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standing up

―― 元気になれる物語があります。

 

悲しいお話。苦しいお話。辛いお話。

そんなお話が読みたくなることがありますね。

 

けれど時には、気持ちが晴れるような、明るいお話はいかがでしょうか。

 

この本には明るい、感動的な、元気になれるお話ばかり集めています。

 

タイトルを見て、気になる話だけ読んでみるのもいいでしょう。

好きなお話ばかり、何度も何度も読むのもいいでしょう。

 

ひとつの物語はどれも短いものばかり。

ちょっとした時間に、ちょっとした清涼な気分転換に。

 

この物語たちがあなたのお役に立てば幸いです。

 

 


story-01  タイムカプセル

僕らは昔から仲が良かったんだ。

遠足や、校外学習や、クラブ活動や。

何かする時にはいつも一緒にいたんだ。

 

卒業が近づき、

タイムカプセルに入れる

手紙を書くときだって、

 

 今、気になっている

 女の子への手紙にしようぜ

 

二人で示し合わせて書いたんだ。

 

もう卒業式だって時に、

ささいなことでケンカをした。

どうでもいいことだったんだけど、

二人とも意地はって、

結局、卒業式も、

口をきかずに過ごした。

 

春休みの間には仲直りしよう。

高校へは一緒に通おう。

そう思ってて。

 

思い切って

あいつの家にいこうと思った日。

 

午前11時半、

車の事故で即死だって。

 

そんな連絡が入ったんだ。

 

なんだよ、これ。

これじゃ、謝れないじゃないか。

僕は、どうしたらいいんだよ。

 

お葬式で焼香をあげても、

どれだけ手を合わせても、

目の前にあいつはもういない。

 

どうしてもっとはやく、

謝らなかったんだろう。

 

後悔ばかりが胸にやってきた。

 

そんな気持ちを持ったまま。

月日は流れて、

僕は二十歳になった。

 

成人式のあと、同窓会があって。

タイムカプセルを開けることになった。

 

一枚一枚を読みあげて、

その後に書いた人の名前を紹介して。

恥ずかしがったり、笑ったり、

バカだとつっこんだり。

結構盛り上がったんだ。

 

 もしまだ恋人がいなかったら、

 僕と付き合ってくれ!

 

僕の手紙が読まれ、どきどきしてると、

告白された本人はぺろりと舌を出し、

 

 

 あいにく、今度結婚するから。

 ごめんね。

 

 

そう言われた。

 

僕が赤面していると、

次の手紙が読まれた。

 

 

 もしかしたら、

 遠く離れて生活してるかもしれないな。

 ケンカして、

 そのまま口をきいてないかもしれないな。

 けど俺は、お前といつまでも親友だぜ。

 何かあっても

 俺はお前を信用してるからな。

 

 

あいつの、僕への手紙だった。

 

あいつは、はじめから、

きっと、僕をゆるしてたんだ。

 

涙と共に、やっと。

心のとげがとれた気がした――。


story-02  クセ

うちの子にはちょっと困ったクセがある。

何でもポケットに入れてしまうのだ。

外に遊びに行くと、石やら草やら、いろんなものを入れてくる。

 

理由を聞くと首をかしげる。

なんとなく手にとって、そのままポッケに入れてしまうのだろう。

 

幸い、万引きのようなことは無い。

きっと何か基準があるのだろう。

死んだカエルが入っていたことはあるが、それ以外はびっくりするものはなかった。

 

だから注意はするけれど、あまり叱らないようにはしていた。

いつか治るだろう。そう思っていたのだ。

 

ある日。幼稚園の名札の中に、しおれた草が入っていた。

 

「今度はどうして名札に草を入れてるの?」

 

息子は顔を輝かせて言った。

 

「ママ、喜ぶと思って!」

 

どうも私にあげようと思って、机の上においていたらしおれたらしい。

でもそれを名札に入れ、忘れないように持って帰ってきたのだ。

 

