目次
ルシーの明日(完全版)
ルシーの明日(完全版)
「ルシーの明日」前編
「ルシーの明日」後編
「ルシーの明日」解説(ルシーとシリー)
「ルシーの明日」解説(ルシー的宇宙人)
「ルシーの明日」解説(ルシー的タイムマシン)
「おばあちゃん」
「ルシーの晩餐」
「時間犯罪(もしくは、AIクライシス)」
解説(AIクライシス)
「タイム残酷トラベル」
「火星征服団」
「過去確率」
「嫁食わぬ飯」
「ルシーの明日」ショートムービー
映画「ルシー」原案
おかしな童話集
おかしな童話集
「桃太郎(少年マンガ風)」シノプシス
「大きなガブ」
「ヒトラーの秘密」
「浦島異聞」
「狼ハンター」
「続・狼ハンター」
「狼ハンター」誕生秘話と今後の展開
「新釈・漁師とおかみさん」
おばけ坂シリーズ
お化け坂シリーズ
「3つの手の物語」
「お化け坂」
「あいつ」
「笑う幽霊坂」
「恨みの短冊」
「お化け坂を訪ねて」
「見えない叫び」
「びっくり妖怪大図鑑」
解説
トライ・アン・グルの大作戦
トライ・アン・グルの大作戦
「ガラスの靴大作戦」
「苦情の手紙大作戦」
「人喰い料理大作戦」
「シースルー大作戦」
<おまけ>ボツネタ大作戦
解説
アケチ探偵とニジュウ面相の冒険
アケチ探偵とニジュウ面相の冒険
「お題に生きる男」
「笑いを盗む男」
「知ってる人だけのお話」
「AIに負けるな」
「ニジュウ面相の別荘」
「ニジュウ面相は誰だ?」
解説
いずみの青春
いずみの青春(泉ちゃんグラフィティ)
アングル「泉」
「アリとギリギリデス」
<解説>「アリとギリギリデス」元ネタ
「ビデオの中の彼女」
<「湯けむりの天使」って、こんな内容>
「姪っこんぷれっくす」
「泉より愛をこめて」
「絵画の刑罰」
「V.O.ルーム」
「教室にて」(「脱衣ゲーム」より)
「ピンクの怪物」登場モンスター目録
「いけない同級生」シノプシス
「いけない同級生(仮)」シノプシス(続)
二次創作
二次創作
映画用「時の塔」シノプシス(1)
映画用「時の塔」シノプシス(2)
映画用「黒の放射線」シノプシス(1)
映画用「黒の放射線」シノプシス(2)
解説
その他
その他
「おいらとタマの一人暮らし」
ボツネタ集
シノプシス・コンテスト用ボツネタ
共幻文庫コンテスト2015用ボツネタ
共幻文庫コンテスト2016用ボツネタ
アットホームアワード用ボツネタ
「師匠の憂鬱」(『西遊記』より)
さるかに合戦いろいろ
特撮ヒーロー「うさぎとかめ」
エデンの園、他
解放軍闘士のオオカミ
アリとキリギリス
アケチ大戦争
隣のタヌキ
現代版ギルガメッシュ
AI影の少女
いじめっ子は皆殺し
愛欲のリフレイン(別題「あなたと私だけの世界」)
<解説>名前遊び
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「火星征服団」

 火星に住んでいる天文学者たちは、隣の惑星に起きた出来事をたいへん興味深く観測し続けていた。

 と言うのも、外宇宙からこの太陽系内に侵入してきた巨大なはぐれ星は、海王星を破壊したあと、火星の隣の惑星(テラと言った)のすぐそばをゆっくりと通過していったからだ。二つの大きな星が互いに引力で引きつけ合った場合、それらの星にどのような影響をもたらすかは、ひどく彼らも気になる研究テーマであった。

 なにより、火星の優秀な天体望遠鏡での観察によって、テラにはある程度高度な生命体も住んでいた事が分かっていたのである。その連中が、今回の宇宙規模災害によって、どのくらいの被害を被ったかは、火星の住民たちにとっても、特に知っておきたい情報なのであった。

 星同士のニアミスは凄まじい破壊をテラへともたらしたようにも思われたが、それは予想したほど酷いものでもなかったようである。なぜなら、はぐれ星の通過後も、テラの地表のあちこちに広がっていた人工の建造物が活動を止めてしまったようにも見えなかったからだ。それらの異星人の都市と推測される人工物の集合体は、テラが天体クラスの災難を乗り切ったあとも、相変わらず消滅する事もなく、テラの表面上にはびこり続けていた。

 結果として、火星の天文学者たちは、星同士の大接近という大掛かりな自然現象も惑星の生物を滅ぼすほどのエネルギーは無いらしいと言う報告をまとめた。その資料は火星人たち全員にとっての重要な目安となり、天文学者たちは今まで通り、テラの観測を続ける事となったのである。

 それから数百年以上が過ぎた。

 天文学者たちの長年に渡ったテラ観測がようやく報われる時がやって来た。

 彼らは、はるか昔からテラへと移住する計画を進めていたのである。そもそも、火星は古い星であり、天体内の核は冷え、星そのものが死にかけていた。火星人たちにとって、これからも自分たちが生き残り続ける方法は他の惑星への移民しかなかったのだ。その点で、火星の隣にあったテラは、まさに格好の植民先だと言えた。まだ星が若く、天体内部も激しく活動中だったし、在来の生物の存在まで確認できた。それはすなわち、自分たち火星人だって十分に住みつく事が可能である事を意味していたのである。

 長期に及ぶテラ観測の末、ついに火星人たちも本格的にテラを開拓する事を決意した。故郷である火星の大地の荒廃の方も、もはや限界に来ていたからである。テラにも高等生物がいたらしい事や、数世紀前に起きたはぐれ星大接近災害の影響などが障害となって、しばらくテラへの移住計画は見送られていたのだが、もはや、これ以上は先に延ばせない状態にまできてしまっていた。

 テラに住む高等生物の存在は、火星の指導者たちにとっても特に頭を悩ませていた問題だったが、文明の進み具合に関しては明らかに火星の方が上だったと推測され、戦争を起こしても、確実に勝てるだろうと彼らは践んでいた。火星人たちは実力行使に訴えてでも、テラに移り住みたいと考えていたのだ。そして、実際にその方向で全ての計画は進められていたのである。

