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彼がその身に背負うもの5

綺麗事なんか言わへんよ。


正直に言うよ。


そう、助かりたいのは俺自身や。
こんなところで
こんな形で死ぬなんて絶対嫌や。
わがままなのはよくわかってるよ。

それでも助かりたい。
どうしても助かりたい。
そして、どうしても
今目の前にいる大切な存在を
絶対失いたくない。

全部俺のわがままや。
自分はええからこいつだけを!!

って言えたらかっこいいねんけど。
やっぱ俺も普通の人間や。
俺だって助かりたい。

花梨ちゃんと一緒に。

高い高い屋上。

もう少しで、二人とも
重力に引っ張られてしまう。



どうして俺たちはこうなったのか?



hideawayを出て
それからただ呆然と歩いていた。行き先は決まっていた。

いろんな目線を浴びて、つらい思いをして生きてきた身や。
自然と人がほとんどいない場所を見つけていた。

小さな公園。
ここはいつも俺が
どうしようもなく凹んだりしたときにくる場所。
妙に草木に囲まれて
よく見ないとなかなかこの公園の存在には気づかれへんと思う。
だから、ここにはいつもほとんど人がいない。

俺にとって
ここだけは天国だった。

誰の目線も感じることなく
誰にも見つからず
一人で安心していれる場所。


安心・・・か・・・。


『生えた理由を教えてください』
花梨ちゃんが言った言葉。

わからへんよ。俺にだって。
まさかこんなことになるなんて全然思ってへんかった。
非現実的なことは誰でも起こらないと思い込んでいて
認めたくないもんや。



まだ大阪にいた時やった。
親友の柳(やなぎ)と酒飲んでてその帰りやった。
変なところで財布を落とした。

草むらの中やった。
近道のつもりで歩いていた。
夜で、何も見えなくて
それでもなんとか探そうって
必死に草をかき分けて

手に何か触れたと思って、そして見つけた。

小さな小さな

わずかに光って見えた、羽を。

余興か何かで使うために、誰かが作ったもんかと思った。
でも触れた時の感触が、とてもつくりものとは思えず
何よりわずかに温かい事も気になっていた。
落ちているもんなんか
ましてやわけわからへん物なんか普段絶対拾わない。
でも、なぜか気になってしまって。

手にした瞬間。
ありえないくらい羽が光って
一瞬でなにもかも見えなくなった。

気づいたらこの様や。
取れもしない。
取ろうと引っ張れば痛くてしゃあない。
完全な身体の一部になっていた。


地獄はそれからやった。


羽のことは誰にも信じてもらえなくて
周りからは「変なの」って
冷たい目で見られて。

皮膚がちぎれてもかまわへん。
そう思って
柳に頼んで
思いっきり引っ張ってもらったこともあった。
それでも、羽は俺から離れなかった。


信じてもらわれへんから
そのうちどうでもよくなって
接着剤でつけて取れなくなったって


嘘をついた。


認めてもらわれへんなら
嘘でもええと思った。


それでも
毎日はずっと地獄やった。

認めてもらわれへんことが
どれだけつらかったか。

冷めた目で毎日毎日見られるのは
どれだけつらかったか。

いつの間にかいろんなことが
面倒になってしもうた。

人と会うこと


話すこと


この自分の存在を
真実を知って
認めて
わかってくれる人が
いてくれるかもしれないっていう

希望を持つこと。

全部面倒になった。

今思えば
柳だけは、俺の事をわかってくれてたかもしれへん。
でもあの時の俺はどん底やった。
全部シャットアウトしてもうた。
勝手に目の前からいなくなって、完全に自分の殻に閉じこもってもうた。

付き合ってた彼女にも
笑われて
最終的には本物だと言い張る俺に乗っかって
マスコミか何かに売って話題を呼んで
金儲けしようとたくらみよった。


『人』の醜い部分を
短期間で
全部見てしまったようだった。

泣いていた。

 


あぁ

そうか・・・・・・。


なんで俺が泣いてたのか。


そうやんなぁ。


ホンマは誰かに


知ってほしかったからやんか。
俺の痛みを
知ってもらいたかったからやんか。


西山君だけは
俺のホンマの声を聞いてくれた。

心から助けたいと思ってくれて
わざわざ東京に俺を呼んでくれた。
喫茶店で働く仕事もくれて
住まいも提供してくれて
至れり尽くせりやった。

俺をわかってくれる人がいた。

そう思ったから俺はここに来た。
誰かにわかってもらいたくて


ずっとずっと泣いていたんや。

 


花梨ちゃんは
俺のホンマの声を聞けなくても
それでも俺の事を心配して

そう

わかろうとしてくれてたやないか。

好奇心か?

ちゃうやろ?

真剣やった。

苦しむ俺を
本気で心配してくれてた。
あの目線にも耐えて
一緒に歩いてくれてた。

俺が求めていたことやんか。

また殻に閉じこもる気か、俺は。


今、また目の前に
今までの奴らとは違う
心から俺をわかろうとしてくれてる人がおったっていうのに。
ホンマやったら
柳に助けられてたかもしれへんねん。
俺が避けることをしなければ。
あきらめなければ。
希望を捨てへんかったら
捨てへんかったら

もっと俺は、もう少し幸せになれてたんちゃうか?

自分で勝手に不幸やって思い込んで
幸せ逃がしてたんちゃうか?
泣いてばっかりで
自分では解決しようとせんかった。誰かを頼ってた。

わがままなだけやんか、俺は。

何をしてんねん、俺。

また自分から
希望を捨てる気か。




気づいたらもう夜になってた。
何時間も悩んでたらしい。

花梨ちゃんは、どこ行ったかな。

家か、それとも
hideawayに戻ってるやろか。仕事もほったらかしのままや。

公園を抜け
俺はとりあえずhideawayに向かった。

 


いざ、hideawayの前に着いたら
なかなか中に入れなかった。
入りづらかった。

店は閉まってるみたいだったけど電気はついていた。
多分、みんないるんだと思う。

森井さんもいるんだろうか。

なんだかそれを思うと
すぐには中に入れなかった。

あぁ、このままじゃ西山さんに私の『声』聞き取られちゃうな。
まだ心の準備が整ってないよ。
頭を冷やさないとだめだ。まだ。
私はそのまま
マンションのエレベーターに乗った。

屋上に行くつもりだった。
最上階でおりて、そこからは階段。


『危険 ここからは立ち入り禁止』


そう書いてあって
ヒモが張ってあった。

でも、危険っていうけど
危ないことしない限りは大して危険じゃないでしょ?
私はヒモを飛び越えて屋上に向かった。


今思えば、馬鹿なことをしたと思った。


夜は涼しくて
今日は星が綺麗だった。
屋上だと尚更遠くの景色もよくみえて
空も近くに感じて
気持ちよかった。
柵に寄りかかりながら夜景を見る。

『知ったところでお前に何ができんねん』

そうだよね。
何もできない私が
森井さんの隠していることを聞き出したって
何もできないよね。

少しでも助けになりたいと思った。

ただそう思っただけだったけど

それがすごく余計だったんだ。

なんでうまくいかないんだろう。
なんで私はこんなんなんだろう。

森井さんには悪いことをしたと思う。
知ってほしくないことは誰にでもある。私はそれを無理に聞きだそうとした。
私はただのわがままだ。
馬鹿みたい。


その時の私は
柵のすぐ傍に
『触るな危険』と書かれていた看板があったことに気づかなかった。

森井さんのことで
いっぱいいっぱいだった。



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