目次
ルシーの明日(完全版)
ルシーの明日(完全版)
「ルシーの明日」前編
「ルシーの明日」後編
「ルシーの明日」解説(ルシーとシリー)
「ルシーの明日」解説(ルシー的宇宙人)
「ルシーの明日」解説(ルシー的タイムマシン)
「おばあちゃん」
「ルシーの晩餐」
「時間犯罪(もしくは、AIクライシス)」
解説(AIクライシス)
「タイム残酷トラベル」
「火星征服団」
「過去確率」
「嫁食わぬ飯」
「ルシーの明日」ショートムービー
映画「ルシー」原案
おかしな童話集
おかしな童話集
「桃太郎(少年マンガ風)」シノプシス
「大きなガブ」
「ヒトラーの秘密」
「浦島異聞」
「狼ハンター」
「続・狼ハンター」
「狼ハンター」誕生秘話と今後の展開
「新釈・漁師とおかみさん」
おばけ坂シリーズ
お化け坂シリーズ
「3つの手の物語」
「お化け坂」
「あいつ」
「笑う幽霊坂」
「恨みの短冊」
「お化け坂を訪ねて」
「見えない叫び」
「びっくり妖怪大図鑑」
解説
トライ・アン・グルの大作戦
トライ・アン・グルの大作戦
「ガラスの靴大作戦」
「苦情の手紙大作戦」
「人喰い料理大作戦」
「シースルー大作戦」
<おまけ>ボツネタ大作戦
解説
アケチ探偵とニジュウ面相の冒険
アケチ探偵とニジュウ面相の冒険
「お題に生きる男」
「笑いを盗む男」
「知ってる人だけのお話」
「AIに負けるな」
「ニジュウ面相の別荘」
「ニジュウ面相は誰だ?」
解説
いずみの青春
いずみの青春(泉ちゃんグラフィティ)
アングル「泉」
「アリとギリギリデス」
<解説>「アリとギリギリデス」元ネタ
「ビデオの中の彼女」
<「湯けむりの天使」って、こんな内容>
「姪っこんぷれっくす」
「泉より愛をこめて」
「絵画の刑罰」
「V.O.ルーム」
「教室にて」(「脱衣ゲーム」より)
「ピンクの怪物」登場モンスター目録
「いけない同級生」シノプシス
「いけない同級生(仮)」シノプシス(続)
二次創作
二次創作
映画用「時の塔」シノプシス(1)
映画用「時の塔」シノプシス(2)
映画用「黒の放射線」シノプシス(1)
映画用「黒の放射線」シノプシス(2)
解説
その他
その他
「おいらとタマの一人暮らし」
ボツネタ集
シノプシス・コンテスト用ボツネタ
共幻文庫コンテスト2015用ボツネタ
共幻文庫コンテスト2016用ボツネタ
アットホームアワード用ボツネタ
「師匠の憂鬱」(『西遊記』より)
さるかに合戦いろいろ
特撮ヒーロー「うさぎとかめ」
エデンの園、他
解放軍闘士のオオカミ
アリとキリギリス
アケチ大戦争
隣のタヌキ
現代版ギルガメッシュ
AI影の少女
いじめっ子は皆殺し
愛欲のリフレイン(別題「あなたと私だけの世界」)
<解説>名前遊び
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映画用「黒の放射線」シノプシス(2)

 今回の東京での黒あざ病の行進は、これまでにない大惨事と化したのだった。この行進で、東京にいた黒あざ病患者は、ほぼ一掃される事となった。そのほとんどが、海に落ちて、溺れ死んでしまったのである。その数は2000人以上を超え、行方不明者も100人近いと発表された。

 修二も、平井先生も、浅井恵子も、キンダー少年も、礼子の母も、ナオミの知っている黒アザの人々は、恐らく、誰も彼もが亡くなってしまった。その事によって、ナオミも、東京から出て行く踏ん切りがついたのである。

 そして、ナオミは、信一について、新たに、下田で暮らすようになったのだ。

 ナオミは、信一が新しく勤める事になった研究所の社宅に、信一と一緒に住める事となった。しばらくは、心の傷を癒す為に、学校も休んで、この土地で療養させてもらうのである。

 信一の方は、早くも、研究に戻ったようだった。何としてでも、憎き黒あざ病の対処法を見つけ出し、皆の仇を取りたいと言う執念で燃えていたのだ。

 信一たち研究者の仮説どおり、黒あざ病と宇宙線が関係しているのは、もう、ほぼ間違いなさそうだった。どうやら、人間の体に黒アザを発生させる宇宙線や、その黒アザを通して、人間の心をコントロールする宇宙線などがあるみたいなのだ。信一は放射線の研究が専門だったし、毒には毒をの発想で、宇宙線で出来た黒アザを、似たような放射線で焼き消せないかとも考えたのだが、今のところは、そのような効果のある放射線も見つかってはいなかった。

 さて、最初は暗く沈み込んでいたナオミも、少しずつだが、気持ちが回復してきたようだった。彼女は、ようやく、社宅の外にも出てみる気になったのである。

 実際に、下田の町を歩いてみると、自然も多いし、爽快なのであった。あの悪夢のような出来事を、やんわりと忘れさせてくれそうなのである。

 下田の町の中には、あちこちにSL教団の宣伝ポスターが貼られているのも、目についた。そう言えば、ここにはSL教団の総本山があるのだ。多分、あの小山治も、そこに居るのかもしれない。

 本当のことを言えば、ナオミは、あまり治のことは好きではなかった。でも、知らない人だらけのこの町で、ちょっと、懐かしい顔にも会ってみたい心境になってきたのである。

 ナオミは、通りすがりの人に聞いたりして、一人で、SL教団の総本山へと目指してみた。すると、間もなく、総本山と呼ばれる場所は見つかったのである。

 そこは、けっこう広い区域だった。ちょっとした町のような構造の空間なのである。SL教団では、信者たちに大量にお布施をさせて、こんな沢山の土地を買い取り、自分たちの拠点にしていたのかもしれなかった。

 本部の入り口で、ナオミは、SL教団の係員によって、やや感じの悪い尋問をされた。だが、治の名前を口に出すと、その治が本部内からやって来て、彼の紹介で、中に入れてもらえる事になったのだった。

 治は、ナオミが来てくれたものだから、大変に喜んでいた。彼は、有頂天になって、得意げに、SL教団の本部内を色々と案内してくれた。

 困惑したナオミは「まだ入会を決めた訳じゃない」とはっきりと告げると、治は「だったら、教祖の祈祷だけでも聞いていったらいい」と言うのだった。この祈祷会への参加は、信者以外でも自由で、この祈祷を聞けば、黒あざ病にかからなくなるのだそうだ。

 あまりに胡散臭い話ではあったが、治が強く勧めるものだから、つい流されてしまい、ナオミも、その祈祷会だけは出席してみる事にしたのだった。

 祈祷会は、SL教団本部の広い集会場にて行われた。まるで劇場みたいな場所で、多くの信者があがめる前で、前方のステージで、教団の教祖が祈祷を行なうのだ。

 いよいよ、祈祷会が始まり、教祖が姿を現した。白いガウンで身を覆った、怪しい中年男なのだ。さらには、ベールをかぶった巫女たちも三人登場して、教祖の周りで、演出として舞ってみせたのだった。この教団のご神体だったのか、巫女たちは、それぞれ、変わった色の丸い小石を大事そうに抱えていた。

 だが、ここで、ナオミは、ハッとしたのである。巫女の一人が、死んだはずの庄司礼子とそっくりな顔をしていたのだ。体格も似ていた。ただし、黒アザは患っていない。これは、単なる他人の空似だったのだろうか。ナオミは、教祖の祈祷中、すっかり、その事ばかりに、頭が集中してしまったのだった。

 そして、実は、この時、教祖もまた、参加者の中から、特にナオミの事を見つけて、その姿に鋭い視線を向けていたのである!

「三日後、神が海へと降りられたまう」と言うのが、教祖の今回の祈祷の締めの言葉だった。

 祈祷会が終わり、参加者たちはザワザワしながら、集会場の外へ出ていった。ナオミは、たまたま、巫女たちが自分の目の前でたむろしているのを目にしたのだった。そこには、あの礼子似の巫女もいる。

 ナオミは、思わず「礼子!」と呼んでしまった。すると、その礼子似の巫女がナオミの方に振り向いたのだ!ナオミもびっくりしたが、その巫女の方も、ナオミを見て、驚いた表情を浮かべていた。その巫女は、動揺しながら、急いで、この場から走り去ってしまった。

 おかしな話だが、もしかして、あの巫女は本当に礼子だったのだろうか?この疑問を、ナオミは、素直に治へと話してみた。でも、治はまるでピンと来てないようだった。それもそのはずで、礼子はもう死んだのだ。あの巫女は、確かに礼子には似ているが、高野はる子と言う名前なのだそうだった。

 

 その夜、研究所の社宅に戻って来たナオミは、SL教団の本部を訪問してきた事を、信一に報告していた。

 信一は、SL教団には、たいへん立腹しているのである。SL教団は、黒あざ病と言う皆の不幸につけ込んで、今や、国内でも絶大な勢力を誇り始めていたのである。入信したものは、財産をお布施として没収され、SL教団はさらに膨れ上がっているのだと言う。やがて、SL教団は、一つの独立国家のような存在にもなりかねないのではないかと恐れられていた。しかし、一方で、なぜかSL教団の信者が黒あざ病になりにくいと言うのも、事実らしいのであった。

 ナオミは、礼子似の巫女にあった事までは、信一には告げなかった。たわいもない偶然で片付けられて、笑われそうだったからである。

 それから三日後の夜、信一の研究所では、激震が走った。かつてないほどの強力な宇宙線が観測されたのである。もしかすると、あの東京の黒あざの行進みたいなものが、再び起こるかもしれない!

