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男子高校生コウのキスへの妄念

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キスへの理念

 

「君の唇が欲しい」

 

僕は女子を口説くとき必ずこう言っている。

 

これは比喩表現でも回りくどい間接的表現でもなんでもなく"そのままの"意味だった。

 

僕は女性の唇が欲しい。

その唇と唇を重ねたい。

 

この発言からして、

女なら誰でもいいのか?と思われかねないが。

 

違う。キスするにおいて顔もそこそこ秀麗で自分の好みでなければならない。

舌を絡める仲とまでなればある程度自分が信用できるような人間でないと問題だ。

だから中身も伴っていないといけない。

 

だが大前提として、その彼女の唇が繊密で完璧でケアされている必要がある。

全てはキスのために僕は女を必要とする。

 

口紅なんてもっての他。

あんなもの唇を劣化させるツールにすぎない。

見た目こそは良くなるかもしれないが、質感がテンでダメだ。

 

唇のありのままのふわふわとしてやわらかいマシュマロのような感覚を味わいたい。

マシュマロよりも、甘味で脳をしびれさせるあの感触が頭から離れない。

 

それをじっくりと堪能したうえで互いの舌を絡め合わせ禁断の蜜をむさぼりあいたい。

その蜜は脳を溶かす。中毒性があり、僕はそれを何よりも求め、渇望している。

キスこそ至高、唇こそ極上の美味であるのだ。

 

女とのキスに僕は異常なまでの執着を覚えていた。

 

僕は唇に飢えていた。

 


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平塚 幸 (ひらつかこう)

 

それが僕という哀れな存在を示す名前だった。

 

齢は18。高校生。

普通で普遍たる平凡な高校生。

高校の偏差値は中の上くらい。

よって高校自体の治安は良い。不具合は無い。

 

普通で愚かで、普通に聡明で、

普通の明るい男子生徒を上手く演じているため、

いじめられることもなく、悪くもない仲間に囲まれて過ごしている。

 

しかし自分に意識が向きすぎて、薄暗い思考が毎日のように脳内をうろついているので気が滅入っている。

自分という存在が酷く醜く大きく頭でっかちに感じてしまう。

 

思考で頭が膨れ上がるならば僕はとっくに重さに耐えきれず潰れていただろう。

それほどまでに人より無駄に考えすぎてしまうたちであった。

 

自覚しているだけ良い方だ。

その上で社会に溶け込む頭脳を持っていたからよかった。

活かせない知能など海に捨てて魚の餌にした方がマシだ。

 

さて、そんな湿った脳ミソを吹き飛ばすために雑音のように喧騒とした軽音部に入った。

 

軽音部で単調な愛の歌を掻き鳴らして馬鹿みたいに喚く。

馬鹿は楽しい。無能こそ幸福だ。

僕はそれを痛感していた。

しかしながら、演奏をしていても、

やはり自分は女の観客の唇を目で追っていた。

常に狙っていたのだ。

 

性欲か性癖か歪な感情なのか。

僕はどうしても唇が欲しい。

 

最初に僕にキスの記憶を叩き込んだ人物は誰だったのだろうか。

不思議なことに思い出そうにしても全く思い出せないのだ。

 

キスにキスを重ねてキスの記憶がキスで埋もれてどれが始まりだったのか思い出せないのだ。

 

母親だったのか?

よくある話だ。赤子にキスをする母なんて絵にもなりそうだ。

しかし自分の母親が僕に対してキスする絵を想像できない。

 

母は毎日忙しそうで、何がそんなに忙しいのか、常にいらだっていた。

家事もパートもこなす善良な母親像ではあるが、あまり愛情を感じさせるような接し方を僕にはしてくれない。

 

母親の愛が欲しかったからこんなにもキスに飢えているのか?

しかし、今更母親にキスなどされたくない。

反抗期は過ぎたとはいえ肉親相手じゃ生理的に、本能的に気持ちが悪い。

 

まあ始まりなんて今更どうでもいいのだ。

僕は常に新しい唇に飢えている。

 

その上で軽音部のギターボーカルの立場は非常に便利だ。

軽音部は蛆虫の巣窟なような場所で人の出入りがやけに多い。多少努力すれば多くの顔を見知れるものだ。

バンドマンにスキャンダルは基本的に付きまとうもの。

 

まあ別に軽音部に限らず教室の女子とも上手く言の葉を使えば蜘蛛の巣に引っ掛かってくれる。

 

歌は良し、ギターも掻き鳴らせ、顔もそこそこ、話術も演じれば問題なしの僕は

結構な頻度で彼女を作れたのだ。

 

結構な頻度。

つまり別れるのも早かった。

 

どうやら僕は一人の女性をキープするのが下手なようだ。

僕自身、関心があるのは唇だけなので、継続のためのケアが疎かなのだ。

 

女子の会話に長時間付き合うのも面倒だし、

デートなんてものはとてつもなく面倒臭いのだ。

外でしょっちゅうキスするわけにもいかないから苦行のような時間を耐えなければいけない。

 

家に上がればセックスくらいはするさ。

ただ、僕が関心があるのは本当に唇だけなので、

女の身体中にキスする意味なんてわかりやしないし、

ましてや汚いところにまで唇をはわせなければいけないとなると悪魔との契約を思わせるようで気味が悪い。

 

結局のところ僕は自分中心的すぎる人間なので

そんな野暮ったい態度が相手に伝わるのか、早い段階で別れを告げられる。

 

良い。それで良い。

こっちは唇さえもらえれば目的は果たせたも同然だ。

関係を継続させるのも手間だから次の女に手を出すさ。

 

本当に自分は仕方のないキス中毒患者である。

それだけを求めて仕方がないのだ。

あの悦楽の極上の美味が、欲しい、欲しい。

 

 

キスの種類にもいろいろあるそうだが

僕としては種類などは意識してなく、ただ欲しいがままに唇を重ねていた。

 

自らキスについて調べたが、ほとんどのものはわりと自分から試したことがあるものだった。

もちろん、唇に関するもの限定である。唇以外の場所を触れ合わせるキスなどには興味がわかない。

 

あとは食べ物を使うキスも好きではなくやったことはなかった。

元々唇は美味しいものなのになぜそれを関連付ける必要があるのだろうか?

滑稽である。

 


キスへの概念

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