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二人が通夜のようにうなだれていると、ナオ子がチーズと板ワサを運んできた。「何です、お二人とも、悪魔に取り付かれたような暗い顔になって、あなた、また何か、ドジッたんでしょ」笑顔を作った伊達刑事は、話題を替えた。「おい、かわいいカラオケ女王とは、どうなんだ。早く、結婚しろ。かみさんは、仲人をしたくて、うずうずしてるんだ。どうなんだ?サワ」ナオ子は、即座に声をかけた。「どうなの?いつ結婚するの?仲人は、私たちに任せてよ」

 

 

 

沢富刑事は、頭をかきむしった。なぜか、話が長引くと、いつの間にか沢富の結婚の話になってしまうのだった。「そう、せかさないでください。僕は、結婚したいと思っているんですが、彼女のほうが、いまひとつ、はっきりしないんです」ナオ子は、真顔で沢富刑事に気合を入れた。「男でしょ。押して、押して、押しまくるのよ。女って、愛を感じたとき、結婚に踏み切れるんだから。分かった」沢富刑事は、自信はなかったが、ゆっくりうなずいた。ナオ子は、ポンと手をたたくと、冷蔵庫にかけて行った。ナオ子は、冷蔵庫からフグを取り出しながら、夫に声をかけた。「フグが特価だったの。あなたも、手伝って」

 

 

 

年の差なんて

 

   

 

2月27日()、前回と同じマックで美緒と待ち合わせをした沢富は、ブルーのスズキハスラーを駐車場にバックで静かに止めた。車を降りた沢富は、いつものように、ドアを閉めて、斜め前方から、ハスラーのボディーラインをまじまじと見つめた。愛車ハスラーは、スズキ車の開発に携わっている親友の勧めで、一ヶ月前に購入したばかりだった。沢富は、なにげに、女子の熱い視線を感じるかわいい目をしたハスラーが気に入っていた。

 

 

 


 

幸運にも窓際の席が空いていて、前回と同じ席に腰掛けた。今回は、すでに、死亡時の父親の様子は聞きだしていたので、主治医についいて何か知らないか、聞き出すことにしていた。午前11時27分、美緒は、前回よりも明るい表情で沢富の前に現れた。「美緒さん、お待ちしていました。お元気そうですね。どうぞ」美緒は、友達に会うように、気軽な挨拶をした。「また、会えるなんて、うれしい~」美緒は、ニコッと笑顔を作り、好意の視線を発射した。

 

 

 

美緒は、沢富を誘惑するような流し目で赤のトレーナーを脱ぐと、胸元が大きくえぐられたTシャツからこぼれんばかりのバク乳を見せつけながら腰掛けた。目の前には、大きな谷間がはっきり見えるバク乳がブルルン、ブルルンと揺れていた。隣の席の中年男性は、美緒のバク乳を食い入るように見つめていた。事件当事者に尋問する心づもりで緊張していた沢富だったが、JKが友達と待ち合わせて、これから遊びにでも行こうとするような気さくな態度を見せられ、気持が緩んでしまった。

 

 

 

「そうですか、そう言っていただけると、気が楽になります。早速ですが、今日は、主治医についてお聞きしたいのです。何でもかまいません、お話いただけますか?」美緒は、主治医と聞いて、表情が硬くなった。美緒は、ストローに口をつけてしばらく黙っていた。沢富は、暗いムードを打ち消すように、ちょっと砕けた口調で質問した。「まあ、主治医から聞いたこととか、主治医のうわさとか?主治医の癖とか?何でも、いいんだ。くだらないことでもいいんだ。話してくれないか」

 


 

美緒は、ストローから口を離すと、沢富を見つめた。「そうね~~、あのイケメンでしょ。結構、女好きだと思う。婦長とも、できてるかもね。私の直感って、結構当たるんだから。それに、お金に困ることがあったら、いつでも相談してくれ、な~~んて、ことも言ってた。あの目って、ちょっといやらしかったかも。そんなところかな」沢富は、思いもがけない返事に度肝を抜かれた。沢富は、主治医が父親の病状と今後の治療について、どんなことを美緒に言ったかを具体的に知りたかった。

