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エピローグ

 ケインは、カイルと、宮廷舞踏会のサロンの隅に、立っていた。

 紺色の詰め襟警備服は、パーティー用であったので、金色の紐や、アクセサリーが付いていて、上質な装いである。

 

 一連の事件を解決した後の警備は、気が楽であった。

 

「良かったな、ケイン! 明日からは、お姫様と、お近付きになれるじゃん!」

 

 カイルが、こそこそ耳打ちして、肘でケインをつついた。

 

「バーカ、俺は、真面目に仕事するんだからな!」

 

 ケインの方も、くだけて笑う。

 

 長いテーブルには、いろいろなパーティー料理が並べられ、宮廷音楽家の奏でる優雅な調べが、室内に充満していく。

 

 貴婦人たちは、ごてごてのドレスを重たそうに引きずり、菓子をつまみながら、お喋りを楽しみ、男性貴族たちは、美しく着飾った女性たちに、ダンスの申し込みをしていた。

 

「時に、ランドール。君は、ダンスは出来るかね?」

 

 ふと、王が、ダミアスを連れて、ケインに尋ねた。

 

「ダンスでありますか? 私は、粗野な武人でありますので、庶民のダンスならともかく、宮廷ダンスなどと優美なものとは、縁がないものですから……」

 

 俺も、敬語がすんなり出るようになったな、などとケインはひとり感心していた。

 

「そうか……。いやいや、失礼した」

 

 王は、にこにこ笑いながら去って行った。

 ダミアスも、軽く会釈して、王についていく。

 

 何の話だったのか? まあ、いいか、とケインが思っていると、

 

「ねーねー、この赤いぷちぷち、なあに?」

 

 ミュミュが、貴族たちの好む、例の赤い粒々の食べ物を、何粒か手に持って飛んできた。

 

「おい、ミュミュ、見付かったら騒ぎになるから、どこかでおとなしく遊んでこいよ」

 

 人の多い場所で、妖精などが見付かれば、大混乱が起きるのは目に見えている。

 ところが、ミュミュは、ケインの忠告など聞きもしなかった。

 

 彼女にとってはボールのような赤い粒に、大きく口を開いて、カプッと大胆にかぶりつく。

 

 ケインとカイルの予想通り、赤い汁が、ぴゅっと飛び出した。

 

「あ~ん! 汚れちゃった~!」

 

「もう、しょうがないなー。だから、おとなしくしてろって言ったのに」

 

 ケインは、近くにあったナプキンで、彼女の、赤い液体のかかった部分を拭こうとした。

 

「や~ん、何すんの、くすぐった~い! ケインのエッチ!」

 

「なっ、なんだよ! 拭いてやってるんじゃないか」

 

 ミュミュは、白いナプキンをケインから奪い取ると、それに素早く包まった。

 白い布が、スーッと空中を移動していく。

 

「こら、余計目立つだろ!」

 

「あいつも、あれで、一応、女の子なんだよ」

 

「ふ~ん、そういうもんかなぁ」

 

 ケインが、ぶつぶつ言うと、隣では、カイルが、おかしそうに笑っていた。

 

「お飲み物は、いかが?」

 

 見ると、クレアが、丸い銀色のトレーに、酒の入った杯をいくつか乗せて、ケインたちの前に立っていた。

 

「警備の方へ、陛下から差し入れよ」

 

「クレアじゃないか! いやあ、似合うよ、その女官服!」

 

 カイルが銀色の杯をひとつ取って、クレアに笑いかけた。

 ケインも、杯を受け取る。

 

 クレアは、淡い水色の詰め襟と、半袖のシンプルなドレスだった。動きやすいよう、膝から下は広がる形であった。

 

 普段の純潔な神官服も、パーティー用の女官服も女性らしい外見の彼女には、似合っていた。

 

 目鼻立ちも整い、清純な雰囲気のクレアは、そのようなシンプルな服でも、やたらに飾り立てた貴族たちよりも、よほど綺麗だと、ケインもカイルも思った。

 

「やっぱ、かわいいよ、クレア! ああ、ホントに、恋愛しちゃいけないの? もったいない!」

 

「やだ、カイルったら! そんなこと、大きな声で言わないでよ、恥ずかしいじゃないの」

 

 クレアは顔を真っ赤にして、そそくさと他の警備兵のところへ、杯を配りに行ってしまった。

 

 ケインも、微笑ましそうに、その後ろ姿を見守っている。

 

「そういえば、ヴァルとマリスは、どうしてるんだろうな」

 

 と言いながら、カイルがテーブルの上から、骨付き肉を取ってきて、かぶりつく。

 

「おい、勤務中だぞ」

 

 仕方のなさそうに、一応、注意をしてから、ケインは答えた。

 

「ダミアスさんが、ヴァルに何か頼みたいことがあるんだそうだ。だから、ヴァルは、そのうち宮廷にも顔出すんじゃないかな。マリスは、よくわからないけど、ヴァルの用が済むまでは、この国で遊ぶんだって言ってた。ここでの自分の仕事は、もう終わったんだと」

 

 カイルが驚いて、ケインを見た。

 

「マリスに会ったのか!?」

 

「え? ああ、昨日、偶然な。あれ、言わなかったっけ?」

 

「聞いてねえよ」

 

 昨夜、クレアと牢に行った時、マリスとは途中で一緒になり、その後、北の森でヤミ魔道士やモンスターたちと戦ったことを、ケインは簡単に説明した。

 

「ふ~ん。マリス、結構スタイル良かっただろ?」

 

 カイルは、平然と肉を頬張りながら、話の本質とは全然違うところに反応していた。

 

「は!? ……ああ、まあな。……なんで、そんなこと知ってるんだ?」

 

 カイルは、得意になった。

 

「そんなのわかるって! この俺様の眼力を持ってすれば、例え男装してたって、女のスタイルくらい、いつでも見抜けるのさ!」

 

 『マドラス』と一週間も一緒にいてさえ、カイルが、その正体を見抜けなかったことを思い出すと、ケインには、おかしくて仕方がなかった。

 

「今のところ、この国にしばらく滞在するってんなら、ちょうどいいや。俺も遊ぼーっと!」

 

「おい、カイル、城の者には手を出すなよ。例えば、女官とか」

 

「鋭い! 何でわかったんだ!?」

 

「今までの行動パターンを見てりゃ、わかるって。これからは、俺も姫の護衛で、いちいちお前に構ってられなくなるんだからな。ちゃんと自分で気を付けてくれよ」

 

 言っていて、ケインは、カイルの保護者みたいな気がして、イヤになった。

 

 ちらっと、クリストフ王子と目が合ったが、王子は、バツの悪そうな顔で、すぐに目を反らした。

 

 王女には、相変わらず、マスカーナとデロスの王子たちが、寄っていっていた。

 姫の婚約者もいずれは決まるのだろう、それも、王族の運命さだめか……と、ふと、ケインは考えていた。

 

 舞踏会は、盛大に、空が白み始める頃まで続いた。

 

 よくもまあ、あのような重量のあるドレスやタキシードで、一晩中踊っていられるものだと、ケインは感心していた。

 

 あと数時間で、王女の護衛の時間となる。

 

 その晩ーーほぼ明け方であったが、ケインは、警備の仕事を終えると、宿舎のベッドに倒れ込んだ。

 

 しばらく過ごすアストーレでの新たな生活が、これから始まろうとしていた。

 

奥付


【2015-12-25】Dragon Sword Saga1『旅の仲間:前編』


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著者 : かがみ透
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/kagami-toru/profile


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