 皆は、息を飲んで身構えて、各地にも警告を流したが、しかし、実際には、そのような最悪な事態にはならなかった。その代わり、夜空には美しいオーロラが輝いたのである。もちろん、こんな緯度ではオーロラなど発生するはずもないのにだ。まさに、宇宙線が招いた異常現象だったのだろうか。

 社宅から、このオーロラを見守るナオミは、遠くの小高い丘に、一人の人物が孤高に立って、空を見上げているのを発見した。その人物は、ガウンを着ており、どうもSL教団の教祖っぽくも感じられたのだ。ナオミは、その事を信一にも話してみたのだが、あまり真剣には聞いてくれなかった。でも、三日前、教祖は予言していたのだ。今夜、神が海へと降りてくる事を!この美しいオーロラを伴って、恐るべき何かが地球に侵入していたとは、この時点では、まだ誰も気付いてはいなかったのである。

 

 SL教団の敷地内には、教祖だけが入れる神聖な場所があった。それが、下田の海につながる地下洞窟である。

 オーロラが現れた翌日、教祖はその地下洞窟へと訪れていた。

 その洞窟には、海と直結した水脈があるのだ。教祖が、その水脈の前に立ち、祈り始めると、海水が波立ち出した。大きく跳ね上がるだけではなく、オレンジ色にも光り出したのだ。

 教祖が、バッとガウンを脱いだ。その裸の体も、怪しくオレンジ色に光っていた!教祖は、躊躇する事もなく、ジャバンと、踊る海水の中に飛び込んでみせたのだった。

 

 あのオーロラが見えた夜以来、海での海産物の収穫は異常なまでに落ち込んでいた。まるで不漁なのである。

 その事をこぼしながら、それでも航行を続けている漁船があった。その船が、突如、嵐に巻き込まれたのだ。天気予報では警告していなかった、いきなりの嵐だった。ただの暴風ではなく、どこか奇怪な波の荒れ方なのだ。漁船はたちまち、その波に飲み込まれて、転覆してしまった。

 すぐに救助隊は派遣された。すでに晴れていた波間に、船の残骸は見つかったが、乗員は死体一つ発見できなかったのだった。

 そんな事件があちこちで繰り返された。

 一方で、黒あざの行進も、相変わらず、各地で起きていたのだった。しかし、これまでと違う要素が加わり出していた。海に落ちてしまった被害者たちが、そのまま、水死体も見つからなくなってしまったのである。海水に飲まれた黒あざ病患者は、どこに消えたのか、行方不明になり、文字どおり蒸発してしまうのだった。

 これでは、不幸の上乗せである。残された身内は、見つからない黒あざ病患者の安否を悲しむとともに、何が起きたのか、頭を悩ませたのだった。

 

 さて、下田の黒あざ病対策の研究所の社宅では、今度は、ナオミのもとへ治の方が訪ねてきていた。

 治は、勝手な思い込みで、ナオミがもうSL教団に入団するものだと思っており、最近、彼女が教団本部へと顔を出していなかったものだから、わざわざ、呼びに来てくれたのである。

 SL教団になど入れ込んでいないナオミとしては、いい迷惑な話だったが、彼女には一つだけ気に掛かっていた事があった。あの礼子似の巫女、高野はる子である。この際、全くの他人であったとしても、礼子のことを偲びながら、あのはる子と会って、話をしてみたいと思い始めたのだ。

 かくて、ナオミは、治に連れられて、再びSL教団の本部にお邪魔してみたのである。

 教団本部に着いても、ナオミの目当ては、はる子だけだ。あちこちを気を付けて、見回しながら、ナオミはようやく、はる子を発見したが、ナオミが声を掛けようとしたら、はる子はまたもや慌てて逃げてしまったのだった。

 そんなつれない態度を取られたナオミに、ひょっこり話しかけてきた者がいた。なんと、SL教団の教祖である。

 相手があまりの大物だったから、動揺したナオミだったが、教祖は意外と優しい物腰だった。それで、ナオミも、つい思い切って、教祖に、死んだ親友(礼子)の事と、その親友とはる子がそっくりな事を話してみたのである。

 教祖は、ナオミの話を、面白そうに聞いていた。そして、告げたのである。「確かに、あの子は君の友達だよ。この教団本部に来て、庄司礼子は高野はる子に生まれ変わったのだ」

 ナオミは、激しいショックを受けた。教祖には「庄司礼子」という名を教えていなかったのに、彼ははっきりとその名を口にしたからである。と言う事は、教祖の言葉は事実なのだろうか?礼子は死んではいなかったのか?

 それ以上の事は語ってくれずに、教祖は去ってしまう。ナオミも、モヤモヤした気持ちのまま、今日のところは、SL教団本部をあとにしたのだった。

 

 一方、信一のいる研究所でも、アメリカから優秀な科学者集団を招いて、思い切った冒険に踏み切ろうとしていた。観測船はまかぜに乗り込み、じかに海を調査してみる事にしたのだ。

 来日した科学者グループのリーダー格であるアーベル博士は、信一のアメリカ研修時代の恩師の先生の一人でもあった。ここに、日米の優れた科学者の師弟コンビのチームが結成される事となったのだ。

 信一とアーベル博士を筆頭とする、沢山の科学者を乗せたはまかぜは、まずは、下田の海の周辺のオーロラが見えた付近の海を目指す事となった。アーベル博士の目星では、どうも、そのへんが怪しいと言うのである。

 海洋学者であるアーベル博士は、海での大量の人間消滅事件について、すでにかなりの分析を進めていた。船が遭難したり、黒あざの行進の水死体が見つからなくなった海域と言うのは、いずれも暖流か、一時的に水温が上がっている海域ばかりだと言うのである。これから、はまかぜが向かっていた場所も、下田近くの黒潮だった。

 ところが、はまかぜが目的地に近付きだすと、その周辺の海底からは、凄まじい放射線が観測されだす。あの宇宙線と大変に酷似した種類の放射線なのだ。

 突如、海が荒れだす。シケ程度の荒れ方ではないのだ。まるで山のように、海の水のあちこちが盛り上がりだして、まぶしく光りながら、はまかぜに襲いかかってきたのである。

 もはや、これ以上の調査は不可能だった。はまかぜは航行不能に陥り、今にも沈みそうになった。信一とアーベル博士と数人の科学者だけが、事態の急変にとっさに反応し、急いで、船の甲板に配備していたヘリコプターに乗り込んだ。ヘリが飛び上がって間もなく、その見ている前で、はまかぜは完全に沈没してしまったのである。

 船に残されたメンバーは、全滅かと思われた。悔しがりながらも、これ以上はどうする事もできず、信一たちの乗ったヘリは、そのまま帰還したのである。

 

 この海の調査作戦によって、大量の仲間を失ってしまった信一たちは、大洋での謎の自然現象におののくとともに、激しく憤り、仲間の仇を討つ事を強く心に誓い合ったのだった。とは言え、すっかり打つ手を無くしてしまっていたと言うのも事実なのだ。

 そんな信一たちの様子をそばで見ながら、力になりたいと思っていたナオミは、SL教団と謎の巫女、はる子の事をずっと考え続けていた。もし、はる子が本当に礼子と同一人物なのであれば、それは黒あざ病が治ったと言う事になるのではなかろうか。まさに、それは信一たちが一番求めていたテーマなのだ。

 ナオミは、ついに決心した。SL教団の教祖に会ってみて、そのへんの真相を直接、聞いてみる事にしたのだ。

 昼間、ナオミは、友達の治に会うと言う口実で、SL教団の本部へと入れてもらった。実際に、まずは治に会い、教祖と面会してくる事を打ち明けたのである。治は、怯えて「それはやめた方がいい」とナオミに忠告したのだった。心酔している信者のはずの治ですら、教祖は、謎めいた恐ろしさを持った存在だったのだ。

 ナオミは、治の忠告を聞かずに、とうとう、教祖の部屋へ会いに行ってしまう。

 教祖は、まるでナオミが来る事を知ってたかのように、彼女を快く受け入れてくれたのだった。それどころか、ナオミへと、色々と真実を語り出したのだ。

 教祖は、もともと、東京の片隅で貧しく暮らしていたホームレスに過ぎなかった。それが、ある日、不思議な輝く石を拾った事から、神の声を聞けるようになり、その声に導かれて、SL教団を立ち上げたのだ。神の指示に従って、教祖はあちこちから光る石を拾い集めた。その石こそが、現在のSL教団のご神体であり、黒あざ病から信者を守る、未知の力の源だったのである。

 そして、本当は、一般の人々の中にも、先天的に黒あざ病にかからない遺伝子を持った人間が多数、混ざっていた。SL教団にしてみれば、そのような特殊な人間は、自分たちの布教の為には、はなはだ邪魔な存在なのだ。ナオミも、そのような黒あざ病に対する抵抗力を持った人間の一人だった。こうした特別な人間を見つけ次第、片っ端から駆除していくのも、教祖のもう一つの任務だったのである。

 ハッとした時には、ナオミは教祖にがっしりと掴まれていた。ものすごい怪力であり、とうてい逃げられないのである。

 その頃、治は、信一の研究所へと駆けつけていた。ナオミが教祖に会いに行ってしまった事を、信一たちに伝える為だ。ナオミの身に危険を感じた治は、決意して教祖を裏切る気になったのだが、自分の力ではどうしようもなかったので、信一のもとへ助けを求めに来たのだ。信一たちも緊急事態である事を察知して、すぐにSL教団の本部へ乗り込む事にしたのである。

 ナオミの方に話を戻すと、彼女は、教祖の部屋から外へと連れ出されていた。SL教団の本部の敷地内は、完全に教祖のテリトリーなのであり、ナオミにはいっさい逃げ場がないのだ。教祖は、ナオミをあの地下洞窟へと連れていき、海の神のイケニエに捧げようとしているのである。

 その移動の途中でも、教祖は、色々と真実を教えてくれた。

 現在の高野はる子は、確かに、本物の庄司礼子だった。この二人の少女は入れ替わっていたのである。東京湾で見つかった水死体の少女は、礼子の替え玉だった。と言うか、この死んだ少女こそが、高野はる子に相当する、かつてのSL教団の巫女だったのだ。彼女は、SL教団の正体を知り、恐怖に怯えて、ご神体を盗んで、東京へ逃げてきたのである。彼女は教団の追っ手に見つかり、制裁として、強制的に黒あざ病にかけられた上に、自殺するように仕向けられたのだった。逃げている最中に、彼女は、同じく家出中だった礼子と出会い、お互いに、追っ手の目をくらます目的で、服を交換していた。その結果、死んだのが礼子だと勘違いされる事となったのだ。一方で、服を交換した礼子も、SL教団に捕まっていた。彼女の始末に困った教祖は、黒あざ病を治してやる代わりに、先の少女の代役として、教団の巫女になって、もう二度と外の世界には戻らない事を、礼子へと提案した。礼子は、その交換条件を受け入れて(この提案を拒めば、きっと殺されていたのだが)、今の高野はる子となったのである。

 このような話をナオミが聞き終えたタイミングで、ついに、信一たちが彼女たちを発見してくれたのだった。

 今や、教祖は、少女監禁事件の現行犯なのだ。警察もドカドカとSL教団本部の敷地内に入ってきて、逃げる教祖を追い詰めた。

 教祖は、ナオミを連れたまま、崖に沿って、逃げ続ける。ところが、彼は、焦ってしまったのか、うっかり足を踏み外してしまう。教祖は崖の下に転落するが、すんでのところで追いついた信一が、ナオミの手だけはがっしりと握り、彼女が落ちるのだけは食い止めたのだった。

 追いかけていた一同は、急いで、崖の下の教祖のもとへ向かうが、倒れていたはずの教祖の体を調べてみたところ、恐ろしい事実に気付く。教祖は死んではおらず、まだピクピクと動いていた。それなのに、心臓は止まっていたし、瞳孔も開いていたのだ!

