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(5)

 


 ぎぃっ。バタン。

 どかどかどか…。

 派手な音をたてて、何か場違いな一行が踏み入って来た。

「酒だ酒だァい!」

「オラ。席ァねェのかよ、空席はァ」

「ィよーォ姐ちゃんロッぽいよォっ!」

 下卑た日本語。あきらかにそうとう酔っぱらっている。

「…離シテ下サイ! オ願イシマス!」

 甲高い、細い、どことなく悲痛な声。

 7~8人の男達の後ろから、引きづられるようにして貧しい服装の少女が連れて来られていた。

 やりとりを聞いていると、急ぎの用のあるその子が粗相をして、軍属らしい一行のエライさんに泥をハネちまったらしい。

 神聖なる軍服がどォの、やれクリーニング代を払えの、金が無いなら酒の相手をしろの、滅茶苦茶からんでいる。

 可哀想に、女の子は震え声で、行カセテクダサイとしか繰り返せない。

「 ! ヤロォッ」

 俺が我慢しきれなくなってフォーク放り出そうとした時だった。好の手がぐっと肩にかかって俺を椅子へ引き戻す。

「見な。」

 自分はしっかりスプーン掴んでカレーをしゃくいこみながら、アゴであらぬほうを指した。

 部屋のすみの薄暗がりで白髪の老人がひとり、立ち上がっていた。

 背は低いけれど、がっしりしている。

 ぼうと伸びた髪とヒゲに覆われて顔だちはよくは判らない。

 東洋人らしい。

 昏い、怒りに火のように光らせた両眼をして、軍服の男たちの狼藉ぶりを見ていた。

 のしり。と騒ぎの場へと歩みだす。

 その重い動きようと肩の肉の盛り上がり具合から、彼が一生を闘い続けてきた男だということは、なんとなく解った。

「…でも。好…」

 好はこの老人の腕前拝見のつもりなのか、それともそもそも痩せこけた女の子ひとりのために動いてやろうってほどの親切心は持ち合わせていないっていうのが本音なのか。

 ……放っとけ。

 目線でちらりと俺を牽制したなり、悠然と周囲を(俺を含めて)黙殺しきり、食べ続けている。

 俺は女の子の哀しげな声を聞きながら気が気じゃなかった。なんてったって現われ出た正義の味方は御老体だし、敵方は8人はいる。

「あ? なんだこのジイサンは。」

 軍服のひとりがようやく老人の登場に気がついた、と思った瞬間、小柄な体が嘘のように素早く動いて、2人までがその場に崩折れかかっていた。

「 ! きさまっ!!」

 残りの連中がざわっと気色ばむ。

 それへ、

「お前たちはそれでも日本人なのかっ!!」

 どこからと思うほどの苦しげな響きを帯びた大音声。

 老人の後ろ姿は、本当に怒りと悲しみと、って感じでうち震えて見えた。

 …日本人… …え…?!

