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幸運にも窓際の席が空いていて、前回と同じ席に腰掛けた。今回は、すでに、死亡時の父親の様子は聞きだしていたので、主治医についいて何か知らないか、聞き出すことにしていた。午前11時27分、美緒は、前回よりも明るい表情で沢富の前に現れた。「美緒さん、お待ちしていました。お元気そうですね。どうぞ」美緒は、友達に会うように、気軽な挨拶をした。「また、会えるなんて、うれしい~」美緒は、ニコッと笑顔を作り、好意の視線を発射した。

 

 

 

美緒は、沢富を誘惑するような流し目で赤のトレーナーを脱ぐと、胸元が大きくえぐられたTシャツからこぼれんばかりのバク乳を見せつけながら腰掛けた。目の前には、大きな谷間がはっきり見えるバク乳がブルルン、ブルルンと揺れていた。隣の席の中年男性は、美緒のバク乳を食い入るように見つめていた。事件当事者に尋問する心づもりで緊張していた沢富だったが、JKが友達と待ち合わせて、これから遊びにでも行こうとするような気さくな態度を見せられ、気持が緩んでしまった。

 

 

 

「そうですか、そう言っていただけると、気が楽になります。早速ですが、今日は、主治医についてお聞きしたいのです。何でもかまいません、お話いただけますか?」美緒は、主治医と聞いて、表情が硬くなった。美緒は、ストローに口をつけてしばらく黙っていた。沢富は、暗いムードを打ち消すように、ちょっと砕けた口調で質問した。「まあ、主治医から聞いたこととか、主治医のうわさとか?主治医の癖とか?何でも、いいんだ。くだらないことでもいいんだ。話してくれないか」

 


 

美緒は、ストローから口を離すと、沢富を見つめた。「そうね~~、あのイケメンでしょ。結構、女好きだと思う。婦長とも、できてるかもね。私の直感って、結構当たるんだから。それに、お金に困ることがあったら、いつでも相談してくれ、な~~んて、ことも言ってた。あの目って、ちょっといやらしかったかも。そんなところかな」沢富は、思いもがけない返事に度肝を抜かれた。沢富は、主治医が父親の病状と今後の治療について、どんなことを美緒に言ったかを具体的に知りたかった。

 

 

 

「へ~~、そんなことを。確かに、あの主治医、イケメンですよね。ところで、お父さんの病状は、安定していたわけでしょ。突然、亡くなったことについて、何か言っていませんでしたか?どうも腑に落ちないんです、美緒さんもそう思われるでしょ」美緒は、亡くなってしまった父親のことを思い出したくなかった。突然の死は心臓が弱っていれば、当然起こりえるもので、主治医を悪く考えるのは、お門違いではないかと思った。

 

 

 

「父のことは、もういいんです。先生は、最善を尽くしてくれました。私のことも心配してくれました。とっても、やさしくてすばらしい先生だと尊敬しています。父の死は、運命とあきらめました。くよくよしても始まらないと思うんです。それより、将来のことを考えたいのです」沢富は、自分の刑事根性が情けなくなった。確かに、不審な点があれば、刑事として追求すべきだと思ったが、それ以上に、残された子供の将来のほうが、もっともっと大切なことに気づかされた。

 


 

「申し訳ない。ほんと、ばかだった。美緒さんの気持も考えないで。そうですよね、美緒さんには、これからの将来がある。本当に、お父さんの突然の死は、お気の毒でした。もう、主治医についての詮索は、この辺でやめます。主治医は、脳外科医とし有名な方だし、美緒さんにも親切にされたのですね。見上げたものです、さすが、名医といわれるだけ、ありまね。それに比べ、僕は、疑うことしか知らない、とんまな刑事です。穴があったら、入りたいぐらいです」

 

 

 

