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こぴかな時々あー++

140文字シリーズ(佳奈多セレクション)

 

佳理編

 

「直枝、15周年おめでとう」

「僕15歳じゃないよ」

「AIR15周年でしょう」

「僕とどう関係が」

「まず15を先頭に持ってくるの。そしてIとRを入れ替える。5の形を整えて1に付けるとKになるでしょう?読んでみなさい」

「佳理」

「誕生日プレゼントだから」

「いやいやいや」 

 

 

「理樹君はどっちも左?」

「そうだね」

「そう。じゃあ左は直枝ね」

「え?うん」

「じゃあ右が上」

「佳奈多さん何指組み替えてるですかっ」

「ち、違うわっ、右が自分なんて思ってないわよ!」

「俺は最初から左が下だ」

「棗先輩はあっち行ってください!」

「ここには左を下にしたい者が多いからな」

 

 

「カレーライスを英語っぽく言ってみます」

「それ和製英語よ」

「わふ。では、カリー!あ」

「どうしたの」

「やっぱりやめます心が痛いです」

「え?あっ」

「どうしたのクドは顔暗いし佳奈多さんは赤いよ」

「リキが悪いんです!」

「ええっ!?」

「そうね。悪い人だわ…悪い人」

 

 

 

「ニジニ・ノヴゴロド!ちらっ」

「何で僕を見るの」

「ソ連時代の名前がゴーリキーだった町だな」

「ハルカ川沿岸デスネ」

「ヴォルガ川です」

「サハリンからは遠いな」

「佳奈多さんは好きな地名あります?」

「カリーニングラード」

「やっぱりそこですか…」

「えっ?あ!ち、違うのよ!?」

 

 

「佳奈多さん、踏んで!」

「え?はぁ!?あなた一体何を」

「いいから、お願い…」

「な、何よそんな縋るような目で」

「早く踏んでくれないとおかしくなっちゃうよ」

「あなたどうかしてる」

「そんなことないよ正常だよ」

「正常。正常、ね」

「佳奈多さん無意識に暴走するから、だから早く」

 

 

 

風紀委員編

 

 

「何その身だしなみは」

「俺はアウトローだ」

「じゃあ空飛んで見せなさいよ」

「は?」

「アウトローなら自然法則だって無視するべきでしょう。これが人類の意味だとばかりに空飛んで見せなさいよ」

「くっ。だが規則なら校外の貴様に権限は無いはず」

「こっ、…声が同じだからいいのよ!」

 

 

はるかな編

 

80年代佳奈多

「葉留佳をこの私が征服するのだ!」

90年代佳奈多

「葉留佳のいない世界とかクソだから一度ぶち壊して再建する!」

00年代佳奈多

「だったら何故私が愛した葉留佳は死ななければならなかった!」

10年代佳奈多

世界とかぶっちゃけどうでもいいんだよねぇ。私が葉留佳と

いちゃつければさぁ!」

 

 姉が視察旅行から帰ってきた。外泊申請書にそうあったからそうなんだろう。疲れているのか、葉留佳の評価が正当じゃないとか最初から排除されたとかよくわからないことを言ってた。紙袋の中身はお土産かと思って開けようとしたらなんか凄い怒られた。あと美魚ちんも同じ日に帰ってきた。 

 

 

 

「西園さん葉留佳の相手面倒で無い?」

「面倒ですね。でも話は興味深いです。言葉の織りなす美しさ。人の愛の紡ぐ美しさ。対して三枝さんは数学の理路整然とした美しさを語ってくれるのです」

「そう…ならいいの」

「嫉妬も時には美しいと私は思いますよ」

「な…ッ!?」 

 

「姉妹だけで無く3人で仲良くなれば問題無いのでは?」

「ええそうね」

「もう三枝さんとは仲良しですし、二木さんは同志と呼べる関係です」

「えっ」

「今年の夏はひときわ大変でしたね」

「そうね…」

「冬は三枝さんも」

「葉留佳は巻き込んでは駄目!!」 

 

 

http://j.mp/1cO9aTA

「は?今なんて?」

「制限140文字だから圧縮したのあなたこういうの好きでしょ」

「いや意味がわかりまセン」

「だったらわかるまで頭を悩ますといいわ」

「今日クリスマスパーティだけど仕方ないみんなに公表して考えて貰お」

「えっ」

 

 

(リンク先の内容)

葉留佳。私とあなたは誕生日が同じだから、いつも普通にお祝いすることが出来ないの。だから今日はその分まであなたのお祝いをしたいの。おそろいのリボン。私は今日これを付けて部屋であなたを待っているわ。あなたはこのプレゼントを喜んでくれるかしら

 

 

「七夕なので笹を飾りまショウ」

「私は笹よりも林檎がいいわ。野林檎」

「何言ってんデスカネこの姉。あ、天の川。綺麗だよ?」

「あーちゃん先輩よりも私を見てくれないかしら」

「ほんと何言ってんデスカネこの姉。雨が降り続いたから風邪でもひいたんデスカ?」

 

 

 

「家事とは家庭裁判所で取り扱う事件である。三枝家の家事で私達姉妹はいがみ合った。その経験から私は法曹を目指す事にした。家事は全て私がやる。葉留佳には無理だ葉留佳は卵焼きも作れない家事は処理できない」

「お姉ちゃん今日はそろそろ休ンだら?」

 

 

 

 

 

 

三枝家と棗家は遠縁の関係で恭介は大学入学後三枝の後継者と結婚させられることになっていたが恭介はそんなのイヤだと就職活動するも目的意識に乏しいため就職が決まらないままずるずるそんな恭介に寄り添うようにあーちゃん先輩も就職組に、と考えましたが私は佳理派なのでこの説は却下です

 

 

 

 

 


こぴかな時々あー++

検事恭介の闘い

 

某月某日 リトバス地裁刑事法廷 

・被告人:

容疑:詐欺罪

容疑の詳細:

被告人は自らを朱鷺戸沙耶と名乗る別人に偽装し、被害者直枝理樹を騙して心をもてあそんだ。

尚、本件の傍証として、被告人は本件とは別に、悪質な手段で直枝理樹を騙した余罪があることを申し添える。

証人申請:

直枝理樹(本件の被害者)、能美クドリャフカ、三枝葉留佳

 

「ここまで来るのに長かった…」

 私は、窓にかかったブラインドを指で押しながら、外の風景を眺めていた。特に夕日が綺麗というわけでもなかったので、いっそ夕方までそうしていようかとも思っていた。リトバス地検特務検事、棗恭介。それが今の私の職務だ。責任ある仕事を受け持っている。いつものように俺などという言葉使いは出来ない。

