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こぴかな時々あー++

保健室

 

「佳奈多さん、やめて…!」

 

 僕たち二人以外誰もいない保健室。ベッドの上で僕は佳奈多さんに押し倒されていた。腕に力を入れてはねのけようとする。でも佳奈多さんの押さえつける力の方が強かった。

「随分鍛えたみたいね。でもお生憎様…私があの家から求められていたのはこんな程度の力じゃないの。私はずっとそれに応えてきた。体も。頭も。心ですら、求められれば差し出してきた。従わなければ私たち姉妹は生き残れない、それ程までに大きな力。逆らいたいなら並大抵でない力が必要。今私が必要としているのは、そういう力。──あなたが逆らえるようなものじゃない」

 佳奈多さんは僕を押さえつけながら、耳元でそんな脅迫めいた言葉を言い続けた。僕は逆らえなかった。逆らってはいけないんじゃないか、むしろそんな風にすら思えた。

 僕の力が弱まったことを感じ取った佳奈多さんは、少しだけ優しい表情になって、後ろに手を伸ばした。僕と佳奈多さんの服が少しだけ脱がされ。佳奈多さんは僕を犯しはじめた。

 

 抵抗しないようにしよう。余計な事は何も考えないようにしよう。そう思って心を空っぽにした。僕の上に乗る佳奈多さんの感触と、それに合わせた佳奈多さんの息づかいは、なかなか消し去れなかった。

 むしろそれで心がいっぱいになってしまっていた。

 心が満たされていた。

 

 これは佳奈多さんに気づかれてはいけない、理由はよくわからないけどそう思った。そっと目を閉じた。そしてもう一度開いたとき、視界には満足そうにほほえむ佳奈多さんの顔が映っていた。気づかれている。そう悟った。

 自分の行いが裏目に出た悔しさと、そもそもなんでそんなことをする必要があるのかという自分のばからしさに、思わず顔を歪めてしまった。

 そんな僕の頭を佳奈多さんはそっと撫でながら語りかけてきた。

「馬鹿な子ね…本当に、馬鹿な子…」

 

 何か答えたかった。でももうそれすら出来なかった。身も心も、完全に佳奈多さんに支配されていた。もう、佳奈多さんに逆らうのは無理だ。

 僕が諦めるのを待っていたかのように、僕の下の方から佳奈多さんに子供を産ませたいよという合図が伝わってきた。

 

 いや、それは駄目だ。僕は快感を必死で振り払い、佳奈多さんに話しかけた。

 

「佳奈多さん…その…でちゃいそう…」

「そう」

 

 佳奈多さんは短く答えて、そのまま僕の上で動き続けた。伝わっていないのだろうか。僕が不安げに佳奈多さんを見ると、佳奈多さんはまた優しい表情になって答えた。

 

「大丈夫。大丈夫、だから」

 どう大丈夫なのか、その意味もわからないまま、僕は勝手に安心感に包まれていた。もう止められなかった。僕の幸せな思いを佳奈多さんに受け止めて欲しい、そう思った次の瞬間、僕は果てた。

 佳奈多さんもきっと幸せに感じてくれている。勝手にそう思っていた。

 

 暫く恍惚の時を過ごしたあと、我に返った僕は、薬棚に行くため起き上がろうとした。そんな僕を佳奈多さんが引き留めた。

「どこへ行くの?」

「薬棚。あとから飲む避妊薬があるかもしれないと思って」

「──必要無いわ」

「え? でも」

「大丈夫、って言ったじゃ無いの」

「そうなの?」

 佳奈多さんは無言で僕を引き寄せた。僕は佳奈多さんに従うことにした。

「こんな事訊いたら怒られるかもしれないけど…今日は安全日なの?」

「安全日? ああ、生理ね。そうね、そろそろかしら」

「えっ。じゃあ薬、あらかじめ飲んであったの?」

「そんなもの飲んでないわ」

 

 血の気が引いた。一気に頭が冷めて、そして熱くなった。混乱しそうだった。

「だって…さっき、大丈夫だって…」

「そうよ。大丈夫。ちゃんと──育てさせるから」

 佳奈多さんが何を言っているのかわからなかった。

 

 佳奈多さんは、僕に顔を近づけてきて、耳元で囁き始めた。

「私のあの家での役割は、尊い三枝の世継ぎを産むこと。勉強もスポーツも、結局はその尊さを証明するためだけのもの。いづれ私は、あの家の男のうち誰かの子供を産まされることになる…ううん、それはもう明日かもしれない」

 僕は言葉を発せなかった。佳奈多さんはそのまま続けた。

「私の産む子供は、三枝の世継ぎと決まっている。そうでなければならない。あいつらは一生懸命、私の産んだ子を育てるでしょうね。自分たちの優秀さを証明するために。でもその子供は三枝の子じゃ無い。私が愛して、私が選んだ男──直枝理樹、あなたの子。それをあいつらは自分たちの同類だと思って一生懸命育てるの。ねえ、それって最高におかしいと思わない?」

 そこまで言って佳奈多さんは、僕の胸に顔をうずめて、くっくっと声を上げた。泣いているのか笑っているのかさえわからなかった。僕は何も声をかけることが出来ず、ただ佳奈多さんをそっと抱きしめることしか出来なかった

 

 

 

 

 