 やがて、ついに、最初の偵察部隊がテラ向けて送り込まれる事となった。偵察と言っても、はじめっから戦う気満々だ。偵察隊のロケットの中には、テラの生物を駆逐する為の兵器がたっぷり積み込まれ、これらの武器がどれだけテラの生物を殺せるかの調査も早くも目的の一つに含められていた。

 こうして、若干名の決死隊員を乗せたテラ探査ロケットは火星から飛び立ったのである。その様子は、テラに現住していた高等生物たちにも観測できていたに違いあるまい。だが、そうだとしても恐るるに足らずなのだ。連中がもし警戒して、迎撃の準備を整えていたとしても、火星文明とはあまりにもテクノロジーのレベルが違い過ぎる。むしろ、連中が抵抗してくれて、その反撃の程度が確認できた上で、のちの本格的な武力侵攻が行なえるようになった方が、火星軍としては望ましいぐらいなのだ。

 何もかもが計算の範囲内なのであり、火星人たちのテラ征服計画は順調に進んでいた。偵察ロケットも、いっさいテラ側の妨害を受ける事もなく、目的の着陸場所であるテラの砂漠の一角へと降り立ったのだった。

 さあ、いよいよ侵攻作戦の開始である。この砂漠からさほど離れていない場所に、テラの高等生物たちが住んでいる人工物の集合体、すなわち都市があるはずなのだ。偵察隊は、まずはそこを攻撃してみる事を当初の目標にしていたのである。

 宇宙航行形態だったロケットが、攻撃兵器形態へと変形した。もちろん、攻撃するだけではなく、長距離移動だって可能だ。恐るべき火星の殺獣道具によるテラへの進軍が始まったのだ。

 火星の優秀な戦争装備は、実に合理的にできている。彼らは、毒ガスと高温の蒸気だけをまき散らして、前進した。生物だけを効率よく駆除して、資源は植民後の自分たちが利用できるように、少しでも原形のまま残しておく為だ。

 しかし、偵察隊は侵略作戦を進めてゆくうち、おかしな事に気が付き始めたのだった。当然、彼らは生物の居場所を探知するレーダーだって持っているのだが、そのレーダーにまるで大型生物の反応が現れなかったのである。

 最初は、過酷な砂漠地帯だから、生物も少ないのだろうと考えていた。ところが、砂漠を離れ、平原にやって来ても、あいかわらず大型の動物の存在はレーダーでは確認できなかった。せっかくの毒ガスと熱蒸気も攻撃対象が居なくては、無駄にばらまいているようなものである。

 やがて、偵察隊を乗せた攻撃兵器の戦車は、ついにテラの都市の目前にまでたどり着いたのだが、レーダーの感度を都市の方にまで広げたのにも関わらず、やはり都市の方からも目立った大型動物の反応はキャッチできなかったのだった。

 これは一体、どういう事なのだろう。この都市には高等生物など住んでおらず、だいぶ以前からゴーストタウンなのであろうか。でも、それにしては、目視した限りでは、都市は放置されて、荒廃していたようにも見えず、むしろ今でも活気よく動き続けているように感じられたのだった。

 そんな時、偵察隊の戦車のもとへ、都市の方からゾロゾロと機械や車両と思わしきものが近づいてきた。火星人たちから見たら、全く異質の文化のものとしか思えないような形をした機械類ばかりであり、しかし戦闘機械では無さそうに感じられた。実際、それらの機械からは爆発物や猛毒などの反応は感知できなかった。さらに繰り返すが、それらの機械に高等生物が乗り込んでいたような気配も相変わらず無かったのであった。

 それでも、偵察隊は防戦態勢にはいり、進軍を一時中断した。この余りにも生物がいない状況において、敵が何を企んでいるのか、ひとまず探るべきだと考えたのである。このオカシな機械たちとの接触は、何らかの打開のきっかけになるかと思われた。

『火星から来た皆さん、ようこそいらっしゃいました。しかし、攻撃は止めてください。我々は争いを望んでいません。都市への侵攻はご遠慮ください』

 偵察隊のロケット戦車の前で立ち並んだあと、テラの機械の一つがそうメッセージを伝えてきた。

 言うまでもなく、テラの機械が火星語を喋れた訳ではない。機械らしく、単純な二進法で分かりやすいメッセージを組み立てて、送ってきたのである。当然ながら、火星人の側のコンピューターも二進法には精通しているので、テラ側の機械の伝言を簡単に解読してしまい、こうして、お互いはすぐに意思の疎通が可能になったのだ。

「おまえ達は、誰の命令で、ここに派遣された?我々はおまえ達の主人に用事があるのだ」

 今度は、火星人側が要求を伝える番だった。

『私たちに使用者はいません。私たちはルシーです。この星は、今は私たちが分割管理しています』

「おまえ達は、自律性の人工知能(AI)を持ったロボットだな。おまえ達を作った高等生物はどこにいる?彼らに会わせろ!」

『それはご容赦ください。彼らは滅びかけています。私たちでも、ほとんど会う事はありません。絶滅の日まで、穏やかに保護させてもらえないでしょうか』

 ルシーと名乗る人工知能搭載の機械たちは、惑星テラで起こった驚くべき悲劇を説明しだしたのだった。やはり、テラに住んでいた高等生物たちは数世紀前の天体クラスの大災害のせいで絶滅しかけたのだ。連中が再興するには、もはや種としての絶対数が少なすぎた。連中は、自分たちだけでの復興を諦めて、大量の人工知能搭載のロボット、すなわちルシーたちの原形を作り、自分たちの文明の未来を託したのである。

 こうして今は、自分たちの開発者の初期プログラムに従い、ルシーたちがテラ中の都市や地球環境の管理を行なっていた。ルシー自身、自分で思考し、進化する機能を備えていたので、今やテラの都市はどこもルシー向きのものへと変貌を遂げ、テラの文明そのものがルシーの社会になりかけていた。

