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15、最終日の学習~命題18、19~

 小さな建物の中、テーブルをはさんで向かい合って椅子に座る二羽のウサギ。

 

老「さあ、残る命題はふたつ。今日でこの本を使った学習も最後になりそうだね。」

 

ウ「なんだか緊張してきました。」

 

老「なんだか緊張してきましたね。」

 

ウ「がんばります!」

 

命題18

個人が、自分の感官的・内臓的経験の一切を知覚し、それを首尾一貫した統合されている一つの体系へと受容するならば、そのときには、その個人は、必然的に他のひとびとをよりいっそう理解しており、かつ、他のひとびとをそれぞれ独立した個人としてよりいっそう受容しているのである。

(命題はロージァズ全集8巻パーソナリティ理論、第2部、第4章より引用)

 

老「さて、どうかな。」

 

ウ「えーと、私が、私の身体の感じの一切を見えたり、聞こえたり、感じられたりし、それを筋が通った一つの体系・・・。」

 

老「体系は、まとまりでいいよ。」

 

ウ「筋が通った一つのまとまりへと受容するならば、そのときには私は必然的に他のひとびとをよりいっそう理解しており、かつ他のひとびとをそれぞれ独立した個人としてよりいっそう受容しているのである。」

 

老「うん。ここもおもしろいね。」

 

ウ「ふむぅ。」

 

老「まず、私の身体の感じがしっかり私に聞こえているときは、非常に落ち着いて、安心できる状態だね。」

 

ウ「自分の一部として同化できずに置きっぱなしてある経験がない状態ですものね。楽ですよね。」

 

老「そう。置きっぱなしてある経験がないときは、当然その経験におびやかされることもないから、誰かの言葉に触発されておびやかされることもすごく少なくなるんだよね。」

 

ウ「なるほど。」

 

老「そして自分の身体の感じに敏感で、何よりもそこに価値をおいているから、自然と相手の身体の感じにも敏感になり、関心が向く。」

 

ウ「うん。うん。」

 

老「もちろん、相手そのものになれるわけではないから、相手の経験を経験することも、理解することもできるわけではないんだけど、相手の身体の感じを自然に尊重できるようになるんだよ。」

 

ウ「相手の身体の感じを自然に尊重できるようになる・・・。」

 

老「うん。そうなんだ。私の身体は今、こうなっているけど、あなたは、あなたの身体は今、どうなっていますか?と、たずねたくなったりね。」

 

ウ「へぇ・・・。自分の身体の感じの一切が聞こえるようになると、他のヒトの身体に優しくできるようになるんですね。」

 

老「そうだね。ふむ・・・。うん・・・。ヒトに優しいヒトっていうのは、自分の身体の一切がそのままに聞こえているヒト、なのかもしれないね。」

 

ウ「ヒトに優しいヒトっていうのは、自分の身体の一切がそのままに聞こえているヒト・・。」

 

老「ふふ。さて、次が最後の命題だ。その前にお茶でも飲もうか。」

 

ウ「はい。いただきます。」

 

 大分手になじんだ大きめの湯飲みでお茶をすする小さなウサギさん。

 

 暖かいお茶が、小さなウサギさんをホッとした気持ちにさせる。

 

ウ「ホッ。」

 

老「ホッとするね。」

 

 老ウサギも穏やかにお茶をすすっている。

 

ウ「先生、この前書斎で、先生の若い時の写真を見ました。先生カッコよかったんですね。今もシブいですけど。」

 

老「ふふ。今もシブいね。」

 

ウ「一緒に映っている小さなウサギさんは、先生の子供さんですか?」

 

老「・・・。」

 

 老ウサギは、静かにお茶をすすりながら、目を細める。

 

ウ「・・・?」

 

老「実はね・・・。私はもう大分前に子供を亡くしているんだ。」

 

ウ「え・・・。」

 

老「ちょうど、あの子があなたぐらいのときにね。」

 

ウ「・・・。」

 

 小さなウサギさんは、急に胸が苦しくなるほど悲しい気持ちになった。

 

 少しの静寂の後、老ウサギはぽつぽつと語りだす。

 

老「実は私にはね、歌えない歌があるんだ・・・。」

 

ウ「歌えない歌・・・。」

 

老「そう・・・。昔、私は海の近い街に住んでいてね。」

 

ウ「・・・。」

 

老「よく海岸で子供と二羽で手をつないて散歩をしていたんだ。」

 

ウ「手をつないで・・・。」

 

老「その時に子供と二羽でよく歌っていた歌があってね・・・。」

 

ウ「・・・。」

 

老「その歌を歌おうとすると、どうしても涙になってしまってね。歌えないんだ。今でもね。」

 

ウ「その歌を歌おうとすると、涙になってしまうんですね。」

 

老「そう。どうしてもね。」

 

ウ「どうしてもね。」

 

 小さなウサギさんには、老ウサギの目に光るものが見えた。

 

