目次
ルシーの明日(完全版)
ルシーの明日(完全版)
「ルシーの明日」前編
「ルシーの明日」後編
「ルシーの明日」解説(ルシーとシリー)
「ルシーの明日」解説(ルシー的宇宙人)
「ルシーの明日」解説(ルシー的タイムマシン)
「おばあちゃん」
「ルシーの晩餐」
「時間犯罪(もしくは、AIクライシス)」
解説(AIクライシス)
「タイム残酷トラベル」
「火星征服団」
「過去確率」
「嫁食わぬ飯」
「ルシーの明日」ショートムービー
映画「ルシー」原案
おかしな童話集
おかしな童話集
「桃太郎(少年マンガ風)」シノプシス
「大きなガブ」
「ヒトラーの秘密」
「浦島異聞」
「狼ハンター」
「続・狼ハンター」
「狼ハンター」誕生秘話と今後の展開
「新釈・漁師とおかみさん」
おばけ坂シリーズ
お化け坂シリーズ
「3つの手の物語」
「お化け坂」
「あいつ」
「笑う幽霊坂」
「恨みの短冊」
「お化け坂を訪ねて」
「見えない叫び」
「びっくり妖怪大図鑑」
解説
トライ・アン・グルの大作戦
トライ・アン・グルの大作戦
「ガラスの靴大作戦」
「苦情の手紙大作戦」
「人喰い料理大作戦」
「シースルー大作戦」
<おまけ>ボツネタ大作戦
解説
アケチ探偵とニジュウ面相の冒険
アケチ探偵とニジュウ面相の冒険
「お題に生きる男」
「笑いを盗む男」
「知ってる人だけのお話」
「AIに負けるな」
「ニジュウ面相の別荘」
「ニジュウ面相は誰だ?」
解説
いずみの青春
いずみの青春(泉ちゃんグラフィティ)
アングル「泉」
「アリとギリギリデス」
<解説>「アリとギリギリデス」元ネタ
「ビデオの中の彼女」
<「湯けむりの天使」って、こんな内容>
「姪っこんぷれっくす」
「泉より愛をこめて」
「絵画の刑罰」
「V.O.ルーム」
「教室にて」(「脱衣ゲーム」より)
「ピンクの怪物」登場モンスター目録
「いけない同級生」シノプシス
「いけない同級生(仮)」シノプシス(続)
二次創作
二次創作
映画用「時の塔」シノプシス(1)
映画用「時の塔」シノプシス(2)
映画用「黒の放射線」シノプシス(1)
映画用「黒の放射線」シノプシス(2)
解説
その他
その他
「おいらとタマの一人暮らし」
ボツネタ集
シノプシス・コンテスト用ボツネタ
共幻文庫コンテスト2015用ボツネタ
共幻文庫コンテスト2016用ボツネタ
アットホームアワード用ボツネタ
「師匠の憂鬱」(『西遊記』より)
さるかに合戦いろいろ
特撮ヒーロー「うさぎとかめ」
エデンの園、他
解放軍闘士のオオカミ
アリとキリギリス
アケチ大戦争
隣のタヌキ
現代版ギルガメッシュ
AI影の少女
いじめっ子は皆殺し
愛欲のリフレイン(別題「あなたと私だけの世界」)
<解説>名前遊び
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映画用「時の塔」シノプシス(2)

 ターバーたちは、一足早く、紀元1664年のマンハッタンの地の上に降り立っていた。

 ここで、原住民たちに発掘させた埋蔵金を受け取る予定だったのである。ターバーは、以前にも、この土地に来ており、すでに原住民を雇って、事を進めていたのだ。

 ほぼ全員のメンバーが時間ロケットを降りて、財宝受け取りの作業に従事していた中、捕虜のエドワードとナネットだけは、見張りのジョーゼファとともに、ロケットの中に残っていた。ところが、この時、ジョーゼファが、エドワードたちに意外な駆け引きを持ちかけてきたのだ。

 ナネットが気に入らないジョーゼファは、このロケットから、わざと逃がしてくれると言い出したのである。彼女としては、ターバーの寵愛がナネットに移るのが悔しかったけど、だからと言って、ナネットを殺す訳にもいかなかった。だったら、今のような隙を見て、逃げられたフリをして、逃がしてしまうのが最良の方法だったのだ。

 エドワードたちも、このアイディアに乗っかる事にした。ジョーゼファの計画では、彼女がエドワードに殴られて、逃げられた事にするつもりだったが、エドワードは、油断したジョーゼファを人質にして、とっ捕まえた。そして、この方が、より自然で、ターバーを欺けたのである。

 ジョーゼファがわざと悲鳴をあげたので、原住民から財宝を引き取り中だったターバーにも、エドワードたちの脱走は、すぐに察知された。しかし、すでにだいぶ遠くまで逃げ出していたので、もうターバーたちに捕まる恐れもなかったのである。彼らは、ターバーを出し抜く事に、まんまと成功したのだ。

 ある程度、時間ロケットから離れた森の中で、エドワードたちとジョーゼファは別れる事にした。ジョーゼファは、人質から解放してもらったフリをして、またロケットのところに戻るつもりなのである。ジョーゼファはナネットに「二度と顔を見せないで!」と罵ってから去っていくが、彼女は、あまり道を覚えるのは得意ではなかったらしく、帰っていく様子はどこかタドタドしかった。

 彼女が見えなくなったのを確認すると、エドワードたちも、何の当てもないまま、さらに逃げる事にしたのだ。

 

 さて、アランたち一行が乗った時間塔も、紀元1664年のマンハッタンにたどり着いていた。

 ターバーたちを探すのはいいが、もし遭遇すれば、乱闘になるのは、まず間違いないのだ。リーとチャーリーはか弱い女と子供だし、サンには時間塔のパイロットと言う任務がある。ここは、アランとレンツの二人が、まずは偵察隊として、外の様子を調査する事になったのだった。

 アランは、相変わらず、レンツの事を疑っていたが、この状況では、警戒しつつも、一緒に行動するしかなかったのである。二人は、マンハッタンの森の中を、タイム・テレバイザーがピンポイントで指定した時間ロケットの着地点を探して、歩き回った。レンツは、以前ここを訪れたリーたちから情報を仕入れていて、この周辺の地理を頭に入れていると言っているのだが、彼の道案内で移動してゆくと、どんどん、おかしな方角へと迷っていくのだった。

 森をかき分けていく二人の前に、突如、何者かが現れた。それは、何と、エドワードとナネットであった!彼らもまた、闇雲に逃げているうちに、こんな場所に迷い込んでしまったのである。お互いに迷っていた事が、逆に偶然をもたらして、両者の奇跡の再会を実現させたのだ。

 あまりの嬉しい出来事に、皆は喜びあったが、いつまでも、ここに居座る訳にもいかなかった。多分、ターバーたちもナネットの事を追っているだろうし、まずは、時間塔に戻って、態勢を立て直した方がいいのだ。

 再び、レンツが帰り道の案内を名乗り出るが、相変わらず、彼の道案内は頼りなげだった。でも、ついには、前方にと明かりのようなものが見えてくる。だが、それは時間塔では無かったのだ。戦争を間近にして、殺気立っていたオランダ人の陣営だったのである。

 ここにきて、アランの疑いも確信にと変わった。レンツは、わざと皆を、こんな場所にまで連れてきて、時間塔から目一杯に引き離したのである。アランが怒って、突っかかっていった事で、レンツも本性を現した。彼もまた、ターバーになびいた未来人の一人だったのである。ジョーナスがターバーについていった一方で、レンツはポウルの元に残り、スパイとして、様々な妨害活動を行なっていたのだ。

 アランに格闘を挑まれたレンツは、ナイフを出して対抗するが、そのナイフを奪われて、逆に自分の肩を刺される。激しい流血戦を目の当たりにしたナネットが、つい悲鳴をあげてしまうと、それに気を取られて、アランはレンツにとどめを刺し損ねてしまう。レンツは、一瞬の隙を見て、逃げてしまったのだった。

 そして、ナネットの悲鳴は、さらに最悪の展開を呼んでしまったのである。近くをパトロールしていたオランダ人たちが、いっせいに、この場所に駆けつけてしまったのだ。アランたちは英語を喋った為、オランダ人には、すぐに敵のイギリス人に間違えられてしまった。この状況では、アランたちは、これ以上は立ち向かえそうにもなく、あっさりとオランダ勢の捕虜になってしまったのである。

 さらに、この場に立ち会っていて、一部始終を遠くから観察していた人物がいた。ひどい方向音痴ゆえに、時間ロケットの元に帰れずじまいで、こんな場所で迷子になっていたジョーゼファである。彼女は、考えた末、レンツのあとをつけていく事にしたのだった。

 

 レンツは手傷を負った状態で、しゃあしゃあと、時間塔の中へと戻ってきた。彼は、隠し持っていた通信機を使って、すでにターバーとは連絡を取り合ったあとであり、次の指令として、騙し討ちして、時間塔を奪い取るように命じられていたのだ。

 帰ってきたレンツが負傷していたものだから、出迎えた時間塔内のメンバーは、すっかり動揺して、手薄になってしまっていた。レンツは「ターバー相手の戦いで傷つけられて、アランはターバーに殺されてしまった」などと、平気で嘘を並べて、皆の心を油断させたのだ。

 レンツは、隙をついて、ナイフを取り出し、サンに襲いかかろうとした。ところが、その時、大声を出して、その不意打ちをばらした者がいた。レンツのあとをついて来たジョーゼファである。彼女の妨害のおかげで、サンは既のところで、レンツの魔の手を逃れ、助かったのだ。逆に、サンがレンツを突き飛ばし返すと、運が悪い事に、跳ね飛んだレンツのナイフがレンツ自身に突き刺さってしまった。致命傷である。

 最後の瞬間を迎えて、レンツは「リーのことが好きだった」と本心を漏らす。彼は、ターバーに、ポウルを裏切る見返りとして、リーと結婚させてやる、とそそのかされていたのだ。実際は、ターバーに都合よく利用されていただけだったと言うのに。リーは、哀れなレンツの末路に、つい涙を流す。

「安心しな。アランはまだ生きている」と告げて、レンツは事切れる。その言葉の後を継いで、詳しい事実を教えてくれたのはジョーゼファであった。

 ジョーゼファがレンツの味方をしなかったのは、このまま、レンツの計画がうまく成功すれば、ナネットがまたターバーの元に戻ってしまうからだった。こうなったら、ひとまずは時間塔のチームに協力して、ターバーがナネットを連れ返せないようにしてもらおうと考えたのである。こちらはこちらで、複雑な恋愛関係のもつれがあったのだ。

 と言っても、アランたちの現状が分かったところで、時間塔にいたメンバーでは、アランたちの上手な救出方法は思い浮かばなかった。そもそも、ここに残っていたのは、非力な人間ばかりなのである。

 その時、時間塔の外が激しくざわつき出した。この近くに住んでいたインディアンたちが、この塔の事を急に拝み出したのだ。本来、この場所は彼らインディアンの聖地だった訳だし、この時間塔の事を、このインディアンの部族はすっかり神の使いだと勘違いしてしまったらしい。

 これを見て、リーには、一か八かの名案が閃いたのだった。

 

 オランダ人の陣営では、アラン、エドワード、ナネットの三人が、捕虜の小屋の中に閉じ込められていた。

 そこへ面会に現れたのが、オランダ人の総督とターバーである。ターバーは、レンツから報告をもらうと、早速、この時代の人間のふりをして、オランダ人と取引しに来たのである。彼の目当てはナネットだった。

 アランたちの見ている前で、あっさりと取引は成立する。ナネットだけは、金貨の袋一つと交換で、釈放となったのだ。無念にも、ナネットだけは、嫌がりながらも、ターバーに連れてかれてしまう。ターバーは、去っていく前に、残りの二人を確実に始末してしまう事を、念入りに、オランダ人総督にお願いしていた。

 こうして、ターバーもオランダ人も出て行き、小屋の中は、アランとエドワードの二人っきりになった。

 間もなく、外が急に騒がしくなってきたのである。でも、イギリスとの戦争は、まだ始まらないはずだった。

 実は、近くに住んでいた原住民のインディアンの集団が、このオランダ陣営に攻めてきたのだ。彼らは、時間塔を神の使いと勘違いしてしまったシルヴァ・ウォーター(銀の水)の部族だった。リーは、彼らに、本気で自分たちを神様だと信じ込ませて、まんまと扇動したのだ。このオランダ陣営に神の仲間が捕らわれているから、助け出すようにと命令したのである。

 純粋なインディアンたちは、神の言葉には忠実だった。彼らは、勇敢にも、本当に、このオランダ陣営に攻めてきたのである。そして、彼らの活躍のおかげで、アランたちは、とうとう、小屋の外への脱出も成功したのだった。

 しかし、逃げ出そうとしたアランたちの前に、オランダ人総督が立ちふさがる。こちらの陣営の情報を知った捕虜がイギリス陣営に帰還すれば、このあとの戦争が一気に不利になるので、いっその事、アランたちをこの場で殺してしまおうと目論んだのだ。

 オランダ人総督も死に物狂いで襲いかかってきたので、乱闘は真剣勝負になってしまった。ついに、アランは、オランダ人総督を銃で撃ち殺してしまうが、この状況ではやむ終えない結果だとも言えた。

 とにかく、インディアンたちの協力のおかげで、アランたちは無事に救い出されて、皆が待つ時間塔へと戻ってきたのだ。時間塔の中で、メンバーはまた再会できた事を喜び合う。

 ところが、その時、少し離れた森の方で騒乱が起こる。あのアランたちを手助けしてくれたインディアンの村が、激しい爆撃を受けたのだ。襲撃した犯人は、ターバーが乗った時間ロケットであった。

 ターバーは、レンツから良い報告が届くのを期待して、もうしばらく、この時間帯で待機していたのである。だが、なかなかレンツからの連絡は来ない上に、オランダ陣営の方からは、なにやら、騒動の音が聞こえてくるのだ。異変に気付いて、ターバーが動き出した時には、すでに手遅れだった。アランたちは、インディアンによって助け出された後だったのだ。レンツも時間塔奪取の任務に失敗した事を、ターバーは悟る。こうなると、もう時間塔への攻撃は不可能だし、ターバーは、腹いせにインディアンの村を時間ロケットのミサイル攻撃で全滅させてから、この時間帯から去っていったのだった。

 リーたちが、驚いて、インディアンの村へ駆けつけてみた時には、もう後の祭りだった。インディアンの村は完全に破壊され、生存者はほとんど居なかった。息絶えようとしていたインディアン酋長の体を抱きかかえながら、アランは必ず仇を打つ事を心に誓う。

 さて、アランたち一行も、この時間帯から飛び立つ事にしたのだが、そこで不思議な事に気付いた。前は、時間塔が着地できなかったはずの22世紀以降の時間が、着地可能な状態に変化していたのである。

 実は、22世紀以降の時間塔のある場所に置かれていたインディアンの遺物とは、シルヴァ・ウォーター部族のものだった。ターバーが、シルヴァ・ウォーターの村を焼き払ってしまったものだから、それらの遺物は未来から消滅してしまい、この区域にインディアンの博物館を設置する事実自体が無くなって、ただの空地になってしまったのだ。

 何はともあれ、これで、時間塔も、ターバーが次に向かったであろう紀元2445年にも行けるようになったのだ。いよいよ、ターバーと決着をつける時が来たのである。

 時間塔内に持ち込んだタイム・テレバイザーで調べてみても、ナネットの行き先は、紀元2445年になっていた。念の為に、捕虜のジョーゼファを連れて来て、彼女が持っていたターバーの所持品を借りて、タイム・テレバイザーにかけてみても、行き先は紀元2445年と出た。もはや、間違いないのである。

 ついでに、一同は、ジョーゼファへ、なぜ、そんなにターバーに執着するのかを尋ねてみた。ジョーゼファは、ターバーに命を助けてもらったのだと言う。悪党のターバーの事だから、きっと、その人助けも単なる気まぐれだったのだろうが、その事をジョーゼファに指摘できる者はいなかった。彼女は、根っからターバーに惚れ、熱く愛してしまっていたようだったからだ。ジョーゼファは、時間塔の一同に、紀元2445年に着いたら、自分をすぐターバーの元に返すようにと、要求したのだった。

 ジョーゼファは、何にせよ、時間塔チームに完全に寝返ってくれた訳ではないらしい。レンツの一件もある事だし、彼女をあまり時間塔内に長居させておくのは得策ではないようだった。一同は、紀元7012年の本拠地にいったん戻ったりするのは止めておく事にした。まっすぐ、紀元2445年に向かうのだ。そして、ジョーゼファを席から外すと、一同は、作戦会議を行なったのである。

 すでに一同は、ターバーとは顔見知りである為、ターバーが紀元2445年に居つく前の時間に先回りして行くような事はできなかった。紀元1664年から飛び立ったターバーのあとを追いかけた、その後の時間に降り立つ事しか不可能なのだ。となると、ターバーはすでに世界征服する為の準備をほぼ完了しているはずであろう。彼は、最強の核ミサイルまで保有している状態だ。何の対抗策も講じずに立ち向かってみたところで、まず勝てる見込みはないのだ。

 そこで、サンが、昔読んだ古文書の内容を思い出した。その古文書によると、紀元5000年ごろ、地球に小惑星が衝突しそうになる危機があったのだと言う。その時、人類は、世界を救う為に、久々に武器を開発した。まさに超文明の技術の粋を集めた究極兵器である。その武器を使って、その時代の人間は、見事に小惑星衝突の危機を回避したのだ。もちろん、平和だった当時の人類は、そんな武器はそれっきり封印してしまい、二度と使う事はなかった。しかし、そのようなものが存在したのは、どうも真実っぽいのだ。そして、小惑星を撃退できるぐらいなのだから、核ミサイルなど屁でもない武器であるに違いあるまい。

 サンとリーは、この古文書の内容を信じて、この幻の超兵器を紀元5000年の人々から借りてくる事を提案したのだった。他の皆も、このアイディアに全ての望みをかける事にしたのである。

 

 ついに、時間塔は紀元2445年に到着した。

 アラン、エドワード、チャーリー、そして、ジョーゼファが降りると、サンとリーだけを乗せて、時間塔は再び消えていった。「24時間後にまた会おう」と約束を交わし合って。

 さて、紀元2445年の時間塔があった周辺は、大都市(大ニューヨーク市)の大通りのど真ん中になっていた。保護区域のインディアンの聖地だったと言う事で、時間塔があった場所だけが、ぽっかりと空地になっていたのである。

