっねていたのは結局ヤニさんだった。

「アルヤどんからお預かりした以上、責任はこの火喰い竜のヤニさんにあるんですからねェ。おしりの青いような坊や達に好き勝手やらせて火傷するのを黙って見ているわけにゃ行かないんですョ。」

「さっさと出発だ。ユミ、会田、準備はいいか。」

「いちおう。」

「できましたわ。でも杉谷さん。安全な抜け道がある以上、わざわざ二手に別れて一方が危険地帯に自ら侵入するなどとは、とても正気の人間のとる策だとは思えませんわ。」

「ふふん。」

 好はこういう時いつも相手を小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべる。

「ここから宙港までなら幾らでも安全なルートを探し出してやるがな。おまえらいざ MISS-SHOT に辿り着いてから、その後どうするつもりだ?

 アルバトーレで検討した限りでは、スターエアで何の情報も得られなかった場合は日本にある地下組織のどれかに連絡とるのが最善だ…て事になってる。」

「…げ。オサトガエリすんのォ?…今じゃ日本て『皇国軍』なんだろ? 敵さんの本拠だろォ…?」

「 That’s RIGHT. 」

 うぅ、俺って長生きできそうにない…

だからだ。こっちの追手とドンパチやりながら本拠に逃げ込んで無事でいられると思うか栗原?」

「 お? え~とぉ」

「はっきり云って追ん回されて逃げんのが性に合わないだけだろーが杉谷。」

 ひろと先輩が無責任にカラカラ笑った。

 ヤニさんは俺たち6人をたっぷり1分間は見比べて、あげく、苦笑まじりに嘆息。

「…や~れ、やれ、やれ。これァまたエライのと関ぁりあっちまったもんですョあたしも。

 えぇもう好きにやっておくンなさい。あたしゃ黙って従うことにしますサ。」

 …ンな、わけで。

 その道に詳しいヤニさんでさえビビるような真似を、俺たちはするハメになってしまった。

 ゆかり姫だけが、まだ不満の残る顔をしている…。

 

 

 

 


(8)




 ユミちゃん達3人と1人は既に出発し。

「好、俺たちはいつここ出るんだよ?」

 ムーン II でもらった銃や軽金属製の木?刀(要するに刃はついていない)を身に付けながら聞く。

 好は答えない。1人でイライラと何か考え込んでいる。

 …あれ。ツメ噛む癖ってまだ治ってなかったのか。…変なとこでガキっぽいんだよな…。

 J.G.がのぞきに来たので姫から預かっていたお金を俺が支払い、そのとき好がふっと顔をあげてニッと眼を細めた。

「おやじ、奴らが来たら素直に密告してくれて構わねェからな。」

 何のことだか解らない。

 ただJ.G.に比べれば好のほうがはるかに稚(わか)いのは確かだのに、この2人にはどこか共通のもの…ある意味ではそっくりと云っていいフンイキのようなもの…があって、それぞれは相手の言いたい事が即座に呑みこめていたらしかった。

「おぉよ。坊主。命があったらまた飲みに来い。」

「ああ。」

 ふうんと俺は思う。何か…うまく言葉にはできないけど、…連帯感。

「お、来たぜぇ」

 それとなく裏を見張っていた栗原が楽しそうに振りかえった。

 ああ、もう。

 こいつも喧嘩となると、眼の色変えて…。

 ひろと先輩もそっちの方へのぞきに行った。

「少ねェなァ。こっちがクォクとは、こりゃ知らないらしい。」

 その時、あけ放してあった酒場に通じるドアの向うから、荒々しく踏みこんで来る憲兵たちの声が響いた。

「Good-Luck! がんばんな。」

 J.G.が義足の音も軽やかに、面白がってさえいる様子で騒動の中に降りて行った。

 しばらくの静寂。

 やがて階段を大勢でかけ上がって来ようとする気配。

「行くぞっ!」

 好が鮮やかなワンアクションでクォクに飛び乗った。

 俺もひろと先輩も後に続く。

 エンジン始動。

 栗原、ガレージのシャッターひと息で目一杯押し上げて。

「 Let’s Go! 」

 イェイ♪ てなもんで俺は親指立てて叫んだ。

 あとはもう、風を吹っちぎって。

 クォクの爆風に飛ばされながら後ろから慌てふためいて怒号する声。

 角を2つ3つ曲がる頃にはそれがけたたましいサイレンの唸りに変わっている。

 狭い路地。

 水たまり。

 前哨灯のあかりに古ぼけた壁が浮き沈みする闇黒。

 時折り長い直線コースに入ると、角を曲がる前に一瞬追いかけてくるパトカーのまっ青なサーチライト。

 …ぅわ~~~~カー・チェイスだっっ!!