 これは、一体、どう言う事なのであろう。ひとまず、怪我の治療という名目で、教祖の身は、信一たちの研究所にと収容されたのだった。

 瀕死の重体で、意識がない状態であるにも関わらず、なおも生命を維持している教祖に対して、研究所員の一人が自白剤トルーサーを投入してみる事を提案する。本来なら違法行為なのであるが、どうせ、教祖は明らかに普通の人間じゃないし、黒あざ病を世界に広めて、皆を催眠状態にして操った神とかの手先だと言うのならば、それこそ目には目をなのだ。

 トルーサーに、教祖の体はまんまと反応する。教祖は、昏睡状態にも関わらず、トルーサーの効果で、こちらの質問に対して、素直に答え出したのだった。教祖が語り出した内容は、恐るべき全ての真実だったのだ。

 まず、SL教団のSLとは、Space Law の略で、宇宙の法則に従う信仰を意味する。宇宙の法則とは、より高度な生命体が、程度の低い生物を支配し、食い荒らしてもいい、と言うものなのだ。それは、一つの惑星内にとどまる話ではない。他の惑星の生き物であろうと、自分たちより下等であれば、食料にしても構わないのである。

 SL教団が神と崇める存在は、遠い昔にガダル星座の四番星に発生した生命体だった。彼らは、高度に進化し、自分の星の生物をことごとく食い滅ぼしてしまうと、やがて、宇宙へと進出を始めたのだ。彼らは、来訪した惑星の生物を次々に食い尽くしてきた。そうやって、宇宙全体に広く拡散して、繁栄しているのである。

 そんな彼らが、とうとう、太陽系にまで到着した。彼らのターゲットは、生命で溢れた地球である。中でも、地球で大繁殖していた人類は、彼らにとって、格好の餌であった。慎重に計画を練った彼ら宇宙生命体は、いつもの方法で、地球の人間に黒アザを発生させた。この黒アザによって、人間を自由にコントロールできるようにして、家畜にして食いまくる為である。いわば、地球は彼らの人間牧場となったのだ。

 彼ら宇宙生命体は、海水の中で活動するのを常としていた。地球の人間たちに十分に黒アザを作り、海にまでおびき寄せる準備ができたら、いよいよ彼らは地球へと降り立った。それが、あの不思議なオーロラだったのである。

 ただし、無計画に人間を食いまくりすぎたら、たちまち地球人類の人口は減り、絶滅してしまう事であろう。それを避ける為に、黒あざ病にかからない人間を適度に残す目的で、SL教団を地上に発足させたのだ。その教祖は、完全に宇宙生命体の傀儡だった。教祖は、宇宙生命体に洗脳されて従わされ、食っていい人間とまだ食わない人間を振り分ける牧童の役を任せられたのだ。それとは別に、先天的に黒あざ病にかからない人間を探し出して、駆逐する任務も、教祖は担っていた。元から黒あざ病に抵抗力がある人間が増えすぎなどしたら、宇宙生命体たちの人間牧場も蝕まれて、牧場運営に支障をきたすからである。

「ひ、ひどい。私、雑草なんかじゃないのよ」と、話を聞いていたナオミは、わなわなと震えた。

 だが、研究所員たちが一番知りたかった事は、何と言っても、黒あざ病の治し方だった。礼子という前例がある以上、この教祖は黒あざ病の完全な消し方を絶対に知っているはずなのだ。

 ところが、その重要な話題を聞き出そうとしたところ、教祖の体がガクガクと激しく揺れ出した。そして、そのままバアンと腹部が破裂してしまったのだ。教祖は事切れたらしく、もはや、口を聞く事はなかった。トルーサーを無理やり服薬させた事で、肉体に限界がきてしまったのだろうか。あるいは、宇宙生命体が、教祖のこのピンチの状況を嗅ぎつけて、遠隔操作で口封じを行なったのか。

 とにかく、教祖をまだ死なせる訳にはいかない。研究所の医療チームは、教祖の体を慌てて手術室に運び、手当をする事にしたのだが、そこで彼らは驚いた。

 教祖の体を切り開いてみたら、その内側には人間らしい内蔵など詰まっておらず、代わりに、青いブヨブヨしたものばかりが、たっぷりと出てきたのである。教祖は、宇宙生命体とシンクロして、交信し続けた結果、肉体そのものが変質してしまっていたのだ!

 

 後日、どこから情報を聞きつけたのか、SL教団の過激な幹部たちが「教祖さまのご遺体を返せ!」と、研究所に押しかけてきた。しかし、そんな彼らも、教祖の体内に入っていたブヨブヨした物体を見せてやると、びっくりして、門前で逃げ出してしまったのだった。

 それだけではない。ついに、警察も本格的に動き出したのである。SL教団の本部は、警察にガサ入れされる事になり、そこで暮らしていた信者たちにも強制撤去が命じられる事となったのだ。なおも教祖の事を信じ続け、撤去を拒む熱心な信者もいたが、ほとんどの信者は、教祖が怪物だったと言う噂をすでに耳にしていた為、教団から心が離れ始めていて、警察に言われるまま、あっさりと教団本部から立ち退いていったのだった。

 何よりも、ナオミの一件から、SL教団には誘拐監禁の容疑もかけられているのだ。そして、SL教団総本山の敷地内をくまなく捜索してみると、それこそ、身元不明の人間の死体や白骨がゴロゴロと発見されたのだった。いずれも、前から行方不明になっていた人々の殺された遺体なのである。恐らく、SL教団では、発足して以来、ずっと、ナオミのような黒あざ病にかからない人間を探し見つけては、密かに殺しまくっていたのだ。いくら何でも、教祖一人だけでこなせそうな作業ではなかった。協力者だったのであろうと判断されて、SL教団の中心幹部たちも、ぞくぞくと警察に逮捕されていき、その恐怖の犯罪の全体像が明らかになっていったのだ。同時に、SL教団はすっかり行き詰まってしまい、強制解散がほぼ確実となったのである。

 SL教団の本部に、拉致同然の状態で住み込む事を強要されていた信者たちも、順に解放されていく事となった。そのような閉じ込められていた信者の一人に、巫女である高野はる子、すなわち、庄司礼子もいた。彼女も、本部内の自分の部屋から連れ出される事になったのだ。

 礼子の引き取り手としては、信一が名乗り出た。かくて、研究所にて、ナオミと礼子は感激の再会を果たしたのである。もう、礼子は、自分がはる子だなどとは偽ったりはしなかった。ナオミの無二の親友である礼子にと戻ったのだ。二人は、とりあえずは、研究所の同じ社宅の部屋で暮らせる事となったのだった。

 SL教団の本部の敷地内からは、他にも、いくつものご神体と呼ばれている丸い小石が発見された。それらも警察に没収されて、信一の研究所が分析を依頼されたのだが、その正体は隕石だったのである。多分、宇宙生命体が事前に地球に降らせておいたものだったらしい。このご神体のそれぞれが、特殊な放射能を帯びており、放射線を発していた。この放射線こそが、信一たちが探し求めていたもの、つまり、黒あざ病を治癒できる鍵だったようなのだ。信一たちも、希望が湧いてきて、俄然、張り切り出したのだった。

 さらに、熱心に研究を突き進めている人物がもう一人いた。アーベル博士である。彼は、黒あざ病の治療よりも、宇宙生命体の正体を探る実験に取り組んでいたのだった。彼の研究室の中には、観測船はまかぜが決死の覚悟で採取してきた光る海の水と、SL教団の教祖の中から取り出したブヨブヨした物体が置かれていた。このブヨブヨを、水槽に入れた海水の方へ近づけてみると、両者は共鳴しだし、海水は光りながら波打ちだしたのだ。その様子を、アーベル博士は、驚嘆しながら、興味深げに観察していた。

 

 さて、社宅にいたナオミのもとに、思わぬ来客が現れた。小山治である。彼も、すでに家族と一緒に、SL教団からは完全に脱退していた。話を聞くと、もうすっかり、SL教団とは絶縁したのだそうだ。

 少なくても、教祖の魔の手からギリギリ、ナオミが助かったのは、治が信一たちを呼んできてくれたおかげである。ナオミがその事のお礼を言うと、治も嬉しそうに照れたのだった。彼も、十分に改心したらしくて、根っからの嫌な子でもなさそうなのである。

 ただし、治の家族はSL教団にすっかり振り回されてしまい、財産の全てを使い込まれてしまった為、今や無一文の有様だった。治の親は、北海道にいる知り合いを頼って、これから、ゼロからやり直すつもりなのだと言う。北海道を新天地に決めたのにも、実は理由があった。北海道では、黒あざ病の発症率が低かったのである。北海道の海のそばに暖流がない事を考えると、その訳もおのずと納得できた。

 とまあ、そんな事で、治は、ほんのり好きだったナオミに別れを言いに来たのだった。数日後には、彼の家族は、下田を去り、北海道へと旅立つのである。

 その話を聞いて、ナオミも、優しい気持ちが芽生え、出発の日は、下田の駅まで治を見送りに行ってやる事にした。その事を礼子に教えると、心身の療養でずっと部屋に閉じこもっていた礼子も、久しぶりに家の外に出てみて、ナオミに付き添う事を決めたのだった。