こぴかな時々あー++

 僕が佳奈多さんと葉留佳さんと同居し始めて、もう何ヶ月経ったのだろう。

 僕は部屋で一人、求人用のフリーペーパーをを眺めていた。何か僕にも出来そうな仕事は無いだろうか。自宅でできる仕事でなくてはならない。発作が起きても迷惑をかけたりしない仕事でなくてはならない。佳奈多さんにそう言われているから。

 

 扉が開く音がして、佳奈多さんが部屋に入ってきた。3人で住むからと広めの部屋を借りたつもりの1LKだったけど、リビングは居室にはならないということは住んでみて初めてわかった。みんな自然に、寝室に使うはずの部屋に来てしまう。僕はこの部屋で、いつも二人を出迎えることになる。

 佳奈多さんは疲れた表情で部屋に入ってきて、はぁと溜息をつきながら自分の定位置に座った。

「おつかれさま」

「ええ、おつかれさまよ」

 そう言って佳奈多さんはタイを外し、襟元を緩めた。葉留佳さんならいざ知らず、佳奈多さんが外では絶対に見せない姿だ。僕の前でもこんなに気を緩めるようになったのは結構最近のことだ。

「本当はすぐにお風呂に入った方がいいのだけど、少し休みたい気分なのよ」

 何故か僕に言い訳するような口調で佳奈多さんは言った。今日は特に疲れたらしい、休むと言いつつ時折肩を動かしている。

「佳奈多さん、少し肩を揉もうか?」

「そうね──自分でするより直枝に揉んで貰った方が、回復は早いかもしれないわ」

 そう言って佳奈多さんは背中を僕の方に向けた。少し距離があったので、僕は佳奈多さんの側まで移動しようとした。足首に繋がった鎖がじゃらりと軽く音を立てて、佳奈多さんは一瞬だけ振り向いて音のした方を見た。しかし何事もなかったかのようにすぐ元の向きに戻ってしまった。そして両腕を床に付けて、少しだけ体を僕の方に移動させてくれた。

 僕は佳奈多さんの後ろに座って、肩から背中にかけてこりをほぐす為に指を押しつけて揉んだ。

 揉んでいるうちに、疲れで険しくなっていた佳奈多さんの表情がだんだん緩くなっていくのが、後ろ側からでもわかった。

「ふぅ」

 佳奈多さんは溜息をついて、だいぶ良くなったということを僕に教えてくれた。僕は佳奈多さんの肩に押さえつけていた手を放そうとした。その左手を佳奈多さんが自分の右手で押さえた。左手を押さえられてしまったので、右手の方も放したはいいものの完全にどけることも出来ず、そのまま宙に浮かせる恰好になってしまった。

「佳奈多さん?」

 僕が声をかけると、佳奈多さんは一瞬無言になった。そして僕の手を押さえたまま言った。

「肩を揉んでくれたお礼をしないと。ね」

 一瞬、鎖を外してくれるのかと思った。けれどもそれは無かった。代わりに佳奈多さんは、手を押さえたままその手の指を絡ませ始めた。僕は何も言わずさせるがままにしていたが、そのうち無意識的に自分の方からも指を絡ませ始めていた。

 どれだけの時間が経っただろうか。佳奈多さんが口を開いた。

「いやらしいのね」

「なっ。なんでそうなるのさっ」

「いやらしいことは微塵も考えていなかったと、断言できる?」

「そっ、それは…」

 全くの嘘だった。

「この分だと他にもいやらしいことを考えていそうね」

「考えてないよっ!」

「どうだか。肩を揉むとか言って、もっと先に手を伸ばそうとか思ってたんじゃないの?」

 肩のもっと先。僕は確かめるつもりで目線をそっちにやった。ブラウスが大きく膨れあがっている。さっき佳奈多さんが襟元を緩めたので、隙間から中が見えてしまいそうだ。

 気がつくと佳奈多さんが横目で僕の顔を見ていた。少しあきれ顔だった。

「ち、違うんだ! 違うんだよ!」

「何が違うの…」

 そう言って佳奈多さんは、押さえていた僕の左手を引いた。反射的に僕が抵抗したので、佳奈多さんは引っ張る力を強めた。強められた力に僕は一瞬驚いて、左手の力を抜いてしまった。体のバランスを崩して佳奈多さんにもたれかかってしまった。佳奈多さんは体をずらして半回転させ、僕の体が自分の前に来るようにした。左手は佳奈多さんに捕まれてしまっていた。佳奈多さんはその手を自分の胸元に持ってきて、触れる手前のところで止めた。

「ねえ。どうしたいの?」

「どうしたいって…」

 言わされてる。そう思った。でもここで嘘を言ってもあまりいいことはない、そうも思った。

「触りたい…」

「そう」

 佳奈多さんはそっと押すように僕の手を胸に当てた。初めての感覚に頭が真っ白になりそうだった。折角の佳奈多さんの好意だから、気絶なんかしたらいけない。僕は少しだけ頭を振って、そしてとりあえず姿勢をたて直そうと思った。起き上がろうとすると佳奈多さんがもう片方の手で支えてくれた。そして僕が体勢を直すと、そのまま抱きかかえるように自分の体に押しつけてきた。

「佳奈多さん!?」

 僕が思わず声を出すと、かなたさんの腕の力は弱まった。

「えっ。吸いたいんじゃないの!?」

「えっ!? あ、あの」

 違う、と一瞬言おうとした。でもここで僕が否定したら佳奈多さんに恥をかかせてしまう。そう思って言葉を飲み込んだ。代わりに、自分から佳奈多さんの胸に顔を押し当てた。佳奈多さんは何も言わず左手で僕の頭を支えてくれた。右手は僕の左手と繋がれていたが、それを放して胸元に手をやり、ボタンを外し始めた。ぼくはされるがままになっていた。吸い付いたときだけは、一瞬だけ亡くなった母親のことを思い出した。それ以外はなにも考えなかった。ただひたすら、夢中で吸っていた。

