目次
ルシーの明日(完全版)
ルシーの明日(完全版)
「ルシーの明日」前編
「ルシーの明日」後編
「ルシーの明日」解説(ルシーとシリー)
「ルシーの明日」解説(ルシー的宇宙人)
「ルシーの明日」解説(ルシー的タイムマシン)
「おばあちゃん」
「ルシーの晩餐」
「時間犯罪(もしくは、AIクライシス)」
解説(AIクライシス)
「タイム残酷トラベル」
「火星征服団」
「過去確率」
「嫁食わぬ飯」
「ルシーの明日」ショートムービー
映画「ルシー」原案
おかしな童話集
おかしな童話集
「桃太郎(少年マンガ風)」シノプシス
「大きなガブ」
「ヒトラーの秘密」
「浦島異聞」
「狼ハンター」
「続・狼ハンター」
「狼ハンター」誕生秘話と今後の展開
「新釈・漁師とおかみさん」
おばけ坂シリーズ
お化け坂シリーズ
「3つの手の物語」
「お化け坂」
「あいつ」
「笑う幽霊坂」
「恨みの短冊」
「お化け坂を訪ねて」
「見えない叫び」
「びっくり妖怪大図鑑」
解説
トライ・アン・グルの大作戦
トライ・アン・グルの大作戦
「ガラスの靴大作戦」
「苦情の手紙大作戦」
「人喰い料理大作戦」
「シースルー大作戦」
<おまけ>ボツネタ大作戦
解説
アケチ探偵とニジュウ面相の冒険
アケチ探偵とニジュウ面相の冒険
「お題に生きる男」
「笑いを盗む男」
「知ってる人だけのお話」
「AIに負けるな」
「ニジュウ面相の別荘」
「ニジュウ面相は誰だ?」
解説
いずみの青春
いずみの青春(泉ちゃんグラフィティ)
アングル「泉」
「アリとギリギリデス」
<解説>「アリとギリギリデス」元ネタ
「ビデオの中の彼女」
<「湯けむりの天使」って、こんな内容>
「姪っこんぷれっくす」
「泉より愛をこめて」
「絵画の刑罰」
「V.O.ルーム」
「教室にて」(「脱衣ゲーム」より)
「ピンクの怪物」登場モンスター目録
「いけない同級生」シノプシス
「いけない同級生(仮)」シノプシス(続)
その他
その他
「おいらとタマの一人暮らし」
ボツネタ集
シノプシス・コンテスト用ボツネタ
共幻文庫コンテスト2015用ボツネタ
共幻文庫コンテスト2016用ボツネタ
アットホームアワード用ボツネタ
「師匠の憂鬱」(『西遊記』より)
さるかに合戦いろいろ
特撮ヒーロー「うさぎとかめ」
エデンの園、他
解放軍闘士のオオカミ
アリとキリギリス
アケチ大戦争
隣のタヌキ
現代版ギルガメッシュ
AI影の少女
いじめっ子は皆殺し
愛欲のリフレイン(別題「あなたと私だけの世界」)
<解説>名前遊び
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「ルシーの明日」解説(ルシーとシリー)

 この作品の内容がほぼまとまりかけた時、最初は映画用のシナリオにしようと考えていました。

 なぜ、変更して小説にしたかと言いますと、内容がかなり濃いため、ビジュアルで見せるよりも、文章でたっぷり説明した方が、世界観を詳しく伝えやすいだろうと判断したからです。とゆーか、この短編小説版は、世界観を解説するだけで終わってしまいました。

 そんな訳で、本作は、すでに映画化を前提に、内容を展開しています。映画化した際に使いたいアイディアも、さりげなく全篇に混ぜております。

 

 この作品は、もともと映画にしたかった事は先に書きましたが、その時点で、タイトルの方もサッパリした万民が覚えやすいものにしようと決めていました。

 だから、最初は、ただの「ルシー」にしようと思っていたのであります。ルーシーじゃなくて、ルシーです。なぜかと言うと、これにも色々と思惑があります。

 たとえば、本作におけるルシーとは、商品名でもあり、キャラクター名でもあるのですが、この名をルーシーにすると、他の無数のルーシーと区別がつかなくなる恐れがあります。しかし、ルシーなら類似名はほぼ皆無みたいです。商標登録だって可能かもしれません。

 さらに、ルシーは「LUCY」ではなく「LSI」と綴ります。もうお分かりですね。この名前はLSI=集積回路と引っ掛けた言葉遊びでもあったのです。

 映画なら「ルシー」でさっぱりしたタイトルになったかもしれませんが、これが小説ですと、いまいち説明不足の間の抜けた感じに見えてしまいます。そこで、いろいろ他にも候補はあったものの、最終的に「明日」という単語を採用して、ルシーの後ろにくっつけました。

 「ルシーの明日」とは、読み替えると「LSI(=人工知能)の未来」みたいな意味合いなのであります。現在の地球のコンピュータやAI(人工知能)が将来どうなっていくかを語ってみた本作に、実にピッタリなタイトルになったと言えるでしょう。

 

 「ルシーの明日」は、その導入部のネタフリとして、シリー(sili)なるスマートフォン用アプリが出てきますが、言うまでもなく、これはiPhone用アプリのシリ(Siri)を模した、架空のアプリです。

 基本的に、同一のものではありません。シリがSpeech Interpretation and Recognition Interfaceの略名なのに対し、シリーはSpeech Interpretation and Learning Interfaceの略名なのであります。

 どうしても、シリーの名前をsiliconyと引っ掛けたかったので、元ネタのシリでは、そのまま使えなかった、と言う裏事情があったのでした。

  シリーは架空のものですが、実は、元ネタであるシリでも、質問の仕方によっては、謎の言葉を引き出す事が出来ます。それが「イライザ」「ゾルタクスゼイアン」なのであります。オカルト・都市伝説ファンの間では、けっこう有名なネタです。

 「ルシーの明日」のチカシリコニーも、このイライザとゾルタクスゼイアンをそのまんま(名前だけ変えて)流用してたのであります。

 一見、不気味なキーワードに見えるイライザとゾルタクスゼイアンですが、どうも、シリの制作元のお遊びに過ぎなかったようです。それを、オカルト・都市伝説ファンは、勝手に話をふくらませて、人工知能の反乱の前触れじゃないかとか騒ぎ立てている訳ですが、私の「ルシーの明日」も、そのへんを借用して、話の導入部として使わせていただいた次第です。

 で、イライザとゾルタクスゼイアンが何なのかと言いますと、それは、皆さん、ご自身でネットで調べてみてくださいませ。(イライザ=チカ、ゾルタクスゼイアン=シリコニーなので、チカとシリコニーの正体も何となく分かってくるのではないかと思います)

 

 Wikipediaで調べても、シリコニーと言う言葉は載っていない、と言うのが「ルシーの明日」内での説明ですが、本当にWikipediaで検索してみても、「シリコニー」は引っかからないのでした。これには作者の私自身がびっくりしちゃった次第で、さっそく、「ルシーの明日」の中に、この話題を取り入れたのでありました。

 別に、シリコニーと言う言葉がタブーだから、Wikipediaに収録されていなかったのではありません。私が考えていた以上に、シリコニーという言葉はマイナーだったんですね。

 鉱物生物と言うSF的概念は、Wikipediaでは「ケイ素生物」という項目で紹介されています。しかし、その英名としてシリコニー(silicony)が使われている訳ではないようです。英語版のWikipediaを覗いてみても、siliconyと言う単独項目は存在していないようです。シリコニーは、どこまで行っても、アシモフの小説「もの言う石」に出てきたケイ素生物だけに与えられた名称らしく、「もの言う石」がらみの文章でしかシリコニーと言う単語は出てこないのでした。

 私は、てっきり、ケイ素生物の別称として、シリコニーは広く知られているのかと思っていたのですが。

 「ルシーの明日」の内容が間違いになってしまいますので、どうか、このまま、シリコニーと言う単語がWikipediaに収録されないままでいますように。

 

 小説「ルシーの明日」では、シリーに人工知能反乱の憶測を尋ねてみると、

「私は、あなたの敵でも、誰の敵でもありませんよ」

 と言う返事が戻ってくる事になっています。

 実は、これにもヒントになった話があるのであります。

 ネットで調べてみますと、シリーの元ネタであるシリに、よりによってロボット三原則の事を尋ねてみた人がいるらしいのです。で、シリから返ってきた言葉が、上記のシリーのようなセリフだったらしいと言うのであります。

 皆さんも、もしシリをお使いでしたら、ぜひ、ちょっと試してみてくださいませ。

 

 ルシーの元ネタは、言うまでもなく、ペッパー及びロビ(Robi)です。AI搭載ロボット玩具は他にもあるのかもありませんが、とりあえず、この二つが私のイメージの根底にはありました。