美緒は、うつむいて、クスクス笑っていた。刑事は、偉そうに国家権力を振りかざし、自分のことをへりくだるようなことは決してしないものだと、今までずっと思っていた。取調室で容疑者を怒鳴りつけ、鬼のような形相で問い詰める姿が、脳裏に焼きついていた。それは、刑事ドラマの見すぎだったように思ったが、こんなにも、気が弱そうで、やさしい刑事がいると思うと、心の底から笑いがこみ上げてきたのだった。

 

 

 

「沢富さんって、やっぱ、優しいんですね。最初に会ったときから、やさしそうな方だと思っていました。天国に行った父のことは、もう忘れました。一人ぼっちになってしまたんです。くよくよなんか、していられません。それに、びっくりするような大金が、振り込まれるんです。父は、私のために、生命保険に入っていたんです。保険屋さんが手続きに来られて、びっくりしました。お金のことは、心配要らなくなりました。だから、こんなに、気楽でいられるんです」

 


 

美緒の明るさは、多額の死亡保険金にあったと沢富は、知らされた。父親の死亡は、確かに不幸なことには違いなかったが、死亡保険金が遺族に入ってくることを考えれば、決して、不幸なことではないような気がした。生命保険の遺族への貢献をつくづく感じ入った。「そうでしたか。お父様は、美緒さんのことをしっかり考えておられたんですね。立派なお父さんですね。そのお金で、大学進学も可能ですね」

 

 

 

美緒は、笑顔でうなずいた。父親が健在なときは、家計を助けるために高校卒業後、働くつもりにしていた。だが、多額の死亡保険金が手に入ることになった今、大学に進学することに決めた。「はい、大学に進学するつもりです。そうすれば、好きな人とも結婚できるような気がして」美緒は、顔を真っ赤にして、うつむいた。沢富は、美緒のしっかりした考えに感服してしまった。

 

 

 

「そうですね、大学に進学されて、自分の夢をかなえることのほうが、どんなに大切なことか。僕も、美緒さんを応援します。頑張ってください」美緒は、突然立ち上がり、お礼の言葉を述べた。「そう思われますか。ありがとうございます。頑張ります、必ず大学に合格して見せます、応援よろしく、お願いします」言い終えると、美緒は深々と頭を下げた。そのとき、突然、目の前に、ホルスタインのようなバク乳が垂れ下がった。目のやり場をなくした沢富は、引きつった顔であたりをキョロキョロと見渡した。

 


 

「ちょ、ちょ、ちょっと、落ち着いて。早く、腰を下ろして、みんなが、こっちを向いてます。早く、早く」周りを見渡し、不思議な笑顔を振りまいた美緒は、ゆっくり腰を落とした。「マジにうれしかったんです。沢富さんに、気に入られて。もう、死んでもいいくらい」沢富は、美緒の喜びが理解できなかった。美緒を励ましたことぐらいで、こんなにも感謝されては、逆に恐縮してしまった。

 

 

 

額の冷や汗をぬぐいながら沢富は、話を続けた。「美緒さんの元気な顔を見られてうれしいです。とにかく、美緒さんが、幸せになることです。それこそ、お父様が望んでおられたことです。僕なんか、まだまだですね、美緒さんに、人生を教えられるとは」美緒は、沢富を見つめながら、クスクスと笑った。「沢富さんって、かわいいんですね。沢富さんのこと、ますます好きになりました。今後も、気楽に、付き合ってください。よろしくお願いします」美緒は、頭を下げた。

 

 

 

沢富は、またまた、理解に苦しむ美緒の態度に困惑した。「ちょっと、頭を上げてください。見られてますよ」美緒は、ひょいと頭を上げて、マジな顔で質問した。「ところで、沢富さん、付き合っている方、いますか?」美緒は、真剣な眼差しで、じっと沢富の顔を見つめ続けた。突然バケツの水をぶっ掛けられたように、驚きのあまり沢富の頭は、真っ白になった。いったい、こんなときに、なぜ、こんなことを聞くんだろうと、思った瞬間、心臓をキリで突き刺されたかのようにチクチクと痛みが走った。

 



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