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まえがき

これは、

北欧の田舎町に越してきた、小学2年生のミシェルとその周囲の人々を取り巻く、

クラシカルな児童文学調の、中編程度の長さの物語です。

対象読者は、小学校高学年以上を想定しています。

 

 


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最終更新日 : 2016-04-22 05:57:51

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プロローグ

ミシェル一家が田舎町に引っ越してきたのは、

ミシェルが不登校になったからだった。

兄妹4人のうち3人もがロクに学校に行かないとなると、それは何かが狂っている。

そう判断した両親は、親から引き継いだ豪邸をも手放し、

住み慣れたロンドンを離れることに決めたのだった。

 

 

 


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最終更新日 : 2016-04-22 05:57:51

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エピソード1 ミシェル一家

ある年の6月。

ミシェル一家は、北欧の田舎町のはずれにある、その家に引っ越してきた。

築年数は古いが、大きな庭を持つ立派な一戸建てだった。

薄水色の美しい壁を持つ、北欧らしい家である。

家の裏は林へと地続きになっている。

すると実質、ミシェルたちの庭は無限にも広い、それはそれは豊かなものであった。

「そうか。母さんがなぜこんなど田舎の家をゴリ押ししたか、

 その理由がもうわかったよ。

 お隣さんとの距離がこれだけ離れていれば、

 子供たちがどれだけはしゃぎ回ったところで、怒鳴られることはない。」

大きく背伸びをしながら、父サイラスは言った。

「そうよ。仮に怒鳴りこんできたとしても、

 我が家にやってくる5分の間に、荷物抱えてまた引っ越しできるわ♪」

ミシェルは仔犬のように駆け回りながら、機嫌よく笑った。

 

ミシェルは小学1年生である。この夏8月から、2年生に上がる。

ロンドンにいた頃から、

ミシェルはよくしゃべる女の子であった。級友の3倍はしゃべる。

級友の3倍発表するので、級友の3倍ほめられるが、

級友の3倍おしゃべりが過ぎるので、級友の3倍怒られる。

おしゃべりな子の例にもれず、頭の回転の良い子であった。

算数のプリントは級友の半分の時間で済んでしまう。

終わったからおしゃべりを始めるのだが、そのたびに先生に怒られる。

一番最初にプリントをやり終えるが、一番最初に怒られる。

人一倍がんばって早々と終わらせたというのに、

自由が許されたりはしない。おしゃべり時間が与えられたりはしない。

ミシェルにとって、学校の授業はきゅうくつに感じられた。

難しくはないが、あまり楽しくない。

ミシェルは読書が好きであった。

小学校1年生にして指輪物語を読めるのは、ミシェルくらいのものだった。

2巻を求めて図書室に行ったが、

「小学1年生はそんな難しい本を読んではいけません」と止められてしまった。

「こっちのたなの、30ページの本を読みなさい」と。

そんなのは、産湯(うぶゆ)に浸かりながら読み終えてしまったミシェルである。

もっと難しい、自分に合った本を読ませてほしいと懇願(こんがん)したが、

学校の先生は認めてはくれなかった。親から手紙も書いたが、

校長先生から直々に返信があり、ブルーナ以外の本は読ませてもらえなかった。

ミシェルは学校がつまらなくなり、不登校がちになった。

 

繰り返すが、

ミシェル家において不登校なのは、ミシェルだけではなかった。

長男のロッドは15歳になるが、もう何年も病欠を続けている。

病名が何であるかはだれも知らない。ロンドンの名医を10軒当たっても、

明確な答えが得られなかったため、病名の究明はもうあきらめている。

とにかくロッドは、ベッドに寝たきりであった。

病気のせいか寝たきりのせいか、筋肉は弱っていて、

トイレにすら自力では行けなかった。

 

ロッドの年子の妹、ミシェルの姉にあたるメアリーも、

やはり不登校におちいった。

彼女は健康に問題はなく、学校の成績も素行も悪くはなかったが、

学校には行かなくなり、ロッドの看病に尽力するようになった。そして祖母の介護に。

ミシェル家には年老いた祖母がおり、その名をシャーリーと言った。

この庭の広い家を推(お)したのは、シャーリーである。

 