 そんな場所に、突然、謎の塔が出現して、そこから人間が降りてきたものだから、周りはすっかり大騒ぎだ。

 すぐさま、この紀元2445年の警察官がやって来て、アランたちは連行される事になった。だが、それはアランたちの目論見どおりだったのである。

 警察署に連れてこられたアランたちは「重要な話があるので、この国の一番偉い人物に会いたい」と交渉し始めた。普通なら、そんな話はタワゴトとして却下されそうだが、アランたちが奇妙な塔から現れた特殊な人間である事は事実だし、何よりも、この時代の人間は素直で、人を信じやすかった。本当に、この都市の責任者である大ニューヨーク市の市長が会いに来てくれたのだ。

 アランたちがターバーの名を出すと、市長がガッツリと食いついてくる。今や、ターバーは、この世界でも大きな悩みのタネになっていたのである。

 簡単に言うと、ターバーは、本日、この大ニューヨーク市を全て、自分に譲り渡すように脅迫してきたのだ。

 もともと、ターバーは、10年ほど前に、大金持ちを装って、この大ニューヨーク市に引っ越して来た、奇妙な外国人に過ぎなかった。ところが、彼は、財力や汚い手を使って、市内の土地を片っ端から買収していったのだ。ついには、市の南半分は完全に彼の土地となってしまった。彼は、自分の居住区を「ターバー帝国」などと呼び、まるで独立国家のように横暴に振る舞い始めたのである。国や市の忠告も聞こうとしないし、住民の義務を果たそうともしなかった。とうとう、今日という日には、脅迫による全市の譲り渡しまでも、要求してきた始末なのである。

 こんな一方的なターバーに、国が太刀打ちできないのは、そもそも、この平和な時代に、こんな馬鹿げた行動をとる奴もいなかったので、警察や軍隊にターバーを押さえ込むだけの実力が欠けていた為でもあった。それどころか、ターバーは、ついにウルトラウラン・ミサイルの存在もちらつかせ始めたのである。強力兵器が全廃されていて、ミサイルも爆撃機もないような、この時代のどの国家にも、ターバーと張り合えるだけの戦力は無かったのである。もし、ここで、ターバーの要求を飲んで、大ニューヨーク市を渡してしまえば、調子に乗ったターバーは、他の土地もどんどん要求し始めて、最終的には、この時代の地球全土を乗っ取ってしまう事だろう。

 大ニューヨーク市長にとっても、今は重大な決断に迫られていた時だったのである。アランたちは、自分たちにはターバーに対抗する策があり、もう24時間待ってほしい、と市長に告げたのだった。

 それにしても、この時間塔の立っている場所が、ターバーに占拠されていなくて、全く、不幸中の幸いだったのである。ターバーは、歴史が上書きされて、この時代に時間塔が来られるようになったのを、まだ知らなかったのかもしれない。さらに、大ニューヨーク市の南はしには、ウルトラウラン・ミサイルの原料となるウラン採掘場があったので、彼としては、どうしても、大ニューヨーク市の南の方から拠点を広げていく必要があったのである。

 その時、大ニューヨーク市長のもとに、返事を催促するターバーからのテレビ電話がかかって来た。

 良き返答を急ぐターバーは、ターバー帝国内にある自分の牙城、ターバー城の屋根から、ついに恐怖のウルトラウラン・ミサイルの発射台を突き出してみせて、大ニューヨーク市長を威嚇してくる。あと24時間待ってほしいと交渉したいところだが、あのターバーが無条件で応じてくれるはずもないだろう。

 ここで、ジョーゼファが、いきなり話に割り込んできた。自分を人質交換に使って、時間を伸ばせばいい、と言い出したのだ。ターバーが、そんな話に乗ってくるとは思えなかったのだが、試してみると、意外にも耳を傾けてきたのだった。彼にも、ジョーゼファにわずかでも愛慕の気持ちがあったのだろうか。

 しかも、アランが少し大胆になって、ジョーゼファとナネットの交換を申し込むと、それにも応じてくる。さすがに、24時間後というタイミングまでは受け入れてはもらえなかった。それでも、20時間後に、大ニューヨーク市の南と北の境界線で、人質交換は敢行される事になったのだ。これで、かなり時間稼ぎができるのである。

 

 そして、人質交換の時がやって来た。

 アラン側の立会人は、アランとエドワードを中心に、大ニューヨーク市長と警護員数名という顔ぶれである。ターバーの方は、用心棒のウンカスとともに、なぜか、大きなトレーラーを持って、やって来た。狡猾なターバーの事だから、このトレーラーの中に、例の混成部隊の大軍団でも隠しているのであろうか。

 警戒しつつも、まずは、厳かに、人質交換が始まった。ジョーゼファは、ターバーにどやされながらも、彼の元へ帰っていく。そして、ナネットもまた、偽物ではない本物のナネットが、アランたちの方へ引き渡されたのだ。

 ところが、ここでターバーが卑怯な作戦を開始した。人質交換の地点のすぐ上空に、いきなり、時間ロケットが出没したのだ。時間ロケットからは、特殊なネットが放たれて、たちまち、戻ったばかりのナネットをすくい上げてしまった。それどころか、大ニューヨーク市長までもが、巻き込まれて、ネットに捕捉されてしまったのだ。

 これは、最悪の展開だった。人質を二人とも奪われた上に、大切な大ニューヨーク市長もターバーの捕虜になってしまったのである。完全にターバーに全ての切り札を持っていかれてしまったのだ。

 さらに、ターバーは、もう一つ、秘密兵器を用意していた。彼のトレーラーから現れたのは、巨大なティラノサウルスだったのである。原始時代から卵を拾ってきて、この土地で、こんなに大きくなるまで育て上げたのだ。まさに、ターバーが誇る混成部隊の最強最大の戦士である。

 アランたちをティラノサウルスに襲わせておき、ターバーたちはさっさと逃げ帰ってしまった。

 凶暴なティラノサウルスはとても手強かったが、それでも、アランたちの知恵と勇気で、何とか撃退に成功する。

 

 ターバー城では、戻って来たジョーゼファが、アランたちが何か企んでいるらしい事を、早速、ターバーに告げ口していた。

 アランたちの策略が気になるターバーは、誘拐した大ニューヨーク市長に目をつける。ターバーは、この市長をあの自白装置にかけて、全てを聞き出す事にしたのだ。市長は抵抗したものの、自白装置の力は強大で、知っている事を洗いざらいに喋ってしまう。

 驚いたのは、ターバーの方だ。もし、アランたちが本当に未来の究極兵器などを入手したら、形勢は一気に逆転してしまうのである。

 時間塔がこの時代に戻ってこれる時間は、もう間近に迫っていた。ターバーは、ジョーナスを呼びつけると、今すぐ時間ロケットを出動させ、時間塔の妨害をするようにと至上命令を下した。

 そして、アランの方の陣営では、ようやく、時間塔が旅立ってから24時間が経ったので、その帰りを保護区域まで出向いて、待ち続けていた。

 果たして、保護区域が光り輝き出し、時間塔が現れそうになった。ところが、時間塔は完全に実体化する前に消えてしまったのである。代わりに、もっと小さな別の光が、同じ場所に現れた。時間ロケットだ。

 時間塔を追撃していた時間ロケットは、とうとう、この時代にまで逃げられてしまったので、最後の手段として、この時代への到着の瞬間を狙って、一緒に到着してやる事によって、時間塔の帰還を阻止しようとしたのだ。

 同じ場所に、同時に二つのタイムマシンが実体化したら、一体、どうなるかは分からなかった。激しい大爆発を起こしてしまうかもしれない。それが怖くて、時間塔も時間ロケットも、なかなか実体化に踏み切れないでいるのだ。

 時間塔と時間ロケットの小競り合いが続く。どちらかが実体化しかけると、もう一方も実体化しようとして、結局、両方とも、いったん、実体化を止めてしまうのだ。そんな事が何度も繰り返された。

 しかし、とうとう、時間塔の方が、覚悟を決めて、最後まで実体化を敢行した。土壇場で恐れをなした時間ロケットは、姿を現さなかった。このチキンレースは、時間塔が勝ったのだ!

 サンとリーが時間塔より降りてくる。皆は、再会と、ミッションの成功を喜んだ。

 そして、サンたちが持って来た兵器とは、原子分解砲だった。遠くのものでも、光線を照射して、原子の粒にまで分解してしまえるのだ。なるほど、これならば、核ミサイルだろうと小惑星だろうと、確実に安全に無害化できるのである。これを、市庁ビルの屋上に取り付ければ、そこからターバー城はよく見えるので、狙い放題であろう。ただし、この原子分解砲を使用可能な状態に組み立ててから、屋上に設置して、起動させるまでは、まだ30分はかかりそうだった。

 その時、市庁ビルの方へ、ターバーからテレビ電話がかかってくる。時間塔の帰還を阻止し損ねてしまった以上、アランたちが行動を起こす前に、自分の方から先に最後勧告を突きつけて、事を有利に進めるつもりなのだ。

 ターバー陣営では、アランたちが手に入れた究極兵器の正体を、まだはっきりとは分かっていなかった。彼らは彼らで、今はひどく用心しているのである。そして、アラン側としても、これは時間稼ぎができる、絶好のチャンスだった。ターバーに気付かれぬように、サンとリーは、こっそりと、原子分解砲を設置しに、市庁ビルの屋上へと向かったのだ。

 アランとターバーの、テレビ電話越しの話し合いが始まる。

 少しでも時間を伸ばそうと、アランは「ナネットの顔を見せてくれ」と頼んだりした。しかし、ナネットは今は人質として、ウンカスとともに時間ロケットに乗せられていた。時間ロケットは、ターバーにとっても最後の砦なので、人質のナネットは、アランたちに迂闊に攻撃されない為の盾代わりに使われたのだ。

 さらに、アランは「もし、本当に今、核戦争など起こしたら、この先の未来の歴史が完全に狂ってしまう」とターバーに警告したりもした。しかし、この忠告も、ターバーには全然こたえなかったのである。何故ならば、21世紀人のターバーにとっては、紀元2400年後の未来など、どうなろうと知った事ではなかったからだ。21世紀以前の歴史さえ改変しなければ、ターバー自身は何の影響も受けないのである。その事を分かってたからこそ、彼は、21世紀以前の過去に行った時には、隠し財宝や埋蔵金だけを盗むと言った、慎重な行動に徹していたのだ。あちこちの時代からスカウトしてきた傭兵ですら、明らかに自分の直系先祖ではない人材ばかりを、より選んでいた。ここまで、狡猾に立ち回りながら、ターバーは今まで上手に時間を荒らしてきたのである。

 しかし、その卑劣な自分本位ぶりを聞かされて、彼のそばにいた仲間のジョーナスやジョーゼファ、さらには、もう一人の人質の大ニューヨーク市長すらも、嫌な表情を浮かべていたのだった。

 ターバーの方には、もはや、これ以上、アランと話し合う意思はなかった。降伏する気がないのならばと、ターバーは、本気で、ウルトラウラン・ミサイルの操縦盤に手を出し始める。だが、ここで、大ニューヨーク市長が、責任を感じて、勇気を振り絞ったのだった。彼は、自分を押さえていたジョーナスを突き飛ばし、それから、ターバーにも飛びかかっていって、操縦盤をぐちゃぐちゃに動かしてしまったのである。

 怒ったターバーは、感情的になって、市長をすぐに射殺した。でも、ミサイルの照準はすっかり狂ってしまっていた。ターバーは、急いで照準を直し始めたが、これで、もう少し、時間を稼げる事になったのだ。

 ここで、もっと想定外の事態が発生しだした。ジョーナスの体が、じょじょに透明になりだしたのである。皆は、驚きながらも、とっさにその原因に気が付いた。あの大ニューヨーク市長は、ジョーナスのはるか大昔の先祖だったのである。市長が死んでしまったものだから、その末裔であるジョーナスの存在も消滅しだしたのだ。

 ターバーのせいで、ほんとに、自分の運命を変えられてしまったジョーナスは激しく憤慨する。気が動転しながらも、ターバーに従うのはもう止めて、格納庫の方へと走りだした。どうやら、ターバーを見捨てて、時間ロケットを奪ってしまうと、ここから自分だけ逃げ出してしまうつもりなのだ。

 アランの陣営では、この瞬間に、まさに原子分解砲のセッティング終了の連絡が入ってきた。ついに反撃の時が来たのだ。アランとエドワードは、ターバーの電話に背を向けて、さっさと市庁ビルの屋上へと向かった。

 その屋上では、サンが早くも原子分解砲を発動させていた。ここからは、ターバー城の屋上にあるウルトラウラン・ミサイルの発射台が丸見えなのである。原子分解砲を一発お見舞いしてみせただけで、ミサイルは、ターバー城の屋上ごと、全て消滅してしまった。恐るべき原子分解砲の破壊力なのだ。ちょうど、市庁ビルの屋上にまで駆けつけて来たアランとエドワードも、この成果を見て、大喜びした。

 ターバー城の方でも、何か大変な事が起き始めた事に気付いたようである。ターバーは、なおも、使えなくなったミサイルの操縦盤をいじっていたが、それどころじゃないとジョーゼファがせかして、ようやく、この二人も時間ロケットの格納庫の方へと逃げ走りだした。

 その時間ロケットの格納庫であるが、ターバー城の屋上が丸ごと消滅してしまった為、完全に外に露出してしまっていた。市庁ビルの原子分解砲からも、存分に狙い撃ちできる状態なのである。

 ジョーナスが操縦しだしたのか、時間ロケットが次第に飛び上がり始めた。そこへ、ようやく、遅れて来たターバーとジョーゼファが走り寄ってくる。哀れにも、時間ロケットに乗り損ねてしまったようだ。

 アランたちは、とっさに、原子分解砲の矛先を、ターバーの方へ向けた。発射!仇敵ターバーは、かくて、一撃で消え去ってしまったのである。

 残るは、時間ロケットだけだった。これを逃せば、また誰かに悪用される恐れがあるのだ。しかし、このロケットの中には、今、ナネットが乗っているのである。アランも、しかし、それ以上に、エドワードが、原子分解砲を発射する事を躊躇していた。と言うのも、これまで一緒に冒険してきた事で、エドワードはすっかりナネットを好きになってしまっていたからである。

 とうとう、アランたちは、原子分解砲を発射し損ねてしまい、時間ロケットは、半壊したターバー城の上空で、光り輝きながら消えてしまった。最後の最後で、別の時間に逃げられてしまったのである。

 と思ったら、時間ロケットは、すぐ同じ場所に出没した。そして、そこで大爆発を起こしたのだ。もしかすると、操縦者のジョーナスが途中で蒸発してしまい、これ以上の時間旅行が不可能になったのかもしれない。こんな結果になってしまうとは、さすがにアランたちも呆気にとられて、落胆してしまったのであった。

 ともあれ、ターバー帝国相手の未来世界の大戦争は、これにてアラン陣営の勝利で終わったのである。指導者が居なくなったターバー帝国の混成部隊の兵士たちも、もはや統制を失い、戦える有様ではなかった。捕虜となった彼らを、いずれ元の時代に戻すかどうかは、サンたちの手に委ねられる事となったのである。

 さて、三日が経ち、ようやく事後処理が済むと、アランとエドワードは、急いで、ターバー城の瓦礫と化した格納庫へと向かった。せめて、ナネットの遺骸や遺品でも見つかるようならば、持って帰りたいと考えたのである。

 その時、奇跡が起こった。空から、無傷のナネットがゆっくりと落ちて来たのである。彼女は、全く無事だったのだ。一体、なぜ?

 実は、三日前に出発した時間ロケットの中では、逃げようとするジョーナスと、今なおターバーに従い続けるウンカスの間で、争いが起きていた。その隙をついて、ナネットはロケットの扉を開き、外へ脱出したのだ。しかし、ロケットはちょうど時間旅行を始めたところだった。ナネットは、時の狭間に落ち込み、一人だけ、三日ずれて、今のこの時間に投げ出されたのである。一方で、時間ロケットは、ジョーナスとウンカスの乱闘で壊れてしまい、元の時間に戻って、爆発してしまった訳なのだ。

 このように、全てはハッピーエンドで終わったのである。

 いや、物語はまだ終わってはいなかった。

 時間塔に乗って、一同が21世紀に帰還してみると、そこでは、チャーリーが、お金持ちの遺産相続人として、快く迎え入れられたのである。彼の財産を狙っていた遠縁の親族が、いつの間にか、存在しなくなってしまったのだ。話を聞いているうちに、ピンとくる事が思い浮かんだのだった。その遠縁の親族とは、オランダ人の血を引いていた。この人物は、実は、アランが紀元1664年に殺したオランダ人総督の子孫だったのである。そればかりか、あのターバー病院も、チャーリーが受け取る財産の一つにと変わっており、慈善的な福祉病院に生まれ変わっていたのだった。

 そして、最後に、リーが、この21世紀の時代から立ち去るのをためらった。彼女もまた、冒険を共にしているうちに、アランの事が好きになっていたのである。ついに、リーは、この時代に残る事を決心したのだった。サンは、妹の決断を認め、一人だけ、紀元7012年の自分の故郷へと帰っていく。

 こうして、21世紀の現代には、勇者たちの二つのカップルが誕生する事になったのだ。この二組の事をチャーリーも祝福してくれて、アランたちの今後の発明活動の資金援助を申し出てくれたのだった。

 一方、紀元7012年の未来では、サンから、これらの結末を聞いて、ポウルも快く思っていた。それと言うのも、ポウルが時間塔を作るにあたって参考にした古文書とは、どうやら、アランたちが残した資料だったみたいだからである。アランたちが作ったタイムスコープも、まんざら完全な失敗品だった訳でもなくて、原理の根本部分が同じだったからこそ、時間塔の姿を映し出したらしいと言う事になる。今回の時間塔での体験を元にして、21世紀では、きっと、アランたちもより完璧なタイムトラベルの理論を完成させてくれるに違いあるまい。

 ともあれ、時間を超えて、全ては丸く収まったのである。

 

 ラストシーンは、暗くしたホールの中で、美しく着飾ったリーが未来の踊り、シャドーダンス(the shadow girl dance)を披露してみせると、他のメンバーであるアランとエドワード、ナネット、チャーリーも次々に混ざっていき、皆で楽しそうに踊りながら、おしまいとなる。