ウ「一人では決して一体化できないような感情体験・・・。」

 

老「うん?」

 

ウ「いえ、何でもないです。・・・自分、がんばります!」

 

老「ふふ、自分がんばります、なんだね。さて、それじゃ、最後の命題に取り組もうか。」

 

ウ「はい!」

 

命題19

個人は、自分の有機的経験をますます多く自分の自己構造へと知覚し受容するにつれて、自分が、歪曲して象徴されていた自分の内面への投影にきわめておおきく基礎づけられた現在の価値体系を、つぎつぎと起こっている有機的な価値づけの過程と置き換えていることに気づくのである。

(命題はロージァズ全集8巻パーソナリティ理論、第2部、第4章より引用)

 

老「さあ、最後の命題には希望があふれているよ。」

 

ウ「よし、えっと、私は、私の身体の経験をますます多く私の思う私、私に聞こえることが大丈夫な私へと、見えて、聞こえて、感じられ、受け入れられるにつれて、私が・・・」

 

老「歪曲はゆがめて、でいいかな。」

 

ウ「私がゆがめて言葉になっていた私の内面への投影・・・。」

 

老「投影は映されたでいいかな。」

 

ウ「私の内面へ映されたきわめて大きく基礎づけられた現在の価値のまとまりを、つぎつぎと起こっている身体の価値づけの過程へと置き換えていることに気づくのである。」

 

老「うむ、少し長いけど、どうかね。」

 

ウ「先生、私の内面へ映されたきわめて大きく基礎づけられた現在の価値のまとまりって何ですかね?」

 

老「そうだね。以前の命題で、あなたがこわいことですね、と言っていた、タニンとの評価的な相互作用の結果生まれた価値観、と言い換えられるところだろうね。」

 

ウ「ふむ。ということは、私は身体の経験がそのままに聞こえるようになれば聞こえるようになるほど、タニンとの相互作用の結果生まれた価値観を、つぎつぎと身体の感じから得られる価値観へと置き換えていることに気づく、という感じでしょうか。」

 

老「うん。身体の経験に開かれれば開かれるほど、身体の感じを頼れるようになる。誰かとの不安定な関係の中で相互に生まれた価値観を脱ぎ捨ててね。これは心強いことだよ。」

 

ウ「身体の経験に開かれれば開かれるほど身体の感じを頼れるようになる・・・。」

 

老「そう。おそらく、自分に自信がある状態というのは、こういうことを言うんだろうね。」

 

ウ「迷ったら、身体に聞けばいいって、この辺りのことを先生は言っていたんですね。」

 

老「そう、そうなんだよ。」

 

ウ「先生、自分は、自分の身体の経験がそのまま聞こえるようになりたいです。身体の経験に開かれていきたいです!」

 

老「ふふ。自分の身体の経験がそのまま聞こえるようになりたい。身体の経験に開かれていきたいね。さて、そのためにはどうしたらよいと思う?もうすであなたは学習しているよ。」

 

ウ「自分の今、ここ、の経験をそのままに言葉に、声にし続けること・・・。」

 

老「そう、そうなんだよ。自分の今、ここの経験をそのままに言葉に、声にし続ければ、いつかは今は聞こえていない身体の経験も聞こえるようになる。」

 

ウ「自分の今、ここの経験をそのままに言葉に、声にし続けられれば、いつかは今は聞こえていない身体の経験もそのままに聞こえるようになる。」

 

老「そして、もうひとつ。自分の身体の経験がそのままに聞こえるようになれば聞こえるようになるほど、もうひとりの誰かをおびやかさずにいられるようになるんだ。」

 

ウ「自分の身体の経験がそのままに聞こえるようになれば聞こえるようになるほど、もうひとりの誰かをおびやかさずにいられるようになる・・・。」

 

老「そう。そうしたら、そのもうひとりの誰かも、あなたといる時は、自分の身体の経験がそのままに聞こえやすくなって、自分の身体の経験に開かれていくでしょ。そうやって、自分の身体の経験がそのままに聞こえ、自分の身体の経験に開かれていくヒトが増えていってほしいんだよ。」

 

ウ「そうやって、自分の身体の経験がそのままに聞こえ、自分の身体の経験に開かれていくヒトが増えていってほしい。」

 

老「そう。自分の身体の経験がそのままに聞こえ、自分の身体の経験によく開かれていることで周りの誰かも自然に身体の経験がそのままに聞こえやすくなり、身体の経験に開かれやすくなっていってしまうようなヒト。私は、そんなヒトをカウンセラーと呼びたいんだよ。」

 

ウ「先生!」

 

 急に立ち上がって大きな声を出す小さなウサギさん。

 

老「おおっ。なんだい?」

 

ウ「自分は、自分は、カウンセラーになりたいです!」

 

老「カウンセラーになりたい。」

 

ウ「はい。それで、それで、夢の中の白い服を着た女の子や先生が、自然に身体の経験がそのまま聞こえるようになったり、自然に身体の経験に開かれていくようになってほしいです!」

 

老「おや、私もかい?」

 

ウ「はい!自分は、先生が今、一人では決して一体化できない、嵐のような、津波のような感情経験に開かれるためのお手伝いができるようになりたい!」

 

老「あなたは、私が、私の・・・私の感情経験に開かれるための・・・お手伝いができるようになりたい・・・。」

 

ウ「はい!」

 

 力強く語る小さなウサギさんは、まっすぐ老ウサギの目を見つめている。

 

 老ウサギが何かを言いかけたその時、

 

バタン!!

