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プロローグ(序章)~一枚の写真~

 プロローグ(序章)~一枚の写真~

 

 私が応募した写真がコンテスト最優秀賞に選ばれたのは、本当に自分でも信じられないことだった。
 今、我が家の玄関から廊下へ上がったばかりのところ、その傍らの壁には白い木製フレームに収まった一枚の大きな写真が飾られている。その写真はA四判の大きさで、一面に蒼い空と海がひろがっていた。空には真綿のような真白の雲が幾つも浮かび、ブルーサファイアを嵌め込んだような鮮やかな海は波打ち際からひろがり、白い砂浜が果てなく続いている。
 それだけであれば、特に珍しくはない南国の海の美しい風景だ。けれど、その写真が人眼をひくのは、海が空をそのまま映し出しているからだ。判りやすくいえば、海面に空がそっくりそのまま映り込んでいる。
 ミクロネシアのウユニ塩湖はその絶景ともいうべき素晴らしい景観で、〝奇蹟〟とまでいわれている。その写真は実はウユニ塩湖を撮影したものだった。ウユニ塩湖は〝鏡張り〟という現象が起き、その瞬間の奇蹟ともいえるほどの荘厳かつ美しい眺めは世界中の人々を魅了して止まない。鏡張りとは、空の様子がそのまま湖の湖面に描き出される、それこそ奇蹟としか言い様がない絶景だ。
 そして、私は今から六年前の夏、結婚式を終えたばかりの夫と共にそのウユニ塩湖へとハネムーンに訪れた。私がコンテストに応募したのは、実はそのときに撮影したものだった。
 丁度湖面に蒼穹が映し出されたその順也間、私は用意していた三脚を使い一眼レフのオートシャッター機能を使い、自動でその一瞬の風景を切りとったのだ。一面にひろがる蒼い空に雲が浮かび、湖面には蒼い空と雲が同様にひろがっていて、どこまでが空でどこからが湖なのかさえ定かではない。
 その果てなくひろがる青空と蒼穹の右端、波打ち際に白いシャツと礼装ズボンの花婿、傍らに白いウェディングドレス姿の花嫁が小さく映り込んでいる。
 花嫁はやカラーリングした明るい茶色のロングへアを風になびかせ、肩を大胆に出した南国にふさわしい純白のドレスを纏っている。新郎新婦ともに後ろ姿しか見せておらず、写真の大部分を占めるのは空と海のはずなのに、右端に辛うじて映じているその花嫁花婿こそが物語の主役なのだと見る人はすぐに理解するはずだ。
 私はその写真を〝ミラクル イン ウユニ〟と名づけた。自分にしてはよくできたとは思ったけれど、応募したのはほんの軽い気持ちだった。まさか有名なカメラ製造メーカーが主催する大きなコンテストで私のその写真が金賞に輝くとは正直、欠片ほども想像しなかった。
 今でも私の撮った写真が選ばれたことこそが奇蹟だと思っている。けれども、その写真を見る度、私の心には複雑な想いが湧き上がる。ハネムーンという人生で最高に幸せな時間をミクロネシアという日本から遠く離れた絶景の中で過ごし、奇蹟とも呼ばれる美しい眺めを見た―、誰もが私を幸せな女だというに違いない。
 だが―。本当なら、その奇蹟の一枚に収まるべきはずのひとは、夫ではなかった。少なくとも、私が隣に立って欲しいと願ってやまなかった男は夫ではない。
 だからといって、私がその昔の恋人に未練を抱いているのかといえば、応えはNOとしか言いようがない。今の穏やかな幸せを私はかけがえなく大切なものだと思っているし、それを与えてくれた夫にも穏やかな愛情を持っている。
 でも、それはけして烈しい気持ちではないだろう。かつて〝彼〟に対して感じたような、胸が狂おしくるなるような、切なさに泣きたくなるようなものではない。
 何年も前に終わった恋は、ただ今は懐かしさしか感じられない。終わった恋を振り返る時、人は亡くなった恋人を懐かしむような気持ちでしか思い出せない。そう、確かに、彼との恋も時間も終わったのだ。
 果たされることのなかった約束は、私にとって永遠に叶うことのない夢となった。私は彼ではない別の男と結婚し、彼と訪れることをあれほど夢見た天上の楽園―ウユニに別の男と訪れた。
 良かったら、この写真に秘められた―叶わなかった恋の想い出を聞いて下さい。