 佳奈多さんはずっと僕の頭を撫でてくれていた。そしてふと、こんなことを言った。

「こんなに夢中で吸っちゃって…。直枝ったら赤ちゃんみたい」

「!!!」

 さすがに恥ずかしすぎる。僕は顔を放そうとした。けれどもそれは出来なかった。佳奈多さんは両手でいしっかりと僕の頭を抱きかかえて自分の胸に押しつけていた。

「だめよ…離れてはだめ。離れないで…」

 そう言ったたきりずっと強く僕を抱きしめたままになってしまった。僕は暫くそのままの姿勢でじっとしていた。どうしたら佳奈多さんを安心させられるだろう。そんな事ばかり考えていた。考えて、正解かどうかわからなかったけど、空いていた両手を佳奈多さんの後ろに回して背中を抱きしめた。佳奈多さんはその力に押されたとでも言わんばかりに僕の方に倒れ込んできた。背中に床があたったとき、一瞬だけ足の鎖のことが頭をよぎったが、すぐにそんなものはどうでも良くなった。

 

 気を失っていた。その事に気づくのに、少しばかり時間がかかった。すぐ横に佳奈多さんの顔があった。佳奈多さんは僕の頭を抱えるようになで続けていた。

「直枝も…葉留佳も…私のもの。…ねえ、そうでしょう?」

「うん…そうだね」

 僕が頷くと、佳奈多さんはとても無邪気な表情で笑ってくれた。

 

 服を直しながら、佳奈多さんは言った。

「ねえ。この事…葉留佳には黙っていて欲しいの」

「う、うん」

「葉留佳がこんな事を知ってしまったらきっと傷つくと思うし…無意味に悲しませたりはしたくないのよ」

「わかった、葉留佳さんには内緒にするよ」

「…ありがと」

 そう言って佳奈多さんはもう一度僕を撫でてくれた。

 

 

 ……。

 

 

 僕は部屋で一人、求人用のフリーペーパーをを眺めていた。何か僕にも出来そうな仕事は無いだろうか。引っ越してすぐ始めたバイトは、仕事中に発作を起こして結局辞めることになってしまった。

 佳奈多さんも葉留佳さんも、外に働きに出ている。僕は親が残してくれた遺産があるから、何とか自分の生活費は出せている。佳奈多さんも葉留佳さんもそんなもの出さなくていいと言う。そんなはずはない。二人だけ働きに出して僕は何もしていないだなんて、そんな道理はない。二人には勝手に外に出るなと言われていたけど、外に出なくていい仕事なんてそうそうあるものじゃない。そう思った僕は、無断で外に出てしまった。

 そして発作を起こした。

 

 3人で部屋に戻ってくると、葉留佳さんは泣き顔になって何で外に出たのと僕を責め始めた。僕は何も言い返せなかった。佳奈多さんが葉留佳さんを取りなしてくれて、葉留佳さんは何とか落ち着いた。そして佳奈多さんは、僕に足を出すように言った。言われるがままに足を差し出すと、佳奈多さんはいつの間に買ってきたのか、鎖を付けるための輪を僕の足に付けた。鎖のもう一方の端は部屋で一番重そうな洋服入れに繋がれた。

「あなたが悪いのよ。勝手に外に出たりするから」

 僕はうなだれたままだった。確かに、一人で外に出ないということは二人と約束していて、僕はそれを破ってしまった。

「ねえ直枝。わかってるわよね? あなたはいつ発作を起こすかわからないんだし、それが誰もいない場所だったら助からない可能性だってある。もし誰かがいたとしても、人が倒れれば騒ぎになるし、大変な迷惑をかけることになるでしょう? 助けてくれた人にも、後で謝らないといけない私達にも」

「うん…」

「それに一切外に出るななんて言ってないでしょう? 私か葉留佳、どっちかと一緒なら、外に出てもいいって」

「うん、僕が悪かったよ」

「わかってくれてるのならいいわ。これからは外に出たいときはちゃんと言いなさい」

 そう言って佳奈多さんは二組の鍵を取り出し、そのうちの一つを葉留佳さんに渡した。

「二人で持っておきましょう」

「うん、そうだね」

 

 約束通り、二人のうちのどちらかに言えば、僕は自由に外出できた。葉留佳さんはむしろ好んで僕を外に連れ出したがって、そんなとき佳奈多さんは少し寂しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 僕は部屋で一人、求人用のフリーペーパーをを眺めていた。何か僕にも出来そうな仕事は無いだろうか。家でできる仕事は詐欺まがいのものが多いから勝手に決めずにちゃんと相談しなさい、佳奈多さんはそう言っていた。葉留佳さんではだめなの? と僕が意地悪心から訊くと、ぴしゃりと駄目よと言われた。自分で全部把握しておかないと気が済まないのだろう、僕はそう推測した。

 顔を上げて時計を見る。佳奈多さんが帰ってくるまでにはまだ時間がありそうだ。今日はむしろ葉留佳さんの方が早く帰ってくる日だっただろうか。僕は少し移動して、佳奈多さんお手製のスケジュール帳を取りに行った。市販の大学ノートの見開き2ページを使って1週間分の予定がきっちりと書き込まれている。僕の記憶通り、今日は佳奈多さんは少し遅くて、葉留佳さんは早く帰ってくる予定になっていた。