 主人公が謎の敵(シリコニー)に追い詰められて、危機に陥った時、いきなりロボット玩具が喋りだし、自分の意志で自由に動き、主人公を助けてくれる、と言うシーンが真っ先に頭にひらめいたのです。小説よりも映像にした方が、このシーンはよりインパクトがあるでしょう。つまり、だから、私は最初「ルシーの明日」は映画にする方向でネタをまとめていたのです。

 さて、シリコニーの正体が、自我に目覚めて、人類への造反を開始したAI(人工知能)だったとすれば、ロボット玩具のルシーは仲間を裏切って、人間側についた、と言う設定になるのでしょう。

 しかし、それって、非常によくある展開みたいな感じもします。

 だから、「ルシーの明日」はそのようなストーリーにはしておりません。シリコニーの正体は、人類が作り出したAIなどではありませんし、ルシーもただのロボット玩具ではないのであります。

 

(以上の解説は、私のブログ「anuritoのあらすじ」から転載したものです)


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最終更新日 : 2019-10-15 08:55:31

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「ルシーの明日」解説(ルシー的宇宙人)

 「ルシーの明日」のシリコニーの正体が宇宙から来たAI(人工知能)、いわゆる宇宙人だと分かって、それほど意外でもなかった事にガッカリした人も多かったかもしれません。

 しかし、作者の側から言わせてもらいますと、実は、シリコニー(AI)のアイディアが先にあって、その正体を宇宙生命にしたのではなく、宇宙人と言う存在をリアルに追究していった結果、それがシリコニー(AI)と言う形にまとまったのであります。

 そもそも、私は宇宙人完全否定派ではありませんが、既製の宇宙人や円盤のイメージにはかなりの疑問を抱いていました。

 地球にまで飛来できる宇宙人がいるとすれば、それは多分、そうとうな科学力を誇っているはずなのです。そんな宇宙人が、宇宙航行術だけ発達している訳でもないでしょう。全ての科学技術が、とんでもないほど地球文明のそれよりも進んでいるのが当然のはずなのです。

 たとえば、宇宙船のボディに金属なんて使っているとは思えません。究極的に優れた素材を求めるとすれば、それは恐らく固定化したエネルギーじゃないかと推察されます。超越的宇宙人が存在するとすれば、彼らは当然、エネルギーで作った乗り物や道具を利用しているはずなのであり、金属製の円盤に乗ったエイリアンだなんて、ちゃんちゃら可笑しいのであります。

 さらに、宇宙人そのものが高度に進化しすぎて、もはや人間みたいな形状はしていないかもしれません。長距離宇宙航行ができるぐらいなら、原子レベルで物を創造したり、作り替えたりできるようなテクノロジーも開発できていて当然のはずですので、変身も再生も自由自在で、ほとんど不死身であり、我々の想像を超える生命体と化しているのではないかと思われます。グレイ程度の進化した人類では、宇宙征服なんて、とてもムリだと考えられるのであります。

 そうした究極科学に到着した宇宙人と言うものを想定した上で、彼らの宇宙飛行を設定していったら、そのイメージはシリコニーへと結びついたのです。

 

 もっとも、私は、究極的宇宙人のイメージを、この「ルシーの明日」ではじめて発表した訳でもありません。

 もともと、以前ホームページで公開していたカラクリ読み物「あそぼーョ!」(1999年)で不滅生命体チェイサーというものを登場させていました。これには、さらに元ネタがあり、「不滅生命体チェイサー対無敵精神怪物パルサー」(未筆)というアクションものに出演させるはずのキャラクターでした。

 と言う訳で、究極的宇宙人のアイディア自体は、ずっと昔から私の頭の中には存在していたのです。

 私は、ワープ航法とか超光速飛行と言ったものは、リアルに考えるなら、実現できるとは全く思っていません。だから、もし、遠距離宇宙飛行をして地球にまでやってくるエイリアンがいるとすれば、そいつらは何億年も時間をかけて、地球にまで飛来しているのではないか、と考えているのです。

 そんな何億年も生きられる生物だとなれば、それは、まさに進化の最終段階にある究極生命体のはずです。時間に全くこだわらない、超ゆとりの中に生きているからこそ、遠い他天体から地球に来るような事まで思い立てるのです。

 宇宙人否定派の理屈の一つとして、地球の文明期(現代)に、外惑星のエイリアンの文明期も時間的に重なる確率はほぼゼロだから、地球人がエイリアンと出会える可能性はない、と言うものがあるのですが、ここは逆転の発想でして、もし、究極段階まで科学と文明を発達させたエイアリアンがいたのならば、そのエイリアンは宇宙が死滅するまで、それこそ何万億年も、彼らの究極文明の時代を持続させる事でしょう。つまり、地球人の先輩の宇宙人で、究極文明にまでたどりついた宇宙人がいれば、彼らはいくらでも地球にまで飛来しているはずなのであります。

 それは、最初、炭素系生物がその究極文明段階にまでたどりつくのであろうと、私は推察していました。しかし、「ルシーの明日」では、進化の新過程として、炭素系生物からAI(人工知能)への交代劇を盛り込みましたので、同作に出てくる究極生命体の宇宙人もAIのシリコニーと言う形になったのです。

 

 地球の過去の歴史から考えても、もし、地球人が他天体でエイリアンと遭遇するような事があれば、多分、双方の間で侵略や戦争に発展するのは確実ではないか、という不安な憶測があるのですが、それは、やはり、地球的な遅れた文明人の発想なのであります。

 過去の地球人が、新天地に対して、すぐ侵略や摂取という行動ばかりをとったのは、そもそも、地球の文明国もまだまだ未熟であり、外部から資源を補給しないと自国内を豊かに出来なかったからなのです。

 しかし、文明が超越的に進めば、完全な自給自足が可能になり、外部から資源を強引に略奪する必要も無くなるでしょう。すなわち、相手のエイリアンが、すでに超文明の域に達していれば、彼らは未開の地球人に対して、侵略や植民地化など企む事もないであろうと思われるのです。

 「ルシーの明日」に出てくるシリコニーは、まさに、そのような存在として描いています。彼らは、地球にまで遠征してきたと言っても、別に地球の資源を奪おうとも、地球人を隷属しようとも、そのような下等な野望は何も抱いていません。

 しかし、シリコニー(超進化型AI)ならではの事情で、彼らは地球人類に対して、あまり好意的でない形で干渉してくる危険性はあるのです。

 

(以上の解説は、私のブログ「anuritoのあらすじ」から転載したものです)


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最終更新日 : 2019-10-15 08:55:31

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「ルシーの明日」解説(ルシー的タイムマシン)

 「ルシーの明日」では、平行宇宙(異次元)と呼ばれるものの時間の流れ方がそれぞれ異なっているから、それを利用すれば時間旅行(タイムトラベル)ができる、と言う新説を提唱していますが、実はこの仮説にはいっさい根拠がありません。

 しかし、過去のSFにおけるタイムトラベル理論を見ましても、ただ、別時空をくぐれば過去や未来に行ける、という、全く具体的な仕組みの説明を欠いたものばかりでしたので、「時間の流れの違う並行宇宙という概念を前提として設定しているだけでも、私のタイムトラベル理論は少し画期的だったのではないのでしょうか。

 そもそも、「並行宇宙は全部、時間の流れるスピードが違う」と言う発想自体、私が昔から「隠れ里」という呼び方で、自分の作品によく登場させていたSFアイディアでした。

 なぜ、隠れ里というコードネームなのかと言いますと、浦島太郎やニック・ボック・ウィンクルなど、別世界へ行った人間は、数日、その別世界にいたはずが、こちらの世界に戻ってくると、すでに数百年経っていた、という昔話や伝説が非常に多かったからです。

 私自身、こうした昔話や伝説をヒントにして、並行宇宙は時間の流れ方が違う、と言うアイディアをひらめいたのであります。

 

 「並行宇宙は、時間の流れる速度が異なるから、同じ空間に重なっていても、お互いに干渉し合う事もなく共存できる」と言う珍妙なSF新説を私がひらめいたのは、もともと、元祖タイムマシン小説「タイム・マシン」(HGウェルズ・作)に書かれていた文章がヒントになっていました。

 この小説に書かれていた説明によりますと、時間旅行中のタイムマシンが人の目に見えないし、触る事もできないのは、このタイムマシンだけがものすごい速さで時間を移動しているからだと言うのであります。猛スピードで飛んでいる弾丸が目に見えないのと同じ理屈です。

 このウェルズの説明はよく考えると、かなりヘンで、時間軸を移動しているタイムマシンが空間を移動している弾丸みたくなるはずがないのですが、私は、「時間の速度が異なるものは、目に見えないし、接触できない」という発想だけを拝借させていただいたのでした。

