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翌日―― 長次の報告

 朝になって帰って来たのは、万蔵親分だけじゃない。

 長次も、朝帰りだ。

 ご丁寧に、両の拳で弥蔵をこさえて、機嫌良く鼻歌なんぞ歌いながら長屋に

戻って来たけれど、

「おやおや? 先生も親分も、随分しけた面ぁしているね。――なんか、あっ

たんで?」

 肩をすくめて、首を傾げた。

 いつもふらふらと、何をやっているのかよく分からない半端者だけど、こう

いうちょっとした仕草に愛嬌があって、憎めないのが長次だ

「親分は、徹夜の捕物で、寝不足さ。先生は、ちづるさんが消えっちまったん

で、心配してる」

 あたしがそう言うと、何を勘違いしたのか、長次はにやけた。

「えっへっへ。ちづるさんは、きれえなお人だが、亭主持ちじゃあねえか。妙

な気を起こすと、ずんばらりんと、やられるぜぇ」

「馬鹿か。その作田さんと一緒に消えたんだ」

「なら、何の問題もねえ――」

「ところが、作田には、辻斬りの疑いがかかっていてね。俺が寝不足も、その

せいよ」

「……へへえ?」

 みんなに、急に色々言われて長次は、目をくるくるさせて、不心得顔に首を

傾げた。

「まあ、その話は後だ。その様子だと、何か分かったのだろう?」

「そりゃあもう、色々と分かりやしたぜぇ。驚き桃の木、聞いてびっくりの木

ってやつだ。――なんと、坂崎彦太夫のご愛妾というのが、明石屋新兵衛の娘、

お糸だてえんで」

「なんだと――?」

「一昨年の山王様の、踊り屋台で舞っているのを見初めたらしいが、その時、

番茶も出花の十八歳。だから――ええと、今年は二十歳って勘定だろうが、彦

太夫のほうは、もう、五十も半ばとくらあ。……先生も、負けてちゃいけやせ

んぜぇ。おいらが見たとこじゃあ、先生のほうがずんと男ぶりは上だ」

「……そういうご託はいいから、先を話せ」

 山王祭は、天下祭り。江戸一番の大祭だ。

 その山車の踊り屋台に上がれるのは、町内でも選りすぐりの小町ばかりで、

大店の若旦那はもとより、ひょっとすると大名旗本のお殿様やら御殿女中の目

に留まり、玉の輿に乗れるかも知れないという江戸の娘達の晴れ舞台なんだ。

 だけど、お糸さんとやらは、それで果たして幸せかねえ?

 それはともかく――

 なんだか、頭がこんがらかって来ちまった。

「ええと、つまり……? 郁之丞を刺した新太郎は、なんと郁之丞の義理の伯

父さんだった――ってことになるのかい?」

「お糸は側室だろうから、そうとも言えんだろうが、とにかく坂崎家と明石屋

は、縁続きというわけだな。恨み辛みを越えた一蓮托生で、口封じか何か画策

するなら、両家が談合の上――ということも、考えられる」

 なるほどね。子どもが子どもなら、親も親だ。

 余計な情けなんかかけないでも、お取り潰しにでも連座にでもなっちまって

良かったんじゃないか――と、あたしが言ったら、先生は首を振った。

「こんな時、一番割を食うのは、何の関わりも無い下っ端の奉公人なんだよ。

ただ仕事を失うだけじゃ無い。次の奉公先への添え状も受けられないし、前の

奉公先の良くない噂が広まっていては、なかなか雇ってはもらえんだろう」

 いつの世でも、あおりを受けるのは、弱い立場の者、貧しい者と、相場が決

まってるんだ。

「……なるほどな。話は大体、分かった」

 周庵先生が、懐の中で腕を組んだ。

「大身旗本の、お家の事情なんか、別にどうでもいいが……」

 


