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沢富も今夜は飲まずには眠れそうになかった。頭は混乱し、胸はモヤモヤして、ワ~~~、と大声で叫びたい気持だった。「それじゃ、今夜は、泊まらせていただきます。少し、酔っ払ってもいいですか。今夜は、飲まずに眠れそうにありません」ナオ子は、即座にうなずき、どうぞ、どうぞ、と返事するとキッチンのフレッジにかけていった。二本のビンビールをテーブルに置くと、ナオ子は、夫に声をかけた。「あなたは、ほどほどにね」

 

 

 

女性工作員  

 

 

 

 お酒に弱い沢富は、二本のビールを飲み終えると気絶したようにテーブルにうつぶせになってしまった。ナオ子は、叩いても起きない沢富を夫の書斎で寝かせることにした。沢富を寝かせつけると二人は、キッチンに戻ってひろ子の素性について話し始めた。「あなた、ひろ子さんって、いったい何者かしら?単なるバツイチ運転手かしら。サワちゃんの結婚相手にふさわしい女性だといいんだけど。叩けばほこりが出るっていうじゃない。わたしたちの方でも調査した方がいいかも。私立探偵に、依頼してみましょうか?」

 

 

 

 伊達は、ひろ子について、いくつか腑に落ちない点があった。「俺は、少し気になることがあるんだ。ひろ子さんの態度がどうも気になる。サワをホテルに誘ったということは、一般的に考えて結婚の意思があると思われるよな。でも、サワのプロポーズに一向に返事しないというのが、どうも腑に落ちないんだ。ひろ子さんは、もしかして・・・」ナオコは、意味深な言葉が気になり、即座に、問い返した。

 


 

 「あなた、何よ、もしかしてって」伊達は、腕組みをして、目をつぶった。しばらく、沈黙していたが、目を開くとゆっくり話し始めた。「あくまでも、邪推と思って聞いてくれ。今、日本人のCIA工作員が増加しているという噂なんだ。警察内部にもかなりCIAが潜んでいるという噂だ。そこでなんだが、あくまでも、邪推だぞ。まさかとは思うが、ひろ子さんが、そのまさかってことはないかと?」

 

 

 

 ナオ子は、マジな表情で問い返した。「ひろ子さんが、工作員ってこと?そういわれると、そんな気がしないでもないわ。刑事のサワちゃんを誘ったってことを考えると、そう、考えられないことはないわね。体を張って、サワちゃんから、警察内部の情報を取ろうとしたのかもよ。あなた、もし、そうだったら、どうなるのかしら、サワちゃん、悲劇じゃない」伊達は、とんでもない邪推をしたことに後悔したが、決して、妄想とは言えないような気がして、考えこんでしまった。

 

 

 

 広島出身のナオ子に話すべきかしばらく躊躇していたが、両手で両ほほをバシッと叩くと、意を決して話し始めた。「ここだけの話だぞ。決して、誰にも話すんじゃないぞ。今月、大統領が広島平和記念公園を訪問する。それで、戒厳令が敷かれているんだが、今回の広島訪問で事件が起きるんじゃないかと警察は懸念しているんだ。何事もなく、広島訪問がなされればそれでいいのだが、どうも、何か起きそうな悪い予感がする。もしかするとだな~」

 


 

 ナオ子は、またしても、夫の意味深な話にモヤモヤし始めた。「あなた、もしかって、いったいどういうこと?何が起きるというの?まさか?」伊達は、ナオ子の意味深な言葉にモヤモヤしてしまった。「おい、まさかって、いったいなんだ。いってみろ」ナオ子は、一瞬ニヤっとして話を振った。「あなたこそ、もしかって何よ。あなたが先に、言いなさいよ」夫は、一瞬、言葉に詰まったが、邪推を話すことにした。

 

 

 

 「ジョンFケネディーの二の舞が起きるんじゃないかと思っているんだ。今回の大統領の来日は、どうも、におうんだな~」同じことを考えていたナオ子は、う~~、と犬が怒った時のような声を出して、ゆっくりうなずいた。「あなた、私も、同じ。きっと、何かあるわよ。大統領を狙った何か?」夫は、うなずき、さらなる邪推を話し始めた。「あくまでも、ここだけの話だぞ、いいな」