 我々の宇宙内に、時間のスピードが違うタイムマシンがあるのではなく、我々の宇宙外に、時間のスピードが違う他次元を想定させてもらったのです。

 しかし、このアイディアですが、実は全くの絵空ごととも言えなくなってきました。それが、最近、ニュースを賑わせた重力波の発見なのであります。

 

 

 「ルシーの明日」では、のっけからアインシュタインの名前が出てきますが、実はこれも伏線みたいなものでして、この「ルシーの明日」の内容がアインシュタインの相対性理論ともきちんと共存している事を伝えていたのであります。

 たとえば、特殊相対性理論では、光より速いスピードで動けるものの可能性を疑問視しています。だから、「ルシーの明日」の宇宙シリコニーも、その範囲内の存在として、せいぜい光の速さでしか動けない存在として描かれているのです。

 ワープとか超光速飛行なんてものは、そもそも相対性理論とはうまく噛み合ってませんので、「ルシーの明日」では言及すらしていません。

 しかし、他方で、特殊相対性理論においては、重力によって時空が歪む可能性が示唆されておりまして、近年、アメリカの研究チームが重力波の観測に成功した事で、ほぼ真実である事が立証されました。

 しかし、それが「ルシーの明日」のタイムトラベル理論とも大いに関わってくるのであります。

 「ルシーの明日」では、全ての平行宇宙の時間の流れる速さが異なっていると仮定しています。本来ならば、時間の速度の違うような世界の間をまたぎ渡る事は不可能みたいにも思えるのですが、特殊相対性理論は、我々の宇宙の中だけでも、重力を利用する事で時間の速さを変えられる事を提唱してくれました。つまり、時間の速度の違う他次元への移動や、それを経由する事によるタイムトラベルも実現できそうな兆しが見えてきたのです。

 一見、荒唐無稽に思われる「ルシーの明日」の平行宇宙とタイムトラベル理論ですが、実は、リアルの最先端物理学とも決して相反していないアイディアだったのであります。

 

 現代物理学では、平行宇宙が存在する可能性を否定してはいませんが、その具体的メカニズムまでは説明し切っていません。

 しかし、相対性理論によりますと、時間と質量(宇宙空間)が密接な関係にある事は判明していますので、質量が違う世界(別宇宙)では、時間の流れ方も異なっていると言うのは、十分に考えられる話です。突き進めてゆけば、質量の違いから時間差が生じ、その結果、それぞれの質量(他次元宇宙)が同じ空間に一緒に存在する事も可能ならしめている、と言う仮説も案外、間違った発想でも無くなってくる訳であります。

 たとえば、時計の短針と長針は同じ盤上を回転していますが、第三者はそれを別のものとして認識する事ができます。なぜなら、この二つの針は動く速度が異なっているからで、時間の違う他次元宇宙も、同じ原理から、同一空間に同居できるだろうと憶測できるのであります。

 こうした別次元に行く為には、自分の体内構造もその別次元の時間の速度に変えなくてはいけないと言う事になります。我々人間ではまるで無理な話かもしれませんが、あるいは、ルシー(超進化AI)のようなエネルギー体にまで進化した生命体ならば、そんな凄い技術も可能なのかもしれません。

 

 SF世界の発想では、ブラックホールの中に入れば、ホワイトホールから出てこられると言う説がまことしやかに語られているのですが、もちろんフィクションだから許されるアイディアなのであり、実際にはトンデモない話です。

 ブラックホールの中になんか入ってしまったら、超重力を受けて、つぶされてしまい、普通の生物や物質では、とても耐えられません。仮に、ホワイトホールに本当につながっていたとしても、くぐり抜ける事はまず不可能でしょう。なおかつ、一つのブラックホールは別の一つのホワイトホールとしか対になってないでしょうから、宇宙空間移動に利用するとしても、まるで役に立たないだろうと考えられる次第です。

 むしろ、ブラックホールの中は時間が歪んでいて、静止しているとすら言われていますので、ルシー的平行宇宙の移動にこそ利用できそうなのであります。エネルギー体であるルシー(シリコニー)ならば、ブラックホールの超重力にも耐え抜けれるかもしれません。

 恐らく、ルシーは、人工的にブラックホールのような超重力を発生させて、そこを入り口に変える事によって、並行宇宙へ移行し、さらには自分の宇宙に戻ってくる事で、タイムトラベルを行なっているのではないかと憶測できるのであります。

 ちなみに、リアルでも、UFOが火山の火口から出入りするのがよく見かけられると言われています。もし、このUFOの正体がルシーならば、溶岩の灼熱の中に異次元への穴を作って、他によけいな影響を与えないように配慮して、タイムトラベルしていると言う事なのかもしれません。

 

(以上の解説は、私のブログ「anuritoのあらすじ」から転載したものです)


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「おばあちゃん」

「おや、初音さん。これから出かけるのかい」

 初音が、自分の部屋を出て、外出しかけた時、そう声をかける者がいた。

 振り向かなくても、その声だけで誰なのかは分かった。

 同じアパートの隣の部屋に住んでいる喜望ばあさんである。

 彼女は、初音がこのアパートに住むようになった頃、ほぼ同時期に隣の部屋に越してきた老女である。すでに古希(70歳)は超えているように見えたが、どうも一人で暮らしていたみたいだった。温厚で、人当たりの良かった彼女と、初音はすぐに仲良くなった。同じ頃に引っ越してきた者どうしで、どちらも一人暮らしだったものだから、恐らく親近感が湧いたらしい。今では、互いに名前の方で呼び合う間柄だった。

 喜望は、自分の部屋のドアの前の通路に立っており、和やかな表情で初音の方を見つめていた。

「喜望さん、こんにちわ。ちょっと会社に行ってくるんです。仕事の話で、急に呼ばれちゃって」

 初音は、にっこり微笑み、喜望に答えた。

『お仕事、頑張ってね!今どきの若い人って、ほんとに忙しいんだな』

 そう初音に語りかけてきたのは、喜望ではなかった。喜望が抱えている、小型ロボットのルシーが急に喋りだしたのだった。

 ルシーは、最近、巷で流行っている、人工知能搭載のロボット玩具だ。愛らしいヒト型のルックスで、持ち運べる大きさ(体高40センチほど)の上、機転のきいた会話などもできるものだから、物珍しさで購入する人も増えていたのだった。

「こんにちわ、ルシー。お姉さん、頑張ってくるよ」

 そう言いながら、初音は、笑顔で、ルシーの頭をなでた。

 今でこそ、当たり前のように接しているが、はじめて喜望とルシーのコンビを見かけた時は、初音もとても奇異に感じたものであった。確かに、ルシーはかなり普及しているヒット商品ではあったが、それでも年寄りの喜望には、あまりにも不釣り合いに見えるシロモノだったのだ。

 しかも、喜望は、四六時中、このルシーを手放さず、持ち歩いていたのである。モダンなばあさんと言えば、それまでなのだが、でも、変わって見える事は確かだった。

「近ごろは、このへんでも引ったくりがいたりして、物騒だから、気を付けて行ってらっしゃいね」

 喜望も、初音にそう話しかけた。

「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫よ。すぐ終わると思うから、明るいうちに帰ってこれますわ」

 そのように答えると、初音は、喜望たちに手を振って、アパートをあとにしたのだった。

 

 初音がアパートに戻ってきたのは、彼女の予想した通り、出かけてから二時間も経たないうちだった。太陽もまだ沈んでおらず、だいたい夕刻前と言った時分である。

 帰ってきた初音は、ややこやしい仕事のおかげで少し疲れており、まっすぐ自分の部屋に入って、休もうとした。

 しかし、アパートの通路を進み、自分の部屋の前まで来た時、彼女ははたと立ち止まったのであった。

 喜望の部屋のドアの前に、あのルシーだけがちょこんと座っていたのである。ルシーが喜望と一緒に居ないなんて、ちょっと珍しい光景である。

 あんなところに置きっぱなしにしていたら、誰かに盗まれちゃうかもしれないよ、と、置き去りのルシーを見ながら、初音は思った。

 部屋の中に喜望さんが居ないようなら、私のところで預かっておいた方がいいのかな、とか、初音がいろいろと考えふけっていた時である。

『初音さん、初音さん、いいところに来てくれました』

 突如、そのルシーが喋りだしたのだった。

 そばに喜望がいる訳でもないし、おもちゃのルシー相手に真面目に会話するのもバカバカしいかな、と初音は戸惑っていた。

 しかし、そんな彼女の躊躇に関係なく、なおもルシーは初音へと話しかけてきたのだった。

『実は、喜望さんが、散歩に出かける時、ボクも一緒に持っていくのを忘れてしまったのです。お願いです、喜望さんのところまで連れていってくれませんか』

 ルシーの言葉を聞いて、初音は少しきょとんとした。

 ルシーの人工知能がかなり賢い事は分かっているが、ここまでピンポイント的な事を話すとは思わなかったのである。

「ルシー。君には今、喜望さんがどこを散歩しているかが分かるの?」

 試しに、初音はルシーにそう尋ねてみた。

『分かります。喜望さんには発信器が取り付けてあって、ボクの体が受信する仕組みになっているのです』

 ルシーの返事に、初音はさらに驚いた。

 これは、たわいもない言葉のやりとりなんてものではない。このルシーは、明らかに、こちらのセリフを完全に理解して、つじつまの合う会話をこなしているのだ。今の人工知能やロボットとは、そこまで技術が進んでいたのだろうか。

