閉じる


<<最初から読む

5 / 15ページ

えくぼ

 それから、なつ代はきゆ先生の授業が、なんとなーく楽しみになってきた。

「今から教室まわって行くから、質問がある人はどんどん聞いてください」

 きゆ先生の声がなつ代の耳に響いた。

(あ、昨日わからなかった所きかなきゃ)

 なつ代がノートをめくっている間に、きゆ先生がやってきた。

「きゆ先生、ここってこれで合ってますか?」

 つい[きゆ先生]と言ってしまって、なつ代はハッとした。

「ん?ああ、はは、今日はそろばんの質問じゃないんだな」と笑ったので、なつ代は、
 
(ほら、やっぱり”きゆ先生”でよかったんだわ)

と違う意味で笑ってしまった。そしたら、きゆ先生が

「お、なつ代くんのえくぼ可愛いな」と言ったので、なつ代は、

(あら、この人、先生のくせにして生徒に可愛いですって)

と心の中で思ってみたが、照れくさくもあり、なんとなく、
嬉しかった。



その日の帰り道、お店のガラス窓に写った自分の顔をみて、にこって笑ってみた。

 (なかなか、可愛いかしらね)

っとその時、ぶおーん、と車がやってくる音が聞こえた。

「なーに一人で、にやけてるんだ?」


 きゆ先生だった。

 

 

 


ふたりきり

 車一つも通らないような道路というより田舎道に、きゆ先生は車から顔を出して、なつ代に呼びかけた。

 一人で笑っている所を見られたのもあって、びっくり恥ずかしいなつ代は、

 「きゆ先生?!なにしてるんですか?」

とちょっと裏返ったような声で聞いてしまった。

 「ちょっとこっち側に用があってな。なつ代君の家はこの先なのか?よかったら送っていこうか?」

きゆ先生がそう促すと、[ラッキー!]と思ったなつ代は車に飛び乗った。



 ふわ、

 (あ、なんか海の香りがする)

 車内はなんだか爽やかな、潮の香りがしていた。



 「きゆ先生は、きょうだい何人いるんですか?」となつ代は質問してみた。

 「俺は一人っ子だ。妹でも欲しかったんだけどな、」

 「じゃあ私がきゆ先生の妹になるよ」

 「ははは、こりゃ元気な妹だな」

 
 話をしている内に、なつ代の家に着いた。

 
 「きゆ先生、ありがとうございました!」

 「おう、質問があったらまた言えよ!ははは」

 
 きゆ先生が、行った後、初めての[ふたりきり]に少し緊張していたなつ代は、もっともっとお話したい気持ちで沢山になった。


 「。。。ん?そういえばこの先に何があったっけ?」


 畑とさとうきび畑、そしてその先の先には空と海が青く輝いていた。

 


おとうさん

 家に入ったなつ代は、お父さんが立っているのが見えた。

 「今の車はなんだ?」

 とお父さんが聞いてきたので、なつ代は

 「学校の先生がついでに送ってくれたのよ」

 と答えた。

 なつ代の父は本当に厳しい人で、なつ代の行動にかなり注意を払っていた。

 「そうか、なつ代、宿題の前に畑仕事に出かけるぞ」

 「はーい」

 なつ代が学校から帰ってきたら、毎日のように畑仕事がまっていた。

 いつも心の中では[嫌だな〜]と思っていたが、今日ばかりはなんだか楽しく思えてきた。


 (なんでだろう?)

 


メッセージ

何日か経ったある日、いつもと同じように簿記の授業を受けていたなつ代は、きゆ先生がみんなの問題集のファイルを返している時、ふと気になった事があった。

「なにかしら、これ」

なつ代の問題集の紙の片隅に小さく、

『週末は何してるんだ?』

と書いてあった。


「誰かの字に似てるわね。。。あ!もしかして、きゆ先生?」


それはまさしく黒板よくみるきゆ先生の[角張った]独特な味のある字だった。


「ふふ、面白いわね。”返事”書いちゃおうかしら」


『週末は畑仕事ですよ。』


と書いて、なつ代は今日の分の問題集を先生に渡した。


それからというもの、なつ代ときゆ先生は”問題集”で、今でいう”メールのやり取り”のような事をするようになった。


なつ代はその伝言のやり取りが楽しくて、問題集を出すのが楽しみになってきた。

きゆ先生から返ってくる伝言はいたって[角張った]独特な字だった。

 

 


この日

なつ代は家では時間があれば畑仕事を手伝っていた。
そして、夜時間が空いたら、夜遅くまで勉強をしていた。

それなので、なつ代はいつも授業の先を行っていた。

簿記の授業も同様、予習・復習をしっかりしていたなつ代は、
[この日]もいつものように問題用紙の裏にきゆ先生にメッセージを
書いていた。


今日帰ってきた問題用紙には

 『今日も車で送って行こうか?』

だった。

なつ代はそれに対して、

 『あら、今日もいいのかしら? お願いするわ。』

と書いておきながら、心の中では

 (きゃ>v< やったーー!)

と叫んでいた。


 (早く、学校終わらないかしら!)


 いつもより、学校の授業が長く感じた。







 放課後、いつものようになつ代は帰り道を歩いていたら
きゆ先生の車がやってきた。


 「おーい」

というきゆ先生の呼びかけに対して、なつ代は

 「あらあら、いつもご苦労様です」

と丁寧に挨拶をして車の飛び乗った。


 たわいもない会話で、あっという間に時間が過ぎてしまう

 [帰り道]


 今日はなんだか、ススキやらサトウキビの穂がすごい勢いで
揺れていた。

 「今日もありがとうございました!」

なつ代は仰々しくお辞儀をし、車を降りようとしたら
そこにスズメの赤ちゃんが居た。


 「きゆ先生みてー!スズメの赤ちゃん、カワイイー!☆」

 
 振り返ったなつ代に、

 きゆ先生はキスをしたのだった。


 。
 。
 。


 なつ代は家にはいり、どうしようもない怒りに自分を抑えられなかった。

 帰り際、きゆ先生は

 「今週末は何をしてるんだ?」

 ときいてきた。

 
 「いも掘りですo」


 半信半疑のきゆ先生は、

 「そ、そうか、じゃまたな。」

 と言って行ってしまった。


 「なにが、またな、よ! く〜〜〜くやしい!」


 初キスはレモンの味とか言うが、なつ代にとっては
 
 怒りで何がなんだか分からなかった。

 



読者登録

mika yo.さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について