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どうやって眠る?

夜、とても暗い。

街灯は疎らで、悲しい気持ちに浸りたい人には都合がいい場所。

男が歩いている。

 

男「わたしは、独りで歩いているー。とぼとぼと、あるいて、いるー。」

 

彼の表情から悲しみを読み取ることは容易だ、しかしそこにあるのは悲しみだけではない。

たとえ今が深刻な状況だろうと、ふとした瞬間にトイレでのハンドドライヤーの乾きにくさ、ペーパータオルを使ったときの快感と資源の無駄遣いかもしれないという安い罪悪感について考えを巡らせていたりもする。

人間は誰もがそうなのかもしれないが、彼は特に一つの感情にとどまり続けることが苦手で、だから表情はいつも複雑だ。

 

車が何台か通り過ぎる。光がとても眩しい。

道が狭いのか男はいちいち車を避ける。

目を擦り、また眼球の毛細血管を傷つけた。

 

男「ここでは、車が無くては生活がままならないと言われています。わたしも小さいですが、持っています。車」

男「だけど、わたしは歩いてみたー…。目的のない散歩はわたしを無駄に緊張させた。」

男「夜の、自由時間…」

 

猫の鳴き声。

しゃがみこんで猫を呼ぶが、餌も持っていない彼に自ら近づいてくる動物はいない。

空を見上げると、キラリと光った。

 

舞台上を星を掴んだ女が走り抜ける。

 

男「あ!パーティーピーポだ!」

 

いや、流れ星だ!

 

男「…なんだ、流れ星か…」

 

女、再び登場

そのすぐ後ろには神がいる。

神は守護神のつもりだが、側から見るとただのストーカーだ。

女、男と同様にとぼとぼ歩く。

 

女「夜は、止まっています。明日は親友の誕生日パーリーなのですが、私は“あえて”を行おうとしています。」

女「こんな時間、コンビニくらいしか、親友の誕生日を祝福してくれるものはありません!!そう、私はコンビニでプレゼントを探そうとしているのです!あえて、あえて。みて下さい、あの、輝き!あれは祝福以外の何者でもありません!」

女「ヘアピン、ヘアゴム、タオル、ハンカチ、入浴剤。まるごとバナナ、じゃがりこ、肉まん、ビール、チュウハイ、フリスク、グミ、ガム、あ!ハーゲンダッツ!」

女「あえて、あえて」

 

男が女の前を通り過ぎる。

 

女「あ!ブラック企業だ!」

男「俺の手に触れてみ!火傷しちゃうよー」

女「なんだ野良犬か、」

男「わんわん」

女「私のさじ加減でいくらでも夜は、続きまーす。なぜなら私はこの夜を手に入れたから。あはは。(神、頷く)

男「今日に精神的に満足してない人は眠れないらしいですよ?」

神「あなたは何者ですか?」

女「私は、私が指をパチンと鳴らすまでこの夜はズッーっと続きまーす。」

男「ないなー、一回もないですよ、満足した日なんて、そんな、ないなー、ないなー、いやちゃんと寝てますよ?」

神「あなたは何者ですか?」

女「私は、夜を諦めない」

 

神、深く頷く。

それはプロポーズだ。

もちろん伝わるわけはないのだが…

 

女「私は、私が日本語しかできないのがおかしいと思う。同じ人間なのに言語が違うだけで話し合えないのがおかしいと思う。」

神「偉いね。勉強してるんだ、何語?」

女「え、や、なにもしてないです」

神「おかしいね」

 

チャイムが鳴る。

 

男「起立!気をつけ!礼!」

女「私は、私が小学生の頃の話だ。あれは確か国語の授業中…私は落ち着きがない子どもで、突然奇声を発してしまった。…どうしようもなかったのだと思う。すると田中先生が、」

神「あなたは何者ですか?」

女「と、私に聞いた。」

神「あなたは何者ですか?」

女「私はパーリーピーポー!あえて、あえて、自分で名乗るスタイル」

 

チャイムが鳴る。

 

男「起立!気をつけ!礼!」

神「進路は決めましたか?なにか成りたいものは見つかりましたか?」

女「はい!とにかくグニャグニャになりたい!」

神「え?」

女「はい!とにかくグチャグチャになりたいです!」

神「え?グニャグニャ、グチャグチャ、どっち?」

女「グニャグニャでグチャグチャになりたいです」

神「あえて?」

女「あえて、あえて、直線は私を選ばなかったし」

 

アラームが鳴り響く。

女、時計を探すがどこにも見つからない。

 

女「私は、私が許される範囲を少しだけ、ほんの少しだけ、広げたかったなぁ〜」

男「居場所を見つけることは、排除することです」

女「少しだけ、ほんの少しだけ、わかりたくて、知りたくて、息を止めること。一歩目こそを大胆に!過程、過程、「まだ泳げるかしら?クロール、クロール、」別れの挨拶にはもう飽きた!直線は私を選ばなかった、なー」

 

神、時計を持ってくる。

女が止める。

 

女「あなたは?」

神「わたしは…あなたは?」

男「わたしは…あなたは?」

三人「御同輩!問答!問答!この世は、問答!御同輩!」

神「わたしは何なんでしょう」

女「わたしはパーリーピーポー」

男「わたしは何なんでしょう」

男「わたしは、どこに行きたいのでしょう…」

男「そしてあなたは、何なんでしょう?」

神「わたしは…」

女「私はパーリーピーポー!」

神「わたしは何なんでしょう」

男&神「わたしは何でしょう」

男&神「わたしは、どこに行きたいのでしょう」

男&神「そしてあなたは何なんでしょう」

女「私はパーリーピーポー!」

男&神「わたしたちは、何を探しているのでしょーか…?」

女「私たちは、“なにか”を探してるということだけは確か、で、しょーか?」

&神「ん〜、どーでしょ〜」

 

アラームが鳴り響く。

今度はすぐに女が止める。

時計を蹴飛ばす。

女、頭を抱え込む。

 

男「(手を擦り)すっかり冬ですね…」

神「えぇ…」

 

男、満面の笑み、急に軽薄になる。

 

男「見てください、あそこに自分で背負った“あえて”の重圧に押しつぶされそうな人がいますよ!」

神「…あの人を笑うことはできません(何故なら惚れているから!)