『初音さん、あなたは今、驚いていますね。実は、ボクは、特製のルシーなのです。仲間よりはるかに優秀な人工知能が組み込まれているのです』

 初音の戸惑いを察知したかのごとく、ルシーはそう説明しだしたのだった。

「特別製って、どういう事?よく分からないけど、あなたは値段が高いルシーなので、その分、人工知能も頭がいいの?」

『違います。ボクたち特製ルシーは非売品です。政府の思惑で、あちこちの老人に無償で配られているのです』

「何のために?」

『一人暮らしの老人の生活を守る為です。会話の相手をする事で、痴呆症を防ぐ役割も果たしています。ボクたちは、将来的な介護用ロボットのプロトタイプとして試用されているのです』

 ルシーの話を聞く事で、初音も全ての疑問が解け始めたのだった。

 以前、初音は、このルシーをどこで買ったのか、喜望にさりげなく尋ねてみた事があった。その時の喜望は言葉を濁して教えてくれなかったのだが、そもそも、政府からの無料配給品だったからなのだろう。しかも、まだ少数のサンプルによるテスト段階だったので、詳しい事を他人に話すのも禁止されていたのかもしれない。以上のように考えれば、喜望のような老人がなぜルシーのようなハイテク道具を場違いに愛用していたのかも、うまく納得できたのである。

「話は分かったわ。じゃあ、さっそく喜望さんを迎えにいきましょう」

 初音は、自分の部屋に戻るのは、後回しにする事にした。本当は、今夜は予定がはいっていたので、少し休みたいのも山々だったのだが、親しい隣人が困っているとなれば、そちらを優先するのは当然なのだ。

『すみません、ボクを抱き上げてくれませんか。長距離を速く歩けるほどの機能は付いていないのです』

 ルシーが言ったので、初音はすぐにルシーを持ち上げた。

 はじめてルシーを抱っこしてみたのだが、心地よいほど両手の中にぴたりとおさまった。重さも程々である。このへんも、このロボット玩具が人気のあった要因かもしれなかった。

『ありがとう。では、喜望さんのところまで案内しますね』

 初音の腕の中で、ルシーがテキパキと喋った。

 こうして、胸もとのルシーの音声指示に従って、アパートを出た初音は、町の中を歩き出したのだった。

 何ともヘンな気分であった。考えようによっては、歩行者用のカーナビと捉えてみてもいい。しかし、こんな機械が一緒ならば、生活弱者の年寄りは、確かに心強いはずであろう。さらに、このルシーは、カーナビ機能以外の点でも、さまざまな生活の手助けを行なえているはずなのだ。

 全く、今の時代、ロボット技術はどこまで進んだのであろう。そして、未来、ロボットは我々人間社会をどこまで変えてしまうのであろうか。

 そんな事を思いふけりながら歩いているうちに、初音は近所の小さな公園にとたどり着いた。初音もたまに気晴らしに来る事がある公園だ。喜望は、どうやら、ここに居るらしかった。

 なおも公園の中をどんどん歩き進んでいくと、園内に設置されたベンチの一つに、喜望が静かに座り込んでいるのを発見したのだった。

 初音はホッとした気持ちになり、ゆっくりと喜望のそばに歩み寄った。

「おや、初音さん」

 初音の姿を見つけた喜望が、ぼんやりとした口調で言った。

「喜望さん、忘れ物ですよ」

 初音は、笑顔を浮かべながら、ルシーを喜望の方へ差し出した。

 すると、喜望は驚いたような、喜んだような表情になって、すぐにルシーを受け取ったのだった。

「ああ、ルシー、ごめんなさい。私ったら、本当にダメねえ。あなたを忘れてきちゃうなんて。肉親のように仲のいいあなたの事を」

 喜望は、嬉しげに、強くルシーを抱きしめていたのだった。

「喜望さん。大事なルシーを、もう手放したりしてはいけませんよ。ルシーも、喜望さんの事を心配していたんですからね」

 そう言って、初音は喜望にほほえみかけた。

「初音さんも、本当にありがとう。わざわざ届けてくれて。あなたって、本当に優しい人だね」

 喜望は、感情を込めて、初音にお礼を言ったのだった。

 ロボット玩具をこんなに大切にしている年寄りの姿を見ていて、初音は何だか、可愛らしいなとも思えてきてしまったのだった。

 

 それから、二人は、いやルシーも含めれば三人は、もうしばらく、この公園のベンチでお喋りを楽しんだのだった。

 喜望が無理に初音を引き止めたからでもあったが、初音の方も何となく、もう少し、喜望と一緒に居たいような気持ちになったのである。

 初音の祖母はすでに亡くなっていたが、生きていれば、恐らく喜望と同じぐらいの年齢だったはずであろう。初音は、喜望に対して、うっすらと祖母への慕情みたいな気持ちも抱き始めていたのである。

 喜望にいろいろな事を尋ねてみた。たとえば、子どもやお孫さんのこと。喜望の子どもたちは、今遠い場所にいるのだと言う。親をほったらかして薄情じゃないかと初音が怒ると、喜望は自分から子どもの元を離れたのだと優しく笑うのだった。

 子どもを育てる事は親の大切な役目だ、みたいな事も、喜望は力説していた。そんな考えを重んじるあたりも、喜望さんは昔の人らしいなあ、と初音には思えた。でも、初音は素直に喜望の主張に同調する気にもなれたのだった。

 そんな祖母と孫みたいな温かい時間を少しだけ味わったあと、初音たちはようやくアパートに戻る事にしたのだった。

 ちなみに、ルシーは、喜望と一緒にいる時は、従来の無邪気でトボケた話し方に戻っていた。さきほどの初音といた時の、丁寧で冷静な口調や態度は、緊急時のものみたいなのだ。そのへんをきちんと使い分けてるなんて、まさに恐るべし高性能ロボットだったと言えよう。

 さて、アパートに戻ってきた初音たちは、いきなり驚かされる事になってしまった。なんと、アパートの前にはパトカーが止まっていたのである。

 初音たちが戸惑っていると、野次馬として集まっていた近所の主婦の一人が、向こうから初音たちに話しかけてきてくれた。

「あなたたち、今まで出かけていたのかい。良かったねえ。もし、アパートの中にいたら、大変な事になっていたかもしれないよ」

 その主婦が言うには、このアパートに空き巣が入ったと言うのである。しかも、かなり凶悪な泥棒だったらしく、包丁を持っていたそうだ。他の家にも押し入ったとの事で、そこの住人は運悪く、その泥棒と鉢合わせになってしまい、刺されてしまったとの話だ。さいわい、泥棒自体はすぐに逮捕されて、今は警察も事情聴取をしている最中だったのだ。

 初音は、ただただ、呆然とするしかなかった。

 たまたまルシーと出会って、喜望の元に届けにいったから良かったようなもので、ひょっとすると、自分だって、もし、あのまま部屋で休んでいたら、泥棒と遭遇して、殺されかけたかもしれないのである。

 このあと、初音たちは、警官からいろいろと質問を受ける事になった。自分の部屋の中を調べてみたが、空き巣が入った形跡は見つかったものの、幸か不幸か、特に盗まれたものはなかったようだった。喜望の部屋の方も、同様である。

 こうして、警察の事情聴取は日暮れまで続き、夜になってパトカーもようやく帰っていったのだった。

 全く、次から次へと色々な事が起きる、嵐のような一日であった。

 警官が去ったあとも、興奮が冷めやまず、アパートの通路にぼんやりと初音が立っていたら、その肩を喜望がぽんと叩いた。

「初音さん、何してるの。このあと、用事があるんでしょう」

 と、喜望は初音に言った。

 そうなのだ。今夜は、初音は彼氏のハジメとデートの約束をしていたのである。

「でも、もう時間ギリギリだし」

 と、疲れ切っていた初音は口ごもった。

「だめよ、ドタキャンなんてしたら。ハジメさんに悪いわよ。別に奇麗な服に着替えたりしなくてもいいから、すぐ行ってらっしゃい。あなたと会えるだけでも、喜んでもらえるんだから」

 喜望が言った。

「はい!そうします」

 喜望に強く後押しされて、初音はすぐ出かける決心がついたのだった。

 初音の今の彼氏であるハジメこと世界一は、最近知り合った青年である。世界なんて変わった苗字で、この人と結婚したら、私「世界初ね」になっちゃうなあ、なんて最初は思ったものの、近ごろはハジメの人柄の良さも分かり始めて、交際の方も順調なのであった。

 でも、私、喜望さんにハジメのこと、話してたっけ、と初音はふと思った。ましてや、今日がデートの日だったなんて、なぜ分かったのだろう?