 スピードや旋回性能からすれば楽に「まいて」しまえる筈の相手なんだけど、何か考えがあるのか先頭を走る好は何故かそうしない。

 来た時のを逆にとって登りのルートに出る。

『 ソコノ車、停マリナサイ。ソコノ車、停マリナサイ。』

 非人格的な停止命令が先回りした脇の道から飛び出して来る。

 あっちはタイヤ。こっちは今ホバーだ。

 軽く上を走り越してやると横すべりして壁へドカン。

 道をふさがれた後続が凄まじい勢いでブレーキをかける。

 と。

 おわー過激だ。

 撃って来やがったぜっ!!

「うげげ★」

 あせったひろと先輩があやうく栗原に激突しそこねる。

 よけきった野生の栗原くん。さすが。

 俺だったら2人しておシャカだぜっ。

 云いたかないけど、ひろと先輩って、運動神経あんま良くないのな…。

 なんにせよ後ろっから光線が飛んで来んのって気持ちのいいもんじゃない。

 当たったら痛いだろうななんて考えながら操縦桿てきとうに右左に切って。

 これ、偶然に的中しちまう可能性って何%ぐらいなんだろ?

 都市上層部…不夜城めいた光の世界に近づくにつれてあっちこっちから新手のパトカーが湧いて出て来る。

 むき出しの高架道路をホバーで走っている以上、地面での追っかけっこと違っていきなり手近の脇道に飛びこむとかして振り切るわけにも行かない。

「おわー不利だっっ」

 思わずわめきたてる声も爆音とサイレンのなか。

 と、好が咄嗟に推進系をジェット ”垂直” に切り換え…地球の重力下ではこれでは飛び上がれない…落下をふせぎながらも路肩をはみ出しちまったっ☆!?

 側方20m、15mほど下方。

 エア・カーの走ってる透明なチューブ走路。

 クォクが再び変型して、危ういところでタイヤが生えて来る。

 ダン!

 ふぇえ。

 あいつチューブ走路の 上 を走ってるよっっ★

 その真下にいるエア・カーの奴らの文字通り仰天しちまった顔がちらりと見えた。

 パトカーの方は、走路に穴をあけてしまうおそれがあるもので、撃てない。

 好はぐんぐん遠ざかって行く。

 栗原、ひろと先輩が後に続く…と先輩危ないコケるっっ

 俺はと云えば好のすぐ後ろを走っていた都合上、スピードから云っても既に3人と同じチューブに乗り移れるポイントは過ぎてしまってた。

 かと云って引き反せば後ろの追跡車とハチ合わせだし、どのみちこの速度でターンできるほど道路広くないし。

 とわ。

 ビルひとつまわり込んだ所で凄まじく大きな対向車こっち来るッ!

 ホバー最大にして路上20mくらい跳びあがる。

 そうするとカーブが曲がり切れなくなって空中へ飛び出し…

 ひ、ひえ。

 目がまーるほど高い。

 不夜城の下は闇。

 俺、死にたくないよっっっ

 …幸か不幸か旋回して来た飛行艇型パトカー、踏み台にしてしまった。ごめんなさい。

 ヤイヤ出してバウンドして。

 ジェットで加速して。

 なんとか手近のチューブに引っかかる。

 ふえ、代わりに飛行艇が高架道路に不時着してら…



 …さて。

 他のクォク見失った。

 困ったなと思っていると向うのほうでド派手な爆発音。

 どーせ好だ。また何かアホウな真似やってるに決まってる。

 ん。とにもー!

 破壊欲があり過ぎんだよあの男ぁっ!!