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最終更新日 : 2020-01-05 15:18:16

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映画用「黒の放射線」シノプシス(1)

原作/中尾明「黒の放射線」

 

 オープニング。大宇宙の中に浮かぶ、美しい地球。不気味なBGMとともに、地球に、どうやら怪しい宇宙線が降り注いでいるように思わせる演出。

 タイトル「黒の放射線」

 

 ヒロイン、松田ナオミは、都内の東陽中学校に通う女子学生である。学級委員を務める彼女は、放課後、担任の平井先生に頼まれて、長期欠席中の浅井恵子の家に、様子を伺いに向かっていた。

 浅井恵子は、ミス東陽中と呼ばれる美少女だ。しかも、よくテレビのドラマやCMなどに出演する少女タレントだった。だから、これまでも、度々、学校を欠席する事があったのだが、今回の長期欠席は、さすがに、やたらと長すぎたのだ。

 ナオミは浅井家に着いたが、けっこう大きな豪邸だった。ナオミが、玄関ブザーを押すと、出てきたのは、浅井恵子の母親である。恵子の母は、娘はテレビの仕事のあと、悪い風邪をこじらせたとか、色々と事情を述べて、結局は、ナオミを恵子にも会わせてくれず、追い返してしまったのだった。

 何となく、合点のいかぬナオミは、もうしばらく、浅井家の周りをうろついていたが、ふと、塀越しに見えた恵子の家の窓が、恵子の部屋の窓だった事に気付く。閉めているはずのカーテンが、少しだけ開いていて、内側がそれとなく見えるのだ。

 好奇心から、つい、部屋の中を覗き見してしまったナオミは、ハッとする。

 部屋の中には、ネグリジェ姿の恵子が、うなだれて、ベッドに座っていた。彼女の顔には、口もと全てを覆うような、黒いアザがあったのだ。まるで、マジックで塗りつぶしたみたいな鮮やかな黒だった。そんな顔で、恵子は、グズグズと泣き続けていたのである。

 なぜ、あんな顔をしているのだろう?次のドラマの役のメイクとか?あるいは、美にこだわる恵子は、うっかり危ない化粧品にでも手を出してしまったのだろうか。

 理由は全く分からない。だが、イケないものを見てしまったと、とっさに感じたナオミは、動揺しながら、慌てて、この場から走り逃げたのだった。

 

 ナオミが自分の家に帰ってくると、そこには珍しいお客さんが訪ねてきていた。

 いとこの堀江信一である。母子家庭で育ち、親戚も少なかったナオミにとっては、信一は、小さい頃、兄のように慕っていた存在だった。しかし、彼は、東都大学の医学部に在籍中、その才能を見込まれて、アメリカの医療大学にと研修に行ってしまったのである。そんな信一が、6年ぶりに、ひょっこりと日本に戻ってきたのだ。

 ナオミも信一も、互いに、すっかり成長していた事に、やや驚く。特に、小さかったナオミは立派な美しい娘にと育ったいた。ナオミとしても、この歳になって久々に目にした信一は、なかなかの素敵な男性に見えたのである。何と言っても、ナオミは今、思春期だった。かつてはただの兄代わりだった信一の事も、つい男として意識してしまい、二人のやりとりは何となくギクシャクしてしまったのである。

 そんな信一が、いち早く、ナオミの顔色が悪い事に気が付いた。でも、ナオミは、さっき見た浅井恵子の黒アザの話については、かたくなに隠し通したのだった。

 さて、信一は、アメリカでの研修を終えて、完全に日本に帰国したのだと言う。これからは、大学附属病院の放射線研究室でバリバリ働くそうで、時々、ナオミの家にも遊びに来る事を約束して、今日は帰っていったのだった。

 

 ナオミのクラスでは、相変わらず、浅井恵子は休み続けていた。いや、それだけではない。

 学校に通っている生徒たちの一部が、少しずつ、おかしくなっていたのである。

 欠席する生徒が増えていた。あるいは、怪我をしたのか、体のどこかここかに、包帯やガーゼ、マスクや眼帯などを当てている生徒の姿も目立ち始めたのだ。

 ナオミの親友である庄司礼子も、そのような顔にガーゼをつけた生徒の一人だった。彼女の場合、右頬の上に大きなガーゼを当てていたのである。

 ナオミはその事を心配したが、礼子は暗い表情をして、右頬の事ははっきりとは話したがらなかった。

 ふと、ナオミは、他のクラスの生徒たちの噂話を聞いてしまう。「最近、増えている包帯やマスクの生徒たちは、皆、包帯やマスクの下に黒いアザを隠しているらしい」と言うのである。ナオミは、ハッと浅井恵子の事を思い出した。もしかすると、親友の礼子も、ガーゼの下には、あんな感じのアザを隠していたのでは?

 ナオミは、激しい不安に襲われたのだった。

 

 その日、ナオミが自分の家に帰ってみると、ちょうど、信一が遊びにきていた。

 ナオミは、居ても経ってもいられなくて、心に抱いていた不安を、信一に相談してみようとするが、信一が先に話を切り出してきた。

 近頃、若い子の間で、奇妙な病気が流行り始めているのだと言う。それは、痛みはないが、体に黒いアザができる病気だった。その名も黒あざ病と言う!まさに、ナオミが聞きたかった話題であった。

 信一は、ナオミのことを心配して、そんな話をしてくれたのかと思いきや、実はそうではなく、彼はアメリカにいた頃から、この病気の調査に当たっていたのだった。黒あざ病は、日本だけではなく、今や世界各地で広まりつつある奇病だったのである。そして、信一は、この病気の日本での発生状況を調べる為に帰国してきたのだった。

 信一やその仲間の医師の研究によって、黒あざ病の事はだいぶ解明され始めていたが、それでも、まだまだ謎は多かった。その症状はかなり分かってきたものの、原因も不明であり、治療法も確立されていなかったのである。

「しかし、一つだけ、はっきりしている事がある。この黒あざ病は、伝染病ではないんだ」と、信一は強く断言した。だからこそ、もし身近に黒あざ病の子がいたとしても、避けたり、嫌がったりしないように、とくれぐれもナオミに念を押したのだった。

 ナオミは、礼子や浅井恵子の事を思い出しながら、素直に、信一の言葉に頷いたのである。

 

 だが、次の日、事件は起こった。

 ナオミの同級生のヤンチャな長田修二が、休み時間の教室の中で、ふざけて、後ろから庄司礼子にこっそりと近付き、ガバッと礼子の頰のガーゼを剥がしてしまったのだ。

 途端に、教室の中は静まり返った。礼子の頰には、本当に小さな黒いアザがあったからである。

 誰もが呆気にとられていたが、一番ショックを受けていたのは、やはり、礼子本人だった。彼女は、わなわなと震えたあと、ワアーッと泣き出し、すぐに教室の外へ走り逃げてしまった。

 これを見たナオミは、修二の事を怒鳴りつけてから、急いで礼子のあとを追い掛ける。

 礼子は、校舎の裏で泣き崩れていた。彼女を発見したナオミは、走り寄り、優しく抱きしめる。固い女の友情なのだ。「礼子は、全然、醜くなんかないよ」と、ナオミは、礼子の頰に、自分の肌を擦り合わせてみせる。事前に、信一から情報を聞いていたからこそ出来た行動だった。

 こうして、献身的なナオミの慰めのおかげで、礼子もじょじょに落ち着き始めた。なんとか、気を取り直したのである。しかし、教室に戻れるところまではいかなかった。礼子は、このまま、残りの授業は受けずに、早退してしまったのである。

 残された生徒たちによる、ナオミのクラスでのその後の授業は、すっかり重い空気に包まれてしまった。他にも、包帯を巻いた生徒たちはいたし、彼らも気まずい雰囲気で、さらに彼らを囲む他の生徒たちも、どう彼らを気遣えばいいかが分からなくなってしまったからである。

 自分の悪気ないイタズラがとんでもない事になってしまったのを自覚して、修二も深く反省し、暗くうなだれていた。彼は、コソッとナオミに謝ったのだが、ついナオミはつれない態度をとってしまったのだった。

 

 その夜、ナオミは、昼間の出来事を思い出し、礼子の事を心配しながら、自分の家で過ごしていた。

 その礼子もまた、今は自分の家に戻っていた。彼女は、鏡の前に立ち、頰のガーゼを外し、そこにある黒アザを憎みながら、涙を流していた。すると、恐ろしい事が起きたのである。彼女が見ていたその瞬間にも、黒アザが生き物のように大きく広がりだしたのだ。あっという間に、彼女の顔の半分を黒アザは覆い尽くした。恐怖のあまり、礼子は凄まじい悲鳴をあげたのだった。

 それから間もなくして、ナオミの元へ、礼子の母から電話が掛かってきた。礼子が、急に錯乱状態になって、家を飛び出してしまい、そのまま戻ってこない、と言うのである。ナオミは、信一や平井先生にも連絡を取り、夜中だったが、すぐに礼子の家に駆けつけた。礼子の母自体も、やって来たナオミを思わず自分の娘と間違えてしまうような混乱ぶりだった。

 その後、信一や平井先生が集めたクラスメートたちとともに、居なくなった礼子の捜索を始める事となる。だが、礼子はなかなか見つからず、ひとまず子供たちは自宅待機という事になったのだった。あれほど元気だった修二も、すっかり自分のことを責めてしまい、わんわん泣き続けていた。

 次の日の朝方に、生徒たちの元へ、平井先生から連絡が入った。どうやら、礼子が見つかったかもしれないと言うのである。しかし、それは東京湾に身投げした水死体という形でだった。今、礼子の母が身元確認に当たっているのだと言う。

 ナオミは人違いである事を祈ったのだが、礼子の母は、その水死体を自分の娘だと認めてしまったのだった。ナオミだけではなく、彼女のクラスの級友たちも、いや、東陽中学全体が悲しみに包まれた。

 そして、数日後、礼子の葬式が行われたのであった。司法解剖された為、棺に収められた礼子の姿は見せてもらえなかったが、葬式に参列した級友たちは、皆、泣きながら、礼子の事を見送ったのだった。

 

 世の中は、確実におかしくなり始めていた。礼子が自殺した頃を境に、黒あざ病患者はいっきに世間に増えだし、その病状も悪化しだしたようなのだ。新聞や雑誌、テレビのニュースでも、黒あざ病の事が大きく取り上げられるようになった。相変わらず、黒あざ病の原因も治療法も不明のままだったが、マスコミは、この病気が伝染病ではない事を強調して、不要な恐怖心を煽らないように注意した。さらに、信一がナオミに教えてくれた最新情報によると、子供だけではなく、大人の黒あざ病患者も増え始めている、と言うのであった。

 このような社会の不穏な空気に流されて、ナオミの学校でも、いろいろと不都合が起き始めていた。

 まずは、黒あざ病にかかってしまったらしい生徒たちが、完全に欠席するようになってしまった。もはや、包帯やガーゼで隠していても、皆には黒あざ病だとバレてしまっているので、とても学校には居づらいのである。あれほどマスコミが伝染病ではないと訴えたにも関わらず、まだ黒あざ病ではない人たちは、黒あざ病の人間の事を強く警戒した。やはり、実際に、あの黒いアザを見てしまうと、もしかすると、病気がうつるのではないかと言う恐怖心が湧いてきてしまうのだ。その為、学校の中だけではなく、社会全体で黒あざ病患者を避けて、あるいは、積極的に排他しようとする気運まで生まれ始めたのだ。これでは、とてもじゃないけど、黒あざ病患者の生徒たちは、学校には登校できないのである。

 ある時、ナオミは、校庭で、一人の生徒が皆から虐待されているのを目撃した。ナオミは驚き、慌てて加害者たちを追い払って、その生徒の事を助けたが、その生徒とは黒人のキンダー少年だった。彼は、全身が真っ黒だったものだから、それだけで、黒あざ病扱いされてしまって、他の子から虐待されてしまったのだった。こんな事が起きても、キンダー自身はけっこうアッサリしていて、現状を受け入れていたようなのだが、むしろ、ナオミの方が激しいショックを受けたのである。

 このままでは、黒あざ病患者への差別はもっとエスカレートしていき、世の中は二分して、いがみ合いになってしまうかもしれない。いや、すでに、外国の、白人と黒人が共存しているような地域では、キンダー少年への虐待をもっと大きくしたような黒人迫害が起き始めていたのだ。世界は人種差別がひどかった時代に逆戻りしようとしているのである。

 そんな矢先、学級委員であるナオミは、平井先生に呼び出された。

 先生の話は、他でもない、この学校でも今や全校生徒の5分の2が黒あざ病にかかっていたので、その事でナオミに相談してきたのだ。ナオミのクラスでも、現在、20人近くの生徒が欠席していた。学校の意向としては、どうにか、これらの生徒を、もう一度、登校させられないだろうか、と言うのである。そうじゃないと、学校のあり方そのものが崩壊してしまうだけではなく、本人たちの将来にも良くないのだ。

 平井先生は、今日の放課後は、不登校の生徒たちの家を家庭訪問してみて、皆に登校するように説得するつもりだったが、なにぶん、一人では手が回らなかった。それで、ナオミらクラスの役職についている生徒たちにも、説得作業を手伝ってもらう事にしたのである。

 色々あって、黒あざ病には人一倍関心を持っていたナオミは、すぐ先生の依頼を引き受けたのだった。

 彼女は、5人の生徒を受け持つ事になった。その中には、あの長田修二もいた。皮肉な事に、礼子を追い込んだ修二も、今度は自分が被害者になってしまったのである。

 ナオミが修二の家に訪れると、案の定、修二は完全にいじけていて、最初は、まともにナオミの話を聞こうともしなかった。「どうせ、ザマアミロと思ってるんだろ」と、修二はヒネくれた事を言う始末である。しかし、ナオミが真剣に説得してみたところ、ようやく、修二は心を開きだした。そして、どうにか、明日、学校に出てくる約束を取り交わしたのである。実は、修二は、ナオミの事がひそかに好きだったようだ。

 とにかく、こんな感じで、ナオミは、級友たちを説得して回ったのだった。彼女の作業は、順調な方だった。真面目に説得をした事で、ひとまず、どの不登校の級友も、とりあえずは、明日、登校してくる事を約束してくれたのである。ナオミも、なかなかの手応えを感じたのだった。

 ナオミが、級友の家回りを終えて、自分の家に戻ってきた時には、もうだいぶ日が暮れていた。頑張ったナオミに、母は優しくねぎらいの声をかけてくれる。そして「久しぶりに、一緒にお風呂に入ろうか」と言ってくれたのだ。なんとなく嬉しくて、母に甘えたくなったナオミは、素直に頷いた。

 二人は一緒にお風呂へと入った。もちろん、二人とも裸である。ナオミの体はまだまだ全体的に蕾(ずん胴で、微乳。お尻も小さめ)だったし、母はすっかり熟れた中年の肉体をしていた。でも、親子ともども、肌が白くて、健康的で綺麗なヌードなのだ。裸でもイヤラシさはなく、とても清潔感のある、爽やかな入浴光景なのである。

 ナオミは、母の背中を流してあげようとした。しかし、その時、気付いてしまったのである。母の背中には、ポツンポツンと小さな黒いアザができていたのを。そう、最近は、大人だって黒あざ病にかかったのである。

 ナオミは、震えながら、この事を母にも伝えた。母も激しいショックを受けたようだった。黒あざ病にはだいぶ慣れてきたつもりだったが、それでも、自分や一番近い身内がかかってしまうと、やはり、動揺を隠せないのである。二人は、風呂場の中で、震え泣きながら、強く抱き合った。「大丈夫。黒あざ病になっても、死ぬわけじゃないんだから」と、お互いに言い聞かせながら。

 

 翌日、学校では、ナオミの説得活動の甲斐もあって、多数の黒あざ病の生徒が登校してきていた。実際には、昨日は学校全体で連携して、多くの黒あざ病の生徒の説得作業に当たっていたのである。その為、かなりの生徒が、再び学校に出てきてくれたのだ。

 その中には、修二の姿もあった。彼らは、相変わらず、黒アザのある部分を包帯やガーザなどで隠した形での登校なのである。この前以上に、校舎の中には、包帯やガーゼ姿の生徒が溢れる事になった。生徒の5人に1人は黒あざ病だったのだから、当然なのだ。

 このように、黒あざ病の生徒は、アザを隠していても、一目で分かってしまい、その事がよけい学校中をざわつかす事となったのである。ナオミも、ただでさえ、昨夜の母の一件で落ち込んでいたのに、校内の不穏な様子に、さらに嫌な予感に襲われたのだった。

 ナオミの不安は、午前の授業が始まって、すぐに現実のものとなった。

 席の座り位置のことで、いきなり、男子生徒たちが揉め出したのだ。その中心にいたのは、修二と、小山治だった。黒あざ病じゃない治が、露骨に、修二の隣の席に座るのを嫌がったのである。たちまち、教室全体を巻き込む騒動となってしまった。

 ナオミは修二の味方について、必死にかばうが、治はまるで折れようとはしない。それどころか、病気がうつるとか、気持ち悪いとか、黒あざ病患者が傷つくような事を平気で言いまくるのだ。本来ならヤンチャな修二だったが、ただでさえ病気のせいで気落ちしていたので、治にやり返そうとはしなかった。

 とうとう、ナオミは「あなただって、いつ黒アザができるか分からないのよ」と治をたしなめてみたのだが、治は「ぼくはSL教団に入ってるから平気だよ」と言い返してくるのだった。

 SL教団とは、ここ最近、力をつけてきた怪しい新興宗教である。この教団に入れば黒あざ病にかからない、などと宣伝しており、全く、世間に不幸があるほど、そこにつけ込んで、こういう奴らがはびこるものなのだ。

 あまりに治がある事ない事をわめくものだから、周りにいる級友たちも、避けるような目を三人の方に向け始めだした。いたたまれなくなった修二は、つい教室から飛び出したのだった。

 その修二のあとを、ナオミは急いで追いかける。廊下の途中で、ナオミは修二を捕まえたが、修二はすっかり自信を失っていた。彼は、もう家に帰りたいと嘆いていた。

 懸命に修二を慰めるナオミは、ふと、ある作戦を思いつく。彼女は、修二に「黒あざ病の仲間を集めるのを手伝って」と持ちかけたのだった。

 