 

神、手をパチンと鳴らす。

男、くしゃみをして、汗を拭き、手を擦り、時計を見て

「あ、また歳をとった」と呟く。

女、小さなやる気のない声でおめでとーと言う。

三人、大袈裟にあくびをする。

これを三回ほど繰り返す。

 

男「これじゃあすぐに死んでしまいますよ。」

神「えぇ、直ぐですよ」

女「た、誕生日なんて祝うことじゃない!」

男「これじゃあなにもできないですよ」

神「えぇ、できないですよ、なにも」

女「眠ってしまえば、夜は終わるし、眠らなくても終わっちゃう。じゃあどうやって終わらせる?パーティーではしゃいだり、自宅まで仕事を持ち込んだり、夜通し喧嘩したり、あ、テレビつけっぱなしで寝ちゃった、お皿も洗ってない…とか…」

男「…自由時間…」

神「探し物…?」

女「落し物…?」

男「夜は…長い…?」

女「選んでるようで、選べてなくて、選ばされてるわけでもない…みんな気づいてるけど、パーティーは決して自由じゃない。」

男「パーリーさん?」

女「あーい」

男「あなたは、本当にこの夜を…手に入れたのですか…?」

女「今夜だけは、たぶん…そんな気がする…」

 

神、頷く。そして急に女をナンパしたくなる。

 

神「何時に眠るの?」

女「てんでばらばら」

神「朝シャン派?」

女「なるべく夜」

神「朝ごはん食べてる?」

女「食べない、ほとんど」

神「明日は?」

女「パーリー」

神「明後日は?」

女「6時起床」

 

神、飽きたのか、諦めたのか、

 

神「パーティピーポーの朝は意外と早い」

 

神、お辞儀をしてはける。

男、くしゃみをして、汗を拭き、手を擦り、時計を見て

「あ、また歳をとった」と呟く。

女、小さなやる気のない声でおめでとーと言う。

二人、大袈裟にあくびをする。

 

女「明日は?」

男「仕事」

女「明後日は?」

男「仕事…」

女「10年後は?」

男「(咳き込む)

女「100年後は?」

男「アハハハハ」

 

男、くしゃみをして、目を擦る。

 

男「すっかり春ですね」

 

神が戻ってくる。

 

神「えぇ」

 

神はどうやらトイレに行っていたようで、手をハンカチで拭いている。

神の胸ポケットにはそこら辺で拾ってきたような花が一輪ささっていて、それを女に差し出す。

女は最初歩いていたようにとぼとぼと歩いていて、花を受け取りはするが、見もせずにポケットに詰め込む。

神、なんとも言えない表情になり退場。

女、神とは逆方向にはけようとする。男が呼び止める。

 

男「今夜は?」

女「もう眠い?」

男「今夜は?」

女「終わらない」

 

二人はまだ気づいていないが、確実に朝は近づいている。

女、はける。

男、追っていく。

再び登場すると二人は缶ビールを飲んでいる。

男、汗をぬぐって

 

男「もうすっかり夏ですね…」

女「もし禿げてきたら?」

男「私は禿げません!」

女「もし禿げたら?」

男「少しずつなれるでしょう…」

男「白髪が生えたら?ほうれい線は?お腹の贅肉は?」

女「オールOKなんでもいいよ」

 

男、手を擦り

 

男「もうすっかり冬ですね」

 

男、くしゃみをし

 

男「もうすっかり春ですね」

男「これじゃあ…」

女「すぐに死にたくない?」

男「そんな気がします…」

女「それであなたは、何?」

 

舞台後方を太陽を持った神が走り抜ける。

朝はすぐそこまできているようだ。

 

男「…金木犀の香り…もうすっかり秋ですね…」

女「歩くことは情報を集めること、踊りを踊る練習、夜を知ること、再生と破壊」

男「私たちはいったい幾つ歳をとったのでしょうか…」

女「何を考えてた?悩みごとはあった?何を楽しみにしてた?」

男「…アハハハ、もう忘れてしまいました」

 

舞台上は徐々に明るくなってきている。

 

男「あれ?明るくなってきてませんか?」

 

女、サングラスをかける

 

男「あれ?明るくなってますよね?朝きちゃってますよね?」

 

神、舞台上に出てきて、太陽を掲げる。

 

女「パーリーナイト、時に私たちは嫌われることも厭わず闘わなくてはいけないのかもしれない…パーティーは終わらないんじゃない、終わらせられないだけだ。パーティーピーポー、だけど私たちは決して人を殺すことはなかった…」

 

女、太陽を掲げる神を睨む。

彼女は合図をしていない。しかし朝はきてしまった。

 

女「眩しい!」

 

 

終わり。

 

 

 

 


この本の内容は以上です。


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