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 「今日一日、お疲れ様でした。カンパ~~イ」三人のグラスがキスをすると、カキ~~ンと心地よい音色が部屋中に響き渡った。早速、一口飲んだナオ子は、声をかけた。「あなた、どんな話?もったいぶらないで、早く~」伊達は、返事をせず、いったん下ろしたグラスを持ち上げて、突然マジな表情になると残りのビールを飲み干した。そして、ナオ子の顔の前にグラスを差し出した。ナオ子は即座にビールを注ぎ、じっと、早くおっしゃいよと言わんばかりの目つきで夫の顔を見つめた。

 

 

 

 沢富は、伊達の表情を見ていると不吉な予感がますます心の奥底で大きくなった。二股が発覚してしまったのではないかと思った瞬間、沢富はうつむいてしまった。うなだれた沢富をグイッとにらみつけた伊達は、静かな口調で尋ねた。「サワ、できれば、嘘であってほしいんだが、ハスラーにJKのような若い女性を乗せて、楽しそうにサンセットロードを走っているところを見た、というやつがいてな。その話は、本当か?」

 

 

 

 ナオ子は、今にも飛び出さんばかりに目をむき出して悲鳴を上げた。「ヒェ~~、まさか、嘘でしょ、サワちゃん。ひろ子さん以外の女性と付き合っているってこと?そんなことって、嘘よね」沢富は、何と言って弁解しようかと言葉を探していた。顔を持ち上げた沢富は、今にも泣きだしそうな表情で小さな声で話し始めた。「申し訳ありません。確かに、JKを乗せました。でも、決してデートではありません。それだけは信じてください」

 


 

 ナオ子はあきれた顔で尋ねた。「いったい、そのJKは誰よ。ひろ子さんに何と言って説明するの。正直におっしゃい」伊達は、やっぱり本当だったのかと腕組みをしてうなずいた。「でもな~、JKを助手席に乗せて、デートではなかったとは、虫がいいんじゃないか。一体誰なんだ。まさか、エンコウじゃ~、ないだろうな」沢富は、即座に顔を左右に振った。「違います。エンコウだなんて」

 

 

 

 伊達は、取調室で被疑者を問い詰めるときのような目つきで沢富をじっと見つめ、さらに追い討ちをかけた。「だったら、いったい誰だ。いつから、付き合ってるんだ。洗いざらい、白状しろ」夜叉のような目つきになったナオ子は、女デカになったかのように尋問し始めた。「その女の名前は?年齢は?どこで知り合ったの?さ~、さっさと白状しなさい。死刑にしてやる」

 

 

 

 あまりの過激な言葉に伊達は、ドン引きしてしまった。「おい、そう、有罪と決め付けちゃいかん。じっくりと話を聞いてからだ。ナオ子、落ち着け」伊達は、ナオ子の右肩をポンとたたいた。興奮を抑えたナオ子は、ドスのきいた低い声でやんわり話を続けた。「分かったわよ。サワちゃん、聞かしてちょうだい、正直に話すのよ」額から脂汗をにじませていた沢富がナオ子と目を合わせると、今にも包丁を持ち出さんばかりの表情でにらみつけていた。

 


 

 沢富は、いつでも逃げ出されるような態勢で話し始めた。「奥さん、洗いざらい、正直に話します。そのJKは、栗原美緒といいます。彼女は、ある事件にかかわっていたと見られるタクシー運転手の娘です。私は、その子から情報を取るために付き合っています。でも、決して、恋愛じゃありません。分かっていただけますか?許してください。お願いします」沢富は、ペコペコとナオ子に頭を下げた。

 

 

 

 美緒と聞いた伊達刑事は、不自然な病死をした運転手のことを思い出した。「そうだったのか。あの子か。でも、運転手は病死ということで、かたがついている。もう、これ以上、首を突っ込まないほうがいい。ひろ子さんに誤解されると、厄介なことになる。も~、あの子とは付き合うな、いいな」ナオ子は、じっと聞き耳を立てていた。「たとえ、仕事とはいえ、JKとデートのような真似は、もってのほかじゃない。ひろ子さんが知ったら、何と言うか」