 店の中の客たちの喧騒は一旦ぴたりと停止したようで、3秒後には前にも増してひどいものになっていた。

 またかという顔ですんなり元の話に戻ってしまうやつ。

 老人 対 軍服で、勝負を賭けはじめるやから。

 無意味なヤジ。

 老人はすでに残りの軍服たちをも叩き伏せるべく、闘いはじめていた。

 好が止めるヒマを持たせず、ゆかり姫が素早く席をたって部屋の他のすみへ走って行く。

「 磯原さん。」

「ん。OK。」

 彼女が取って来たのは丈夫そうな軽金属の掃除道具だった。

 2本。

 少しサビが浮いてるけれど十分に使える。

 1本を俺に手渡して、姫は下段に構えた。

「ユミちゃん。あの子、俺たちの部屋のほうから抜けさして逃がしてあげてよ。」

「はい。キヨくん。」

 三ツ編みをひるがえして駆け出して行く。

 頼もしい親小鳥のように、乱闘場所は上手に迂回して。

 椅子を蹴る。

 栗原も立ち上がった。

 ひろと先輩はチラとゆかり姫と好を見比べて、座して待つの体勢。

 好はといえばしっかりカレーライスをたいらげて、得体の知れないアルコールをさも旨そうに口に運んでいやがる…。

 も、勝手にしろってんだ。

「……行くよ。」

「ええ。」

 俺たちがてんでに打って入ろうとした時だ。

 白髪の老人にふっ飛ばされた奴が勢い余ってこっちのテーブルにまでよろめいて来て、あららと見送っている間に好の椅子にぶつかって止まった。

 よたよたと立ち上がってまた殴り合いに行きかける襟首を、好の手がぐいと捉えて引き倒す。

「 待ちな。」

「ぅ、うわ? なんだお前は。」

「酒がこぼれた。行くなら弁償してからにして貰おうか。」

「…な、なんだとこの小僧ーーっ!」

 面白いね、このヘータイさん。

 ガンつけられてるのが理解できたとたん、元気におなりで。

「きさま我々が誰か解って云ってんだろうな。」

 歯を剥きだして嗤う。迫力………あまりねェな。

 やはり好と違って、元の顔がよくないからでせうか…

「知ってたら多分こんな真似はしないんだろうがな。」

 問答無用。好の脚が掛け金を外された狼罠のバネのように跳ね上がったかと思うと、情け容赦なく男は蹴り斃されてぶっ飛んでいった。

 あ~あ、あ。

 近所づきあいは大事にしなけりゃいけませんよ、好一クン。

 向う3軒のテーブルもろに巻き添え喰らったじゃないか…。

 …それにしてもまぁ無雑作に、腰おろしたままの姿勢で、どっからあれだけのパワーが出てくるんだ…??

「磯原さん! うしろをっ!」

「ぉおっとっ!」

 仲間がやられたのを見て他の軍服が突っかかって来るのを、危ういところで振り向きざまに薙ぎ倒した。

「サンキュ、姫っ」

 瘠せた女の子はユミちゃんに連れられて階段かけ上がるところ。

 しつこく追いかけようとする奴らに御老体が喰い下がっているんだけれど、劣勢。

「コノヤロッ」

 短気の栗原が跳びこむ。俺もゆかり姫も負けてはいない。

 形勢逆転。

 姫の勇ましい気合の声がまわりのカボチャ畑には恰好の見世物になってしまっている気もして、すこし腹も立つけど、今はそんな事に構っている時じゃない。

 ぶちのめされてもシツコク行き返ってくるゾンビみたいな奴らだ。

 うっかりするとすでにノビたと思ってる相手から足すくわれかねないんだぜっ★

「えぇい、このアホ離せよっ!」

 まこちにたくましい。

 それでも気力勝ちって感じで、あとちょっとってところまで行った。

 と、何か悪い予感が、脳の内側ではじけて…

「………危な…!!」

 自分でもなんだか判らないうちに体が動いて、御老体を突き飛ばそうとしていた。

 ビ、イッ。

 鈍い音が変に途切れて聞こえた。

 俺のかたわらで老人の体が沈みこむのと、好がいちはやく撃った男の銃を蹴り飛ばすのとが、ほぼ同時だ。

 くるくると弧を描いて重い銃把が奴の手に収まる。

 老人は腹の傷を押さえてかろうじて立っていた。

 ピタリ。

 好が敵方のボスの胸に正確に照準を定め。

(( 撃つ。))