 何はともあれ目的は皇国司令部ぶっつぶし。

 それも早急に。すみやかに。間違っても俺たちの顔写真が本国に書類送検なんてヒマを与えないように。

 目的地・都市区画I-39棟。

 あちこちに出ている区画表示を頼りに、俺はチューブを乗り換え乗り換え、撃てないじれったさにヒステリー起こしそうなパトカーの大集団ひきつれて。

 悠々と。

 かなり快感。

 見渡せば東京都分くらいはありそうな規模の壮大な構想都市。

 空中楼閣。

 だけど腐り切った超絶資本主義の見本。

 J-38…

 I-38…

 都市区画 I-39棟。

 やったねっ!

 俺よりもはるか下の方で3人が今しも窓破って跳び込むところ。

 こ、こあいっっ

 好のクォクってミサイル積んでやんのっ★

 負けじと突っ込みたいところだけど、これって硬化ガラスだろォ~~~っっ

 うっかり体当たりかまして壊し損ねた日にはハネ返されて地面へダイビング。

 ま、いいや。

 なんとかなんだろ。

 それでも死にたくないので一旦クォクにしっかりブレーキかけ。

 衝撃銃と熱線銃を交互に2~3度ぶっ放して前方、目星をつけた窓をあらかじめ弱くしておく。

 あらよっ。と。

 ガシャン。

 突入成功。

 ガラスの破片で歩哨さんひとりノシてしまった。

 あらら…と。

 血は出てないから。

 I’m Sorry.

 

 

 


(9)

 いくら無制限に照明が使われていて明るいからって、やっぱ今は夜なのだ。

 ところどころの歩哨以外には人がいないっての、助かっちまう。

 クォクで廊下つっ走っているとき撃たれにくいし、こっちは側まで行ってから通り抜けざまに気絶させればいい。

 そうこうするうちにあちこちで何種類もの警報、アラーム、サイレンに非常ベルの類が鳴り響き始めてしまった。

{ 侵入者アリ、侵入者あり。警備兵ハ第123層、及ビ第302層ヘ向カヘ。

  クリカエス。警備兵ハ… }

{ 火災発生! 火災発生! }

{ 芹田隊長! 芹田隊長おいででしたら早く指揮をとって下さいっ!!」

 ………へ?………

 くっけっけっ!

 J.G.の言っていた『指揮系統がワカメ』てこの事かぁ。

 アナウンス聞いてるとほんっとに相手方の慌てぶりが良く解る。

 かあいそーなくらい、混乱。

 軍司令部とか云ったって実質行政局だもんね。

 日本人の常として、誰も非常時に責任持って敵撃退の指揮とろうってのが、居ないらしい。

 それでも始めちょっと ”自動警備システム” てのに悩まされましたね。

 どこから撃って来るのかが判りにくい上に狙いは正確ときてる。

 だけど外でパトカーがぶっ放してたヤツに比べればビームの出力がずいぶん小さいのに気がついて、試しにあの宇宙空間用のジャングルジムたててバリア流してみると…

 イェイ楽勝っ♪

 好たちに合流するつもりで2~3層下って行くと、さっき俺が乗ってきたチューブ走路の内側に大人しく収まっていれば辿り着けたはずの層に出た。

 階の名称、 ”第8エントランス” 。

 中央通路の一画に、ごてーねーにデパートみたいな建物の立体地図がある…

 ん、と…

 まず他の3人がいる筈の下の層から目を走らす。

 マザー・コンピュータ・ルーム。

 これはひろと先輩が行くだろう。

 動力室…栗原向き。

 司令官室にはとうぜん好が殴り込みかけるだろーから、近いし、ここへ合流しようか。

 それとも、もっと、「俺向き」の場所…。

「…あった。403階!」

 留置場。つまりは牢屋。

 も、あの3人にまかしといたら、建物全壊させかねないんだもんね。

 逃げられない立場の人間は、早目にどうにかしといてやらないと…。

 それに、逃亡者の数が増えればそれだけ、追手って薄く広がっちまうもん。

 かくして俺はあっちこっちでドンパチじたばた騒ぎを起こしながら上へ上へと登って行く。

 クォクで階段を走り上がるのって、いまいち、胃下垂になりそうな…★

(狭すぎてホバーは使えない。)

