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 ある時、そんな抱擁の後で、工房に入って腰を落ち着けた圭輔が、私の淹れたコーヒーに口を付けて、ほっとした様な表情をしながら、独り言の様に言った。

「でもさ、やっぱり会いたい時に、会えないのは辛いんだよなあ」
 気が緩んだ時に、矢張り本音は出るのだろう。私はその時少し困った顔をしていただろうか。
「ここ、有線の電話しか繋がらないだろう。ケイタイも圏外だし。せめて、ノートPCぐらいあってもいいんじゃない?それにカメラ付ければ、テレビ電話みたいにお互いの顔も見れるしさ」
「う~ん」
「冬になったら、あそこの峠道も通行止めになるんだろ?そしたら、ここまで辿り着くの、至難の業だと思うし・・・どう?」
「・・・・」
 即答出来ずにいる私を、彼がだめかな?という様に見ている。
「・・・ごめん」
 今度こそ本当に申し訳なくて、私は勢い良く頭を下げた。本当に私は、わがままで面倒くさい女だ。

 

 ゆっくりと時間が流れるこの空間に、人工的なものを置いた時から、少しずつ流れる時間のスピードが速くなっていく。私にはそんな気がしてならないのだ。だから、ここには人工的なものは、なるべく置きたくない。
 自然との調和なんて言ったら大げさかも知れないけれど、自然には、木一本、草一本、それぞれに奏でるリズムというものがあって、そこに気持ちを寄り添わせていかないと、思う様な染め色が出せない。そんな気がしている。ここに来て、そんな思いは一層強くなっていた。


 実は、都会の空気を纏って来る彼の存在も、ここの空気に微妙な変容を与えている。彼に会うと、その後しばらく、思う様な染めが出来なくなる。それは私の思い過ごしなのかも知れない。でも、私はそう思ってしまう、そんな面倒くさい思考の持ち主なのだ。

 何を言っても、何だか言い訳がましく聞こえる。そんな風に思いながら、一通りの説明をして、
「ほんとに、ごめん。こんな面倒くさい女で」
 と、話を締めくくった私に、圭輔は思わず苦笑いしていた。
「ま。仕方ないよな。俺は、そういう事にこだわるノエルに惚れちまった訳だしな」
「・・・ごめんね」
 申し訳なさを償う様に、圭輔の体に身を寄せる。そこに生まれるぬくもりが、少しでも彼に癒しを与える事が出来たら。そんな事を思いながら、抱き寄せられるままに、その胸に顔を埋めた。
「冬、こんな寂しい所に、一人きりで大丈夫なのかって、その辺が心配なんだよ」
「寂しいって言っても、10分も歩けば、行き来しているお宅が何軒かあるし。何かあれば、助けて貰えるから・・・」
「ノエルには、俺は必要じゃないのかな・・・」
 不意に頭の上から零れ落ちて来た言葉に、私は驚いて顔を上げた。
「そんな事、ないよ。助けて貰えるって言っても、寂しい時にいつも考えてるのは、間違いなく圭輔の事だからっ・・・」
「本当に?」
 そう聞いてくる圭輔の顔が少し笑っていて、そこで、自分がからかわれたのだと気づく。

 

「なら、愛してるって、言ってみて」

 

 もの凄い勢いで、頬の温度が急上昇したから、さぞかし真っ赤な顔になっていたのだと思う。圭輔の口元が、ひくひくと痙攣している。懸命に笑いを堪えているのが分かった。
「おふざけなんかじゃ言わないから。そういうの、神聖な言葉なんだからね」
 そう言った途端に、圭輔が堪え切れずに、盛大に噴き出した。
「何か、もの凄~く、失礼なんですけど」
 憤慨して言うと、圭輔は肩を揺らしながら、息も絶え絶えにごめんごめんと繰り返す。
「ふざけている時も、マジな時も、葛城圭輔は変わらずに貴島ノエルを愛する事を誓います」
「だから、そういう事、ふざけて言わない。バチ当たるわよ」
 圭輔の腕が、再び私の体を抱き寄せた。そして、言う。