ミシェルにはさらに、6歳の妹がいた。キャロルである。

キャロルはいつも、ピンク色のうさぎのぬいぐるみを抱えていた。

キャロルが独り言をしゃべっているなと思えば、

それはぬいぐるみと会話しているのである。

ぬいぐるみと会話すること自体は、だれも止めはしないし怒りもしなかったが、

キャロルはあろうことか、そのぬいぐるみを「ロッド」と名づけたのである。

これはいよいよ、話が混乱してくる。

「ママ、ロッドがおもらししちゃったの!」と駆け寄ってくるので

母があわててロッドの寝室に行くが、ロッドには何も起きていない。

よくよく聞いてみれば、

「ぬいぐるみのロッド」にキャロルがミルクをこぼしたのである。

このようなことがしょっちゅう起こるので、

家族のみんながキャロルに改名を懇願(こんがん)するが、キャロルは応じない。

「わかったわ」とうなずくことはあるが、実際には応じない。

「なぜロッドなの?」とミシェルが尋ねると、

「だって、『ロッドだよ』ってウサちゃんが言うんだもん。」

と、キャロルはそっけなく答える。

「お姉ちゃん、ミシェルっていう名前なのに、

 ジョルジーニって呼ばれたら、イヤでしょ?」

そう言われてしまうと、もうだれもキャロルをとがめることはできない。

 

ミシェルの母は、ロイスといった。

ブロンドの長髪をなびかせてさっそうと歩く、キャリアウーマンであった。

仕事に強くやりがいを感じるタイプであったため、

病弱な長男を長女が看病してくれるという申し出は、とてもありがたかった。

「息子のひきこもりは自分に非があるかもしれない」とロイスは少なからず思ったが、

それでもやはり、仕事をないがしろにすることはできなかった。

 

 


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エピソード2 教会でのこと

引越しの片付け作業に追われるミシェル家のポストに、

1枚のチラシが舞い込んでいた。

 

「みんなで歌おう!ゴスペル教室♪

 毎週日曜日10:00~11:00

 テミス教会にて」

 

このチラシに最も食いついたのは、父のサイラスであった。

サイラスは昔、仲間とバグパイプのポップスバンドを組んでいたが、

シャイな性格ゆえ、歌は歌わずに伴奏者に徹(てっ)しきっていた。

本当は歌も探求してみたかったサイラスは、

歌をたしなめる機会を、それとなしに求めていたのだ。

サイラスは、家族のみんなをこの教会ゴスペルに誘った。

が、ロッドとシャーリーは寝たきりで、メアリーはその介護。

すると、乗ってきたのは妻ロイスとミシェルとキャロルの3人だけだった。

…いや、4人である。

「ぬいぐるみのほうのロッド」も歌が大好きであるらしく、

積極的に連れていけとねだっているらしかった。

 

テミス教会は、町のはずれにあった。

町の中心部にはもっと立派な大聖堂があり、観光客や巡礼者の姿も見かけられるが、

テミス教会は内向きの、こじんまりとした教会であった。

年代ものの、赤レンガ造りの建物で、アイビーの葉が青々とおおいしげっていた。

 

ミシェル一家はキリスト教の洗礼は受けておらず、ミサにも興味は無かったが、

念のため、9時のミサから参加することにした。

そしてミシェル一家は、思いがけず面食らった。

ミサは多分にもれず、牧師が聖書を朗読し、

読点のたびに参列者が、「アーメン」と合いの手を入れる。

しかしその「アーメン」の合いの手が、この上なく美しい。

オルガンの伴奏も無しに、長3度のきれいなハーモニーで歌うのだ。

「俺たちはウィーンに越してきたんだっけか!?」

サイラスはささやき声でロイスに笑いかけた。

 

ミサが終わると、そのままホールでゴスペル教室がはじまるが、

ミサの参列者はほとんど皆、ゴスペル教室にも参加するようだった。

皆、一列に並んで会費を支払っていたので、サイラス一行もその列に並んだ。

料金は一人につき10マルッカだということなので、

サイラスは50マルッカを受付のシスターに渡した。

「あら?40マルッカで結構ですのよ。」

「いえ、この子も参加したがっているんです。俺より張り切っているんですよ。」

とサイラスは、ぬいぐるみのロッドを指差しながら、真顔で言った。

「まははははっ!!

 これはこれは、小さな歌い手さんですことっ!」

年配のシスターは、サイラスの馬鹿正直なジョークをえらく喜び、そして、

「初回は無料なのよ。50マルッカ全部、お返しするわね♪」

と、でたらめな理由を付けて、全額サイラスに返却(へんきゃく)してしまった。

 

こうしてミシェル一家は、強烈かつ好意的な印象をシスターに与え、

それから何かと、協力と友好をたまわることになった。

引っ越してきたばかりのサイラス一家にとって、非常に心強かった。

サイラスは町で50マルッカのブローチを買ってきて、

ぬいぐるみのロッドの胸に留めてやった。

 

 


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