「ぼす。まだ仕事は終わっていないぞ」

 私の腹心であり、事実上の副リーダーでもある棗鈴が声をかける。その周りには、神北小毬・井ノ原真人の両名も既に着席している。リトバス地検特捜部、「朱鷺戸沙耶内乱容疑事件」の捜査のために特別に設置された部署だ。その事件が、いよいよ初公判を迎えようとしている。

「裁判で足下をすくわれないためにも、今回の事件をおさらいしましょー」

 そう言った小毬は、プロジェクターを準備し始めた。

 

 事件の始まりは、某特定高等教育学校校舎に謎の地下空間が形成され、そこを謎の女性「朱鷺戸沙耶」に占拠されてしまったことであった。警察・検察共に朱鷺戸沙耶逮捕に全力を挙げたが、そもそも朱鷺戸沙耶という人物が存在すること自体が立証出来なかった。あやという少女が事件に関与していることまでは突き止めたものの、「沙耶」と同一人物であるという立証が出来ず、また事件の遂行能力に重大な疑義があったことから、真犯人は他にいると結論づけられ、捜査が行われた。

 

 「沙耶」とは何者なのか。実はまだよく解明されていない。ただ、それが「あや」という少女の意志によって生み出されていることまでは判明している。この学園にある不思議空間を使えばそういうことは確かに可能だ。だが一方で、その空間にはある一定の権限がないとアクセス出来ない。「あや」にはおそらくそれは無い、とも言われている。つまり、誰かが裏で「あや」を手引きしているということだ。

 「沙耶」の基本的性格は「あや」のそれを継承している。しかし、時折「あや」にしては理不尽な言動をすることがある。それこそが、あやを裏から操る「真犯人」の人格なのでは無いのか。

 我々はそう考え、愛知県に向かう新幹線に乗り込んだ。鉄道ダイヤの裏を突き止めることは捜査の基本だからだ。

 

 名鉄瀬戸線の、決して追い越しをしない急行電車に何度も乗っているうちに、我々はある事に気づいた。本来「真犯人」は、「あや」より高いスペックを有している。誰にも気づかれず「あや」を招き入れ、サポートし、時には「あや」に成り代わらなければならないからだ。だが「あや」より目立ってしまうことを避ける為、意図的に自分の能力を落として「沙耶」を操作している。それが結果的に、沙耶の間抜けな言動に繋がっているのだ。

 我々は「沙耶」の間抜けな部分を洗いざらい抽出し、会議室で繰り返しチェックした。初めは笑いすぎて仕事にならなかったが、それもそのうち慣れた。そして、あることに気づいた。この間抜けな言動が演技だとしたら、それは「真犯人」を見つけ出す手がかりにはならないのではないか、ということに。

 

 捜査は振り出しに戻った。事件は現場で起きている、という元第二院クラブ代表と苗字が同じな刑事の言葉を思い出し、我々は校舎の地下へと潜った。そこには、事件の舞台ともなった温泉が残っていて、何故か温泉旅館が営業していた。

 昨今の何でも民営化してしまえの風潮に乗っ取り、この温泉も民間運営の温泉保養施設に改装されたのだそうだ。笹瀬川温泉といういかにもどこかの渓谷にでもありそうな名前がついている。女将に話を聞いた。この近くには、女性が自分の下着を奉納することで望むものが手に入る、という言い伝えのある神社があるのだそうだ。神社といっても事件後地元の人間が勝手に建立したものだ。御利益は期待出来まい。だが私は、そこに別の期待をしていた。

 神社に行くと、そこには観光客向けの鳥居と祠があった。話を聞くと、ここには神主はいないらしい。巫女は需要があるのでバイトで雇うが、人のいない平日は事務員が詰めているだけらしい。運営は近隣の宗教法人に任されているとのことだ。

 その事務員に密かに耳打ちされる。金を積めば、内緒でご神体を見せてくれるという。そんなことをしていいのかとも思ったが、そもそも金儲けが目的の宗教法人なので、お金が落ちないことには意味が無いらしい。なかなか値が張ったが、そこは4人で分担した。

 ご神体は、女性用下着だった。言い伝えが言い伝えなので、さもありなんという感じだ。井ノ原は意外とこういうのに不慣れらしい、顔を赤くしてうつむいている。少し触って良いかと神北が了解を取り、下着を見聞し始めた。

「絹ですね~。これはなかなか良い下着ですよぉ~?」

「はい。言い伝えにあるとおりこれは朱鷺戸沙耶が身につけていた下着なのですが、実は彼女、結構なお嬢様だったのかもしれませんねぇ~」

 お嬢様。その言葉に私は引っかかるものを感じた。

「すまん、先に宿に戻っている」

 

 宿に戻ってノートパソコンを開き、捜査資料のフォルダを開く。私は、商店街の監視カメラが偶然捉えた、朱鷺戸沙耶と直枝理樹が一緒に写っている写真を開いた。直枝理樹が朱鷺戸沙耶のスカートをめくっている、準強制猥褻の現場写真である。被害者が特定出来ていないため、こちらの捜査も全く進んでいない。

「そう、この事件はどちらもが被害者なのだ…」

 私は思わず呟いた。そして、先ほどデジカメで撮影したご神体の写真と、この朱鷺戸沙耶がはいている下着とを見比べる。

「同じだ…」

 色は全く同じベージュ。材質も、写真で見る限り同じに見える。ご神体の下着は朱鷺戸沙耶のもので間違いない。それはほぼ間違いないだろう。問題はそれが、「あや」の方なのか「真犯人」の方なのか、だ。

 私は改めて写真を見た。シンプルだがセクシーな下着だ。いやそういうことを言いたいのではない。この写真の写っている場所、ここは商店街だ。おかしくはないか? 朱鷺戸沙耶は、地下校舎から一切出てこなかったと聞いている。何故この時ばかりは外に、しかも人がいて目立つ商店街に出てきたのか。

 私は調書の写しをもう一度読み返してみた。直枝理樹の供述に、こんな下りがあった。

『彼女は孤独だったんです。そのくせ強がりで、世間知らずで…。よくよく聞いてみたらまともに外で遊んだこともないというんです。だから連れ出したんです』

「世間知らず…か」

 先ほどの事務員の言葉が合わせて思い出される。

『結構なお嬢様だったのかもしれませんねぇ~』

 だがこれだけでは決め手にならない。お嬢様なんていくらでもいる。私は矢印ボタンをクリックして、調書を流し読みしていた。ふと、手が止まった。気になる記述を見つけたのだった。

 