 

「・・・ノエル、愛してる。ノエルは?」


 愛してると言う時は、どういう時なのだろう。その時、ふとそんな事を考えた。

 わざわざそれを言葉に出して言うというのは。

 この時には分からなかった。そして私はずっと後になって気づくのだ。それは相手の気持ちを確認したくなる時、確認せずにいられない時に出る言葉だったのだと。

 何か確かな証がないと、心に湧いた不安を消す事が出来ない。そんな時に出る言葉なのだと。
 気づいていたら、言ってあげられたのに。それに気づかなかった私は、別の言葉を口にした。

 

「・・・すき」 と。

 

 圭輔が少し不満そうに、首を傾げて聞き返す。
「好き?」
 じゃあ、もう少しサービス。そんな感じで言葉を足す。
「・・・大、すき」
 その言葉に、彼はすこしせつなそうに笑って。言葉の足りない分を補うみたいに、強く強く抱き締められた。

 

 


2
最終更新日 : 2010-10-01 22:43:31

 それからしばらくして、峠道が冬季封鎖された翌日から、雪が降り始めた。その土地の冬は思っていた以上に冬だった。
 降り始めた雪は、山を白く染めながら、あっという間に降り積もった。その雪は、春までほとんど降り止む事はないのだという。
 薄く陽の射す明るい日にも、雪雲は空を薄く覆い尽くして、粉を振るみたいに雪を振りまいていく。本当に冬なんだなあと、染料を仕込む合間、窓の外に目をやる度に、そんな事を思った。

 

 そんな雪に閉ざされた寒い冬の夜。
 思いがけず、圭輔が姿を見せた。

 

 ドアから転げる様に入って来た圭輔は、全身雪まみれになっていて、凍えた体のまま、何も言わずに私の体を抱き締めた。
「どうしたの?」
 思わず訊いた私に、圭輔はふと我に返った様に、いつもの優しい笑みを見せた。
「ここまでどうやって・・・」
「峠の通行止め突破して・・・来たんだけど・・・途中で雪にはまって動けなくなって。車置いて歩いて来た・・・んだ」
 頑張ったからご褒美くれるよねと、どこか自慢げに報告する子供みたいな圭輔を、私は抱き抱える様にして、薪ストーブの側に座らせた。

「どうして、そんな無茶・・・」
「会いたくて・・・どうしても・・・会いたくて」
 ストーブの熱に煽られて融け始めた雪が、ポタリポタリと椅子の下に落ちて、小さな丸い染みを幾つも描く。それを俯いたままの圭輔が、呆けた感じで見ている。
「・・・何かあったの?」
「・・・・仕事でちょっとトラブって・・・ああ・・・でもそれは・・・なんとか目処は付いたから・・・もう・・・心配はいらないんだけど・・・」
「・・・・」
「何だか、無性に、ノエルの顔が見たくなって・・・」
 私は手にしていたバスタオルを圭輔の頭の上から被せて、そのまま彼を抱き寄せる。

 

 きっと何か辛い事があったのだ。
 いつもは理知的で、感情になど流される事のない彼が、こんな風に弱音を吐いて、こんな無茶をする。
 それ程の事が・・・・あったのに。
「ごめんね」
 圭輔の体を包み込む様に抱きながら、思わず涙が溢れた。

 辛い時に側にいられなくて。傷付いて、癒しを必要としている彼に、追い打ちを掛ける様に、こんな苦難を与えて。
「・・・ほんとに・・・ごめ・・・」
 氷の様に冷たい圭輔の手が、私の頬を流れ落ちる涙を拭う。
「何で・・・お前が泣いてんの・・・ノエル」
「だって・・・私、圭輔・・・に・・・何もしてあげられなくて・・・自分の事ばかりで・・・何の役にも立たなくて」
「何言ってんの。俺は、ノエルの顔見ると癒されるんだぞ。間違いなく、もの凄~く役に立ってるだろうが」
「本当に?」
「本当。だから、愛してるって、言って」
「もう、何でそこでそういう事・・・」
 圭輔の顔が近づいて来て、そっと唇を重ねた。それもやっぱり氷の様に冷たくて、私はそれを温める様に、優しく口に含む。静かにゆっくりと、口付けは深くなっていく。