 その日の昼休み、今日登校してきた黒あざ病の生徒たちは、いっせいに校庭のど真ん中にと集まった。かなりの人数なのである。その先頭に立っていたのがナオミだった。

 校庭からも、校舎からも、他の生徒たちが何事かと注目しだしたところで、ナオミが合図を送った。すると、黒あざ病の生徒たちは、同時に、自分のつけていた包帯やガーゼなどを外してしまったのだ。自分の黒アザを、堂々と晒してしまったのである。それは、圧巻の光景だった。

「ねえ、皆、見て!アザがあるだけで、何も今までとは変わらないのよ。これまでどおりの、一緒に仲良く遊んできた友達なのよ。分かるわよね、皆!」ナオミが力説した。

 すると、治などの一部の生徒は小バカにしていたが、他の生徒たちは次第にナオミの意見へとなびき始めたのだった。彼らだって、本当は、黒あざ病の友達と仲良くしたかったが、周囲の反応を気にしていただけだったのである。

 ナオミの作戦勝ちだった。たちまち、校庭の黒あざ病の生徒たちは、沢山の友達だった級友たちに囲まれて、皆とは元のような関係に戻れたのである。ナオミは、ホッと息をついた。

 治のような生徒は少数派で、彼らだけは、遠くで苦い表情を浮かべていた。

 職員室からは、平井先生も、このナオミのお手柄を眺めていて、彼女の機転ぶりに満足していたのだった。

 

 黒あざ病への差別や偏見と戦っていたのは、ナオミの学校ばかりではなかった。他のあちこちの場所でも、じょじょに、差別行為と戦う運動が繰り広げられていったのである。マスコミも、差別と戦う側に味方して、黒あざ病を普通に扱うような放送をじゃんじゃん流した。それが、各国の政府の方針でもあった。

 このような運動がせっせと続けられた結果、ようやく、効果が出てきて、黒あざ病にかかった人々も十分に市民権を得られるようになっていったのだ。彼らも、黒あざ病じゃない人々の中に混ざっていても、別に意識されなくなってきたのである。単に、黒アザの人種が新たに増えただけみたいな感じになってきたのだ。

 むしろ、黒あざ病の人間は沢山いたので、社会に影響を及ぼす、大きな勢力にも成りつつあった。黒あざ病患者向けの宣伝とか商品とかも出回り出したのである。

 ナオミと母が、自宅でテレビで見ていると、CMに浅井恵子が出ていた。久しぶりのテレビ出演である。しかし、そのCMと言うのが、自分の顔にできたアザを利用した黒いチョコレートのCMだったのだ。自分の欠点を逆用したアプローチだった。それでも、このように堂々と黒アザを晒した事で、他の黒あざ病の人々には共鳴してもらえたし、そうじゃない人々にも、彼女の勇気を賞賛してもらえて、むしろ、浅井恵子の評判を高める事となったのである。

 このような感じで、黒あざ病の人間は、ごく普通に、世間の中に馴染み始めていた。それは、世の中にとっても、望ましい展開だったのだとも言えた。そもそも、今や、黒あざ病患者は世界人口の5分の1にまで膨れ上がっていたし、いちいち区別してもいられない状況になり始めていたのである。

 町の通りにも、ごくごく当たり前に、黒アザのある人たちが歩いていた。そんな周囲の様子を観察しつつ、ナオミとその母は、その日は、礼子の母の家へと歩き向かっていた。礼子の仏前に、線香をあげにいったのである。

 久しぶりにあった礼子の母は、なんと、顔に大きな黒アザができていた。気の毒に、彼女も黒あざ病になってしまったのである。だが、礼子の母は、その事をさほど悔やんでるようでもなく、娘を失ったショックもだいぶ落ち着き始めていたみたいだった。家に上がって、色々と近況をかわしたところ、礼子の葬式を終えたあと、彼女の父親は、出張先だったアメリカへ戻ってしまったそうで、今、この家には、礼子の母一人で住んでいたらしい。

 そんな時、家の固定電話が鳴った。ナオミは、うっかり、自分の家のつもりで、その電話に出てしまう。ナオミの声に、相手も驚いたようだ。相手は、すぐ名乗らず、ずっとモゴモゴしていたが、何となく聞き覚えのある女の子の声なのである。ナオミが、自分の失敗を恥じながら、受話器を礼子の母へ渡そうとすると、実は、そちらでも怪しい異変が起きていた。

 礼子の母も、ナオミの母も、ボッとして座り込んだまま、動かないのである。びっくりしたナオミは、二人のそばに走り寄った。もう、電話どころではないのである。

 ナオミが、いくら体を揺すってみても、母たちは意識が飛んだままだった。それどころか、ナオミのことを無視して、催眠術にかかったように、ゆっくりと立ち上がったのだ。そして、静かに歩き出すと、靴も履かずに、玄関から家の外へと歩き出したのである。ナオミは、うろたえながら、二人のあとについていった。

 通りでは、似たような黒アザの人間が、何人も、同じように、ぼんやりした状態で、よたよたと歩いていた。どうやら、ナオミの母たちだけの現象ではないようなのである。この黒アザの人々は、見たところ、同じ方向に向かって歩いているみたいだった。でも、ずっと真っ直ぐ歩けば、結果的には、海についてしまうのだ。

 ナオミは、オタオタしながら、母たちに寄り添って、ついていったが、突然、母たち二人は意識がはっきりしたのだった。彼女たち自身、何が起きたのかを理解しておらず、驚いていたようだ。周囲では、他の黒アザの人たちも目を覚ましたようで、皆、混乱していた。

 どうも、新しい事件が起き出したようで、ナオミも強い不安を感じたのだった。

 

 数日後、ナオミと母は、信一の研究室に訪れていた。一体、黒あざ病をめぐって、今度は何が起き始めたのかを知りたかったからである。

 最新の研究を行なっている信一の研究室でも、全ての実態は掴みきれていなかったようだった。だが、この謎の黒あざ病患者の行進は、あれ以来、あちこちで起きていた。短い時間だが、特定地域にいる黒あざ病患者が、催眠状態になって、いっせいに歩き出すのだ。原因や目的はよく分かっていなかった。必ずしも、その地域の全ての黒あざ病患者がおかしくなる訳ではなく、何らかの法則性はあるらしい。

 そこで、信一の研究室が新しく発見した事は、黒あざ病と宇宙線の関係性だった。黒あざ病が流行り出した頃から、地球に降り注ぐ宇宙線の種類が変わり始めていると言うのである。特に、黒あざ病患者の行進があった時には、その地域には、新種の宇宙線が大量に降っていた。つまり、黒あざ病とは、未知の宇宙線がもたらした新しい病気だった可能性があるのだ。

 そのへんは、信一だって、放射線研究室で働いているぐらいだから専門分野だったのだが、それでも、それ以上の事は突きとめられてはいなかったのだった。

 とりあえず、今は状況を見守るしかなかった。歩き出してしまったら、もはや、その黒あざ病患者を止めるのは至難の技なのだ。と言って、大量にいる黒あざ病患者を全て、病院に入院させる事もできない。ひとまず、信一は、ナオミたちに睡眠薬PKを手渡してくれた。黒あざ病患者が放心状態になった時点で、この薬を飲ませれば、眠り込んでしまい、勝手に歩き出す事だけは避けられると言う。この薬は、政府の方針としては、近いうちに、全国の家庭にも配られる予定らしかった。

 

 そして、黒あざ病患者の行進は、ナオミが学校にいる時にも発生したのである。

 それはちょうど、校長が朝会で挨拶をしている最中だった。その校長が率先して、皆の目の前で、放心状態になって歩き出してしまったのだ。それだけではない。他にも、集会の列を乱して、黒あざ病の生徒が次々に歩き出した。その中には、もちろん、修二も混ざっていた。黒人のキンダー少年すら、一緒に歩いていた。彼も、肌の色のせいで目立たなかったが、実は黒あざ病を患っていたのである。

 いや、この時、他にも、服に隠れて、アザが見えなかっただけで、実は黒あざ病だった生徒や教師も、多数判明してしまったのだ。あの頼れる平井先生も、その一人だった事が分かって、ナオミは軽いショックを受けた。

 信一の話していた睡眠薬の配給は、まだ行われていなかった。やはり、全国の分の薬を用意するのは、時間がかかるのかもしれない。そんな訳で、朝会にいた皆は、この突然の黒あざ病患者たちの異変に混乱し、あたふたしてしまったのだった。黒あざ病の行進を初めて知った人も多かったようで、さらに皆を戸惑わせたのである。

 幸い、今回の黒あざ病の行進は、患者たちが校門から出て行く前に終了した。特に、大きな被害はなかったのである。

 しかし、この事件が皆にもたらした恐怖は並々ではなかったらしく、再び、黒あざ病患者とそうじゃない人たちの間で分断が起こりそうな不穏な空気が流れ始めたのだった。

 そんなバタついた中で、あの小山治が、ひょっこりとナオミに話しかけてきた。アンチ黒あざ病の治にしてみれば「ほれ、見た事か」と言う感じなのだ。それどころか、治は、ナオミに少し気があったらしく、「君もあんな風にしたくないから、SL教団に入らないか」などと誘い出したのだった。当然、ナオミは、そんな話は受け流した。

 しかし、治の方は、かなりSL教団を信用しきっており、熱を上げているらしい。今度、家族全員で、SL教団の総本山のある下田へと引っ越し、そのまま、教団本部内で暮らす正式信者にしてもらう、と言うのであった。

 ナオミとしては、母をはじめとした、すでに黒あざ病になってしまった身内の事の方が心配なのであり、治の話は、あまり感心できなかったのだった。

 

 ナオミにとって、さらに辛いニュースが届いた。信一が、より本格的に黒あざ病に取り組む研究チームのメンバーにと抜擢されて、下田の大きな研究所の方へ転勤する事になったのである。いきなりの話だった。

 すぐにでも引っ越さねばいけない為、信一は、わざわざ、ナオミの家にまで来て、その話をじかに報告し、ナオミたちに別れも告げに来たのである。

 再会してから、ナオミは、どんどん信一への信頼を強めていくばかりだったので、これは悲しい話だった。心にぽっかりと穴が空いたような気分なのだ。

 信一は、黒あざ病の母の事をナオミに任せて、時々、東京にも帰ってくる事を約束して、明るく振舞って、ナオミの家から去って行く。

 そのあとのナオミは、ちょっと感傷的な気持ちにふけっていた。自分の部屋のベッドに転がり、ずっと、ぼんやりとしていたのだ。

 そんな時、信一から、慌てた様子の電話が掛かってくる。ナオミが受話器を取った。信一は、今、研究室に戻ったばかりだったのだが、その矢先に、東京に降り注ぐ、ものすごい量の宇宙線が観測された、と言うのである。これは、かつてない大規模な黒あざ病の行進が起きるかもしれない。それを心配して、信一は、真っ先にナオミに知らせてくれたのだった。

 ハッとして、ナオミが窓の外を見ると、夕暮れの通りには、確かに、黒あざ病の人たちが、ブラブラと歩き出し始めていた。この恐れていた事態までに、とうとう、睡眠薬の全国配布は間に合わなかったのである。

 ナオミは、すぐに、自分の母の事を思い出した。急いで、家の中を探し回ったが、母の姿は見当たらなかった。台所の食器が中途半端に放置されている。どうやら、強い宇宙線がいきなり襲って来たものだから、たちまち催眠状態になってしまい、母もすぐに行進を始めてしまったみたいなのだ。

 動揺したナオミは、半泣きになって、家の外に飛び出した。急いで、母を探さなくちゃいけないのである。まだ遠くには行ってないかもしれない。

 だが、通りには、どんどん、催眠状態の黒あざ病患者が溢れ出していた。しかも、夕方で、周囲が暗くなっていく一方なので、誰が誰だか判別がつかなくなりだしているのである。

 ナオミが困惑していると、彼女のそばに駆けつけて来た者がいた。信一である。実際には、任務として、現地調査に来たのかもしれないが、偶然にも、ナオミの姿を見つけて、寄り添ってくれたのである。

 しかし、この状況では、さすがに信一でも、どうしようもなかった。ナオミの母がどこにいるのかは、全く分からない。行進する黒あざ病患者は増えていくばかりだ。その中には、ナオミの知り合いも見かけたが、だからと言って、どうする訳にもいかなかった。

 いつになく大きな黒あざ病の行進なのである。その中に巻き込まれてしまったナオミと信一は、ぐんぐん集結する行進の群れから逃げ出す事すら出来なくなり、やむなく、一緒に行進に混ざって、歩き続けた。

 警察や自衛隊すら、この黒い行進には手をこまねいていた。下手に妨害して止めようとすれば、逆に患者たちを傷つけてしまう恐れがあるのだ。こうなったら、彼らを思う存分に歩かせる事にして、目を覚ますまで待つしかなさそうなのであった。

 ところが、いっこうに行進は終わらなかった。もう2時間近く、黒あざ病患者たちは歩き続けているのだ。その大集団の目の前には、ついに港の岸壁が迫っていた!

 黒あざの行進の先頭が、片っ端から海の中へ落ちていき、いよいよ、ナオミと信一も、岸壁の前まで来る瞬間が近付いてきた。もはや逃げようがないのである。

 二人は、そのまま海に落ちる覚悟を決めた。信一がリードしながら、二人はジャバーンと海に飛び込む。慎重に呼吸のタイミングを合わせたので、つい慌ててしまって溺れる事もなく、どうにか、この危機をしのいで、二人は近くの砂浜まで泳ぎ着いたのだった。

 その砂浜には、どんどん、水死体が打ち上げられていた。意識のない状態だった黒あざ病患者たちでは、海に入ったら、溺れるしかなかったのである。砂浜に並べられた水死体の列の間を、ナオミと信一は、うろたえながら、駆け回った。そして、とうとう、ナオミの母親の姿も発見したのである。

 母は、すでに虫の息だった。彼女は、最後の頼みとして、ナオミの事を信一に託すと、その場で息を引き取ったのである。号泣するナオミを、信一は優しく抱きしめた。

 こうして、ナオミは、信一の下田の新住居の方へと引き取られる事となったのだ。


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最終更新日 : 2020-01-05 15:18:16

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映画用「黒の放射線」シノプシス(2)

 今回の東京での黒あざ病の行進は、これまでにない大惨事と化したのだった。この行進で、東京にいた黒あざ病患者は、ほぼ一掃される事となった。そのほとんどが、海に落ちて、溺れ死んでしまったのである。その数は2000人以上を超え、行方不明者も100人近いと発表された。

 修二も、平井先生も、浅井恵子も、キンダー少年も、礼子の母も、ナオミの知っている黒アザの人々は、恐らく、誰も彼もが亡くなってしまった。その事によって、ナオミも、東京から出て行く踏ん切りがついたのである。

 そして、ナオミは、信一について、新たに、下田で暮らすようになったのだ。

 ナオミは、信一が新しく勤める事になった研究所の社宅に、信一と一緒に住める事となった。しばらくは、心の傷を癒す為に、学校も休んで、この土地で療養させてもらうのである。

 信一の方は、早くも、研究に戻ったようだった。何としてでも、憎き黒あざ病の対処法を見つけ出し、皆の仇を取りたいと言う執念で燃えていたのだ。

 信一たち研究者の仮説どおり、黒あざ病と宇宙線が関係しているのは、もう、ほぼ間違いなさそうだった。どうやら、人間の体に黒アザを発生させる宇宙線や、その黒アザを通して、人間の心をコントロールする宇宙線などがあるみたいなのだ。信一は放射線の研究が専門だったし、毒には毒をの発想で、宇宙線で出来た黒アザを、似たような放射線で焼き消せないかとも考えたのだが、今のところは、そのような効果のある放射線も見つかってはいなかった。

 さて、最初は暗く沈み込んでいたナオミも、少しずつだが、気持ちが回復してきたようだった。彼女は、ようやく、社宅の外にも出てみる気になったのである。

 実際に、下田の町を歩いてみると、自然も多いし、爽快なのであった。あの悪夢のような出来事を、やんわりと忘れさせてくれそうなのである。

 下田の町の中には、あちこちにSL教団の宣伝ポスターが貼られているのも、目についた。そう言えば、ここにはSL教団の総本山があるのだ。多分、あの小山治も、そこに居るのかもしれない。

 本当のことを言えば、ナオミは、あまり治のことは好きではなかった。でも、知らない人だらけのこの町で、ちょっと、懐かしい顔にも会ってみたい心境になってきたのである。

 ナオミは、通りすがりの人に聞いたりして、一人で、SL教団の総本山へと目指してみた。すると、間もなく、総本山と呼ばれる場所は見つかったのである。

 そこは、けっこう広い区域だった。ちょっとした町のような構造の空間なのである。SL教団では、信者たちに大量にお布施をさせて、こんな沢山の土地を買い取り、自分たちの拠点にしていたのかもしれなかった。

 本部の入り口で、ナオミは、SL教団の係員によって、やや感じの悪い尋問をされた。だが、治の名前を口に出すと、その治が本部内からやって来て、彼の紹介で、中に入れてもらえる事になったのだった。

 治は、ナオミが来てくれたものだから、大変に喜んでいた。彼は、有頂天になって、得意げに、SL教団の本部内を色々と案内してくれた。

 困惑したナオミは「まだ入会を決めた訳じゃない」とはっきりと告げると、治は「だったら、教祖の祈祷だけでも聞いていったらいい」と言うのだった。この祈祷会への参加は、信者以外でも自由で、この祈祷を聞けば、黒あざ病にかからなくなるのだそうだ。

 あまりに胡散臭い話ではあったが、治が強く勧めるものだから、つい流されてしまい、ナオミも、その祈祷会だけは出席してみる事にしたのだった。

 祈祷会は、SL教団本部の広い集会場にて行われた。まるで劇場みたいな場所で、多くの信者があがめる前で、前方のステージで、教団の教祖が祈祷を行なうのだ。

 いよいよ、祈祷会が始まり、教祖が姿を現した。白いガウンで身を覆った、怪しい中年男なのだ。さらには、ベールをかぶった巫女たちも三人登場して、教祖の周りで、演出として舞ってみせたのだった。この教団のご神体だったのか、巫女たちは、それぞれ、変わった色の丸い小石を大事そうに抱えていた。

 だが、ここで、ナオミは、ハッとしたのである。巫女の一人が、死んだはずの庄司礼子とそっくりな顔をしていたのだ。体格も似ていた。ただし、黒アザは患っていない。これは、単なる他人の空似だったのだろうか。ナオミは、教祖の祈祷中、すっかり、その事ばかりに、頭が集中してしまったのだった。

 そして、実は、この時、教祖もまた、参加者の中から、特にナオミの事を見つけて、その姿に鋭い視線を向けていたのである!