 俺はびくっとして目を閉じた。

 部屋の中は急に静かだ。

「そこまでにしてもらおう。」

 けれど野太い堂々とした声。

 目を開けると、 "J.G.の旦那" と…すらりとその脇にひかえるヤニさんがいた。

「皇国軍のエライさんがた、酒場の喧嘩に銃器はご法度だ。まさか "裏" のルールも知らねえで地獄横丁に出入りしているとは言わせねェ。

 この店の中は、わしの国だ。法度破りには出て行ってもらおうか。」

「なにキサマッ!」

 見るからに若いのって感じのニキビ面が腰に手をかける。

 瞬間速くヤニさんの白い腕が一閃して。

「う、うわっ!」

 小型の衝撃銃だ。

 縫い付けられたみたいに動かなくなってしまうモノだてェのは、俺も月面で経験済み。

「室内でアブナイおもちゃを振りまわしちゃいけませんよて云ってるンですョ坊や。…近頃の小学校じゃ、大人の云うことは聞くもんですって教えないのかしらねェ?」

「…く。」

 あぁ、あ。子供扱いはひどい。

「よせ。帰るぞ。」

「し、しかし…」

 しぶしぶ退散。

 やーいザマを見ろっ♪

 唐突に光がはしって俺のささえている老人がガクンと揺れた。

「 わっ!! お、おじーさんっっ!」

 新たな傷口から血が流れだすのも待たず、好の長い腕が伸びて、一射、二射。

 正確な射撃を繰り出す。

 ぎゃっとか叫んで軍服たちは転がり出て行った。

 ボスの両肩に、しっかり、穴。

 ふん同情してやらんもんね! しかし………痛そ。


 ゆかり姫が駆け寄ってきてぱっと膝をついた。

「おじいさん、大丈夫ですかっ!?」

「う。……急所は外れている。と思…」

「無理はなさらないで下さい。動かないで!」


 
 J.G.はカチャリと義足を鳴らして好に向きなおっていた。

 好いわく、

「目には目を歯には歯を。咎めを受ける筋合いはねェぜ。」

 双方ニヤっと笑ってみせたりして、了解のサイン。

「気に入ったぜ若いの。しかしちっとマズイ事になったな。」

「悪いが話は後にしてくれ。栗原!」

「お?」

「会田を手伝ってその爺さんをガレージへ運べ。ユミが何とかすんだろう。

 竹中、喰い終わったなら戻るぞ。」

「あいよ。」

 つ、つおい。ひろと先輩ずっと食べてたのっ!?…

「…目には目を、てェよりも左の頬を打たれたら両頬打ち返せの気がする。」

 俺だけ無視された腹いせに半畳入れたら睨まれた。

 

 

 

 

 

(参照したければ資料)

http://85358.diarynote.jp/201611101758587017/

『俺と好』1 第3章 1.俺たちは無鉄砲のかたまり。 (5)+(6)


(6)

 

 後ろではJ.G.が酒場の主人らしく、騒がせてすまねェな、気分直しに一杯奢るから景気よくやってくれ、てなことを云っている。

 それからヤニさんと一緒に俺たちについて来る気配。


「こ、これだけの傷になるとあたしの手に負えるかどうか… よかった。出血の割には浅傷だわ。」

 ガレージへ帰るとユミちゃんが心持ち蒼い顔しながら、それでも手早く怪我人の服を脱がせにかかっている。

「ゆかり先輩、あたしのクォクから医療キット外して来て下さい。マオ君、悪いけどお湯と、シーツか何か清潔な布たくさん持って来てくれない?」

 下働きの子をもう懐かせたらしい。

「あの女の子は?」

「さっき出て行ったわ。時間までに薬を届けないとお給金もらえないんですって。」

「……可哀想に。間に合えばよいけれど…」

「期待外れだったね、この街。」

「ん。…」

 ぅ、うわっ。暗いっっ

「若いの。さっきの話だがな。」

 J.G.が部屋に入るでもなく戸口をふさぐ。

「さっきの愚連隊どものボスな、階級はたいしたこたないが、ここの司令官の弟だ。」

 え?

「………ふん。ンなこったろうと思ったぜ。で? あとどのくらいある?」

「指揮系統がワカメだからな。ま、小一時間てところか。」

「十分だ。」

「おおよ。頑張んな。」

 J.G.退場。

「おーい何の話なんだよ好っ!」

「ユミ、30分でそいつの治療終えろ。動かすからな。きつく縛っておけよ。」

「………あのね。傷口は脚や腕じゃないのよお兄ちゃん。」

「血が止まらねぇなら死ぬまでだ。」

「、わかったわ。」

「この御方をお連れするおつもりですの杉谷さん?」

「先に背負いこんだのは誰だ?」

 冷たい眼。

 姫がぐっと詰まった顔で負けじと眉をひそめる。

 俺はアセる。

「なっ、仲間うちで喧嘩してっ時じゃないだろっ好っ★」

 たく。もー!

 奴がくるりと向き直る。

「清。竹中。来い。栗原はここで番犬やってろ。」

「わん。なんちゃって。」

「どっこ行く気だよおいっ!」

 すたすた歩ってっちまうのを追いかけてまた地下への階段降りて酒場にとって返して。

 途中でぼそっと好が云った。

「おまえなまるで役に立たねェな。何の為にひとより優れた能力もって生まれて来てるってんだボケ。さっさとコントロール覚えろ。」

 何の為に………つったって、………何も欲しくて。

「う。ごめん。」

 もう不機嫌の好には謝るっきゃない。

 に、しても、ひろと先輩もいる所でンな話する事ないじゃないかよっ!