 で、403層。

 獄舎は403~404の2層に亘っているんだけど、上の層に行くには403側の長い一本廊下を辿って行くっきゃない。

 つまり俺がクォクで走り抜けてきた階段の404層出口は無いってこと。

 405層は兵員用大食堂兼集会場と若干の娯楽設備。

 406~409層はパトロール艇その他の空中車(って案内板に書いてあったんだもん。まぁ飛行艇のこったろうけど。)の格納庫。

 そして都市地上第410層が、2時間後…正確にはすでに今から43分後になっちゃってるけど…に、ヤニさん達 MISS-SHOT 号組が俺たちを拾いに来てくれる、屋上ヘリポートだった。

 さて。

 ちょいと休憩。作戦タイム。

 403層の一端を通るダダ長い直線通路。

 こいつがこの場合ひどく厄介なのだ。

 俺がいるのはビルの側方にある非常階段だから、正規のエレベーターは向かって左20m。

 廊下が獄舎のある方へと直角に曲がっている、警備要員詰所あで、右側へ100m近く。

 ちらっと覗きみた限りでは、警備兵は5~6人。

 廊下の自動システムは今まで通りクォクのバリアで何とかなるにしても、連中の持ってる銃は…

 う~ん。そりゃ、俺だって高性能のショックガンもヒートガンも持って来てますけどね。

 これが好ならいざ知らず、100m向うから走って…もしくは立ったままだとしても…撃ってくる人間6人をも倒す能力が俺にあるかって云うと、射撃の腕の哀れさかげんはすでに月面で実証済み。

 う~~~ん。

 あ! ……と。そか。

「やたねっ♪」

 俺はほくほくしながら再び走り始めた。

 上へ向かって。



 
 第405層で大騒ぎが起こる。

 食堂の椅子はぶっ飛ぶわ調理場の油は引火するわ、ひどい有り様なんだけど、夜である。

 兵員宿舎ってのはまた別の場所にあるらしくて人影なんてまるでありゃしない。歩哨さえ立ってはいないんだ。食堂なんかじゃ、ね。

 アラームが鳴り響く。侵入者アリ侵入者アリ侵入者アリ…

 当の侵入者の俺としちゃ騒動は大きけりゃ大きいほどいいわけ。

 目一杯ぶったくり壊して…(クォクで室内モトクロス・レースをやってしまった)…頃合い見はからってそろそろいいかなと403層に引き返す途中。

 ドグァッッッ!!

 てなもんで建物全体が揺れ動いた。

 多分、はるか200層もの下方で、栗原が動力室たたき壊してしまった音…。

 一瞬あたりが真っ暗闇になり、すぐに、息も絶え絶えなあやしげな非常用ランプの世界。

 ますますけたたましいベルにサイレンの音。マイクごしの怒号。

 やたねっ♪ やりやすくなってしまった…♪

「………大変だっ!! 侵入者のひとりが格納庫の機体を奪って逃亡しようとしている! 今ならまだ捕えられるかも知れない。来て手伝ってく…うっ! ごほんごほん!」

 ただでさえ動揺してる所へもってして、いかにも真実くさい救けを求める声。

(ちなみに俺、嘘と芝居は大得意。です。)

 廊下の向うの留置場警備係たちは互いに顔を見合わせるヒマもなく、こちらへ向かって走り出してくれていた。

 で、あとは簡単。

 ベータ―の中にクォク隠して俺は連中を十分ひきつけるまで大人しく倒れ伏していて。

 書き忘れていたけど俺の来てるスペース・スーツ、一見して色が警備兵の制服とよく似てたんだよね。

 味方に咄嗟に銃むけるわけにもいかず、焦ってるところを、6人、あっさり叩き伏せてしまった…いぇいっ♪

 …しっかしィ。

 ヤバイよこれは。

 このビルってマジにこの分じゃ倒壊するんじゃないか?

