中牧正太試論(うたの日首席100回記念)(4)
◯尋ねる、という関係性
ボランチの意味を教えてくれますかまた四年後もめんどくさそうに 『サッカー』
シボレーとあれは読むんだ 真夏日の君に教わる二つめのこと 『アメリカ』
このBの意味をきくのは幾度目か初めて地下で失恋をする 『B』
次の冬も尋ねたいから忘れたいその鍋を持つ手袋の名を 『手袋』
同じことを何度も尋ねる、という行為を、愛情の行為に彼は換える。この他者性が、彼の作風が独りよがりになるのを防いでいるように思える。
◯間違い探し
間違いを見落としがちな八月の瞳四つで見る左右の絵 『4』
早春の間違いさがしああこれか左の絵には太陽がある 『間』
少年がこんなにうれしそうなのに左右の絵には間違いがある 『絵』
これも時系列だが、3つめの作品が、記念すべき首席100回目の作品である。間違い探しのモチーフでは、彼の作品がより詩的に発展しているのが如実にわかる。彼の作風は、才能によるよりなお、努力に預かっていることがよくわかるのだ。
おわりに、内省的なリリシズム
最後に、照屋がもっとも評価する中牧作品の30首選から、いくつか挙げ、照屋のおもう中牧作品の優れた点について書く。
ぼくの手がぼくの体に服を着せ通夜の支度を整えている
誰かの通夜に参加する主体の、通夜の相手との関係や、主体の内面のことを、主体の身体をバラバラに描写することで伝える表現はみごとである。
3D映画のあとの手のひらの雨粒もうひとつ来い雨粒
3D映画という、立体的に見えるが立体ではない映像表現に浸ったあとに、雨粒というかすかだが確かに立体物であるものに触れたく思う心情を、命令形にすることで、ある時代的な切迫感まで帯びた表現になっている。
中牧正太試論(うたの日首席100回記念)(5)
グランデは意外にでかく僕たちは初めて顔の全部で笑う
こんなに楽しくて、幸福で、安心したシーンを描けることが不思議に思う。
よかったら歩きませんかさよならへあのどうしようもないさよならへ
これは「結婚」という題で、そこからこの作品を導き出すのもすごいことだが、「歩く」と「さよなら」だけで、結婚生活の質まで浮かび上がらせているのは驚きである。
がりりごり使い込まれた合い鍵を渡されながら飴玉を噛む
複雑な、怒りも悲しみもちがい、嫉妬、とまでいかない感情を、ユーモアをふくんだオノマトペで処理した名歌だと思う。
30首すべて挙げるわけにはいかないので止めるが、照屋が選ぶ作品は、おもに、これまで述べてきた、オールラウンダーの彼が、饒舌な言葉を抑制し、内面の、まだ言葉になっていない、あるいは、してはいけない感情について丁寧に詠う作品に引かれて選んでいるようである。
中牧正太という、歌人について、照屋は、ロジカルな表現技法を持ちながらも、それによって内省的なリリシズムを表現する、現代的な詩人の一人であると思うのである。
プルプルたかたか(1)
2016年
10月19日 うたの日 題 田中
「体操選手と同姓同名で伝わらない田中佑典です。」
10月21日 うたの日 題 明日
明日 明後日 明々後日 四日後を「ししあさって」という子どもたち
10月22日 うたの日 題 前
前すら見えない過集中全体見る仲間一人いる幸せ
10月24日 うたの日 題 ココア
純ココアにミルクと砂糖を気分で加えていく遊びがしたい
10月25日 うたの日 題 登
野球かと登坂車線(とうばんしゃせん)と読んでいたのももう十年以上前
10月31日 うたの日 題 わざわざ
わざわざとか建前と思いつつこちらも頭を下げるわざわざ
11月1日 うたの日 題 反対
「変態の反対はやっぱり変態」というのは変態の言葉
11月2日 うたの日 題 回
十二時回る終電なくなるオールせず親を呼ぶ十九歳
11月3日 うたの日 題 海
海大が正式の略称である北大生になってみている
11月4日 うたの日 題 嬉
嬉々として樹木希林・内田裕也夫妻の掛け合いを見る五歳児
11月5日 うたの日 題 音
音程は諦めて歌詞の面白さで勝負するカラオケ大会
プルプルたかたか(2)
11月6日 うたの日 題 カード
ポイントカード百枚は持ってます使っているのは十枚ほど
11月7日 うたの日 題 シンプル
機種変するときにシンプルプランを理解することの難しさ
11月8日 うたの日 題 連絡
連絡帳を覗き先生と親の本音を垣間見た小2
11月9日 うたの日 題 午前
毎晩午後10時寝の僕に忍び寄る午前零時以降の魅力
11月11日 うたの日 題 祭
「秋祭り輪投げの店の千円札あれ何でうまく入らない?」(19歳大学生)
11月12日 うたの日 題 親
「子育てだけしたい」から「結婚もしたい」になった今日も人恋し
11月13日 うたの日 題 ?(疑問符)
「なぜ山に登るのか?」「そこに山があるから。」みたいに生きていきたい
11月14日 うたの日 題 先生
先生という概念そのものが嫌いで教育学部入学
11月17日 うたの日 題 アスファルト
アスファルトとウッドチップを交互に歩く「馬車馬なの?」と君は
11月18日 うたの日 題 ロケット
「首に掛けたロケット」って危なくない?と初めて本で見たときに
プルプルたかたか(3)
11月19日 うたの日 題 待
待つのは得意だよ一日待ったことあるよ でも早く来てほしい
11月21日 うたの日 題 「ん」で終わる歌
この題を選んでしまう だがしかし「ん」で終わる歌など思いつかん
11月23日 うたの日 題 「恋」の字を使わない恋の歌
どうなってんの最近オナニーする気がなくなって心臓痛い
11月24日 うたの日 題 飽
「ねぇ、何か私たちって飽和水溶液みたいな関係だね。」
11月25日 うたの日 題 真実
「真実はいつも一つ」ならばかなり幸せな世界になってたね
11月26日 うたの日 題 女子高生
『女子高の女子高生と男子校の男子高生の格差』
11月27日 うたの日 題 童貞
童貞と笑った君の目の前で処女でも卒業してやろうか
11月28日 うたの日 題 最近怒ってること
行間を読むのが苦手 そんな時ちょっと教えてくれてもいいじゃん
11月29日 うたの日 題 自由
もちろんさ自由は大事それでもあこがれている普通というのに
11月30日 うたの日 題 眺
目に兆と書くわりに眺めるってすごくはないと思いつつ一人
12月3日 うたの日 題 好
好きですっていきなり言ったら引かれるだなんて教科書に書いてた?