 こうして、治が去る日がやって来た。駅で、ナオミたちに会えて、治は喜び驚いていたが、何よりも、巫女のはる子だと思っていた少女が、本当に同級生の礼子だったと分かって、よりビックリしたみたいだった。「だったら、教団にいた時から、もっと仲良くしておけばよかった」なんて浮気っぽい事を、治はお茶目に口にする。

 さらに、治は、最後に、気にかかる事をナオミに教えてくれたのだった。

「教祖は、最後の祈祷会の時に『もしSL教団に歯向かう者がいるならば、大いなる町は二度死ぬ』なんて嫌な事を予言していたよ。当たらなければいいんだけど、十分に気をつけてね」

 ナオミも、その予言には引っかかりを感じながらも、まずは、電車で去ってゆく治に別れを告げたのだった。

 帰り道の礼子は、かなり明るさを取り戻していた。これまでは話してくれなかった教団との出来事についても、ナオミに語り聞かせてくれたのだ。

 自分の黒あざ病の悪化にショックを受けた礼子は、精神が錯乱して、自分の家から飛び出してしまった。そのあと、道でばったり出会ったのが、SL教団から逃げてきた元祖・はる子だったのである。何とか、SL教団の目を欺きたかったはる子は、礼子に服の交換を頼みこんできたのだ。ヤケクソになっていた礼子は、理由も聞かずに、はる子の願いを聞き入れた。にも関わらず、結局、はる子はSL教団の追っ手に捕まってしまい、礼子同様の黒アザの醜い姿に変えられた上に、飛び込み自殺を強要されてしまったのである。礼子の母は、たいへんに目が悪かった。彼女は、顔中が黒アザで、さらには膨らんだ水死体になってしまったはる子を、気が動転していた事もあって、完全に自分の娘だと勘違いしてしまったのである。

 一方で、はる子の服を着た礼子も、あえなく、SL教団のとりこになっていた。本来なら口封じで殺されそうなものだが、教祖がとんだ気まぐれを起こし、礼子の黒アザを治してくれた上に、はる子の代わりの巫女として、SL教団の本部内に置いてくれる事になったのである。ただし、教団本部の外へ出れば、また黒あざ病に戻ってしまうと脅されたので、礼子はSL教団から逃げ出す事ができなかったのである。

 ちなみに、礼子の母のもとへ、変な電話を掛けてきたのも礼子だった。あの時も、教祖が祈祷会で、東京で最初の異変が起こる事を予言したものだから、心配した礼子が、つい自分の母へ警告の電話を掛けてしまったのだった。

 だが、それにしても謎なのは、礼子がなぜ黒あざ病を完治できたかである。あの元祖・はる子も、ご神体があれば、黒あざ病にならないと思って、ご神体の一つを盗んだのかもしれない。でも、結果は、彼女も黒あざ病にされて、無残な死を遂げている。また、信一の研究所でも、現在、懸命にご神体の分析が進められていたのだが、まだご神体の放射線では黒あざ病の治癒効果は確認できていなかったのだった。

 それらの話を聞いて、礼子はキョトンとして、重要なヒントを教えてくれる。

「それって、違うのよ。皆、ご神体の使い方を間違えていたんだわ。だって、私の黒アザを直す時、教祖さまは、ご神体を一つではなく、三つ用意していたもの」

 その時、礼子の様子が急におかしくなる。会話をやめたかと思ったら、直立不動になってしまったのだ。よく見ると、彼女の顔には大きな黒アザが出来ていた!なんて事だろう。この土地に、今、黒あざ病の放射線が降り注いだのだ。気の毒にも、礼子はまたもや黒あざ病に戻ってしまったのである。

 礼子も、周りにいた黒あざ病患者も、死の行進を開始しだした。ナオミは、慌てて、礼子の歩きを止めようとしたが、催眠状態の黒あざ病患者はものすごい力を発揮するので、ナオミごときのか弱い力では、とても押さえつけられないのだ。

 礼子も、他の沢山の黒あざ病患者も、ぐんぐん、海の方へと向かっていく。このまま、海に落ちてしまったら、どうにか溺れ死にをまぬがれたとしても、間違いなく、宇宙生命体には食われてしまうだろう。

 押さえるナオミも引きずりながら、とうとう、礼子は港の岸壁の前にまで来てしまった。もはや、一巻の終わりなのである。

 かと思われた時、絶妙なタイミングで、この場に、信一とアーベル博士が走って、やって来た。研究所で、たった今、猛烈な放射線を観測した二人は、慌てて外に出て、ここへと駆けつけたのである。運良く、そこにナオミと礼子がいたのだ。

 信一は、ナオミを抱きかかえて、急いで、岸壁のそばから引き離す。ガタイのいいアーベル博士が、礼子の方を引き受けた。そんなアーベル博士でも、礼子の事は、それ以上、前に進まないように押さえつけているのが精一杯なのだった。それでも、宇宙線の放射がやむまで持ち堪えたら、かろうじて、礼子も助けられるのでは?

 ところが、その時、海の方から、ものすごい波が湧き上がった。それはバアーッと岸壁の上に襲いかかると、岸壁にあったものを、洗いざらい飲み込んで、持って行ってしまったのだった。岸壁の先端にいた礼子とアーベル博士も例外ではなかった。

 愕然とするナオミと信一の目前で、礼子とアーベル博士は海に連れ去られてしまったのである。ナオミと信一は、共に、とても大切な人間を、同時に失ってしまったのだ。しばらくは、ショックで声も出せなかった。

 どうやら、宇宙線はおさまったらしい。ナオミと信一は、うろたえながら、礼子とアーベル博士が立っていた場所へ寄ってみたのだった。そこで、信一は、奇妙なものを発見した。岸壁の上に、白い粉が散らばっているのである。ガラスの破片も、わずかに落ちていた。

 そこで、信一は思い出したのだ。アーベル博士が、海にいる宇宙生命体に対抗する為に、特殊な新薬を開発中だった事を。アーベル博士は完成したての新薬のサンプルをガラス瓶に入れて、ちょうど持ち歩いていた。アーベル博士が波をかぶった瞬間、そのガラス瓶は割れてしまったらしい。この岸壁の上に散らばっていた粉とは、実は、アーベル博士の薬を浴びてしまい、変質してしまった宇宙生命体の死骸だったのだ!

 

 礼子とアーベル博士の死は、確かに悲しい出来事ではあった。でも、二人は、最後に、黒あざ病に勝てる希望を残してくれたのだ。

 礼子の話どおりに、三つのご神体を組み合わせると、それぞれのご神体から出ている、異なる放射線がミックスされて、新たな放射線が生まれる事となった。その放射線こそが、黒あざ病を弱体化させる絶大な効果を発揮したのだ。信一たちは、この放射線をブリーチング線と名付ける事にした。ブリーチング(bleaching)とは漂泊の事だ。

 幸い、ご神体は、SL教団のあちこちの支部にも配られていた。それどころか、宇宙生命体は、日本のSL教団だけではなく、世界各地にも、傀儡の人間のエージェントを教祖に仕立てて、SL教団と同種の新興宗教を立ち上げていたのだ。これらの宇宙生命体の傘下の宗教団体を解散させて、連中のご神体を全て没収してしまえば、相当数のブリーチング線が確保できるようになる。宇宙生命体の人間牧場計画は、完全に地球人の手にと奪取され、逆に地球人を救う足がかりとなったのだ。

 そして、アーベル博士もまた、その研究をほぼ完成させていた。彼は、宇宙生命体の正体が、特殊な粒子であった事を解明したのである。その粒子は、たくさん集合する事で、高い活動力と知能を発揮するようになるのだ。ただし、その存在を保つ為には、一定の温度と、エネルギーとなる塩素を必要としていた。それらを急速に奪われると、宇宙生命体は一気に活動を停止して、水晶化してしまうのである。信一が岸壁で見た白い粉がそれだった。この状態にまで変質してしまうと、さすがの宇宙生命体も、もはや復活は不可能なのである。

 アーベル博士が開発した新薬とは、海水から急激に熱を奪って、海水内の塩素も破壊する薬品だった。でも、宇宙生命体に対しては致命的な威力があるが、地球上の生物には、ほとんどダメージが無いのだ。しかも、この薬は身近にある物質で、いくらでも大量生産できた。この薬には、偉大なるアーベル博士を偲んで、アーベル剤という名前が与えられたのだった。

 黒あざ病対策は、一気に進む事となった。宇宙生命体が、暖流に乗って、時には波打ち際まで襲撃できる事が分かったからには、これ以上、下田で黒あざ病の研究や対策を続けているのは危険なのだ。

 研究所の社宅にて、信一はナオミに、これから自分たちはこの下田の研究所を引き上げて、対策本部を首都の近くに移す事にして、東京の方へと帰る事を告げた。

 ナオミにとっては、東京は、母や親しい人々を失った辛い土地ではあったが、それでも、懐かしい故郷であると言うのも嘘ではないのだ。ナオミは、弱々しい笑みを浮かべて、信一と一緒に、東京に戻る事を承諾したのだった。

 

 しばしの時が過ぎ、その日、ナオミと信一は、東京の大通りの人混みの中を、二人で歩いていた。彼らは、ついに東京へと戻ってきたのである。

 今日は、まだ下田での心の傷が癒えないナオミを励ます為に、信一は仕事を休み、こんな街中へと連れ出してくれたのだった。都会の喧騒は、じょじょにだが、弱っていたナオミの心を回復させてきたみたいである。大都市・東京は、かつての苦い出来事を忘れて、早くも活気を取り戻しているのだ。ナオミだって、いつまでもクヨクヨしていないで、そろそろ元気を取り戻すべきなのである。

 ナオミのそんな心の変化にうっすらと気付き、信一もホッとした気持ちになってきたのだった。

 ところが、その時である。高層ビルの壁にあるスクリーンが、突如、緊急ニュースを流し始めた。黒あざ病の対策本部が、強烈な宇宙線の放射をキャッチしたと言うのである。降り注ぐ場所は、この東京だった!危険だから、今すぐ逃げ出すように、と言う警報のニュースなのである。

