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(中表紙)

 

 

リステラス星圏史
古資料ファイル
5-X-1-3
『未完史』
第1部 第3章
俺たちは

 無鉄砲のかたまり。

 

 

(この話の前の部分はこちらでお読み頂けます)

http://p.booklog.jp/book/110850/read

リステラス星圏史略
古資料ファイル
5-X-1-2-3
『未完史』
第1部 第2章
「月は無慈悲な夜の女王」

3.ところで一方こちらでは。

 


(1)

 


 前方約1m、赤っ毛を高々と結いあげたグラマーな美女の後ろ姿。

 うぅ、色っぽー!

「オイ磯原。」

 ゆるんだ顔のひろと先輩にひじで突つかれる。

 思わずニッと笑いあったりなんかして。

 男にとっちゃこれ、ちょいと最高な眺めなんですなァ、実に。



 一旦パーキングエリアに戻って全員のクォク引き出し、ヤニさんの指示に従って彼女の持ち船の格納庫に移動させる。

 その船ごと、大気圏突入用の、もの凄まじく巨大なフェリー船に積み込ませ。

 搭乗手続きにヤニさんの書き込んだ書類を見せてもらったら、なんと俺たちは『宇宙で散った両親の遺品を母なる大地へ返しに行く』健気な青少年御一行さまで、何でも運んじゃう惑星間自由貿易人 "火喰い竜のヤニ" の、『積み荷その一。』なんだそうな。

 思わずのけぞって笑ってしまった。

 その他にちゃんと銘々の偽パスポートを見せ、料金払って切符を買う。一等席ね。

「うわォ、俺いちど船旅ってやってみたかったんだ♪」

 広いホールにかけ出してしまう。

「お、どっちかってと宇宙船タビてんだろ、これ。」

「いーっていーって。細かいことには拘らない。」

「わお♪ テレビゲームがあるっ!」

 栗原、小銭ひとつかみ貰ってゲームコーナーへすっ飛んで行き、ひろと先輩はと云えば切符と一緒に渡されたパンフだけでは満足できないと見えて、そこら歩ってるボーイ捕まえて根掘り葉掘りこのフェリーの構造を質問し始めた。