 さっきっからひっきりなしに小爆発音が伝わってくる。

 ちょいとやりすぎだよ~~~好~~栗原~~っっ

 こりゃ、この棟の動力源が原子炉やなんかでなかったように祈るっきゃない、な…

 アーメン。





(10)




 警備兵詰所の角を曲がると、そこから先はずらっと監房だった。

 鉄格子の列。…うぇっ

「くそ~~~っ出せ~~~っ!」

「何があったの?! 救けて! ここから出して!」

 そんな風な何十何百人の声が俺の姿をみとめるなり、どっと湧き起こっていた。

「………落ち着いてくれ! 俺は警備兵じゃない!!」

 俺も負けじと怒鳴りかえす。

 急がなけりゃ…本当に、命が危ないのかもしれない。

 だけどこんな大人数だとは… 考えていなかった。

 息を吸い込んで、気を落ちつける。

 考えをまとめて…

 さぁ、どうしたらいい…?

 牢獄は俺が話すのを待っていた。

 数秒間の静寂。

「俺は警備兵じゃない。奴らはぜんぶ俺が片づけてきたから心配しなくていい。

 爆発やなんかはみんな俺の仲間がやってる事だ。

 すでに動力室やこの棟の制御室は破壊しただろうと思う。

 …たぶん司令室も。」

 俺は話しながら詰所の壁に並べてあった電子ロックの鍵を取りはずした。

 ついでに予備の銃器類が保管されてあるのを見つける。

 らっきー! かなりの数だ。エネルギー、ちゃんと入ってる…。

 鍵束をふりかざすようにジャラつかせた。

「この中で腕に覚えのある奴はいるか!」

「おぉよ!」

 打てば響く。

 なるほどこういう場合の表現。

「6層上がヘリポートだ。空中車かっさらって逃げちまえ。…ただし!」

 わっと獄内が湧きたちそうになるので俺は慌てて付け足さなきゃならなかった。

「自分たちだけで逃げるな! ここにいる人間、ひとり残らず連れて行くんでなきゃ鍵あけてやらねェからな!」

「承知! おれらァ宇宙の男だ、約束ァ守ってやるぜ!」

 …おわ~~あそこの一団はJ.G.やヤニさんと同じ種類の人間だっ!

 なんて喜んだりして。

 …いいや。こうなったら、あいつらに全部まかしちまえ。

 とゆーことで片っ端から扉を開け放つ。

 宇宙海賊、火付けに強盗、強姦魔。売春婦に詐欺師に政治犯と、扉に貼ってあるプレート見る限りじゃ、ありとあらゆるタイプの犯罪者がいるらしいんだけど、も、構わずぜんぶ逃がしてやっちゃう。

 敵のカタキはみな味方っ♪

 …この精神ですぜ…。

 走りだす人の流れ。混乱。ちょっとした諍い。

 …だけどすぐにその中には不思議と統制めいたものが生まれ。

「ジェーニ早く!」

「おい、そこのばあさんは背負ってやれ。」

「待って誰か。このひと怪我してるのよっ」

 そんな風な声があちこちで聞こえる。銃をとった殺し屋や海賊たちは、先にたって脱出路を作るから心配せず後ろからしっかりついて来い、と大音声で呼ばわる。

 それとは別に何人か、 "集団のリーダー" やり慣れた人達もいるみたいだ。

 …これって、ほんと、バラバラにとっ捕まった犯罪者の群れなわけ?

 悪人同士の連帯感とかで片づけちまうにはあまりにも感動的な、たすけあいの精神。


「ありがとう。出してくれて感謝する。キミの名前は? どこの組織の人間だい?」

「目的は? 命の恩人だ、協力するよ。リーダーに会わせてくれないか」

 みんながわりとスムーズに逃げはじめるのを見届けて、まだあちこちの鍵あけに忙しい俺のところへ、くだんの "統率やりなれた人間" たちが、てんでに集まって来た。

 その大部分が、気がついてみれば『政治犯』の房から落ちつき払って現われ出た連中だ。

(( 貸して下さい。ここから奥はわたしがやりましょう。))

 ひとりのひどく印象的な女性が、たおやかに透けるような指で俺の手から鍵束をさらい出して、云った。

 …この人が何処の房にいたのか俺には判らなかったんだけど、海賊にも泥棒にも、まして売春婦だとは思えっこないし、政治思想犯てふうでもないし…

 歳は20から35の間ってところだろうか?