 

?「あらあらあら」

?「わわわわ」

?「どわわー」

?「いたい、いたい、どいて!」

 

 小さな建物のドアがバタンと開き、ドアの外で聞き耳を立てていたであろう森の動物たちが、ドタドタと折り重なって、小さな建物の中に倒れこんだ。

 

ウ「あわわあわわ。」

 

 びっくりして飛びのく小さなウサギさん。

 

老「ふむ。聞きたいのなら、素直に入ってくればいいのに。」

 

 ボソッとつぶやく老ウサギ。

 

ウ「先生、あのドアを開けるのには、本当に勇気がいるんですよ。」

 

?「あの・・・私もかうんせりんぐ、できるでしょうか?」

?「わたしも・・・。」

?「わたしも!」

?「あの・・・僕も・・・。」

 

 口々にものを言う森の動物たち。

 

老「・・・もちろんだよ。」

 

 静かに、とても優しい声で老ウサギは応える。

 

?「よかった。」

?「ありがとうございます!」

?「やった!」

?「ありがとう!」

 

 森の動物たちは、目をキラキラさせながら喜んだ。

 

老「そうだね。この人数ならグループワークができそうだ。後日、準備ができたらまたドアに張り紙をしておくから、今度はちゃんと、ひとりずつドアを開けて入ってきなさい。」

 

?「わかりました。ありがとう!」

 

 森の動物たちはそれぞれ老ウサギにお礼を言って、森へと帰っていった。

 

ウ「びっくりしました。」

 

老「ふふ、また忙しくなりそうだ。」

 

 老ウサギは部屋の奥でお茶を入れて持ってきてくれる。

 

老「はい、どうぞ。」

 

ウ「ありがとうございます。」

 

 ふーふーとお茶を冷ましながら、静かにお茶をすする二羽のウサギ。しばしの間、ゆっくりと時間が流れた。

 

ウ「さて。」

 

 いつものようにパタパタと後片付けを始める小さなウサギさん。

 

老「もう、行くんだね。」

 

ウ「はい。また、教えてほしいことがあったら聞きにきます。あと、おにぎりの材料も、もらいにきます。」

 

老「そう。そうだね。」

 

 スッと小さなウサギさんに向けて手を伸ばす老ウサギ。

 

老「握手をしよう。」

 

ウ「はい!」

 

 小さなウサギさんが、小さな手を伸ばすと、老ウサギはびっくりするほど力強く小さなウサギさんの手を握った。

 

老「楽しかったよ。またね。」

 

ウ「はい。必ず。」

 

 小さなウサギさんは、ペコッと頭を下げて、足早に小さな建物をあとにしていった。

 

 書斎に移動し、机においてある写真を静かに見つめている老ウサギ。

 

 一瞬、まっすぐ老ウサギを見つめる小さなウサギさんの目の力強さを思い出す。

 

老「私は、いつか、また、あの歌を歌えるようになるのかもしれないね。」

 

 老ウサギは、涙をいっぱいにためながら、少し笑った。

 

老「長生きしなきゃな・・・。」

 

 老ウサギは、ポツリとつぶやき、写真たてを机に伏せることなく、そのまま机にかざった。

 

  不思議な達成感にあふれる小さなウサギさんは、タカタカと走って家路を急いでいた。

 

ウ「あっ」

 

 バタン、ゴロゴロゴロ。

 

 この前とまったく同じ石につまづき、倒れ、すごい勢いで転がっていく小さなウサギさん。

 

ウ「いてて。まったく見えるようになってないや・・・。」

 

 小さくつぶやくウサギさんがふと見上げると、そこにはあの大きな木。

 

ウ「またこの木か。なんでこの木がこんなに気になるんだろうなぁ。」

 

ヒューッ

 

 その時、小さなウサギさんがいつかどこかで出会った風と同じ匂いがした。

 

?「うふふふ。」

 

 小さなウサギさんの脳裏に一瞬だけ、小さな笑い声がよぎる。

 

ウ「今は、笑っているんだね。」

 

 ニッコリと笑った後、むくりと立ち上がり、またタカタカと家路を急ぐ小さなウサギさん。

 

 風のように走り抜ける小さなウサギさんは、なんだか今日、とても良い夢が見られるような気がしていた。


16、夢、うつつ

~fin~


奥付


聞こえる~カウンセリングとウサギ~


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著者 : ジェニュイン黒田
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