 ナオミは、ハッと治の最後の言葉を思い出す。SL教団の教祖が残した予言の「大いなる町が二度死ぬ」とは、この東京の事だったのだ。下田ではなかったのである。

 でも、宇宙生命体は暖流に乗ってしか移動できなかったのではないか?いや、その点についても、ニュースでは伝えていた。黒潮から分離した巨大な波が、今、東京湾めがけて、押し寄せていると言うのである。宇宙生命体は、必ずしも、暖流でしか生きられない訳でもなかったのだ。こんな離れ業もできたのである。そして、今回の襲撃は、自分たちに楯突く地球人類への宣戦布告のつもりなのかもしれなかった。

 とにかく、今は東京からは早く逃げた方がいいのだ。黒あざ病とは関係なく、宇宙生命体の波が東京一帯に流れ込めば、それだけでも命が危なかった。

 だが、ナオミが信一の方を見た時、信一の顔は真っ黒になっていたのである!ナオミはぎょっとした。伸一は、一気に黒あざ病になってしまったのだ。宇宙生命体の方も、今回はそうとう本気なのか、かなり強い宇宙線を送り込んできたのかもしれなかった。

 周囲を見回すと、群衆のほとんどが黒あざ病になっていた。ナオミのような、まだマトモな人間の方が圧倒的に少数派だったのだ。

 恐ろしい、地獄のような光景だった。都民の大多数が、あの死の黒あざの行進を開始したのだ。まるで軍隊の行進のようであり、その中に巻き込まれた正常な人たちは、逃げたくても、抜け出せない有様になっていた。ナオミも、そのうちの一人だった。彼女の心の中には、以前の東京での黒あざの行進の恐怖がまざまざと蘇っていた。

 ナオミの横で、信一は、ぐんぐんと海へ向けて突き進んでいく。ナオミが必死に話しかけても、正気に戻らないし、ナオミの力では押さえ込む事もできないのだ。やがて、このまま、他の黒あざ病患者と同様に海に飛び込んでしまうか、あるいは、大波の方がこの東京都内に襲いかかってくる事になるのだろう。

 涙を流しながら、ナオミは心を決めた。「信一さんと一緒ならば、もう死んでもいい」と。もはや、ナオミには、信一しか頼れる存在がいなかったのだ。信一となら、生死を共にしても構わない、と彼女は思ったのだった。

 ナオミは、信一の隣で、並んで歩き出した。破滅への死の行進に、自分から進んで仲間入りしたのである。もう、信一と一緒に居られるのならば、どうなってもいい、とナオミは思っていた。

 彼女の足元には、ザザザと水が流れてきた。東京湾の方から侵入してきた海水なのである。きっと、間もなく、もっともっと大きな波が押し寄せてくるのだ。そして、全てはおしまいなのである。

「もうすぐ、私たちは死ぬのね」と、ナオミは思った。彼女は、涙をこぼしながら、優しい表情で、信一の胸に、自分の頭を埋めた。「信一さん。最後まで一緒よ」不思議と恐怖は感じなかった。そして、緊張しすぎたせいか、ドッと疲れが出たらしく、ナオミは静かに意識を失っていったのだった。

 目を覚ますと、ナオミは病院のベッドの上に寝ていた。隣には、黒アザのついた信一もベッドで寝ているのである。これは、一体?

「研究所の対策が間一髪で間に合ったんだよ」と、信一が明るく説明した。

 実際は、ナオミが聞かされていた以上に、宇宙生命体に対する攻略計画は進んでいたのだった。

 宇宙線が頻繁に地球に降ってくる事から、宇宙線の発信源が、遠い天体などではなく、地球の間近にあるらしい事は、早くから天文学者たちは目星をつけていた。彼らは、これまでの宇宙線の降り方を観察し続け、その降る角度や時間帯などから、ついに、その発信源を突き止めたのだ。それは、月よりほんのわずかに離れた宇宙空間だった。天文学者たちは、その宇宙の地点めがけて、密かに、破壊ロケットを発射していたのである。ロケットは、見事にターゲットを捉えた。宇宙線の発信基地を粉々に爆破したのだ。

 それが、あの東京に宇宙線が降り注いでいた最中の出来事だった。宇宙線の放射が止まった事で、行進していた黒あざ病患者はいっせいに目を覚まして、海への前進をやめて、反対側へと逃げ出したのだ。

 一方、東京に迫り来る大波に対しても、対抗策は進んでいた。アーベル剤を積んだヘリコプターや飛行機が大量に大波に向かって、発進したのである。東京に波が到達する前に、それらのヘリや飛行機は、波の上にがんがんアーベル剤を振り撒いたのだ。それは、とても不思議な光景だった。アーベル剤を浴びれば浴びるほど、大波は悲鳴のような音を出しながら、小さくなっていったのである。

 ついには、ほとんど無害なレベルにまで、波は縮小してしまった。その中にいた宇宙生命体は死に絶え、一緒に引っ張られてきた海水だけになってしまったらしい。かろうじて東京都内にまで侵入してきた海水は、この無害な水だけだったのだ。

 かくて、黒あざ病の対策本部は、完膚なきまでに宇宙生命体を迎撃してみせたのだった。東京に大量発生した黒あざ病患者たちも、順次、病院に収容されていったのである。ナオミや信一も、そのうちの一人だった。

「侵略者め。人類を見くびるなって事さ」信一が、得意げに言葉を閉めた。

 対策本部では、これからも、暖流に潜む宇宙生命体を探し回って、片っ端からアーベル剤で息の根を止めていく予定だった。いずれは、地球上の全ての海から宇宙生命体を駆逐できるはずであろう。もし、ガダル星座の生命体の同族が再び地球に襲来する事があったとしても、今度は、万全の準備のもとで対処できるに違いあるまい。

 黒あざ病にかかった人たちも、ブリーチング線で次々に治していっている最中だった。もっとも、患者が多すぎる為、順番待ちの状態も続いているのだ。信一も、そんな待機中の患者の一人なのだった。

「ところで、今の僕の顔は、そんなに酷いのかい?」と、ケロッとしながら、信一はナオミに尋ねた。「ええ、酷いわ。もう最悪よ」と返しながらも、ナオミも笑っていた。彼女は、ベッドから立ち上がると、そっと信一のベッドの方へ向かった。そして、信一の体に自分の身を寄せると、幸せそうに、その胸に抱かれたのだった。

 おしまい


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解説

 私はもともとシナリオライター志望でしたので、若い頃には、他人の作品を脚色して、劇場映画用の脚本やテレビドラマ向けのシリーズ構成案などに書き直す作業をよく行なっていました。

 実際にシナリオを書いてみた作品としては、荒木飛呂彦の漫画「バオー来訪者」(番組タイトル「超戦士バオー」)や五島勉の小説「影の軍団」、ウェルズの短編小説のオムニバス化(映画タイトル「ウェルズ博士の『侵略』」)、いしいひさいちの漫画・地底人シリーズ(映画タイトル「それ行け!地底軍団」)などがあります。

 テレビの連続ドラマ用のシリーズ構成を行なってみた作品としては、吾妻ひでおの漫画「きまぐれ悟空」及び「ななこSOS」実写バージョン案、小林よしのりの漫画「異能戦士」、眉村卓の一連のジュブナイルSF小説を繋げてみた「新・ねらわれた学園」などがありました。

 基本的に、これらの習作は、著作権が他の作者にありますので、私の作品としては発表できません。で、どれも、これまで非公開だったのですが、ところが、今日の同人誌・インターネット上では、「二次創作」という、たいへん便利な言い回しが市民権を得ているようでして、よく考えたら、他人の作品を脚色した作品であっても、まだ映画化してない文章段階のもの(シナリオやシノプシス)であれば、「二次創作」扱いにして、ネット上で公開しても問題ないのではないかと思えてきました。

 そんな訳で、過去に書いた脚色作品の公開まではさすがに控えますが、近年、新たに執筆したものにつきましては、堂々と無料発表させていただく事にしました。もっとも、実際に映画化はしませんので、完全な脚本状態にまでは作り込まず、やや粗いシノプシスと言う形にとどめております。

 「影の少女」は、私自身の古い小説(「影の少女 rewrite」)が原案の映画向けシノプシスです。「時の塔」「黒の放射線」は、私が子供の頃に読んで、衝撃を受けたSF小説の映画化用シノプシスでして、最近、これらの小説を再読する機会に恵まれましたので、つい感激して、シノプシス化してしまった次第です。


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その他

目次

 

「おいらとタマの一人暮らし」

「おもちゃのいる教室」(18禁)

「いじめっ子の笑い話」

 

ボツネタ集

  • 「師匠の憂鬱」
  • さるかに合戦いろいろ
  • 特撮ヒーロー「うさぎとかめ」
  • エデンの園、他
  • 解放軍闘士のオオカミ
  • アリとキリギリス
  • アケチ大戦争
  • 隣のタヌキ
  • 現代版ギルガメッシュ
  • AI影の少女
  • いじめっ子は皆殺し
  • 愛欲のリフレイン
  • <解説>名前遊び

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「おいらとタマの一人暮らし」

 おいらは、いきなり、一人暮らしをしないといけない事になってしまった。正確には、タマも一緒についてきたので、二人暮らしなのかもしれないが、タマとおいらはイキモノの種類が違うらしいので、やはり一人暮らしと言う事になるらしい。

 タマは、おいらと今まで同じ家で暮らしてきた、えーと、なんて説明したらいいのかな、要するに、おいらはタマのお守なのだ。何しろ、タマは、おいらが物心がついた頃から一緒にいて、おいらが同じ布団に寝てやらないと、夜も眠れないほどの寂しがり屋なのである。離れられないのは当然だったとも言えよう。

 おいらが生まれる前は、おいらのかーちゃんがタマのお守をしていたようだ。だから、おいらとタマが二人だけで家を出て行く事になった時は、かーちゃんから、タマの事をよおくかまってやるよう、いっぱい頼まれてしまった。タマは、おいらたち母子にとっては、それほど不可欠な存在だったのである。

 かーちゃんと別れる事になるのは、確かに、おいらも悲しかった。

 しかし、タマだって、自分のとーちゃんとは離れる事になるみたいなのだ。お守のおいらが弱音を吐く訳にもいかないだろう。

 これは、ジリツとか呼ばれる行動なのだそうである。子どもは、いつかは親元を離れなくちゃならないものらしい。タマがその時が来てしまったらしく、おいらもその巻き添えをくう事になってしまったのである。

