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取締局の連中は屋根から車窓に滑り込み、席に今のことをまったく意に返さないような顔つきで行儀よく腰掛けていた。列車はもうレールの上を走っていなかった。列車の先には竹林が迫っていた。その竹林に列車は突っ込み、横転し、腹を出したとき、列車から彼らは一人、一人出てきて、どこかに消えた。
 ジャンクが拷問台に固定された。
 回廊を小林が便所サンダルでゆっくり歩く音が近づいた。小林は入口に入るときに、ウェルパスで手を消毒して、ゴム手袋をはめ、握り拳を作ったり、指を組み合わせたりして、手に手袋をなじませた。
 ジャンクはすでに体が震えだし、顔には汗がたっぷり浮かび、首筋を濡らしていた。小林は教壇の上の肉の置物の具合を調べ、そして拷問台に固定されたジャンクに近づいた。ジャンクは目を閉じるが、瞼が震えた。
 「瞼の無い女っているのを知っているか?」小林は若干高めの声でジャンクに呼びかけた。ジャンクは首を振った。
 「あれはたいそうキツイらしい。夢を見ることができないそうだ。生まれつき目の見えないやつは夢を見ないそうだ。瞼の無いものはヒアルロン酸で常に目を保護しなくてはならない」
 小林はひとつの金属器具をつまみあげ、ジャンクに見るように言った。ジャンクは目を閉じたままだった。
 「目は心を忠実に表す器官のひとつだ。私は君が“感じている”のか知りたいのだ。君の心を見たいのだ」
 突然小林はジャンクを覆っている額を固定する金属製の固定具を持ち上げ、はずすと、何かにとりつかれたかのように、執拗にジャンクを殴り続けた。小林のバックハンドブローで、涙と、鼻血が出た。「おまえは人を教育することがどんなに大変かを知っているか?教育とは一種の洗脳なのだよ。私は生物の教師だ。生命の神秘を知るには生物などという学問の枠で括るのでは狭すぎる。生命というものはそんなに簡単に了解できるものではないのだよ。」
 ジャンクの顔はしばらくすると、夏に収穫し忘れた膨らんだナスのようになった。それを見た小林は再びジャンクを固定した。
 「私は教師だ。この世界の秩序を乱すものを再教育する役目を負っている。」

 もうジャンクの唇は腫れ、歯は折れ、しゃべることができず、口の中の出血のため、喉に血だまりができ、彼が唯一できることといえば、気管の本能的な反射運動で血のあぶくを口から出すことだけだった。
 「さ、瞼を取って、心を見よう」
 実験室は悲鳴すら上げられないジャンクを、小林が事務的な手際で処理しだした。床にサンダルが軋む音とジャンクがもがく固定具に体が当たる音しかしなかった。
 再教育の完了した小林は「のんびり和尚」を見るため、学習机に向かった。

 

 ノンノン様は家庭教師をしているらしいので、家庭教師を探していた。どうやら側溝に跨る細いコンクリートの枠を渡り向いの家に入ることらしい。家の門扉には錆びついた看板が掲げてあり、「英語塾 きめ細やかな指導を実践します」とあり、診療所の赤いランプが軒についていた。ガラス戸をあけると、すぐ階段だった。下駄があり、上に上っていった。狭い畳敷きの部屋にノンノン様がいた。
 「引っ越したのですか?」
 「ジャンクは濫用したね、危ないよ。どうやら捕まったようだよ。」

 「捕まったって、取り戻せるでしょうに。」

 「今回は無理よ」

 「前もそうだった、ユキの時もだ!今度はジャンクも諦めると言うのですか!」
 「掟。この世界の掟なのよ。夢の世界を破壊することはできない。小林の役割は夢の世界を維持すること。モグラの兵隊はその夢の世界を破壊しようと映る、奴らにはね、だから狙われるんだよ、あの子には、きちんと注意した、帽子を濫用するな、と。濫用したら、目をつけられる。あたりまえのこと。約束事。場面を変化させる働きがあの帽子にはある。潜ることはその光景からの脱出。でも、夢の世界からの脱出ではないの。いずれあの子は帽子を取られてしまう。ユキさんと同じくこの世界にいつづけることになる。もし、小林に殺されたとしたら、あの子はこの世界でもこの世界の外でも存在を失う。消失してしまうんだ。跡形もなく。」
 「ただ、手をこまねいて見ていろというんですか」
 「仕組みよ」
 「夢から覚めるにはどうしたら?」
 「あなたは何も知らない、あなたもこの世界に入り込みすぎたのよ。夢は不思議なもの、でも危険なの。夢から覚めないと人は死んだも同じ。」
 「夢から覚めるには!」
 「階層だって言ったでしょ。深く入り込みすぎたのよ、あなたは!夢が覚めるのは階層を何層も越えていくことになるでしょう。夢の中で夢を見て、その夢の中で夢を見る。夢が論理をもったらどうなる?それこそ夢の世界の破壊でしょ!モグラの兵隊がやってきたことはこの階層を何層も跨いだことなの!夢の番人は怒ることでしょう。人の共有地への侵略者。分かってちょうだい。」


第1部終了する。


この本の内容は以上です。


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