『残波岬灯台付属プラネタリウムの解説員が足りない、至急応援に来て欲しい』

 この手紙を出した後、我々は残波岬で待機し続けた。

「ボス、あいつ来やすかね」

 井ノ原が宮平牛乳とサーターアンダギーをほおばりながら話しかけてくる。

「来るさ。どれだけアニメ業界で評価が急上昇しようが…奴はナレーターさ」

「来たぞ!」

 鈴が指さす方向を見ると、確かに呼び出した相手が灯台に向かって歩いていた。4人で一斉に駆け寄る。その姿を認めた彼女は立ち止まり、こっちに振り返る。

「とんだ茶番ね。プラネタリウムなんてどこにも無いじゃない」

「ああ、そんなものは最初から無い。灯台ですら資金難で運営が厳しい有様だからな」

「ま、わかってたけどね。なあに? こんなところまで呼び出して」

「わかりにくいかもしれないが、残波岬は断崖絶壁だ。落ちたら死ぬ」

「…そう。気をつけるわ」

 波しぶきが降りかかり、鈴がわぷっと声を上げる。それを見て、彼女が促す。

「さっさと用件を済ませましょう?」

「そうだな──二木佳奈多。お前に幾つか訊きたいことがある。神北」

「ほいさ~」

 言われて前へ進み出た神北が、袋の中から物を取り出す。例のご神体──では無いが、それと同じものだ。

「!」

 二木の表情が変わる。それを見て、神北が続ける。

「かなちゃん。これ、かなちゃんのだよね?」

「──違うわ」

「違わないよ? だってこれ、あなたの妹さんから預かったものだもの」

「!!!」

「二人で下着の交換してたんだよねえ? というより無理矢理だったって妹さんは言ってるけど…」

「は、葉留佳の…葉留佳の下着が貧相だったから、私のと交換した…それだけよっ。それがどうかしたのっ!?」

「お前は…随分と妹のことを気にかけているようだ。だがこういうのはどうだ?」

 そう言って鈴は、丸めた新聞紙を手に二木に斬りかかった。二木はそれを軽くよけ、新聞紙を手でつかみ取ってしまった。

「…これが何? この程度なんでもないわ」

「楽しいか?」

「楽しいかって? こんなものが楽しいはず無いでしょう。ああ、でもあの子はこういうの好きだったわね…」

「そうだ。妹が好きなことなら、お前はとりあえずやってみる。いい姉さんだ。だが…少々やり過ぎたな」

「? 何の話よ」

「今神北が持っている下着。調べたところ、市内のデパートでまとめて購入されたものであることがわかった。──ところが、だ。そのうち一枚を、どういうわけか他人が使用していたことがわかった」

「…」

「朱鷺戸沙耶。あの内乱事件の主犯だ」

「だからなんです? 私がその朱鷺戸沙耶の正体だとでも?」

「…」

「そんなのわからないじゃないですか。死体現場に隣の部屋の人の包丁があった、でもそれは部屋にその人がいた証拠にはなっても、殺したという証拠にはならないんですよ?」

「ああ。だがその場合でも、その人からは重要参考人として話を聞かなければならない。君の場合もだ。下着をあげたにしろ盗まれたにしろ、どうやってそれが朱鷺戸沙耶の手に渡ったかを話してもらわねばならない」

「…」

「無論君には黙秘権がある、君にはわざわざ言うまでも無いとは思うがね」

 

 

 

 それから紆余曲折あって他の物証も揃えることができ、何とか立件にまでこぎ着けた。だがこの間、二木はずっと黙秘したままであった。

 

 そして初公判の日を迎えた。

 裁判官はあーちゃん先輩。被告人二木佳奈多には弁護団が付き、法廷には弁護団長の西園美魚、隣に宮沢謙吾が座っている。

「西園か…あいつはちょっと苦手なんだよな…」

 もちろん聞こえないぐらいの小声で、独り言を呟く。

 

 検察側が立証を行い、被告人に質問をする。法廷での黙秘は不利になるため、さすがに二木も口を開く。賢い女だ。こんな事さえ無ければ──もしかしたら私の隣に座っていたかもしれないのに。

 続いて、弁護側の反対尋問が始まる。西園が冷たく、僅かに軽蔑した表情を浮かべてちらりとこちらを見た。悪い予感がした。

「被告人にお聞きします。検察側は、あなたの下着を証拠として申請していますが、そもそもこれはどのような理由で押収されたものですか?」

「──わかりません」

「提示された令状に理由が書いてあったはずです。覚えていませんか?」

「そもそも令状の提示などありませんでした」

「令状も無しに押収されたのですか?」

「いえ。私から押収されたのではありません」

「あなたからではない。それは一体どういう事ですか?」

「わかりません。妹に貸していたので、もしかしたらそっちを──」

 悪い予感がした。

 

 続いて証人尋問に移る。検察側が呼んだのは3名。直枝理樹は二木佳奈多があまり校外に出たことがなく遊んだ経験が無いことを証言し、能美クドリャフカは二木佳奈多に殆ど友達がいないこと、夜中に能美が寝ている間でも勉強と称してずっと起きていたことを証言した。弁護側質問も特に問題無く過ぎていった。

 そして3人目の三枝葉留佳への弁護側質問で、事件は起きた。

「検察側が証拠として提出している下着、あれはあなたのものですか?」

「…いいえ、姉のものデス」

「押収されたのですか?」

「いえ、私が任意で提供しまシタ」

「人の物を勝手に提供したのですか?」

「それは、捜査に必要だからと…」

 異議あり! と私は叫んだ。任意捜査を否定するような流れになってはさすがに困る。裁判官も異議を認めた。西園は、表情を変えず、そのまま質問を続けた。

「では質問を変えます。他に下着を提供した人はいませんか?」

「え? 意味がよく…」

「検事さん以外にも誰か下着を渡したという事実はありませんか?」

 再び私は異議あり! と叫んだ。これは誘導尋問だと主張したが、今度は認められなかった。

「そんなことは…して…ないです…」

「証明出来ますか? それか誰か証人になってくれる人は?」

「そんなこと…無理です」

「検事さんから疑いの目を向けられることはなかったんですか?」

「ないです! そんなことは全く無いです!」

「全く無い。お姉さんは逮捕されて、同じ下着を持っているあなたは全く疑われなかったと」

「え? え? え?」

「──以上です」

 

 その日の夜。三枝から、証拠品の下着を返してくれと電話があった。公判中なのでもちろんそんなことは出来ない。そう説明したが、なかなか引き下がってくれなかった。仕舞いにはこちらが罵られる始末だった。

 次の公判で、弁護士席には西園の隣に来ヶ谷が座っていた。緻密に論理構築する西園と違い、豪腕で名高いのが来ヶ谷だ。そして証人席には、再び三枝がいる。今度は弁護側が証人として申請してきたのだ。

