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午前二時の教室

 



午前二時の教室は真っ暗闇ですごく怖い。あの子を抱くには境界線を越えて廊下に出て突き当たりの国境線を越えて、中央線に乗らなくちゃいけない。そうして吉祥寺に着いたら井の頭線に乗り換えて8往復して改札を出ると、ようやくあの子のいる世界線にたどり着く。


プリンの日

鮮魚売り場でトラウトサーモンを手にとってカゴに放ると、ベビーカーの中で息子がプリンになっていた。スプーンでひとかけらすくったような形の悪いぐじゅっとした塊がそこに鎮座している。色は鮮やかな薄黄色で、大きさだけは確かにさっきまでそこにいた息子そのものだった。 ふと辺りを見回すと、ベビーカーの中にいるのはみんな、大きなプリンの欠片だった。青いニット帽をかぶったプリン、ブランケットに包まれたプリン。母親たちが少し目を離した隙に、子供たちはみんな、プリンになってしまったようだった。


おそうしき

今になって思えばきみとぼくが別々の道を歩み始めたのが7月24日で、ぼくはずっと脳天気にきみは元気かなとか、ぼくといない分きみはぼくといては出来ないことを沢山楽しむといいなんて呑気に考えていたけれど、きみはどうやらぼくといない間に別の男を好きになってそうして「今は仕事に集中したいの」なんて切り札を使ってぼくを黙らせた。きっときみはぼくがきみのことをちゃんと愛しているっていう自信があったからこそ、それがぼくを沈黙させる最良の方法だってわかって使ったんだよね?

きみに借りたままの666枚のCDで六芒星を描くとぼくはオナホを抱いて真ん中に立った。
右手に持ったガラケーのワンセグのアンテナを伸ばしてそれでオナホを88回ぶったいた後に、ずぷずぷ挿入。
一心不乱に抽迭運動を続けていたら次第に見えるよ、新しい世界が。
きみのことはもう恨まない。さようなら。楽しい時は本当に幸せで、あの時だけは嘘じゃなくてぼくは本当に楽しかった。
だけど過去には戻らないよ。ぼくはもっと。
オナホからガラケの細いアンテナを挿して、抜く。
その瞬間、ぼくはまばゆい光につつまれて、気がつくとオナホの中へ吸い込まれていた。

始まるよ。新しい人生。オナホの先には何があるのだろう。いまのところまだ、光しか見えないけど。


たなばた。

「昨日はどうして来なかったの!雨の中ずっと待ってたのに。ひどい!」

電話口が繋がると溜まってた気持ちが私の声を押し出した。

「え?何で?昨日は5月22日だろ」

だけど彼はするりと交わす。

「バカ!7月7日でしょ!!」

「いやいやそれ新暦じゃん。オレら毎年旧暦で会ってたよね?」


はなくそ

小指を鼻の穴に突っ込んだのは思いつきだった。指先に触れる固い物を弾いて引っ掻くうちにそれは指の上に乗っかった。小指を抜くと、確かに指先に付いている。どうしょう。これの置き場がない。布団からは出たくない。指先に重みを感じ途方に暮れる間に夜は明けていく。



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