 坂崎家と明石屋の内幕

 ところが、長次の話は、それで終わりじゃなかった。

「そのお糸だがね。早速身籠もって、今年の春に、玉のような男児を産んだ」

「そりゃまた、お盛んな」

「それで、殿さんがとち狂ったのか、お糸がそう謀ったのかは知らねえが、郁

之丞を廃嫡にして、その赤ん坊を跡取りにしてえってな話になっていたらしい。

それというのも、当代の彦太夫は入り婿で、御本妻が亡くなるまで敷かれっぱ

なしだったてえ話で、もともと御本妻が産んだ郁之丞には情が移らず、疎んじ

ていなすったみてえなんだな。もしかしてもしかすると――」

 芝居みたいな話だけれど、郁之丞は彦太夫の胤じゃ、なかったのかも知れな

い。御本妻の不義の子か、あるいはそれを承知で入り婿させられていたのかも

……てな事を、長次は言った。

「とんだお家騒動じゃないか」

「――しかし、家臣達が派閥を作って、あっちとこっちに付くから、お家騒動

になるんだ。現当主が決めたことに、異を唱える者が誰もいなかったとすれば、

何事も起こるまい」

「へえ、まあ、そうなんで。――とにかくそれで、郁之丞は、病か、乱心か、

不行跡か――名目は分からないが、若隠居させられるということに決まって、

すっかり腐ってしまってね。それまでは、そこそこまともな若様だったのが、

見事なまでに飲む打つ買うの三拍子揃った放蕩振りで、屋敷を飛び出し、遊び

歩くようになったって話だ」

「すると? 馬鹿旦那の新太郎に郁之丞を殺されちまっても、お殿様は痛くも

痒くもなかったって訳なのかい?」

 そう聞くと、馬鹿侍の郁之丞も、何だか哀れだ。

「うーん、それについちゃあ、明石屋が大枚払って事を収めたって話だがね」

 これは、明石屋の女中の一人と一晩懇ろになって、聞き出したんだが――と、

長次は、にまにま笑って、

「三千石とは言っても、先祖代々の借財が嵩んでいるとかで、坂崎様の台所は、

なかなか苦しかったみてえだね。お嬢さん――つまりお糸が奉公に上がるに当

たっちゃ、明石屋は随分金を積んだらしいし、その後もなんだかんだで金を貢

がされていたようだ」

 ある程度金を貯めると、今度は身分や権力――といった物にあこがれを抱く

ようになる者は、結構多いらしい。どんな万両分限も、商人は商人。お侍の上

には、決して立てないのだからね。

 それで、金で御家人株を買ったり、お旗本の次男三男を婿養子にして縁を結

んだり、娘を女中奉公という名目で、やがては大名旗本のご側室、いずれ男子

を産んで、果ては、あわよくば自分の血を分けた孫がお殿様に――なんてこと

を、考えるようになる。

 お侍はお侍で、頂く禄が物価の上昇に追いつかない上、守らなくちゃならな

い体面ってな物があるものだから、下士はもちろん、お旗本からお大名、果て

は公方様に至るまで、みんなぴいぴいしている。身上の確かな商家と縁を結ぶ

のは、むしろ願ってもないことで、坂崎の殿様がお糸さんを側室に迎えたのも、

一概に、単なる色呆けとも言えないんだろう。

 明石屋とお糸さんにとっての誤算は、お相手が年頃のご嫡男、郁之丞じゃな

くって、いい年の御当主、彦太夫の方だったってことだったんだけど――

「ともあれ明石屋としては、お糸が首尾良く男子を産んで、万々歳さ」

 ――とすると、その子を跡取りにという話にだって、きっと大枚の金が動い

たのに違いない。

 大枚――ていうのがどの位なのか、あたしには想像も付かないけれど、相手

は小っ旗本じゃない。三千石の御大身なのだから、十両の二十両のって話じゃ

ないんだろう。

 明石屋は、大店には違いないけれど、別に万両分限じゃないよ。三月の大火

では、店を焼かれてもいる。店は何とか形を付けて営業を再開しているけれど、

母屋の方は、まだ仮普請のままだ。

 娘の出世のためとは言え、大変な物入りだよね。

 

