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邂逅

 

 

「平塚君」

 

諸事情にて軽音部に行くのが気だるくて、手持ちぶさたに誰もいない教室で椅子に座ってぼんやりとしていたらクラスメイトの女子に声をかけられた。

 

「ん?君は……」

 

それも珍しい女子だった。

肩にかかる黒髪、サイドが少しだけウェーブしている。

顔の見た目としては地味だが、醜いほどではない。むしろ中の上くらいだ。

もう少し眉毛と前髪を整えればもっと良くなりそうなものだが。

 

クラスの中でなんとなく孤立していて、いつもやたら分厚い辞書のような本を読みふけっているやつ。

先入観で暗そうなやつだと思っていたが、僕にかけた声が思いの外しっかりしているのでそうでもないらしい。

 

須賀 流歩 (すが るふ)

 

変わった名前だから覚えている。

変わっているのは名前だけでなく彼女には奇妙な噂が付きまとう。

昨年度彼女をいじめた女子がその分厚い本の角で気絶するほど殴られたとか、

彼女をいじめた女子が不登校になってしまったとか、

ともかく不吉な女である。彼女をいじめるものはおろか、声をかける者すらいない。

 

そんな彼女が僕にいかようなのか。

 

「須賀さん」

 

「ルフでいいよ」

 

妙に距離を詰めてこようとしてくる彼女の様子にこのあとの展開が読めた。

しかしながらなぜ僕なのか。彼女と話すのは今が初めてなくらいなのに。

 

「今フリーなんでしょう?」

 

フリー。なんのことかと思ったが、そうだ、今僕は彼女がいないんだった

つい先日騒がしい女と別れたばかりだった。唇しか取り柄がなかったようなやつだった。

そいつからすれば僕こそつまらない男で不満しかなかっただろう。今後それを吹聴されると思うと少しゲンナリする。

それが軽音部の女だったので本日部活に行くのが手間なのである。

 

「あー、うん?今は、まあ彼女いないってか別れたばかりで……」

 

僕は明るく振る舞う。しかしそんな努力には意味はないと言わんばかりに彼女は自分の発言を押し付けてきた。

 

「私と付き合ってみない?」

 

随分奇妙な視点からの告白である。

その発言内容ほど上から目線を感じさせるような嫌悪はない。しかし確かに彼女は自信に満ちていた。

一応、口調から彼女自身僕と対等であろうとする姿勢が伺える。

まるで試してみないかと言わんばかりなのだ。実際彼女もその魂胆なのだろう。

まるで子供のお使い感覚の頼み方だと苦笑した。

 

「奇妙だね。そこは『好きです』とか『付き合ってください?』じゃないの?

あと僕は君のことをあまり良く知らないしなぁ」

 

思ったことを冗談のように軽く問いかけてみた。

実質僕はこのルフという女子のことを知らない。噂に聞く程度だ。

 

「それは大した問題じゃないわ。私のことは後から知ればいいし知らないままでもいい」

 

『知らないままでもいい』

これはあまりにも奇抜な発言に思えた。

女子というのは自分を彼氏に知らせたがるものだ。それも全てを理解してもらおうと言わんばかりに。

これから付き合おうとする相手に自分を知らなくていいとはこれはいかに。

 

「私、知ってるのよ。コウ君が本当は暗い人だってこと」

 

「……え?」

 

こいつは何を言っているのか。

唐突に"コウ君"と呼ぶぶしつけな態度にも驚くが。

それよりも、僕が、暗い人?

 

「何を言っているんだ君は」

 

僕は咄嗟に否定の言葉を吐く。動揺を諭されないように軽快に。

怒っているのではない、自分を見透かされたことに動揺しているのだ。

軽く恐怖すら覚える。自分が道化の仮面で隠していた闇が暴かれようとしているのだから。

 

「だってそうでしょう?

たくさんの女の子をとっかえひっかえ。

続かないのよね。彼女達とコウ君は……私達は根本的に違うもの」

 

"私達"

彼女は僕を自分を一体にして私達と呼んだ

そうか、彼女も僕も同じ"日陰者"の存在なのだ。

軽音部で馬鹿騒ぎする"日向者"のやつらとは根本的に違うのだ。

 

「それとも、コウ君の関心はココにしかないのかな?」

 

須賀流歩は自らの唇に指を当てた。

一見すればチャーミングな動作であるが、僕はそれどころではなかった。

強く揺さぶられたのだ。彼女は僕の趣向を完全に見抜いている。

 

僕は何か反論しようとして、やめた。

何を言っても無駄だ。彼女には全部見抜かれているのだ。 

 

「ね、私の唇さ。悪くないと思うんだけど」

 

指により誘導された視線は彼女の唇を捉える。

必然的に僕は舐めるように彼女の唇を監察していた。

 

ふっくらとした上下の房はゆるやかに光を反射して静かな潤いを秘めている。

それはまるで果実そのものだ。見ただけで甘さが香ってくるようだ。

 

実に美味そうで、今すぐに食らいつきたいほど。

 

「いいよ」

 

彼女がそう言う。何が良いのか。言うまでもないが。

 

僕は、


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