「三日後、神が海へと降りられたまう」と言うのが、教祖の今回の祈祷の締めの言葉だった。

 祈祷会が終わり、参加者たちはザワザワしながら、集会場の外へ出ていった。ナオミは、たまたま、巫女たちが自分の目の前でたむろしているのを目にしたのだった。そこには、あの礼子似の巫女もいる。

 ナオミは、思わず「礼子!」と呼んでしまった。すると、その礼子似の巫女がナオミの方に振り向いたのだ!ナオミもびっくりしたが、その巫女の方も、ナオミを見て、驚いた表情を浮かべていた。その巫女は、動揺しながら、急いで、この場から走り去ってしまった。

 おかしな話だが、もしかして、あの巫女は本当に礼子だったのだろうか?この疑問を、ナオミは、素直に治へと話してみた。でも、治はまるでピンと来てないようだった。それもそのはずで、礼子はもう死んだのだ。あの巫女は、確かに礼子には似ているが、高野はる子と言う名前なのだそうだった。

 

 その夜、研究所の社宅に戻って来たナオミは、SL教団の本部を訪問してきた事を、信一に報告していた。

 信一は、SL教団には、たいへん立腹しているのである。SL教団は、黒あざ病と言う皆の不幸につけ込んで、今や、国内でも絶大な勢力を誇り始めていたのである。入信したものは、財産をお布施として没収され、SL教団はさらに膨れ上がっているのだと言う。やがて、SL教団は、一つの独立国家のような存在にもなりかねないのではないかと恐れられていた。しかし、一方で、なぜかSL教団の信者が黒あざ病になりにくいと言うのも、事実らしいのであった。

 ナオミは、礼子似の巫女にあった事までは、信一には告げなかった。たわいもない偶然で片付けられて、笑われそうだったからである。

 それから三日後の夜、信一の研究所では、激震が走った。かつてないほどの強力な宇宙線が観測されたのである。もしかすると、あの東京の黒あざの行進みたいなものが、再び起こるかもしれない!

 皆は、息を飲んで身構えて、各地にも警告を流したが、しかし、実際には、そのような最悪な事態にはならなかった。その代わり、夜空には美しいオーロラが輝いたのである。もちろん、こんな緯度ではオーロラなど発生するはずもないのにだ。まさに、宇宙線が招いた異常現象だったのだろうか。

 社宅から、このオーロラを見守るナオミは、遠くの小高い丘に、一人の人物が孤高に立って、空を見上げているのを発見した。その人物は、ガウンを着ており、どうもSL教団の教祖っぽくも感じられたのだ。ナオミは、その事を信一にも話してみたのだが、あまり真剣には聞いてくれなかった。でも、三日前、教祖は予言していたのだ。今夜、神が海へと降りてくる事を!この美しいオーロラを伴って、恐るべき何かが地球に侵入していたとは、この時点では、まだ誰も気付いてはいなかったのである。

 

 SL教団の敷地内には、教祖だけが入れる神聖な場所があった。それが、下田の海につながる地下洞窟である。

 オーロラが現れた翌日、教祖はその地下洞窟へと訪れていた。

 その洞窟には、海と直結した水脈があるのだ。教祖が、その水脈の前に立ち、祈り始めると、海水が波立ち出した。大きく跳ね上がるだけではなく、オレンジ色にも光り出したのだ。

 教祖が、バッとガウンを脱いだ。その裸の体も、怪しくオレンジ色に光っていた!教祖は、躊躇する事もなく、ジャバンと、踊る海水の中に飛び込んでみせたのだった。

 

 あのオーロラが見えた夜以来、海での海産物の収穫は異常なまでに落ち込んでいた。まるで不漁なのである。

 その事をこぼしながら、それでも航行を続けている漁船があった。その船が、突如、嵐に巻き込まれたのだ。天気予報では警告していなかった、いきなりの嵐だった。ただの暴風ではなく、どこか奇怪な波の荒れ方なのだ。漁船はたちまち、その波に飲み込まれて、転覆してしまった。

 すぐに救助隊は派遣された。すでに晴れていた波間に、船の残骸は見つかったが、乗員は死体一つ発見できなかったのだった。

 そんな事件があちこちで繰り返された。

 一方で、黒あざの行進も、相変わらず、各地で起きていたのだった。しかし、これまでと違う要素が加わり出していた。海に落ちてしまった被害者たちが、そのまま、水死体も見つからなくなってしまったのである。海水に飲まれた黒あざ病患者は、どこに消えたのか、行方不明になり、文字どおり蒸発してしまうのだった。

 これでは、不幸の上乗せである。残された身内は、見つからない黒あざ病患者の安否を悲しむとともに、何が起きたのか、頭を悩ませたのだった。

 

 さて、下田の黒あざ病対策の研究所の社宅では、今度は、ナオミのもとへ治の方が訪ねてきていた。

 治は、勝手な思い込みで、ナオミがもうSL教団に入団するものだと思っており、最近、彼女が教団本部へと顔を出していなかったものだから、わざわざ、呼びに来てくれたのである。

 SL教団になど入れ込んでいないナオミとしては、いい迷惑な話だったが、彼女には一つだけ気に掛かっていた事があった。あの礼子似の巫女、高野はる子である。この際、全くの他人であったとしても、礼子のことを偲びながら、あのはる子と会って、話をしてみたいと思い始めたのだ。

 かくて、ナオミは、治に連れられて、再びSL教団の本部にお邪魔してみたのである。

 教団本部に着いても、ナオミの目当ては、はる子だけだ。あちこちを気を付けて、見回しながら、ナオミはようやく、はる子を発見したが、ナオミが声を掛けようとしたら、はる子はまたもや慌てて逃げてしまったのだった。

 そんなつれない態度を取られたナオミに、ひょっこり話しかけてきた者がいた。なんと、SL教団の教祖である。

 相手があまりの大物だったから、動揺したナオミだったが、教祖は意外と優しい物腰だった。それで、ナオミも、つい思い切って、教祖に、死んだ親友(礼子)の事と、その親友とはる子がそっくりな事を話してみたのである。

 教祖は、ナオミの話を、面白そうに聞いていた。そして、告げたのである。「確かに、あの子は君の友達だよ。この教団本部に来て、庄司礼子は高野はる子に生まれ変わったのだ」

 ナオミは、激しいショックを受けた。教祖には「庄司礼子」という名を教えていなかったのに、彼ははっきりとその名を口にしたからである。と言う事は、教祖の言葉は事実なのだろうか?礼子は死んではいなかったのか?

 それ以上の事は語ってくれずに、教祖は去ってしまう。ナオミも、モヤモヤした気持ちのまま、今日のところは、SL教団本部をあとにしたのだった。

 

 一方、信一のいる研究所でも、アメリカから優秀な科学者集団を招いて、思い切った冒険に踏み切ろうとしていた。観測船はまかぜに乗り込み、じかに海を調査してみる事にしたのだ。

 来日した科学者グループのリーダー格であるアーベル博士は、信一のアメリカ研修時代の恩師の先生の一人でもあった。ここに、日米の優れた科学者の師弟コンビのチームが結成される事となったのだ。

 信一とアーベル博士を筆頭とする、沢山の科学者を乗せたはまかぜは、まずは、下田の海の周辺のオーロラが見えた付近の海を目指す事となった。アーベル博士の目星では、どうも、そのへんが怪しいと言うのである。

 海洋学者であるアーベル博士は、海での大量の人間消滅事件について、すでにかなりの分析を進めていた。船が遭難したり、黒あざの行進の水死体が見つからなくなった海域と言うのは、いずれも暖流か、一時的に水温が上がっている海域ばかりだと言うのである。これから、はまかぜが向かっていた場所も、下田近くの黒潮だった。

 ところが、はまかぜが目的地に近付きだすと、その周辺の海底からは、凄まじい放射線が観測されだす。あの宇宙線と大変に酷似した種類の放射線なのだ。

 突如、海が荒れだす。シケ程度の荒れ方ではないのだ。まるで山のように、海の水のあちこちが盛り上がりだして、まぶしく光りながら、はまかぜに襲いかかってきたのである。

 もはや、これ以上の調査は不可能だった。はまかぜは航行不能に陥り、今にも沈みそうになった。信一とアーベル博士と数人の科学者だけが、事態の急変にとっさに反応し、急いで、船の甲板に配備していたヘリコプターに乗り込んだ。ヘリが飛び上がって間もなく、その見ている前で、はまかぜは完全に沈没してしまったのである。

 船に残されたメンバーは、全滅かと思われた。悔しがりながらも、これ以上はどうする事もできず、信一たちの乗ったヘリは、そのまま帰還したのである。

 

 この海の調査作戦によって、大量の仲間を失ってしまった信一たちは、大洋での謎の自然現象におののくとともに、激しく憤り、仲間の仇を討つ事を強く心に誓い合ったのだった。とは言え、すっかり打つ手を無くしてしまっていたと言うのも事実なのだ。

 そんな信一たちの様子をそばで見ながら、力になりたいと思っていたナオミは、SL教団と謎の巫女、はる子の事をずっと考え続けていた。もし、はる子が本当に礼子と同一人物なのであれば、それは黒あざ病が治ったと言う事になるのではなかろうか。まさに、それは信一たちが一番求めていたテーマなのだ。

 ナオミは、ついに決心した。SL教団の教祖に会ってみて、そのへんの真相を直接、聞いてみる事にしたのだ。

 昼間、ナオミは、友達の治に会うと言う口実で、SL教団の本部へと入れてもらった。実際に、まずは治に会い、教祖と面会してくる事を打ち明けたのである。治は、怯えて「それはやめた方がいい」とナオミに忠告したのだった。心酔している信者のはずの治ですら、教祖は、謎めいた恐ろしさを持った存在だったのだ。

 ナオミは、治の忠告を聞かずに、とうとう、教祖の部屋へ会いに行ってしまう。

 教祖は、まるでナオミが来る事を知ってたかのように、彼女を快く受け入れてくれたのだった。それどころか、ナオミへと、色々と真実を語り出したのだ。

 教祖は、もともと、東京の片隅で貧しく暮らしていたホームレスに過ぎなかった。それが、ある日、不思議な輝く石を拾った事から、神の声を聞けるようになり、その声に導かれて、SL教団を立ち上げたのだ。神の指示に従って、教祖はあちこちから光る石を拾い集めた。その石こそが、現在のSL教団のご神体であり、黒あざ病から信者を守る、未知の力の源だったのである。

 そして、本当は、一般の人々の中にも、先天的に黒あざ病にかからない遺伝子を持った人間が多数、混ざっていた。SL教団にしてみれば、そのような特殊な人間は、自分たちの布教の為には、はなはだ邪魔な存在なのだ。ナオミも、そのような黒あざ病に対する抵抗力を持った人間の一人だった。こうした特別な人間を見つけ次第、片っ端から駆除していくのも、教祖のもう一つの任務だったのである。

 ハッとした時には、ナオミは教祖にがっしりと掴まれていた。ものすごい怪力であり、とうてい逃げられないのである。

 その頃、治は、信一の研究所へと駆けつけていた。ナオミが教祖に会いに行ってしまった事を、信一たちに伝える為だ。ナオミの身に危険を感じた治は、決意して教祖を裏切る気になったのだが、自分の力ではどうしようもなかったので、信一のもとへ助けを求めに来たのだ。信一たちも緊急事態である事を察知して、すぐにSL教団の本部へ乗り込む事にしたのである。

 ナオミの方に話を戻すと、彼女は、教祖の部屋から外へと連れ出されていた。SL教団の本部の敷地内は、完全に教祖のテリトリーなのであり、ナオミにはいっさい逃げ場がないのだ。教祖は、ナオミをあの地下洞窟へと連れていき、海の神のイケニエに捧げようとしているのである。

 その移動の途中でも、教祖は、色々と真実を教えてくれた。

 現在の高野はる子は、確かに、本物の庄司礼子だった。この二人の少女は入れ替わっていたのである。東京湾で見つかった水死体の少女は、礼子の替え玉だった。と言うか、この死んだ少女こそが、高野はる子に相当する、かつてのSL教団の巫女だったのだ。彼女は、SL教団の正体を知り、恐怖に怯えて、ご神体を盗んで、東京へ逃げてきたのである。彼女は教団の追っ手に見つかり、制裁として、強制的に黒あざ病にかけられた上に、自殺するように仕向けられたのだった。逃げている最中に、彼女は、同じく家出中だった礼子と出会い、お互いに、追っ手の目をくらます目的で、服を交換していた。その結果、死んだのが礼子だと勘違いされる事となったのだ。一方で、服を交換した礼子も、SL教団に捕まっていた。彼女の始末に困った教祖は、黒あざ病を治してやる代わりに、先の少女の代役として、教団の巫女になって、もう二度と外の世界には戻らない事を、礼子へと提案した。礼子は、その交換条件を受け入れて(この提案を拒めば、きっと殺されていたのだが)、今の高野はる子となったのである。

 このような話をナオミが聞き終えたタイミングで、ついに、信一たちが彼女たちを発見してくれたのだった。

 今や、教祖は、少女監禁事件の現行犯なのだ。警察もドカドカとSL教団本部の敷地内に入ってきて、逃げる教祖を追い詰めた。

 教祖は、ナオミを連れたまま、崖に沿って、逃げ続ける。ところが、彼は、焦ってしまったのか、うっかり足を踏み外してしまう。教祖は崖の下に転落するが、すんでのところで追いついた信一が、ナオミの手だけはがっしりと握り、彼女が落ちるのだけは食い止めたのだった。

 追いかけていた一同は、急いで、崖の下の教祖のもとへ向かうが、倒れていたはずの教祖の体を調べてみたところ、恐ろしい事実に気付く。教祖は死んではおらず、まだピクピクと動いていた。それなのに、心臓は止まっていたし、瞳孔も開いていたのだ!

 これは、一体、どう言う事なのであろう。ひとまず、怪我の治療という名目で、教祖の身は、信一たちの研究所にと収容されたのだった。

 瀕死の重体で、意識がない状態であるにも関わらず、なおも生命を維持している教祖に対して、研究所員の一人が自白剤トルーサーを投入してみる事を提案する。本来なら違法行為なのであるが、どうせ、教祖は明らかに普通の人間じゃないし、黒あざ病を世界に広めて、皆を催眠状態にして操った神とかの手先だと言うのならば、それこそ目には目をなのだ。

 トルーサーに、教祖の体はまんまと反応する。教祖は、昏睡状態にも関わらず、トルーサーの効果で、こちらの質問に対して、素直に答え出したのだった。教祖が語り出した内容は、恐るべき全ての真実だったのだ。

 まず、SL教団のSLとは、Space Law の略で、宇宙の法則に従う信仰を意味する。宇宙の法則とは、より高度な生命体が、程度の低い生物を支配し、食い荒らしてもいい、と言うものなのだ。それは、一つの惑星内にとどまる話ではない。他の惑星の生き物であろうと、自分たちより下等であれば、食料にしても構わないのである。

 SL教団が神と崇める存在は、遠い昔にガダル星座の四番星に発生した生命体だった。彼らは、高度に進化し、自分の星の生物をことごとく食い滅ぼしてしまうと、やがて、宇宙へと進出を始めたのだ。彼らは、来訪した惑星の生物を次々に食い尽くしてきた。そうやって、宇宙全体に広く拡散して、繁栄しているのである。

 そんな彼らが、とうとう、太陽系にまで到着した。彼らのターゲットは、生命で溢れた地球である。中でも、地球で大繁殖していた人類は、彼らにとって、格好の餌であった。慎重に計画を練った彼ら宇宙生命体は、いつもの方法で、地球の人間に黒アザを発生させた。この黒アザによって、人間を自由にコントロールできるようにして、家畜にして食いまくる為である。いわば、地球は彼らの人間牧場となったのだ。

 彼ら宇宙生命体は、海水の中で活動するのを常としていた。地球の人間たちに十分に黒アザを作り、海にまでおびき寄せる準備ができたら、いよいよ彼らは地球へと降り立った。それが、あの不思議なオーロラだったのである。

 ただし、無計画に人間を食いまくりすぎたら、たちまち地球人類の人口は減り、絶滅してしまう事であろう。それを避ける為に、黒あざ病にかからない人間を適度に残す目的で、SL教団を地上に発足させたのだ。その教祖は、完全に宇宙生命体の傀儡だった。教祖は、宇宙生命体に洗脳されて従わされ、食っていい人間とまだ食わない人間を振り分ける牧童の役を任せられたのだ。それとは別に、先天的に黒あざ病にかからない人間を探し出して、駆逐する任務も、教祖は担っていた。元から黒あざ病に抵抗力がある人間が増えすぎなどしたら、宇宙生命体たちの人間牧場も蝕まれて、牧場運営に支障をきたすからである。

「ひ、ひどい。私、雑草なんかじゃないのよ」と、話を聞いていたナオミは、わなわなと震えた。

 だが、研究所員たちが一番知りたかった事は、何と言っても、黒あざ病の治し方だった。礼子という前例がある以上、この教祖は黒あざ病の完全な消し方を絶対に知っているはずなのだ。

 ところが、その重要な話題を聞き出そうとしたところ、教祖の体がガクガクと激しく揺れ出した。そして、そのままバアンと腹部が破裂してしまったのだ。教祖は事切れたらしく、もはや、口を聞く事はなかった。トルーサーを無理やり服薬させた事で、肉体に限界がきてしまったのだろうか。あるいは、宇宙生命体が、教祖のこのピンチの状況を嗅ぎつけて、遠隔操作で口封じを行なったのか。

 とにかく、教祖をまだ死なせる訳にはいかない。研究所の医療チームは、教祖の体を慌てて手術室に運び、手当をする事にしたのだが、そこで彼らは驚いた。

 教祖の体を切り開いてみたら、その内側には人間らしい内蔵など詰まっておらず、代わりに、青いブヨブヨしたものばかりが、たっぷりと出てきたのである。教祖は、宇宙生命体とシンクロして、交信し続けた結果、肉体そのものが変質してしまっていたのだ!