 スタイルとかなんとか云うのではなくて、人間的にひどく際だった立ち姿。

 身分ありげな繊細な物腰。

 そして胸に柔らかく抱きしめている…やすらかな寝顔の、赤ちゃん。

(かぎりなく優しく…だけど彼女の子供という風でもない。)

「 あ。……」

 ほとんど白に近い、青味のかかった不思議な色彩の長い長い髪が無造作にひるがえって行こうとした時、俺は、用もなしにもうちょっとで呼び止めてしまうところで、それから慌てて伸ばしかけた手をひっこめる。

 今は現実問題のほうが先だ。どうせ牢から脱出する道はこれ一本しかないんだから、彼女が気にかかるんなら、引き返してきた時にまた会える。

 ひとり、賭け出してくる人の波とは逆方向へ静かに、だけど必要なだけの速さと正確さでもって、扉を開け放ちながら歩み去って行く後ろ姿。

 …印象的な…

 それ以外の形容詞を咄嗟に俺は思いつけなかった。

 美人だとか理想のタイプだとか、そういう割とよく味わう感情でさえない、何か、この世の外、という感覚。

 遠ざかって行く後ろ姿がひどく非現実な影のうすいものに一瞬、視えた。

 もちろん、それは単に薄暗い非常灯の光のせいに過ぎなかったのかも知れないけど。


「…名前は?」

 はっと現実に引き戻される。

 それでも俺がぼっとしてたのはほんの数瞬間のことだ。

「……あ、磯原。磯原清っていいます。リーダーは…今のところいちおう好ってことになってるのかな…杉谷好一。何処の人間かって聞かれても…え、組織って…」

「ありがとう。都合の悪いことは聞かないよ。私は、知っているかもしれないが尾崎 済(さい)。」

 他にも何人かが名乗ってくれるんだけど、当然のこととして、俺は知らない。

 確認暗号というか合い言葉?みたいなものも幾つか相手方の口にのぼるんだけど、これも解るわけない。

 意外だなとゆー顔をされて俺はアセった。

「あ。たぶん俺達あなたがたの思ってるのとは違うと思います。俺たちは…その…地球へは今日降りて来たばっかりで、何も解ってなくて。」

「スペースマンだったのか。何処の?」

 ついでに云うとこの『スペースマン』というのはただの『コロニスト』より一段上の敬称らしい。

「う、うーと。生まれは別なんだけど、仕事頼まれたのは『ムーンII』から…」

 えぇいクソ。どこまで話していいのやらわーらん。

 好ならもっと上手く情報収集やるんだろうけど。

 とにかく俺が『ムーンII』の名前を口にすると、空気がザワっと変わった。

アルバトーレ…!」

 敵意とかではなく、絶対的な好意。と、若干の畏敬。

「…よォし。何か深いわけがありそうなのは解った。つべこべ云わないよ。さっきも云ったけど、協力する。何をして欲しい?」

「アルテミス姫のこと、御存知ありませんか。」

「コロニスツの宗女どの? いや。……何かあったのか?」

「 ぃえっ! 知らないならいいんですっっ」

 相手が親切そうなんで、つい口をすべらしちゃったけど… 早計だったかな。

「じゃ、お願いはひとつです。無事に逃げて下さい。俺たちとしちゃ、騒ぎが大きくなればなるほど都合がいいんです。」

「わかった。そういうことならいくらでも安心してまかせておいてくれ。向う三週間は皇国軍内部の連絡網、分断しといてやるぜ。」

 サイさんと名乗った人が思いっきり小気味よく片目をつぶった。

 この人、落ち着いて見えるけれど、思ったよりはかなり若いらしい。

 28、ってとこかな?

 相変わらずビル全体の鳴動と爆発音は続いている。

 アナウンスはいつのまにか総員退避命令に変わっていた。

 「うわー。ここもいよいよ本格的にヤバイみたい。」

 ったく何やりゃぁってんだろーな栗原達は。

「そろそろ我々も行くか。」

 俺をとり巻いていた人間にも出発の気配。

「俺は最後のひとりが出ちゃうまではここにいます。クォクで一緒に走っても危ないだけですしね。」

「 GOOD- LUCK!」

「それじゃっ」

 奥の階段通って404層から降りて来る人たちも断続的になってきた。

 そのうち階上のほうからもド派手な爆発音がズン!ズン!とばかりにのしかかってくる。

「…始めたな…あの海賊さん達。」

 まっこと頼もしーわいとひとり呟いて。

「これで終わりだよ! あんたもさっさと逃げなっ!」

 病気らしい母親をささえながら数人の子供たちが逞しく駆け抜けて行く。

 これで終わり。………え?