 来ヶ谷の質問が始まる。

「そもそもあなたは、何故検察に協力しようと思ったのですか?」

「姉に…改心して欲しくて」

「改心とは?」

「以前もこういうことがあったので。その時は、私に変装して…」

「ふむ。だが、それでお姉さんは既に改心したとは思わなかったのかな?」

「それは…」

「何故今回のすり替わりもお姉さんの仕業だと思った?」

「…警察や検察の人がそう言うので…」

 しまった。思わずそう口に出しそうになり、咄嗟のところでそれを飲み込む。

「一言そう言われただけか?」

「一言だけということは…説得される感じだったので…」

「説得か…。どんな感じに?」

「お姉ちゃんが悪い事したんだからきちんと証明して罪を償わないといけない…という感じの…」

「ふむ。それは例えば私が同じ言葉を言ったら、恫喝に聞こえるレベルか?」

「そう…デスネ」

 三枝を説得したのは神北だ。傍らの神北を見る。狼狽してとても反論出来る状況では無い。まずい。これは非常にまずい。私は咄嗟に判断し、手を挙げた。

「裁判長。証拠品の取り下げを申請します。C-13番について──」

「今更証拠品の取り下げ程度で済むとでも思うのか? これは既に、違法捜査の疑いのある事件だぞ」

 来ヶ谷に一括される。それに抗議する間もなく、西園が立ち上がって言った。

「裁判長。ただいま検察側から取り下げ申請のあったC-13番について、改めて弁護側から証拠品として申請したいと思います──」

 

 

 

 約一ヶ月後。判決が出た。

「主文。被告人を無罪とする──」

 完敗だった。裁判の焦点は違法捜査の有無に絞られてしまい、こちらが揃えたその他の証拠は一切顧みられることが無かった。控訴しても勝ち目など無い。

 自信はあった。私の感では他に「真犯人」などいない。だが二木佳奈多はもう訴追出来ない。つまり「真犯人」はもう、永久に裁判にかけられることはないのだ。残るはただ一つ、「あや」を裁判にかけることだけ。──そう、「あや」もまだ、捕まってはいないのだ。

 そんなことを想いながら、去って行く裁判官達に向かって礼をしていた。ふと、裁判官がこちらに振り返った。その口元は緩んでいた気がした。

 

 

 

 

 


こぴかな時々あー++

佳奈多と理樹の七夕伝説

 

 むかしむかし。まあリトバスが発売されたぐらいの昔と思ってください。…結構前ですね。

 

 あるところに、佳奈多姫と理樹星という、たいそうまじめで賢くて働き者の二人がおりました。

 

 

 佳奈多姫は堅物で融通が利かないし、理樹星はひ弱なくせに正義感が強くて、二人ともすぐ自爆するタイプでした。

 

 そんな二人を心配した女子寮長のあーちゃん先輩は、二人を仲良くさせてお互いを見つめ直すきっかけを作ろうと思い、寮長室で二人きりにして作業させることにしました。

 

 最初は理樹星がさんざん罵倒されたりと大変だったようですが、じきに仲良くなりました。

 大変仲良くなりました。

 仲良くなりすぎて、そのうち寮長室に来ずに保健室に行くようになってしまいました。保健室で何をしているのかは、まあ書きません。怒られるのはいやなので。見つめ直すのではなくて見つめ合っていた、ぐらいにしときましょうか。

 

 

 その話を聞いて、恭介さんは激怒しました。

 

「俺の理樹に、なんてことを…!」

 

 恭介さんはいやがらせに保健室に笑える音楽を流そうとしましたが、保健室は佳奈多姫のテリトリーだったため、うまくいきませんでした。

 

 そこで恭介さんは、理樹星と佳奈多姫が行き来できないように、大雨を降らして二人の間に激流を作ってしまいました。

 

「恭介! おまえ、何で男子寮と女子寮の間に天の川こさえてくれてんだよ!」

「今日女子寮に夜這いかけるつもりだったのに!」

「夜這いかける振りしてわざと警備の女子寮生に捕まってしばき倒されるのだけが生きる楽しみだったのに!」

 

 恭介は一部の男子寮生の突き上げを食らってしまいました。

 

「まあまあ、みんな。恭介のことはアタシが突き上げでもしばき倒しでもしておくから。ここは押さえて」

「あーちゃん先輩!」

「…何でおまえはここにいる」

「ちょっと所用があってね。男子寮長に。そしたらその間に恭介が天の川なんか作ってくれちゃうから。もう、帰れなくなっちゃったじゃないのん。責任とってね恭介☆」

 

 あーちゃん先輩は恭介にまとわりついています。

 

「い、いや待て、帰れる、帰れるようにするから」

「あらそう。直枝くーん、かなちゃんのとこ行けるわよ」

「待て、それは駄目だ!」

「なによ。アタシが女子寮に帰れるなら、直枝君だってかなちゃんのとこ行けるでしょ」

「そうじゃなくて物理的な意味ではなく社会的にというかなんだなあのだな」

「およよ、かわいそうなかなちゃんと直枝君。アタシが二人の分まで思う存分恭介といちゃつくことにするわ…」

「いやだからそれは! わかった、7/7には会えるようにする、だから離れてくれ!」

 

 

 こうして、二人は年に一度、7/7にだけ、会うことが許されるようになったのです。

 しかし佳理なんて認めないという他ヒロイン勢の嫉妬で赤道付近の北太平洋上に上昇気流が発生し、熱帯低気圧となって日本付近に接近してくるため、この時期は雨が降って会えないことが多いのでした。

 

 そこで旧暦の7/7頃にあたる8月中旬に東京の埋め立て地で二人は会うようになったのでした。

 

 

 めでたしめでたし

 

 

 

「…コミケデートって、かえって周りから嫉妬されますよ」

「ふえ? そうなの?」

「まあ、あの二人ならやらかしそうではありますけど」

 

 

 

 

 


こぴかな時々あー++

140文字シリーズ(あーちゃん先輩)

 

 

 

「あーちゃん先輩甘い物をどうぞ」

「アタシは甘い臭いのする話の方が好きだなー」

「カラメルの屋台ですか?」

「気にしないでアタシが汚れて荒んでるだけだから」

「汚れてる。ではお風呂に…あ、私甘い臭いの入浴剤知らない」

「どうしようこの子苦手だ。歳変わんないし」 

 

 

「私はみんなの様に甘くありません。仕事して下さい」

「アタシ棗君達と遊びたいなー」

「駄目です」

「三枝さんと遊びたくない?」

「仕事して下さい」

「生か死か、それが疑問だ」

「尼寺に行け、とでも言って欲しいんですか」

「そんなかなちゃんが大好き」

「やめて下さい」 

 

 

