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 さて、少年とは旧知のアバターたちであるが、今日もトネリコの古木の根元で他愛ない会話に花を咲かせている。

「...ところでサ、カリーニン、お前、鏃に毒の唾を塗りたくって狩りをするけど、自分の毒には中らないのか?」

 屈強そうなヒト族の若者・ウォルフが訊く。

 それに対してカルストマツテンほどの大きさのハンター族の少女・カリーニンが応える。

「そりゃ当り前じゃない。フグが自分の毒でデリートしないのと理屈は同じよ」

「それ、『青狸の冒険』に出てきた有名な問答だから」

 雪のような純白の毛髪を生やしたトロル族の巨人・ニルスがツッコミを入れる。

「にしてもウォルフ、あんたの親父さんとお袋さんってパン職人だけど、ウォルフはどうして傭兵になったの?」

 カリーニンが話題を変える。

「だって俺はチマチマとパン生地を捏ねたり、レンバスを焼いたりするのが嫌なんだよ。それに、悪徳地主の手先になって得物を振り回す『マフィ』共より、貴族に忠誠を誓って剣を手に取って戦う傭兵の方が、はるかにカッコイイだろ?」

「レンバス」とは、エルフ族の幼体の餌になる携帯食のことである。彼らは、幼体の時期は他の種族同様、ハイヒールイノシシの腸詰でも、フリルトカゲの卵のオムレットでも、野菜スープでも何でも口にするが、成体になると、身体の維持に必要な栄養素のみを凝縮したレンバスを一日にたったの一欠片、及び水のみしか摂らなくなる。それはさて措くとしてニルスは思う。

(悪徳地主の手先になる「マフィ」も貴族に忠誠を誓う「傭兵」も、どっちも同じようなものだと思うが...)

 そう、雇い主が「悪徳地主」か「貴族」かの違いだけで、「マフィ」「傭兵」の両者とも、所詮は「用心棒」でしかない。尤も、傭兵志願の若者が100匹いたとしても、そのことに気付く者は、ほんの4~5匹程度だろうが。

「しかし傭兵をやっていると、生傷が絶えないんだよなー。ケガをする度に痛い思いをするし...。『ミズガルズ・オンライン』で嫌なのは『痛さ』だの『寒さ』だの『疲労』だのまでリアルに忠実に再現するトコなんだよ。こないだの冬だって物凄い寒さだったし...」

 ウォルフがゲームに対する不満をこぼす。

「俺は『春の陽気』と『夏の暑さ』の方が大嫌いだ」ニルスが吐き棄てるように言う。「トロル族は元々寒冷地に適応した種族だ。それなのに、俺の祖父さんと祖母さんが北方氷原を出て、この大塩海に孤立するシシル陸島に移住しちまったモンだから...。こないだの大寒波の時は、俺はむしろ大喜びしたぜ」

「あ、そうだ!暖かくなったことだし、そろそろあいつに会えるんじゃないのか?」

 ウォルフが思い出す。

「あいつって...ああ、イスカリオテのことか!」

 ニルスも呼応する。

「イスカリオテに会うのは半年ぶりになるわね...って、噂をすれば何とやら、だわ!あそこにいるのはイスカリオテじゃない?」

 カリーニンが街道を歩いてくる人影を発見して言う。それを確認してウォルフも反応する。

「本当だ。おーい!イスカリオテ!!半年ぶりだな!!!」

「カリーニン!ニルス!ウォルフ!みんな、元気そうで何よりだよ!!」

 少年――イスカリオテ(コードナンバー:E-SPPI-5071940-1007)も、手を振って三匹のアバターたちに応える。


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