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ナオ子は、目を吊り上げると強い口調で命令した。「金輪際、そのJKとは付き合ってはいけません。たとえ仕事でも、ダメです。いいですね」ここまで大事件になると思っていなかった沢富は、土下座して謝ることにした。すっと椅子から立ち上がるとフロアに正座し、頭をゆっくり下げると額をフロアにこすり付けて謝った。「金輪際、彼女とは会いません。申し訳ありませんでした」

 

 

 

ナオ子は、ほんの少しほっとしたが、このことがひろ子に知られているのではないかと不安になった。「サワちゃん、分かったわ。反省したみたいね。改心すれば、それでいいのよ。さあ、腰掛けて。でも、このことは、ここだけの秘密。そう、あなたにそのことを教えてくれた方にも、口止めしてよ。心配だわ」ナオ子は、このことがひろ子にばれてないことを神に祈った。

 

 

 

「サワ、二度と彼女とデートするんじゃないぞ。万が一、ひろ子さんに見られたら、取り返しのつかないことになる。いいな、肝に銘じて、約束を守るんだぞ。仲人ができなくなったら、出世の夢は、水の泡になってしまう。頼むな、サワ」さっきの剣幕は、出世のためかと思うと、土下座したのがあほらしくなったが、ひろ子に誤解されないためにも、ハスラーで美緒とドライブしない決意をした。

 


 

「本当に、ご迷惑をおかけました。ひろ子さんにこのことが知られていなければいいのですが。本当に、馬鹿なことをしでかしました。ごめんなさい。ごめんなさい」沢富は、頭をペコペコ下げて、改めて伊達夫妻に謝罪した。この場はどうにか収まったが、美緒に今後のことをどのように話をすればいいか考えると、気持はブルーになってしまった。情報収集とはいえ、デートで美緒の恋愛感情を煽ってしまったことは、取り返しがつかないことをしでかしたと思った。美緒の笑顔が眼に浮かぶと、地獄に突き落とされる思いになった。

 

 

 

ナオ子は、とにかく仲人を成功させて、夫の警察署長を実現させたかった。「サワちゃん、誰にも過ちはあるわ。でも、改心すればいいのよ。今回のことは、決して他言しないわ。サワちゃんに幸せになってほしいの。サワちゃんとひろ子さんのゴールを心から祈っているのよ。仲人は、私たちに任せてちょうだい。約束ね。ところで、主人のこと、お父様によろしく言って下さいね。ほんの一年でもいいのよ。定年までに、一度でいいから、主人の晴れ姿を見たいのよ。沢富さん、お願いします。この通り」ナオ子は、両手を合わせてコクンと頭を下げた。

 

 

 

伊達は、あまりにもあからさまなお願いに恥ずかしくなり、心と裏腹なことを口走った。「おい、よさんか。サワが、困った顔をしてるじゃないか。俺は、もう、出世の夢はあきらめた。健康で、定年を迎えることができればそれでいい。ナオ子、分かってくれ。サワを困らせるようなまねはよせ」沢富は、弱みを握られたてまえ、やむなくうなずいてしまった。「分かりました。親父に、先輩のことをお願いしてみます。僕の力が及ぶかどうか分かりませんが、ご夫妻への恩返しは必ずします」

 


 

ナオ子は、目を輝かせて、沢富の右手を握り締めた。「うれしいわ。主人のこと、よろしく伝えてください。ぼんやりしているようでも、主人は、やるときは、やるんです。お父様に恥をかかせるようなことは決してしないわ。ねえ、あなた」伊達も沢富が口添えしてくれると聞いて、パッと目の前が明るくなった。「命を捧げる思いで、職務を全うするさ。よろしく頼む」伊達も両手を合わせて頭をコクンと下げた。

 

 

 

隠し子

 

 

 