「ハルモニアとアンモニアって似てますヨネ」

「ニアしか合ってないけどね」

「ハルモニアは甘い臭いがするのデスヨ」

「体に悪そうだけどね」

「アマモニアと化学反応してきょげーってなるのデスヨ」

「4/1だしね」

「反応悪いデスネ」

「せめてシナリオが城桐央ならねえ」 

 

 

「何故恭介氏は異性に興味が無い」

「理樹達がいれば十分だ」

「心の補完が必要デスネ」

「NYF.ATyanフィールド展開」

「友情グラフ反転」

「精神汚染が始まってます!」

「いやだぁ俺はまだ自由でいたいんだ!鈴、そこにいるんだろ鈴!?」

「見てたがあたしにはよく意味がわからない」

 

 

 誕生日だというのに恭介が部屋に引き籠もってるから迎えに行ったの。

「お待たせ恭介。あなたの愛するあーが迎えに来たわよん」

恭介が扉を閉めようとするので、とっさに足を差し込んでこじ開けて、ついでに部屋の中に入ってやった。後どうなったかは、ご想像あれ★NYF 

 

 

 

 

 


こぴかな時々あー++

けっこんをしたがらないリトバスの棗恭介

 

原案:「けっこんをしたがらないリスのゲルランゲ」(ロッシュ=マゾン)

 

 

 寮付属の食堂。ここは広いので、寮生が会議室代わりに使うこともあります。今まさに、女子寮生達が会議の真っ最中。食堂は女生徒達で埋め尽くされています。特に男子禁制というわけでも無いようで、後ろの方では男子寮生も数名、会議の行方を見守っています。──そう、男子寮生にとっても気になる会議の内容なのです。

 

 司会は、あーちゃん先輩から女子寮長を引き継いだ二木佳奈多のようです。

「『うちの兄についての相談です。うちの兄はやたらかっこつけていますがその実ヘタレで、恋愛とか全くダメな人です。奥手なのを隠そうと、幼なじみの男の子に手を出すふりをしたり、妹にセクハラしてきたりします。正直いたたまれないので何とかして下さい』──女子寮在住、棗鈴さんからのお便りです」

「なんで名前読み上げるんだっ! 手紙にした意味ないだろっ!」

 手紙の主から抗議の声が上がりました。

「だって名前書いてあるんだもの」

「それは…手紙には名前を書くものだと教わった」

「匿名の手紙だってあるじゃ無い」

「かなたは堅物だから『匿名掲示板って悪質なデマサイトの事よね』とか言って無視されるだけ、という風に聞いた」

「…誰がそんなこと言ったのよ」

 鈴は口では答えず、ぴっと傍らの女生徒を指さしました。指さした先にいたのは、前女子寮長のあーちゃん先輩でした。

「にゃはは…」

「…。」

 佳奈多、もの凄く何か言いたそうでしたが、ぐっとこらえて続けました。

「とにかく。棗さんはお兄さんのことで困っています。何か解決策を提案してあげられませんか?」

 会場はざわつきだします。相談する声や尾ひれを付けた噂話、いろんな声が混じっています。

「あんなかっこいいお兄さんがいるのに、贅沢な話よねえ」

「でもセクハラしてくるんでしょ? ちょっとそれは…」

「えー、でもあたし棗君にならセクハラされた~い」

「セクハラって何されるのかしら」

「あんたじゃ相手にして貰えないから安心しな」

「というか、それを妹にしかしないというところが問題なんでしょ?」

「女慣れしてないだけならともかく、妹に手を出すんじゃねえ…」

「手を出してるのは妹じゃ無くて直枝君だって話よ」

「そうそう。あれはガチよ、ガチ」

 それを聞いていた唯湖が、挙手して立ち上がります。

「ではこういうのはどうだろう。恭介氏に真っ当な恋人を用意して、妹や男の子で変な発散をする必要が無いようにするんだ」

「そうはいいますが、急にそんな真っ当な恋人と言われても」

「いや、少し言い方が悪かったな。フリでいいんだ。おままごとみたいなものだ。恭介氏に、ああ女の子っていいものだなと、そう思わせるだけでいいんだ」

「女の子だったらいつも私達が近くにいるじゃないデスカ」

 葉留佳が口を挟みました。

「うむ。だが私達は元々理樹君を中心に集まった面子な上に、殆どが鈴君のクラスメートだ。恭介氏にとっては妹の延長線としか捉えられないだろう」

「私達では恭介さんの恋人にはなれないと…」

 何故か美魚が残念そうに言います。

「まあそう気を落とすな。どのみち今の恭介氏では、誰も落とせない不沈戦艦状態だぞ。それを改善する為の作戦でもある」

「じゃあ、それは誰がやるんですか? あと、生半可なことをすれば棗先輩は逃げるだけだと思いますけど」

「恋人役はこの場で公募しよう。やり方は…そうだな、一,二週間ほど同じ部屋で同居生活して恭介氏の病んだ心を解きほぐしてあげる、というのはどうだろう」

「お、同じ部屋で同居って…! それって同棲って事じゃ無いですか!!!」

 真面目な佳奈多、つい大声を上げてしまいます。

「ふ、不潔…いえ不潔とまでは言いませんが、規律違反です! 寮長として認めるわけには行きません!」

「何故だ? 女子寮に男子が入ってはいけないという規則はあるが、逆は無かったはずだぞ?」

「常識の問題です! モラルの問題です! 何かあったら誰が責任を取るんですか!」

「そりゃあ…恭介氏だろう」

「…。」

 佳奈多、もの凄く反論したそうな顔をしていますが、言葉が出てこないようです。

「まあしかし、佳奈多君の言い分もわかる。なので部屋には何かあってもすぐわかるように、監視カメラを付けておくことにしよう」

「誰が監視するんですか?」

「そりゃあ、言い出しっぺは佳奈多君だから、佳奈多君が監視するのが筋だろう」

「…そうですか」

「いつ過ちが起こるかわからない夫婦ごっこ真っ最中の2人を日夜監視する佳奈多君…フフ、君がそんな助平女だとは知らなかったよ」

「な! 何を言うんですか! これはそもそもあなたが!!!」

「まあ監視はさておき。誰が恭介氏と夫婦ごっこをするか、決めなくてはな」

 唯湖に促された佳奈多は、はぁと溜息をついてから、一同に呼びかけました。

「誰か、棗先輩の恋人役をやりたい方は?」

 1人がぴっと手を上げました。しかしそれ以外は、静まりかえるかの如く誰も手を上げません。手を上げたのはあーちゃん先輩でした。

「あ、あら…?」

「あーちゃん先輩一人しかいないようですが…それでいいですか?」

 佳奈多が確認するように呼びかけます。

「だって…急に言われても恥ずかしいし…」

「監視カメラ付きじゃさすがにねえ…」

「逃げたりされたら却ってショックだし」

「鋼のメンタルを持つあーちゃん先輩なら適任じゃないかなあ」

 食堂の声をひとしきり聞いてから、佳奈多は小さく頷き、そしてあーちゃん先輩の方を向きました。

「そういうわけですので。あーちゃん先輩よろしくお願いします」

「んもうぅ。アタシ、抑えきかないかもよ…?」

 そして、後ろの方で聞いていた男子生徒の一人が、男子寮に向けて走って行きました。

 

