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Yは、暴力団とのかかわりがあり、ヤクの売買にかなり深くかかわっていると考えられたが、これ以上のことを聞きだすことはできなかった。伊達刑事は、沢富刑事から借りたスマホを背広の内ポケットから取り出し、保存されていた主治医の写真を確認した。そして、主治医の画像をYの目の前に差し出した。「おい、この人物に見覚えがあるだろ」しばらく、写真を凝視していたが、顔を振って返事した。「いや、知らん」

 

 

 

 伊達刑事は、一瞬の表情を見逃していなかった。画像を見始めて、3秒後ぐらいにYの表情に一瞬変化が起きた。その後、平静を装い、返事したが、伊達刑事の直感は、主治医と面識があると判断した。しばらくして表情に変化が起きたということは、主治医は、自分の素性を隠すために、変装していたのではないかと推測された。そう考えると、Yは、まったく素性の分からない相手と取引していたと考えられた。

 

 

 

伊達刑事は、ハッタリをかました。「おい、しらばっくれるんじゃないぞ。こいつにヤクを売ったことがあるだろ。隠しても、いずれ分かることだ。素直に、白状しろ」顔面蒼白になったYは、目を閉じて口をつぐんでしまった。しばらく黙っていたが、大きな声で怒鳴った。「しらね~って、言ってるだろ。こんなやつ。もういいだろ。これ以上、話すことはない、たいがいにしてくれ」Yは、貝のように口を閉ざしてしまった。

 


 

伊達刑事は、Yが主治医の顔に見覚えがあるとにらんだが、これ以上追い詰めても、素直に自供する気配はなかった。おそらく、主治医とYの両者は、暴力団とかかわりがあり、Yは、覚せい剤取引の情報を漏らしたならば、暴力団に消される、と恐れているように思われた。「そうか。ダンマリ作戦か。今日は、この辺にしとくか。素直にすべてを白状したほうが、刑は、軽くなるんだぞ。よ~く、考えとくんだな」伊達刑事は、デスクをドスンと右拳骨でたたくと取調室を出て行った。

 

 

 

早速、その夜、伊達刑事は、沢富刑事をマンションに呼んだ。キッチンテーブルに向かい合わせに腰掛けた二人は、ビールで乾杯しYの取り調べについて話し始めた。「成果があったぞ。俺の直感だが、やはり、Yは主治医と面識がある」沢富刑事は、目を丸くして話し始めた。「ヤッパ、主治医は、覚せい剤取引にかかわっていましたか。主治医は、バナナタクシー内でYと覚せい剤の取引をしていたわけですね。となれば、栗原隆治は、主治医とYの顔を憶えていた、と考えていいわけです。殺人動機が見えてきましたね」

 

 

 

伊達刑事も小刻みにうなずき、“考える人”のように、右手を顎の下に当て、殺人にいたった経緯を推理した。「バナナタクシー運転手、栗原隆治は、Yもしくは主治医の依頼を受け、Yと主治医をタクシーに乗せた。おそらくこれは、数回に及んでいたと考えられる。だが、栗原隆治は、二人をタクシーに乗車させただけで、二人の覚せい剤取引については知らなかったと思われる。

 


 

栗原隆治が取調べを受け、主治医とYを乗車させたことが明らかになれば、主治医とYの関係が、発覚することになる。そのことを察知した主治医は、口封じのために、心不全の病死を装い、2月14日()バレンタインデーに、殺意を持って、栗原隆治のペニスを故意に勃起させ、病室内で殺害した。また、共犯者がいたとも考えられる。いたとすれば、婦長がクサイ。おそらく、そんなところじゃないか」

 

 

 

沢富刑事も小刻みにうなずき、返事した。「私も同感です。栗原隆治は、主治医の顔を憶えていたと思われます。声が出なくとも、写真を見せられれば、うなずくことはできます。だから、取調べを受ける前に、息の根を止めたのです。でも、推理はできても、栗原隆治は、病死として処理されたわけですし、医者相手に、殺人の立証は不可能といっても過言じゃありません。もう、これ以上、この事件に首を突っ込むのは無駄なような気がしますが、先輩は、どう思われますか」

 

 

 