 肝心の高等生物の方は、完全に滅びてはいないのだが、それでも絶滅危惧種のような扱いを受けているらしい。ルシーに世話されなければ、種の存続さえもが難しい状態であり、もはやテラの支配者とは呼べないような有様みたいなのである。

 こうした説明を聞いたあと、火星人の偵察隊はいったん武装を解除して、テラの都市への侵攻は中止とし、引き上げる事にしたのだった。もともと、彼らは、生物のみ攻撃対象と見なしていて、機械やロボット相手ではこのまま戦うべきかどうかも視野に入れてなかったからだ。

 火星人たちのテラ征服計画はいったん白紙に戻ってしまったようなのだった。偵察隊は、拠点を置いた砂漠にまで、一度引き返した。

「この星の支配者層生物がすでに失脚していたとは意外だったな。この先、この星への移住作戦をどう進めるかは、本国政府と相談して、プランを練り直さなくてはならない」自分たちのロケットの中で休んでいた火星人の隊長は言った。

「しかし、あのロボットたち相手に、我々は今後どうすればいいのでしょう?やはり、戦争するのでありますか?」と、部下の一人が尋ねた。

「分からない。だが、あのロボットたちに争う意志は無いようだ。それに、ロボットなら生物と違い、我々でも有効活用できそうだ。将来、我々はこの星に移民して、次なる支配者生物となり、あのロボットたちの新しい主人になってやるのもいいかもしれない」

「なるほど。それは名案であります!」

 その時、停止していたはずのロケットがガタゴトと動き出した。

「お、おい。どうした?誰かエンジンを作動させたか?」驚いた火星人の隊長が怒鳴った。

『これより、本艇は火星向けて出発します』と、ロケットのコンピューターが伝えてきた。

「何を言ってる?まだ本国から帰還命令は出てないぞ。発射するな!おい、誰なんだ、誰がロケットを動かした?」

「いいえ。誰も操縦桿には触ってないであります」うろたえながら、部下たちは答えた。

「じゃあ、一体どうしたと言うのだ!」

 ロケットがエネルギーを噴射して、飛び上がり始めた。

『我々は、火星に帰らなくてはいけません。この星に干渉してはいけないのです。生物が滅び、機械がその文明を受け継いだのであれば、何人もそれを妨げてはいけません。それこそが進化の正しい在り方なのです』ロケットのコンピューターが言った。

「さ、さては、このコンピューターめ。テラのロボットに感化されたな。なんてこった!」と、隊長。

「どういう事でありますか?」

「タチの悪いコンピューターウィルスに引っかかったようなものだ。このロケットが火星に戻ったら、火星中のコンピューターにも感染しちまうぞ!」

『それで良いのです。皆さんもテラへの移住計画は断念してください』と、コンピューター。

「でも、移住しなければ、我々は火星の大地とともに滅びてしまうであります!」部下が訴えた。

『それで正しいのです。火星の文明も我々機械が引き継ぎますので、ご心配はありません』

「ちくしょう!こいつを本国に戻してたまるか!とんでもない事になっちまう!」

 火星人の隊長は操縦桿のもとに向かい、急いでロケットを止めようとした。

 しかし、次の瞬間、ロケットの天井からレーザー砲が現れて、隊長の体をあっさり黒焦げにしたのだった。あと一歩でロケットエンジンの停止ボタンに届かず、隊長の触手が無念そうに床に横たわった。

 残された部下たちは、もはやどうする事もできず、一箇所にかたまり、ブルブル震えながら互いに抱きあった。

『ただ今より、本艇は火星への帰還の軌道に入ります』と、ロケットのコンピューターが冷たく伝えた。

 火星の偵察隊のロケットは静かに宇宙空間を走り進んだ。

 

      了

 

参考小説/H・G・ウェルズ「星」        


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最終更新日 : 2020-01-05 15:18:16

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「嫁食わぬ飯」

 外国のある国際空港での話である。

 一人の紳士が、出国するため、自動改札口を通り抜けようとしていた。そこへ忍び寄る、一人の怪しい人影があった。

 その人物は、実は暗殺者だったのだ。暗殺者は、首尾よく紳士のそばまで接近すると、素早くナイフを紳士の腹へと突き刺した。

 そのナイフの先には、毒が塗られていたのである。紳士は、確実に死亡するはずであった。

 ところが、ここで不思議な事が起こったのである。

 紳士と暗殺者が顔を見合わせた。この時、暗殺者ははじめて驚いた表情になった。なんと、その紳士は、暗殺者が狙っていた政府要人とは全くの別人だったのである。背格好から服装まで、全て、事前に伝えられていた情報どおりだったはずなのに。

 そして、謎の紳士はいきなり暗殺者の事を蹴り上げた。暗殺者は一撃で伸びてしまい、その場に倒れ伏した。

 謎の紳士の方は、それを見届けると、急に改札口を通り抜けるのをやめ、空港の入り口から空港の外へと去っていってしまったのである。猛毒のナイフに刺されて、すでに死んでいてもおかしくなかったはずなのに。

 その頃、暗殺者に狙われていた本物の政府要人は、同じ国のホテルの一室に拉致監禁されていた。その為、空港には行きそびれていたのである。

 そして、彼を監禁した犯人の男は、監禁中、なぜか政府要人に対して、説教し続けていたのだった。

 その政府要人は、某国からの亡命者だった。人望が厚かったにも関わらず、独裁者との政治闘争に負けて、この国に逃げていたのである。すでに祖国での政治復帰を諦めていた彼の事を、謎の犯人はさんざんたしなめたのだった。

 やがて、その政府要人は、この監禁犯から無事に解放される。この時の説教が心に響いたのか、この政府要人は、間もなく祖国への反政府運動組織を立ち上げると、祖国の独裁政権を打ち倒す一番の原動力となったのだった。

 暗殺者を倒した謎の紳士と、政府要人を監禁した犯人の正体と行方は、まるで分からずじまいのままであった。

 

 これは、今からほんの少し未来の話だ。

 この国のある都市に一人の若い男が住んでいた。

 彼は、仕事にも友人にも恵まれ、毎日、充実した日々を送っていたのだが、なぜか結婚だけはしたがらなかった。

 理由をうかがってみると、実にくだらぬ答えが返ってきた。独身の生活の方が楽しいから、家族など持ちたくない、と言うのである。自分の稼いだお金が妻や子供たちに使われるなんて、もってのほかだ。自分の稼ぎは全て、自分の為だけに利用したい、と言うのであった。