 

 

「きょーすけが大ピンチだぞおぉーーーーっ!」

 男子寮中に響き渡る声。その声は、理樹の部屋で遊んでいた恭介の耳にも届きました。

「ん、なんだ…?」

 戸惑う恭介達の下に、声の主が飛び込んできました。

「恭介、大変だ!」

「大変なのはわかったから落ち着け。そう大声を出すな」

「事態はそう甘くない!」

「雇用対策無き金融緩和と円安で国債価格が暴落することは織り込み済みだ。まだ慌てる時間じゃない」

「女子寮生達が、あーちゃん先輩を恭介の恋人にする決議を採択した! 今使節団がこっち向かってる!」

「な、なに…?」

 それを聞いた恭介は、窓から逃げだそうとします。

「どこへ行く、恭介」

「止めるな謙吾。俺は…今思い出したんだ、明日は大事な面接がある。」

「まだ慌てる時間じゃ無いんじゃなかったのか」

「金融の世界は1分1秒を争うんだよッ!」

 そう行って恭介は窓から飛び出しました。1階なので特に怪我はしません。が、それ以上先に進むことは出来ませんでした。いつも佐々美にまとわりついている女生徒達が既に行く手を塞いでいたのです。

「ここは通しません」

「…謙吾に免じて通してくれないか?」

「私達は佐々美様の忠実な部下ですが、宮沢さんの部下というわけではありませんので」

「佐々美様がどけというのならどきます」

 恭介は振り返り、哀願するような目で謙吾を見ます。

「謙吾、お前から笹瀬川に…」

 謙吾は黙って首を振ります。

「くそっ…」

 そうこうしているうちに、佳奈多を代表とする女子寮からの使節団は理樹の部屋までやってきてしまいました。

「棗恭介! 話があるので来て貰います」

「話ならここで聞く」

「そうですか。ここにいるみんなに聞かれてもいいんですね?」

 佳奈多は確認するように一呼吸置いてから、続けました。

「棗恭介が、妹の棗鈴や直枝理樹にいかがわしいことをするので困る、という通報がありました。矯正策を執りますのでついてきて下さい」

「理樹は妹じゃない」

「妹みたいなものでしょう?」

「えっ」

「まあ、そうだが」

「ええっ」

「ご納得いただけたのならついてきて下さい」

 理樹の抗議の声も無視して、佳奈多は恭介を連れて行こうとします。

「待て、俺はご納得していない。1から10まできちんと説明しろ」

 佳奈多は1から10まで早回しのように説明を始めました。しかしさすが恭介、それを聞き落とさず全部把握したようでした。

「なるほど…。俺はこれから、麻宮亜麻乃と夫婦生活をしなければならない、と」

「誰です麻宮亜麻乃って」

「お前達があーちゃん先輩と呼んでいるあいつのことだ。名無しのあーちゃんでは困るからとりあえずそう呼ぶことにした」

「なんでもいいですけど…これでご納得いただけましたか?」

「いや、まだだ。俺は、結婚生活をするにあたって相手に求めていることが3つある。例えフリでも夫婦生活をするからには、それを守って貰う」

「なんですか?」

「1つ。食事は3食手料理、それも和洋中必ず揃えること」

「それじゃブラジル料理の入る余地が無いよ!」

「あれは洋食ということでいいんじゃねえか?」

「2つ。俺の漫画コレクションをきちんと整理し、いつでもすぐ取り出せるようにしておくこと」

「それは本棚使えばいいんじゃないかな?」

「いや、入りきらないから倉庫にしまっている分なんかもある」

「お前、寮の倉庫勝手に使ってるのかよ…」

「3つ。俺の毛並みの良さをきちんと維持すること」

「毛並みって…お前は馬か犬か」

「そうじゃない。華族や財閥一族の生まれだとあいつは毛並みがいいとか言うだろう。そういう意味の毛並みだ」

「たかが花火職人の孫風情が何言ってやがる…」

「とにかく、以上3つが条件だ。呑めるか? 駄目ならこの話はナシだ」

「…あーちゃん先輩に確認してみます」

 佳奈多は携帯電話を取りだし、別室で待機中のあーちゃん先輩に連絡を取りました。

「…OKだそうです」

「マジかよ」

 恭介、少し当てが外れたようで面食らった顔をしています。

「いや、疑うわけじゃないんだが、出来もしないのに出来ると言っている可能性もある。出来なかったときのルールも決めておきたい」

「では、出来なかったら一週間お昼の放送で自らの恥ずかしい話を暴露し続ける、ということでどうだろう」

 傍らでずっと聞いていた唯湖が口を挟みます。

「その代わり、恭介氏も音を上げたりしたら同じ事をして貰うぞ」

「む…まあ、いいだろう」

 

 理樹が契約書を作り、謙吾と真人が証人になりました。

 

 こうして、恭介とあーちゃん先輩の同棲生活が始まりました。

 

 

 

 

「おう理樹、今日は恭介の所に飯食いにいかねえか?」

 真人が相部屋の理樹を誘いました。

「えー。普通に食堂でいいんじゃないの?」

「恭介は今、あーちゃん先輩に和洋中の豪華な食事だしてもらってんだろ? ちょっとお相伴にあずかるぐらいいいじゃねえか」

「そんな…迷惑じゃないかな」

「迷惑なようだったら帰ればいいだろ。ほら、行こうぜ」

 真人は理樹を引きずるようにして、恭介達の部屋に向かいました。

 

