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「玲子さん、部長からメールです・・・・。」

白いipadを差し出しながら、白河笑子が眠そうな声を上げました。

受け取ったタブレットを掛け布団の上に放り出し、腕を笑子の肩に廻して、その唇を奪います。

白い肌を寄せ合いながら、敏感な部分に手を這わすと、昨夜の余韻が早朝の気怠さと共に甦ります。

「携帯に電話すればいいのに・・・・。」

黒木玲子も眠そうな声を上げます。

「あれで、気を使ってるんですよ。」

笑子が悪戯っぽく耳元で囁きます。

 

「漂着船のGPSストレージの解析が終わったって・・・・出発地点は日向灘沖合の公海上、到着点は佐伯市大字大島沖合、サメに襲われたのもその近くみたい・・・・舟はサメに襲われた後、急浮上しているから、恐らくその時に積み荷が落下したんだろう、その地点の海底の調査を開始するって―――。なにこれ!」

ipadを掴んで身を起こします。

「どうしたんです?」

「詳細な解析によると、舟はこの間を過去60回以上往復しているんだって!」

 

「もう一通メール来てますね。」

笑子が横から覗き込みます。

「昨日の電気技師からよ、帰り際に頼んでおいた地下弾薬庫と、立坑の見取り図が届いたんだわ。後で昨日の監視カメラの画像ファイルと一緒に、県警本部に送っておいて。」

突然玲子の携帯が鳴動します、慌てた様子の刑事部長の声が受話器から聞こえてきました。

「今朝のメール読んだか!ひとつ言い忘れたことがある。舟の裏側にパステルで書かれていた文字の件だが、文字の意味はまだ解らんが、パステルの成分を分析したら、ごく微量だが放射性アイソトープの反応が現れた、現在物質名を特定中だ。積み荷の受取人に心当たりついたか!」

「目星を付けた化学工場が近くにあります!今から、そこの工場長(マネージャー)に会ってきます!」

早朝のホテルに、中年女刑事の甲高い声が響き渡ります。

「―――だから、最初から電話すりゃいいのに。」

笑子が横でクスクス笑っています。

 

 

 

「―――その舟の積み荷の受取人が私たちだと、おっしゃるんですか?」

化学工場のマネジャーと面会したのは、佐伯港に近いレストラン・小山の個室ブースでした。

日本語も流暢な小柄な白人で、カールした黒髪からラテン系かと思われます。

「そうは言っていません、まだ積み荷が何であるかも特定されていないんです。ただ、積み荷が海外からの密輸品の可能性があります、あの地域で外資系の工場は御社だけですから、周辺にあらぬ噂を広めない為にも、質問にお答え頂きたいのです。」

「私どもは、この国の複雑な法規制をクリアして、5年前にこの地に進出してきたんです、現在でもコンプライアンスは完全に維持されています、国の定期的な検査も受けていますし、違法な事案は一切ありません。」

「なぜあの、辺鄙な場所に?」

「最良のロケーションだったからです、ご存じのように火薬や爆薬の製造は大変特殊なものです、民家の近くに立地できませんし、乾燥した環境もノーグッドです、今回は既設の地下施設と波止場が利用できたのが、最大のメリットでした。」

「職員の地元採用を一時大量にされたようですが、工場稼働後一気に減らした理由は?」

「地元採用は施設の建設が主な目的でした、先ほども言いましたように製品が火薬・爆薬ですから、工場を稼働させるにも特殊な技術が必要です。一部の設備メンテナンスの要員を除いて、工場がほぼ完成した2年目に解雇させて頂きました。」

「電力会社から訊いたんですが、最初は受電の容量不足で変電設備の事故が多発した、その後電力が余るようになったようですが?」

「それは自前の発電設備が稼働し始めたからです、酸化・還元炉というのが2基動いていまして、そこから出る排熱を利用して発電しています。」

¥880のパスタ・ランチの前菜を、器用にフォークでまとめながら、急に思い立ったように、「―――何でしたら、明日工場をご案内しましょうか?」

「見学可能ですか?」

「指定した場所での撮影を、ご遠慮さえいただければ大歓迎です。私は同行できませんが、現地のスタッフに指示しておきます。」

「操業中に、ご迷惑じゃないですか?」

「工場は、この一週間在庫調整で休業中です、なにせ在庫がたまるのが一番危険ですから・・・・。」

 


