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はじめに

  本書は、2011年初夏に発足した無我表現研究会の機関紙・月刊メールマガジン「MUGA」に掲載された私の原稿から、いくつかの作品をセレクトして編集、改稿したものである。詩、小説、スピリチュアル、エッセイ、評論等、無料メルマガということもあって好き勝手に書かせてもらってきたが、単なる文芸同人誌と違い、一つの傾向があるのが特徴である。すなわち、「無我表現」がそれである。

 

 我々の言うところの無我表現とは、何も愛に満ちた感動的表現であるとか、無我の奉仕とか、宗教的精神とか、そういったことではなく、単に「エゴ」を中核としない表現であり、すなわち諸法無我の神秘的で調和的な働きそのもののことを言う。もちろん、そこには書き手の個性や趣味趣向が現れる。我々の目指すところは一つのイデオロギーではなく、主義主張でもなく、早い話が真の自己解放の末に生まれるであろう自分らしい具体的表現であり、ここにおいては逆説的に、個性こそが唯一の物差しになり得る。その点、ありとあらゆる宗教、イデオロギー、固定観念から自由であり、唯一の共通項としては、新しい人間像、世界観を具体的なものの中に提示することを目的としている表現活動ということくらいだろうか。

 

 そういうわけで、この作品の編集にあたり、クオリティはともかくとして、とりあえず自分らしさが出ていると思われる作品を選んで構成することにした。その自分らしさとはおそらく、本書のタイトルである「すべては落ちて、隆起する」という体感であり、すなわち仏教の世界でおそらく心身脱落と呼ばれるところの一切が自分のうちに留まらない、等価な断片と感じる諸法無我的世界の展開である。

 

このような様々なジャンルの作品を雑多に掲載することは、単行本としては素人臭さが残るし、一定の欲求を持って頁をめくる読者にも不親切なことかもしれない。しかし、我々の方法論が様々なジャンルの表現を並列に列挙しつつ、自我を超克した新たな生き方を自らの手でつかみ取り、創造していくというものであることを踏まえれば、親切な読者の方々は全体を通して何かしら一つの流れのようなものを感じ取ってくれるものと思っている。

 

本書の様々な作品の向こう側には、個人の表現の先にある何かが宿っていることを私は信じている。そしてその宿ったものは、あなたの中に宿ったものと出逢うことを願っている。

 

                      201510月下旬 那智タケシ

 


INDEX

   心身脱落

 

  はじめに

  

 第1章  詩

 

   例外者たち

 

   優しい闇夜よ

 

   真白き顔の女

 

   紫色の蝶

 

   きみたちはあまりにも素晴らしい存在なのだから

 

   瞑想者

 

 

 第2章  小説

 

      鏡

 

      超人K

 

      秋

 

      地下にいる宇宙人の話

 

      芹姫

 

 第3章  スピリチュアル

 

      自己浄化の方法と心身脱落について

 

      ダンテス・ダイジによる超越的境地の肉体的表現について

 

      恩寵体験者への手紙

 

 第4章  エッセイ

 

      麻雀で85%負けない方法

 

      異端が普遍になる時 ――例外者たちの声に耳を澄ませて――

 

 第5章  評論

  

    「遠野物語」と「新約聖書」に見る裸の神の表現

 

     ロダンの創造に見る新たな時代の芸術

 

     超人を抱きしめる神、神を救う悪魔 まど☆マギ論

 

      宗教的精神におけるアヴァンギャルドのあり方とは

 


例外者たち

  例外者たち

  

もしも極めて特殊な個人というものがあって

  

もう一人の極めて特殊な個人と出会い

  

極めて特殊な関係を作り

  

極めて特殊な世界を持ち

  

その特殊性ゆえに世界から忘れ去られ

  

誰の目にも止まることがないままに

  

誰一人知られることもなく

  

ブロック塀の裏側で

  

汚らしい四畳半の腐った畳の上で

  

その特殊性を突き詰めてゆくとする

 

するとその関係が

 

いつしかこの世界それ自体を覆してしまうような

  

強烈な

  

確かな

  

絶対的な真実の関係となっている

  

そんなことはあるかもしれないし、ないかもしれない

  

しかし重要なのは関係することであって

  

それは絶対的に特殊な、一回きりのものなのだ

  

そしてその絶対的に特殊であるということが

  

万人に当てはまる真理だとしたら

  

そこにもはや特殊という文字は存在せず

  

偉大な神々たちだけがいることになる

  

そんなことはありえるかもしれないし、ないかもしれない

  

だが、今のところそれは

  

例外者たちにしかありえないことで

  

例外者は例外者であるがゆえに

  

普遍になりえないのである

  

今のところは

 


優しい闇夜よ

  優しい闇夜よ

  

冷たい街灯も、いやらしいネオンもない

  

誰も知らぬ、誰も通らぬ

  

真夜中の裏路地を盲者のように歩いていると

  

危うく、何ものかに躓きそうになった

  

見れば、闇の吹き溜まりの中に

  

一人の青年が丸くなって座っていた

  

蔦に絡まれた貧乏アパートの

  

汚らしい階段の前だった

 

どうやら、眠っているのではないらしい

  

フードを深く被っているものの

  

その目はしかと見開かれ

  

闇の向こうの虚空を見つめていた

 

 彼は、どんな光景を見ているのだろうか?

 

 優しい闇夜よ

  

願わくば青年の中の暗黒が

  

あなたのそれと溶け合って

  

天蓋の星まで届かんことを

 


真白き顔の女

  真白き顔の女

  

無明の中に沈み込む

 

真白き顔の女がいた

  

海底をたゆたう海月のように

  

一切の受難に逆らうことなく

  

忍従の表情も浮かべず

  

希望への光耀に目を向けることもなく

  

ろくろく苦しむことさえ忘れて

  

 運命の綾に流されて倦むこともなかった

  

 彼女は荒々しい欲望や

 

 感情の抑揚に興味を持つことがなかったばかりか

 

 軽蔑さえしていたけれども

 

 かといってそれに逆らう力を持たなかった

 

 だからできるだけ汚されぬよう

 

 痛めつけられぬよう

 

 考えぬように

 

 真白き顔をして流されて

 

 いつか幼児の頃のような光の世界に辿り着くことを

 

 ほんの少しだけ夢想しながら

 

 無明の中に沈み込んで

 

 この世の底辺で沈黙していた

 

 彼女たちはこの世の受難者であるが

 

 彼女たちが受難者であることを知る者は誰もいない

 



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