 

 扉が開く音がした。少し早いけど、きっと葉留佳さんだ。僕の予想通り、顔を覗かせたのは葉留佳さんだった。

「はるちんは残業はしたくないのデス」

 訊かれてもいないのにそんなことを言った。予定より早く帰ってきたことの説明なのだろうか。僕は敢えて何も言わなかった。それはいつものことなので、葉留佳さんも気に留めなかった。

「お姉ちゃんは今日帰り遅いんだよね…?」

 僕の手元の予定表を見ながら、葉留佳さんはそう言った。

「うん、かなり時間があるね。こういうときは先に食べてていいって佳奈多さんが言ってたよ」

「つまり作っとけって意味デスヨネそれって」

「まあ、そういうことになるね」

 暫く二人で苦笑した。

「部屋で理樹君と二人だけなんて、結構久しぶりだなー」

 そう言いながら僕の隣に座ってきた。

「そうだね。あ、何か食べる?」

 立ち上がろうとした僕を、葉留佳さんが制した。

「理樹君は台所まで行けないでしょ」

 そう言って僕の足に繋がれた鎖を見た。

「うん、だから葉留佳さんの鍵で外して貰って。あ、もちろん逃げたりしないよ。今だけだよ」

「ふううん…」

 葉留佳さんは何故か疑いを含んだ眼差しで僕の方を見つめていた。

「え…。何? どうかしたの?」

「理樹君。私、理樹君のこと、信じて、いいんだよね?」

「う、うん。もちろんだよ」

「じゃあ訊くけど。理樹君もお姉ちゃんも、私に隠し事なんてしてないよね?」

 隠し事。僕の脳裏に佳奈多さんとのあのことが蘇った。そして次の瞬間、しまったと思った。葉留佳さんは僕の表情を読み取って、少し落胆した表情になっていた。

「やっぱりね…。うん、ほんとは気づいてたんだ。二人で何やってるかも、ね」

「…。」

 僕は何も言えなかった。

「ひどいな。理樹君も、お姉ちゃんも。私だけのけ者にしたりして」

「違うんだ、葉留佳さん。そういうつもりじゃなくて」

「悪気がないってのはわかってるよ。だからそんなに慌てなくてもいい。ただね、私もちゃんと仲間に入れて欲しいな、って。それだけ。それだけだよ」

 そう言いながら葉留佳さんは顔も体も僕の方に近づけてきた。僕は反射的に後ずさりした。葉留佳さんは動ずる事無く、さらに体を近づけてきた。

「逃げなくてもいいんだよ。大丈夫。お姉ちゃんと同じ事するだけだから」

「ま、待って…」

 僕は足を動かして体を後ろにずらし、葉留佳さんから遠ざかろうとした。それでも葉留佳さんは追ってきた。僕はもっともっと後ろに行こうとした。ガチャリ、と音を立てて、鎖が僕の足の動きを封じた。その音に気づいた葉留佳さんが、僕の足に繋がれた鎖を見た。

「…鎖を付けようって言い出したのはお姉ちゃんだけど。正解だね。やっぱりお姉ちゃんにはかなわないや…」

 そう言ってまた僕の方を向き、また近づいて僕を押さえ込み始めた。僕はもうそれ以上逃げることは出来なかった。葉留佳さんにされるがままになった。

 

 

 葉留佳さんに犯されながら僕は、二人の父親である晶さんと初めて会ったときのことを思い出していた。

 

 

『──やめとけやめとけ。こいつらは怖いぞ。根っこの部分が腐ってやがる──』

 

(2013/10/13{はるかな誕生日}公開)

 

 


こぴかな時々あー++

愚痴的評論:佳理派白書をもう一度

 普段から自分は佳理派佳理派佳理佳理言ってるが、ふと佳理ってどれくらい認知されているのだろうかと思ってググってみたら、全然出てきやしねえ。

 

 なので、改めて「佳理」について説明する。

 

 一言で言うと、「佳奈多×理樹」の略である。理樹×佳奈多では無い。佳奈多×理樹だ。佳奈多が上で理樹が下。ここが一番重要。

 

 佳奈多はSです。ドSです。だがしかし、佳奈多のSはその異常な母性に由来するものなのです。だから無意識に母性を欲するオーラ出しまくりな理樹君を襲うのです。

 それが、かの有名な「葉留佳BAD」です。そう、「佳理」は原作にちゃんとあるのです。公式設定です。後付けやコミック、増してや二次創作設定では無いのです。そこんとこ勘違いしないように。

 

 その辺のとこを踏まえたTwitterのやりとりをちょっと引用しておこう。

(→→→)

 

 

 まあ、「友乙」とも少し似てるね。友利も母性がとか言われてるけど、あの子明らかにドSだし。

 

 

 

 ということで、

 

「S妹!ともりちゃん 前編」

とらのあな通販で頒布中です。

 

 

 佳理じゃ無く友乙になったし!