 時間の感覚も失って、やがて漏れ出た吐息と共に、圭輔が魔法を掛ける様に囁く。
「ノエル・・・愛してる。ノエルは?」
「愛してる・・・圭輔」
「・・・ありがとう。凄く、癒された」
 そう言って、ふっと笑った圭輔の穏やかな顔は、暖かなオレンジ色に染まっていて、その色は私にとって一生忘れられない色になった。

 

 翌朝、目が覚めると、圭輔はもう庭にいて、息を弾ませながら、出来あがったばかりの、大きな雪だるまを、さも自慢げに披露してくれた。
「子供みたいね」と揶揄すると、
「人生には遊び心も大切だ」
 と、実に明瞭な答えが返って来た。

「雪のある間は、もうここには来れないなと思って」
「もう大概懲りた?」
「ああ。だからこれは、俺の代わりに、ノエルを守ってくれるスノーマン」
「はい。お世話になります」
「では、ラプンツェルのお姫様。春になったら、お迎えに参ります」
 そう言いながら、圭輔が芝居掛かったポーズを取る。
「ふふ。今、春って言葉が、すごくふわふわ浮きたつ様な言葉になったかも」
「じゃ、元気で。風邪なんかひくんじゃないぞ」
「うん。圭輔もね。あまり無理しちゃ、だめよ?」
 目処は立ったとはいえ、実を言うと、昨日は、あまりの事に途中で仕事を放り投げて来たのだという。だから、今日は何が何でも戻らなくてはならない。そう言う圭輔を、私は引き止める事は出来なかった。

 

 静かに吹き始めた風に吹雪の気配を感じて、そこに漠然とした不安を抱きながら、私は雪の中に見えなくなっていく圭輔をいつまでも見送っていた。

 

 

 そして・・・

 その白い雪は、圭輔をそのままどこかへ覆い隠してしまった・・・

 

 

 


3
最終更新日 : 2010-10-01 22:49:10

 その知らせを受けてから、私は、何かに取り憑かれた様に工房にあった白い布を次々に染め上げた。

・・・どうして、あの時。

 白い色を見ると、様々な「あの時」が自分を責める様に浮かび上がって来る。
 悲しみや後悔が絶え間なく押し寄せる。そんな状況にいたたまれなくなって、涙を堪える為に、そこにひたすら色を付け続けた。そして、ただひたすらに、雪の消える春を待ち侘びていた。

 

 雪が解けたら、圭輔は戻って来るかも知れないと。
 微かな期待を抱きながら・・・

 

 そんな張り詰めた様な空間に、こうして乱入して来る翔太の存在には、正直ほっとさせられていた。
 私は様々な喧騒を嫌って、静けさを求めてここにやって来た。それでも、その事があってから、雪が全ての音を吸い取ってしまったかの様に思える静寂が、時折いたたまれなくなるのだ。
「ねえ、春はまだかしら?」
 ようやく湧いた熱湯で入れたコーヒーを翔太に渡しながら、ふとそんな事を訊いていた。
「のえ姉はさ、雪が嫌いなのに、何でこんな雪がガンガン降る様なとこに来たのさ」
「・・・こんなに降ると思わなかったのよ」
「見通しあっま~い」
「ふふ。かしらね」
「こんな場所に住んでるくせに、冬楽しまないなんて、人生半分損すんぞ。何なら、スキーぐらい教えてやろっか?」
 翔太は知り合いのスキー場で、インストラクターのバイトをしているのだ。
「考えとく」
 私がそう答えた所で、会話が途切れた。

 