シーンⅠ エンゲージ~サファイアの夜は忘れられなくて~

シーンⅠ エンゲージ~サファイアの夜は忘れられなくて~

 

 香奈子の耳許で同僚の佐保が囁いた。
「香奈ちゃん、彼氏が迎えに来てるよ」
 ぼんやりとしていた香奈子はハッと我に返り、慌てて笑顔を作った。
「ホントだ、もう、こんな時間なんだ」
 白石香奈子は二十二歳、H駅前のコンビニで正社員として働いている。バイトではなく、勤務は月曜水曜金曜が午前中だけ、その他は正午から夜八時までの勤務となっていた。休みは不定休、バイトの高校生や大学生が休むときは正社員の香奈子らが穴埋めしなければならず、給料の割にはきつい仕事だと香奈子自身も認めている。
 しかし、今日日、私立の三流高校卒業の学歴しかなく、これといって特技も資格もない香奈子を率先して雇ってくれるような有名企業があるはずもなく、高校卒業以来、ずっとこの店で働き続けてきた。
 今は日曜の夜で、特に八月の盆明けまもない今、学生たちは夏の学校課題を仕上げるため、バイトどころではない。そのため、四人いるバイトは皆、休みを願い出ている有り様で、香奈子ともう一人の正社員の佐保は二人だけでてんてこまいだった。
 八時までは佐保と香奈子と二人だけで、それ以降は男性の正社員と交替する。牧原と山口といい、牧原は五十代の頭の禿かかった中年男性、山口というのは、二十代前半ほどの若い男である。年の行った牧原は如才なく冗談を言っては香奈子や佐保を笑わせる憎めない男だが、山口という若い店員は無口で面白みもない。いつか佐保と香奈子は言ったものだ。
―山口君が笑うなんてことがあるのかしら。
 新田佐保は二十九歳で、香奈子より年上ではあるが、気取らない人柄で好感の持てるタイプの女性である。既に結婚していて、結婚五年目になるが、子どもがいないため、三年前からコンビニに勤めていた。
 香奈子は年下ではあるけれど、先輩である。それをいえば、年はいちばん若くても、香奈子はこの小さなコンビニではまさしく先輩なのだ。男性社員の牧原も山口も香奈子よりは勤務年数は短い。
 香奈子の次に長いのは牧原だ。牧原は香奈子より一年遅れて入社してきた。もちろん、元はそれなりに名の通った商社に勤めるサラリーマンだったのだが、ここのところの不景気の煽りを受けて会社の経営が思わしくなくなった。そのため、上の方から肩たたきに合ったらしい。自分から早期退職を願い出たら、退職金も上乗せするといわれたそうだ。
―必要とされていない会社にお情けで残して貰っても、この先、出世は見込めないし、かえって居心地悪いだけだからね。
 幸いにも早く結婚して、一人娘もとっくに嫁に出し、夫婦二人だけの暮らしだった。特に金が要りようなこともないからと、牧原は言われたとおりに自ら辞職届けを出し、まとまった退職金を受け取った。妻と相談して退職金を元手に何か商売でもしようかと相談していたところ、コンビニはどうかという話になった。
 大手のコンビニのチェーン店の店長に志願してみようかと思い立ち、そのためにまず実地で店員として勉強しようと今の店にバイトで入ったのがそもそもの始まりだ。
 ところが、その後、妻が体調を崩して、新規開業どころではなくなった。入院費用なども必要になり、とりあえず退職金には手を付けたくなかったので、牧原はそのままコンビニに勤務することになり、その仕事ぶりを評価されて正社員として本腰を入れて働くことになったというわけである。
 悠木佐保は現在も不妊治療中だ。人工授精を数度試みても成功しなかったため、体外受精を勧められているという。そのためには治療に莫大な金が掛かるので、コンビニで働き始めたと聞いている。