 

 

 

「へ~~、そんなことを。確かに、あの主治医、イケメンですよね。ところで、お父さんの病状は、安定していたわけでしょ。突然、亡くなったことについて、何か言っていませんでしたか?どうも腑に落ちないんです、美緒さんもそう思われるでしょ」美緒は、亡くなってしまった父親のことを思い出したくなかった。突然の死は心臓が弱っていれば、当然起こりえるもので、主治医を悪く考えるのは、お門違いではないかと思った。

 

 

 

「父のことは、もういいんです。先生は、最善を尽くしてくれました。私のことも心配してくれました。とっても、やさしくてすばらしい先生だと尊敬しています。父の死は、運命とあきらめました。くよくよしても始まらないと思うんです。それより、将来のことを考えたいのです」沢富は、自分の刑事根性が情けなくなった。確かに、不審な点があれば、刑事として追求すべきだと思ったが、それ以上に、残された子供の将来のほうが、もっともっと大切なことに気づかされた。

 


 

「申し訳ない。ほんと、ばかだった。美緒さんの気持も考えないで。そうですよね、美緒さんには、これからの将来がある。本当に、お父さんの突然の死は、お気の毒でした。もう、主治医についての詮索は、この辺でやめます。主治医は、脳外科医とし有名な方だし、美緒さんにも親切にされたのですね。見上げたものです、さすが、名医といわれるだけ、ありまね。それに比べ、僕は、疑うことしか知らない、とんまな刑事です。穴があったら、入りたいぐらいです」

 

 

 

美緒は、うつむいて、クスクス笑っていた。刑事は、偉そうに国家権力を振りかざし、自分のことをへりくだるようなことは決してしないものだと、今までずっと思っていた。取調室で容疑者を怒鳴りつけ、鬼のような形相で問い詰める姿が、脳裏に焼きついていた。それは、刑事ドラマの見すぎだったように思ったが、こんなにも、気が弱そうで、やさしい刑事がいると思うと、心の底から笑いがこみ上げてきたのだった。

 

 

 

「沢富さんって、やっぱ、優しいんですね。最初に会ったときから、やさしそうな方だと思っていました。天国に行った父のことは、もう忘れました。一人ぼっちになってしまたんです。くよくよなんか、していられません。それに、びっくりするような大金が、振り込まれるんです。父は、私のために、生命保険に入っていたんです。保険屋さんが手続きに来られて、びっくりしました。お金のことは、心配要らなくなりました。だから、こんなに、気楽でいられるんです」

 


 

美緒の明るさは、多額の死亡保険金にあったと沢富は、知らされた。父親の死亡は、確かに不幸なことには違いなかったが、死亡保険金が遺族に入ってくることを考えれば、決して、不幸なことではないような気がした。生命保険の遺族への貢献をつくづく感じ入った。「そうでしたか。お父様は、美緒さんのことをしっかり考えておられたんですね。立派なお父さんですね。そのお金で、大学進学も可能ですね」

 

 

 

美緒は、笑顔でうなずいた。父親が健在なときは、家計を助けるために高校卒業後、働くつもりにしていた。だが、多額の死亡保険金が手に入ることになった今、大学に進学することに決めた。「はい、大学に進学するつもりです。そうすれば、好きな人とも結婚できるような気がして」美緒は、顔を真っ赤にして、うつむいた。沢富は、美緒のしっかりした考えに感服してしまった。

 

 

 

「そうですね、大学に進学されて、自分の夢をかなえることのほうが、どんなに大切なことか。僕も、美緒さんを応援します。頑張ってください」美緒は、突然立ち上がり、お礼の言葉を述べた。「そう思われますか。ありがとうございます。頑張ります、必ず大学に合格して見せます、応援よろしく、お願いします」言い終えると、美緒は深々と頭を下げた。そのとき、突然、目の前に、ホルスタインのようなバク乳が垂れ下がった。目のやり場をなくした沢富は、引きつった顔であたりをキョロキョロと見渡した。

 



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