「――だが、因縁ってのは、恐ろしい」

 あたしが話しに食いついているから、長次の口はますますなめらかだ。

 新太郎の方は、掛け値無しの放蕩息子、生まれついての馬鹿旦那だった。

 郁之丞と新太郎は、どんな因果かどこぞで出会い、意気投合して、一緒に遊

び歩いていたが、どうやら互いの素性を知らずに付き合っていたらしい。

 同じ放蕩と言っても、新太郎はもっぱら女。郁之丞の方は、やはりお武家で、

中間なんか見慣れているから恐れることはないし、中間達の方も、若様だの殿

様だのと持ち上げ、おだて上げてカモにするから、あっちこっちの賭場で、い

い顔になっていて、それぞれに面白いことを知っている。時々つるんで遊び回

っていたんだけれど、遊びだけの付き合いで、家の名、店の名まで名乗り合っ

たわけじゃなかったんだ。

 ところがあの日、ひょんなことから、新太郎が自分を追い出しにかかった、

にっくきお糸の方の兄と分かって郁之丞が激昂した――というのが、中間部屋

の刃傷の真相らしいよ。

「ち、ちょっと待ってくれ。そうなると、作田甚十郎のほうは、一体ぇどうな

るんで?」

 割って入った万蔵親分が、首を傾げた、その時――


 小森庄左衛門の乱入

 不意に先生がそわそわしはじめたけれど、やがてあきらめたようにため息を

ついた。――と、思う間もなく、腰高障子ががらりと引き開けられて、六尺近

い長身の、鬼瓦みたいな顔をした、五十がらみのお役人が、苦虫をかみつぶし

たような顔をして、立っていた。

 昨日、捕物の指揮を執っていた、南の御番所(町奉行所)の臨時廻り同心、

小森庄左衛門様だよ。

「これはこれは。朝っぱらから、何事ですかな」

 そらっとぼけた顔で先生が言い、小森様は、つかみかからんばかりの勢いで、

「作田甚十郎を逃がしたのは、貴様か?」

「……は?」

 さすがの先生が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

 小森様が言うには、こういうことだ。

「昨日作田は、あちらこちらで大枚の金をばらまき、夜通し飲み歩いていたよ

うだが、朝になって一旦長屋に戻り、そして、その後すぐに妻女共々姿をくら

ましている。その間、作田を訪ねているのは、どうやらおぬし一人だ」

「ははあ。なある……」

「その時作田は、おぬしに大金を渡しているらしいな。他にも、米沢町界隈を

徘徊していたり、物陰からこっそりと捕物の様子をうかがっていたりと、不審

な行動が多い。怪しいことこの上ないが、「あの先生は、亀屋のがいたく肩入

れをしている。万蔵への義理もあるから、あまり短絡に引っ張ってくるわけに

もいかねえ――」と、嘉平は申しておるが、どうなのだ」

 ……それを、そう直截にしゃべっちまっちゃ、身も蓋もないだろうに。

 果たして万蔵親分は、なんだかちょっと間の悪い顔で、もぞもぞとした。

「なるほどなるほど。ようく分かりましたよ。しかし、そう赤鬼みたいな顔で

怒鳴り込まれたからって、確かにわたしが逃がしました――なんぞと、言うわ

け無いじゃありませんか」

 先生が、少しからかう口調で言ったから、小森様はたちまち、本当に赤鬼み

たいになって「馬鹿野郎!」と大声を出した。

「そうかっかとしなさんな。血の気が上がって、卒中が心配だ」