 その間が居心地悪かったのか、翔太は、まるで香りにも味にも関心がないとでも言う様に、カップの中の液体を一気に飲み干した。
「・・・んじゃ、飲み終わったから帰るわ」
 そしてまた、けたたましくドアベルを鳴らしながら、元気良く雪の中に飛び出していく。冬生まれの翔太は、夏の暑いのが苦手で、夏はダラダラを絵に描いた様な生活をしている。
 それが、冬になると、途端にあんなに元気一杯になる。その変わり様が可笑しい。見ていて飽きなかった。
「・・・それでも、ごめんね」
 その後ろ姿を見ながら呟く。それでも、私は春を待ち侘びている。

 

 

 

 そこに降り積もって、
 地上の全てを容赦なく覆い尽くして、
 全てを白に染め上げて、
 あの人を見えないどこかへ覆い隠してしまった雪・・・

 

 雪が消えたら。
 消えてしまった彼が、
 戻って来る様な気がするから・・・

 

 だから、私は春を待ち詫びる。

 だって、春になったら・・・迎えに来るって・・・

 ・・・言ったもの。

 

 

 

 窓から差し込む光の黄色が、少し濃くなった。そんな風に感じ始めた時にはもう、待ちかねた春が側まで来ていた。 雪が一斉に解け始め、静かだった冬の森が、雪解けの絶え間ない水音で一気に騒がしくなった。
 そんなざわめく森の中で、軒先から滴り落ちる規則正しい水音の他に聞こえる音はないかと、私は気が付くと耳を澄ましている。そうして、そこに少しでも違う音を感じると、ドアを開いて外を確認するのだ。

 

 私は足音を、私を訪ねて来る彼の足音を待っていた。

 

 泥濘をはね上げる音を立てながら、近づいて来る足音に、私は思わず笑みを零す。
 あれは翔太の足音。勢いに任せて、真っすぐにやってくる。
 何度か聞くうちに、特徴のあるその音は、すぐに聞き分けられる様になっていた。
 戸口に立ったタイミングを見計らってドアを開けると、翔太が驚いた様な顔をしていた。それが可笑しくて、軽く噴き出す。
「何だよもう。びっくりすんじゃんかよ。はい、今日の分お届け」
 憮然としながら、翔太がいつものビニール袋を差し出す。
「どうも、ご苦労様・・・」
 そう言い掛けた所に、翔太の後ろでドサリと何か大きくて重たいものが落ちた様な音がした。
「・・・って、今度は何?心臓にわるいな、たくっ」
 悪態を付きながら振り返った翔太の肩越しから、私はその音のした方を覗きこんだ。

 


4
最終更新日 : 2010-10-02 00:04:50

 その視線の先・・・雪解けの泥濘の中に、その役目を終えて、もう原型も留めていないスノーマンが佇んでいた。今の音は、その頭の部分が解けて崩れ落ちた音だった様だ。
「・・・何・・・あれ」
 少し茶色く変色した雪の塊の中に、何か入っている。私は目を凝らして、それを見据えた。

 スノーマンの頭と胴体の境目だった辺りに、見覚えのある小さな四角い缶が埋もれていた。それは私が好きなチョコレートの缶。
 都会のデパートでしか売っていなくて、圭輔がここに来る度に、買って来てくれたチョコの缶。缶のデザインも好きで、空いた缶は小物入れにしていた。

 

 その缶が・・・

 

 泥濘の柔らかい泥をはね上げるのも気にせずに、私はそこに駆け寄ると、夢中で雪の中からそれを掘り出した。雪の冷たさにかじかんだ指をもどかしく思いながら、私はようやくその蓋を開く。中には、ビニールに包まれた赤いハート型のビロードの小箱が入っていた。

 

  『結婚しよう』

 

 そこにはただ一言、そう書かれた紙切れが添えてあった。

 

 

 

 

・・・ノエルには、俺は必要じゃないのかな・・・

 

「そんな事ない」

 

・・・なら、愛してるって、言って・・・

 

「愛してる、愛してるから・・・」

 

 

 

 