 て、言ってもなにせ未来?文明である。

 ひろと先輩でさえ知らない専門用語がポンポン出て来て、日ごろイジケさせられている俺としては快感なぞ覚えてしまう。

 でもって先輩がまた解んない言葉を全部説明させようとムキになったりするのだ。うっくっく。

 相手は航宙士ならぬただのボーイだもんね。返答に窮した挙げ句、怒って逃げて行ってしまった。タチの悪い客に、からかわれたとでも思ったんだろう。

 ゆかり姫、ホールの反対側での栗原の奇声を気にして、落ちつかない風。

 あいつがTVゲーム始めると、もう果てしもなく騒ぎまくるから…

 あ、ゆかり姫って、あーゆう "ムダな" お金の使いかた、毛嫌いしてるんだっけ…

 文芸部用の雑記帳使って几帳面に出納記録作りはじめた。

 曰く "アルバトーレ" とPoint.Pの両替率にその手数料。あ、クォクの駐車料金もありましたわね。それからチケットが6×2,5000Point.Pデマイア。

 ヤニ・シュゼンジシカさんと彼女の船の分は別料金になっているから…

 それじゃ最初にアルヤ・アラムさんから貸して頂いた額が…

「き…磯原さん。たしか電卓持ち歩いていらっしゃいませんでしたかしら。」

「あるよ、よく知ってるね。ホイ。でもさ。」

「ありがとう。なんですの?」

「アルヤさんから渡された金って…俺は単に貰った、て理解してたんだけどさ、違うの?」

「あら。だって。頂く理由がないのじゃありません?」

「えー、う~と。そうかなァ」

 それを言うなら「借りた」んだとして「返すアテ」のほうがよっぽど無いような気がするけど。

「さ、できた。ユミコさんは何を読んでいらっしゃるの?」

「え。あ、医療関係のテキストです。クォクに積んであった薬の半分も使い方がわからなくて困ってたら、ミス君が医局から届けさせてくれたんで。」

 ………なる程ね。みなさんシッカリしていらっしゃる。

 俺もしっかり…

 昼寝でもしよーかなァ。

「あれ? 好は?」

「ボケ。ここにいる。」

 頭の上で声。

「あ。なんだ何処行ってたん?」

「クォクのね。固定具合が心配なンですってサ、その若旦那は。」

 ヤニさんがすっと入って来て手近の椅子に腰かけた。

 ここは1等席。広いホールの前部中央にあって、6人に12~3人分の座席が用意してある、円形の小居間。

 周囲との仕切りは堅いツイタテにすぎないけれど。

「あたしが MISS SHOT 号の擁すを見に戻りましたらねェ、あんたさん方の荷物ににバクダンをでも仕掛けるかと思ったようで。

 ま、それっくらい疑ぐり深くできあがっていりゃァ、地表に降りてからも長生きできるってもんでしょうョ。」

 くすくす無責任に笑っている。

「しかしまァ、面白いったらありゃしませんね。1人はゲーム機械とムキになって喧嘩してるし、ヒロトとかいう若旦那は機関室に忍びこんでツマミ出されてたし。戻ってくれば帳簿つけにお勉強ときた。

 どなたさんも余裕のお有り余りになることで。」

 やんわりしたからかい口調に嫌味がない。むしろ目一杯好意的に楽しまれちまってる。

「お昼寝ボーヤも度胸が座ってて結構ですねェ。ママがひとつ子守唄でも歌ってあげましょうか。うん?」

「ぼっ、ぼーや?! あのなっ!!」

「おや怒った。ぉお恐い。」

 俺が頭にきて絶句してるところに出港のアナウンスがはいる。

 地表到着予定は約7時間後だ。

「あんたさん方は一体どういう時代の住人なンです? 別にスパイや傭兵稼業で喰ってた人間だとも思えないのに、まァ、肝っ玉の太いこと。

 これから敵がいっぱい危険がウジャウジャの世界へ降りてくんだってェことが果たしてホントに解っているのやら」

 んなことを言われましても、先のことは気に病まない主義なので。

「………解っちゃいねェからこうして呑気に構えてられるのサ。」

 投げやりに好がつぶやいた。

「あんた知りもしねェもんを恐がれるか? オレぁできねえな。」

「おやおやァ。想像力のマズしい御仁だ。」

「何とでも云うさ。」

 そして静寂。

 船の加速する微かなGの変動。

 

 

 

 

 

 

(参照したければ資料)

http://85358.diarynote.jp/201611091832004302/

『俺と好』1 第3章 1.俺たちは無鉄砲のかたまり。 (1)+(2)


(2)

 

 

 そいでもって都合良く何事もなく俺たちは地球へ着くのである。

「うわっおっ♪ 凄っごいながめ!!」

 上空から見降ろした都市と宇宙港は美事なものだった。

 白と白銀。

 直線と曲線。

 高い尖塔。

 幅広い緑地帯。

 宇宙港構内の造りも同様で、よっぽど趣味のいいやつが計画的に建設した世界だってわかる。

 こりゃ、よーーーっぽど金がかかってンだろうな…☆

 着陸目的地は南太平洋東部の旧スターエア島。

 現在は、『地球統合政府』の首都 兼 ”直接統治領” 。

 四方は青い青い海…。

「なんだ。携行食糧だの医薬品だの持たすから、どんなもの凄いジャングルに放り出されるかと思ってたのに。」

「科学だっ! 科学の粋だっ!!」

「ホント。きれいな街ねぇ。」

「それに地球の統一が完成しているなんて…。少しも存じませんでしたわ。
 時間の余裕があれば是非とも図書館へ寄りたいものですわね。」

「お? なんで図書館なんて行くの?」

「歴史の本があるじゃありません? どんな経過をへてどの位の時間と人々の努力の帰結として人類がかくも進歩しえたのか…本当に素晴らしい事ですわ。ね、磯原さん。」

「うん姫、まったくね。それにさ栗原、図書館行けばおまえらの好きな科学のご本もあるぜきっと。」

「お、おれも行くっ図書館っ」

「いやーねェ、みんなして。」

 ユミちゃんがわけもなく笑う。

 みんな少し興奮して、上気した頬をしていた。

 ヤニさんはキョトンとした表情で嘆息をつき、好はと云えばあいかわらず不機嫌な仏頂面で。



 入国手続きを済ませ、税関を通り抜け、MISS SHOT 受け取って別の場所に駐船し。

 何はともあれ、エンジンスタート。道路走るのだから切り換えは『ホバー』にして。

 俺はすっかりこのクォクって乗り物が気に入ってしまった。

 上機嫌。



 先頭はヤニさん。あっさりした銀の粋なクォクを見事に乗りこなす。

 あとはみんな抜きつ抜かれつ、快適なドライブ気分。

 暖かい風が髪や頬をなぶる。

 宇宙港はスターエアの北西部台地上にあった。ヤニさんは島の南半分を占める市街地のほうへと俺たちを引っぱって行く。

 平野との境の傾斜地があざやかな緑地帯…たぶん自然公園…になっていて、そこに遊ぶ人たちのはるか頭上を、まるで空を飛ぶかのように大地そのままの高さで、白い架橋が都市の尖塔群へと伸びていた。それを俺たちは突っ走って。