 あの、印象的なひとが、まだだ…。

 俺は奥へ向かって走りだした。

 

 

 

 

 

(参照したければ資料)

http://85358.diarynote.jp/201611112021351560/

『俺と好』1 第3章 1.俺たちは無鉄砲のかたまり。 (10)+(11)。


(11)

そろそろ壁や天井の塗装がはがれ、亀裂まで細かく入り始めている。

 奥の階段を三段抜かしで行こうとすると、すぐ上の踊り場のところに、まるで薄暮のなかにそこだけ切りぬいたようなほの明るさで、彼女は立ち尽くしていた。

「あ、あなたこんな所で… あ、あの早く。逃げないと、キケ……」

 危険だと云おうとして何がなし絶句してしまう。

 この人は、そんな事に頓着していない。

 どこか非現実感。

 透き通るような………

「…エルフィーリ(妖精人)。」

 なにか、の異なる存在感に思わず口が動く。

 …ぅわ~バカバカのんびりアダ名つけて喜んでるばーいじゃないっっ

 ところがその人はゆたかに微笑んだ。

(( あなたは ”見遥かす者” の瞳をしておいでだわ、勇敢なテレストリアル。(人間族) ))

 はっと気づくとその言葉…感覚…は、どちらの口も耳も通さずに俺の心に直接しみこんでいた。

 … てれぱしい。…

 そんな単語がまっさきに頭に浮かぶけれども、やっぱりもっと違う。

 不可思議な、むしろファンタジー。

 魔法にちかい肌合い。

 俺たちは天井の崩れ落ちはじめるガラガラいう轟音の中で、立ちつくしていた。

(( お願いがあるのです。))

 再び、限りなく優しいくせに決然とした 感情 が、心の中へ伝わってくる。

「どんな事でも。」

 咄嗟にそう応えてしまう以外、俺にどうできただろう?

 自然に… 本当にごく自然な あたりまえの 現象であるかのように、彼女の腕の中の赤ん坊が宙に浮かび上がった。

 そのまま滑るようになめらかに、彼女の愛情と、忠誠めいてさえ見える神聖さの淡い光芒に包まれて、その安心しきった寝顔が俺のすぐ前へ運ばれて来る。

 俺はと云えば今さら驚いてみる気にもなれずに、ただただ自分がわけもわからないまま黙示劇のなかにでも引きずりこまれてしまったような感覚につかまり、それでも何かしら重大な気がして、両腕をさしのばして おくるみ のふくふくした感触を抱きとめようとしていた。

 不思議なのは、とうに非常灯の明かりさえ失せてしまった闇黒のはずの空間の中で、彼女と赤ん坊と俺自身の腕だけが、内側から光ってでもいるように、妙にはっきりと視界に焼きついていたことだった。

「………アトゥルワー…!! 」

 俺は柔らかい生き物をあやうく取り落とすところだった。

 後ろを振り向いて見るまでもなく、その太く苦しげな、ほとんど悲痛とさえ云える声は、あの、酒場で聴いた「それでも日本人なのか?!」と、同じ老人のものだったのだから…。

「 アトゥルワーよ。」

 おぉ、とも、あぁ、とも、つかない呻き声がもれた。

「 アトゥルワー……」

 みたび呼びかける。

 下腹部に巻かれた包帯代わりの裂いたシーツの上に、鮮やかな、紅。

 荒い熱い息づかい。

(( バヌマ。))

 見まちがいなどではなく、彼女…妖精人…アトゥルワー(水乙女)…は、老人にむけて静かに微笑みかけた。

 透明感。

(( 苦しまないで下さい。わたくしたち水精の掟は知っておいででございましょう?