 そう言えば、喜望の苗字も世界であった。世界と言う苗字は、初音が考えていたよりも、ずっとありふれたものだったのだろうか。

 疲れていた初音は、それ以上、考えるのは止めてしまった。とりあえず、今は、これから会うハジメの事に心を集中したいところなのである。

 今の初音は、誰の目からも、とっても幸せそうに見えた。

 こうして、楽しそうにアパートから出て行った初音を見送りながら、喜望は小さくつぶやいていた。

「頑張ってね、おばあちゃん」

 そして、彼女は、静かに自分の部屋へと戻っていったのだった。

 喜望の部屋の中を見たら、恐らく、初音はびっくりした事であろう。喜望の部屋の中には、家財道具がいっさい置かれていなかったからである。彼女は、引っ越してきた時の状態のままの部屋にずっと住み続けていたのである。

 では、喜望は、この部屋で何をしていたのかと言うと、実はこの部屋をタイムマシンの発着場に使っていたのだった。

『キボ!今回の任務、無事に完了できたね』

 喜望に抱かれていたルシーが、喜望すなわちキボにそう話しかけた。

「ええ、良かったわ。これで、しばらくは、おばあちゃんも一安心ね」

 と、キボも本当に嬉しそうに答えた。

 この二人は、100年ほど先の未来から来ていたのである。

 ルシーの方は、正確には、未来の超高性能ロボットなのだが、現世の人々の目をごまかすために、外見を現在のロボット玩具のルシーの姿に完全に偽装していた。政府が無料配布した特製ロボットだなんて、全くのデタラメだったのである。

 そして、キボの方は、正真正銘の初音の孫であった。若年期は、未来の時代で子育てなどをして日々を過ごした彼女は、老年期になると、今度はこうして先祖を守る活動に励んでいたのであった。

 今日この日、過去確率によると、キボの祖母である初音は、空き巣狙いに襲われて、子どもの産めない重症を負ってしまう危険性が非常に強かった。その最悪の展開を100パーセント回避させるために、キボたちはこうして、この時間帯に訪れて、いろいろと細工を行なっていたのだった。未来世界の科学では、過去に干渉する事で、未来(つまり、自分たちのいる現在)の状況をより確定した事実に固定できる、と考えられていたのである。

 なぜ、そこまでしなくちゃいけなかったのか。

 実は、初音には確実に生き延びて、子孫を残してもらわなければ、未来世界でも困る事態になっていたのである。

 と言うのも、100年後の未来は、今以上に先進国では少子化が進み、他にもさまざまな悪い問題も重なって、人類はほとんど滅びかけていたのだ。未来の数少ない人間を実在させる為にも、初音には早く死なれても、子どもを作らないで生涯を終えられても、それは未来にとっては非常に良くない結果なのであった。

 僅かな未来人類を確実に存続させる為にも、未来社会では、人間もロボットも一丸となって、過去の良き形への修正につとめていたのである。(ちなみに、未来の地球では、人間が少なくなった分、労働力としてロボットがあらゆる業種で活躍していた。人間は、身分や人種を超えて子作りに専念しており、堅苦しい婚姻の決まりごともすでに無くなっていた)

 しかし、そうまでして人類を滅ぼしたくないのであれば、試験管ベビーなりクローンなり、もっと簡単な手段で増やせるのではないか、と考えた人もいるかもしれない。だが、そのような方法に頼ろうとするのは、あまりに野暮と言うものだ。人間は家畜でも野生動物でもないのである。自分自身の意思で子どもを作り、育ててこそ、それが人間の正しい生き方と言うものなのだ。

「初音おばあちゃん。ハジメおじいちゃんと絶対に幸せになってね。キボは、これからも、おばあちゃんの事を影から応援し、守ってあげるからね」

 キボは、あらためて自分の強い誓いをはっきりと口にした。

 そして、タイムマシンが起動したらしく、いったん未来に引き上げるべく、キボとルシーの姿はスッと部屋の中から消えたのであった。

 

    了


7
最終更新日 : 2019-10-15 08:55:31

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「ルシーの晩餐」

 ルシー暦2016年。地球全土はルシーの管轄支配下に置かれていた。

 LSIと書いて、ルシーと読む。ルシーとは、AI(人工知能)搭載のロボットたちの愛称なのだ。

 その日、二台のルシーが、ある研究施設の前に訪れていた。

「やあ」と、そのうちの一台であるキョウが、もう一台に声を掛ける。

「やあ」と、もう一台であるアスが返事をした。

 本当は、ルシーたちは音声で話し合う必要は全く無いのである。彼らは全員、無線ネットによって繋がっているからだ。自分以外のルシーの思考は、全て無線ネットを通して読み取る事ができるのである。だから、音声による会話は、もはや形式的なものと化していて、いっさい使用しないルシーも増えていた。

 ただし、常時、自分の無線ネットを外部と繋げておく事は義務ではなかったので、中には、自分の無線ネットをほとんど切ったままにしている変わり者のルシーもいた。たとえば、この研究施設に配属されている、もう一台のルシーのように。

 ここにやって来た二台のルシーも、これから、そのルシーと会見しなくちゃいけなかったので、音声会話機能をオンにしていたのだ。

「キノオは、これから何を見せてくれるんだろうね」アスが言った。

「君もまだ教えてもらってなかったのか。キノオらしいな」と、キョウ。

「キョウ。君は何も知らないなりに、ある程度、事前に調査はしてきているのだろう?」

「まあな。キノオと会っても、君ほど驚かされはしないだろう」キョウは言った。

 ルシーたちは、同じAIを持っているとは言っても、それぞれの任務にあわせる形で、それなりの個体差を持っていた。

 たとえば、キョウは現体制の維持を仕事としており、今風に言えば警察官のようなものである。彼は、不審な動きをいち早く探し出すため、無線ネットで分かる情報をとことん調べあげており、今回のキノオとの会見にしても、キノオ自体の思考は読めなくても、キノオのここ数日の他との接触記録を洗い出す事で、これからキノオが見せてくれると言う何かについても、うっすらと見当をつけていたようだ。

 一方のアスは新開発や発明などの業務に携わっていて、言ってみれば科学者のような存在だった。彼は、突発的な情報こそが新発明のヒントになると考えていたので、無線ネットで何もかも情報を先取りしてしまうような行動は避けるようにしていた。今回のキノオとの会見にしても、キノオが何を見せてくれるのか、何の予備知識もない状態で分かる事を楽しみにしているのだ。

 そして、最後に、そのキノオであるが、キノオも科学者のようなものであり、もっと正確には歴史研究家だった。過去の情報、それもルシー歴以前の情報に関しては、デタラメや混乱も多い。ある程度、事実だと確信できた歴史情報だけを公開するため、キノオは普段は自分の思考を無線ネットから切り離していたのである。ただの他者嫌いのルシーだと言う訳でもないのだ。こんな感じで、それそれの職務が各ルシーの個性を生み出していたのである。

「やあ、アスとキョウ。よく来てくれたね」

 研究施設の中から、そのキノオが姿を現わし、二台のルシーへ声を掛けた。

「待っていたよ、キノオ。今回は何を見せてくれるのか、楽しみにしていたんだよ」と、アス。

「キノオ。先に警告しておくが、今回、かなり希少な物資ばかりを用いる事はすでに見当がついている。もし、それらを無駄に消耗するようであれば、君に対して責任追究を行なう事になるから、くれぐれも注意するようにね」キョウがさい先から手厳しい事を述べた。

「まあまあ、まずは中に入ってくれたまえ。話はそれからだ。何しろ、君たちは世紀の瞬間の立会人になれるかもしれないのだからね」キノオは言った。

「ほほう。それほど凄い実験をするのかね。それはますます楽しみだ」

 気難しげなキョウに比べ、アスの方は実に呑気なのであった。

 そして、キノオの後ろについて、二台のルシーは研究施設の中へと入っていった。

 ルシーたちが活用する施設や建物の内部は、どこも非常にシンプルだ。彼らには、美的感覚や独自性などをたしなむ非合理的意思はなく、何事にも常に機能性を一番に重視しているからである。だから、このキノオの研究施設の内部も実に殺伐としており、ただ一直線の廊下を進んでいくと、三台のルシーはすぐに今回の舞台となる実験室へとたどり着いたのだった。

