閉じる


<<最初から読む

33 / 33ページ

 

沢富は、あり得ない邪推にあきれ返ったが、あまりにも現実に起きるような話し方をした伊達が、恨めしくなった。「ちょっと、それはないでしょう。先輩の妄想ですよ。僕は、そういうことではなく、栗原とひろ子さんが、覚せい剤取引にかかわっていたと思ったんです。カラオケ女王のひろ子さんが、CAIの工作員で、自爆テロの実行犯だなんて、それはないですよ。先輩、そりゃ~、ひどすぎりゃ~しませんか」

 

 

 

5月27日(金)の午後、大統領の広島訪問が戒厳令の中行われ、その模様がTVで全国に放映された。ハスラーの中で休憩していた伊達と沢富も7インチのモニターに釘付けになっていた。沢富は、独り言のようにつぶやいた。「何事もなければ、いいんですけどね~、先輩」伊達も、心の中では、何も起こらないことを祈った。「俺の邪推なんて、バカげていたよな。おい、見ろよ、大統領、いい表情してるじゃないか、ノーベル平和賞受賞するだけあるよな」

 

 

 

その日の午後11時のニュースで、広島平和記念公園で核廃絶を宣言する大統領のニュースが流れ、次に不可解なニュースが流れた。そのニュースとは、長崎での焼身自殺だった。翌日のニュースでは、焼身自殺を図った人物は、女性で身元は不明と報道された。そのニュースを聞くや否や、まさかと思った沢富は、何度もひろ子の携帯に電話したが、まったく、つながらなかった。そして、中洲の街に、タクシードライバーひろ子の姿は、二度と現れることはなかった。

 

 

 


この本の内容は以上です。


読者登録

サーファーヒカルさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について