「舟に乗るなんて何年ぶりかしら、潮風が爽やかで気持ちいい!毎日通勤で乗れるなんてうらやましいわ。」

化学工場への通勤ボートは、佐伯港から東へ、リアス海岸の絶景の中を航行します。ボートの白い航跡の上空を、ウミツバメの群れがどこまでも追いかけてきました。

「先輩にひとつ訊きたいんですけど・・・・。」

「なあに?笑ちゃん。」満足そうな眼が輝いています。

「部長はまだ分からないって言ってましたけど、パステルの走書きの意味、先輩もう分かってるんじゃないですか?」

「どうして・・・・。」

「だって、昨日ホテルに届いた先輩宛てのAmazonの商品、線量計って書いていましたよ。」

悪戯っぽく笑子の顔を覗き込んで、「―――あなたの分もあるわよ。」

クリップの付いたペンのような線量計を差し出しながら、「あの後ね、私の友人にメールを送ってみたの、すぐに返事が来たわ。UO2は二酸化ウランに決まっているだろ!何勉強してたんだ!―――って。」

YCは?」

「イエローケーキ!つまり、天然ウランの密輸船だったのよ、あの舟。」

「その、先輩の友達っていうのは?」

「高校の化学の先生!」

 

 

 

工場のある入り江にボートが到着し、ブルーの作業服を着たスタッフ2名が出迎えてくれました。

「早速ですが、静電防止用の作業服とヘルメットを準備していますので、事務所でお着替えください。」

入り江の奥に拡がる整備された平地に、充分に間隔を於いて建てられた工場建屋は、全て鉄骨の平屋建て、通常と異なるのは、建物ごとに軒の上まである大きな土塁に四方を囲まれていることです。

「頑丈なコンクリートの建物じゃないんですね?」

「事故があった場合、コンクリートじゃ被害が大きくなるんです、建物を犠牲にして、爆風を閉じ込めないような設計です。」

笑子が深く頷いて、納得しています。

 

「―――地下工場に入ります、これ以降のカメラ等撮影はご遠慮ください、足元が暗いですから充分お気を付けください。」

背の高いイケメンのガイドが先頭に立ち、もう一人が後ろに立って長い階段を下りていきます、天井の要所要所から大型の監視カメラが、威圧するように見下ろしています。

大きな鉄の扉を開くと、一気に視界が開け、高い天井の広大な空間が広がっていました。

巨大な魔法瓶のような円筒形のタンクが整然と並び、無数のパイプがタンクの間隙に犇めいています。

「爆薬や火薬は、基本的に燃料と酸化剤で構成されています、そのどちらにも不純物が存在すると、充分な出力が得られませんし、不安定で大変危険です。ここでは同時に10種類の原材料の不純物を取り除き、精製することが出来ます。」

「爆薬と、火薬の違いは?」

ヘルメットを片手で押さえながら玲子が尋ねます。

「燃焼速度の違いです、音速以下が火薬、以上が爆薬。」

 

広大な地下工場から一転して、直径8m程の円筒形の部屋に出ました。

壁の岩盤がむき出しで異様な雰囲気です、相変わらず天井には複数の監視カメラが見張っています、上部に複雑な装置があって、そこから降りてきた30本程の金属の棒が足元の床を貫いています。

「此処は旧海軍が掘った立坑の中です、ここのすぐ下に酸化・還元炉と称しています化学反応炉があって、自然界に酸化物として存在する様々な化合物・金属を、この炉を使って穏やかに還元しています。出力が大きく安全で精密に制御できる新しい製品を、ここで研究・開発しているわけです。」

「じゃあ、還元炉で充分じゃないですか、酸化・還元炉というのは?」

柄にもなく笑子が、専門的な質問をします。

「どんな反応も、酸化と還元が並行して起きています、話が専門的になりますが、要は電子の遣り取りなんです、酸化される物質が電子を放出し、還元される物質が電子を受け取って・・・・。」

「酸化される物質に何を使ってるんですか?」

「粉末の黒鉛です。」

「じゃ、いくら穏やかな反応でも熱が出ますよね。」

「はい、水を循環させて冷やしています。この上の階に蒸気タービンを使った発電機がありまして、工場で使う電気を賄っています。」

「海軍の立坑はここだけですか?佐伯市の資料によると3か所あったように書いていますが?」

「酸化・還元炉がもう一基このすぐ隣で稼働しています。残る一つの立坑は、更にその隣に、抗壁をコンクリートで補強して製品の爆破試験場に使用しています。」

 

―――その時でした!!