こぴかな時々あー++

140文字シリーズ(佳奈多セレクション)

 

佳理編

 

「直枝、15周年おめでとう」

「僕15歳じゃないよ」

「AIR15周年でしょう」

「僕とどう関係が」

「まず15を先頭に持ってくるの。そしてIとRを入れ替える。5の形を整えて1に付けるとKになるでしょう?読んでみなさい」

「佳理」

「誕生日プレゼントだから」

「いやいやいや」 

 

 

「理樹君はどっちも左?」

「そうだね」

「そう。じゃあ左は直枝ね」

「え?うん」

「じゃあ右が上」

「佳奈多さん何指組み替えてるですかっ」

「ち、違うわっ、右が自分なんて思ってないわよ!」

「俺は最初から左が下だ」

「棗先輩はあっち行ってください!」

「ここには左を下にしたい者が多いからな」

 

 

「カレーライスを英語っぽく言ってみます」

「それ和製英語よ」

「わふ。では、カリー!あ」

「どうしたの」

「やっぱりやめます心が痛いです」

「え?あっ」

「どうしたのクドは顔暗いし佳奈多さんは赤いよ」

「リキが悪いんです!」

「ええっ!?」

「そうね。悪い人だわ…悪い人」

 

 

 

「ニジニ・ノヴゴロド!ちらっ」

「何で僕を見るの」

「ソ連時代の名前がゴーリキーだった町だな」

「ハルカ川沿岸デスネ」

「ヴォルガ川です」

「サハリンからは遠いな」

「佳奈多さんは好きな地名あります?」

「カリーニングラード」

「やっぱりそこですか…」

「えっ?あ!ち、違うのよ!?」

 

 

「佳奈多さん、踏んで!」

「え?はぁ!?あなた一体何を」

「いいから、お願い…」

「な、何よそんな縋るような目で」

「早く踏んでくれないとおかしくなっちゃうよ」

「あなたどうかしてる」

「そんなことないよ正常だよ」

「正常。正常、ね」

「佳奈多さん無意識に暴走するから、だから早く」

 

 

 

風紀委員編

 

 

「何その身だしなみは」

「俺はアウトローだ」

「じゃあ空飛んで見せなさいよ」

「は?」

「アウトローなら自然法則だって無視するべきでしょう。これが人類の意味だとばかりに空飛んで見せなさいよ」

「くっ。だが規則なら校外の貴様に権限は無いはず」

「こっ、…声が同じだからいいのよ!」

 

 

はるかな編

 

80年代佳奈多

「葉留佳をこの私が征服するのだ!」

90年代佳奈多

「葉留佳のいない世界とかクソだから一度ぶち壊して再建する!」

00年代佳奈多

「だったら何故私が愛した葉留佳は死ななければならなかった!」

10年代佳奈多

世界とかぶっちゃけどうでもいいんだよねぇ。私が葉留佳と

いちゃつければさぁ!」

 

 姉が視察旅行から帰ってきた。外泊申請書にそうあったからそうなんだろう。疲れているのか、葉留佳の評価が正当じゃないとか最初から排除されたとかよくわからないことを言ってた。紙袋の中身はお土産かと思って開けようとしたらなんか凄い怒られた。あと美魚ちんも同じ日に帰ってきた。 

 

 

 

「西園さん葉留佳の相手面倒で無い?」

「面倒ですね。でも話は興味深いです。言葉の織りなす美しさ。人の愛の紡ぐ美しさ。対して三枝さんは数学の理路整然とした美しさを語ってくれるのです」

「そう…ならいいの」

「嫉妬も時には美しいと私は思いますよ」

「な…ッ!?」 

 

「姉妹だけで無く3人で仲良くなれば問題無いのでは?」

「ええそうね」

「もう三枝さんとは仲良しですし、二木さんは同志と呼べる関係です」

「えっ」

「今年の夏はひときわ大変でしたね」

「そうね…」

「冬は三枝さんも」

「葉留佳は巻き込んでは駄目!!」 

 

 

http://j.mp/1cO9aTA

「は?今なんて?」

「制限140文字だから圧縮したのあなたこういうの好きでしょ」

「いや意味がわかりまセン」

「だったらわかるまで頭を悩ますといいわ」

「今日クリスマスパーティだけど仕方ないみんなに公表して考えて貰お」

「えっ」

 

 

(リンク先の内容)

葉留佳。私とあなたは誕生日が同じだから、いつも普通にお祝いすることが出来ないの。だから今日はその分まであなたのお祝いをしたいの。おそろいのリボン。私は今日これを付けて部屋であなたを待っているわ。あなたはこのプレゼントを喜んでくれるかしら

 

 

「七夕なので笹を飾りまショウ」

「私は笹よりも林檎がいいわ。野林檎」

「何言ってんデスカネこの姉。あ、天の川。綺麗だよ?」

「あーちゃん先輩よりも私を見てくれないかしら」

「ほんと何言ってんデスカネこの姉。雨が降り続いたから風邪でもひいたんデスカ?」

 

 

 

「家事とは家庭裁判所で取り扱う事件である。三枝家の家事で私達姉妹はいがみ合った。その経験から私は法曹を目指す事にした。家事は全て私がやる。葉留佳には無理だ葉留佳は卵焼きも作れない家事は処理できない」

「お姉ちゃん今日はそろそろ休ンだら?」

 

 

 

 

 

 

三枝家と棗家は遠縁の関係で恭介は大学入学後三枝の後継者と結婚させられることになっていたが恭介はそんなのイヤだと就職活動するも目的意識に乏しいため就職が決まらないままずるずるそんな恭介に寄り添うようにあーちゃん先輩も就職組に、と考えましたが私は佳理派なのでこの説は却下です

 

 

 

 

 


こぴかな時々あー++

検事恭介の闘い

 

某月某日 リトバス地裁刑事法廷 

・被告人:

容疑:詐欺罪

容疑の詳細:

被告人は自らを朱鷺戸沙耶と名乗る別人に偽装し、被害者直枝理樹を騙して心をもてあそんだ。

尚、本件の傍証として、被告人は本件とは別に、悪質な手段で直枝理樹を騙した余罪があることを申し添える。

証人申請:

直枝理樹(本件の被害者)、能美クドリャフカ、三枝葉留佳

 

「ここまで来るのに長かった…」

 私は、窓にかかったブラインドを指で押しながら、外の風景を眺めていた。特に夕日が綺麗というわけでもなかったので、いっそ夕方までそうしていようかとも思っていた。リトバス地検特務検事、棗恭介。それが今の私の職務だ。責任ある仕事を受け持っている。いつものように俺などという言葉使いは出来ない。

「ぼす。まだ仕事は終わっていないぞ」

 私の腹心であり、事実上の副リーダーでもある棗鈴が声をかける。その周りには、神北小毬・井ノ原真人の両名も既に着席している。リトバス地検特捜部、「朱鷺戸沙耶内乱容疑事件」の捜査のために特別に設置された部署だ。その事件が、いよいよ初公判を迎えようとしている。

「裁判で足下をすくわれないためにも、今回の事件をおさらいしましょー」

 そう言った小毬は、プロジェクターを準備し始めた。

 

 事件の始まりは、某特定高等教育学校校舎に謎の地下空間が形成され、そこを謎の女性「朱鷺戸沙耶」に占拠されてしまったことであった。警察・検察共に朱鷺戸沙耶逮捕に全力を挙げたが、そもそも朱鷺戸沙耶という人物が存在すること自体が立証出来なかった。あやという少女が事件に関与していることまでは突き止めたものの、「沙耶」と同一人物であるという立証が出来ず、また事件の遂行能力に重大な疑義があったことから、真犯人は他にいると結論づけられ、捜査が行われた。

 

 「沙耶」とは何者なのか。実はまだよく解明されていない。ただ、それが「あや」という少女の意志によって生み出されていることまでは判明している。この学園にある不思議空間を使えばそういうことは確かに可能だ。だが一方で、その空間にはある一定の権限がないとアクセス出来ない。「あや」にはおそらくそれは無い、とも言われている。つまり、誰かが裏で「あや」を手引きしているということだ。

 「沙耶」の基本的性格は「あや」のそれを継承している。しかし、時折「あや」にしては理不尽な言動をすることがある。それこそが、あやを裏から操る「真犯人」の人格なのでは無いのか。

 我々はそう考え、愛知県に向かう新幹線に乗り込んだ。鉄道ダイヤの裏を突き止めることは捜査の基本だからだ。

 

 名鉄瀬戸線の、決して追い越しをしない急行電車に何度も乗っているうちに、我々はある事に気づいた。本来「真犯人」は、「あや」より高いスペックを有している。誰にも気づかれず「あや」を招き入れ、サポートし、時には「あや」に成り代わらなければならないからだ。だが「あや」より目立ってしまうことを避ける為、意図的に自分の能力を落として「沙耶」を操作している。それが結果的に、沙耶の間抜けな言動に繋がっているのだ。

 我々は「沙耶」の間抜けな部分を洗いざらい抽出し、会議室で繰り返しチェックした。初めは笑いすぎて仕事にならなかったが、それもそのうち慣れた。そして、あることに気づいた。この間抜けな言動が演技だとしたら、それは「真犯人」を見つけ出す手がかりにはならないのではないか、ということに。

 

 捜査は振り出しに戻った。事件は現場で起きている、という元第二院クラブ代表と苗字が同じな刑事の言葉を思い出し、我々は校舎の地下へと潜った。そこには、事件の舞台ともなった温泉が残っていて、何故か温泉旅館が営業していた。

 昨今の何でも民営化してしまえの風潮に乗っ取り、この温泉も民間運営の温泉保養施設に改装されたのだそうだ。笹瀬川温泉といういかにもどこかの渓谷にでもありそうな名前がついている。女将に話を聞いた。この近くには、女性が自分の下着を奉納することで望むものが手に入る、という言い伝えのある神社があるのだそうだ。神社といっても事件後地元の人間が勝手に建立したものだ。御利益は期待出来まい。だが私は、そこに別の期待をしていた。

 神社に行くと、そこには観光客向けの鳥居と祠があった。話を聞くと、ここには神主はいないらしい。巫女は需要があるのでバイトで雇うが、人のいない平日は事務員が詰めているだけらしい。運営は近隣の宗教法人に任されているとのことだ。

 その事務員に密かに耳打ちされる。金を積めば、内緒でご神体を見せてくれるという。そんなことをしていいのかとも思ったが、そもそも金儲けが目的の宗教法人なので、お金が落ちないことには意味が無いらしい。なかなか値が張ったが、そこは4人で分担した。

 ご神体は、女性用下着だった。言い伝えが言い伝えなので、さもありなんという感じだ。井ノ原は意外とこういうのに不慣れらしい、顔を赤くしてうつむいている。少し触って良いかと神北が了解を取り、下着を見聞し始めた。

「絹ですね~。これはなかなか良い下着ですよぉ~?」

「はい。言い伝えにあるとおりこれは朱鷺戸沙耶が身につけていた下着なのですが、実は彼女、結構なお嬢様だったのかもしれませんねぇ~」

 お嬢様。その言葉に私は引っかかるものを感じた。

「すまん、先に宿に戻っている」

 