私は捨てようと思ったが、なんとなく水に浸し、草を戻してみた。

どんな草だったのか、それだけでも確認しようと思ったのだ。

 

「あっ!」

 

思わず声が漏れた。

息子は嬉しそうに、満面の笑みを浮かべている。

 

「ありがとう、四つ葉だったんだね」

 

息子のクセは困ったものだけど、ちょっとだけ楽しみになったのだった。

 


story-03  知らない街へ

――もう3日も眠れない。

 

雨が降り続けていたけど、やっと空に太陽が戻った。

 

部屋に閉じこもっていたけど、余計に気を病んでしまいそう。

太陽の力を借りて、今日は外に出かけてみよう。

 

おともは明るい曲がいいね。

電車に乗って、知らない街へ。

 

 

 私の知らない街は、私を知らない街だから。

 

 

電車の窓に映る自分の顔をみて、思わず笑顔を作る。

口をへの字に曲げてちゃ、折角の気分が落ちこんじゃうから。

 

ずいぶん遠くにやってきた。

駅を出て深呼吸すると、空気の味も違っている。

 

すがすがしい青空をみつめ、新しい自分になった気分。

 

 

 いいね、この感じ。

 

 

歩いていると、汐のにおい。

海が、見えてきた。

私は思いっきり大声で叫んだ。

 

「ばかやろー!」

 

周りにいたおじさんたちが驚いている。

気にせずに、もう一声。

 

「でも、ありがとー!」

 

すかっとした。

 

私を知らない街だから、私はぜんぜん恥ずかしくない。

 

帰り道は、なんとかなるだろう。

遠回りも、いいだろう。

 

次の恋が、私を待ってるんだから。


story-04 鈴の音響く夏の夜の夢

今日の仕事もそろそろ、といったところで彼からのLINEが入った。

 

“今夜ドライブできないかな?”

 

何度かやりとりしたが、どうしても今日がいいらしい。

 

“わかった、待ち合わせは?”

 

急きょ二人でドライブすることになった。

 

「以前から機会があれば連れて行きたいと思っていたんだ」

 

彼の出身地は群馬の山の方だと言っていた。

その生まれた場所に、と聞くとなんだか大切な告白なのかも知れない。

 

高速道路を下りて、しばらく走り山道に。

さすがに実家があるようには見えない。

駐車場というには心細い、砂利のスペースに車を停め、これから林の中に入っていくという。

 

時は八時半。「急がなきゃ」と彼は言う。

 

懐中電灯は使わず、薄暗い半月の月明かりだけを頼りに歩く。

スマホの懐中電灯機能はダメと言われた。

 

こんな時間に、こんな場所で……。

なんか蒸し熱いし……。

ちょっと怖い気もしてきたけれど、特別なトラブルもないし。

私は彼を信じてついていく。

 

と、そこに黒く流れる小川が。

ちらりと点状の光が揺れた。

豆電球の光を小さくしたような、そんな光が、ふわふわと浮いている。

 

「ホタルだ」

 

そこで風鈴の音が響いた。

持参した風鈴を木に結びつけたのだろう。

「本当は静かに鑑賞した方がいいんだけど」

静かに彼は言った。

 

―― 一度目を閉じてみる。

水の流れのせせらぎと、わずかにそよぐ葉の擦れる音。

それに鈴の音が重なる。

 

目を開けると月の暗影に、わずか揺れ動く光。

とてもこの世のものとは思えない。

 

まるで、夢をみているようだ。

 

「これだけの条件が揃うことが滅多にないから。俺もはじめてなんだ」

 

考えてみれば、これが当たり前だったのだろう。

昔の人が想像する現代の生活の方が、よほど夢に違いない。

けれど、今の私たちの生活にとって、この景色こそが夢幻に思える。

 

放心状態の私を、彼の体温が包み込む。

この特別な時間を、少しでも長く感じていたかった。

 



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