 

 後日、どこから情報を聞きつけたのか、SL教団の過激な幹部たちが「教祖さまのご遺体を返せ!」と、研究所に押しかけてきた。しかし、そんな彼らも、教祖の体内に入っていたブヨブヨした物体を見せてやると、びっくりして、門前で逃げ出してしまったのだった。

 それだけではない。ついに、警察も本格的に動き出したのである。SL教団の本部は、警察にガサ入れされる事になり、そこで暮らしていた信者たちにも強制撤去が命じられる事となったのだ。なおも教祖の事を信じ続け、撤去を拒む熱心な信者もいたが、ほとんどの信者は、教祖が怪物だったと言う噂をすでに耳にしていた為、教団から心が離れ始めていて、警察に言われるまま、あっさりと教団本部から立ち退いていったのだった。

 何よりも、ナオミの一件から、SL教団には誘拐監禁の容疑もかけられているのだ。そして、SL教団総本山の敷地内をくまなく捜索してみると、それこそ、身元不明の人間の死体や白骨がゴロゴロと発見されたのだった。いずれも、前から行方不明になっていた人々の殺された遺体なのである。恐らく、SL教団では、発足して以来、ずっと、ナオミのような黒あざ病にかからない人間を探し見つけては、密かに殺しまくっていたのだ。いくら何でも、教祖一人だけでこなせそうな作業ではなかった。協力者だったのであろうと判断されて、SL教団の中心幹部たちも、ぞくぞくと警察に逮捕されていき、その恐怖の犯罪の全体像が明らかになっていったのだ。同時に、SL教団はすっかり行き詰まってしまい、強制解散がほぼ確実となったのである。

 SL教団の本部に、拉致同然の状態で住み込む事を強要されていた信者たちも、順に解放されていく事となった。そのような閉じ込められていた信者の一人に、巫女である高野はる子、すなわち、庄司礼子もいた。彼女も、本部内の自分の部屋から連れ出される事になったのだ。

 礼子の引き取り手としては、信一が名乗り出た。かくて、研究所にて、ナオミと礼子は感激の再会を果たしたのである。もう、礼子は、自分がはる子だなどとは偽ったりはしなかった。ナオミの無二の親友である礼子にと戻ったのだ。二人は、とりあえずは、研究所の同じ社宅の部屋で暮らせる事となったのだった。

 SL教団の本部の敷地内からは、他にも、いくつものご神体と呼ばれている丸い小石が発見された。それらも警察に没収されて、信一の研究所が分析を依頼されたのだが、その正体は隕石だったのである。多分、宇宙生命体が事前に地球に降らせておいたものだったらしい。このご神体のそれぞれが、特殊な放射能を帯びており、放射線を発していた。この放射線こそが、信一たちが探し求めていたもの、つまり、黒あざ病を治癒できる鍵だったようなのだ。信一たちも、希望が湧いてきて、俄然、張り切り出したのだった。

 さらに、熱心に研究を突き進めている人物がもう一人いた。アーベル博士である。彼は、黒あざ病の治療よりも、宇宙生命体の正体を探る実験に取り組んでいたのだった。彼の研究室の中には、観測船はまかぜが決死の覚悟で採取してきた光る海の水と、SL教団の教祖の中から取り出したブヨブヨした物体が置かれていた。このブヨブヨを、水槽に入れた海水の方へ近づけてみると、両者は共鳴しだし、海水は光りながら波打ちだしたのだ。その様子を、アーベル博士は、驚嘆しながら、興味深げに観察していた。

 

 さて、社宅にいたナオミのもとに、思わぬ来客が現れた。小山治である。彼も、すでに家族と一緒に、SL教団からは完全に脱退していた。話を聞くと、もうすっかり、SL教団とは絶縁したのだそうだ。

 少なくても、教祖の魔の手からギリギリ、ナオミが助かったのは、治が信一たちを呼んできてくれたおかげである。ナオミがその事のお礼を言うと、治も嬉しそうに照れたのだった。彼も、十分に改心したらしくて、根っからの嫌な子でもなさそうなのである。

 ただし、治の家族はSL教団にすっかり振り回されてしまい、財産の全てを使い込まれてしまった為、今や無一文の有様だった。治の親は、北海道にいる知り合いを頼って、これから、ゼロからやり直すつもりなのだと言う。北海道を新天地に決めたのにも、実は理由があった。北海道では、黒あざ病の発症率が低かったのである。北海道の海のそばに暖流がない事を考えると、その訳もおのずと納得できた。

 とまあ、そんな事で、治は、ほんのり好きだったナオミに別れを言いに来たのだった。数日後には、彼の家族は、下田を去り、北海道へと旅立つのである。

 その話を聞いて、ナオミも、優しい気持ちが芽生え、出発の日は、下田の駅まで治を見送りに行ってやる事にした。その事を礼子に教えると、心身の療養でずっと部屋に閉じこもっていた礼子も、久しぶりに家の外に出てみて、ナオミに付き添う事を決めたのだった。

 こうして、治が去る日がやって来た。駅で、ナオミたちに会えて、治は喜び驚いていたが、何よりも、巫女のはる子だと思っていた少女が、本当に同級生の礼子だったと分かって、よりビックリしたみたいだった。「だったら、教団にいた時から、もっと仲良くしておけばよかった」なんて浮気っぽい事を、治はお茶目に口にする。

 さらに、治は、最後に、気にかかる事をナオミに教えてくれたのだった。

「教祖は、最後の祈祷会の時に『もしSL教団に歯向かう者がいるならば、大いなる町は二度死ぬ』なんて嫌な事を予言していたよ。当たらなければいいんだけど、十分に気をつけてね」

 ナオミも、その予言には引っかかりを感じながらも、まずは、電車で去ってゆく治に別れを告げたのだった。

 帰り道の礼子は、かなり明るさを取り戻していた。これまでは話してくれなかった教団との出来事についても、ナオミに語り聞かせてくれたのだ。

 自分の黒あざ病の悪化にショックを受けた礼子は、精神が錯乱して、自分の家から飛び出してしまった。そのあと、道でばったり出会ったのが、SL教団から逃げてきた元祖・はる子だったのである。何とか、SL教団の目を欺きたかったはる子は、礼子に服の交換を頼みこんできたのだ。ヤケクソになっていた礼子は、理由も聞かずに、はる子の願いを聞き入れた。にも関わらず、結局、はる子はSL教団の追っ手に捕まってしまい、礼子同様の黒アザの醜い姿に変えられた上に、飛び込み自殺を強要されてしまったのである。礼子の母は、たいへんに目が悪かった。彼女は、顔中が黒アザで、さらには膨らんだ水死体になってしまったはる子を、気が動転していた事もあって、完全に自分の娘だと勘違いしてしまったのである。

 一方で、はる子の服を着た礼子も、あえなく、SL教団のとりこになっていた。本来なら口封じで殺されそうなものだが、教祖がとんだ気まぐれを起こし、礼子の黒アザを治してくれた上に、はる子の代わりの巫女として、SL教団の本部内に置いてくれる事になったのである。ただし、教団本部の外へ出れば、また黒あざ病に戻ってしまうと脅されたので、礼子はSL教団から逃げ出す事ができなかったのである。

 ちなみに、礼子の母のもとへ、変な電話を掛けてきたのも礼子だった。あの時も、教祖が祈祷会で、東京で最初の異変が起こる事を予言したものだから、心配した礼子が、つい自分の母へ警告の電話を掛けてしまったのだった。

 だが、それにしても謎なのは、礼子がなぜ黒あざ病を完治できたかである。あの元祖・はる子も、ご神体があれば、黒あざ病にならないと思って、ご神体の一つを盗んだのかもしれない。でも、結果は、彼女も黒あざ病にされて、無残な死を遂げている。また、信一の研究所でも、現在、懸命にご神体の分析が進められていたのだが、まだご神体の放射線では黒あざ病の治癒効果は確認できていなかったのだった。

 それらの話を聞いて、礼子はキョトンとして、重要なヒントを教えてくれる。

「それって、違うのよ。皆、ご神体の使い方を間違えていたんだわ。だって、私の黒アザを直す時、教祖さまは、ご神体を一つではなく、三つ用意していたもの」

 その時、礼子の様子が急におかしくなる。会話をやめたかと思ったら、直立不動になってしまったのだ。よく見ると、彼女の顔には大きな黒アザが出来ていた!なんて事だろう。この土地に、今、黒あざ病の放射線が降り注いだのだ。気の毒にも、礼子はまたもや黒あざ病に戻ってしまったのである。

 礼子も、周りにいた黒あざ病患者も、死の行進を開始しだした。ナオミは、慌てて、礼子の歩きを止めようとしたが、催眠状態の黒あざ病患者はものすごい力を発揮するので、ナオミごときのか弱い力では、とても押さえつけられないのだ。

 礼子も、他の沢山の黒あざ病患者も、ぐんぐん、海の方へと向かっていく。このまま、海に落ちてしまったら、どうにか溺れ死にをまぬがれたとしても、間違いなく、宇宙生命体には食われてしまうだろう。

 押さえるナオミも引きずりながら、とうとう、礼子は港の岸壁の前にまで来てしまった。もはや、一巻の終わりなのである。

 かと思われた時、絶妙なタイミングで、この場に、信一とアーベル博士が走って、やって来た。研究所で、たった今、猛烈な放射線を観測した二人は、慌てて外に出て、ここへと駆けつけたのである。運良く、そこにナオミと礼子がいたのだ。

 信一は、ナオミを抱きかかえて、急いで、岸壁のそばから引き離す。ガタイのいいアーベル博士が、礼子の方を引き受けた。そんなアーベル博士でも、礼子の事は、それ以上、前に進まないように押さえつけているのが精一杯なのだった。それでも、宇宙線の放射がやむまで持ち堪えたら、かろうじて、礼子も助けられるのでは?

 ところが、その時、海の方から、ものすごい波が湧き上がった。それはバアーッと岸壁の上に襲いかかると、岸壁にあったものを、洗いざらい飲み込んで、持って行ってしまったのだった。岸壁の先端にいた礼子とアーベル博士も例外ではなかった。

 愕然とするナオミと信一の目前で、礼子とアーベル博士は海に連れ去られてしまったのである。ナオミと信一は、共に、とても大切な人間を、同時に失ってしまったのだ。しばらくは、ショックで声も出せなかった。

 どうやら、宇宙線はおさまったらしい。ナオミと信一は、うろたえながら、礼子とアーベル博士が立っていた場所へ寄ってみたのだった。そこで、信一は、奇妙なものを発見した。岸壁の上に、白い粉が散らばっているのである。ガラスの破片も、わずかに落ちていた。

 そこで、信一は思い出したのだ。アーベル博士が、海にいる宇宙生命体に対抗する為に、特殊な新薬を開発中だった事を。アーベル博士は完成したての新薬のサンプルをガラス瓶に入れて、ちょうど持ち歩いていた。アーベル博士が波をかぶった瞬間、そのガラス瓶は割れてしまったらしい。この岸壁の上に散らばっていた粉とは、実は、アーベル博士の薬を浴びてしまい、変質してしまった宇宙生命体の死骸だったのだ!

 

 礼子とアーベル博士の死は、確かに悲しい出来事ではあった。でも、二人は、最後に、黒あざ病に勝てる希望を残してくれたのだ。

 礼子の話どおりに、三つのご神体を組み合わせると、それぞれのご神体から出ている、異なる放射線がミックスされて、新たな放射線が生まれる事となった。その放射線こそが、黒あざ病を弱体化させる絶大な効果を発揮したのだ。信一たちは、この放射線をブリーチング線と名付ける事にした。ブリーチング(bleaching)とは漂泊の事だ。

 幸い、ご神体は、SL教団のあちこちの支部にも配られていた。それどころか、宇宙生命体は、日本のSL教団だけではなく、世界各地にも、傀儡の人間のエージェントを教祖に仕立てて、SL教団と同種の新興宗教を立ち上げていたのだ。これらの宇宙生命体の傘下の宗教団体を解散させて、連中のご神体を全て没収してしまえば、相当数のブリーチング線が確保できるようになる。宇宙生命体の人間牧場計画は、完全に地球人の手にと奪取され、逆に地球人を救う足がかりとなったのだ。

 そして、アーベル博士もまた、その研究をほぼ完成させていた。彼は、宇宙生命体の正体が、特殊な粒子であった事を解明したのである。その粒子は、たくさん集合する事で、高い活動力と知能を発揮するようになるのだ。ただし、その存在を保つ為には、一定の温度と、エネルギーとなる塩素を必要としていた。それらを急速に奪われると、宇宙生命体は一気に活動を停止して、水晶化してしまうのである。信一が岸壁で見た白い粉がそれだった。この状態にまで変質してしまうと、さすがの宇宙生命体も、もはや復活は不可能なのである。

 アーベル博士が開発した新薬とは、海水から急激に熱を奪って、海水内の塩素も破壊する薬品だった。でも、宇宙生命体に対しては致命的な威力があるが、地球上の生物には、ほとんどダメージが無いのだ。しかも、この薬は身近にある物質で、いくらでも大量生産できた。この薬には、偉大なるアーベル博士を偲んで、アーベル剤という名前が与えられたのだった。

 黒あざ病対策は、一気に進む事となった。宇宙生命体が、暖流に乗って、時には波打ち際まで襲撃できる事が分かったからには、これ以上、下田で黒あざ病の研究や対策を続けているのは危険なのだ。

 研究所の社宅にて、信一はナオミに、これから自分たちはこの下田の研究所を引き上げて、対策本部を首都の近くに移す事にして、東京の方へと帰る事を告げた。

 ナオミにとっては、東京は、母や親しい人々を失った辛い土地ではあったが、それでも、懐かしい故郷であると言うのも嘘ではないのだ。ナオミは、弱々しい笑みを浮かべて、信一と一緒に、東京に戻る事を承諾したのだった。

 

 しばしの時が過ぎ、その日、ナオミと信一は、東京の大通りの人混みの中を、二人で歩いていた。彼らは、ついに東京へと戻ってきたのである。

 今日は、まだ下田での心の傷が癒えないナオミを励ます為に、信一は仕事を休み、こんな街中へと連れ出してくれたのだった。都会の喧騒は、じょじょにだが、弱っていたナオミの心を回復させてきたみたいである。大都市・東京は、かつての苦い出来事を忘れて、早くも活気を取り戻しているのだ。ナオミだって、いつまでもクヨクヨしていないで、そろそろ元気を取り戻すべきなのである。

 ナオミのそんな心の変化にうっすらと気付き、信一もホッとした気持ちになってきたのだった。

 ところが、その時である。高層ビルの壁にあるスクリーンが、突如、緊急ニュースを流し始めた。黒あざ病の対策本部が、強烈な宇宙線の放射をキャッチしたと言うのである。降り注ぐ場所は、この東京だった!危険だから、今すぐ逃げ出すように、と言う警報のニュースなのである。

 ナオミは、ハッと治の最後の言葉を思い出す。SL教団の教祖が残した予言の「大いなる町が二度死ぬ」とは、この東京の事だったのだ。下田ではなかったのである。

 でも、宇宙生命体は暖流に乗ってしか移動できなかったのではないか?いや、その点についても、ニュースでは伝えていた。黒潮から分離した巨大な波が、今、東京湾めがけて、押し寄せていると言うのである。宇宙生命体は、必ずしも、暖流でしか生きられない訳でもなかったのだ。こんな離れ業もできたのである。そして、今回の襲撃は、自分たちに楯突く地球人類への宣戦布告のつもりなのかもしれなかった。

 とにかく、今は東京からは早く逃げた方がいいのだ。黒あざ病とは関係なく、宇宙生命体の波が東京一帯に流れ込めば、それだけでも命が危なかった。

 だが、ナオミが信一の方を見た時、信一の顔は真っ黒になっていたのである!ナオミはぎょっとした。伸一は、一気に黒あざ病になってしまったのだ。宇宙生命体の方も、今回はそうとう本気なのか、かなり強い宇宙線を送り込んできたのかもしれなかった。

 周囲を見回すと、群衆のほとんどが黒あざ病になっていた。ナオミのような、まだマトモな人間の方が圧倒的に少数派だったのだ。

 恐ろしい、地獄のような光景だった。都民の大多数が、あの死の黒あざの行進を開始したのだ。まるで軍隊の行進のようであり、その中に巻き込まれた正常な人たちは、逃げたくても、抜け出せない有様になっていた。ナオミも、そのうちの一人だった。彼女の心の中には、以前の東京での黒あざの行進の恐怖がまざまざと蘇っていた。

 ナオミの横で、信一は、ぐんぐんと海へ向けて突き進んでいく。ナオミが必死に話しかけても、正気に戻らないし、ナオミの力では押さえ込む事もできないのだ。やがて、このまま、他の黒あざ病患者と同様に海に飛び込んでしまうか、あるいは、大波の方がこの東京都内に襲いかかってくる事になるのだろう。

 涙を流しながら、ナオミは心を決めた。「信一さんと一緒ならば、もう死んでもいい」と。もはや、ナオミには、信一しか頼れる存在がいなかったのだ。信一となら、生死を共にしても構わない、と彼女は思ったのだった。

 ナオミは、信一の隣で、並んで歩き出した。破滅への死の行進に、自分から進んで仲間入りしたのである。もう、信一と一緒に居られるのならば、どうなってもいい、とナオミは思っていた。

 彼女の足元には、ザザザと水が流れてきた。東京湾の方から侵入してきた海水なのである。きっと、間もなく、もっともっと大きな波が押し寄せてくるのだ。そして、全てはおしまいなのである。

「もうすぐ、私たちは死ぬのね」と、ナオミは思った。彼女は、涙をこぼしながら、優しい表情で、信一の胸に、自分の頭を埋めた。「信一さん。最後まで一緒よ」不思議と恐怖は感じなかった。そして、緊張しすぎたせいか、ドッと疲れが出たらしく、ナオミは静かに意識を失っていったのだった。

 目を覚ますと、ナオミは病院のベッドの上に寝ていた。隣には、黒アザのついた信一もベッドで寝ているのである。これは、一体?