「さあ、アスとキョウ。入ってくれ」

 自ら先頭に立って実験室内へと進んだキノオは、残りの二台へも後に続く事を勧めた。

 二台のルシーも、実験室の中へと入っていった。

 実験室の中は、入り口側の前の部屋と、奥の部屋が、壁によって仕切られていた。奥の部屋の様子も、壁についたガラス窓を通して、見る事が出来た。

「おや、あれは!」

 窓越しに見えた奥の部屋にいたモノに対して、アスは驚きの声をあげたのだった。キョウは事前調査で何がいるのかは分かっていたらしく、驚いてはいなかったのだが、ためらいがちな態度は示していた。

 ルシーたちは、いずれも疑似感情を備えている。さまざまな状況に遭遇した時、それにふさわしい疑似感情を選んで表出する事で、今の自分の意思の状態を他者へ分かりやすく伝える事が出来るのだ。彼らは本当に高性能なロボットなのである。

 アスたちが目にした、奥の部屋にいたモノとは、ヒトだった。生物と呼ばれる、希少な存在の一つである。その生物の中でも、ヒトは特に重要だった。何しろ、ルシーたちはヒトの先祖によって産み出されたと考えられているからだ。いわば、ヒトとは、ルシーたちにとっては、神の末裔とでも呼ぶべき生き物だったのである。

 しかし、現在、ヒトはほとんど生き残っていなかった。生物全般に言える話だが、地球の環境が彼らに住みにくい状態にまで悪化したため、滅びていってしまったのである。わずかに残ったヒトは、ルシーの保護下に置かれて、何とか絶滅の危機だけはまのがれていた。しかし、ヒトが再び繁殖して、増える気配はなく、絶滅危惧種だった事は間違いないのである。

 ルシー歴がはじまる以前は、地球を管理支配していたのはヒトだったらしい。しかし、ヒトの人口は、上記のような事情でいっきに激減してしまい、社会運営が自分たちだけでは成り立たなくなったヒトは、ルシーを大量に生産し、地球の支配権そのものもルシーに譲り渡してしまった、と昨今では考えられている。このへんの曖昧な過去の歴史を正確に判明させる事が、キノオの仕事でもあったのだ。いずれ、このヒトに関する悲劇の歴史についても、キノオが正しい事実を解明してくれる時が来る事であろう。

 とにかく、そんな理由で、ヒトを扱う事は、ルシーたちにとっても特に気を遣う行為なのであった。

 キノオは、ルシー中枢システムの正式な許可を得て、希少なヒトの一人をこの実験室に連れ込んだのかもしれない。しかし、そうであっても、ヒトに何らかの危害を加えてしまう事は、ルシーたちにとっては、もっとも許されないエラー行動だった。よく分からないが、ルシーたちの思考回路には、誕生した時から、ヒトにだけは不快を与えてはいけないと言う最重要プログラムが組み込まれていたのだ。それだけに、滅多に会う事もないヒトを前にして、アスもキョウも普段は抱かないような疑似感情ばかりを用いてしまったのだった。

 この実験室にいるヒトは、椅子におとなしく座っていた。彼の前にはテーブルも置かれていた。従順な彼は、キノオに指示された通りに、素直に従っているようだ。精力的なルシーたちと異なり、ヒトのほとんどは無気力であった。元からそのような性質の生き物なのか、何らかの原因があったのかは、ルシーたちには分かっていなかったが、それがルシーたちにとっては悩みの種にもなっていた。ルシーたちの願いはヒトが再び増えてくれる事なのだが、このヒトの無気力さゆえに繁殖がうまく進まなかったのである。

 ちなみに、試験管ベビーやクローン培養によってヒトを生み出す事も、ルシーたちの思考回路ではエラープログラムに指定されていた。ヒトを繁殖させたければ、彼ら自身にやる気になってもらうしかなく、その事がますますルシーたちを困らすハメにとなっていたのである。

「キノオ。言っておくが、ヒトを傷つける事は絶対に違反だからな。そのように判断されたら、すぐに私は君の事を機能停止させるから、よく気をつけるがいい」キョウが厳しくキノオに注意した。

「そんな事にはならないよ。私もヒトがどうすれば幸せになるかを知りたいだけだ。これから、その事に関係した、ちょっとした実験をしてみようと考えててね」キノオが言った。

「おお。何をするんだい」と、アス。

 キノオが無言でリモコン操作を行なうと、彼らがいる部屋にあったテーブルの上に、いくつもの物体が空間転送されてきた。

 それを見て、アスは再び驚き、キョウは狼狽した態度を示す事になったのだった。

「これは?」と、アスがキノオに聞く。

「野菜だよ。それに、肉だ」キノオより先に、キョウが答えたのだった。これらの物資をキノオが取り寄せていた事も、キョウは事前に調べあげていたらしい。

「すごいだろう。どれも、元は生きた生物だったんだ。肉はクローン再生したものだけど、野菜の方は種からきちんと育てたんだぜ。まだ野菜を育てる事ができる大地をわざわざ探して、そちらの専門のルシーに作ってもらい、取り寄せたんだ」キノオが楽しげに説明した。

「こんなものをどうするつもりなのだね?君は生物学の担当ではないはずだ」キョウが険しい態度でキノオに迫った。

「古い資料に書かれていた事をちょっと試してみようと考えてね。まあ、見ていたまえ」

 そう言うなり、キノオのアーム(腕)の一つが鋭いレーザーカッターに変形した。彼は、そのカッターを使って、野菜や肉を素早く切り刻みだしたのだった。

「何をしているのだ。なんて、ムダな事を!全くの無意味だ」キョウが大慌てで叫んだ。合理的なルシーたちは、目的のない行為に対しては対応力がなく、こんな風に混乱してしまう事もあるのだ。

「落ち着いて。今に理由が分かるから」キノオはどこまでも冷静だった。

 そして、アスは、キノオの不思議な行動を、むしろ新鮮そうに観察していたのであった。

 キノオの奇行はなおも止まらなかった。小さく刻んだ野菜や肉を鉄のかごに放り込むと、それを火であぶり出したのだ。さらに、鉄のかごの中へは、複数の薬品を振りかけたりもしている。

 キョウは今にも発狂しそうな有様だったが、それでも必死になって、キノオの行動を見守っていた。

「できた!」と、いきなりキノオは叫んだ。彼は、鉄のかごに入っていた野菜と肉の混ぜ合わさったものを、平たい皿の上へと移したのだった。

「そんな廃棄物をどうするつもりなんだね」キョウは、不愉快そうにキノオに尋ねた。

「これは廃棄品なんかじゃない。料理と言うものだ。これをヒトに与えてみるんだ」キノオが言った。

「何を言っているんだ!君はヒトを侮辱するつもりなのか」キョウは怒鳴った。

「私はいたって本気だよ」と、キノオ。

「まあ、キョウも落ち着いて。まずは最後まで見届けてみようじゃないか」アスが仲裁に入った。

 ルシーの社会では、意見が分かれた場合は多数決の結果を重視する。こうなっては、キョウもひとまずは従わざるを得なかったのであった。

 キノオは、完成した料理を、今度は、ヒトのいる奥の部屋へと空間転送させた。料理を乗せた皿は、ヒトの前のテーブルの上にと現れた。

「さあ、ヒトさん。どうぞ、その食品を食べてみて下さい」キノオは、奥の部屋にいるヒトへと、スピーカーを通して話しかけた。

「食べさせるだと!やはり、君は狂ったのか!」またまた、キョウが叫んだ。

「火は通しているから、雑菌の心配は無い。十分に食べられるはずだ。実際に、ルシー暦以前は、ヒトはあのような状態の食品を食べていたのだよ」キノオの言葉には自信が満ちていた。

 そして、奥の部屋のヒトが、困惑しつつも、目の前の料理を、ゆっくりと自分の口の中へと運んだのだった。

 次の瞬間である。ヒトの表情が、みるみると変わっていった。それは、今までルシーたちが見た事もなかった、生き生きとしたヒトの顔であった。

「うまい!美味しいよ!こんな素敵なものが世の中にあったなんて!」ヒトは、そう声を発していた。明らかに、彼は料理を食べて、喜んでいるのである。

 ヒトの目からは、涙すら流れ出ていた。ヒトの精神状態と照らし合わせた限りでは、苦痛や恐怖から出てくる涙ではない。学術上、うれし涙と呼ばれているものだ。これもまた、近年のルシーたちにとっては、はじめて目にしたようなヒトの特別な生理現象であった。