 まったく、みごと、とか綺麗、としか、俺には形容詞が見つけられないような街だった。

 細く高い建物のまわりには、ふわりとリボンの束をほぐして投げかけたように、自走路やエア・カー専用の強化クリスタル・チューブがとりどりの光をはじいて巻きついている。

 ビルの上から下まで並ぶ窓・窓・窓まど。

 無限に近い反射光の列。

 白と銀。

 上を見あげれば、南国の青い空。

 高層建築の向う側、いっそ人工的なほどに深い色合いの、海。

 水平線。

 陽光に輝く白い雲。

 これほど豊かげで、これほど洗練されて、これほど自然の光景と引きたてあって、美しく気品あふれる都市…

 ってのは、世界中探したって他にはないだろう。

 この時代の地上建築のことなんてまだ何も知りゃしないけど、勝手にひとり決め。

 幾つかある通路類のうちでも俺たちが走っているような剥きだしの高架道路ってのが一番数としては少ないようだった。

 それでも合流したり分離したり、超大型の荷物輸送用がほとんどの、車の流れを追い越し飛び越しして。



 だけど…



 ヤニさんの先導に従って、ぐるぐるぐるぐる、あちこちで大きなカーブを描きながらひたすら下って行くにつれて、だんだん様子が違って来てしまった。

 高い建物の銀の色はくすみ、白い色は薄汚れて。

 時代が違ってたってこれは一目でそれと知れる、暴走族の落書き。

 火事で破れたまま繕われていない幾つもの窓。

 その中にたむろしている虚ろな麻薬中毒患者たち…。

 もっと走って都市の南のはずれに近くなると、打ち捨てられた感じはかえって一種のふてぶてしさにとって代わった。

 黒と灰色と茶色。

 鈍い鉄色。

 見覚えがあるような古びてひび割れたコンクリート・ジャングル。

 下へ、南へと進むにつれて、より低いビル。

 俺たちの時代にさえ過去の遺物となりつつあった石造りの建造物が、傾きながらもかえって新しげに見えたりしている。

 俺たちが走っている所もいつの間にやらまともな道路じゃない。

 破れたアスファルトに慣れ親しんだ白線黄線。

 草が茫々として実を結んでいた。

 薄暗い。

 頭上をふり仰ぐと先程までの輝やかしい理想都市は確かにあって、蒼い空の下、黄金色の太陽を背丈いっぱい満喫しているんだ。

 だけどその光はここまで届かない。

 湿った空気が冷たい。

 片手で首のジッパーを上げる。

 それでもその街は廃墟なんかじゃないのだった。

 かえって人口密度で云えば ”上の方” の世界よりきっと高いんじゃないか。

 アスファルトとコンクリートの死骸の中で、からみつくツタ植物と駆けまわる子供たちとが、生命力を競いあっている。

 ガラスなんてものが存在していただろうことさえ疑わしくなる、四角い黒い窓には思い思いの汚いボロ布。

 エレベーター代わりに縄で荷物をつり上げる奴。

 それをチョン切って途中から掠め盗っていく手合い。

 これだけくたびれた街の中で水や食糧なんてものはどこから補給しているんだろう。

 とにかく人間達は生きていた。



 『地面』に着く。

 石畳の、ところどころにどでかい水たまりのある、かすかに潮の香りの混じる狭い通り。

 急に進路が平面になるので、軽い、めまい。

「ちょっと! なにすんのさあっ!!」

 俺たちのクォクは『ホバー』の切り換えで走っている。

 風圧に干しかけの洗濯物を飛ばされて太ったおばさんのあげる金切り声が、前哨灯の明かりのなかに浮かんで消えた。

  ”上” を見はるかせばいつの間にか、尖塔の先が夕焼け色に染まって輝いている。

 鮮やかな光彩。

 そうして ”下” はすでにすっかり蒼い黄昏のなか。

 

