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1 歩く時計マン
2 見える聴こえる触れる幻覚
3 ドラゲナイ
4 たった一回のあいさつで
5 CP換算
6 キラキラ
7 れんじ
8 大人になったら

 

  あとがき

 


1
最終更新日 : 2016-07-14 12:43:22

歩く時計マン

「ねえ、歩く時計マン」
               「何?」

「何かいい歌を歌って」

               「何の歌がいい?」

「わかんないけど、歌って」
               
                「うん・・・」
「どうしたの、歌って」

             「君は頼りすぎだよ」

 

大好きな私のウォークマンに初めてつけた名前。
歩く時計マン。思い切りヘンな名前がかわいいでしょ。
それに時刻まで表示してくれるの。

歩く時計マン。

 

「何にしよう?」
             「何がいい?」

 

「そうだ、あいつらを消せるような歌を歌って」

                       「あのね・・・」

 

「どんなのでもいいから」

 

画面がパッと消える。
黒い鏡になる。
ニキビだらけの顔を映し出す。

 

「歩く時計マン、どうしたの?」
    
                「電池切れだよ」

「さっき充電したよ」
              「・・・」

 

「歩く時計マン、今何時?」
                   「・・・」

 

僕は、
誰かを消すための歌は歌わない。
君の歳より幼い笑顔を見るために歌ってたのに。
名前を呼ぶ君を幸せにする方法を、
考え続けているただの機械。

 

私、

黒い鏡をただ見つめる。
見慣れたニキビ顔の上に涙が降る。
歩く時計マン。私には君しかいないの。
消えないで。

何か歌って。
何も思いつかないけど、歌って。歌って。
せめて何時か表示して。
時間。ざわめき。怖い。いなくなるの。

 

「歩く時計マン、」

 

「歩く時計マン、」
         「・・・」

 

画面がパッとつく。
時刻が表示される。
初めての大好きなウォークマン。
歩く時計マン。
何か歌って。
私のために何か歌って。
何がいけなかったの?
私には君しかいないの。

歩く時計マン。

いつまでも。

 

「何か歌って」

       「何かって何だよ」

 

「いつも寝る前に聴くやつ」
         「ああ、あれか」


「名前なんだったっけ」
          「知らねーよ」

 

「歩く時計マン」

          「だから何だよ」

 

「呼んでみただけ」


名前つけてくれたのは嬉しいけど。
嬉しいから今夜僕はこっそり消えるんだ。
あいつらが呼んでるよ。行ってこいよ。
機械なんかを友達にするなよ。


2
最終更新日 : 2016-07-12 12:52:20

見える聴こえる触れる幻覚

ときどき たまに
見えないものは存在していないって思う
空気、ウイルス、二度と会わない人
でも見えるものでさえ
本当に存在しているのかな?

 

見えるあなたに触る
存在していることを教えてほしい
見える、声が聴こえる、触れるけど
僕はそれさえ
見える聴こえる触れる幻覚なんじゃないかって思う

 

たぶん僕らは
一生という連続ドラマを見せられているだけなんだ

 

見える聴こえる触れるあなたを抱きしめる
シャンプーか何かの優しい匂いがして
世界っていう知らないものを肌で感じる
ああ でもときどき
あなたさえも幻覚なのかって思う

 

「われ思う、ゆえにわれあり」
学校の授業で習ったよね
その言葉はときどき
僕の脳を奪ってしまうんだ
ここには少なくとも
何か必死で考えているものがいる
人かどうかさえわからない

 

でもどうか連続ドラマなら

あなたがヒロインがいい
ハッピーエンドが見たい

あなたは見える聴こえる触れる幻覚かもしれない
それでもいい
連続ドラマの中であなたは生きている

 

あと一秒で消えてしまう幻を抱きしめる
空気、ウイルス、二度と会わない人
そんなものない
あなたは見える聴こえる触れる

 

存在を示して
それでいい、って教えて


3
最終更新日 : 2016-07-14 10:34:08

ドラゲナイ

悲しいのは悲しくない
何も感じなくなっていくのが悲しいんだ

「ドラゲナイ」って紅白歌合戦の頃に流行ってたよな
今はもう死語だと思うけど

 

ドラゲナイ子供とドラゲナイ大人たち
たぶんあの子供の名前はピカチュウ・J・キャプテン・田中だな
映画のヒロインや大統領にトランシーバー持たせて喜んでる
バカ
でもバカなのはバカじゃない 天才だと思うよ

 

紅白歌合戦を途中まで見ていたんだ
あまりにもドラゲナくって10時半くらいに寝た
だって モッズコート着て 思ったよりうまい英語使って
さらにトランシーバー
ああ 不思議なカッコしてるなあ
何も感じなかった
あと よ○かい体操と

 

あれから半年
みんなドラゲナくなくなってしまった
今頃 悲しくなったんだ
あんなに意味不明な祭りが終わったみたいで
でも悲しいのはまだ希望があるんだ
だって少なくとも 
何か感じているのだから

 

私は悲しくない
悲しいから
何の金にもならない
詩なんか書いてる私が 絶滅寸前 最後のドラゲナイ人だと思うから
最後の電球が消されたあとの 寂しさに今頃気付いた

 

だって紅白10時半に寝たくせに
あとからモッズコート買ったからね
希望のある悲しいバカ
本当 救われるしかないバカだなあ
トランシーバーまで買っておけばよかったのに

 


4
最終更新日 : 2016-07-13 13:45:57

たった一回のあいさつで

今日はすてきに病んでる日
朝からそう思うんだ
だって
近所の人が全部コピペ
まず あいさつがコピペ

 

ああ 嫌だなあ
使用済みの紙くずが転がってる
ベッドにもぐりこむ自分みたいだ

 

この街から出たい
何か よくわからない遠くへ行きたいな
天国なんてどこにもないのをわかってて
考えてしまうんだ
うん すごい病んでる
起きたばかりなのにまた寝たい
とりあえず気晴らしに
外でも出よう

 

「おはよう」

通りすがるあなたが言う
耳をふさいでいるのに聴こえたんだ
えっ この人コピペじゃない
あいさつがコピペじゃない

 

たった一回のあいさつで
救われるなんて信じてなかったよ
まったく信じてなかった

 

 

とりあえず「おはよう」って返して
その場を離れた
もう表情筋が動かないな
私の方がコピペかも

 

何もせずに家へ帰る
なぜか部屋のカーテンを
開ける気になったんだ
朝の光は パーティーのクラッカー

 

きっとコピペじゃないんだろう
私の思いこみだろう
「おはよう」ってみんな
心から言ってたのに

 

言葉では言い表せない言葉
「嫌だなあ」がすっと消えていくような
最終兵器よりも強くなれる言葉なんて
信じてなかったよ
この街から出たい
何かよくわからない遠くへ行きたい
夢の話じゃないんだ

 

たった一回の「おはよう」で
救われるなんて信じてなかったよ
うん まったく信じてなかった


5
最終更新日 : 2016-07-10 08:29:07


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