 そりゃ、これくらいの会話で意味判っちゃう筈もないとは思うけど、でも、それにしてもやっぱり。………う~~~…。

 俺たちの話が聞こえたのかどうか、先輩は先に立ってほこほこ歩いて行った。



 例によって才能としか云いようのない手際の良さで好は情報屋を見つけ出し。

 こっちの身元や地球に来た目的はうっかりバラさずに済むようにと、奴ひとりが質問係。

 話きいてて俺はウンザリしてしまった。

 早い話が宇宙港ついた時に無邪気に喜んでた ”地球の統一” なんて話はハナから存在しなかったのだ。

 名のみの『統一』政府は実はその首都たるスターエア島しか領有していない。

 何で南太平洋のちっぽけな島が地球代表なんて事になっているのか?

 解らないけど結局この統一政府は国連…それも連合というよりは国際「連盟」…に毛が生えた程度の組織に過ぎなかったらしかった。

 ただ、アルテミス姫の父上が宗主だとかいう、 ”宇宙植民者連合” (コロニスツ)が、各コロニーの地球上の母国からの経済的独立を宣言・実行して以来、この国は対宇宙商取引の唯一の地球側窓口としての役割を果たしてはいる。

 地表と宇宙空間…つまり大気圏の離脱・突入の正式航路は、事実上、Point.P~スターエア間に限られているのだ。

 だから商業と交通に関してだけならば、中立国家だった ”統一政府” は、確かに地球を代表しているとも言えた。

 で、地球⇔宇宙空間の全輸出入を一手に引き受ける貿易都市ともなれば、そこに落とされる富も天文学的な額にのぼり。けれどその割にはスターエアは軍事的に弱すぎる都市だったらしい。

 「この時代」では『環太平洋皇国』と名乗っている日本…皇国軍と呼ばれている…が、つい最近、強大な武力を背景として、「比較的」平和裡に「同盟」を結び。

 ようするに軍事的援助と銘打って乗りこんで来た駐留軍の司令官が、どーゆーわけだかスターエアの司法・行政面にまで強い発言権を持ってしまった。って事だった。

 そして話は俺たちの喧嘩へ戻る。

 ぶん殴られた一行の側のボス。御丁寧にも好に両肩ぶち抜かれたバカが、

 …なんと現司令官の弟だったのだ。

 デキの悪いぶん兄貴からは可愛いがられている。

 ……………………っっ。

 これでよーはっと好の「こんな真似はしないんだろうがな。」の意味が俺にも解った。

 冷や汗てんてん。

 さて、こうなったら三十六計逃げるっきゃないんだけど。

 こういう公私混同な捕り物の時に皇国軍がよく張る非常線の位置やその抜け道を聞き出し、その他の情報や数枚の地図を手に入れてガレージへ戻ると、ちょうどユミちゃんが老人の手当を終え、ゆかり姫は断熱布やなんかをそれぞれのクォクに片づけているところだった。

「それで? どうなさるおつもりですの杉谷さん。」

 俺がひと通りのことを説明すると、少し冷たいような声で姫は云った。

「逃げるさ。」

 ごくあっさり答える好。

 腕くんで。ふてぶてしく壁に寄りかかって。

「どォやって?」

 むしろ余裕たっぷりお手並み拝見、さあどうぞ好きにやっておくンなさい…とばかりにヤニさんが頬笑んだ。

 ぅう。色っぽいっ!

 ………

 好はしばらくの間ひとりで地図を広げていたが、やがて、

「ヤニ。ちょっと来てくれ。」

「はいな。」

 2人で作戦を検討しはじめた。

「そおですねェ、酒場の出口が地下第3層。軍司令部が区画I-39の地上237層。そこまで辿り着くのに早くて約40分。司令官が話を聞いて怒り狂い、何がなんでも捕えろ…と、喚きだすのに、ま、5分として。

 バラバラな指揮系統をくぐり抜けて末端が実際に動き出してここへやって来るのは… 今から15分くらいってとこでしょうかねェ。
 非常線のほうはちょうど敷き始めた位のところですサ。」

「ふん。」

 好はしばらく目を閉じて考えこみ。

「よし。じゃ、二手に別れる。」

 さーあ。これからが大変なんだ。ヤツの喧嘩ってのは!

