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グランドフィナーレ

グランドフィナーレ

2016年4月19日鑑賞

 

人生に「シンプル・イズ・ベスト」はあるのか?

 

引退した名作曲家、指揮者のおはなしです。

音楽に関わる映画は大好きなので、見に行ってきました。

ラストシーンで演奏される「シンプルソング」とってもよかった。

それ以上に、心癒される保養地の風景。

美しい建築、緑の高原。

プールに映る夜の照明。

どれも、絵画のような美しさ。

この作品には、ストーリーなどあってもなくても構わない、と思えます。

また、許せてしまいます。

そういうアート系の映画がお好きな方向けです。

アクション映画専門の方ははっきり言って「ご遠慮ください」としか言いようがないですね。

主人公フレッドは、現代イギリスを代表する名作曲家であり、指揮者です。まさに「マエストロ」

今は引退して、スイスアルプスの保養地で余生をおくっています。

そのマエストロの元へ、エージェントから依頼がきます。

「女王陛下が、マエストロの指揮で『シンプルソング』をご所望です」

わざわざ、王室から直接依頼がくるなんて、とんでもない名誉なことです。

一般ピープルならそれこそ「揉み手」をせんばかりに、

「へっ、へっ、おおきに! なんぼでもやりまっせ!!」と作り笑いを浮かべて、愛想を振りまくところなんでしょうが(それはお前のことだろ? という批判は置いといて……)

主人公フレッドは違います。

この女王陛下の申し出を断ってしまうのです。

「シンプルソング、あの曲は妻のためだけに書いたのだ。演奏するか、どうかは、私の自由にさせて欲しい」

奥さんもかつて音楽家でしたが、いまは認知症のため、施設で暮らしています。

フレッドは、今まで音楽に捧げてきた自分の人生を振り返って思いをめぐらせます。

「これでよかったのだろうか?」

家族を顧みず、音楽だけに没頭し続けた。

そして、音楽の高みを目指して日々研鑽を重ねてきた。

その結果が

「妻は認知症」「娘とも別居」「家庭崩壊」

これが音楽へ人生を捧げた、その見返りなのでしょうか?

だとしたら、いったい自分の80年の人生は何だったのか?

そのあたりを、友人の映画監督ミックと語らいながら、マエストロは保養地で日々を送って行く、というお話です。

 

こういう類の作品については、人物の造形が大切なんですね。

キャスティングについては、それなりのキャリアを積んできた、相当なベテラン俳優。さらにカリスマ性も必要です。

主人公の作曲家にマイケル・ケイン、その友人の映画監督にハーベイ・カイテル。

これはいいです。キャステング、ハマってますね。

この二人のオーラで、映画の緊張感が崩壊せず、ギリギリのところで踏みとどまっている感じがしました。

本作は劇的なストーリー展開など、ハナからあるはずもない作品。

そういうことをご理解した上で、鑑賞されることをお勧めします。

本作でモチーフとなる「シンプルソング」という楽曲。

これ、少年がヴァイオリンで練習するシーンなどで、断片的に紹介されるんですね。

女王陛下が聴きたがった楽曲。

そして、マエストロが奥さんのためだけに作った曲。

それゆえに「どうしても演奏したくない曲」

どうです?

ものすごく勿体ぶっているでしょう?

いったいどんな楽曲なのか?

最後の最後まで観客を焦らせておく演出方法です。

それだけ映画作品の中で、なかなかその姿を現さない楽曲

「シンプルソング」の「価値」や「ハードル」をあえて高めておいて、

ラストに、これでもか!と涙が出るような美しい音楽を聴かせる。

これは素晴らしい演出方であり、また、楽曲そのものがそれだけの「品の良さ」

「格調の高さ」を持ち合わせていなくてはなりません。

本作のために作られた「シンプルソング」という楽曲の出来栄えが、作品の鍵を握っていることは言うまでもありません。

その監督の厳しい要求に応える音楽を提供したデヴィッド・ラングさんは、素晴らしい仕事をしたと思います。

本作における、映像の美しさ、音楽の美しさは、とても気品溢れるもので、僕はとても好きなタイプの映画です。

作品世界の中へ身を浸して、ゆっくりと過ぎてゆく時間を楽しむような、そんな作品です。

ゆったりした気分でお楽しみくださいませ。

**************

天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆

美術 ☆☆☆☆

音楽 ☆☆☆☆

総合評価 ☆☆☆

**********

作品データ

監督   パオロ・ソレンチィーノ

主演   マイケル・ケイン、ハーベイ・カイテル、ジェーン・フォンダ

製作   2015年 イギリス、フランス、ベルギー、イタリア

上映時間 124分

「グランドフィナーレ」予告編映像

 