 それぞれがそれなりの事情を抱えていた。勤務歴五年の香奈子を筆頭に、四年の牧原、三年の佐保、漸く一年になる山口といったメンバーが正社員だ。もちろん香奈子が入った早々は他に店員がいたけれど、こういう仕事は実は長く続くようで続かない。特にバイトならともかく、正社員ともなれば尚更だ。
 誰でももう少し労働条件の良い―収入が良く肉体労働の少ない仕事を望むものだ。だが、中には例外もある。香奈子が今の仕事に甘んじているのは、もちろん他に行き場所がないというのもあるけれど、香奈子自身は今の職場をそれなりに気に入っているからでもあった。
 このコンビニはいわゆるフランチャイズチェーンではなく、個人がやっている小さなコンビニだ。その分、融通が利く点もあるし、逆に過重労働になりがちなデメリットもある。だが、住めば都というように、慣れれば、それなりに働きやすい職場ともいえた。
 そういうわけで、入社当時、五人いた店員はいつしか入れ替わり立ち替わりで、いつしか香奈子がいちばんの古株になってしまっている。現在のところは、香奈子の他にその三人と学生バイト四人で店を切り盛りしていた。
 オーナーは大隅という四十歳くらいの男性で、人柄的には可もなく不可もなくといった印象である。大隅はとりあえずはオーナー兼店長という立場にはあるけれど、実際に店に出てくることはまずない。たまに訪れて様子を見るだけで、担当は経営の方だけだ。店の実際的な運営は副店長の肩書きを持つ香奈子に一任されていた。
 香奈子はコンビニのお仕着せの上着からスマホを取り出した。
「もう八時前よ。佐保さんもそろそろ上がりましょ」
「そうね」
 既に牧原と山口は出てきている。控え室で着替えでもしているのだろう。
 やはり女性店員では夜間対応は何かと問題があるため、八時以降から店を閉める深夜二時くらいまでは男性店員が担当する。このコンビニは個人営業でもあるため、二十四時間体制ではない。小さい店ではあるが、この界隈にスーパーもないので、地元の人がよく買い物に来るから、それなりの収入はあった。
 駅前とはいえども、私鉄沿線の急行や特急は止まらない、小さな無人駅なのだ。駅から続く昔ながらの商店街は今や殆どの店が閉めてしまっている。昭和の頃には賑やかだったであろう繁華街も今は夢の跡で、昼間でさえ人通りがなく、無人の店が並んでいる様はどこかの廃墟かと思ってしまいそうなほど寂れている。
「それじゃ、お疲れ」
 香奈子は佐保に軽く頭を下げ、女性社員用の更衣室で手早く着替えを済ませ、タイムカードを押した。更衣室を出てきたところで、隣の男性更衣室から出てきた山口と遭遇する。
「お疲れ様です。今日も暑いですね」
 カレンダーではもう立秋は過ぎたけれど、連日、三十五度近い酷暑は流石に堪える。
 度の厚い黒縁メガネをかけた山口はいつものように表情のない顔を向け、会釈する。
「お疲れ様です」
 もごもごと口の中で呟くように言い、香奈子の前を横切っていった。いつものことなので、この無愛想ぶりにも愕きはしない。
 社員用の出入り口というのはないので、店内に戻って客が入ってくる入り口から出ることになる。入れ替わりに、二人の幼い子どもを連れた三十代くらいのカップルが入ってきた。
「いらっしゃいませ」
 既に私服に着替えているため、香奈子がこの店の店員だとは判らないだろうが、副店長として身に付いた癖だ。子連れの夫婦にすれ違う時、丁寧に挨拶した。
 夫婦は少し戸惑った顔をしているが、香奈子はそのまま店を出た。