 宿に戻ってノートパソコンを開き、捜査資料のフォルダを開く。私は、商店街の監視カメラが偶然捉えた、朱鷺戸沙耶と直枝理樹が一緒に写っている写真を開いた。直枝理樹が朱鷺戸沙耶のスカートをめくっている、準強制猥褻の現場写真である。被害者が特定出来ていないため、こちらの捜査も全く進んでいない。

「そう、この事件はどちらもが被害者なのだ…」

 私は思わず呟いた。そして、先ほどデジカメで撮影したご神体の写真と、この朱鷺戸沙耶がはいている下着とを見比べる。

「同じだ…」

 色は全く同じベージュ。材質も、写真で見る限り同じに見える。ご神体の下着は朱鷺戸沙耶のもので間違いない。それはほぼ間違いないだろう。問題はそれが、「あや」の方なのか「真犯人」の方なのか、だ。

 私は改めて写真を見た。シンプルだがセクシーな下着だ。いやそういうことを言いたいのではない。この写真の写っている場所、ここは商店街だ。おかしくはないか? 朱鷺戸沙耶は、地下校舎から一切出てこなかったと聞いている。何故この時ばかりは外に、しかも人がいて目立つ商店街に出てきたのか。

 私は調書の写しをもう一度読み返してみた。直枝理樹の供述に、こんな下りがあった。

『彼女は孤独だったんです。そのくせ強がりで、世間知らずで…。よくよく聞いてみたらまともに外で遊んだこともないというんです。だから連れ出したんです』

「世間知らず…か」

 先ほどの事務員の言葉が合わせて思い出される。

『結構なお嬢様だったのかもしれませんねぇ~』

 だがこれだけでは決め手にならない。お嬢様なんていくらでもいる。私は矢印ボタンをクリックして、調書を流し読みしていた。ふと、手が止まった。気になる記述を見つけたのだった。

 

『残波岬灯台付属プラネタリウムの解説員が足りない、至急応援に来て欲しい』

 この手紙を出した後、我々は残波岬で待機し続けた。

「ボス、あいつ来やすかね」

 井ノ原が宮平牛乳とサーターアンダギーをほおばりながら話しかけてくる。

「来るさ。どれだけアニメ業界で評価が急上昇しようが…奴はナレーターさ」

「来たぞ!」

 鈴が指さす方向を見ると、確かに呼び出した相手が灯台に向かって歩いていた。4人で一斉に駆け寄る。その姿を認めた彼女は立ち止まり、こっちに振り返る。

「とんだ茶番ね。プラネタリウムなんてどこにも無いじゃない」

「ああ、そんなものは最初から無い。灯台ですら資金難で運営が厳しい有様だからな」

「ま、わかってたけどね。なあに? こんなところまで呼び出して」

「わかりにくいかもしれないが、残波岬は断崖絶壁だ。落ちたら死ぬ」

「…そう。気をつけるわ」

 波しぶきが降りかかり、鈴がわぷっと声を上げる。それを見て、彼女が促す。

「さっさと用件を済ませましょう?」

「そうだな──二木佳奈多。お前に幾つか訊きたいことがある。神北」

「ほいさ~」

 言われて前へ進み出た神北が、袋の中から物を取り出す。例のご神体──では無いが、それと同じものだ。

「!」

 二木の表情が変わる。それを見て、神北が続ける。

「かなちゃん。これ、かなちゃんのだよね?」

「──違うわ」

「違わないよ? だってこれ、あなたの妹さんから預かったものだもの」

「!!!」

「二人で下着の交換してたんだよねえ? というより無理矢理だったって妹さんは言ってるけど…」

「は、葉留佳の…葉留佳の下着が貧相だったから、私のと交換した…それだけよっ。それがどうかしたのっ!?」

「お前は…随分と妹のことを気にかけているようだ。だがこういうのはどうだ?」

 そう言って鈴は、丸めた新聞紙を手に二木に斬りかかった。二木はそれを軽くよけ、新聞紙を手でつかみ取ってしまった。

「…これが何? この程度なんでもないわ」

「楽しいか?」

「楽しいかって? こんなものが楽しいはず無いでしょう。ああ、でもあの子はこういうの好きだったわね…」

「そうだ。妹が好きなことなら、お前はとりあえずやってみる。いい姉さんだ。だが…少々やり過ぎたな」

「? 何の話よ」

「今神北が持っている下着。調べたところ、市内のデパートでまとめて購入されたものであることがわかった。──ところが、だ。そのうち一枚を、どういうわけか他人が使用していたことがわかった」

「…」

「朱鷺戸沙耶。あの内乱事件の主犯だ」

「だからなんです? 私がその朱鷺戸沙耶の正体だとでも?」

「…」

「そんなのわからないじゃないですか。死体現場に隣の部屋の人の包丁があった、でもそれは部屋にその人がいた証拠にはなっても、殺したという証拠にはならないんですよ?」

「ああ。だがその場合でも、その人からは重要参考人として話を聞かなければならない。君の場合もだ。下着をあげたにしろ盗まれたにしろ、どうやってそれが朱鷺戸沙耶の手に渡ったかを話してもらわねばならない」

「…」

「無論君には黙秘権がある、君にはわざわざ言うまでも無いとは思うがね」

 

 

 

 それから紆余曲折あって他の物証も揃えることができ、何とか立件にまでこぎ着けた。だがこの間、二木はずっと黙秘したままであった。

 