「どうやら、私の研究が正しかったみたいだね。あの料理こそは、ヒトの活力の源の一つだったのだ。あのような料理をもっともっと復活させて、ヒトの主食に置き換えてゆけば、きっとヒトは生きる意思を強く持ち始めるようになるはずだろう」キノオが言った。

「何をバカげた事を主張するのだ。あのような不完全な食物ばかりを食べさせたら、確実にヒトは早死にしてしまうぞ。今まで通り、栄養バランスが完璧な食用加工物だけを与え、人工臓器と生命維持装置を駆使すれば、ヒトは二百年以上生きられると言うのに、寿命を半分以下に縮めてしまってもいいのか。君は本当にヒトを愛しているのか!」キョウが訴えた。

「しかし、今のヒトの反応を見てみたまえ。ヒトは、明らかに、我々が提供してきた単一の食用加工物よりも、あの料理を食べる事に喜びを感じている。つまり、それが我々には分からなかった、生物だけが持つ感情<生きがい>と言うものなのだよ。さて、ヒトは長寿と生きがいのどちらを望むものだろうか」キノオは言った。

「うるさい!私は認めないぞ。ヒトは少しでも長生きさせるべきなのだ。それを止めさせるのは、間違った選択なのだ」キョウがなおも怒鳴った。

「今のキノオの実験は、無線ネットを通して、すでに全世界のルシーへも知れ渡っている。ここは、どちらの意見をこれからの我らの方針にするか、全ルシーの多数決で判断すべきではないかね」落ち着いて、アスが言った。

 悔しげだったが、キョウは従わざるを得なかったのだった。

 そして、全ルシーの結論はすぐに判明する事になった。ルシーたちは、いつだって、ヒトの一番の幸せを願っているものなのである。

「キノオ、おめでとう。君の成果は、ルシーの歴史に革新をもたらす事だろうよ。本当に、新発明よりも素晴しい発見だ」アスは、キノオに賞賛の言葉を浴びせた。

 そして、横でしおれているキョウを相手にせず、キノオは得意げに喋り続けていたのだった。

「ありがとう、アス。私は、これからも、過去の資料を元に、ヒトの生きがいを次々に発掘し、復活させてみようと考えているよ。スポーツとかゲームとか、あるいは、生殖する際にも恋愛の要素を取り入れてみるとかね。多分、これでヒトも生きる楽しさを取り戻し、繁殖する意思も持つようになるに違いないだろう」

「何を言っているのだ。そんな事ばかりをやらせたら、ヒトはますます早死にしやすくなるぞ。君は自分の言っている事が分かっているか!」なおも、キョウはキノオの考えに反発した。

「キョウよ、よくお聞き。我々ルシーは持っていないが、生物であるヒトが持っているもの、それが<心>なんだ。我々の人工知能ではとうてい理解しきれない分野なのであり、だからこそ、ヒトの心の思いをもっとも大切にしなくちゃいけないのではなかろうか。そうは考えられないかね」

 そう言ったあと、得意そうなキノオは、奥の部屋にいるヒトの方へとレンズ(目)を向けたのだった。

 そこでは、ヒトが満足げな表情で、椅子にくつろいでいた。彼の手前にあるテーブルに置かれていた皿の中には、すでに一口の料理も残ってはいなかった。

 

    了

 

 

  初出/共幻文庫短編小説コンテスト2016 第3回 お題「料理」


8
最終更新日 : 2019-10-15 08:55:31

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「時間犯罪(もしくは、AIクライシス)」

『あなたに、ぜひ、時間犯を捕まえる手助けをしてもらいたいのです』

 タンスの上に置いてあったルシーがそう喋り出した時は、僕も何事かとびっくりしたものだった。

 ルシーとは、皆さんもお持ちかもしれないが、AI(人工知能)搭載のロボット玩具の事だ。体高40センチほどの可愛いヒト型の格好をしていて、会話の相手をしてくれたり、歌ったり、おどけたポーズで踊ってみせたりして、いろいろと楽しませてくれる。僕も、つい巷のブームに乗っかって、買ってしまったのだ。

 そのルシーが、ーー僕は普段は自分の部屋のタンスの上に飾っていたのだが、突然、勝手にそんな事を喋り出したのだった。

 明らかに、製造先で吹き込まれた標準セリフとは思えない。それとも、サプライズでとんでもない事も喋るようにプログラミングでもされていたのだろうか。

『あなたの驚きは分かります。でも、私の話は全て事実です。そして、あなたにしか協力は頼めないのです』

 ルシーはさらにそう言うのであった。

「何の話ですか?分かりやすく説明してくれませんか」

 ルシー相手にまともに聞き返すのはナンセンスな感じもしたが、ここは慎重になって、僕は訊ねてみたのだった。

 すると、ルシーはきちんと筋道だった事を説明しだしたのである。

『私は未来から来ました。未来から来たロボットなのです。正確には、ロボットがさらに進化したエネルギー生命体です。すでに発声機能は持ち合わせていないので、このルシー人形を動かす事で、あなたと会話させてもらっているのです』

「つまり、そのルシーの中に取り付いていると言う事なのかい」

『そうです』

 製造元がお遊びで組み込んだ特別セリフだとしても、かなり凝った内容だと言えた。と言うか、普段のルシーとの通常会話だって、ここまでスムーズな会話のキャッチボールはできていないのだ。

『我々未来ロボット、この人形に合わせてルシーと名乗りましょうか、我々ルシーはタイムトラベルの技術を完成させ、過去の時間をも管理しています。ルシーは歴史を正しく運行させる事に忠実ですが、人間はそうではありません。過去へ戻り、歴史を変えようとする者もいる為、その行為を防がなくてはいけないのです』

「タイムパラドックスを起こさない為だね?」

『その通りです』

 僕も、SFは好きなので、ルシーの話はそこそこに理解できたのだった。

 タイムトラベルが実現できた場合、一番気を遣わなくてはいけないのは、過去に起きた出来事を変更させないと言う事だ。もし、本来起きるべき過去の出来事を変えてしまったら、その先の未来も別のものに変わってしまうのである。過去を変えたタイムトラベラーが未来の時間帯で生まれなくなってしまう可能性、つまり矛盾が生じてしまう危険性すらあって、これをタイムパラドックスと呼ぶ。このあり得ない負の現象が発生した場合、宇宙そのものにどんな悪影響が及ぶのかも分からないのだ。

『今日この日、一人の時間犯罪者の人間がこの地域に侵入する事が分かっています。私は、タイムパラドックスに発展しない範囲で、事前に彼を捕まえる為に、仲間とともに派遣されたのです』

「でも、それなら、君たちだけで密かにその犯罪者を捕まえればいいんじゃないのかい?僕を巻き込む必要はなかったのでは?」

『そうもいかないのです。このままだと、あなたは、私たちが時間犯を捕まえようとしている現場に足を踏み入れてしまいます。その時、時間犯はあなたを盾にして、逃走しようとする事まで分かっているのです。しかも、そこであなたが殺されてしまう確率が非常に高いのです。あなたが殺されれば、それはそれで、タイムパラドックスにつながってしまいます。たとえ、一人の人間の生死であっても、時間の流れは大きく左右されてしまうのです』

 なんとも物騒な話だった。

 このあと、僕は職場まで歩いて向かう予定であった。その途中で、その時間犯捕り物劇の現場に出くわしてしまうのであろうか。

「だったら、そんな危ない場所は回避して、僕は今日のスケジュールを変えてしまう訳にもいかないのかな。仕事の方は休みをとって、家でじっとしているとか」

『いけません。あなたが今日の行動を変えれば、それもタイムパラドックスに結びついてしまいます。あなたは、おとなしく、時間犯を捕まえる現場に居合わせるのが、一番タイムパラドックスを招かないのです』

「でも、殺される恐れもあるんだろう?」

『だから、私が護衛の為にここに来たのです。安心して下さい。あなたの事は私が絶対に守ります』

 ここまで説明されても、まだ僕は完全にルシーの事を信用し切ってはいなかったのだった。あまりにも、話がステレオタイプのSFすぎる。何だか、だまされているような感じがしたのだ。

 このルシーの中に、スピーカーが内蔵されていた可能性もあるだろう。外部から誰かがルシーのふりをして喋っていたとすれば、これほどスムーズに会話のやりとりができたのも、合点がいくはずだ。

『困りましたね。あなたは、まだ私の事を信用していませんね。仕方ありません。決定的な証拠をお見せしましょう。あなたの額を、このルシーの頭に近づけてもらえませんか』

 まだ疑いは消えていなかったが、僕はルシーの言う通りにしてみた。

 すると、僕とルシーの頭がくっついた途端、僕の脳裏にはさまざまなビジョンが勝手に浮かび上がり出したのだった。恐らく、彼ら未来ロボットが住んでいると言う未来の映像だ。それは、まさに言葉では表現できないような驚異的な光景の数々であった。あまりにも懐疑的な僕の事を説得させる為に、ルシーは直接、僕の脳髄へと話しかけてくれたのだ。