頭上で鈍い破裂音がしたかと思うと、突き上げるような振動と加圧された空気の衝撃が足元から襲ってきました、天井の装置が粉々になって落下し、真っ黒い粉塵であっという間に視界が奪われます、甲高い笑子の悲鳴に重なって、「チキショー!填められた!」というガイドの声が聞こえてきました。

 


佐伯市大島沖で、底引き網に奇妙な球体が掛かったのは、佐伯に木造船が漂着する前日のことです。引き上げたのは佐伯とは海を隔てた、四国宿毛港の漁師でした。

サッカーボールほどの大きさの金属の球体で、無数の木切れと一緒に網に絡まっていたので、後で網を解くつもりで、漁港の漂流ゴミ置き場に据え置かれていました。

警察が佐伯沖の海底を調査しているのを訊きつけて、漁師仲間が漁協に届けたのでした。

 

 

 

連絡を受け、高知県警の鑑識が宿毛港へ向かいました。

漁協の地下に安置された球体の表面には、無数の歯形が残されています。

「―――サメだな、何度も噛みついてやがる。」

「歯も何枚か残ってますよ、エサと間違えたんでしょうね―――。」

表面にある小さなビスを外すと、外装の金属カバーが二つに割れて、透明な樹脂で保護された複雑な回路(プリント基板)が現れました。

 こりゃまずいな、本部に連絡して処理班を依頼!我々は宿毛署に協力して周囲の安全確保。」

自衛隊爆発物処理班による屋外非破壊検査の結果は、警察庁・防衛省に止まらず、政府首脳・内閣を震撼させました。

X線CTを使った断層映像の解析によると、プリント基板の下は32面の爆縮レンズ構造、その下は恐らく炭化タングステンの中性子反射体、中心は――核物質PU239――

プルトニュウム爆弾に他ならないとの報告でした。

 

緊急の閣議の結果、当該事案は特定秘密保護法の対象と規定され、必要な部局以外の箝口令が徹底されました。

その矢先、佐伯市で工場大爆発のニュースが飛び込み、期せずしてマスコミの関心が、責任者である工場マネージャーに集中して、その動向が周知に晒される状況となりました。

大分県警本部長宛てに、国家公安委員会から緊急の呼び出しが届いたのは、そのような経緯の下でした。

 

黒木玲子と、白河笑子が立坑の中から救出されたのは、爆発から10時間後のことでした。

製品の爆破試験に使われていた、3本目の立坑に逃げ込んで最悪の結末を逃れました。

二人とも鼓膜を損傷し、無音の中で必死に助けを求めましたが、携帯電話の微弱な電波と、電気技師が送った工場の見取り図とが決め手となって所在が特定され、意識が朦朧としかけた直前に助けられました。

 

化学工場は全てが破壊し尽くされていました、2本の立坑は上部構造が崩壊し完全に埋没して、砲台のあった岬の突端が大きく陥没しています。

地下工場には大量の海水が浸入し、瓦礫と共に水没して、当面はダイバーも潜れない状況です。

後日の詳細な検証により、この大爆発は大量の黒鉛による粉じん爆発であることが確認されました。

 