 

 

 

 伊達も腕組みをしてうなずいた。「そうだ。そんな言い訳は通用しない。JKと楽しそうにドライブしていたというじゃないか。どう見ても、デートじゃないか。どう説明するんだ。ひろ子さんが、そんな言い訳で、納得すると思うのか」ナオ子は、JKとのデートが知れて、結婚話が破談になるのではないかと不安になった。仲人がだめになるんじゃないかと思うと、怒りがこみ上げてきた。

 


 

ナオ子は、目を吊り上げると強い口調で命令した。「金輪際、そのJKとは付き合ってはいけません。たとえ仕事でも、ダメです。いいですね」ここまで大事件になると思っていなかった沢富は、土下座して謝ることにした。すっと椅子から立ち上がるとフロアに正座し、頭をゆっくり下げると額をフロアにこすり付けて謝った。「金輪際、彼女とは会いません。申し訳ありませんでした」

 

 

 

ナオ子は、ほんの少しほっとしたが、このことがひろ子に知られているのではないかと不安になった。「サワちゃん、分かったわ。反省したみたいね。改心すれば、それでいいのよ。さあ、腰掛けて。でも、このことは、ここだけの秘密。そう、あなたにそのことを教えてくれた方にも、口止めしてよ。心配だわ」ナオ子は、このことがひろ子にばれてないことを神に祈った。

 

 

 

「サワ、二度と彼女とデートするんじゃないぞ。万が一、ひろ子さんに見られたら、取り返しのつかないことになる。いいな、肝に銘じて、約束を守るんだぞ。仲人ができなくなったら、出世の夢は、水の泡になってしまう。頼むな、サワ」さっきの剣幕は、出世のためかと思うと、土下座したのがあほらしくなったが、ひろ子に誤解されないためにも、ハスラーで美緒とドライブしない決意をした。

 


 

「本当に、ご迷惑をおかけました。ひろ子さんにこのことが知られていなければいいのですが。本当に、馬鹿なことをしでかしました。ごめんなさい。ごめんなさい」沢富は、頭をペコペコ下げて、改めて伊達夫妻に謝罪した。この場はどうにか収まったが、美緒に今後のことをどのように話をすればいいか考えると、気持はブルーになってしまった。情報収集とはいえ、デートで美緒の恋愛感情を煽ってしまったことは、取り返しがつかないことをしでかしたと思った。美緒の笑顔が眼に浮かぶと、地獄に突き落とされる思いになった。

 

 

 

ナオ子は、とにかく仲人を成功させて、夫の警察署長を実現させたかった。「サワちゃん、誰にも過ちはあるわ。でも、改心すればいいのよ。今回のことは、決して他言しないわ。サワちゃんに幸せになってほしいの。サワちゃんとひろ子さんのゴールを心から祈っているのよ。仲人は、私たちに任せてちょうだい。約束ね。ところで、主人のこと、お父様によろしく言って下さいね。ほんの一年でもいいのよ。定年までに、一度でいいから、主人の晴れ姿を見たいのよ。沢富さん、お願いします。この通り」ナオ子は、両手を合わせてコクンと頭を下げた。

 

 

 

伊達は、あまりにもあからさまなお願いに恥ずかしくなり、心と裏腹なことを口走った。「おい、よさんか。サワが、困った顔をしてるじゃないか。俺は、もう、出世の夢はあきらめた。健康で、定年を迎えることができればそれでいい。ナオ子、分かってくれ。サワを困らせるようなまねはよせ」沢富は、弱みを握られたてまえ、やむなくうなずいてしまった。「分かりました。親父に、先輩のことをお願いしてみます。僕の力が及ぶかどうか分かりませんが、ご夫妻への恩返しは必ずします」

 



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