 

 

 

 


(3)


 …………キィッ。

 軽い異質音を残してヤニさんのクォクが停止した。

 ひらひら白い指が操縦盤の上を走りまわる。

 圧縮空気の噴出が停まり、ウイィ…と四輪が地面に降りてきた。

 みんな無言でそれにならう。

 ライト消して。エンジンの出力落として。

「おやおや。ハデな音たてて誰かと思えば、運び屋のヤニじゃないか。
 どうしたィ? 次に来るのはたしか二月後の筈だったろうが。」

「いぇね。急な仕事が入っちまいましてネ。」

 ヤニさん、さらりとした動作でクォクから飛び降りる。

 薄汚れた昏い小路に銀と白の艶やかなロングドレスが場違い…だけど最高にここの雰囲気に溶けこんでいるような気もして。

 のったり現れて声をかけてきたのは肉づきのいい、がっしりした大男だった。片方の脚が義足だ。

 陽に焼けて、ちょっと赤ら顔でバカでかいエプロンをかけて、 "酒場のおやじ" と云うには少々たくましすぎるようだけど、ま、そうなんでしょう。

 彼がその大きな体でふさいでいる戸口のむこうでは、明々と灯がともり、何かを料理する、腹の虫の鳴きそうな匂い。湿った温かさ。

「ほっほう。ほう。」

 後続の俺たちに目をとめて、大男は威勢のいいフクロウのような声をあげた。

「火喰い竜のヤニ、生きた荷たァ景気がいいじゃねェか。どこの坊ンに嬢をかどわかして来たィ?」

「よして下さいョ、人聞きの悪い。このヤニ・シュゼンジシブ・シュゼンジシカ、ヤバい仕事に手出しはしても、ひとさまの親ァ泣かすようなケチな女じゃありゃしませんョ。

 今回はあたしはただの案内人でね。」

「ほーお。天下のおヤニさまに例のもうけ話をフイにさせてまでたァ、奈辺のおかたの依頼仕事だェ。是非に一口かまして貰いてェもんだ。」

「ほとにもう。あんたは荒仕事からは足ィ洗ったんじゃないンですかぇ、JG(Jack Gold)の旦那。」

「はァて。誰が洗ったって? チョン切った覚えならあるが…」

 2人して笑いだす。

 ヤニさんは艶っぽくも陽気に、JGは豪放、の一語。

「ともあれ部屋をお願いしますョ。幾晩になるかはそちらの旦那がたのお気持ち次第ってェわけですがね。」

「おぉよ。お安い御用さ。個室にするかね。」

「そうですねェ。坊ちゃん嬢ちゃん育ちばかりで長旅をしようってですから、贅沢癖は早めに捨てさしといた方がいいかも解らない。やっぱガレージにしますサ。」



 ガレージ… 案内されたそこは、文字通りの車庫。

 赤さびシャッターに素打ちセメントの床と壁。

 梁がむきだしたままの天井。裸電球。

 シャッターのほかに奥と、入ってすぐの所に小さな鉄扉がある。

 窓はない。

 クォク7台をひき入れてしまうと奥に10畳くらいの空間が残った。

 ぎしぎしシャッター降ろして。

「毛皮これで足りるだかね」

 マオとかいうtyっとピントのずれた男の子が何度かにわけて運んで来てくれる。それをジュウタンみたいに床に広げると、ふかふか毛足が長いので十分敷布団のかわりになった。

 クォクの荷台から毛布サイズの薄い断熱布もち出して、着替えの入っている袋は枕にするらしい。

「………なんか、修学旅行だな~☆」

 手慣れたヤニさんの指図に従いながら誰ともなくそんな風に云いだして、みんなドッと笑った。

(ちなみにヤニさんには "シューガクリョコー" という単語の意味が通じなかった。今この時代には無い習慣なのか、それとも。

 どうもヤニさん、日本語はとても堪能だけど、それが母国語…もしくは子供のころ、 "家で" 話していた言葉…てわけじゃないみたいだなぁ。

 そう云えばアルヤさんやらミネルバ公女、ムーンIIの人達にも、そんな感じはあった…。)