伊達刑事が腕組みをして、う~~ん、とうなった。天井を見上げ、コクンと頭を落とし、元気のない声で話し始めた。「確かに、殺人の立証は不可能だ。きっと、Yを問い詰めても、主治医のことは言うまい。唯一の手がかりは、栗原隆治だったんだが、死人に口なし、と言うことになってしまった。もう、この事件は、打ち切ったほうがいいだろう。気休めになるが、美緒ちゃんともう一回、話をしてみてはどうだろう。主治医を追い詰める手がかりが見つかるかもしれんし」

 


 

二人が通夜のようにうなだれていると、ナオ子がチーズと板ワサを運んできた。「何です、お二人とも、悪魔に取り付かれたような暗い顔になって、あなた、また何か、ドジッたんでしょ」笑顔を作った伊達刑事は、話題を替えた。「おい、かわいいカラオケ女王とは、どうなんだ。早く、結婚しろ。かみさんは、仲人をしたくて、うずうずしてるんだ。どうなんだ?サワ」ナオ子は、即座に声をかけた。「どうなの?いつ結婚するの?仲人は、私たちに任せてよ」

 

 

 

沢富刑事は、頭をかきむしった。なぜか、話が長引くと、いつの間にか沢富の結婚の話になってしまうのだった。「そう、せかさないでください。僕は、結婚したいと思っているんですが、彼女のほうが、いまひとつ、はっきりしないんです」ナオ子は、真顔で沢富刑事に気合を入れた。「男でしょ。押して、押して、押しまくるのよ。女って、愛を感じたとき、結婚に踏み切れるんだから。分かった」沢富刑事は、自信はなかったが、ゆっくりうなずいた。ナオ子は、ポンと手をたたくと、冷蔵庫にかけて行った。ナオ子は、冷蔵庫からフグを取り出しながら、夫に声をかけた。「フグが特価だったの。あなたも、手伝って」

 

 

 

年の差なんて

 

   

 

2月27日()、前回と同じマックで美緒と待ち合わせをした沢富は、ブルーのスズキハスラーを駐車場にバックで静かに止めた。車を降りた沢富は、いつものように、ドアを閉めて、斜め前方から、ハスラーのボディーラインをまじまじと見つめた。愛車ハスラーは、スズキ車の開発に携わっている親友の勧めで、一ヶ月前に購入したばかりだった。沢富は、なにげに、女子の熱い視線を感じるかわいい目をしたハスラーが気に入っていた。

 

 

 


 

幸運にも窓際の席が空いていて、前回と同じ席に腰掛けた。今回は、すでに、死亡時の父親の様子は聞きだしていたので、主治医についいて何か知らないか、聞き出すことにしていた。午前11時27分、美緒は、前回よりも明るい表情で沢富の前に現れた。「美緒さん、お待ちしていました。お元気そうですね。どうぞ」美緒は、友達に会うように、気軽な挨拶をした。「また、会えるなんて、うれしい~」美緒は、ニコッと笑顔を作り、好意の視線を発射した。

 

 

 

美緒は、沢富を誘惑するような流し目で赤のトレーナーを脱ぐと、胸元が大きくえぐられたTシャツからこぼれんばかりのバク乳を見せつけながら腰掛けた。目の前には、大きな谷間がはっきり見えるバク乳がブルルン、ブルルンと揺れていた。隣の席の中年男性は、美緒のバク乳を食い入るように見つめていた。事件当事者に尋問する心づもりで緊張していた沢富だったが、JKが友達と待ち合わせて、これから遊びにでも行こうとするような気さくな態度を見せられ、気持が緩んでしまった。

 

 

 

「そうですか、そう言っていただけると、気が楽になります。早速ですが、今日は、主治医についてお聞きしたいのです。何でもかまいません、お話いただけますか?」美緒は、主治医と聞いて、表情が硬くなった。美緒は、ストローに口をつけてしばらく黙っていた。沢富は、暗いムードを打ち消すように、ちょっと砕けた口調で質問した。「まあ、主治医から聞いたこととか、主治医のうわさとか?主治医の癖とか?何でも、いいんだ。くだらないことでもいいんだ。話してくれないか」

 



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