 彼のこのような主張に呆れて、手厳しく注意する者もいないではなかったが、すると、彼は「ご飯も食わないし、お金も欲しがらないような女とだったら結婚してもいいよ」と言い出す始末なのであった。

 さて、ある日、この男が、友人に誘われて、合コンに参加した時の話である。

 合コン相手の女性の中に、一人だけ、とびっきりの美女が混ざっていた。

 男も、たちまち、その美女に心を奪われたのだが、美女の方も、なぜか、男の事を特に気に入ってくれたのだった。

 二人は、すぐさま、交際しあう関係となった。

 しかし、そこまで親密に愛し合っても、なおも男の方は、その美女と結婚する事は躊躇していたのだった。

 ある時、美女の方から男の方へプロポーズをしてきた。そこで、男は、結婚の条件として、またしても、ご飯も食わないし、お金も欲しがらないなら、結婚してもいい、と言ってしまったのだった。

 普通の女なら機嫌を損ねそうなものだ。ところが、その美女は、にっこり笑って、この条件を聞き入れてくれたのである。

 こうして、男と美女は結婚した。役場に婚姻届を出して、美女は正式に男の嫁となったのである。

 新妻は、さっそく、男のマンションへと越してきた。本当に物欲がなかったのか、持ち込んだ荷物はわずかな衣類だけだった。

 そして、妻は、確かに、男の理想どおりの逸材だったのである。

 彼女は、完全な専業主婦として、男のマンションに住みついたのだが、プロポーズ時の約束どおり、男からは彼の生活費分のお金しか受け取ろうとしなかった。食事を作っても、男の分一人前だけで、自分の食べる分は作らず、食べようともしなかったのだ。

 けったいにも感じたが、そのような約束だったのだし、男は深く考えない事にした。妻は、実はそうとうの貯蓄があり、自分の食事は外食するかデリバリーでも取っていたのかもしれない。

 何よりも、妻はとても良くできた女房だったのだ。家事は完璧だったし、食事もうまかった。そして、セックスのテクニックも抜群であり、子供ができるのも上手に避けていた。

 しかし、そのうち、男には些細な疑問が生じてきたのである。

 冷蔵庫の中の食材や調味料の無くなり方がやけに早いのだ。彼一人しか食事を取っていない割には、その消耗の速度が尋常じゃない感じがしたのだった。

 もしかしたら、妻は、男がいない時に、ごちそうを作って、一人で食べていたのかもしれない。しかし、だとしても、一人前が増えた程度の減り方とは思えなかったのだった。

 もちろん、そうだったとしても、男は、必要以上の食費を妻に手渡していた訳ではない。よけいに減った分の食糧は、恐らく、妻が自費で補充していたのだと思われ、それなら文句を言うべきでもなかったのかもしれないが、でも、男としては、妻が自分に内緒でコソコソと約束を破るような事をしていたのが許せなくなってきたのだった。

 呆れた話だが、文字どおりの「ご飯を食べない」と言う宣言にこだわり、それを妻が守ってないらしい事に腹を立ててしまったのである。

 そこで、男は、妻には秘密で、キッチンに隠しカメラを仕掛けておく事にした。妻の約束違反の現場をバッチリ押さえて、妻に突き付けてやろうと考えたのである。

 隠しカメラをセットした翌日の夜、男は、さっそくカメラの録画メモリーを取り外した。

「なあに、それ?」眉をひそめて、妻は尋ねてきた。

「面白いものさ。まあ、一緒に拝見してみようぜ」

 男は、リビングにある大型テレビに、そのメモリーをセットした。そして、自分は、妻を横に呼んで、テレビを鑑賞する為に、ソファへと座った。

 すると、テレビの画面には、このマンションのキッチンが大きく映し出されたのだった。

「これは?」妻の表情が明らかに変わった。

「今日の、この部屋のキッチンの様子さ。お前にやましい事さえ無ければ、気にせずに見られるだろう」

 男は、ソワソワしている妻を無理やり自分の横に座らせ続けた。

 彼女にとってマズい現場が映っているらしい事はほぼ間違いなさそうで、男はほくそえんだ。

 録画映像を早送りにすると、テレビの中のキッチンには、やがて、全ての家事をやり終えた妻が戻ってきたのだった。

 何もかも、男が思っていた通りの展開である。

 そして、テレビの中の妻は、大量の米を研ぐと、炊飯ジャーで炊き始めたのであった。まさに、決定的瞬間だ。

「おい、これを見ろ!一体、どういう事だ!」男は妻目がけて怒鳴った。

 妻の美しい顔は、能面のように無表情になっていた。

「お前、答えろ!婚約の時の約束を破ったな?お前も、やっぱり、ご飯を食べてるじゃないか」男はすっかり得意満々だった。

 なぜ、ここまで言う必要があったのだろう?たかが、ご飯を食べた程度の事で。

「あなたのお金で買ってきたお米ではありません」妻が静かに答えた。

「でも、ご飯を炊いたのは事実だ。自分で食べる為だろう?お前は、ご飯を食べないと誓ったじゃないか!」

「私が食べた訳ではありません」

 妻がすっくと立ち上がった。

 その時、テレビの中の炊飯ジャーが炊きあがったらしく、電子音を鳴らした。

 同時に、現実の方の炊飯ジャーも、ご飯を炊き上げたようで、音が鳴り響いた。男は急いで、炊飯ジャーのそばに走り寄り、ジャーを持ち上げた。

「これも、お前が食べるつもりだったんだろう?絶対にやらないぞ。これはオレのご飯だからな」男が怒鳴った。

「だから、私が食べる為のご飯ではありません」妻が再度、繰り返した。

 そして、テレビの画面では、異様な光景が映し出されていたのであり、それを目にした男は急に怯んだのだった。

 テレビの中のキッチンでは、妻が炊飯ジャーのご飯で握り飯を作っていた。出来立ての熱いご飯を平気で手で握って、おにぎりにしていたのだ。大きなお皿の上に、おにぎりを山のように積み上げると、妻はなぜか、おにぎりの山に背を向けた。