 タマは、おいらを抱きかかえながら、自分のとーちゃんにこんな事を言っていたっけ。

「パパ、心配ないよ。あたしだって、もう大人なんだから。いくらでも一人で暮らせるよ。でも、カイトは連れていくからね。部屋に戻った時、誰もいなかったら、ちょっと寂しいもん。アオイの方は置いていくから、きちんと面倒をみてあげてね。アオイも、もうだいぶ歳だから、大事にしてあげてよ。パパも、あたしが居なくなったからって、だらしない生活をしたらダメだからね」

 カイトとはおいらの事で、アオイの方はかーちゃんの名前だ。こんな話を耳にしたから、おいらたち親子も離ればなれになる事が分かったのである。

 おいらとかーちゃんが親一人子一人なら、タマの奴もとーちゃんと二人っきりの家族だった。ともに、親とは別れて暮らす事になったのである。

 そして、その日がとうとう訪れた。

 おいらは、はじめて見る新品の籠に入れてもらって、まさに王様待遇で、タマに新しい家へと運んでもらったのだった。

 籠に限らず、どうやら、今まで使っていた道具は、食器にせよ、トイレにせよ、爪とぎにせよ、タマと遊ぶオモチャにせよ、全て、これまで居た家に置いてきてしまうらしい。かーちゃんが前の家にそのまま残る訳だから、考えたら、当たり前の話だ。

 一方で、おいらは、全ての道具を新調してもらえる事になったようなのである。

 こうして、やって来た引っ越し先の部屋は、今まで住んでいた家と比べると、だいぶこじんまりとした狭い場所だった。おいらとタマだけで暮らすのだから、それほど広くなくても良かったのだろう。

 その新しい住居に、たちまち、おいらの為の買ったばかりの生活用品はセッティングされていった。

 新しい家でも、すぐに、おいらが過ごせる環境は整ったのである。

 とは言え、今までとは異なる造りの部屋に、何もかも新品の道具ばかりだったので、どうも落ち着かなかったのは確かだった。

 それでも、ごはんの内容は今までと同じだったし、トイレの砂もこれまで通りのものを使っていた。何よりも、仲良しのタマが一緒にいる。

 かくて、最初こそストレスは感じていたものの、次第に、おいらも新しい家に慣れていったのだった。

 タマの様子も観察してみたが、タマの奴も、最初の頃は、とてもせかせかと動き回っていて、雰囲気から、新しい生活に戸惑いつつも、楽しんでいたようにも感じられた。

 元から、昼間はあまり家には居なかったタマだったが、この新しい部屋に越してきてからは、日中は完全に外に出かけるようになってしまった。朝早くに出て行ってしまうのだが、帰ってくるのは、ほとんどが夕方を過ぎてからなのである。

 出会える時間が少ない分、帰ってきてからのタマは、なおさら、おいらにベタベタくっつくようになって、それはまあ構わないのだが、困った事に、おいらの方が昼間の時間を持て余すようになっていた。

 これまでの家だったら、かーちゃんと一緒だったから、タマやそのとーちゃんが居なくても、それなりに、かーちゃんとじゃらけたりして、時間を潰せたものだ。しかし、この新居では、タマが出て行ってしまうと、本当においら一人になってしまうので、何もする事がなくなってしまうのだ。

 そんなおいらの気持ちを察してくれていたのか、外から戻ってきた時のタマは、すぐにおいらの事を持ち上げてくれて、

「ごめんね、カイト。寂しかったでしょう」

 と、優しい声をかけてくれたあとに、ぎゅっと抱きしめてくれるのであった。

 おいらにとっても、その瞬間は一番幸せな時間だったが、どうやら、タマにしてみても、それは同じだったようである。

 タマは、毎日のように、日中は外へと出かけていたが、外での生活は必ずしも楽しいばかりではなかったみたいなのだ。

 家に帰ってきたばかりのタマは、大体、疲れ切っていたようにも見えた。暗く沈んでいるような事もあった。そんな時は、おいらを抱きかかえて、ようやく笑顔を取り戻していたみたいなのである。

 やっぱり、タマも、前の家やとーちゃんの事が懐かしいのだろうか。前の家で一緒に住んでいたおいらと戯れると、昔の感覚が思い出せて、ささやかながら心が落ち着くのかもしれない。やはり、タマには、おいらが必要な存在だと言う事だ。

 だから、タマと一緒にいられる時間は、おいらも積極的にタマにすり寄ってやる事にしていた。そうしてやると、迷惑そうな事をつぶやきながらも、実はタマも本心では喜んでいたみたいだったからだ。

 タマは、おいらの方が寂しくて、寄ってくるみたいな事を口にしていたが、実際には、おいらがタマの事を気に掛けて、寄り添うようにしていたのである。そんなおいらの気持ちも分かっておらず、タマって奴は、ほんとに無邪気なものなのだ。

 タマの上に乗っかって、顔を舐めてやったり、自分の喉を鳴らしてみせたりすると、特にタマは喜んだ。タマの手の上に、おいらの前足を置いてやったりすると、タマは「わあ、カイト。犬よりお利口だぁ」と大げさに喜んでくれたりもした。とにかく、おいらの一挙一動が、今のタマの慰みになっていたようなのである。

 そして、夜は、おいらとタマは同じベッドで寝た。おいらには、小さな籠の寝床もあてがわれてはいたのだが、夜中にそこを使う事はほとんど無かった。たいていはタマと一緒に寝る事になった。タマが強引においらを抱いて、自分の大きなベッドに潜り込んでしまうからだ。おいらも、それに別に不満はなかったのである。

 これは、前の家にいた時からの習慣だった。ただし、前の家にいた頃は、おいらとタマ以外に、おいらのかーちゃんも一緒だった。おいらたち親子ともに、タマのベッドで寝かせてもらっていたのである。

 この新しい部屋では、タマとベッドは完全においらだけで独り占めだ。決して悪い気もしないのである。

 こんな生活が、新しい家に越してきてから、何日も続く事になった。

 じょじょにだが、おいらもタマも新しい生活スタイルに馴染んできたようだった。少なくとも、おいらは、同居家族がタマ一人でも、それほど寂しいとも思わなくなり始めていた。

 そんな、ある夜の事である。

 外出から戻ってきたタマが、やけにそわそわとしており、すぐにおいらの事を抱き上げた。

「カイト。どうしよう、不審者だよ、不審者」

 と、タマは言った。

 フシンシャが何なのかは、おいらにはよく分からなかったが、最近、タマがよく口にするキーワードだった。

 タマは、おいらを抱いたまま、窓の方へと向かった。窓はあらかじめカーテンを閉めていたが、すき間からソッと外を観察したのである。

 タマは、おいらにも外を見るよう、おいらの体を窓へと近づけた。

「ほら、あの電柱の影に誰かいるよ。最近、怪しい人がよく、このあたりをうろついてるんだって。このうちも狙われていたら、どうしよう」

 タマの言う通り、確かに、すぐ外にある大きな電柱の裏に何かが隠れているようだった。

「警察に電話した方がいいかな。でも、大げさになり過ぎても困るし」

 タマの、おいらを抱きしめる力が強まった。タマも、よほど怯えて、興奮しているらしい。まさに、こんな時こそ、お守のおいらが、タマの心の支えになってやらなきゃいけないようだ。

 一声にゃーと鳴いて、おいらはタマを元気づけた。

「ありがとう、カイト。自分がいるから大丈夫、って言ってくれてるのね」

 おいらの心遣いが分かってくれたらしく、タマがおいらの頭を撫でてくれた。

 しかし、その後、しばらく進展は無かった。タマは、まだ様子をうかがっていて、ケイサツとやらに電話を掛けたりはしなかったし、部屋に閉じ篭ったまま、時々、窓から電柱の方を見張る状況が続いた。

「あれ、いなくなったよ」

 ふと、タマがそう言った。どうやら、電柱の影に潜んでいたフシンシャの姿が、いつの間にか見えなくなったらしい。

「本当に、もうどこかへ行っちゃったのかな」

 タマがつぶやいた。

 そして、タマは、おいらを抱いたまま、ゆっくり歩き出したのだった。

 タマの奴は、臆病な割には、好奇心が強い面もあるのだ。この時もそうだった。よりによって、止めとけばいいのに、わざわざ、部屋の外へ出て、本当にフシンシャがいなくなったかどうか、確かめようとしたみたいなのである。

 おいらを抱いたままでだ。おいらと一緒なら、多少は怖さが紛れるとでも思っていたらしい。とんだとばっちりなのである。しかし、タマのお守として、こうなったら、おいらもとことん付き合うしかなさそうだった。

 タマは、静かに部屋の玄関の方へ向かい、音を立てないようにして、そっと玄関のドアを開いた。むろん、おいらを抱いた状態でである。

 玄関の外を見たタマが、次の瞬間、大声を出した。

「パパ!」

 その声にびっくりして、おいらも慌てて、タマの腕の中から地面へとぴょんと飛び降りた。

 タマが呆れた顔をしている。タマの視線の先には、戸惑いながら立ちすくんでいるタマのとーちゃんの姿があった。

 

 それから、数十分後、タマのとーちゃんはおいらたちの部屋に入れてもらえて、テーブルの前に座らされ、タマの説教を受けていた。

「もう、パパったら!あれほど、あたしは心配ないって、言っておいたじゃない。これまでも、こそこそ、うちのそばまで来て、様子を伺ったりしていたのね。今まで、近所で不審者と間違えられていたのも、全部パパだったんでしょう?」

 タマは、普段は本当に優しいのだが、怒った時は実に怖いのである。

「珠華、本当にごめん。たまたま、そばを通りがかったものだから、覗いてみただけなんだ。ウソじゃない、信じてくれ」

 タマのとーちゃんは、ひたすら平謝りしていた。

 タマに怒られるのは、前の家に居た頃から、たいていは、このとーちゃんだったのである。

「たまたま通りがかっただけって、実家からここまで100キロ以上離れてるのよ。それに、こっちの方角にはパパの用事のありそうな場所はないし。ごまかそうったってダメなんだからね」