 


スポットライト 世紀のスクープ

スポットライト 世紀のスクープ

2015年5月1日鑑賞

 

真実は「この眼で見るまで」わからない

 

西欧諸国、特にアメリカ合衆国で「ゴッド」「神」の威光を背後に見せるものは、絶対的な権力を手にする。

何をやっても許されてしまう。

「すべては神の御意志だ」といえば「つじつま」があってしまう。

それは「正義」にも姿を変える。

国同士が「正義のために」「神のために」時には戦争で、人を殺すことさえ「神の祝福」が与えられる。

それに比べれば、神父が子供達に、性的ないたずらをするのは「神の側」である協会側にとっては、きっと取るに足らないことなのだろう。

こどもたちのその後の人生に、一体どのような、大きな痛手と苦悩と影響を与えようが、知ったことではないらしい。

全ては「神の御意志なのだ」で済ませてしまう。

そんな、驚くべき「タブー」が、ようやく世の中に知らされたのが21世紀に入ってから。ついこの間のことなのだ。

それ以前、この問題が表に出なかったこと自体、驚嘆すべき出来事だ。

その教会の「タブー」を報じたのは、アメリカの地方新聞「ボストングローブ紙」である。

本作は、その真実の物語を元に、記者や、裁判に関わった弁護士たちの人間群像を描くものである。

 

本作は「アカデミー作品賞」を受賞している。

それは、このカトリック教会に潜む「腐りきった根っこ」を、世間の目にさらすという、途方もないインパクトを、アメリカ社会に与えたことにあるのだろう。

なぜいままで、この問題を新聞報道しなかったのか?

なぜ、いままで誰も、この問題を映画化しなかったのか?

うがった見方をすれば、本作を「アカデミー受賞作」に祭り上げることで、ハリウッドや映画界、マスコミは、自分たちへの火の粉を防ぐ「ファイヤーウォール」あるいは「免罪符」にしているのではないか? とさえ思ってしまった。これはあくまでも私の個人的意見である。

ただ、本作でも描かれているが、神父の子供達への性的虐待については、早くから報道され、裁判にさえなっていた。

しかし、記事の扱いはごく小さなものであり、裁判沙汰もうやむやになってしまっていた。その被害者の子供達を守った、弁護士役を演じるのがスタンリー・トゥッチだ。

私が本作で最も心惹かれたのが、この役者さんの存在感だった。

彼はトム・ハンクス主演の「ターミナル」 や 

「プラダを着た悪魔」

 

それにアメリカでリメイクされた「Shall we Dance?」 で抜群の演技を見せてくれた。

本作では、カトリック教会の「大罪」を告発したが、それを圧力によって封印されてしまった過去を持つ、気難しい弁護士を演じる。

彼の演技プラン、人物造形は実に見事だ。

彼はボストングローブ紙が、協力を要請してきても、最初は全く協力しようとはしない。

「相手は”カトリック教会”なんだぞ! 君たちが勝てる相手じゃない」

ボストングローブの熱血記者はそんな彼に対して

「今も、罪のない子供たちが、神父の餌食になってるんだ」

「たとえ”ヴァチカン”に乗り込んでも、この事実を暴いてみせる!」

そうなのだ。この衝撃の事実は、実に根深い。

なお、私も含め「日本人」は、宗教について、さほど強い関心を示さず「無神論者」を決め込んでいる人が多い。

また宗教こそ「人生の道標なのだ」という人は少数派だ。

しかし……。

アメリカという国では、子供の頃から宗教教育を叩き込まれるのである。以前「りんぼう先生」こと、林望さんの、イギリス留学中のエッセイを読んだことがある。

意外にもイギリスでは、それほど信心深い人は少ないという。

りんぼう先生は、イギリス留学時代、古いマナーハウス(中世ヨーロッパの領主邸宅)に滞在していた。

(ちなみに滞在費は結構安いらしい)