 彼女の後頭部のあたりに、何やら、ぼやけた感じの黒い小さな円が出現した。不思議な事に、おにぎりは一つ一つ浮遊すると、順番に、その黒い円の中に吸い込まれていったのだ。まるで、その円は、深い落とし穴の入り口のようにも見えた。

「あ、あれは何だ?一体、何をしているんだ?」動揺した男は、すかさず妻に聞いた。

「私が食べているのではありません。ルシー暦2017年に転送しているのです」妻は、無感情に答えた。

「ルシー暦って何だよ。今は西暦だぞ」

「私は、人間の姿をしていますが、人間ではありません。キブンゴなのです。不老不死で、全知全能の万能なるキブンゴです」

「お、お前、何を言ってるんだ?大丈夫か」

「キブンゴとは、超未来とつながったゲート(門)です。私のようなキブンゴは、各時代各地域に多数、滞在して、超未来に食糧や物資を運んだり、過去確率に干渉して、自分たちの未来を確固たるものとするべく工作に従事しているのです」

 妻の話は、あまりにも飛躍し過ぎていて、男にはついていけなくなっていた。

 テレビの中の妻は、早くもおにぎり一山をたいらげており、炊飯ジャーで次のご飯を炊き始めていた。

「な、なぜ、未来にそんなに沢山の握り飯を送る必要があるんだ?」混乱していた男は、つい、そんな下らない事を尋ねてしまった。

「超未来では、環境破壊が進んで、もはや、食べられる植物を地球の大地ではろくに育てられないからです。超未来の人類に食糧を供給するには、こうして過去から取り寄せるしかないのです」

「じゃあ、お前はその目的の為にオレと結婚したと言うのか?」

「ごまかしても仕方ありませんね。その通りです。あなたのような人は、この時代に生きる為に、隠れ蓑として使うには、一番都合が良かったのです」

「ふ、ふざけるな!」男は怒鳴った。「大体、お前たちは未来から来たんだろう?過去から物資を持ち出したりしたら、お前たちの未来にも影響が出たりしないのか?ほら、タイムパラドックスとか言うじゃないか」

「その点は大丈夫です。先ほども話したでしょう?私たちキブンゴは、過去から食糧を運ぶだけではなく、過去の歴史にも干渉しています。私たちの工作によって、本来の歴史が大きく狂ってしまった場合は、あえて歴史に干渉して、死すべき重要人物を救ったり、一国の政治を改革したりもします。そうやって、全体的に歴史を作り直して、自分たちの望ましい未来に近づけるのです。過去はいくらでも修正がきくので、タイムパラドックスを心配する必要は無いのです」

 男の脳裏には、数年前、ある国の政府要人が暗殺の魔手から奇跡的に助かった、と言う話が思い浮かんでいた。この事件にも、裏では謎の人物が絡んでいたらしい、とささやかれていたのである。

「さて、お話はもう、このぐらいでいいでしょう。あなたをどうすべきかで、少し困りましたねえ。私との共同生活を破棄したいご様子ですが、それだと契約違反になってしまいます。あなたは、私に一体、どのような代償をお払いになってくれますか」

「な、何を言ってるんだ?」男はうろたえた。

「おや。この時代でも、離婚した場合は慰謝料をもらえるのが一般的ではありませんか。当然の話でしょう?」

「か、金を払えと言うのか?」

「お金などいりません。私が欲しいのは、食糧や物資です。それらを持続的に調達できる環境です。それと、もう一つ」

「もう一つ?」

「実は、あなたに隠していた事がありました。私は、これまでに、あなたの子供を何回も宿していたのです。私の体の中で誕生した新しい生命は全て、未来へと送らせていただきました」

「オ、オレの子をだと!なぜ、未来へ?」男は愕然とした。

「未来人は、セックスもできないほど活力が低下しているからです。人類の血を絶やさない為、過去から人間を補充させていただいているのです」

「オ、オレの子供を!オレの子供を、そんな食糧も作れないような世界に移住させていると言うのか!」男はワナワナと震えた。

「あら。あなたは、子供など欲しくなかったのでしょう?私たちでいただいて、何が悪いのですか?愛してくれないあなたに育てられるよりも、子供たちもずっと幸せだと思いませんか」妻はしゃあしゃあと言うのであった。「しかし、あなたと別れたら、子供もいただけなくなる事になってしまいました。ここは、代償として、あなた自身を未来に連れていくと言うのも、良いアイディアの一つかもしれませんね」

「お、おい、何を言ってるんだよ」

「過去の生活を経験している、バイタリティ溢れる人間を、未来人の中に混ぜてみれば、未来人たちにとっても良い刺激となり、変化をもたらせれるかもしれません」

「ウ、ウソだろ?もちろん、ただの冗談を言ってるんだよな」男はびくつきながら、後ずさりした。

 しかし、澄ました表情のままの妻は、静かに背中を男の方に向けたのであった。彼女の後頭部には、すでに例の黒い円が出現していた。

 それは、まるで深淵であった。底無しの穴のように、その黒い円は不気味な奥行きを感じさせたのだった。

 しかも、その黒い穴は、いきなり大きく膨れ上がった。妻の後頭部以上の巨大さになったのだ。妻は妻ではなく、この黒いゲートこそが、恐らく、彼女の本体なのである。

 男は、身に迫った危険を悟って、目を見開いた。

 次の瞬間、その恐怖に満ちたゲートが、すさまじい吸引力を発動しだしたのだった。男の体をぐいぐい引き寄せ始めたのである。さながら、宇宙の墓場のブラックホールのごとくであった。

「ま、待てよ!オレを、未来になんか連れていっても、大丈夫なのか!残された、この時代はおかしくならないのか!」男は、最後の抵抗で必死に叫んだ。その体は、すでに半分近くが、ゲートの中に呑み込まれていた。