 冬の間、雪と共に凍らせていた涙が、やわらかな春の日差しの中で、一気に解け出した。その小さな小箱を抱き締めたまま、私は成す術もなくその場に泣き崩れた。
「のえ姉っ・・・」
 翔太が慌てて駆け寄って来て、泥の中に座り込んてしまった私を引き上げる。私はそのまま翔太の胸に顔を埋めて泣いた。

 

・・・春になったら・・・

 

 その言葉に込められた思いは、春の訪れと共に、残酷なまでに鮮やかに花開いた。

 

 春になったら、
 その言葉を持って、
 迎えに来るから。


・・・そういう・・・事だったの?・・・

 

 失ってしまったものの大きさに打ちのめされて、私はただもう泣く事しか出来なかった。
 そして待ち侘びた春は、白い雪を泥濘の色に染め上げながら、そこに埋もれていた哀しみもついでに、全てを雪解けの水できれいに押し流して行った。

 

 

 

 

 

「きれいな桜が咲いたね」
 染めが終わった大きな布を干していると、その向こう側から不意に翔太の声がした。広げた布地の向こうを覗くと、翔太が淡く染め上げられた桜の色を見ていた。
「今年咲く筈だった桜の枝を切っちゃって、ちょっと申し訳ない気がしていたから、染めがきれいに仕上がって良かったわ」

 この桜の色を出すには、花が咲く直前の、ピンク色を十分に蓄えた桜の枝を使わなくてはならない。考えようによっては、結構残酷な事なのかも知れない。
 でも、一瞬で散り落ちて、儚く消えてしまう桜色を、永遠にそこに留めておきたいという願いが、古の時代から受け継がれて、人々に春をもたらす衣を生み出して来たのではないかとも思う。

 

「・・・こないだは、ごめんね」
 私がそう言うと、翔太が少し気まずそうにする。
「びっくりしたでしょう・・・?」
「・・・ん、まあね。でも、泣いてくれて良かった」
 そう言われて、私が不思議そうな顔をすると、翔太が言葉を足す。
「あんな事があったのに、のえ姉は涙ひとつ見せないって・・・親父もお袋も、気にしてたから。辛い時に泣けないのは、本当に辛いからだって。人は辛すぎると、無意識に自分を守ろうとして心を凍らせる。そうすると、泣けなくなってしまうんだって・・・だから、あそこで泣いてくれて、ほんとに良かった」
 そう言って、にっと屈託のない笑顔を見せる。
 言われて初めて、本当に心配を掛けていたのだと思う。そう言えば、翔太がちょくちょくお使いに来る様になったのも、あの後だった。
・・・そっか、心配してくれていたんだ・・・
「そう言えば、今日は?お届けものは?」
「道の雪も消えたから、後で、親父がバイクで配達に来るよ」
「・・・?じゃ、今日は何しに来たの?」
「いや別に、普通にぶらぶらと、散歩」

 

 そうか。
 冬はもう終わりだから。

 

 気温の上昇と共に、翔太はまた、グータラなダラダラ生活に戻って行くのだ。そう思って、思わず苦笑する。
「今年は、受験生なんでしょ。勉強しなさいよね」
「こんなぽかぽかのどかな陽気に、勉強は似合わない」
「どういう理屈?・・・ま、言われればそうだけど」
「のえ姉は?まだ仕事?」
「私はねえ、忙しいの。野山に一斉に芽吹く若葉を摘みに行かなければならないんだから。君と違って、遊んでいる暇などないの」
 少し嫌みを込めてそう言ってやると、翔太は肩を竦めて笑った。

 

 あの人がいなくなっても、私は変わらずにここで、野山の色を作り続けている。いつか見た、あの暖かなオレンジ色にまた出会いたくて。

 

 そう・・・儚く消えてしまったあの色を探しながら、私はこの先も、色を作り続けていくのだ。

 この場所でずっと。


【 春を待つ 完 】

 

 

 


5
最終更新日 : 2010-10-02 00:08:17

この本の内容は以上です。


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