5日後のことです、二人の病室に優しい表情で、刑事部長が入ってきました。

「どうだい、もう耳は聞こえるのか?」

「ええ、ご心配おかけしました・・・・。」

ベッドから身を起こして、黒木玲子が答えます。

白河笑子は軽く会釈して、「部長が場所を指示してくれたんですってね!」

「工場の見取り図を送って貰ってたのを思い出してな、携帯電話の発信位置と重ね合わせたら、立坑の中だった。」

「密輸事件の海底調査に伴って、水上警察とヘリを配置しておいてよかった、10分で水上警察が現場に入れたそうだ。」

「私たち以外に、けが人は?ガイドさんが二人同行してくれてたんですけど・・・・。」

「その二人なら現在集中治療室だ、実際かなり厳しいらしい・・・・今のところ、犠牲者は出てないが、君たち以外、工場に人が居たかどうかはっきりしないんだ。」

「密輸事件のその後進展は?」

「密輸品の現物がまだ出てきていないからなあ・・・・それについて君たちにひとつ聴きたいことがある。そもそも、君たちは何の為にあの工場を見学したんだ?」

「何かあったんですね?」黒木玲子が身を乗り出します。

「一昨日、国家公安委員会からうちの本部長が緊急に呼び出しを受けた、―――今回の工場爆発と密輸事件を結びつけて考えてるのかって、それなら早く工場の責任者を検挙しなさい、大分県警が動かないなら外事情報部が指揮を執る―――、と言われたようだ。工場長はマスコミの注目を集めていて下手なことじゃ逮捕もできん、外事情報部が動く位だから、余程のことだと思うが、例によって官僚は何も教えてくれんとぼやいていた。」

「外事情報部の下には国際テロリズム対策課がありますよね・・・・。」

急に笑子の方に向き直ると、大声で。

「―――笑ちゃん、退院よ!準備があるから早くして!」

「―――は、はい!」

さあ、部長!下手人をしょっぴきに行きましょう―――。」

  


「あなた方、無事だったんですね!よかった・・・・。」

 

 

工場マネージャーは、ずっと逗留している佐伯駅前のホテルに缶詰めの状態でした。

マスコミ取材陣のカメラの放列が、廻りの歩道を埋めています。

部屋の窓から、歩道を見下ろすマネージャーの背中に、玲子が声を掛けます。

「ガイドして頂いたスタッフのお二人、ご心配ですね。」

「助かっても脳に後遺症が残るって医者に言われました、私の責任です。」

「現場はあれからご覧になりましたか?」

「こんな有様で、病院に見舞いにも行けないんです。どうしろと言うんですかね、日本のマスコミは・・・・それで、今日は何か?」

「実は、先日の漂着船のことなんですが、外装板の裏側に妙な走書きがありました、UO2:YCって書かれていたんですが、お心当たりは?」

「―――勿論、ありません。」

「文字の意味は解りませんが、積み荷の受取人が書いたものかも知れません、筆跡を確認したいんです、同じように書いて貰えませんか?」

「断じて心当たりありませんし、そもそもパステルなんかで筆跡が分かるんですか?」

ハッと驚いた気配を間に挟んで、「―――なぜパステルと分かります?誰もそんなこと言っていませんけど。」黒木玲子が追い詰めます。

慌てた様子もなく、「海水で濡れた木材にきれいに文字が書けるとしたら、オイルパステルぐらいしか思いつかないじゃないですか、それとも余程特殊な走書きだったんですか?」

「パステルの成分から、ごく微量の放射性アイソトープが検出されました。それで、御社の通勤ボートも検査させて頂きたいのです。」

「―――同じ反応が出るって言うんですか?当社が密輸の荷受人とでも思ってられるんでしょうか・・・・。うちのスタッフは日頃から様々な火薬原料(金属)に接しています、その中には多少の放射性同位体の混在も、考えられないことも無いんですよね!」

流石に、言葉の裏側に苛立たしさが感じられます。

「直ぐに承諾頂かなくても結構です、ボートは工場の波止場に水没していて、証拠保存にも問題ありませんから・・・・もう一つ、お願いがあるんですが。」

と言いながら、笑子に持たせていた重そうなバッグを、目の前の机に上げさせました。

「これは、県警の別の部門からの依頼なんですが、どうしても工場爆発の瞬間の映像が欲しいんです、監視カメラの映像を探したんですが、オペレーションルームが完全に破壊されていて、サーバーの復元も不可能のようで・・・・。」

バックを開けて中の物を笑子が取り出すと、マネジャーの顔色が見る見る変わります。ラテン系特有の紅みがかった健康的な肌色が一気に青白くなり、眼を一杯に見開くと、今度は一転どす黒く変色しました、額に脂汗が噴出しています。