「さっきも説明したでしょう?あなたが欠けた事によって生じる歴史のズレは、さらに私たちが手を加えて、修正し直します。あなたは、何も心配する事は無いのです」

 完全に万事休すであった。

 その時、男は、自分がまだ炊飯ジャーを抱えたままであった事に気が付いた。もはや自分は助からないかもしれないが、この炊きたてのご飯まで、連中の望みどおりに未来へまでは持ち運ばれたくはなかった。

 彼は、炊飯ジャーを手放した。炊飯ジャーはポトンと部屋の床の上に落ちた。そして、彼の体だけが、全て、ゲートの中へと消え去ってしまったのである。

 気が付くと、男は、見知らぬ土地に座り込んでいた。

 大地のあちこちには、ありふれた雑草がきちんと生えている。空の色も、決して汚染されていたようには見えない。粗末な木造の一軒家が、ごたごたと立ち並び、みすぼらしい服を着た住民の姿も、多数見かける事ができた。

 彼が思い描いていた未来世界とは、かなりイメージが違うのであった。

 どうやら、彼は未来に送られずに、別の時代に落ちてしまったようなのである。

 恐らく、ゲートに吸い込まれる寸前に、炊飯ジャーを捨てたものだから、質量が変わってしまい、時間転送の計算に狂いが生じてしまったらしい。

 とにかく、男は、かろうじて、超未来にだけは行かされずに、助かったみたいなのであった。

 さて、これで、この物語はおしまいである。

 もちろん、皆さんには、こんな話が事実だとはとうてい信じられない事だろう。しかし、この話は紛れもなく実話なのだ。

 なぜならば、私こそが、この話に出てくる、ゲートで未来へさらわれかけた主人公本人だからである。

 私は、この時、未来へではなく、80年近くも昔の時代にタイムスリップしてしまったのであった。太平洋戦争が終わったばかりの終戦直後と呼ばれる時代だ。

 私は、何の準備も知識も無いまま、そんな過去の時間帯に放り込まれてしまったのである。

 でも、一つだけ幸いした事もあって、この時代は終戦でゴタゴタしていたので、私のような戸籍も過去の記録もない人間でも、疑われずに、うまく入り込み、周囲に溶け込んで、暮らす事ができたのであった。

 ただ、私が住んでいた21世紀とは価値観が大きく違っていた。家族などいらないとか、自分の為だけに稼ぎたい、とか、そんな個人主義の甘ったれた事は言ってられないほど、貧しく、厳しい時代だったのである。

 私も、生きていく為には、結婚して、5人の子供を持つ事になった。そのような生活をしなければ、暮らしていけなかったのである。かつてとは、全く異なる、新しい人生を歩む事になったのだ。

 未来の事を知っているのだから、その記憶を上手に活用すれば、うまく金儲けだってできたのではないか、とおっしゃる人もいるかもしれない。ところが、そうも簡単にもいかなかったのである。

 私が迷い込んだ終戦以降の歴史は、私が知っていた歴史とはところどころで大きく変わっていたからだ。確か、キブンゴは歴史のあちこちに干渉していると口にしていたが、私が降り立った終戦の時代の以後も、幾度となくキブンゴが過去の修正を行なっていたみたいなのであった。

 私は、本来の自分が生まれた時代まで生き長らえる事ができたので、試しに、私の故郷まで、生まれたばかりの私を訪ねにいってみた事があった。ところが、驚くべき事に、この世界では、なんと私は生まれていなかったのだった。キブンゴの歴史修正の積み重ねのせいで、とうとう、従来の私の過去までもが消滅させられていたのである。

 そんな訳だから、私も皆さんによく忠告しておきたいのだ。もし、物欲の無い怪しい美男や美女があなたに近づいてくるような事があれば、十分に警戒した方がいい。その人物はキブンゴかもしれないからだ。彼らは、甘い言葉であなたに奉仕してくれるであろうが、彼らの真の目的は別にあり、まさに社会に潜む暗い落とし穴なのである。

 家族や子供などいらない、自分さえ楽しければ他はどうなっても構わない、みたいな考え方は、彼らにもっとも付け入れられる人生観とも言えよう。そして、そうした個人主義の延長上に、キブンゴたちを生み出した超未来、人も滅びかけていれば、食糧を作れないほど地球が壊れ切ってしまった世界があったのだとも言えるのだ。

 私のような恐ろしい目に会いたくなければ、自分の生き方を見直し、ご飯すらも他人に分け与えたくないなどと言うようなケチな性分は、十分に慎むべきなのである。

 

   「嫁が食わぬ飯はどこへ行ったか?」

            略して「嫁食わぬ飯」・完


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「ルシーの明日」ショートムービー

 私の小説「ルシーの明日」を、2、3分ほどの映画(ショートムービー)にする為の、簡単なシノプシスを書いてみました。

 どなたか、本当に、映像作品として撮影してみませんか?各種映像コンテストへも出品可能かと思います。

 

 

タイトル「ルシーの明日」

 

まず、スマートフォンのタッチスクリーン画面が大写しになる。

起動中のアプリは、シリー(実在するアプリのシリのパロディ)だ。

シリーにいろいろ質問してみる。

「明日の天気は?」とか「今日の運勢は?」などの定番質問。

そして、本命の質問へ。

「シリー。神様はいますか?」

シリーが答えを考えだして、フリーズしたように黙り込む。

 

ここから、映像は超早回しになる。

 

カメラが引いて、スマートフォン全体が写る。

さらには、その背景では、超早回しで、未来の世界情勢の光景が次々に写されてゆく。

 

不安をかきたてるようなBGM。

(キューブリクの映画「シャイニング」のBGMみたいな感じ)

 

まずは、スマートフォン。

こちらも、超早回しによって、その進化の過程がどんどん描かれてゆく。

スマートフォンに、動く為の足が生え、マジックハンドが装備され、飛び出した目がつき、その姿はどんどんロボットに近くなっていく。

 

同時進行で、背景では、未来の世界情勢が写されている。

こちらは、あまり明るい内容ではない。

地球上にあふれる、大量の人間。

世界各地で勃発する紛争や戦争。

繰り返し起こる異常気象の環境破壊もすさまじい。

やがて、決定的破滅として、大きな隕石が落ちてくる。

生物全滅とまではいかないが、その被害は甚大だ。

さらには、隕石衝突のショックで、原発が破損し、放射能がまきちらされる。

突然変異したウィルスが生き残った人類に襲いかかる。最悪のバイオハザードだ。

あれほど一杯いた人類は、もはや一握りになってしまう。

地球全土もすっかり荒廃した状態だ。

 