 そして初公判の日を迎えた。

 裁判官はあーちゃん先輩。被告人二木佳奈多には弁護団が付き、法廷には弁護団長の西園美魚、隣に宮沢謙吾が座っている。

「西園か…あいつはちょっと苦手なんだよな…」

 もちろん聞こえないぐらいの小声で、独り言を呟く。

 

 検察側が立証を行い、被告人に質問をする。法廷での黙秘は不利になるため、さすがに二木も口を開く。賢い女だ。こんな事さえ無ければ──もしかしたら私の隣に座っていたかもしれないのに。

 続いて、弁護側の反対尋問が始まる。西園が冷たく、僅かに軽蔑した表情を浮かべてちらりとこちらを見た。悪い予感がした。

「被告人にお聞きします。検察側は、あなたの下着を証拠として申請していますが、そもそもこれはどのような理由で押収されたものですか?」

「──わかりません」

「提示された令状に理由が書いてあったはずです。覚えていませんか?」

「そもそも令状の提示などありませんでした」

「令状も無しに押収されたのですか?」

「いえ。私から押収されたのではありません」

「あなたからではない。それは一体どういう事ですか?」

「わかりません。妹に貸していたので、もしかしたらそっちを──」

 悪い予感がした。

 

 続いて証人尋問に移る。検察側が呼んだのは3名。直枝理樹は二木佳奈多があまり校外に出たことがなく遊んだ経験が無いことを証言し、能美クドリャフカは二木佳奈多に殆ど友達がいないこと、夜中に能美が寝ている間でも勉強と称してずっと起きていたことを証言した。弁護側質問も特に問題無く過ぎていった。

 そして3人目の三枝葉留佳への弁護側質問で、事件は起きた。

「検察側が証拠として提出している下着、あれはあなたのものですか?」

「…いいえ、姉のものデス」

「押収されたのですか?」

「いえ、私が任意で提供しまシタ」

「人の物を勝手に提供したのですか?」

「それは、捜査に必要だからと…」

 異議あり! と私は叫んだ。任意捜査を否定するような流れになってはさすがに困る。裁判官も異議を認めた。西園は、表情を変えず、そのまま質問を続けた。

「では質問を変えます。他に下着を提供した人はいませんか?」

「え? 意味がよく…」

「検事さん以外にも誰か下着を渡したという事実はありませんか?」

 再び私は異議あり! と叫んだ。これは誘導尋問だと主張したが、今度は認められなかった。

「そんなことは…して…ないです…」

「証明出来ますか? それか誰か証人になってくれる人は?」

「そんなこと…無理です」

「検事さんから疑いの目を向けられることはなかったんですか?」

「ないです! そんなことは全く無いです!」

「全く無い。お姉さんは逮捕されて、同じ下着を持っているあなたは全く疑われなかったと」

「え? え? え?」

「──以上です」

 

 その日の夜。三枝から、証拠品の下着を返してくれと電話があった。公判中なのでもちろんそんなことは出来ない。そう説明したが、なかなか引き下がってくれなかった。仕舞いにはこちらが罵られる始末だった。

 次の公判で、弁護士席には西園の隣に来ヶ谷が座っていた。緻密に論理構築する西園と違い、豪腕で名高いのが来ヶ谷だ。そして証人席には、再び三枝がいる。今度は弁護側が証人として申請してきたのだ。

 来ヶ谷の質問が始まる。

「そもそもあなたは、何故検察に協力しようと思ったのですか?」

「姉に…改心して欲しくて」

「改心とは?」

「以前もこういうことがあったので。その時は、私に変装して…」

「ふむ。だが、それでお姉さんは既に改心したとは思わなかったのかな?」

「それは…」

「何故今回のすり替わりもお姉さんの仕業だと思った?」

「…警察や検察の人がそう言うので…」

 しまった。思わずそう口に出しそうになり、咄嗟のところでそれを飲み込む。

「一言そう言われただけか?」

「一言だけということは…説得される感じだったので…」

「説得か…。どんな感じに?」

「お姉ちゃんが悪い事したんだからきちんと証明して罪を償わないといけない…という感じの…」

「ふむ。それは例えば私が同じ言葉を言ったら、恫喝に聞こえるレベルか?」

「そう…デスネ」

 三枝を説得したのは神北だ。傍らの神北を見る。狼狽してとても反論出来る状況では無い。まずい。これは非常にまずい。私は咄嗟に判断し、手を挙げた。

「裁判長。証拠品の取り下げを申請します。C-13番について──」

「今更証拠品の取り下げ程度で済むとでも思うのか? これは既に、違法捜査の疑いのある事件だぞ」

 来ヶ谷に一括される。それに抗議する間もなく、西園が立ち上がって言った。

「裁判長。ただいま検察側から取り下げ申請のあったC-13番について、改めて弁護側から証拠品として申請したいと思います──」

 

 

 

 約一ヶ月後。判決が出た。

「主文。被告人を無罪とする──」

 完敗だった。裁判の焦点は違法捜査の有無に絞られてしまい、こちらが揃えたその他の証拠は一切顧みられることが無かった。控訴しても勝ち目など無い。

 自信はあった。私の感では他に「真犯人」などいない。だが二木佳奈多はもう訴追出来ない。つまり「真犯人」はもう、永久に裁判にかけられることはないのだ。残るはただ一つ、「あや」を裁判にかけることだけ。──そう、「あや」もまだ、捕まってはいないのだ。

 そんなことを想いながら、去って行く裁判官達に向かって礼をしていた。ふと、裁判官がこちらに振り返った。その口元は緩んでいた気がした。

 

 

 

 

 



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