「一台だけ無事だった監視カメラがありました、ストレージが内蔵されているようで、USBコネクタから吸い出そうとしたんですが、パスワードが分からなくて・・・・マネージャーのパソコンならデータ吸い出せるかと思って、現物持ってきました。」

バッグからは所々黒く変色した、監視カメラの本体そのものが出てきました。

今にも泣きそうな表情でわなわな震えながら、「触るな!伏せろ!起爆シークエンスは起動しているんだ!ホテルが吹っ飛ぶぞ!こっちに持ってくるな!」

それだけ叫ぶと、両手で頭を抱えて、部屋の隅に蹲ってしまいました。

 

これに何を仕掛けたの!泥を吐きなさい!」

両眼を見開き鬼気迫る表情で、マネージャーの前に仁王立ちした黒木玲子が、胸ぐらをつかんで顔を上げさせると、虚ろな眼で監視カメラを確かめた後、観念したように悲しげに瞼を閉じて、「コンポジションC-4プラスチック、全ての監視カメラに仕掛けました・・・・。インターネット経由で私のパソコンから起爆できるようにしてあります。」

あなたが、起爆したのね!

何も言わず、黒いカールの頭を深々と下げました。

 

「黒木!裁判所から逮捕状が下りたぞ、そいつ逮捕しろ!しょっぴけ!」

逮捕状を振りかざしながら、刑事部長が、部屋に走りこんできました。

  


宿毛市で発見されたプルトニュウム核爆弾の電子基板部分から、工場マネージャーの指紋が採取されたことにより、国家公安委員会の指示で、警察庁が逮捕状を直接請求、取得しました。

罪状は、日本に核兵器製造を規制する法律がないため、当面、放射線障害防止法違反と記載され、その他の罪状の立証を待って、再逮捕することとされました。

 のちの調査により、酸化・還元炉と称された化学反応炉は、プルトニュウム239生産のための黒鉛炉であり、地下工場の設備は、二酸化ウランから六フッ化ウランに転換、ガス化して遠心分離を行う一連のプラント(カスケード)だったと報告されます。カスケードでウラン235を濃縮し、副産物のウラン238を黒鉛炉に送って、プルトニュウム239を生産する全工程を、一切人の手を介することなく、全て自動で行なわれていました。

 

集中治療室で生死を彷徨っていた二人の工場スタッフが、障害も残さず回復し、その証言がマネージャーの罪状を更に補強しました。

当初のもくろみでは、二人の刑事を帰した後、自分たちの起爆で工場を破壊する予定だったのが、核兵器製造の事実を知る自分たちも含めて、この世から葬り去られるところだったと説明しました。

プラスチック爆弾で、黒鉛炉の粉塵爆発を誘発するアイデアは、爆発物の専門家であるマネージャーが考えたようです。

取引の相手は、国際的な闇の兵器仲介組織、文字通り死の商人です。あの漂着船と通勤ボートを使って、二酸化ウランを受け取り、代わりに完成品の核爆弾、またはプルトニュウム239・ウラン235の金属素材を送り返していました。

首謀者であるマネージャーが、取調官に語った事件の回想が、のちに公開されています。

「なぜ工場を爆破したのか?」という取調官の問いかけに対しマネージャーは、「製品と原材料の受け渡し方法が、少しでも発覚・露呈した場合、早急に設備を処分するのが当初からのプランだった、婦人刑事が工場の素性に疑いを持ってると思ったので、人間も含めて証拠を抹消する必要が出てきた。」

「どうして日本で?」という質疑に対しては、「調達できる工業製品・化学素材の品質・数量・種類の豊富さに於いて日本以外では不可能だった。最も好都合だったのは、都市部を越えてローカル地域にも浸透しつつある人々の地域社会への無関心さだ。高齢化・過疎という社会背景が、我々に味方した。」

 

 

 

事件の全容が明らかになるに伴い、政府は特定機密保護法適用を解除し、全世界に向けて、事件詳細の開示を行いました。これは内々に事件の経過を通知していた、同盟国政府からの強い要請を受けてのことでした。

日本政府のこの情報開示は、深刻な核テロ警報とも受け止められ、瞬時に世界を駆け巡って、各国政府・機関は直ちに対応を求められる事態となりました。

 



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