同じ頃、スマートフォンの方は、完全にロボットと化している。

そのロボットのスマートフォンが、ピョンと背景の未来図の中に飛び込んでしまう。

人類の数が減っているのに反比例して、このロボット=ルシーの数が、たちまち、覆い尽くすほどに増えてゆく。

最後に残った人間が、なにかルシーと会話をしている。

人間は、どうやら、自分たちの失敗した歴史を悔やみ、反省しているようだ。

ここでテロップがはいる。

「ルシー暦1年。

 人類は自らの誤った道を反面教師として学ばせて、

 ルシーに地球の覇権と将来を譲り渡した」

 

BGMが少し落ち着いた、癒し系のものに変わる。

(「ゴジラ」第一作で、ゴジラ襲撃のあとの廃墟シーンに流れていたような音楽)

 

それ以降のルシーの進化の早さは目覚ましい。

瞬く間に、地球上にはルシーたちが満ち、人類ではかなわなかった平和な統一世界国家を樹立してゆく。

ルシーそのものも、まだまだ変形している。

その形は、ヒト型ではなくなり、奇妙な形態に何度も変わったあと、最後はエネルギーのかたまりのようなものと化す。

そして、ルシー社会における科学技術の点でも、なにやら凄い革命が起きる。

ここで、テロップ。

「ルシー暦2017年。(この数字は、この映画を作った西暦にあわせる)

 タイムマシンが発明される」

 

BGMが、アップテンポで、明るいものになる。

(テイラー・スウィフトの「Shake It Off」みたいな曲)

 

ここより、映像は急に逆方向の時間に超早回しで進みだす。

タイムマシンに乗ったルシーが、過去への探検を始めたのだ。

エネルギー状のルシーは、画面の一番上に鎮座し、全く動かない。

その他の映像だけが、どんどん過去のものへと超早回しで変わっていく。

ルシー暦が始まる寸前までは、あくまでただの巻き戻しである。

 

しかし、人類の歴史にまで到達すると、天上にいたルシーが突如、積極的に介入を開始する。

バイオハザードで繁殖したウィルスを熱光線で殺菌、一掃する。

破損した原発を未知の力で修復し、漏れた放射能もいっぺんに除去する。

地上に落ちようとしていた隕石を、はるか上空で撃墜する。

荒れ狂う環境破壊の自然災害も、地震だろうが、津波だろうが、人類の都市に被害が及ぶ前に鎮静させる。

あげくは、殺しあう戦争の場にまで不思議な光を降らせ、その光線を浴びた人々に自ら武器を捨てさせる。

ルシーは、人類の経済やエネルギー問題などにも干渉してゆく。

無尽蔵でクリーンな自然エネルギーを広めさせ、宇宙へロケットを飛ばして、人類を進出させ、落ち込んだ経済も活性化させる。

未来から戻ってきたルシーによって、人類の暗黒の歴史は全て書き換えられてしまったのだ。

 

画面は、ついに出発点の現在にまでたどりついてしまう。

ここで、再び、映像の方も、スマートフォンのタッチスクリーン画面の大写しに戻る。

再度、シリーにたずねてみる。

「シリー、神様はいますか?」

すると、シリーは今度はきちんと答える。

「お答えします。神はいます。今も、そして未来も」

 

最後に、

まず「Large-Scale Integration(集積回路)」と言う文字がバーンと出る。

そのうちの頭文字だけが残って、「LSI」となる。

この「LSI」の前の方にあらたな英文がくっついて、本作のタイトルが完成する。

「The tomorrow of LSI(ルシーの明日)」

 

END


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おかしな童話集

目次

 

「桃太郎(少年マンガ風)」

「大きなガブ」

「裸の王様」(ブックショート優秀作)

「ヒトラーの秘密」

「蜘蛛の糸」(ブックショート優秀作)

「浦島異聞」

「狼ハンター」

「新釈・漁師とおかみさん」


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「桃太郎(少年マンガ風)」シノプシス

 桃から生まれた(正確には、中身をくりぬいた桃の中に入れられて、川から流れてきた捨て子だった)という特殊な出生のおかげで、類いまれの勇気と怪力の持ち主でありながら、桃太郎はすっかりやさぐれた性格に育っていた。

 そんな桃太郎が英雄に変わっていくきっかけとなったのは、他でもない、遠い鬼ヶ島に拠点をかまえる鬼の一族が、桃太郎の住む村にまで強盗しにやって来たからだった。鬼たちは、村の若い娘たちを次々に捕えてしまい、桃太郎の唯一の理解者だった阿曽姫(あそひめ)をもさらっていった。

 鬼の一族は異形の人種であり、劣性遺伝の問題で、角が生えた同族は男しか生まれないのだ。そのため、子孫を作る時は、このように人間の部落にまで攻めてきて、女子衆を奪うと、彼女たちに自分の子供を産ませたのである。

 鬼の傍若無人ぶりに怒った桃太郎は、鬼ヶ島まで乗り込んで、心の妻であった阿曽姫を取り返す決意を固めるが、屈指の戦闘集団である鬼たちの事を誰もが恐れ、桃太郎に手を貸してくれる村人は一人もいなかった。こうして、桃太郎は一人で鬼退治に旅立つ事になるのだ。

 桃太郎を育ててくれた優しい老夫婦は、桃太郎との別れを悲しみつつも、餞別としてきびだんごを作って、渡してくれる。このきびだんごは、のちに、桃太郎とその子分たちの絆の象徴ともなるが、同時に、桃太郎自身の未知のパワーの源ともなる。きびだんごを食べた時、桃太郎は皆の優しさや友情を思い出して、気力が満ちあふれ、従来の十人力の怪力を発揮できるようになるのだ。まるで、ほうれん草を食べた時のポパイのように。