「ユミ、そのじいさんをおまえのクォクにくくりつけろ。ヤニ、このルート解るか。よし。じゃやってくれ。念の為に会田もつける。宙港まで一直線だ。」

「ちょいとキツイですが…まァ女3人ともなれば、万が一の時にも誤魔化しやすいでしょうさ。

 それで? 何処で落ち合います?」

 好は地図の一点を無雑作に指さした。

「ここだ。都市区画I-39棟高層建築の屋上まで、2時間以内に来い。」

 俺は思わずコケそうになった。

「こーうっ! じょおっだんっっ!」

「…じゃありゃしませんよ杉谷の旦那ッ!」

 示された一点とは… つまり、当の皇国軍司令部。そのものだった…。









(※「な」=「のは」)。


(7)

 

 

「お。なに。殴り込みかけんの。おっもしれーっ」

「おまえなー、栗原っ! わかって云ってんのかよっっ??」

「小姑みたいにわめいてないで、ま、諦めんだな磯原。

 杉谷が一度やるっつったら、やるのさ。」

 わーってますよ先輩、そりゃ俺がいちばんっ。

 わーってますけどねっっっ

「やだよーっ俺まだ死にたくないッッ☆」

 云いつつ仕方なくクォクに積んである武器類ひっぱり出し。

「イヤですョ。あたしゃゴメンですね。」

 最後までつっぱっねていたのは結局ヤニさんだった。

「アルヤどんからお預かりした以上、責任はこの火喰い竜のヤニさんにあるんですからねェ。おしりの青いような坊や達に好き勝手やらせて火傷するのを黙って見ているわけにゃ行かないんですョ。」

「さっさと出発だ。ユミ、会田、準備はいいか。」

「いちおう。」

「できましたわ。でも杉谷さん。安全な抜け道がある以上、わざわざ二手に別れて一方が危険地帯に自ら侵入するなどとは、とても正気の人間のとる策だとは思えませんわ。」

「ふふん。」

 好はこういう時いつも相手を小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべる。

「ここから宙港までなら幾らでも安全なルートを探し出してやるがな。おまえらいざ MISS-SHOT に辿り着いてから、その後どうするつもりだ?

 アルバトーレで検討した限りでは、スターエアで何の情報も得られなかった場合は日本にある地下組織のどれかに連絡とるのが最善だ…て事になってる。」

「…げ。オサトガエリすんのォ?…今じゃ日本て『皇国軍』なんだろ? 敵さんの本拠だろォ…?」

「 That’s RIGHT. 」

 うぅ、俺って長生きできそうにない…

だからだ。こっちの追手とドンパチやりながら本拠に逃げ込んで無事でいられると思うか栗原?」

「 お? え~とぉ」

「はっきり云って追ん回されて逃げんのが性に合わないだけだろーが杉谷。」

 ひろと先輩が無責任にカラカラ笑った。

 ヤニさんは俺たち6人をたっぷり1分間は見比べて、あげく、苦笑まじりに嘆息。

「…や~れ、やれ、やれ。これァまたエライのと関ぁりあっちまったもんですョあたしも。

 えぇもう好きにやっておくンなさい。あたしゃ黙って従うことにしますサ。」

 …ンな、わけで。

 その道に詳しいヤニさんでさえビビるような真似を、俺たちはするハメになってしまった。

 ゆかり姫だけが、まだ不満の残る顔をしている…。

 

 

 

 


(8)




 ユミちゃん達3人と1人は既に出発し。

「好、俺たちはいつここ出るんだよ?」

 ムーン II でもらった銃や軽金属製の木?刀(要するに刃はついていない)を身に付けながら聞く。

 好は答えない。1人でイライラと何か考え込んでいる。

 …あれ。ツメ噛む癖ってまだ治ってなかったのか。…変なとこでガキっぽいんだよな…。

 J.G.がのぞきに来たので姫から預かっていたお金を俺が支払い、そのとき好がふっと顔をあげてニッと眼を細めた。

「おやじ、奴らが来たら素直に密告してくれて構わねェからな。」

 何のことだか解らない。

 ただJ.G.に比べれば好のほうがはるかに稚(わか)いのは確かだのに、この2人にはどこか共通のもの…ある意味ではそっくりと云っていいフンイキのようなもの…があって、それぞれは相手の言いたい事が即座に呑みこめていたらしかった。