 のんびりと先生が言うと、それまで土間に仁王立ちしていた小森様は、がっ

くりと疲れた表情を見せ、漸く上がり框に腰を下ろし、声を落とした。

「実際のところはどうなのだ。――本当の所を言え」

「知りませんよ」

「おい――!」

「知っていたら、こう雁首揃えて心配などしてはいない」

 すげなく言って先生は、万蔵親分に、さっきの話に戻るが――と、言った。

「昨日の朝の作田さんは、人を斬ってきた後のようではなかったよ。そもそも

あの人に――ああは斬れないはずだ。金の出所は気になるし、突然姿を消した

のも不審だが、おそらく、中間殺しとは関わり無い」

「いや、しかし――!」

「――作田さんが、わたしに一両寄越そうとしたのは本当だが、なに、せっせ

と足を運んでいるだけのことで、元手などかかっちゃいないんだ。薬礼なども

らう謂われはないから、受け取らなかった。第一、丑松と重吉が死んだ話を聞

いたのは、その後だ」

 うんうんと、あたしは力を込めて大きく頷いた。

「今の今まで、その話をしていたのだが、この件にはな、三千石の大身旗本が

絡んでいるんだ。お前さんがた町方の出る幕じゃ無かろうが、友達甲斐に話し

てやろう――」

 そう言って先生は、それまでの話をかいつまんで、あらためて小森様へも話

して聞かせた。どうにも、仲が良さそうには全然見えないけれど、先生と小森

様は、お友達なのかね?

 小森様は、ううむと唸って、口をへの字に曲げた。

「では、おぬしは、嘉平の見込みは全くの見当違いで、中間殺しは、その坂崎

某の手の者の仕業だと言うのだな。そして作田は、たまたま、その晩大金を手

に入れ、たまたま、手入れの直前に、夫婦共々突然姿をくらました――。そう、

言うのか。そんな都合の良い偶然が、そうそう重なるわけがあるか!」

 どんと床を叩いて怒鳴られて、

「……だから、そこがどうも、皆目分からん――」

 先生は、ちょっと自信なさげに首をすくめた。


 おあいの推理

「あのさ――」

 あたしは、恐る恐る口を開いた。どうにも気になることが、あったんだよ。

「明石屋さんは、呉服屋だよね。――反物だけじゃなく、お客の希望で、仕立

ててから納めることもあると思うんだけど……」

 だから、呉服屋と仕立屋はつながっている。時には、自前のお針子を抱えて

いることもある。

 万蔵親分が、はっと腰を浮かしかけた。ちづるさんが明石屋の仕事を請け負

っていたかどうかくらいは、ひとっ走りで分かることだ。

「ちづるさんは、お針箱と一緒に、縫いかけの着物を持って行った。橋本町の

長屋に、残ってはいなかっただろう?」

 万蔵親分と小森の旦那が、顔を見合わせて頷いた。

「大急ぎの、その分実入りの良い仕事で、明日の朝までに仕上げなきゃならな

いんだって言って、先生が行っても、ほとんど手を休めずに縫っていたよね。

明日の朝って、今朝のことだけど――もし、ちづるさんがあれを持って消えち

まったのだとしたら、仕立てを頼んだ人は、きっと困っているだろうね……」

 もう、ほとんど完成間近だったんだ。

 いっそ、そのまま放り出されていたのなら、大急ぎで続きを他の縫い子にや

らせて、多少納期が遅れるくらいで済むかも知れないのに。

 だけど、もし、仕立ての頼み主も、ちづるさんたちを隠したのも、明石屋だ

ったとしたら――?

