中牧正太どんまい集
2014年05月15日 『 苺 』
サンチャとは何と聞けずにうなずいた わたしいつまで野苺さがしどんまい!
2014年08月12日 『 いつ 』
君がいる、これはいつだろうどこだろう誰のものだろう、ただ君はいるどんまい!
2014年11月06日 『 無 』
恋人になれないみたいああこの好きが無条件になってしまうよどんまい!
2015年05月18日 『 片 』
ばかやろう死んでなるかと裏返る車ひとつぶ片付けておりどんまい!
2015年06月08日 『 早 』
早く来て服に毛玉があっていいできれば靴はないほうがいいどんまい!
2015年07月03日 『 かいしんのいちげき 』
ときめきはサードライナー隠してよ少しくらいは恋人のことどんまい!
2015年08月11日 『 水着 』
あかるみに心置きなく息を吸うビキニの森を抜け出してきてどんまい!
2016年03月14日 『 男 』
異性交遊なところもあるけれどほんとは男女交際なひとどんまい!
2016年03月29日 『 空気 』
冒涜をゆるしあそばせ月ひとつ玩びたるエアホッケーをどんまい!
照屋沙流堂のえらぶ中牧正太作品30首 (うたの日首席100回記念)

ぼくの手がぼくの体に服を着せ通夜の支度を整えている
してやれる全部全部を為し終えて禿げタンポポはまだ空をみる
むずかしく考えながら電柱の影を歩けば電柱がある
それからはアンドロイドに替へましたとても仲良く暮らしてゐます
養豚と百回言うと養豚のことを忘れてうまく踊れる
3D映画のあとの手のひらの雨粒もうひとつ来い雨粒
焼け焦げて浜辺に着いた棒っきれ少しゆっくりしてったらいい
グランデは意外にでかく僕たちは初めて顔の全部で笑う
今日会った人は六名だれもみな何かしながらわたしと話す
さよならの傷に効かざる鬼怒川の固形燃料ながながと燃ゆ
父に説く思春期よりもやわらかく紅葉マークの上下について
よかったら歩きませんかさよならへあのどうしようもないさよならへ
結論に君は近づくいくつかの飛べない鳥の名をあげながら
枝が実の手を離すのか実が枝を千切りゆくのか林檎や吾子や
夜に合う歌を薦めるユーチューブもうその件は終わったんだよ
文語にてともに学びし民法に禁じられつつただ雨宿り
おまえまた人を信じてみるのかい紐と錘(おもり)は垂直を指し
すみれ道ゆく子の靴のそのままでいてほしい青いてくれぬ青
長病みを明けし君との昼オセロ二寒五温の弥生ことしは
がりりごり使い込まれた合い鍵を渡されながら飴玉を噛む
費やした時がいまさらずんと来て離し忘れる給湯ボタン
外は池ゆうべやさしいありがとうごめんなさいがずいぶん降って
君の椅子が冷えてゆくまで目をとじる 次に見るのは何いろの部屋
ありがとう楽しかったと笑む君の明朝体になりゆく言葉
センセイと呼ばれる人と呼ぶ人の深いくちづけ、あとピスタチオ
湯葉を待つ、今ごろは君ひとりではないことでしょう、少し固まる
ややこれは秋が強めだ、君が来ない台風が来るジャムがあかない
あきらめろと瓶の手紙を突っ返す地球の七十一パーセント
短編の僕らをのせて井の頭公園行きのスロウボートは

中牧正太試論(うたの日首席100回記念)(1)
はじめに
「うたの日」という、毎日題詠歌会が行われてるウェブサイトがある。ここでは、1日3〜4の題詠の部屋があり、24時間のあいだに短歌を投稿、その後3時間のあいだに投票を行ない、得票の一番多い者が首席となる。先日(2016/05/27)、このサイトで快挙が成し遂げられた。
すなわち、首席通算100回の快挙である。
達成者は、中牧正太氏。
照屋は、彼と一度しか会ったことがなく、それほど仲が良いというわけではないが、彼の偉業を称え、同時に、彼の作品について考えてみたいと思ったので、ここに試論をこころみてみる。
いずれ書かれるだろう中牧論の先鞭の、その先の風圧にでもなればさいわいである。
オールラウンダーの肖像
中牧作品の印象は、一口に言ってオールラウンダーのような上手さを備えている印象である。これは、「うたの日」が題詠歌会であることも少しは影響しているかもしれないが、与えられた題をどのように短歌的に処理するかという課題において、さまざまなバリエーションを持っていることを意味する。
◯スポーツをからめた処理
「彼のこと信じてあげるべきだろう」中継ぎエースは腕で抱かない 『エース』
川の辺の恋でみがいた渡辺のアンダースローにはかなわない 『投』
サヨナラのヒーローインタビューでしたお返しします自由を君に 『ヒーロー』
春未満 遠くに君を見つめればロングシュートの実りがたきよ 『長』
強かったころの明治のスクラムのイメージでゆく求婚の海 『大学』
題に対して、恋愛模様を野球、サッカー、ラグビー、(ビリヤード)など、スポーツに重ねて処理するのは、落語の三題噺的な手法とも言える。
◯性別変更
絵葉書でこの身をつなぎとめる人、大志も良いがわたしを抱け 『葉』
迷うのよこの不自由はやさしくてあの不自由は仕事ができて 『自由』
あの人へ帰るあなたのシャツにこのミートソースが飛びますように 『パスタ』
新品に戻らないけどできるだけあなたを容れるための空っぽ 『空』
ほんとうにわたしでいいの印鑑は首をかしげているようだけど 『印』
「うたの日」の参加者は女性が多いので、男性風の作風は支持を得にくかったり、特定されやすかったりする。そういう点でのフェイク的な理由もあるかもしれないが、逆にいうと、多くの女性の厳しい審査に晒すわけでもあり、リスクもある。これは中牧氏に限った問題ではないが、短歌における女性性の表現において、女性言葉でジェンダーを表記する方法については、俵万智の文体以降、大きく変化していないようだ。