「おぉよ。坊主。命があったらまた飲みに来い。」

「ああ。」

 ふうんと俺は思う。何か…うまく言葉にはできないけど、…連帯感。

「お、来たぜぇ」

 それとなく裏を見張っていた栗原が楽しそうに振りかえった。

 ああ、もう。

 こいつも喧嘩となると、眼の色変えて…。

 ひろと先輩もそっちの方へのぞきに行った。

「少ねェなァ。こっちがクォクとは、こりゃ知らないらしい。」

 その時、あけ放してあった酒場に通じるドアの向うから、荒々しく踏みこんで来る憲兵たちの声が響いた。

「Good-Luck! がんばんな。」

 J.G.が義足の音も軽やかに、面白がってさえいる様子で騒動の中に降りて行った。

 しばらくの静寂。

 やがて階段を大勢でかけ上がって来ようとする気配。

「行くぞっ!」

 好が鮮やかなワンアクションでクォクに飛び乗った。

 俺もひろと先輩も後に続く。

 エンジン始動。

 栗原、ガレージのシャッターひと息で目一杯押し上げて。

「 Let’s Go! 」

 イェイ♪ てなもんで俺は親指立てて叫んだ。

 あとはもう、風を吹っちぎって。

 クォクの爆風に飛ばされながら後ろから慌てふためいて怒号する声。

 角を2つ3つ曲がる頃にはそれがけたたましいサイレンの唸りに変わっている。

 狭い路地。

 水たまり。

 前哨灯のあかりに古ぼけた壁が浮き沈みする闇黒。

 時折り長い直線コースに入ると、角を曲がる前に一瞬追いかけてくるパトカーのまっ青なサーチライト。

 …ぅわ~~~~カー・チェイスだっっ!!

 スピードや旋回性能からすれば楽に「まいて」しまえる筈の相手なんだけど、何か考えがあるのか先頭を走る好は何故かそうしない。

 来た時のを逆にとって登りのルートに出る。

『 ソコノ車、停マリナサイ。ソコノ車、停マリナサイ。』

 非人格的な停止命令が先回りした脇の道から飛び出して来る。

 あっちはタイヤ。こっちは今ホバーだ。

 軽く上を走り越してやると横すべりして壁へドカン。

 道をふさがれた後続が凄まじい勢いでブレーキをかける。

 と。

 おわー過激だ。

 撃って来やがったぜっ!!

「うげげ★」

 あせったひろと先輩があやうく栗原に激突しそこねる。

 よけきった野生の栗原くん。さすが。

 俺だったら2人しておシャカだぜっ。

 云いたかないけど、ひろと先輩って、運動神経あんま良くないのな…。

 なんにせよ後ろっから光線が飛んで来んのって気持ちのいいもんじゃない。

 当たったら痛いだろうななんて考えながら操縦桿てきとうに右左に切って。

 これ、偶然に的中しちまう可能性って何%ぐらいなんだろ?

 都市上層部…不夜城めいた光の世界に近づくにつれてあっちこっちから新手のパトカーが湧いて出て来る。

 むき出しの高架道路をホバーで走っている以上、地面での追っかけっこと違っていきなり手近の脇道に飛びこむとかして振り切るわけにも行かない。

「おわー不利だっっ」

 思わずわめきたてる声も爆音とサイレンのなか。

 と、好が咄嗟に推進系をジェット ”垂直” に切り換え…地球の重力下ではこれでは飛び上がれない…落下をふせぎながらも路肩をはみ出しちまったっ☆!?

 側方20m、15mほど下方。

 エア・カーの走ってる透明なチューブ走路。

 クォクが再び変型して、危ういところでタイヤが生えて来る。

 ダン!

 ふぇえ。

 あいつチューブ走路の 上 を走ってるよっっ★

 その真下にいるエア・カーの奴らの文字通り仰天しちまった顔がちらりと見えた。

 パトカーの方は、走路に穴をあけてしまうおそれがあるもので、撃てない。

 好はぐんぐん遠ざかって行く。

 栗原、ひろと先輩が後に続く…と先輩危ないコケるっっ

 俺はと云えば好のすぐ後ろを走っていた都合上、スピードから云っても既に3人と同じチューブに乗り移れるポイントは過ぎてしまってた。

 かと云って引き反せば後ろの追跡車とハチ合わせだし、どのみちこの速度でターンできるほど道路広くないし。

 とわ。

 ビルひとつまわり込んだ所で凄まじく大きな対向車こっち来るッ!

 ホバー最大にして路上20mくらい跳びあがる。

 そうするとカーブが曲がり切れなくなって空中へ飛び出し…

 ひ、ひえ。

 目がまーるほど高い。

 不夜城の下は闇。

 俺、死にたくないよっっっ

 …幸か不幸か旋回して来た飛行艇型パトカー、踏み台にしてしまった。ごめんなさい。

 ヤイヤ出してバウンドして。

 ジェットで加速して。

 なんとか手近のチューブに引っかかる。

 ふえ、代わりに飛行艇が高架道路に不時着してら…



 …さて。

 他のクォク見失った。

 困ったなと思っていると向うのほうでド派手な爆発音。

 どーせ好だ。また何かアホウな真似やってるに決まってる。

 ん。とにもー!

