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取調べ 

 

 

 

2月1日(月)、Yは、中州にある飲食店で同伴者と口論になり、その同伴者に暴行を加え、店長に110番された。また、傷害罪で現行逮捕されたYは、背広の内ポッケトに2グラムの覚せい剤を所持していた。その件の自供において、バナナタクシー内での購入を自白した。そこで、バナナタクシーの運転手の聞き込みを行ったところ、運転手Mが、昨年の11月と12月に、Yを乗車させたことが判明した。11月は、Yと50歳前後の男性を中洲から博多駅まで、12月は、Yと30歳前後の水商売風の女性を中洲から平尾まで乗せたことが判明した。これら2回のYの乗車は、栗原隆治の依頼によるものだった。

 

 

 

2月23日()、伊達刑事は、勾留中のYに覚せい剤所持にかかる3度目の取調べを開始した。これまでの取調べで、Yは暴力団組員ではないことが判明していたが、ヤクの売人ではないかと考えられた。伊達刑事は、穏やかな口調で、尋問した。「お前が持っていた覚せい剤は、どこから、入手した?何も恐れることはない。必ず、警察が守ってやる。正直に、話してみろ」

 

 

 

Yは、何度も聞かれる質問に憮然とした態度で答えた。「何度も言ってるように、ヤクを買ったのは、一度きりって言っただろ。酔っ払って、ベンチに腰掛けていたら、知らないやつが近寄ってきて、ヤクを買わないかと誘われたんだ。冗談で買うと言ったら、路上に止めてあったタクシーに誘われて、そのとき、断ろうかとも思ったが、酔った勢いで、買ったってわけだ。そのときのタクシーは、バナナタクシーだ。そいつから一回買っただけだ。もう、いいだろ。勘弁してくれ、刑事さん」   

 


 

Yは、暴力団とのかかわりがあり、ヤクの売買にかなり深くかかわっていると考えられたが、これ以上のことを聞きだすことはできなかった。伊達刑事は、沢富刑事から借りたスマホを背広の内ポケットから取り出し、保存されていた主治医の写真を確認した。そして、主治医の画像をYの目の前に差し出した。「おい、この人物に見覚えがあるだろ」しばらく、写真を凝視していたが、顔を振って返事した。「いや、知らん」

 

 

 

 伊達刑事は、一瞬の表情を見逃していなかった。画像を見始めて、3秒後ぐらいにYの表情に一瞬変化が起きた。その後、平静を装い、返事したが、伊達刑事の直感は、主治医と面識があると判断した。しばらくして表情に変化が起きたということは、主治医は、自分の素性を隠すために、変装していたのではないかと推測された。そう考えると、Yは、まったく素性の分からない相手と取引していたと考えられた。

 

 

 

伊達刑事は、ハッタリをかました。「おい、しらばっくれるんじゃないぞ。こいつにヤクを売ったことがあるだろ。隠しても、いずれ分かることだ。素直に、白状しろ」顔面蒼白になったYは、目を閉じて口をつぐんでしまった。しばらく黙っていたが、大きな声で怒鳴った。「しらね~って、言ってるだろ。こんなやつ。もういいだろ。これ以上、話すことはない、たいがいにしてくれ」Yは、貝のように口を閉ざしてしまった。

 


 

伊達刑事は、Yが主治医の顔に見覚えがあるとにらんだが、これ以上追い詰めても、素直に自供する気配はなかった。おそらく、主治医とYの両者は、暴力団とかかわりがあり、Yは、覚せい剤取引の情報を漏らしたならば、暴力団に消される、と恐れているように思われた。「そうか。ダンマリ作戦か。今日は、この辺にしとくか。素直にすべてを白状したほうが、刑は、軽くなるんだぞ。よ~く、考えとくんだな」伊達刑事は、デスクをドスンと右拳骨でたたくと取調室を出て行った。

 

 

 

早速、その夜、伊達刑事は、沢富刑事をマンションに呼んだ。キッチンテーブルに向かい合わせに腰掛けた二人は、ビールで乾杯しYの取り調べについて話し始めた。「成果があったぞ。俺の直感だが、やはり、Yは主治医と面識がある」沢富刑事は、目を丸くして話し始めた。「ヤッパ、主治医は、覚せい剤取引にかかわっていましたか。主治医は、バナナタクシー内でYと覚せい剤の取引をしていたわけですね。となれば、栗原隆治は、主治医とYの顔を憶えていた、と考えていいわけです。殺人動機が見えてきましたね」