  わたくしは、すでに穢れた身となりました。

  死を許されたほうがわたくし、幸福でいられるのです。))

「…アトゥルワー。しかし…」

  ”穢れ” イコール ”死” 。

 彼女の言うことが頭にしみこむまでにはすこし時間がかかって、はっと気がついた時には。

 奈辺から現われ出たのだろう。

 冷たい、凶々しい、悪夢のような輝きの刃が、ゆるやかに一閃して、そして…

 鮮血。

 気がついてみればその小さなナイフは、彼女自身の美しい白い指にしっかと握りしめられているのだった。

「 … 水の、娘。……」

 呟いたのは俺なのか彼なのかわからない。

(( バヌマ… そして、見遥かす瞳のおかた。))

 頸動脈からの急速な失血のために、ともすれば途絶えがちになる意識をおして、彼女の最後のメッセージが俺たちの心へ伝わって来た。

(( ワコさまを… お願いいたします。ニッポン… あの小さい、不思議な活気に満ちた… ははなる大地の鳴動する島国へ…

 …あ… アサヒガモリ… へ… お預けしてください…

  ”アサヒガモリ” …の…

 長なる御方に… ))


 彼女の 声 が彼方に薄れて消えていってしまった後には、すでに息絶え、むきだしの床に崩折れたせいで急速に冷えつつある遺骸がひとつ、俺たちの目の前に横たわっているだけだった。

 いとも、無造作に…



 比喩表現でなしに目の前が真っ暗になった。

 事実なにも視えなくなってしまったんだからおかしな話だ。

 もちろん、よく考えてみれば、普通には それまで物が 視えていた って事のほうが説明のつかない現象なんだろうけれど…

「 アトル… 水の娘よ… 」

 すぐ脇で老人が膝をついてしまう気配。

 俺はハッと気がついて時計をのぞきこんだ。

 こいつは夜光だから…


 しまった!


 約束の ”2時間後” は、とっくに過ぎちまってる…!

「ちょっとおじーさんっっ!」

 歩け……る筈もないよなぁ、その傷で。

 ここまで辿り着くのだって相当な苦痛だったに違いない。

 かと云って、俺、赤ン坊と一緒にこの人までは運べないぜっ

(( とにかくとりあえずクォクの所まで… ))

 不思議なもので、 彼女 と向かい合ってる時にはまるで意識にひっかかりもしなかった建物全体の揺動が、脱出を焦りはじめたとたん、俺の心に不気味に重くのしかかってくる。

 う。

 はっきし云って恐い。

 怖ろしいんだ。

 覚えず脚がすくみそうになる。

 エルフィーリに気をとられていれば本当に周囲の様子なんて、そこだけ ”場” が違ってでもいたかのように、判りもしなかったのに…

 足元が危ないくらい床面はひどく震動している。

 ひっきりなしに天井が塊になってはがれ落ちてくる。

 プアン!!

 重い漆黒を切り裂くように軽快なクラクション音が響いて。

「磯原さん! 御無事ですか ?!」

 輝かしいライトがまぶたに突きささった。

「 姫! 栗原!! 」

 思わず叫び反す。

 …はは、我ながらちと情けないほどホッとしちまった声かな…?

「栗原このおじーさん、おま、引き受けてくれぃッっっ」

 それから振り返る。あの人。………彼女………。

 ぐらっ

「危ない磯原さんっ!!」

 姫の銃閃が俺の頭に落ちかかるコンクリ塊を打ち砕いた。

 正確な射撃。

 そして広範囲に崩れ落ち、完全に埋もれてしまった階段と踊り場。

 ………もう、ひろがり流れ、床を染めていった紅い流れのはしさえ、視えはしない。


「… アー、メン… 」

 俺自身はクリスチャンじゃない。

 だけど母親のみようみまねで十字を切った。

 他に… どうしてあげようがある?

 べつに合掌して冥福を祈るんでもなんでも良かったんだ。

 彼女のために、せめてできることなら。


 再び天井の崩壊。

 老人の腕を引きづって間一髪、危険区域から飛びすさった。

 すぐに栗原が駆けつけて来て、あとは引き受けてくれる。

 背負い上げるのを手伝い、ゆかり姫がまにあわせのロープで老人を固定する。

 俺は上着脱いで赤ちゃんくるみなおし、クォク操縦するのに両手が使えるように、膝の上に乗せて両袖をしっかり腹に結わえつけた。

「行くぜっ!」

「 GO !! 」

 栗原と俺が殆ど同時にかけ声をかけた。

 たちまちクォクの轟音。

 サーチライトの渦。



 




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