「あら、直枝君に井ノ原君、いらっしゃい」

 理樹と真人が部屋に入ると、あーちゃん先輩が出迎えてくれました。その奥にはなんだかしょんぼりした表情の恭介が座っています。

「丁度これから食事なの。一緒に食べてく?」

「ありーっす。ではごちそうになります」

 理樹と真人がちゃぶ台の前に座ると、そこにはお茶漬けの入った椀が置かれていました。

「恭介、これは…?」

「見ての通り、茶漬けだ」

「うん、見たまんまだね。どうしたの、これから食事なのにお茶漬けなんて食べて」

「いや、これが食事だ」

「は?」

「…和食だそうだ」

「えっ。いや確かに和食だけど…」

「おにぎりだけじゃ物足りないって言ったらお茶漬けになった」

「お前、何かあーちゃん先輩を怒らせるような事したんじゃねえか?」

「最初からずっとこんな調子なんだが…」

「昨日は何食べたのさ」

「昨日の昼はチンゲンサイのごま油炒め」

「それは中華だね」

「それだけ」

「えっ、肉無し?」

「肉もご飯もない」

「ええっ、ご飯もないのっ!?」

「ご飯は和食になるからって…」

「じゃあ洋食は何なんだ」

「パスタ」

「パスタかあ。何のパスタだ?」

「塩」

「うん、塩パスタ意外とおいしいよね、塩パスタ」

「それが毎日」

「…毎日はきついね」

「ちくしょおぉ! 何でこうなったああぁぁぁっ!!!」

 恭介はちゃぶ台に突っ伏して泣き出してしまいました。泣き声を聞いてあーちゃん先輩がやってきました。

「どうしたのよ急に泣き出して」

「どうしたもこうしたもあるかっ。毎日こんな粗末な食事…」

「だってお金無いんだからしょうが無いじゃない。自炊って結構お金かかるのよ」

「それをするのが条件だっただろう!」

「アタシは和洋中出せとしか聞いてないわ。それは出してるでしょ。豪華にしろとか栄養考えろとかは聞いてない」

「そ、それはそうなんだが…」

「文句があるなら仲裁役のかなちゃんに訴えてみたら?」

 恭介は泣きじゃくりながら携帯電話を取りだし佳奈多に電話をかけました。

『…もしもし?』

「二木かっ。聞いてくれ、麻宮亜麻乃が…」

 恭介は現在の窮乏を佳奈多に訴えました。

『お話はわかりましたが…しかしそれはあーちゃん先輩に分がありますね』

「しかし、このままでは俺は衰弱してしまう…」

『でしたら食堂で足りない分を食べればいいでは無いですか。食堂に来てはいけないというルールはありませんよ』

「ぐっ…」

『これだけではあーちゃん先輩との同居をやめる理由にはなりませんね。他に何か?』

「いや、これだけだ…」

 電話を切ってうなだれている恭介を前に、理樹と真人は引きつった笑いを浮かべていました。

 

 

 

 

「謙吾! 聞いてくれ!」

 廊下を歩いていた謙吾に、突然恭介が泣き付いてきました。

「どうした恭介。お前が泣くなんて珍しい…」

 そこまで言って謙吾ははたと気づきました。

「…あーちゃん先輩か」

「そうなんだ! あいつ、俺の漫画を全部…」

 そこまで言って恭介は、廊下に座りこんでおいおいと泣き出してしまいました。謙吾は何とか恭介をなだめて、部屋まで様子を見に行くことになりました。

 

 謙吾が恭介に連れられて部屋に行くと、本棚にあったはずの漫画が全部無くなって殆どスッカラカンになっていました。

「…全部捨てられたのか?」

「捨ててなんかいないわよ」

 声のした方に謙吾が振り向くと、そこにはスマートフォンを持ったあーちゃん先輩がいました。

「これはどういう事です先輩? 漫画は整理していつでも取り出せるように、という話だったはずですが」

「ええ。だから電子化してこのスマホに入れてあるわ。いつでもどこでも読めるわよ」

「む。そういう話ですか…」

「取り込んだ後の漫画本は全部倉庫に置いてあるわ」

「だ、そうだぞ恭介。何も泣くようなこと無いじゃないか」

「だが聞いてくれ謙吾! その漫画本、全部切り刻んであるんだ!」

「なん…だと?」

「だって背表紙切り落とさないとスキャナで取り込めないんだもの」

「ふざけるなぁ! お前、俺の大事なコレクションを…お前、お前、これは本に対する侮辱だぞっ!」

「でも国立国会図書館でもやってるわよ?」

「だったらこれは国家権力による横暴だっ!」

「落ち着け恭介。とりあえず直上の権力である二木にこの件を抗議してみたらどうだ?」

「ああ、そうしてやる…ッ!」

 恭介は佳奈多に電話をかけました。

『…もしもし?』

「二木かっ。聞いてくれ、麻宮亜麻乃が…」

 恭介は現在の惨状を佳奈多に訴えました。

『お話はわかりましたが…しかしそれはあーちゃん先輩に分がありますね』

「何故だっ。俺の漫画本は切り刻まれてしまったんだぞっ」

『漫画を整理していつでも読めるように、という条件は守られているはずです。紙の本で無いといけないとか、本を断裁してはいけない、という条件は無かったはずです』

「そ、それは…」

『それに。棗先輩、漫画本を溜め込んでいた倉庫。あそこは寮の共有施設ですよね。個人で占領してしまっていたこと自体、そもそもどうかと』

「うっ」

『いつ捨てられてしまっても文句は言えない状態だったんですよ。捨てられる前に電子化してくれたあーちゃん先輩にむしろ感謝すべきでは無いですか?』

「そ、それは…」

『これではあーちゃん先輩との同居をやめる理由には到底なりませんね。他に何か?』

「いや、もういい…」

 電話を切ってうなだれている恭介を前に、謙吾は乾いた笑いを浮かべていました

 

 

 

 

 数日後。少し頬を赤らめながらいそいそと早足で歩く佳奈多の姿がありました。それを見つけた唯湖が呼び止めました。

「佳奈多君、どうしたのかね。少し様子が変だぞ?」

「い、いえ、なんでもありませんよ」

「…妹として言わせて貰えば何でも無いようには見えないのですケド」

 一緒に居合わせた葉留佳が唯湖に同調しました。

「大したことじゃ無いのよ。心配することじゃないのよ。時が解決してくれるわ」

「ふむ…」

 唯湖と葉留佳はしばらく訝しがっていました。やや間を置いて唯湖が言いました。

「時に、例の2人の監視はどうなった?」

「例の2人? ああ、あーちゃん先輩と棗先輩ですね、ええ、ええ、あれはもういいんです」

「いいってどういうことデスカ」

「もう監視はしなくていいって意味よ…あまり食いつかないでちょうだい」

「はぁ」

「じゃあ私、裏山の埋蔵水道管の対策に行かなくちゃならないから。先行くわね」

 そう言って佳奈多は去ってしまいました。

「…何かありますね」

 唯湖と葉留佳の後ろに立っていた美魚がそう言いました。

「うわぁっ! 美魚ちんいつの間にっ」

「先ほどから…。それより、二木さんの怪しい言動、検証する必要があるとは思いませんか?」

「うむ」

「監視カメラ絡み…と見ていいですヨネ」

「あれは放送室で管理出来るようにしてあるんだ。行こうか」

 唯湖と葉留佳と美魚は放送室に向かいました。

 