二人にお願いされ恐縮してしまった沢富は、話を変えることにした。「とにかく、話はして見ます。でも、あまり期待はしないでくださいよ。ところで、ひろ子さんの気持がはっきりしないんですよ。僕は、結婚対象じゃないんですかね。女性の気持は、僕にはよくわかりません」待ってましたと言わんばかりに笑顔を作ったナオ子は、即座に返事した。「そのことだったら、心配ないわよ。女性って、躊躇するものなの。イヤヨ~、ダメダメッて言って、抱きしめられたいものなのよ。思い切って、ホテルに誘えばいいのよ、ねえ~~、あなた」

 

 

 

あたかも付き合っているときにナオ子を強引にホテルに誘ったかのように言われた伊達は、顔を真っ赤にして返事した。「まあ、とにかく、何度もアタックすることだ。女性を口説くには、押しが一番だ。そこでだが、一度でも、ホテルに誘ったことは、あるのか?」すでにセックスをしていた沢富は、顔を真っ赤にして返事した。「まあ、誘ったというより、誘われたような、そんなんです」伊達は、目を丸くして念を押した。「おい、本当か。もう、やったのか?隅に置けないやつだ。人は見かけによらんとは、このことだ」

 


 

笑顔になったナオ子は、ひろ子の思いを憶測し始めた。「それじゃ、ひろ子さんは、本当に、サワちゃんのことが好きなのね。結婚する気はあるのよ。でも、何が気に入らないのかしら。何か結婚できないような理由があるのかしら」ナオ子は、ひろ子のことを考えたが、よくよく考えてみると、バツイチのタクシー運転手と言うこと以外は、ひろ子の素性についてほとんど知らないことに気づいた。「そう、ひろ子さんって、バツイチよね。子供はいるのかしら?」

 

 

 

伊達も同じくひろ子のことをほとんど知らないことに気づき、口をぽかんと開けて首をかしげた。ひょいと首を立てると甲高い声を発した。「もしかして、子持ちか?」沢富は最初に会ったころの会話を思い出したが、子供はいない、と言っていたような、いないような、あやふやな記憶しか頭に残っていなかった。「は~、バツイチとは聞いてますが、子持ちじゃないと思いますが、どうなんでしょうかね~。はっきりとは、分かりません」

 

 

 

伊達は、子持ちを隠しているんじゃないかと邪推した。「もしかして、子持ちじゃないか。だから、結婚に踏み切れないんだ。きっと、そうだ。間違いない」ナオ子も夫の憶測が当たっているような気になってきた。「もしかして、もしかね。子持ちかもね。そうだったら、サワちゃん、どうする?それでも、結婚する気ある?」沢富は、青天の霹靂の事態に開いた口がふさがらなかった。

 


 

ナオ子は、呆然と白目をむいた沢富の顔を覗き、声をかけた。「サワちゃん、しっかりして。まだ、子持ちと決まったわけじゃないし。確かめてみなさいよ」沢富は、われに返り返事した。「え、僕が?そんな勇気、ないです。もしもですよ、子供がいる、と返事されて、僕は何と言って答えればいいんですか?子持ちと結婚する勇気はありません。僕は、どうすりゃいいんですか?」

 

 

 

ナオ子は、右横の夫を見つめ小さくうなずいた。「そうよね、もし、子持ちだとしたら、サワちゃんだって、考えちゃうわよ。あなた、どうかしら、私が何気なく聞いてみようかしら。そうじゃないと、サワちゃん、このままだと気の毒だし。それに、子持ちだったらよ、仲人のことも水の泡になるじゃない。このようなことは早めに確かめるべきよ。そう思うでしょ、サワちゃん」

 

 

 

沢富の気持は揺らいでいた。確かに子持ちかどうか知りたかったが、万が一、子持ちだと分かったとき、どう対処していいか分からなくなっていた。確かに、ひろ子は好きだったが、突然、父親になる自信はなかった。それかといって、子供がいるなら結婚できない、なんて口が裂けてもいえそうになかった。考えれば考えるほど、沢富の頭は混乱した。「どうすればいいんだ。事実を知るのが怖いんです。あ~~、死にた~い」

 



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