そこに、あるアメリカ人女性が滞在していた。彼女はある日、ラッキーな出来事があり、感激のあまり、庭先で神に感謝を捧げていたらしい。それを見つけたマナーハウスの女主人。

走り込んできて、そのアメリカ人女性に放った一言。

「やめてちょうだい! そんな馬鹿げたこと」

「りんぼう先生」はその一部始終を目撃しているのである。

アメリカとヨーロッパでは、キリスト教に関するスタンスが、どこか違うらしいのである。

宗教にしろ、政治にしろ、巨大な権力は、どこからか腐敗が始まる。

それは世の常といったところかもしれない。

かつて日本でも、田中角栄氏が逮捕された「ロッキード事件」があった。

そのきっかけとなった、立花隆氏の文藝春秋レポート記事「田中角栄研究」

その後、他の新聞記者たちは、田中逮捕後に、悔し紛れにこういったという。

「あの程度の情報は、俺たちはとっくに掴んでいた」

だったら

なぜ記者は記事を書かなかったのか?

なぜ総理大臣の不正を暴こうとしなかったのか?

私には忘れられない、出来事がある。

「心の友」とでも言うべき、敬愛してやまないネット作家がいる。

その方が2012年6月23日

「大変なことが起こってます!すぐにこの動画をみてください!!」

とメールを送ってくれた。

私はすぐにリンク先の動画をみた。その動画の撮影者はタクシーに乗り、ゆっくりと首相官邸前を車で一周した。その先に映っていたのは……。

断固とした姿勢で首相官邸を取り囲む「一般市民たち」の姿だった。

「一般市民が首相官邸を取り囲んで抗議行動をした!?」

これは日本という「国家を揺るがす」とんでもないニュースだと思った。

新聞の一面トップを飾ってもおかしくない出来事だ。

私は翌日、朝一番のテレビを見た。

どの局も首相官邸で起きていることを報道しなかった。

私がこの事実をメールで初めて知ったのち、テレビ及び新聞などのマスメディアは、一斉に沈黙した。

その間、実に「一週間」

真実を報道するべきはずの「新聞・テレビ」は、一切、固く口を閉ざしたのだ。

首相官邸で実際には何が起きていたのか?

誰も何も言おうとはしないのだ。

あきらかな「箝口令」である。

私はこの国が恐ろしくなった。

「大本営発表はまだ続いているのだ……」

そうだ。それは”記者クラブ”という名に変わっているだけなのだ。

私たちは、何を信じたらいいのか?

自分の目で見つめること。

自分の眼の前で起こっていること。

その事実を淡々と受け止める、心の準備をしておこう。

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆

美術 ☆☆☆

音楽 ☆☆☆

総合評価 ☆☆☆

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作品データ

監督   トム・マッカーシー

主演   マーク・ラファロ、マイケル・キートン

     スタンリー・トゥッチ

製作   2015年 アメリカ

上映時間 128分

「スポットライト 世紀のスクープ」予告編映像


モヒカン故郷に帰る

モヒカン故郷に帰る

2016年4月28日鑑賞

 

「あっちゃん、アンタもロックやらんね?!」

 