 破壊欲があり過ぎんだよあの男ぁっ!!

 何はともあれ目的は皇国司令部ぶっつぶし。

 それも早急に。すみやかに。間違っても俺たちの顔写真が本国に書類送検なんてヒマを与えないように。

 目的地・都市区画I-39棟。

 あちこちに出ている区画表示を頼りに、俺はチューブを乗り換え乗り換え、撃てないじれったさにヒステリー起こしそうなパトカーの大集団ひきつれて。

 悠々と。

 かなり快感。

 見渡せば東京都分くらいはありそうな規模の壮大な構想都市。

 空中楼閣。

 だけど腐り切った超絶資本主義の見本。

 J-38…

 I-38…

 都市区画 I-39棟。

 やったねっ!

 俺よりもはるか下の方で3人が今しも窓破って跳び込むところ。

 こ、こあいっっ

 好のクォクってミサイル積んでやんのっ★

 負けじと突っ込みたいところだけど、これって硬化ガラスだろォ~~~っっ

 うっかり体当たりかまして壊し損ねた日にはハネ返されて地面へダイビング。

 ま、いいや。

 なんとかなんだろ。

 それでも死にたくないので一旦クォクにしっかりブレーキかけ。

 衝撃銃と熱線銃を交互に2~3度ぶっ放して前方、目星をつけた窓をあらかじめ弱くしておく。

 あらよっ。と。

 ガシャン。

 突入成功。

 ガラスの破片で歩哨さんひとりノシてしまった。

 あらら…と。

 血は出てないから。

 I’m Sorry.

 

 

 


(9)

 いくら無制限に照明が使われていて明るいからって、やっぱ今は夜なのだ。

 ところどころの歩哨以外には人がいないっての、助かっちまう。

 クォクで廊下つっ走っているとき撃たれにくいし、こっちは側まで行ってから通り抜けざまに気絶させればいい。

 そうこうするうちにあちこちで何種類もの警報、アラーム、サイレンに非常ベルの類が鳴り響き始めてしまった。

{ 侵入者アリ、侵入者あり。警備兵ハ第123層、及ビ第302層ヘ向カヘ。

  クリカエス。警備兵ハ… }

{ 火災発生! 火災発生! }

{ 芹田隊長! 芹田隊長おいででしたら早く指揮をとって下さいっ!!」

 ………へ?………

 くっけっけっ!

 J.G.の言っていた『指揮系統がワカメ』てこの事かぁ。

 アナウンス聞いてるとほんっとに相手方の慌てぶりが良く解る。

 かあいそーなくらい、混乱。

 軍司令部とか云ったって実質行政局だもんね。

 日本人の常として、誰も非常時に責任持って敵撃退の指揮とろうってのが、居ないらしい。

 それでも始めちょっと ”自動警備システム” てのに悩まされましたね。

 どこから撃って来るのかが判りにくい上に狙いは正確ときてる。

 だけど外でパトカーがぶっ放してたヤツに比べればビームの出力がずいぶん小さいのに気がついて、試しにあの宇宙空間用のジャングルジムたててバリア流してみると…

 イェイ楽勝っ♪

 好たちに合流するつもりで2~3層下って行くと、さっき俺が乗ってきたチューブ走路の内側に大人しく収まっていれば辿り着けたはずの層に出た。

 階の名称、 ”第8エントランス” 。

 中央通路の一画に、ごてーねーにデパートみたいな建物の立体地図がある…

 ん、と…

 まず他の3人がいる筈の下の層から目を走らす。

 マザー・コンピュータ・ルーム。

 これはひろと先輩が行くだろう。

 動力室…栗原向き。

 司令官室にはとうぜん好が殴り込みかけるだろーから、近いし、ここへ合流しようか。

 それとも、もっと、「俺向き」の場所…。

「…あった。403階!」

 留置場。つまりは牢屋。

 も、あの3人にまかしといたら、建物全壊させかねないんだもんね。

 逃げられない立場の人間は、早目にどうにかしといてやらないと…。

 それに、逃亡者の数が増えればそれだけ、追手って薄く広がっちまうもん。

 かくして俺はあっちこっちでドンパチじたばた騒ぎを起こしながら上へ上へと登って行く。

 クォクで階段を走り上がるのって、いまいち、胃下垂になりそうな…★

(狭すぎてホバーは使えない。)