「許しておくれ。お前がきちんと一人で暮らせてるか、気になってしょうがなかったんだよ」

「月に一度は、そっちの家にも顔を出してたじゃない。それに、あたしんところに来たかったら、そんな隠れたりしないで、堂々と訪ねてきてくれたら良かったのよ」

「それはそうだけど、あんまり遊びに行き過ぎたら、それはそれで、お前もうるさがるだろう?」

「当たり前よ!あたしだって、もう子どもじゃないんだから!」

 タマのとーちゃんは、図体がでかいわりには、タマにはからきし弱いのであった。

 しかし、本物のフシンシャとやらじゃなくて、まずは一安心だったようである。

 タマには、こんなに自分の事を心配してくれている親がいて羨ましいな、とふと、おいらも思った。

 おいらの心の中にも、優しかったかーちゃんの姿がぼんやりと浮かび上がったのであった。

 

    了


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ボツネタ集

 以下に掲載するのは、作品化にこぎつけなかったボツネタの数々です。

 主に、ブックショート共幻文庫のコンテスト用に考えたアイディアです。

 

 ボツネタと言うより、今はまだ書けない作品のシノプシスもいくつか含まれています。

 映画用のアイディアである「ルシー」「AI影の少女」「Battle on spirits」などがそうです。「いじめっ子は皆殺し」も、執筆保留中の小説の一つです。


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シノプシス・コンテスト用ボツネタ

 今となっては思い出したくもない、あるシノプシス(あらすじ)・コンテスト用に送ったアイディアの数々です。

 私のネタも、1次予選は通過していたらしいのですが、肝心のコンテストの方が終盤ウヤムヤになってしまい、誰かの作品は入選したみたいなのですが、その後の展開の話がまるで聞かれず、専用サイトの方も自然消滅してしまいました。

  • ノストラダムスの大予言、惑星直列、マヤの予言など、そのたびに地球は未曾有の危機に襲われていたのだが、未来人のタイムパトロール隊が現代人に気付かれぬようにそれらの脅威を密かに撃退してくれていた!自分たちの住む未来を守るため、過去の破滅の歴史と戦うタイムパトロール隊の活躍冒険劇。
  • 未来の地球人の兵器は、どれも安全装置(ブレーカー)がついていて、戦闘の時、極限までパワーを発揮できなくなっていた。そんな状態の時代に、宇宙人が攻めて来て、地球軍はピンチに陥るが、主人公の少年は古代博物館の奥に眠っていた過去の強力兵器、巨大ロボットを見つけ、それに乗って出陣する。
  • 人類が絶滅した超未来の地球。人類の文明を引き継いだロボットたちの未来社会に、実験で絶滅種の人間が一人、クローン再生される。ロボットだけの世界に紛れ込んだ、たった一人の人間が騒動を起こす。
  • 馬、牛、豚、ニワトリ、犬の五匹の動物による戦隊ヒーローが誕生する!彼らは、長きに渡って、自分の同族を家畜として虐待隷属してきた人類を悪の組織と見立て、戦闘を開始する。善悪の視点をひっくり返してみた風刺ヒーローもの。
  • 現代日本のある父子家庭。パパ大好きな娘が、不思議な力(魔法?超能力?)で、大人になる能力を身につけ、冗談のつもりで大人の姿で父に接近したところ、恋仲になってしまう。ここに禁断のラブファンタジーが展開。賢い娘は、大人と子供の姿を使い分け、父がピンチの時に上手に手助けする。
  • テレポートができる超能力者の地球人が、調子に乗った結果、宇宙の果ての惑星に瞬間移動してしまう。座標があいまいな為、超能力では地球に戻れない。しかし、その星には友好的なエイリアンがいて、一人乗り宇宙船を貸してくれて、地球人はそれに乗って、地球を目指す事に。大冒険スペースオペラ。
  • 地獄のテレビ放送、ベルゼブル通信。悪魔たちが視聴するベルゼブル通信の内容は、ドキュメンタリーも企画ものも創作ドラマも、人間の悲劇や不幸を取り扱ったものばかりだ。地上に降り立った悪魔のキャスター、ベルゼブルの今宵の犠牲者は誰?
  • マッドサイエンス部。我が校の科学部の部員は、一人一人が博士なみの天才だ。それぞれの部員が、生物学、ロボット工学、心理学、天文学など、一つの科学分野だけ得意としており、そんな彼らが時には手を結んだり、あるいは敵対したりして、学園に騒動を巻き起こしたり、事件を解決したりするのだ。 

 ボツネタとは言ってますが、まあ、依頼さえあれば、いつでも正式作品に書き上げられるネタばかりです。3番めの未来ロボット社会ネタなんて、まさにルシーものの原点ですね。5番めの父娘ラブファンタジーは、コミPo!版「ミーちゃん千一夜」の変形。と言うか、ほんとは「ミーちゃん千一夜」のネタを送りたかったのですが、すでに執筆済みのネタは応募不可でしたので、送れませんでした。6番めのスペースオペラの話も、実はマンガ用の下書きは学生の頃にすでに書き上げてしまっています。7番めのベルゼブル通信も、大学生の時にアマチュア映画で作れないだろうかと温めていたネタです。

 そして、このコンテストでの見捨てられ感がはなはだ悔しかったのが、このたび、私がまた小説を書くようになりだしたきっかけでして、1番めの1999年のタイムパトロールものを発展させた物語が「ルシーの明日」だったのでした。


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共幻文庫コンテスト2015用ボツネタ

 共幻文庫が、お題つきの短編小説コンテスト12回連続を行なっていたのに私が気が付いたのは、2015年も末でしたので、この2015年のコンテストにはほとんど参加できませんでした。参加できたのは、終盤の3回分だけで、なおかつ時間が足りなかったので、各回に1本だけ出品するのが精一杯です。よって、作品化以前に、形にならなかったアイディアも結構ありました。

 第10回のお題が「秘密」。このお題は、色々な切り口で書けそうです。昔話の「雪女」みたいなストーリーとか、皆が知っているのに、わざと知らないふりをしている秘密の話とか、いろいろと構想は浮かび上がったのですが、なかなか形になりませんでした。結局、締め切りに間に合いそうになくて、出品したのは、昔書いた短編の使い回しで「ブログ・ブロークン・ジェラシー」です。

 第11回のお題は「手」で、最初は、タコ型宇宙人と握手したところ、握手したのは触手じゃなくて、触手の中に混ざっていた性器だった、と言う下ネタを考えていたのですが、状況設定がうまくまとまらず、作品化ならず。代わりに、浮上し、作品化にこぎつけたのが、お化け坂シリーズの第1話となる「帰り道」でした。

 第12回のお題の「。」につきましては、はじめっから「お題に生きる男」のネタしかひらめきませんでしたので、ボツネタはありません。


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共幻文庫コンテスト2016用ボツネタ

   第1回お題「笑い」

 正式に出品した作品のうち、「笑いを盗む男」はユーモア、「笑う幽霊坂」はホラーでしたので、もう一本、ほのぼのした作品を送ろうかと考えていました。で、思いついた話と言うのが、幼稚園の女先生がジャングルを歩いていると、ヘンテコな動物にいっぱい出会うと言うストーリーで、実は入院していた先生を喜ばす為に、園児たちが書いてきた動物の絵で作られた紙芝居だった。その紙芝居を見た先生が嬉しくて最後に笑うと言うオチだったのですが、いまいち傑作になりそうな気配が感じられません。で、書かないで、止めてしまいました。登場人物名は全部「クレヨンしんちゃん」から借用しようと言うところまで話は煮詰めていたのですがね。

 

   第2回お題「復讐」

 このお題は私の得意ジャンルです。次々にネタがひらめいたのですが、ここは慎重になって、特に中身が凝った作品のみを出品作として完成させました。

 実際に執筆したにも関わらず「浦島異聞」は、復讐ネタっぽくなくて、出品を保留したのは、すでに別所で書いた通り。「浦島異聞」の姉妹作で「かぐや異聞」なんてのもひらめきました。かぐや姫が何らかの復讐の為に、地球の花婿候補たちに無理難題を吹っかけた、と言うオチなのですが、いまいち中身が軽すぎました。もともと、「浦島異聞」つながりで、登場人物名に昔話キャラを多用したかっただけの作品なので、「浦島異聞」の方が出品保留になると、当然こちらも書くのは中止です。

 悪魔サタンが復讐に燃える話を考えました。神様エホバが、突然あらわれて、サタンにあっさりと神様の地位を譲ってくれたのですが、神様の仕事は忙しすぎて、サタンはびっくりします。結局、エホバに神様の役職を返上するのですが、復讐しようとしたら、逆に不幸になってしまうと言うお話。このテの、復讐すると自分が苦境に陥ったり、復讐内容が逆に相手を喜ばせてしまうと言った話をもくもくと練っていました。

 ヴァイトン(精神を喰う生命体)が出てくる話も書こうかとしていました。学校のイジメで自殺した子がヴァイトンに生まれ変わります。ヴァイトンの好物は、イジメをする意地悪な心で、今度はヴァイトンたちが地球へいじめっ子の心を食い荒らしに向かうと言うシーンで終わります。でも、この話は暗くなり過ぎて、入選からは絶対外されると思いました。

 いっそ、復讐対象が実は今この小説を読んでいる審査員だ、と言うトリッキーな展開の話も考えました。でも、そんな話じゃ、絶対に審査員にはウケないし、入選はムリですよね。

 

   第3回お題「料理」

 料理と聞いて、すぐひらめくのが「注文の多い料理店」(by宮沢賢治)。ほとんど躊躇する事も無く「人喰い料理大作戦」のネタがまとまりました。トライアングルのエピソードについては、この程度の安易さで構わないのであります。

 一方、ルシーをどう料理と結びつけるかは、けっこう苦労しました。最初、ロボット玩具のルシーに電気をさまざまに料理して喰わせる話を考えていたのですが、どう知恵を絞っても、電気の料理と言うものが思い浮かびません。結局、ありふれたストーリーですが「ルシーの晩餐」の形に落ち着きました。

 

