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お母さんの初恋

 お母さんは、小さな小さな島で生まれ育った。なので、街育ちの私にとっては毎回驚く話ばかりだった。


 『島じゅうの皆が皆、知り合いって感じでね。一人に話たことが数日後には皆知ってるって感じかしらね。悪い事をしたらすぐばれちゃうって?ははは、島には悪い人なんて居なかったわ。だから皆、家に鍵を閉めなかったの。』


 ”ねー、島ならでは、って感じじゃなくて、なんか私でも実感できるような話、、うーん、そうそう初恋ってお母さんはいつなの?”

 と今更ながら聞いてみた。


 『あれは、私が高校生になったばかりだったね。』
 

 いつものように、一緒に夕飯を作り始めた時、お母さんの昔話は始まった。



 『簿記の授業が始まるって時に、教室の戸が開いたのよ。そして、その簿記の先生が入ってきたの。なんだか、ふっと、目がばちばちっと合ったような気がしたわね。』


 意味不明な表現も混じりつつ、でも、なんだか懐かしい気分にしてくれるお母さんの話は、なんだか自分も体験したかのような気分にしてくれて、楽く、そして[初恋]っていうテーマがどうも楽しみで、すぐ聞き入ってしまった。


であい

 「なんて名前だったかしらね、。。 はは、そうなのよ、当時もその先生の名前知らなくて、ただいつも”先生、先生”って呼んでたわね。」


 。
 。
 。

 −−がらがらがら−−

 授業のチャイムが鳴って、その後すぐに”先生”は入ってきた。

 (簿記の授業はどんな先生かな?)

 ふっと、なつ代は戸の所に目をやった。

 −−ばちばち−−

 先生もなつ代の方をみてて、目が合ってしまった。

 (ふむふむ、中々、背丈も高くて、ハンサムじゃないの)
なつ代は変に関心してしまった。
 
 先生は黒板の前に立つと、自分の名前を黒板に書き始めた。


 ( 白 岩  喜 由 )

  
 「皆さん、初めまして。広島からやってきました、白岩(しろいわ)と言います。授業を受け持つのは二度目ですが、張り切ってますので、どうぞよろしく!」

 勢いよく、”先生”は自己紹介を始めた。
 
 なつ代は、
 (しろいわ、、下の名前なんて読むのかしら。言ってないじゃない。  き、、、ゆ。 きゆ?! かな? まぁ、きゆ先生でいっか)
 
 実はなつ代、病気が原因で一年留年をしている。それにも関わらず、漢字が読めずに居た。情けない。。と自分で思いつつ、あっけらかんとした彼女の性格から、先生の名前は彼女の中で”きゆ先生”になってしまった。


 (きゆ先生)

 (きーゆ先生)

 (きゆーー先生!)

 (きゅ先生! 変な名前!>v<)


 なつ代は授業に上の空でいた時、その”きゆ先生”がなつ代の
所にやってきた。


初かいわ

 「君は、。。山村、なつ代くんか。何か質問があったら、手をあげてくれよな。」

と、きゆ先生はなつ代の名札と名簿を照らし合わせながら、言った。

 なつ代は、ハッと我に返り、何を思ったのか机の中から[そろばん]の教科書を出して、

 「前のそろばんの授業でココとココの意味がわからなかったのですが、教えてもらえますか?」

と今の授業に関係ない事を聞いてしまった。

 「はは、まかせとけ。」と先生は笑いをこらえながらも、快く教えてくれた。


 先生となつ代の初めての会話だった。


ぐうぜん?

 

 

 ーー放課後、

「なつ代、一緒に帰ろ」

 なつ代の大の親友、里美が下駄箱の所でなつ代に声をかけた。

「うん、ちょっと待って、く、靴がはけない」

 ははは、と笑いながら校庭に出ていくと、
桜が満開になっている所に目が行った。

 青い空を背景に、太陽を目指して咲いている桜はとても眩しかった。

「先生ー!!」

 里美が後ろを向いていきなり叫んで、手をふった。

 その先には、きゆ先生が二階の窓からこちらを見ていた。


 (もしかして、きゆ先生もこの桜の木を眺めていたのかな?)

となつ代は思ったらなぜだか、うれしくって笑えてきた。


 「はははー」


 「えー何笑ってるの、なつ代ー!」
と里美が言っても、笑いがとまらないなつ代だった。


えくぼ

 それから、なつ代はきゆ先生の授業が、なんとなーく楽しみになってきた。

「今から教室まわって行くから、質問がある人はどんどん聞いてください」

 きゆ先生の声がなつ代の耳に響いた。

(あ、昨日わからなかった所きかなきゃ)

 なつ代がノートをめくっている間に、きゆ先生がやってきた。

「きゆ先生、ここってこれで合ってますか?」

 つい[きゆ先生]と言ってしまって、なつ代はハッとした。

「ん?ああ、はは、今日はそろばんの質問じゃないんだな」と笑ったので、なつ代は、
 
(ほら、やっぱり”きゆ先生”でよかったんだわ)

と違う意味で笑ってしまった。そしたら、きゆ先生が

「お、なつ代くんのえくぼ可愛いな」と言ったので、なつ代は、

(あら、この人、先生のくせにして生徒に可愛いですって)

と心の中で思ってみたが、照れくさくもあり、なんとなく、
嬉しかった。



その日の帰り道、お店のガラス窓に写った自分の顔をみて、にこって笑ってみた。

 (なかなか、可愛いかしらね)

っとその時、ぶおーん、と車がやってくる音が聞こえた。

「なーに一人で、にやけてるんだ?」


 きゆ先生だった。

 

 

 



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