 ああいうのは良いな、と改めて思う。家族というものに対して、香奈子は強い憧れがあった。香奈子の両親は彼女が幼い頃、離婚している。母親は女手一つで香奈子を育て、高校まで出してくれた。
 今も香奈子が子どもの頃から続けていた保険外交の仕事をして日々、忙しく飛び回っている。二十歳で香奈子を生んだ母はまだ四十三歳と若い。数年前からは仕事を通じて知り合った二歳下の男性と恋人付き合いをしている―と、これは母自身から聞いた話だ。
 相手の男性もバツイチらしく、プロポーズされているとか。男性には子どもはいないので、母が躊躇しているのは、自分はもう子どもを望める年ではないからという理由だった。相手の人は子どもはできなくても良いからと熱心に望んでいるという。
―そこまで言ってくれる男と出逢えることなんてそうそうないよ。早い中に再婚しなよ。
 と、母に積極的に勧めていた。十九歳で父と出会い、出来ちゃった結婚をして香奈子を生んだ母は、父の浮気が原因で二十三歳で独身に戻った。以来、二十年間も一人でいたのだ。二十三の娘がいるようには見えない母のことだから、その間、付き合った恋人もいたし、プロポーズされたことも何度かあったらしい。
 けれど、結婚に踏み切らなかったのは恐らくは香奈子のせいだ。香奈子が嫁ぐまで、自分は幸せにはならないと決めている母だった。
 自分の幸せよりは娘の幸せを考える母だったから、大切にしては貰った。溢れるほどの愛情も注いでくれた。それでもなお、父親不在という大きな家庭の穴は、母一人では埋められなかった。父親がいて母親がいて、子どもの笑い声が絶えない―そんな家庭を作るのが香奈子の夢となった。いや、それは夢というよりは悲願に近いものだったかもしれない。
 小学校一年の授業参観の時、〝ぼく、わたしのしょうらいのゆめ〟というテーマで作文を書いたことがあった。全員が読み上げたのだが、他の友達は皆、〝パティシェになりたい〟とか〝サッカー選手になりたい〟というごく他愛ないものだったのに対し、香奈子は
―私は早く結婚して、お嫁さんになりたいです。お父さんがいて、お母さんがいて、子どもがいる普通の家庭を作りたいです。
 と読み上げたら、列席していた他のお母さんやお父さんは何ともいえない表情をしていた。その時、母も多忙な仕事の中を来てくれていたのだけれど、母が泣きそうな表情をしていたのには最後まで気付かなかった。
 その日の夜、母は香奈子を怒るわけではなく、抱きしめて泣いた。
―ごめんね、香奈子に淋しい想いをさせて、ごめんね。
 今なら、何という残酷な仕打ちを母にしてしまったのだろうかと後悔する。だが、六歳の女の子にはそれが理解できなかった。
 いわゆる適齢期と呼ばれる歳になって、香奈子はますます家庭への憧れは強くなった。殊に順也という恋人ができてからは、いつか自分は彼と結婚して、幼い頃に夢見た家庭を作るのだと信じてきた。
 入り口に続く、さして広くはない駐車場にインクブルーの軽乗用車が停めてあった。そのドアに長身をもたせかけるようにして、順也は煙草を吸っていた。
「順也君、ごめん。待った?」
 香奈子を認めるや、順也はその整った面に満面の笑みをひろげた。
「いや、まだ八時過ぎたばかりだし。俺もバイト先からここに直接来たんだ」
「そうなんだ」
 順也が煙草を路上でもみ消し、車のドアを開けた。ダッシュボードの下にある灰皿に吸い殻を入れる。彼のこういうきちんとしたところが香奈子はとても好きだ。