「様子はどうだぇ」

 J.G.の旦那が義足を軽快に鳴らしてのぞきに来た。

「どうもねェ。面白がられちまってますよ。」

 ヤニさんが冗談まじりに嘆息する。

「そろそろ店ァたて混んでくる時間だからな。メシ喰うなら早めにせいや。」

「その前にあたしァおかみさんの方へ伺わして貰いますサ。

 具合はどうなです? アステロイドのほうでいい薬を手に入れて来たンですけどねェ」

 そいつァ有り難てぇ、とかなんとか彼らは勝手に出て行こうとする。

「…、あァそうだ。」

 ヒョイとヤニさんは小首をかしげるようにして振り返った。

「そっちのドアから出て階段を降りて行くと、酒場ですよ。ま、おゼゼとウデがあれば、何でも出てきますサ。酒も料理も…女も、男も、情報も。…ね」

 パタン。

 色っぽい後ろ姿を隠して鉄の扉が閉まる。

「お、メシ喰いに行こーぜっ。」

 いとも嬉しそうな顔をして無邪気に栗原坊やが言った。

 

 

 

 

 

(参照したければ資料)

http://85358.diarynote.jp/201611092121581416/

(3)+(4)。


(4)

 

 

 言われた通り細い階段を下って行くと、調理場を見おろすような感じで脇を抜けて、酒場の内部の中2室、て風な木製の手すりのバルコニーへ出た。

 ………酒場。

 もろにそうとしか言い様のない雑駁な雰囲気。

 足下の広い部屋の中はいずれも一癖もふたくせもありそうな、胡散臭い野郎どもで一杯だ。

 無法者。アウトロウ。

 古い西部劇なんかでおなじみの、むくつけき、荒くれの、野生の男達。

「おい好、ヤバいんじゃない? 女の子たちは部屋へ置いてくるべきだったよ。」

 美少女2人、連れて入るにはかなり不安な場所だ。ヤニさんみたく女だてらに荒海渡ってるとか、専門の、え~、「商売」にしている手合いならいざ知らず。

「…それを言うならてめェもな。」

 好がボソリと、ニヤリと、呟き返した。

 一瞬、意味の掴めなかった俺は、…ぇえい、くそ。

 ニラんでやるッ!



 1階(地上からの高さで云えば地下2~3階くらい?)へ降りて行くあいだに、俺たちは案の定、部屋じゅうの人間達の好奇心のまとになってしまっていた。

 大抵の連中はチラッと見上げた程度で「なんだガキか」て顔で自分の話の方へと戻って行くんだ。その次に多いのは、ゆかり姫やユミちゃんや、腹の立つことにしっかり俺も…それに栗原の…顔かたちを見て、あからさまに下卑た笑いをもらす。

 そして少数の、本当にものを観る力を備えた奴らだけが、俺たちの目立たないデザインだけどとてつもなく上物のスペーススーツだとか、裏口から入って来て物慣れない様子をしている事だとかを即座に視てとって、純粋に興味を覚えたらしかった。

 何喰わぬ態度でブラブラ階段を降りて行きながら、好が、横目でその最後に残った連中を物色しているらしいのに、俺は気がついた。

 階下につき、ちょうど空いていた一画の、目立つでもなく、ことさらに身を隠すでもない、当たり前のテーブルに腰を落ちつける。

「…………喰いモンをくれ。」

「は?」

 好が無愛想に云ってそれきり考え事にふけってしまうので、オーダー取りに来た坊や(10歳そこそこくらいだぜ、これが。労働法違反だよ~~~)が、また客に虐められるのか、と、怯えきった野良仔猫のような瞳をした。

 ぁあったく好ときたら! かわいそうじゃないかよっ!

 と、云っても、この時代、地上の人間がどんなもん喰ってんのか、俺にも判らない。

「あ、えとね。俺はスパゲティー。こいつはカレー、多分。うんと辛いやつ。ユミちゃん何にする? シチュー? グラタン?」

「んーっとねぇ、」

 ありがたいことに人類の食生活ってそう変わるもんでもないようで。坊や、ほっとした顔でさらさらメモってった。

 ゆかり姫はスープとナントカ魚、栗原、「ビフテキ!」(それしか知らないでやんの)。ひろと変輩ラーメン注文して、これはさすがに無いらしかった。

「あれ? アルコホル俺ら頼まないぜ。」

「旦那さんからです。お客さん達ヤニの姐さんの案内なんですってね。」

 瘠せこけの男の子が嬉しそうに笑う。

 ヤニ、の名前を聞きつけて、自分の席を立ってこっちへ来ようとしていた男…さっき好がチェックしていた1人、たぶん情報屋かなにか…が、オヤッてな顔をした。

 

 

 

 

 



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