 で、403層。

 獄舎は403~404の2層に亘っているんだけど、上の層に行くには403側の長い一本廊下を辿って行くっきゃない。

 つまり俺がクォクで走り抜けてきた階段の404層出口は無いってこと。

 405層は兵員用大食堂兼集会場と若干の娯楽設備。

 406~409層はパトロール艇その他の空中車(って案内板に書いてあったんだもん。まぁ飛行艇のこったろうけど。)の格納庫。

 そして都市地上第410層が、2時間後…正確にはすでに今から43分後になっちゃってるけど…に、ヤニさん達 MISS-SHOT 号組が俺たちを拾いに来てくれる、屋上ヘリポートだった。

 さて。

 ちょいと休憩。作戦タイム。

 403層の一端を通るダダ長い直線通路。

 こいつがこの場合ひどく厄介なのだ。

 俺がいるのはビルの側方にある非常階段だから、正規のエレベーターは向かって左20m。

 廊下が獄舎のある方へと直角に曲がっている、警備要員詰所あで、右側へ100m近く。

 ちらっと覗きみた限りでは、警備兵は5~6人。

 廊下の自動システムは今まで通りクォクのバリアで何とかなるにしても、連中の持ってる銃は…

 う~ん。そりゃ、俺だって高性能のショックガンもヒートガンも持って来てますけどね。

 これが好ならいざ知らず、100m向うから走って…もしくは立ったままだとしても…撃ってくる人間6人をも倒す能力が俺にあるかって云うと、射撃の腕の哀れさかげんはすでに月面で実証済み。

 う~~~ん。

 あ! ……と。そか。

「やたねっ♪」

 俺はほくほくしながら再び走り始めた。

 上へ向かって。



 
 第405層で大騒ぎが起こる。

 食堂の椅子はぶっ飛ぶわ調理場の油は引火するわ、ひどい有り様なんだけど、夜である。

 兵員宿舎ってのはまた別の場所にあるらしくて人影なんてまるでありゃしない。歩哨さえ立ってはいないんだ。食堂なんかじゃ、ね。

 アラームが鳴り響く。侵入者アリ侵入者アリ侵入者アリ…

 当の侵入者の俺としちゃ騒動は大きけりゃ大きいほどいいわけ。

 目一杯ぶったくり壊して…(クォクで室内モトクロス・レースをやってしまった)…頃合い見はからってそろそろいいかなと403層に引き返す途中。

 ドグァッッッ!!

 てなもんで建物全体が揺れ動いた。

 多分、はるか200層もの下方で、栗原が動力室たたき壊してしまった音…。

 一瞬あたりが真っ暗闇になり、すぐに、息も絶え絶えなあやしげな非常用ランプの世界。

 ますますけたたましいベルにサイレンの音。マイクごしの怒号。

 やたねっ♪ やりやすくなってしまった…♪

「………大変だっ!! 侵入者のひとりが格納庫の機体を奪って逃亡しようとしている! 今ならまだ捕えられるかも知れない。来て手伝ってく…うっ! ごほんごほん!」

 ただでさえ動揺してる所へもってして、いかにも真実くさい救けを求める声。

(ちなみに俺、嘘と芝居は大得意。です。)

 廊下の向うの留置場警備係たちは互いに顔を見合わせるヒマもなく、こちらへ向かって走り出してくれていた。

 で、あとは簡単。

 ベータ―の中にクォク隠して俺は連中を十分ひきつけるまで大人しく倒れ伏していて。

 書き忘れていたけど俺の来てるスペース・スーツ、一見して色が警備兵の制服とよく似てたんだよね。

 味方に咄嗟に銃むけるわけにもいかず、焦ってるところを、6人、あっさり叩き伏せてしまった…いぇいっ♪

 …しっかしィ。

 ヤバイよこれは。

 このビルってマジにこの分じゃ倒壊するんじゃないか?

 さっきっからひっきりなしに小爆発音が伝わってくる。

 ちょいとやりすぎだよ~~~好~~栗原~~っっ

 こりゃ、この棟の動力源が原子炉やなんかでなかったように祈るっきゃない、な…

 アーメン。






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