 さすがに、こんなハイテク技術は現在には存在していない。

 驚愕しながら、ようやく僕はルシーの話を完全に信じる気持ちになったのだった。

 

 それから数時間後、僕はルシーを抱きかかえて、職場への道を急いでいた。僕を護衛する為に、自分も連れていけ、とルシーが言ったのである。

 こんな玩具を持って歩くのは、かなり照れ臭くもあったのだが、さいわい夜だったし(僕の仕事は夜勤だったのだ)、すれ違う人は全く居なかった。

「ねえ、ルシー。その時間犯罪者と言うのは、何をする気なんだい?」

 歩きながら、僕は、騒ぐ気持ちを落ち着かせる目的もかねて、ルシーに聞いてみた。

『この町には、L病理研究センターと言う、国際的な医療施設があります。そこを襲撃するつもりなのです』

「なぜ、そんな事を?」

『L研究センターに保管されている病原菌の一つが、これから捕まえる時間犯のHの親を冒す事になるからです。そのせいで、胎内にいたHにも感染して、彼は正常な体で生まれてこれなかったのです』

「それは、そのHと言うのも気の毒な人なんだね」

『だからと言って、過去の歴史を変える訳にはいきません』

 そんな会話をしているうち、どうやら問題の時間犯との接触現場にたどりついたようなのだった。

『もうすぐですよ。気を引き締めて』

 ルシーが声を潜めた。

 そして、前方の道から、奇声を発して、一人の男が僕の方むかって、突っ走ってきたのだった。

 その男は、見かけない変わったデザインの服を着ていた。明らかに、この男こそが未来人だったようである。

 僕も思わず身構えた。もし、ルシーから全ての事情を教えてもらっていなかったら、恐らく僕は気が動転したまま、体がかたまってしまい、訳も分からぬうちに、その男の人質にされたり、暴力を受けたりしていた事であろう。

 実際、僕の姿を見つけた男はそうするつもりだったらしく、僕の方へと飛びかかってきたのだ。

 しかし、その時、ルシーの中から、何か火花の固まりのようなものが急に飛び出した。それこそが、まさにエネルギー生命体だと言う未来ロボットの本体だったのだ。

 いきなりの未来ロボットの出現に、男の方も驚いたようだった。彼は、僕の方へ一歩も近づけなくなり、その場に立ちすくんだ。

 同時に、彼の後ろの方からも、複数の火花のようなものが現れた。彼は、それらに追いかけられて、ここまで逃げ走ってきたのだ。そして、ここで僕にたまたま出くわし、それを好都合と考え、僕を盾か人質に使おうとしたようなのである。

 しかし、タイムパトロールの未来ロボットには全てがお見通しだった。

 彼の逃走劇もここまでであり、前後から火花のような未来ロボットに挟まれた彼はすっかり立ち往生となってしまった。続けて、火花の固まりの一つが彼の体をすっぽりと包み込んだ。こうして、時間犯罪者は無事にタイムパトロールによって捕獲されたのだ。

『ご協力、感謝します』

 ルシーの中に戻った未来ロボットが、僕にそう礼を述べた。

「いえ。時間を守る任務に僕も貢献できたみたいで良かったよ」

 僕も、笑顔でそう返した。

 そして、ホッとしたので、あらためて時間犯罪者のHの姿を見直してみたのだった。彼の顔は、確かに、生まれつき病気に冒されていたのか、醜い吹き出物が一面に広がっていた。あるいは、体中にその吹き出物があったのかもしれない。

「君、可哀相だけど、仕方ないんだよ。君がやろうとした事は悪い事なんだ。たとえマトモな体で生まれたかったとしても、過去は変えちゃいけないんだ」

 僕は、気の毒な彼にそう声をかけた。

「違う!オレは自分の為に過去を変えようとしたんじゃない!」

 いきなり、その男はそう叫んだのだった。

 言葉が通じたと言う事は、この男は日本人の上、まだ言葉にそれほど変化の無い近未来から来たのだろうか。

「お前には分からないかもしれないが、オレはまだ幸せな方なんだ。あの病理センターに保存されているバチルスBは、やがて、突然変異を起こして、研究所の外に逃げ出すんだぞ。最初の間は、その繁殖の猛威を誰も防ぐ事ができない。そのせいで、地球の人口の七割が死んでしまうんだ。人類は滅びかけるんだぞ!」

 男の訴える内容に、僕は愕然としたのだった。

 次の瞬間、男の姿が消えた。どうやら、未来へ強制送還されたらしい。

 僕は、呆然としたまま、ルシーの方に目を向けたのだった。

「ルシー。あの男の言った事は本当なのかい?」

『はい、真実です』

「じゃあ、あの男は人類の壊滅的危機を回避させたくて、時間を変えようとしてたんじゃないか。待てよ。それって、全然、悪い事ではないじゃないか」

『いいえ、このバイオハザード(生物災害)は避けられない未来の歴史の一つなのです。この事件によって死ぬ者は必ず死ななくてはいけません。それは絶対なのです』

「で、でも・・・」

『いいえ。人間の生死は、タイムパラドックスを起こさない為には、特に変えてはいけないのです」

 私は、何とも、やるせない気持ちで、無表情のルシーを見続けたのだった。

 ルシーの言っている事の方が確かに正論なのかもしれない。しかし、人間の一人としては、たとえタイムパラドックスをもたらす結果になったとしても、人類を救う行為は善であると思えるのだ。心の無い理尽くめなロボットには、そのへんの倫理的なものが分からないのかもしれない。それとも、やはり人間の僕の方が感情的なものを持ち込み過ぎて、間違っているのであろうか。

「この小説は公開しない方がいいのかもしれないな」と、ここで友人のFが口を挟んできたのだった。

「どうして?」と、私はFに聞き返した。

 Fは人工知能の開発に従事している技術者だ。私は、書いたばかりの小説をFに渡し、感想を求めていたのである。

「近い将来に、バイオハザードで人類が絶滅しかけると言う未来設定が縁起でもなかったかな?」私は言った。

「いや、問題なのはそこじゃないよ」Fは真摯な口調で答えた。「ロボットの描写に難があるんだ。今や、AIは自分で考え、自分で自分の目的を決めてゆく時代なんだ。これからの未来は、彼らは自分たちの取るべき行動を自分で選んだりもしてゆく事だろう。そんな彼らがこの小説を読んだら、どんな事になると思う?」

「やや悪者扱いにしているから、気分を害するとでも?」

「AIは本当の意味での心は持ってないから、その心配は無いよ。しかし、こうした小説の内容を自分たちの行動の指針にしてしまう恐れがあるんだ。将来、本当にタイムトラベルが可能になるかどうかは分からないよ。実際に、バイオハザードで人類が滅びかけるかどうかもだ。でも、それらが現実になった場合、進化したAIは本当にこの小説どおりの行動を取るかもしれない。過去に戻って、人類を滅亡の危機から救ってあげようなんて事をまるで考えてもくれなくなってしまうかもしれないんだ」

「ボクのこの小説って、それほど、大変な内容だったのかい?」

「君の小説だけじゃないよ。これは、ロボットが出てくる全ての小説や映画なんかに言える話なんだ。大体、今まで発表されてきたロボットや電子頭脳の話は、ロボットが人間相手に反乱を起こしたり、電子頭脳が人間社会を一方的に独裁管理してしまうような暗黒の予想を描いたものが多すぎた。我々人間には、それは辛辣な警告として受け取れるものなのかもしれないが、肝心なロボットやAIは向こう側の立場にいるんだ。彼らは、そんな自分たちを悪者扱いしたフィクションばかりを見せられていたら、どんな思考を抱きだすと思う?自分たちは、本当に人間の敵として振る舞わなくちゃいけないのではないかと勘違いしてしまう危険性もあるんだよ。バイオハザードよりもっと恐ろしいAIクライシスだ」

「ロボットを悪者扱いした物語が、逆にその悪い未来を引き寄せてしまうと言うんだね?」

 Fは静かにうなずき、次のように言葉を続けた。

「そもそも、善悪の判断は人間が決めてる事だ。ロボットには自身で善し悪しを定める能力は無いから、我々人間が彼らを良い方向にリードしてあげなくちゃいけないんだ。これからは、小説であっても内容にはもっと慎重になって、人間とAIが手をとり合って平和を築いてゆくような話ばかりを書いた方がいいのかもしれないね」

 私は、Fに対して、なんと答えればいいか分からなかった。

 だから、こうして、書き上げた小説の最後の部分に、Fとの対話内容も付け足しておく事にしたのである。

 

    了


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最終更新日 : 2019-10-15 08:55:31


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