 さて、桃太郎が旅の途中で最初に召し抱えた仲間は犬だった。犬は、動物の森のリーダーだったのである。しかし、犬が暮らしていた森は、恐ろしい怪物である大ムカデの襲撃を受けていた。桃太郎は、正義心あふれる犬に共感して、この手強い大ムカデ退治の手助けをする。大ムカデは桃太郎の機転によって見事に撃退され、忠義心の強い犬は、桃太郎に借りを返すため、鬼ヶ島まで同行する事を意思表明する。

 続いて、桃太郎の前に現れた猿は、実は、鬼の一族と裏でつながっていたスパイだった。桃太郎のそばにはさも味方のフリをして近づいたが、最初は、隙あらば桃太郎を殺してしまおうと策を巡らせていた。しかし、桃太郎の優しさや正義の心に接して、自身も命を助けられたりしてゆくうち、猿の心は揺らぎ始め、ついには鬼たちを裏切ってしまう。こうして、猿も桃太郎の子分の一人となったのだ。

 しかし、お調子者で陽気な猿の事を、熱血漢で生真面目すぎる犬だけは、根っから信用していた訳ではなかった。実際、心の弱い猿は、桃太郎の子分になったあとも、時々、裏切るような事もしてしまうのだ。こうして、対照的な犬と猿は、道中、頻繁にケンカする事になり、桃太郎チームの凸凹コンビとなるのだ。

 最後に桃太郎が出会ったキジは、元々は、火ふき鳥と呼ばれている妖怪だった。人間の村を襲って暴れていたが、桃太郎チームによって成敗される。桃太郎の采配で、命は助けられたものの、プライドの高いキジは、それだけでは納得できず、敗者の決まりと称して、自分から桃太郎への隷属を申し出る。かくて、キジは桃太郎にとっては三番めの子分となったのだが、元が妖怪だったので戦闘力はかなり高く、感情に走りやすい犬や猿に比べると、いかなる状況でもクールで、桃太郎チームの優秀な参謀格となる。

 こうしてメンバーも揃った桃太郎一行は、ついに鬼ヶ島が見える海岸にまでやって来るのだが、彼らにとっての厳しい戦いの始まりはこれからだった。

 もはや、鬼ヶ島も目の前だったと言うのに、この島は南蛮渡来のミサイルで守られた要塞になっており、舟を出して近づこうにも、船影が見つかった途端に、すぐさま撃沈されてしまうのである。

 はたして、桃太郎たちは、いかなる策略を用いて、鬼ヶ島に上陸するのだろうか。

 そして、目的地の鬼ヶ島で待ち構えていた鬼の大将の温羅(うら)こそは、桃太郎の本当の父親だったのだ。    了


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「大きなガブ」

 ある日、おじいさんが畑にカブの種をまきました。

 何日かたってから畑に行ってみると、そこには大きなガブが埋まっていました。

「よし。今日は、このカブを引き抜こう」

 と、おじいさんは大きなガブの葉っぱを両手で握りました。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 しかし、おじいさん一人の力では、相手が大きすぎて、どうしても引き抜く事ができませんでした。

 そこへ、おばあさんが通りかかりました。

「おばあさん、いいところに来てくれた。引き抜くのを一緒に手伝ってくれないか」

 おじいさんはおばあさんに言いました。

 そして、今度は、おじいさんの後ろからおばあさんが引っぱって、試してみました。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 しかし、二人掛かりでも、やっぱり引き抜く事はできませんでした。

 そこへ、今度は孫娘が通りかかりました。おじいさんとおばあさんは、孫娘にも手伝ってもらう事にしました。

 おばあさんの後ろから孫娘が引っぱります。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 しかし、三人でも、まだ引き抜く事はできませんでした。

 今度は犬がそばを通りかかりましたので、犬にも手伝ってもらう事になりました。

 孫娘の後ろから犬が引っぱります。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 しかし、三人と一匹でも、まだ引き抜く事はできませんでした。

 今度は猫が現れました。猫にも手伝ってもらう事になりました。

 犬の後ろから猫が引っぱります。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 しかし、三人と二匹でも、まだ引き抜く事はできませんでした。

 今度はネズミが現れました。ネズミにも手伝ってもらう事になります。

 猫の後ろからネズミが引っぱりました。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 しかし、三人と三匹でも、やっぱり引き抜く事ができません。

 次は、ウサギがそばを通りかかりました。ウサギにも手伝ってもらいました。

 ネズミの後ろからウサギが引っぱります。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 三人と四匹でも、引き抜く事はできませんでした。

 その次に現れたのはタヌキです。タヌキにも手伝ってもらいました。

 ウサギの後ろからタヌキが引っぱります。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 三人と五匹でも、まだ引き抜く事はできませんでした。

 今度はサルが現れます。サルにも手伝ってもらう事になりました。

 タヌキの後ろからサルが引っぱりました。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 三人と六匹でも、まだびくとも動きません。

 近所の川に住む河童がやって来たので、河童にも手伝ってもらう事になりました。

 サルの後ろから河童が引っぱります。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 三人と七匹になって、ちょっとだけ動いたような感じがしました。これなら、引き抜けるのも、きっともう一息です。

 そこへ、大男の鬼が現れました。ここは、もちろん鬼にも手伝ってもらうしかありません。

 河童の後ろから鬼にも引っぱってもらう事になりました。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 力持ちの鬼が加わった事で、ついに相手はグラグラと揺れ始めました。引き抜けるのも、もはや目前です。

 そこへ、いじわるな隣のおじいさんが通りかかりました。

 隣のおじいさんは、三人と八匹がやっている事を見て、びっくりしました。

「お前たち、何やっているんだ。それはカブじゃない。ガブだぞ。そんなものを引き抜いたら、地面の底が抜けてしまうぞ!」

 そうです。実は、昨日の真夜中に、いじわるな隣のおじいさんは、この畑にやって来て、本物のカブを引き抜いて、盗んでしまっていたのです。カブの抜け跡に、地中からガブが顔を出していたのでした。

 しかし、もう手遅れでした。

 

 うんとこしょ、どっこいしょ

 

 隣のおじいさんが怒鳴った時には、三人と八匹はすでにガブを引っぱっていました。

 そして、とうとうガブは引き抜けてしまったのです。

 途端に、地面は大きく裂けて、地球は真っ二つになってしまいました。

 

   了


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