 

 

 

伊達刑事も小刻みにうなずき、“考える人”のように、右手を顎の下に当て、殺人にいたった経緯を推理した。「バナナタクシー運転手、栗原隆治は、Yもしくは主治医の依頼を受け、Yと主治医をタクシーに乗せた。おそらくこれは、数回に及んでいたと考えられる。だが、栗原隆治は、二人をタクシーに乗車させただけで、二人の覚せい剤取引については知らなかったと思われる。

 


 

栗原隆治が取調べを受け、主治医とYを乗車させたことが明らかになれば、主治医とYの関係が、発覚することになる。そのことを察知した主治医は、口封じのために、心不全の病死を装い、2月14日()バレンタインデーに、殺意を持って、栗原隆治のペニスを故意に勃起させ、病室内で殺害した。また、共犯者がいたとも考えられる。いたとすれば、婦長がクサイ。おそらく、そんなところじゃないか」

 

 

 

沢富刑事も小刻みにうなずき、返事した。「私も同感です。栗原隆治は、主治医の顔を憶えていたと思われます。声が出なくとも、写真を見せられれば、うなずくことはできます。だから、取調べを受ける前に、息の根を止めたのです。でも、推理はできても、栗原隆治は、病死として処理されたわけですし、医者相手に、殺人の立証は不可能といっても過言じゃありません。もう、これ以上、この事件に首を突っ込むのは無駄なような気がしますが、先輩は、どう思われますか」

 

 

 

伊達刑事が腕組みをして、う~~ん、とうなった。天井を見上げ、コクンと頭を落とし、元気のない声で話し始めた。「確かに、殺人の立証は不可能だ。きっと、Yを問い詰めても、主治医のことは言うまい。唯一の手がかりは、栗原隆治だったんだが、死人に口なし、と言うことになってしまった。もう、この事件は、打ち切ったほうがいいだろう。気休めになるが、美緒ちゃんともう一回、話をしてみてはどうだろう。主治医を追い詰める手がかりが見つかるかもしれんし」

 


 

二人が通夜のようにうなだれていると、ナオ子がチーズと板ワサを運んできた。「何です、お二人とも、悪魔に取り付かれたような暗い顔になって、あなた、また何か、ドジッたんでしょ」笑顔を作った伊達刑事は、話題を替えた。「おい、かわいいカラオケ女王とは、どうなんだ。早く、結婚しろ。かみさんは、仲人をしたくて、うずうずしてるんだ。どうなんだ?サワ」ナオ子は、即座に声をかけた。「どうなの?いつ結婚するの?仲人は、私たちに任せてよ」

 

 

 

沢富刑事は、頭をかきむしった。なぜか、話が長引くと、いつの間にか沢富の結婚の話になってしまうのだった。「そう、せかさないでください。僕は、結婚したいと思っているんですが、彼女のほうが、いまひとつ、はっきりしないんです」ナオ子は、真顔で沢富刑事に気合を入れた。「男でしょ。押して、押して、押しまくるのよ。女って、愛を感じたとき、結婚に踏み切れるんだから。分かった」沢富刑事は、自信はなかったが、ゆっくりうなずいた。ナオ子は、ポンと手をたたくと、冷蔵庫にかけて行った。ナオ子は、冷蔵庫からフグを取り出しながら、夫に声をかけた。「フグが特価だったの。あなたも、手伝って」

 

 

 

年の差なんて

 

   

 

2月27日()、前回と同じマックで美緒と待ち合わせをした沢富は、ブルーのスズキハスラーを駐車場にバックで静かに止めた。車を降りた沢富は、いつものように、ドアを閉めて、斜め前方から、ハスラーのボディーラインをまじまじと見つめた。愛車ハスラーは、スズキ車の開発に携わっている親友の勧めで、一ヶ月前に購入したばかりだった。沢富は、なにげに、女子の熱い視線を感じるかわいい目をしたハスラーが気に入っていた。

 

 

 



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