 最近の若い男の子の中には、吸い殻を平気でポイ捨てする人が多い。公共の場所を平然と汚すことに対して、何の抵抗も持たない。そういうごく当たり前のことができない、理解できない人が多い中、順也はなかなか几帳面で常識を持った青年だ。
 香奈子もいつものように車の助手席におさまった。この車は順也がバイト先から借りているものだ。廃車になる寸前だったのを順也が先輩に手伝って貰って修理した。順也は二人が暮らすコーポラスからほど近い自動車修理工場に勤めている。将来は自動車整備士になりたいという夢を持っていた。
「今日ね」
 と、助手席に座った途端、香奈子はその日、店で起こった様々な出来事を順也に報告する。順也は一つ一つの出来事に面倒がらずに丁寧に相槌を打ってくれる。聞き上手なところも香奈子が彼の大好きなところの一つだ。
 本当に順也については、嫌いなところを探せといわれても無理だと思う。それほどに彼のすべてを愛していた。
 順也と付き合うようになったのは、彼がこのコンビニにたまたま客として飛び込んできたのが馴れ初めである。順也はサーフィンをしていて、H町の隣のI町の海に行く途中で、この店に立ち寄った。同乗していた男友達が急な腹痛で大変なことになって、まずはトイレを借りるためだった。
 しかし腹痛は治まらず、結局、香奈子が順也の運転する車に乗って町の総合病院まで案内することになった。順也の友達は急性胃腸炎と診断され、適切な手当を受けて事なきを得た。一晩入院して点滴をした翌朝、無事に退院した。
 バイクしか持っていない香奈子は店に一度戻ると、自費でサンドイッチやらコーヒーやらを買い、またバイクで病院に戻り順也に差し入れた。そのときはそれで終わったのだが、数日後、順也がふらりと店を訪ねてきて、この前のお礼に食事をご馳走させて欲しいと誘った。
 それで二人で食事をして、何となくまた逢う約束をしてということが数度続き、三回目のデートで〝付き合って欲しい〟と言われた。
「私、どうしても、ああいうのに憧れちゃうのよね」
 香奈子が言うともなしに言うのに、順也が〝ん?〟と、首を傾げた。
「さっきの親子連れ。お父さんがいてお母さんがいて、子どもがいる。当たり前なんだけどね」
 順也の運転する車は既に車道を軽やかに走っている。この辺りの道は午後八時を回れば、車どころか、人気すらない。
「そういえば、工場の先輩の奥さんが急に産気づいてさ。何か二ヶ月くらい早いんで、帝王切開になったって」
 順也が思い出したように言い、香奈子は頷いた。
「それは大変ね。奥さんも赤ちゃんも無事だったのかしら」
「うん、無事に手術も終わったらしいって、今日、工場の方に連絡があったって。先輩、昨日今日と仕事を休んで奥さんに付き添ってるから。両方とも実家が遠方で、両親にもなかなか来て貰えないし、上にまだ小さい子が二人いるから、先輩も大変みたいだ」
「そうなんだ。でも、奥さんも赤ちゃんも退院して戻ってきたら、愉しくて賑やかになるわね」
「だよな、俺も一人っ子だからなあ、香奈子と同じで子だくさんというのは憧れるよ」
 順也が切れ長の眼を優しく細めて言う。
 香奈子と順也が見つめる未来は同じだ。そこには、子どもがいて、両親がいて、笑いが絶えない家庭があった。
 順也の整った顔が曇った。ジャニーズの若手俳優の誰それに似ている彼は、はっきり言って女の子はモテる。二人で歩いていても、通りすがりの女の子が順也をチラチラと熱い眼差しで見ていくし、そんなときは決まって
―あの冴えない子が彼女なの? 全然釣り合ってない。
 そういう羨望と嫉妬の視線を寄越されるのももう慣れた。香奈子は取り立てて醜いと自分を思ったことはないけれど、さりとて美人ではないことも判っている。身長百五十七センチ、スタイルも容貌も平凡で、眼は一重で細くてつり上がっているし、お世辞にも可愛いとも言えない。



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