 ちづるさんが、あの着物を持っていなくなったわけもすっきりするし、抱え

主なら、ご亭主の作田さんが、どこぞの藩の剣術指南役をしくじって浪人した

ってあたりの事情を――つまり、ちょっとどころじゃなく腕が立つってことを、

知っていたっておかしくはない。

 ちづるさんに仕事をもらっている義理もあるし、喉から手が出るほどお金も

欲しかっただろうから、明石屋に頼みごとをされれば作田さんは、きっと断ら

ないだろう。

「そんな馬鹿な――」

 呻くように、周庵先生が言った。

 万蔵親分が、尻っ端折りで飛び出して行き、あたしたちもぞろぞろと、後を

追った。


 明石屋新兵衛の弁明

 果たして、ちづるさんは、明石屋の仕事を請け負っていた。

 そして、明石屋新兵衛は、橋本町の長屋から作田さん夫妻を移したのは自分

であるということも、認めた。

 しかし――

「ちづる様というお方は、花嫁衣装も縫えるほどの腕をお持ちで、得難い縫い

手でございます。それが、病に倒れられたと聞き及びまして、手前どもが小梅

に持っております寮へ、引き取りましたのでございますよ。はい、作田様にさ

ようなお疑いがかかっているとは、まったく存じません事で――」

 ちづるさんを、ちゃんとした医者にかけて療養させ、ついでに明石屋の抱え

込みにする腹積もりもあったのだ――と、新兵衛が、先生を見ながら「ちゃん

とした医者」に力を込めて嫌みな口調で言ったから、あたしは腹を立てたけど、

先生はすました顔で、

「なるほど、そりゃ結構ですな――」

 なんて、言っていた。

 寮って言うのは、物持ちの旦那方が、閑静な郊外に構える別宅のことだよ。

 そこで、風流に親しんだり、遊興の足がかりにしたり、妾宅や隠居所として

使ったり、病の者を療養させたりもする。

「作田様につきましても、折角のお腕前でございます。町人風情の用心棒など

では失礼かとは存じましたが、仕官が叶うまでのお繋ぎにと、お願いをいたし

まして、丁度あの一昨日の晩、いささかの支度金をお渡しいたしましたのでご

ざいます」

 明石屋新兵衛は、思った以上に狡猾だった。

 恩を売って、腕の良い針子を丸抱えにするという、商人らしい打算も見せな

がらの弁明は、理路整然としており、ただの温情というような話よりも、ずっ

と説得力があった。

 だけど、小森様が、ただでさえ厳つい顔の、目をぎろりと剥いて、

「子細は分かった。しかし、作田甚十郎当人に、話を聞かぬ訳にはいかぬ。そ

の小梅の寮とやらを、これから訪ねたいが、構わぬだろうな」

「そ、それは、もちろん――」

 新兵衛は、にこやかに言ったつもりだろうけれど、さすがに、ちょっと引き

つっていた。

 小森様は、

「おかしな小細工など弄すると、かえって疑いを招くことになるぞ」

 と、釘を刺して明石屋を後にし、万蔵親分と長次に見張りを命じた。

 

「ふん、狸め――」

 たかが商家の用心棒に、何十両という支度金を積むわけがあるか、と吐き捨

てるように小森様は断じ、

「どうも、解せんな……」

 周庵先生は、しきりに首を捻った。

「解せぬことがあるものか。行きずりの辻斬りではなかったが、これはやはり、

作田甚十郎の仕業だろう。明石屋が、殺しを依頼したのだ。これから行って、

刀を検めてみれば、はっきりするだろう」

「待て待て待て――。そうそう患者に死なれては、かなわん。――作田さんが

素直に言うことを聞けばいいが、いきなり町方が押しかけて、横柄に刀を見せ

ろなんぞと言われて、誰がしおらしく従うものか。目の前で斬り合いになどな

っては、てきめん、ちづるさんは、自害するぞ」

 先生は、どこまでも、ちづるさんの心配をしている。

 ちづるさんは、作田さんが何をしていようとも、どこまででも一緒について

行くような、もしも自分が足手まといになったり、作田さんが先に死んでしま

うようなことがあれば、迷わず命を絶つような、そんな、今時滅多にいない、

武家の妻女を絵に描いたような人なんだ。

「ともかく、わたしに考えがある。しばらく任せちゃくれないか」

「なんだと――」

「別に、逃がしたりはしない。ちづるさんは、一応、仮にも、わたしの患者な

んだ。明石屋に言われたと言って、ちょいと顔を出してみるよ。――もし、明

石屋が作田さんに、この一件の口封じを依頼したのなら、わたしも頭数に入っ

ているはずだからな」

「馬鹿――」

「よく、そう言われる」

 のほほんと先生は、笑った。



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