「研究所の対策が間一髪で間に合ったんだよ」と、信一が明るく説明した。

 実際は、ナオミが聞かされていた以上に、宇宙生命体に対する攻略計画は進んでいたのだった。

 宇宙線が頻繁に地球に降ってくる事から、宇宙線の発信源が、遠い天体などではなく、地球の間近にあるらしい事は、早くから天文学者たちは目星をつけていた。彼らは、これまでの宇宙線の降り方を観察し続け、その降る角度や時間帯などから、ついに、その発信源を突き止めたのだ。それは、月よりほんのわずかに離れた宇宙空間だった。天文学者たちは、その宇宙の地点めがけて、密かに、破壊ロケットを発射していたのである。ロケットは、見事にターゲットを捉えた。宇宙線の発信基地を粉々に爆破したのだ。

 それが、あの東京に宇宙線が降り注いでいた最中の出来事だった。宇宙線の放射が止まった事で、行進していた黒あざ病患者はいっせいに目を覚まして、海への前進をやめて、反対側へと逃げ出したのだ。

 一方、東京に迫り来る大波に対しても、対抗策は進んでいた。アーベル剤を積んだヘリコプターや飛行機が大量に大波に向かって、発進したのである。東京に波が到達する前に、それらのヘリや飛行機は、波の上にがんがんアーベル剤を振り撒いたのだ。それは、とても不思議な光景だった。アーベル剤を浴びれば浴びるほど、大波は悲鳴のような音を出しながら、小さくなっていったのである。

 ついには、ほとんど無害なレベルにまで、波は縮小してしまった。その中にいた宇宙生命体は死に絶え、一緒に引っ張られてきた海水だけになってしまったらしい。かろうじて東京都内にまで侵入してきた海水は、この無害な水だけだったのだ。

 かくて、黒あざ病の対策本部は、完膚なきまでに宇宙生命体を迎撃してみせたのだった。東京に大量発生した黒あざ病患者たちも、順次、病院に収容されていったのである。ナオミや信一も、そのうちの一人だった。

「侵略者め。人類を見くびるなって事さ」信一が、得意げに言葉を閉めた。

 対策本部では、これからも、暖流に潜む宇宙生命体を探し回って、片っ端からアーベル剤で息の根を止めていく予定だった。いずれは、地球上の全ての海から宇宙生命体を駆逐できるはずであろう。もし、ガダル星座の生命体の同族が再び地球に襲来する事があったとしても、今度は、万全の準備のもとで対処できるに違いあるまい。

 黒あざ病にかかった人たちも、ブリーチング線で次々に治していっている最中だった。もっとも、患者が多すぎる為、順番待ちの状態も続いているのだ。信一も、そんな待機中の患者の一人なのだった。

「ところで、今の僕の顔は、そんなに酷いのかい?」と、ケロッとしながら、信一はナオミに尋ねた。「ええ、酷いわ。もう最悪よ」と返しながらも、ナオミも笑っていた。彼女は、ベッドから立ち上がると、そっと信一のベッドの方へ向かった。そして、信一の体に自分の身を寄せると、幸せそうに、その胸に抱かれたのだった。

 おしまい


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解説

 私はもともとシナリオライター志望でしたので、若い頃には、他人の作品を脚色して、劇場映画用の脚本やテレビドラマ向けのシリーズ構成案などに書き直す作業をよく行なっていました。

 実際にシナリオを書いてみた作品としては、荒木飛呂彦の漫画「バオー来訪者」(番組タイトル「超戦士バオー」)や五島勉の小説「影の軍団」、ウェルズの短編小説のオムニバス化(映画タイトル「ウェルズ博士の『侵略』」)、いしいひさいちの漫画・地底人シリーズ(映画タイトル「それ行け!地底軍団」)などがあります。

 テレビの連続ドラマ用のシリーズ構成を行なってみた作品としては、吾妻ひでおの漫画「きまぐれ悟空」及び「ななこSOS」実写バージョン案、小林よしのりの漫画「異能戦士」、眉村卓の一連のジュブナイルSF小説を繋げてみた「新・ねらわれた学園」などがありました。

 基本的に、これらの習作は、著作権が他の作者にありますので、私の作品としては発表できません。で、どれも、これまで非公開だったのですが、ところが、今日の同人誌・インターネット上では、「二次創作」という、たいへん便利な言い回しが市民権を得ているようでして、よく考えたら、他人の作品を脚色した作品であっても、まだ映画化してない文章段階のもの(シナリオやシノプシス)であれば、「二次創作」扱いにして、ネット上で公開しても問題ないのではないかと思えてきました。

 そんな訳で、過去に書いた脚色作品の公開まではさすがに控えますが、近年、新たに執筆したものにつきましては、堂々と無料発表させていただく事にしました。もっとも、実際に映画化はしませんので、完全な脚本状態にまでは作り込まず、やや粗いシノプシスと言う形にとどめております。

 「影の少女」は、私自身の古い小説(「影の少女 rewrite」)が原案の映画向けシノプシスです。「時の塔」「黒の放射線」は、私が子供の頃に読んで、衝撃を受けたSF小説の映画化用シノプシスでして、最近、これらの小説を再読する機会に恵まれましたので、つい感激して、シノプシス化してしまった次第です。


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その他

目次

 

「おいらとタマの一人暮らし」

「おもちゃのいる教室」(18禁)

「いじめっ子の笑い話」

 

ボツネタ集

  • 「師匠の憂鬱」
  • さるかに合戦いろいろ
  • 特撮ヒーロー「うさぎとかめ」
  • エデンの園、他
  • 解放軍闘士のオオカミ
  • アリとキリギリス
  • アケチ大戦争
  • 隣のタヌキ
  • 現代版ギルガメッシュ
  • AI影の少女
  • いじめっ子は皆殺し
  • 愛欲のリフレイン
  • <解説>名前遊び

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「おいらとタマの一人暮らし」

 おいらは、いきなり、一人暮らしをしないといけない事になってしまった。正確には、タマも一緒についてきたので、二人暮らしなのかもしれないが、タマとおいらはイキモノの種類が違うらしいので、やはり一人暮らしと言う事になるらしい。

 タマは、おいらと今まで同じ家で暮らしてきた、えーと、なんて説明したらいいのかな、要するに、おいらはタマのお守なのだ。何しろ、タマは、おいらが物心がついた頃から一緒にいて、おいらが同じ布団に寝てやらないと、夜も眠れないほどの寂しがり屋なのである。離れられないのは当然だったとも言えよう。

 おいらが生まれる前は、おいらのかーちゃんがタマのお守をしていたようだ。だから、おいらとタマが二人だけで家を出て行く事になった時は、かーちゃんから、タマの事をよおくかまってやるよう、いっぱい頼まれてしまった。タマは、おいらたち母子にとっては、それほど不可欠な存在だったのである。

 かーちゃんと別れる事になるのは、確かに、おいらも悲しかった。

 しかし、タマだって、自分のとーちゃんとは離れる事になるみたいなのだ。お守のおいらが弱音を吐く訳にもいかないだろう。

 これは、ジリツとか呼ばれる行動なのだそうである。子どもは、いつかは親元を離れなくちゃならないものらしい。タマがその時が来てしまったらしく、おいらもその巻き添えをくう事になってしまったのである。

 タマは、おいらを抱きかかえながら、自分のとーちゃんにこんな事を言っていたっけ。

「パパ、心配ないよ。あたしだって、もう大人なんだから。いくらでも一人で暮らせるよ。でも、カイトは連れていくからね。部屋に戻った時、誰もいなかったら、ちょっと寂しいもん。アオイの方は置いていくから、きちんと面倒をみてあげてね。アオイも、もうだいぶ歳だから、大事にしてあげてよ。パパも、あたしが居なくなったからって、だらしない生活をしたらダメだからね」

 カイトとはおいらの事で、アオイの方はかーちゃんの名前だ。こんな話を耳にしたから、おいらたち親子も離ればなれになる事が分かったのである。

 おいらとかーちゃんが親一人子一人なら、タマの奴もとーちゃんと二人っきりの家族だった。ともに、親とは別れて暮らす事になったのである。

 そして、その日がとうとう訪れた。

 おいらは、はじめて見る新品の籠に入れてもらって、まさに王様待遇で、タマに新しい家へと運んでもらったのだった。

 籠に限らず、どうやら、今まで使っていた道具は、食器にせよ、トイレにせよ、爪とぎにせよ、タマと遊ぶオモチャにせよ、全て、これまで居た家に置いてきてしまうらしい。かーちゃんが前の家にそのまま残る訳だから、考えたら、当たり前の話だ。

 一方で、おいらは、全ての道具を新調してもらえる事になったようなのである。

 こうして、やって来た引っ越し先の部屋は、今まで住んでいた家と比べると、だいぶこじんまりとした狭い場所だった。おいらとタマだけで暮らすのだから、それほど広くなくても良かったのだろう。

 その新しい住居に、たちまち、おいらの為の買ったばかりの生活用品はセッティングされていった。

 新しい家でも、すぐに、おいらが過ごせる環境は整ったのである。

 とは言え、今までとは異なる造りの部屋に、何もかも新品の道具ばかりだったので、どうも落ち着かなかったのは確かだった。

 それでも、ごはんの内容は今までと同じだったし、トイレの砂もこれまで通りのものを使っていた。何よりも、仲良しのタマが一緒にいる。

 かくて、最初こそストレスは感じていたものの、次第に、おいらも新しい家に慣れていったのだった。

 タマの様子も観察してみたが、タマの奴も、最初の頃は、とてもせかせかと動き回っていて、雰囲気から、新しい生活に戸惑いつつも、楽しんでいたようにも感じられた。

 元から、昼間はあまり家には居なかったタマだったが、この新しい部屋に越してきてからは、日中は完全に外に出かけるようになってしまった。朝早くに出て行ってしまうのだが、帰ってくるのは、ほとんどが夕方を過ぎてからなのである。

 出会える時間が少ない分、帰ってきてからのタマは、なおさら、おいらにベタベタくっつくようになって、それはまあ構わないのだが、困った事に、おいらの方が昼間の時間を持て余すようになっていた。

 これまでの家だったら、かーちゃんと一緒だったから、タマやそのとーちゃんが居なくても、それなりに、かーちゃんとじゃらけたりして、時間を潰せたものだ。しかし、この新居では、タマが出て行ってしまうと、本当においら一人になってしまうので、何もする事がなくなってしまうのだ。

 そんなおいらの気持ちを察してくれていたのか、外から戻ってきた時のタマは、すぐにおいらの事を持ち上げてくれて、

「ごめんね、カイト。寂しかったでしょう」

 と、優しい声をかけてくれたあとに、ぎゅっと抱きしめてくれるのであった。

 おいらにとっても、その瞬間は一番幸せな時間だったが、どうやら、タマにしてみても、それは同じだったようである。

 タマは、毎日のように、日中は外へと出かけていたが、外での生活は必ずしも楽しいばかりではなかったみたいなのだ。

 家に帰ってきたばかりのタマは、大体、疲れ切っていたようにも見えた。暗く沈んでいるような事もあった。そんな時は、おいらを抱きかかえて、ようやく笑顔を取り戻していたみたいなのである。

 やっぱり、タマも、前の家やとーちゃんの事が懐かしいのだろうか。前の家で一緒に住んでいたおいらと戯れると、昔の感覚が思い出せて、ささやかながら心が落ち着くのかもしれない。やはり、タマには、おいらが必要な存在だと言う事だ。

 だから、タマと一緒にいられる時間は、おいらも積極的にタマにすり寄ってやる事にしていた。そうしてやると、迷惑そうな事をつぶやきながらも、実はタマも本心では喜んでいたみたいだったからだ。

 タマは、おいらの方が寂しくて、寄ってくるみたいな事を口にしていたが、実際には、おいらがタマの事を気に掛けて、寄り添うようにしていたのである。そんなおいらの気持ちも分かっておらず、タマって奴は、ほんとに無邪気なものなのだ。

 タマの上に乗っかって、顔を舐めてやったり、自分の喉を鳴らしてみせたりすると、特にタマは喜んだ。タマの手の上に、おいらの前足を置いてやったりすると、タマは「わあ、カイト。犬よりお利口だぁ」と大げさに喜んでくれたりもした。とにかく、おいらの一挙一動が、今のタマの慰みになっていたようなのである。

 そして、夜は、おいらとタマは同じベッドで寝た。おいらには、小さな籠の寝床もあてがわれてはいたのだが、夜中にそこを使う事はほとんど無かった。たいていはタマと一緒に寝る事になった。タマが強引においらを抱いて、自分の大きなベッドに潜り込んでしまうからだ。おいらも、それに別に不満はなかったのである。

 これは、前の家にいた時からの習慣だった。ただし、前の家にいた頃は、おいらとタマ以外に、おいらのかーちゃんも一緒だった。おいらたち親子ともに、タマのベッドで寝かせてもらっていたのである。

 この新しい部屋では、タマとベッドは完全においらだけで独り占めだ。決して悪い気もしないのである。

 こんな生活が、新しい家に越してきてから、何日も続く事になった。

 じょじょにだが、おいらもタマも新しい生活スタイルに馴染んできたようだった。少なくとも、おいらは、同居家族がタマ一人でも、それほど寂しいとも思わなくなり始めていた。

 そんな、ある夜の事である。

 外出から戻ってきたタマが、やけにそわそわとしており、すぐにおいらの事を抱き上げた。

「カイト。どうしよう、不審者だよ、不審者」

 と、タマは言った。

 フシンシャが何なのかは、おいらにはよく分からなかったが、最近、タマがよく口にするキーワードだった。

 タマは、おいらを抱いたまま、窓の方へと向かった。窓はあらかじめカーテンを閉めていたが、すき間からソッと外を観察したのである。

 タマは、おいらにも外を見るよう、おいらの体を窓へと近づけた。

「ほら、あの電柱の影に誰かいるよ。最近、怪しい人がよく、このあたりをうろついてるんだって。このうちも狙われていたら、どうしよう」

 タマの言う通り、確かに、すぐ外にある大きな電柱の裏に何かが隠れているようだった。

「警察に電話した方がいいかな。でも、大げさになり過ぎても困るし」

 タマの、おいらを抱きしめる力が強まった。タマも、よほど怯えて、興奮しているらしい。まさに、こんな時こそ、お守のおいらが、タマの心の支えになってやらなきゃいけないようだ。

 一声にゃーと鳴いて、おいらはタマを元気づけた。

「ありがとう、カイト。自分がいるから大丈夫、って言ってくれてるのね」

 おいらの心遣いが分かってくれたらしく、タマがおいらの頭を撫でてくれた。

 しかし、その後、しばらく進展は無かった。タマは、まだ様子をうかがっていて、ケイサツとやらに電話を掛けたりはしなかったし、部屋に閉じ篭ったまま、時々、窓から電柱の方を見張る状況が続いた。

「あれ、いなくなったよ」

 ふと、タマがそう言った。どうやら、電柱の影に潜んでいたフシンシャの姿が、いつの間にか見えなくなったらしい。

「本当に、もうどこかへ行っちゃったのかな」

 タマがつぶやいた。

 そして、タマは、おいらを抱いたまま、ゆっくり歩き出したのだった。

 タマの奴は、臆病な割には、好奇心が強い面もあるのだ。この時もそうだった。よりによって、止めとけばいいのに、わざわざ、部屋の外へ出て、本当にフシンシャがいなくなったかどうか、確かめようとしたみたいなのである。

 おいらを抱いたままでだ。おいらと一緒なら、多少は怖さが紛れるとでも思っていたらしい。とんだとばっちりなのである。しかし、タマのお守として、こうなったら、おいらもとことん付き合うしかなさそうだった。

 タマは、静かに部屋の玄関の方へ向かい、音を立てないようにして、そっと玄関のドアを開いた。むろん、おいらを抱いた状態でである。

 玄関の外を見たタマが、次の瞬間、大声を出した。

「パパ!」

 その声にびっくりして、おいらも慌てて、タマの腕の中から地面へとぴょんと飛び降りた。

 タマが呆れた顔をしている。タマの視線の先には、戸惑いながら立ちすくんでいるタマのとーちゃんの姿があった。

 

 それから、数十分後、タマのとーちゃんはおいらたちの部屋に入れてもらえて、テーブルの前に座らされ、タマの説教を受けていた。

「もう、パパったら!あれほど、あたしは心配ないって、言っておいたじゃない。これまでも、こそこそ、うちのそばまで来て、様子を伺ったりしていたのね。今まで、近所で不審者と間違えられていたのも、全部パパだったんでしょう?」

 タマは、普段は本当に優しいのだが、怒った時は実に怖いのである。

「珠華、本当にごめん。たまたま、そばを通りがかったものだから、覗いてみただけなんだ。ウソじゃない、信じてくれ」

 タマのとーちゃんは、ひたすら平謝りしていた。

 タマに怒られるのは、前の家に居た頃から、たいていは、このとーちゃんだったのである。

「たまたま通りがかっただけって、実家からここまで100キロ以上離れてるのよ。それに、こっちの方角にはパパの用事のありそうな場所はないし。ごまかそうったってダメなんだからね」

「許しておくれ。お前がきちんと一人で暮らせてるか、気になってしょうがなかったんだよ」

「月に一度は、そっちの家にも顔を出してたじゃない。それに、あたしんところに来たかったら、そんな隠れたりしないで、堂々と訪ねてきてくれたら良かったのよ」

「それはそうだけど、あんまり遊びに行き過ぎたら、それはそれで、お前もうるさがるだろう?」

「当たり前よ!あたしだって、もう子どもじゃないんだから!」

 タマのとーちゃんは、図体がでかいわりには、タマにはからきし弱いのであった。

 しかし、本物のフシンシャとやらじゃなくて、まずは一安心だったようである。

 タマには、こんなに自分の事を心配してくれている親がいて羨ましいな、とふと、おいらも思った。

 おいらの心の中にも、優しかったかーちゃんの姿がぼんやりと浮かび上がったのであった。

 

    了


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ボツネタ集

 以下に掲載するのは、作品化にこぎつけなかったボツネタの数々です。

 主に、ブックショート共幻文庫のコンテスト用に考えたアイディアです。

 

 ボツネタと言うより、今はまだ書けない作品のシノプシスもいくつか含まれています。

 映画用のアイディアである「ルシー」「AI影の少女」「Battle on spirits」などがそうです。「いじめっ子は皆殺し」も、執筆保留中の小説の一つです。


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シノプシス・コンテスト用ボツネタ

 今となっては思い出したくもない、あるシノプシス(あらすじ)・コンテスト用に送ったアイディアの数々です。

 私のネタも、1次予選は通過していたらしいのですが、肝心のコンテストの方が終盤ウヤムヤになってしまい、誰かの作品は入選したみたいなのですが、その後の展開の話がまるで聞かれず、専用サイトの方も自然消滅してしまいました。

