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「この件は極秘だそうだ」
「モスチキン一つ」
「極秘にしろと言っているのは俺じゃなく局長だ」
「二つで手を打つよ、お兄ちゃん」
「打つな」
「でも私が言いふらしたらお兄ちゃん困るでしょう? 受益者負担だよ」
「マイナスがゼロになるのも受益か?」
 少し考えたが、マイナスがゼロになるのも受益だった。
 五霊はカウンターに行き、モスチキン追加の旨を伝え、金を払った。夜8時のモスは客もまばらだ。
 義手や義足、あるいはペースメーカーのようなものを入れている人間は、東京に何人いることだろう。それが全部アイリスに操作される潜在リスクがあるとなったら、もはやこの街を平静のままに管理することはできなくなってしまう。五霊は他人事のように思った。
 アイリスの言葉を思い出した。
 案外人間は、機械に頼って生きていることに、引け目を感じているのかもしれません。
 そうは思わない。機械は人間が作ったものだ。銃と同じだ。それを使うのに躊躇はいらないはずだ。
「そういえば、お前の脚も義足なんだって?」
「うん」
「知らなかったな」
「秘密にしておいてね」
「ああ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「お前、あいつらには何を言われたんだ」
「あいつらって?」
「昼間。アイリスの子どもたちに」
「わかんない。私、子供って苦手だから」
 お前も十分子供に見えるぞ、と五霊は思った。ひとみの舌がメロンソーダで緑色になっているのが見えた。
「どうしてお前は、操られることがなかったんだと思う」
「ああ、それは多分」
 田原坂ひとみは、ぐっと自分の片脚を持ち上げ、椅子の上で膝を抱えた。キュロットスカートの裾から、それで下着が見えるというわけではないのだけれど、つい五霊の視線は落ちる。あまり行儀の良い格好ではないと思った。
 ひとみは自分の足を、そっと撫でて微笑んだ。
「これはお兄ちゃんだから」
「は」
「機械のためじゃなくて、お兄ちゃんのために動くから」
 兄なのに、そんなことも知らなかったのですか、と言われた気がした。

 もうすぐ追加のモスチキンが運ばれてくる。それまで少しの間、ほんの少しの間、この愛すべき妹の、あるいは恐るべき狩人の、行儀の悪さは咎めずにおこうと、五霊は思った。


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最終更新日 : 2016-10-10 13:52:12

奥付


1日に2回モスを食べに行く


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著者 : 笹帽子
著者Webサイト:http://www.sasaboushi.net/blog/
Amazon著者ページ:http://www.amazon.co.jp/笹帽子/e/B00TOEWKRE/


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最終更新日 : 2016-10-10 13:38:11

この本の内容は以上です。


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