「ふむ。異常は無いようだ。機材を壊したというわけでは無いか…」

 放送室のモニターの一つには、恭介とあーちゃん先輩が同棲している部屋が映し出されています。

「部屋の方で何かがあったような気がしますね…」

「何かって?」

「…。」

 美魚は黙ってしまいます。それを見た唯湖が言いました。

「そんなに前で無ければ録画が残っているはずだ。ちょっと見てみよう」

 唯湖は録画用テープを巻き戻し、再生を始めました。

 

「おい亜麻乃、お前は何をしようとしている」

「毛並みを整える、というのも条件にあったでしょ」

「毛並みを整えるんじゃない、毛並みの良さを維持するんだ」

「どう違うのよ」

「俺の言ってる毛並みの良さとは、いわゆるセレブとか、そういう意味だ」

「あら。それは聞いてなかったわ」

「だがそういう約束になっている。どうだ、出来ないか? もう降参するか?」

「まさか」

「強がるな。自分で言うのもなんだが相当な無理難題だぞ。お前に何が出来る」

「セレブなら毛の手入れもきちんとしておかないといけないでしょう? 手入れしてあげるわ」

「む…まあそれは一理あるな」

「はーい、おとなしくしてねー」

「ってお前、何をしている、そっちは下だぞ」

「それが何か?」

「俺の頭はそんなところについてねえ!」

「誰が頭の毛だなんて言ったのよ」

「は? いやお前何を言って」

「これじゃ手入れしにくいわねえ、もっと下ろさないと」

「いやちょっとお前ふざけんな」

「あらあら、これはこれは…」

「は…はやくしまえっ」

「早く済ませろ? もう、せっかちさんねえ」

「頭沸いてんのかっ」

「毛の手入れの話よ?」

「…くそっ」

「おおっと手が滑ったぁ!」

「…ぁふっ」

「あら。恭介ったら意外に可愛い声出すのね」

「ち、違う、今のは…」

「にゅふふ~。もう、強がらなくていいのよ?」

「や、やめろ…触るな…握るな……」

「どうして?」

「どうしてってお前、そんなことされたら俺…」

「恭介可愛い…」

 

「…これ以上はどこかからお叱りが来てしまいそうだな」

 再生を止めた唯湖がそう言いました。

「やはは…そうですよねー」

「見てはいけないものを見てしまった…なるほど、先ほどの二木さんの挙動不審の原因はこれですね」

「こう言っては何ですが、姉のことです、きっと最後まで見てますヨ」

「うむ。まあ、どこまで見たかはさておき…」

 3人とも一瞬無言になります。そして、無言の合意が得られたかのように再び口を開きます。

「まあ、この事実は伏せておこうか」

「それがいいデスネ」

「私口は堅い方です」

 

 

 その日の夜。食堂には珍しく恭介とあーちゃん先輩の姿がありました。

「あーちゃん先輩、なんだか随分とつやつやとしてますねえ」

「あらそう? そうねえ、もしかしたらそうかも。にゅふふ」

「何かいいことでもあったですか?」

「愛する人と一緒にいれば、それはそれはいいことがあるものなのよ」

「わふー…そうなのですか、それは勉強になります…」

 生き生きと会話しているあーちゃん先輩とは対照的に、恭介はなんだかげっそりとしています。そんな恭介に、佳奈多が話しかけました。

「あの、棗先輩…」

「…ん、なんだ、二木か…」

「私に訴えたいことがあるのなら、どうか遠慮なさらず…」

「ん…そうだな…」

 恭介は視線も定まらない様子でしばらく考えていますが、やがて答えを返しました。

「…いや、いい。…今はいい。…大丈夫だ。…俺はまだ戦える」

「そうですか…」

 佳奈多はそれ以上何も聞かず、その場を立ち去りました。

 

 

 

「ここ数日、棗さん…鈴さんや直枝から聞いた話では特に目立ったセクハラ発言等も無いようであり、状況は改善の傾向にあると見受けられます。よって、棗先輩とあーちゃん先輩の同居生活は一旦打ち切りにしたいと思います」

「えー」

 食堂に集まった生徒達を前に、佳奈多は作戦の終了を宣言しました。不満の声を上げたのはあーちゃん先輩一人だけで、他には特に異論は出ませんでした。なのであーちゃん先輩も特に騒いだりする事無く、成り行きを見守っていました。

「助かった…」

 そして恭介は安堵の声を漏らしていました。それを、あーちゃん先輩はじっと見ていました。

「えー、折角男女両方の寮生が集まっていますので、ここで決めておきたいことがあります。まず…」

 進行が普通の総会モードに移ったタイミングを見計らって、あーちゃん先輩が恭介の側に移動してきました。

「な、なんだよ…夫婦ごっこはもう終わったんだぞ」

「そうねえ。終わっちゃったわねえ」

 にゅふふ、と笑った後、あーちゃん先輩は続けました。

「でもまたしたいわね」

「ああそうだな…って、そんなわけあるかっ、乗せられないぞ」

「あら、そうなの? どうして?」

「どうしてってそれは…いやほら、お前俺のこといじめるし」

「それは恭介が変な小細工しようとするからでしょ」

「そうなんだが…いやでもお前と夫婦になるとこういうことになるというのはよくわかった」

 それを聞いたあーちゃん先輩はすかさず返しました。

「あら。あれはごっこ遊びだからああしただけで、本物の夫婦になったらそんなことはしないわよ?」

「ん? そうなのか」

「にゅふ。今何かを期待しちゃったかしら? 何々、本物の夫婦になることを想像した?」

「な、何を言っているんだっ。お前、いい加減にしろよっ」

「はいはいそうですね~。アタシはいい加減ですよ~。恭介ほどじゃないけど」

「俺はいつだって本気で馬鹿をやっているだけだっ」

「アタシも基本そうなんだけどね。やっぱりアタシ達って気が合うわね」

「なんでお前はそういう方向に持って行きたがるんだ…」

「それは、アタシがもう恭介の本心を知っているから」

「はぁっ!?」

「恭介が素直になるまでアタシは待ってますよ~」

 そう言ってあーちゃん先輩はその場を去って行きました。

「くそっ…。なんだこの妙な敗北感は…」

 恭介はまだ気持ちの整理が付けられず、心の中で一人闘っているのでした。

 

 

 

 

 恭介とあーちゃん先輩が実際に結婚するのは、ここからまだ数年先の話になるのでした。

 

 おしまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



   こぴかな時々あー++ for epub3.0

 

   2015年11月23日発行

(2015年12月20日再編集、epub化)

   

   著者・発行者:荒野 草途伸

   

   



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 Twitter:@xatosi

 

 

 

 


この本の内容は以上です。


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