 

 

 

 ナオ子は、他人の不幸は我が家のご馳走と思い、目を輝かせてうなずいた。「事件を画策しているのは、CIAに違いない。そして、実行するのは、日本人の工作員だ。しかも、その工作員は女だ。言いたいことはわかるだろう」夫は、正面のナオ子の目をじっと見つめた。ナオ子は、女とはひろ子のことだと思い、大きくうなずいた。「最悪の邪推だと思うけど、あり得るかもね」

 


 

 ブルブルっと身震いした夫は、邪推の根拠を話し始めた。「きっと、CIAは事件を起こす。日本で事件が起きれば、日本を悪く世界中に報道できるじゃないか。そうやって、日本を悪者にして、沖縄米軍基地の存続を正当化したいに違いない。ナオ子は、張り子の虎のように、何度も首を上下させた。「なるほど~。そんな魂胆が・・CIAだったら、やりかねないわね。北朝鮮とISを陰で動かしているのは、CIA だものね。あなた、どうすればいい?」

 

 

 

 夫は、どうすればいい、と問われて、眉をひそめた。「おい、単なる邪推じゃないか。あまり、深刻に考えるな。でもな~。実行犯が、彼女だと考えると、サワが気の毒になるよな~。こんなことを考えるのは、縁起が悪い。今の邪推は、きれいさっぱり、忘れよう。いいな、ナオ子」ナオ子は、邪推の世界に入り込み、出られなくなっていた。「あなた、不吉な予感がするのよ。ほら、私の不吉な予感って、当たるじゃない」

 

 

 

 夫は、ナオ子の予感が当たるのをたびたび経験していた。「おい、こんな話をした俺が、バカだった。ナオ子、忘れるんだ。今の話は、サワにするんじゃないぞ」ナオ子は、ゆっくりうなずいたが、真っ黒い竜巻のような悪い予感が、善良な心を粉砕するかのように心の中で暴れ始めていた。「あなた、もうダメ、黒い雨のような怨霊が降ってきたわ。あ~~、人が燃えてる、助けてあげないと、あなた、早く、あ~~」ナオ子は、突然、ヒャ~~、と悲鳴を上げると、バタンと気を失って床に倒れこんだ。

 


 

夫は、気を失ってバタンと倒れたナオ子を見て、ワ~~と悲鳴を上げて飛び上がった。「おい、気を確かにしろ。もう、忘れるんだ。ナオ子」素早く駆けよった夫は、死んだように床でぐったりしたナオ子をしっかり抱きしめた。白目をむいたナオ子の口からは、原爆で犬死した子供たちの怨霊がとりついたかのように、助けて~、助けて~、水~、水~と今にも死に絶えそうな乾ききった声が漏れていた。「おい、気をしっかりしろ。大丈夫か?」夫は、ナオ子をお助けください、お助けください、と神に祈りながら、ナオ子を全力で抱きしめ続けた。

 

 

 

                 謎の女性

 

 

 

 美緒と付き合ったことで伊達夫妻に迷惑をかけたことを深く反省した沢富は、覚せい剤取引に関する調査を断念することに決めた。病院で急死した栗原隆治に関する情報から、何らかの手がかりがつかめると考えていたが、ひろ子に美緒との関係がばれて、結婚が破談になる恐れがあると考えると、これ以上、事件に深入りするのは賢明でないと判断した。美緒と会うのは今回が最後にすると決意した沢富は、いつものマックで美緒にその気持ちを告げることにした。

 

 

 

 5月22日(日)、午前10時40分にはマック前原店に到着した美緒は、オレンジジュースを購入すると、いつもの窓際の席に腰かけて沢富を待った。沢富もどうにか約束の11時には間に合った。沢富は、窓際の席までかけていくと、美緒が笑顔で声をかけた。「車、混んでたの?」沢富は、ハ~ハ~と息を切らせて返事した。「ちょっと、混んでたよ。今日はいい天気だし、糸島方面に行く人たちが多くて。今人気の伊都菜彩の前は、すっごい、車列」ニコッと笑顔を作っていたが、美緒の頭は、今日のドライブコースのことを考えていた。

 



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