変な言い方かもしれないけど「バランスのとれた弾け方」をしている映画だなぁ~、と思いました。

よくあるパターンだけど、監督が勢い余って弾けちゃって、そのまま映画の流れが弾けっぱなしになることがあります。

本作の監督は沖田修一さん。

堺雅人さん主演の「南極料理人」を手がけた人。

僕は劇場で「南極料理人」を鑑賞しました。

あの作品も、ツボを押さえた笑いが実に的を得ていて、とっても楽しい作品でした。

おそらく、あの作品を作れる人なら、大きな「ハズレ」作品は作らないはず、と思って鑑賞したわけです。

本作での見所は、日本を代表するクセ者俳優、ベテラン柄本明さん演じる、弾けたじいさんの人物像。

これがおもしろい。

「ヤザワは義務教育じゃけんね」と青少年相手に”こんこんと”説教するような、熱狂的「矢沢永吉」ファン、田村治を演じます。

このおじいちゃんが住むのは、広島沖の瀬戸内海に浮かぶ離島。

もちろん島は漁師町です。そこへ、東京から息子が帰ってきました。

ほぼ7年ぶり。帰ってきた息子を前にじいちゃん、一言、

「お前生きとったのか?」

道楽息子は、東京でやっていたバンドも空中分解。まあ、ビジュアル系、パンク系のバンドで飯を食っていけるのは、ごく限られたエリートバンドだけな訳で……

この息子、田村永吉(松田龍平)が帰ってきたのは、一つの訳がありました。

結婚の報告です。

彼は同棲している会沢由佳(前田敦子)を島に連れてきました。

由佳のお腹には、すでに新しい命が宿っていました。

仕事もない、生活も安定していない。だけど子供を作ってしまった息子、永吉。

それを聞いた田村爺さん。

「このヤロォぉぉぉ~」と掴みかからんばかりに怒り心頭?

と思いきや、大喜びで大宴会を始めてしまいます。

このあたりの「人生はロックだぜ!!」と」言わんばかりのノリの良さが、田村じいさんの真骨頂といったところでしょうか。

ところがその後、田村じいちゃんに病気が見つかりました。

末期の肺癌。

残された日々、息子の永吉、フィアンセの会沢由佳、おかあちゃんの田村春子、それぞれの思いが交錯してゆくのです……。

本作では、久々に柄本明さんの楽しいお芝居を堪能できます。奥さん、田村春子役の、もたいまさこさんも適役です。

ロックバンドのボーカル、田村永吉を演じる松田龍平。モヒカン頭がごく普通に似合ってしまうのは、彼のとんがったキャラクターならでは、でしょう。

最後に、前田敦子さんについて、コメントしておきましょう。

本作の予告編を見たときから、僕は心の中で「あっちゃん、本当におめでとう」と念じておりました。

僕はAKBのファンです。

ただ、今までの前田さん出演の映画は、観るたびに心が痛みました。

というのも

「国民的アイドル」「元AKB」「絶対的エース」という「枕詞」が、必ず付いた状態での映画出演でした。

映画制作側としても、前田さんを使えば、それなりに興行収入が見込める、という目論見もあって、彼女をキャスティングしたのでしょう。

AKBを卒業してからの数年間、彼女にとっては、大変つらい映画出演だったと思います。

僕が感じるのは、彼女にとって何より大変だったのは、

「国民的アイドルグループ」「絶対的エース」「AKB」というあまりにも巨大な「バベルの塔」の頂上から、彼女は一旦

「ヒラの」「駆け出しの」「ぺーぺーの」女優さんの位置まで「わざわざ降りてくる作業」と労力が必要であったことです。

他の女優さんなら、こんな苦労はしなくていいんです。

僕が思うに、この数年の前田さんの映画出演は「頂上から地平に降りてくる作業」に他ならなかった、と思います。

そのとてもしんどい労苦は、とてつもない高みに登った人しか理解できない、大変な気苦労であったろうと思います。

本作を見て感じたのは、前田敦子という一人の新人女優は、ようやく、その「特別扱いされない」

ヒラの女優、の立ち位置まで「降りてくることに成功」したことです。

彼女は女優としての本当のスタートラインにようやく立てたのです。

今までご苦労様でした、と申し上げたい気分です。

本作で演じた妊婦役。

これもアイドル時代では考えられなかったことでしょう。

そういう意味では、今後の出演作が、いよいよ楽しみになってきました。

もっともっと、いろんな役に、存分にチャレンジしてみてください。

楽しみにしています。

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天見谷行人の独断と偏見による評価(各項目☆5点満点です)

物語 ☆☆☆

配役 ☆☆☆☆

演出 ☆☆☆☆

美術 ☆☆☆

音楽 ☆☆☆

総合評価 ☆☆☆

**********

作品データ

監督   沖田修一

主演   松田龍平、柄本明、前田敦子、もたいまさこ

製作   2015年 

上映時間 125分

「モヒカン故郷に帰る」予告編映像


奥付



2016・5月号 映画に宛てたラブレター


http://p.booklog.jp/book/105912


著者 : 天見谷行人
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/mussesow/profile


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