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沢富は、とっさに、でまかせを言った。「1万円です。僕にとっては、大金ですよ。伊達さんは、当たったことありますか?」伊達は、でまかせを言っていると思ったが、今ここでデートのことを問い詰める気はなかった。問い詰めるには、ナオ子の協力が必要だと思ったからだ。「俺は、ないんだな~。どうも、クジ運が悪いと言うか、賭け事で勝った事がない。マージャンもパチンコも競艇も競馬も、勝った事がない。サワは、強運なのかもしれん」

 

 

 

 沢富は、ちょっとお世辞を言ってさらに話をそらすことにした。「そうですか、いい奥さんをゲットしてるじゃないですか。宝くじ以上じゃないですか。うらやましいな~」沢富は笑顔を作って伊達をチラッと横目で見た。「おいおい、口がうまくなったじゃないか。ハスラーに乗ると、お世辞まで上手になるのか。自分で言うのもなんだが、本当にいいカミさんをもらったよ。今あるのも、カミさんのおかけだ。サワも早く身を固めろ。男は、結婚して、初めて、一人前だからな」

 

 

 

 結婚と聞いた沢富は、極秘のデートがばれると、とんでもないことになると思い、この場は素直に返事することにした。「やっぱ、男は、結婚ですかね。僕は、一刻も早く、ひろ子さんと結婚したいと思っているんです。でも、ひろ子さんの気持がはっきりしないんです。どうすればいいですかね」伊達は、二股をごまかすために調子のいいことを言っていると思ったが、結婚に前向きのところがあると思い、話をあわせることにした。

 


 

 腕組みをした伊達は、二股がばれてひろ子との結婚がぶち壊れないうちに、一刻も早く結婚させようと語気を強めて気合を入れた。「そうだ。一刻も早く結婚しろ。結婚すれば、きっと、明るい未来が開ける。俺に任せろ。ひろ子さんの気持ちを聞いてやる」沢富は、マジな顔つきでうなずき、美緒とのデートがばれませんように、と心の奥底で手を合わせて祈った。そのとき、背筋がぞっとする不安が心臓をギュッと締め付けた。

 

 

 

マンションに到着すると地下駐車場にかわいいハスラーを休ませ、エレベーターで5階に上がった。いつものように大声でナオ子に叫んだ。「帰ったぞ~~」二人が、キッチンテーブルの椅子に腰掛けるとナオ子が笑顔でビンビール、ノンアルコールビール、おつまみのチーズと枝豆をグリーンのトレイに乗せて運んできた。「お疲れ様。今日も暑かったでしょう。初夏の気温だったわ。あなた、重大な話って、どんな話。まさか、サワちゃんの婚約発表?」

 

 

 

伊達は、苦虫をつぶしたような表情で答えた。「確かに、サワに関した話だが、ちょっと、まあ、聞きたいことがあって、サワを呼んだってわけだ」沢富は、なんとなく嫌な予感がした。「え、僕に、どんなことを?」伊達は、怪訝な顔で突っ立っていたナオ子を自分の左横に座らせた。「まあ、とにかく、一杯のもう。話はそれからだ」ナオ子は夫のグラスにビールを、沢富のグラスにノンアルコールビールを注いだ。最後に自分のグラスにビールを手酌で注ぐと笑顔を沢富に向けた。夫婦の以心伝心からか、伊達は暗い話になってはいけないと思い、笑顔を作って乾杯の音頭をとった。

 


 

 「今日一日、お疲れ様でした。カンパ~~イ」三人のグラスがキスをすると、カキ~~ンと心地よい音色が部屋中に響き渡った。早速、一口飲んだナオ子は、声をかけた。「あなた、どんな話?もったいぶらないで、早く~」伊達は、返事をせず、いったん下ろしたグラスを持ち上げて、突然マジな表情になると残りのビールを飲み干した。そして、ナオ子の顔の前にグラスを差し出した。ナオ子は即座にビールを注ぎ、じっと、早くおっしゃいよと言わんばかりの目つきで夫の顔を見つめた。