   第4回お題「幽霊」

 このお題を見た途端、私には「お化け坂」を送れ、と示唆しているように見えてしまい、別コンテストで落選したばかりの「お化け坂」をすぐに投稿してしまいました。

 もう一本は、もともとは「幽霊人形(仮)」というアイディアで、はじめっからオモチャの人形に幽霊が取り憑く話を予定していました。幽霊が取り憑いたのは、オモチャ会社の試作品の人形で、会社は「幽霊が取り憑く人形」として、量産して大々的に売ろうとします。しかし、実際に幽霊(試作品を作った男の死んだ奥さん)が本当に取り憑いたのは、最初の試作品だけで、あとの人形はインチキで、その事がバレて、幽霊人形はすぐ発売禁止処分になってしまいます。で、唯一のホンモノ幽霊人形を巡って、最後は「知ってる人だけのお話」と同じオチになる訳です。なぜ、この原案を「知ってる人だけのお話」に大幅変更したかと言いますと、この「幽霊」のお題が発表された後すぐ、共幻文庫のサーバーが本当に繋がらなくなるハプニングがありまして、不謹慎ながら、ネタとして小説に組み込んじゃった次第です。ほんとに「知ってる人だけのお話」なのであります。

 本当は、本物の幽霊ではなく、幽霊部員や幽霊船と言った「人がいない」という意味合いの幽霊ネタを書いてみたい気もあったのですが、すでに出品用作品が2本決まってしまっていたので、このネタは膨らみませんでした。

 

   第5回お題「成長」

 「AIに負けるな」のストーリーは、お題が分かる前からすでに決まっていました。原案段階では、本編内でも触れてる囲碁勝負のような、人間の小説家対AIの小説書き勝負の話にするつもりでした。タイトルが「AIに負けるな」なのは、その名残りなのであります。

 もう一本、出品しようと言う事で、蛙里いずみの新作にする事はすぐひらめいたのですが、アイディアがまとまるまでは、かなり苦労しています。最初、「姪の成長」を正攻法で描こうとも思ったのですが、あんまり面白くなりそうにありません。それで、いつものごとく「キャラクターの成長」をオチにした、トンデモない話になってしまったのであります。実はいずみが二人出てくるのが元々のイメージだったのですが、むしろ意外さを重視して、完成品のようなスタイルにしました。

 もっと変わった「成長」の話も書けそうな気はするのですが、今回はあまり頭を絞ってはいません。

 

 総括しますと、本コンテストでは、ニジュウ面相ネタお化け坂などのシリーズものにこだわりすぎた為、アイディアに自分で制限をかけちゃた感じもします。特に後半戦ほど、すでにネタが決まっていたため、新しい発想が膨らまなかったようで、ちょっと惜しい事をしたかもしれません。


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アットホームアワード用ボツネタ

 アットホームアワードの小説コンテストお題が四つありまして、そのうち、お題「一人暮らし」には「おいらとタマの一人暮らし」を、お題「お隣さん」には「おばあちゃん」を送らせていただきました。

 さて、お題はまだ二つあったのですが、「おばあちゃん」の出来が良すぎた事もあって、なかなか次のネタが決まりませんでした。

 お題「ご当地物語」は、私自身があんまり旅行しない人間なもので、いい舞台がひらめきません。いっそ、私が今住んでいる町を舞台にした「桜の町大作戦」(うちの町の名物が桜草だったもんで)なんてのも考えたのですが、少し安直すぎるかと思い、ひとまず保留にしました。もし、この話を書いていたら、トライアングル・シリーズの一本になっていました。

 もう一つ残っているお題「二次創作」がまた、なかなかの難産でして、ネタは次々にひらめくのですが、あと一歩、作品化に及びません。

 「三匹のこぶた」を元ネタにして、ワラ、木、レンガの家を比べる話とか考えたのですが、いまいち内容がふくらみませんでした。「不思議の国のアリス」のパロディで「日本の国のアリス」はどうだろう、と思いました。日本の住宅はウサギ小屋だと聞いて、アリスが小さくなるお菓子を用意しているとか、日本の住宅事情をアリス原典のネタと引っ掛けて、ユーモアに描こうかと思ったのですが、これも、あまり斬新な内容になりそうな気配が感じられませんでした。

 いっそ、「宇宙戦争」タコ型火星人が地球人に化けて、スパイとして日本に潜入する話なんてのも考えたのですが、最後は、日本人の親切さに触れて、火星人が改心すると言う展開にしたかったのに、生き血が好物で、ウィルスにやたらに弱い火星人では、なかなか、そんな方向には話を進める事が出来なかったのでありました。

 

 さて、これ以上、アイディアがひらめかなかった為、アットホームアワードへの参加はもう止めるつもりだったのですが、その後、アットホームアワードの入選作を見ますと、私がNGネタと考えていた幽霊物件話とか「ご当地物語」でも「架空の町」なんてのが採用されておりまして、オイオイと思ってしまいました。

 何でもアリかよ、と判断した私は、とりあえず、もっとアットホームアワードに作品を送ってみる事にしました。そうして、無理やり書きあげた新作が「アリとギリギリデス」「ビデオの中の彼女」だったのであります。まぁ、最終的にどれも入選し損ねた訳なのですが。


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<解説>名前遊び

 執筆活動を再開するにあたり、過去の自作のキャラクターはほぼ使い回ししないと心に決めたのですが、そうなると、登場人物の名前の付け方に自由度が増した分、少し遊びたくもなってきました。

 最初に遊んでみたのが「帰り道」です。この作品に出てくる二人組の名前は、一恵とF先輩で、私としては、吹石一恵と福山雅治のつもりだったのですが、ヒントが少なすぎて、誰にも気付いてもらえなかったようです。そんな訳で、「帰り道」の続編となる「3つの手の物語」では、もろ、先輩を福山と表記し、一恵の父親の徳一も登場させております。(吹石一恵の父親の名前が徳一)

 以後の作品では、もっと分かりやすい名前遊びをする事にしました。

 

「お化け坂」

はるか    (春か)

なっちゃん  (夏ちゃん)

アキラ    (秋ラ)

冬彦

 

「笑う幽霊坂」

美来  (未来)

過子  (過去)

 

「おばあちゃん」

世界一

世界初音  (世界初ね)

世界喜望  (世界規模)

 

「ルシーの晩餐」

キノオ  (昨日)

キョウ  (今日)

アス   (明日)

 

「浦島異聞」

桃吉  (桃太郎)

金太  (金太郎)

寸坊  (一寸法師)

 

「時間犯罪」

L(Laboratory)病理研究センター

時間犯罪を犯す人H(Human)

バチルスB(Bacillus)

友人F(Friend)

 

 トライアングル・シリーズは、主要登場人物が三人と言う事で、トライアングルトライ、アン、グルに分解してみました。そのまんま、他の登場人物名も、打楽器を用いています。雑誌「ダ・ガッキ」をはじめ、編集長のシン・バル氏、T・バリン(タンバリン)氏、すず(ベル)さん、など。

「ガラスの靴大作戦」に出てくるサンドリヨン(社)とはシンデレラのフランス名「人喰い料理大作戦」のゲストキャラであるモーロックとは、ウェルズ「タイムマシン」に登場した人喰い未来人の名前です。トライアングル・シリーズにつきましては、ボツネタの方も、大体こんな感じでゲストキャラ名が付けられています。

 

 「知ってる人だけのお話」の登場人物は、虎井、安藤、グルと実はトライ、アン、グルを和名に変えただけのものです。もう一人?の重要登場人物である尾場家サカも平仮名にすると「おばけさか」となり、他にもルシーアケチ探偵、ニジュウ面相などが出てきますので、この作品はほんとは私の最近のシリーズもの全ての名前を含有したお遊び(パロディ)だったりします。

 

 「おいらとタマの一人暮らし」は、人間キャラの名前の方が珠華で、通称タマ。猫の親子の方がアオイとカイトと、今どきの人間の子どものような名前を付けられておりまして、名前だけだと飼い主とペットが逆転しています。

 

 いずみちゃんシリーズ蛙里いずみと言う名前は、第一作「アリとギリギリデス」のアリに引っ掛けて、生まれました。蛙里(かえるざと)の読み方を変えると「あり」とも読めるのであります。さらに、「泉より愛をこめて」に出てくる画家の角土(かくど)ですが、これも角土=角度=アングルとなり、名画「泉」の作者であるアングルを和名に変えた(かなり苦しいですが)ものなのでした。

 

 「狼ハンター」の登場人物、ペローグリムと言う名前はどちらも「赤ずきん」を紹介している有名童話作家の名前です。山羊のニコの名の由来は、ネタばれしちゃいますが、お察しの通りユニコーンから取っています。赤ずきんの喋り方を藤田ニコル風にしたからと言う訳ではありません。

 

「ハイスクール全裸」は、ただのあらすじ集でしたので、ほんとは、登場人物に固定の名前をつけたくなかったのですが、シリーズが長くなるうちに、どうしても主要人物に名前もつけざるを得ないエピソードも増えてきました。

 もっとも、それでも、できるだけ、パッとひらめいた無意味な名前ばかりを採用するようにはしたのですが。

 

コージロー(「アイドルコンサート」)  私の小説の旧キャラ、法鬼高二郎より。

蛙里いずみ(「番長の初体験」他)    ご存知、私の最近のエロ小説の常連ヒロイン。

サイクロプス人(「給食タイム」)    ギリシャ神話に出てくる、人喰いの怪物の名前。

ココア(「変身」)           なんとなく、今どきのペットっぽい名前。

マッキー(「宇宙人顔」「夢」)     なんとなく。

ミッチ(「変身」)           なんとなく。

リリちゃん(「リリちゃんの内緒ごと」) なんとなく。

ヨミノ(「ヨミノギャル」)       私の過去の小説に出てくる、謎の町。

ハカセ(「部分空間転送」)       個人名をつけない為のニックネーム。

N(「Nの性転換」)           個人名をつけない為に、なんとなく。

アルク(「アルク」)          本編内での説明通り、ドラキュラの偽名。

パトス(「珍品料理」)         私の過去の小説に出てくる、オリジナルの媚薬。

ピッティアン(「留学生」)       ピット星人の正しい英表記。

A子とB子(「レズいじめ」)       個人名をつけない為に、なんとなく。

ホリョとトリコ(「家畜人」)      捕虜と虜。捕らわれの家畜キャラだから。

カコちゃん(「名器検査」)       私のいくつかのエロ小説に出ているヒロイン。


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奥付



ルシーの明日とその他の物語


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