  • ノストラダムスの大予言、惑星直列、マヤの予言など、そのたびに地球は未曾有の危機に襲われていたのだが、未来人のタイムパトロール隊が現代人に気付かれぬようにそれらの脅威を密かに撃退してくれていた!自分たちの住む未来を守るため、過去の破滅の歴史と戦うタイムパトロール隊の活躍冒険劇。
  • 未来の地球人の兵器は、どれも安全装置(ブレーカー)がついていて、戦闘の時、極限までパワーを発揮できなくなっていた。そんな状態の時代に、宇宙人が攻めて来て、地球軍はピンチに陥るが、主人公の少年は古代博物館の奥に眠っていた過去の強力兵器、巨大ロボットを見つけ、それに乗って出陣する。
  • 人類が絶滅した超未来の地球。人類の文明を引き継いだロボットたちの未来社会に、実験で絶滅種の人間が一人、クローン再生される。ロボットだけの世界に紛れ込んだ、たった一人の人間が騒動を起こす。
  • 馬、牛、豚、ニワトリ、犬の五匹の動物による戦隊ヒーローが誕生する!彼らは、長きに渡って、自分の同族を家畜として虐待隷属してきた人類を悪の組織と見立て、戦闘を開始する。善悪の視点をひっくり返してみた風刺ヒーローもの。
  • 現代日本のある父子家庭。パパ大好きな娘が、不思議な力(魔法?超能力?)で、大人になる能力を身につけ、冗談のつもりで大人の姿で父に接近したところ、恋仲になってしまう。ここに禁断のラブファンタジーが展開。賢い娘は、大人と子供の姿を使い分け、父がピンチの時に上手に手助けする。
  • テレポートができる超能力者の地球人が、調子に乗った結果、宇宙の果ての惑星に瞬間移動してしまう。座標があいまいな為、超能力では地球に戻れない。しかし、その星には友好的なエイリアンがいて、一人乗り宇宙船を貸してくれて、地球人はそれに乗って、地球を目指す事に。大冒険スペースオペラ。
  • 地獄のテレビ放送、ベルゼブル通信。悪魔たちが視聴するベルゼブル通信の内容は、ドキュメンタリーも企画ものも創作ドラマも、人間の悲劇や不幸を取り扱ったものばかりだ。地上に降り立った悪魔のキャスター、ベルゼブルの今宵の犠牲者は誰?
  • マッドサイエンス部。我が校の科学部の部員は、一人一人が博士なみの天才だ。それぞれの部員が、生物学、ロボット工学、心理学、天文学など、一つの科学分野だけ得意としており、そんな彼らが時には手を結んだり、あるいは敵対したりして、学園に騒動を巻き起こしたり、事件を解決したりするのだ。 

 ボツネタとは言ってますが、まあ、依頼さえあれば、いつでも正式作品に書き上げられるネタばかりです。3番めの未来ロボット社会ネタなんて、まさにルシーものの原点ですね。5番めの父娘ラブファンタジーは、コミPo!版「ミーちゃん千一夜」の変形。と言うか、ほんとは「ミーちゃん千一夜」のネタを送りたかったのですが、すでに執筆済みのネタは応募不可でしたので、送れませんでした。6番めのスペースオペラの話も、実はマンガ用の下書きは学生の頃にすでに書き上げてしまっています。7番めのベルゼブル通信も、大学生の時にアマチュア映画で作れないだろうかと温めていたネタです。

 そして、このコンテストでの見捨てられ感がはなはだ悔しかったのが、このたび、私がまた小説を書くようになりだしたきっかけでして、1番めの1999年のタイムパトロールものを発展させた物語が「ルシーの明日」だったのでした。


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共幻文庫コンテスト2015用ボツネタ

 共幻文庫が、お題つきの短編小説コンテスト12回連続を行なっていたのに私が気が付いたのは、2015年も末でしたので、この2015年のコンテストにはほとんど参加できませんでした。参加できたのは、終盤の3回分だけで、なおかつ時間が足りなかったので、各回に1本だけ出品するのが精一杯です。よって、作品化以前に、形にならなかったアイディアも結構ありました。

 第10回のお題が「秘密」。このお題は、色々な切り口で書けそうです。昔話の「雪女」みたいなストーリーとか、皆が知っているのに、わざと知らないふりをしている秘密の話とか、いろいろと構想は浮かび上がったのですが、なかなか形になりませんでした。結局、締め切りに間に合いそうになくて、出品したのは、昔書いた短編の使い回しで「ブログ・ブロークン・ジェラシー」です。

 第11回のお題は「手」で、最初は、タコ型宇宙人と握手したところ、握手したのは触手じゃなくて、触手の中に混ざっていた性器だった、と言う下ネタを考えていたのですが、状況設定がうまくまとまらず、作品化ならず。代わりに、浮上し、作品化にこぎつけたのが、お化け坂シリーズの第1話となる「帰り道」でした。

 第12回のお題の「。」につきましては、はじめっから「お題に生きる男」のネタしかひらめきませんでしたので、ボツネタはありません。


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共幻文庫コンテスト2016用ボツネタ

   第1回お題「笑い」

 正式に出品した作品のうち、「笑いを盗む男」はユーモア、「笑う幽霊坂」はホラーでしたので、もう一本、ほのぼのした作品を送ろうかと考えていました。で、思いついた話と言うのが、幼稚園の女先生がジャングルを歩いていると、ヘンテコな動物にいっぱい出会うと言うストーリーで、実は入院していた先生を喜ばす為に、園児たちが書いてきた動物の絵で作られた紙芝居だった。その紙芝居を見た先生が嬉しくて最後に笑うと言うオチだったのですが、いまいち傑作になりそうな気配が感じられません。で、書かないで、止めてしまいました。登場人物名は全部「クレヨンしんちゃん」から借用しようと言うところまで話は煮詰めていたのですがね。

 

   第2回お題「復讐」

 このお題は私の得意ジャンルです。次々にネタがひらめいたのですが、ここは慎重になって、特に中身が凝った作品のみを出品作として完成させました。

 実際に執筆したにも関わらず「浦島異聞」は、復讐ネタっぽくなくて、出品を保留したのは、すでに別所で書いた通り。「浦島異聞」の姉妹作で「かぐや異聞」なんてのもひらめきました。かぐや姫が何らかの復讐の為に、地球の花婿候補たちに無理難題を吹っかけた、と言うオチなのですが、いまいち中身が軽すぎました。もともと、「浦島異聞」つながりで、登場人物名に昔話キャラを多用したかっただけの作品なので、「浦島異聞」の方が出品保留になると、当然こちらも書くのは中止です。

 悪魔サタンが復讐に燃える話を考えました。神様エホバが、突然あらわれて、サタンにあっさりと神様の地位を譲ってくれたのですが、神様の仕事は忙しすぎて、サタンはびっくりします。結局、エホバに神様の役職を返上するのですが、復讐しようとしたら、逆に不幸になってしまうと言うお話。このテの、復讐すると自分が苦境に陥ったり、復讐内容が逆に相手を喜ばせてしまうと言った話をもくもくと練っていました。

 ヴァイトン(精神を喰う生命体)が出てくる話も書こうかとしていました。学校のイジメで自殺した子がヴァイトンに生まれ変わります。ヴァイトンの好物は、イジメをする意地悪な心で、今度はヴァイトンたちが地球へいじめっ子の心を食い荒らしに向かうと言うシーンで終わります。でも、この話は暗くなり過ぎて、入選からは絶対外されると思いました。

 いっそ、復讐対象が実は今この小説を読んでいる審査員だ、と言うトリッキーな展開の話も考えました。でも、そんな話じゃ、絶対に審査員にはウケないし、入選はムリですよね。

 

   第3回お題「料理」

 料理と聞いて、すぐひらめくのが「注文の多い料理店」(by宮沢賢治)。ほとんど躊躇する事も無く「人喰い料理大作戦」のネタがまとまりました。トライアングルのエピソードについては、この程度の安易さで構わないのであります。

 一方、ルシーをどう料理と結びつけるかは、けっこう苦労しました。最初、ロボット玩具のルシーに電気をさまざまに料理して喰わせる話を考えていたのですが、どう知恵を絞っても、電気の料理と言うものが思い浮かびません。結局、ありふれたストーリーですが「ルシーの晩餐」の形に落ち着きました。

 

   第4回お題「幽霊」

 このお題を見た途端、私には「お化け坂」を送れ、と示唆しているように見えてしまい、別コンテストで落選したばかりの「お化け坂」をすぐに投稿してしまいました。

 もう一本は、もともとは「幽霊人形(仮)」というアイディアで、はじめっからオモチャの人形に幽霊が取り憑く話を予定していました。幽霊が取り憑いたのは、オモチャ会社の試作品の人形で、会社は「幽霊が取り憑く人形」として、量産して大々的に売ろうとします。しかし、実際に幽霊(試作品を作った男の死んだ奥さん)が本当に取り憑いたのは、最初の試作品だけで、あとの人形はインチキで、その事がバレて、幽霊人形はすぐ発売禁止処分になってしまいます。で、唯一のホンモノ幽霊人形を巡って、最後は「知ってる人だけのお話」と同じオチになる訳です。なぜ、この原案を「知ってる人だけのお話」に大幅変更したかと言いますと、この「幽霊」のお題が発表された後すぐ、共幻文庫のサーバーが本当に繋がらなくなるハプニングがありまして、不謹慎ながら、ネタとして小説に組み込んじゃった次第です。ほんとに「知ってる人だけのお話」なのであります。

 本当は、本物の幽霊ではなく、幽霊部員や幽霊船と言った「人がいない」という意味合いの幽霊ネタを書いてみたい気もあったのですが、すでに出品用作品が2本決まってしまっていたので、このネタは膨らみませんでした。

 

   第5回お題「成長」

 「AIに負けるな」のストーリーは、お題が分かる前からすでに決まっていました。原案段階では、本編内でも触れてる囲碁勝負のような、人間の小説家対AIの小説書き勝負の話にするつもりでした。タイトルが「AIに負けるな」なのは、その名残りなのであります。

 もう一本、出品しようと言う事で、蛙里いずみの新作にする事はすぐひらめいたのですが、アイディアがまとまるまでは、かなり苦労しています。最初、「姪の成長」を正攻法で描こうとも思ったのですが、あんまり面白くなりそうにありません。それで、いつものごとく「キャラクターの成長」をオチにした、トンデモない話になってしまったのであります。実はいずみが二人出てくるのが元々のイメージだったのですが、むしろ意外さを重視して、完成品のようなスタイルにしました。

 もっと変わった「成長」の話も書けそうな気はするのですが、今回はあまり頭を絞ってはいません。

 

 総括しますと、本コンテストでは、ニジュウ面相ネタお化け坂などのシリーズものにこだわりすぎた為、アイディアに自分で制限をかけちゃた感じもします。特に後半戦ほど、すでにネタが決まっていたため、新しい発想が膨らまなかったようで、ちょっと惜しい事をしたかもしれません。


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アットホームアワード用ボツネタ

 アットホームアワードの小説コンテストお題が四つありまして、そのうち、お題「一人暮らし」には「おいらとタマの一人暮らし」を、お題「お隣さん」には「おばあちゃん」を送らせていただきました。

 さて、お題はまだ二つあったのですが、「おばあちゃん」の出来が良すぎた事もあって、なかなか次のネタが決まりませんでした。

 お題「ご当地物語」は、私自身があんまり旅行しない人間なもので、いい舞台がひらめきません。いっそ、私が今住んでいる町を舞台にした「桜の町大作戦」(うちの町の名物が桜草だったもんで)なんてのも考えたのですが、少し安直すぎるかと思い、ひとまず保留にしました。もし、この話を書いていたら、トライアングル・シリーズの一本になっていました。

 もう一つ残っているお題「二次創作」がまた、なかなかの難産でして、ネタは次々にひらめくのですが、あと一歩、作品化に及びません。

 「三匹のこぶた」を元ネタにして、ワラ、木、レンガの家を比べる話とか考えたのですが、いまいち内容がふくらみませんでした。「不思議の国のアリス」のパロディで「日本の国のアリス」はどうだろう、と思いました。日本の住宅はウサギ小屋だと聞いて、アリスが小さくなるお菓子を用意しているとか、日本の住宅事情をアリス原典のネタと引っ掛けて、ユーモアに描こうかと思ったのですが、これも、あまり斬新な内容になりそうな気配が感じられませんでした。

 いっそ、「宇宙戦争」タコ型火星人が地球人に化けて、スパイとして日本に潜入する話なんてのも考えたのですが、最後は、日本人の親切さに触れて、火星人が改心すると言う展開にしたかったのに、生き血が好物で、ウィルスにやたらに弱い火星人では、なかなか、そんな方向には話を進める事が出来なかったのでありました。

 

 さて、これ以上、アイディアがひらめかなかった為、アットホームアワードへの参加はもう止めるつもりだったのですが、その後、アットホームアワードの入選作を見ますと、私がNGネタと考えていた幽霊物件話とか「ご当地物語」でも「架空の町」なんてのが採用されておりまして、オイオイと思ってしまいました。

 何でもアリかよ、と判断した私は、とりあえず、もっとアットホームアワードに作品を送ってみる事にしました。そうして、無理やり書きあげた新作が「アリとギリギリデス」「ビデオの中の彼女」だったのであります。まぁ、最終的にどれも入選し損ねた訳なのですが。


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<解説>名前遊び

 執筆活動を再開するにあたり、過去の自作のキャラクターはほぼ使い回ししないと心に決めたのですが、そうなると、登場人物の名前の付け方に自由度が増した分、少し遊びたくもなってきました。

 最初に遊んでみたのが「帰り道」です。この作品に出てくる二人組の名前は、一恵とF先輩で、私としては、吹石一恵と福山雅治のつもりだったのですが、ヒントが少なすぎて、誰にも気付いてもらえなかったようです。そんな訳で、「帰り道」の続編となる「3つの手の物語」では、もろ、先輩を福山と表記し、一恵の父親の徳一も登場させております。(吹石一恵の父親の名前が徳一)

 以後の作品では、もっと分かりやすい名前遊びをする事にしました。

 

「お化け坂」

はるか    (春か)

なっちゃん  (夏ちゃん)

アキラ    (秋ラ)

冬彦

 

「笑う幽霊坂」

美来  (未来)

過子  (過去)

 

「おばあちゃん」

世界一

世界初音  (世界初ね)

世界喜望  (世界規模)

 

「ルシーの晩餐」

キノオ  (昨日)

キョウ  (今日)

アス   (明日)

 

「浦島異聞」

桃吉  (桃太郎)

金太  (金太郎)

寸坊  (一寸法師)

 

「時間犯罪」

L(Laboratory)病理研究センター

時間犯罪を犯す人H(Human)

バチルスB(Bacillus)

友人F(Friend)

 

 トライアングル・シリーズは、主要登場人物が三人と言う事で、トライアングルトライ、アン、グルに分解してみました。そのまんま、他の登場人物名も、打楽器を用いています。雑誌「ダ・ガッキ」をはじめ、編集長のシン・バル氏、T・バリン(タンバリン)氏、すず(ベル)さん、など。

「ガラスの靴大作戦」に出てくるサンドリヨン(社)とはシンデレラのフランス名「人喰い料理大作戦」のゲストキャラであるモーロックとは、ウェルズ「タイムマシン」に登場した人喰い未来人の名前です。トライアングル・シリーズにつきましては、ボツネタの方も、大体こんな感じでゲストキャラ名が付けられています。

 

 「知ってる人だけのお話」の登場人物は、虎井、安藤、グルと実はトライ、アン、グルを和名に変えただけのものです。もう一人?の重要登場人物である尾場家サカも平仮名にすると「おばけさか」となり、他にもルシーアケチ探偵、ニジュウ面相などが出てきますので、この作品はほんとは私の最近のシリーズもの全ての名前を含有したお遊び(パロディ)だったりします。

 

 「おいらとタマの一人暮らし」は、人間キャラの名前の方が珠華で、通称タマ。猫の親子の方がアオイとカイトと、今どきの人間の子どものような名前を付けられておりまして、名前だけだと飼い主とペットが逆転しています。

 

 いずみちゃんシリーズ蛙里いずみと言う名前は、第一作「アリとギリギリデス」のアリに引っ掛けて、生まれました。蛙里(かえるざと)の読み方を変えると「あり」とも読めるのであります。さらに、「泉より愛をこめて」に出てくる画家の角土(かくど)ですが、これも角土=角度=アングルとなり、名画「泉」の作者であるアングルを和名に変えた(かなり苦しいですが)ものなのでした。

 

 「狼ハンター」の登場人物、ペローグリムと言う名前はどちらも「赤ずきん」を紹介している有名童話作家の名前です。山羊のニコの名の由来は、ネタばれしちゃいますが、お察しの通りユニコーンから取っています。赤ずきんの喋り方を藤田ニコル風にしたからと言う訳ではありません。

 

「ハイスクール全裸」は、ただのあらすじ集でしたので、ほんとは、登場人物に固定の名前をつけたくなかったのですが、シリーズが長くなるうちに、どうしても主要人物に名前もつけざるを得ないエピソードも増えてきました。

 もっとも、それでも、できるだけ、パッとひらめいた無意味な名前ばかりを採用するようにはしたのですが。

 

コージロー(「アイドルコンサート」)  私の小説の旧キャラ、法鬼高二郎より。

蛙里いずみ(「番長の初体験」他)    ご存知、私の最近のエロ小説の常連ヒロイン。

サイクロプス(「給食タイム」「人喰い」)ギリシャ神話に出てくる、食人鬼の名前。

ココア(「変身」)           なんとなく、今どきのペットっぽい名前。

マッキー(「宇宙人顔」「夢」)     なんとなく。

ミッチ(「ミッチのあだ名」)      なんとなく。

リリちゃん(「リリちゃんの内緒ごと」) なんとなく。

ヨミノ(「ヨミノギャル」)       私の過去の小説に出てくる、謎の町。

ハカセ(「部分空間転送」)       個人名をつけない為のニックネーム。

N(「Nの性転換」)           個人名をつけない為に、なんとなく。

アルク(「アルク」)          本編内での説明通り、ドラキュラの偽名。

パトス(「珍品料理」)         私の過去の小説に出てくる、オリジナルの媚薬。

ピッティアン(「留学生」)       ピット星人の正しい英表記。

A子とB子(「レズいじめ」)       個人名をつけない為に、なんとなく。

ホリョとトリコ(「家畜人」)      捕虜と虜。捕らわれの家畜キャラだから。

プラント(「家畜人」)         そのまま、plant(植物)。

カコちゃん(「名器検査」)       私のいくつかのエロ小説に出ているヒロイン。


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最終更新日 : 2020-02-25 15:15:59

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奥付



ルシーの明日とその他の物語


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