 

 

 

 沢富は、伊達の表情を見ていると不吉な予感がますます心の奥底で大きくなった。二股が発覚してしまったのではないかと思った瞬間、沢富はうつむいてしまった。うなだれた沢富をグイッとにらみつけた伊達は、静かな口調で尋ねた。「サワ、できれば、嘘であってほしいんだが、ハスラーにJKのような若い女性を乗せて、楽しそうにサンセットロードを走っているところを見た、というやつがいてな。その話は、本当か?」

 

 

 

 ナオ子は、今にも飛び出さんばかりに目をむき出して悲鳴を上げた。「ヒェ~~、まさか、嘘でしょ、サワちゃん。ひろ子さん以外の女性と付き合っているってこと?そんなことって、嘘よね」沢富は、何と言って弁解しようかと言葉を探していた。顔を持ち上げた沢富は、今にも泣きだしそうな表情で小さな声で話し始めた。「申し訳ありません。確かに、JKを乗せました。でも、決してデートではありません。それだけは信じてください」

 


 

 ナオ子はあきれた顔で尋ねた。「いったい、そのJKは誰よ。ひろ子さんに何と言って説明するの。正直におっしゃい」伊達は、やっぱり本当だったのかと腕組みをしてうなずいた。「でもな~、JKを助手席に乗せて、デートではなかったとは、虫がいいんじゃないか。一体誰なんだ。まさか、エンコウじゃ~、ないだろうな」沢富は、即座に顔を左右に振った。「違います。エンコウだなんて」

 

 

 

 伊達は、取調室で被疑者を問い詰めるときのような目つきで沢富をじっと見つめ、さらに追い討ちをかけた。「だったら、いったい誰だ。いつから、付き合ってるんだ。洗いざらい、白状しろ」夜叉のような目つきになったナオ子は、女デカになったかのように尋問し始めた。「その女の名前は?年齢は?どこで知り合ったの?さ~、さっさと白状しなさい。死刑にしてやる」

 

 

 

 あまりの過激な言葉に伊達は、ドン引きしてしまった。「おい、そう、有罪と決め付けちゃいかん。じっくりと話を聞いてからだ。ナオ子、落ち着け」伊達は、ナオ子の右肩をポンとたたいた。興奮を抑えたナオ子は、ドスのきいた低い声でやんわり話を続けた。「分かったわよ。サワちゃん、聞かしてちょうだい、正直に話すのよ」額から脂汗をにじませていた沢富がナオ子と目を合わせると、今にも包丁を持ち出さんばかりの表情でにらみつけていた。

 


 

 沢富は、いつでも逃げ出されるような態勢で話し始めた。「奥さん、洗いざらい、正直に話します。そのJKは、栗原美緒といいます。彼女は、ある事件にかかわっていたと見られるタクシー運転手の娘です。私は、その子から情報を取るために付き合っています。でも、決して、恋愛じゃありません。分かっていただけますか?許してください。お願いします」沢富は、ペコペコとナオ子に頭を下げた。

 

 

 

 美緒と聞いた伊達刑事は、不自然な病死をした運転手のことを思い出した。「そうだったのか。あの子か。でも、運転手は病死ということで、かたがついている。もう、これ以上、首を突っ込まないほうがいい。ひろ子さんに誤解されると、厄介なことになる。も~、あの子とは付き合うな、いいな」ナオ子は、じっと聞き耳を立てていた。「たとえ、仕事とはいえ、JKとデートのような真似は、もってのほかじゃない。ひろ子さんが知ったら、何と言うか」

 

 

 

 伊達も腕組みをしてうなずいた。「そうだ。そんな言い訳は通用しない。JKと楽しそうにドライブしていたというじゃないか。どう見ても、デートじゃないか。どう説明するんだ。ひろ子さんが、そんな言い訳で、納得すると思うのか」ナオ子は、JKとのデートが知れて、結婚話が破談になるのではないかと不安になった。仲人がだめになるんじゃないかと思うと、怒りがこみ上げてきた。

 



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