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この人が私の運命を左右する人だ

  小林エンジニアリング㈱は東西線の南行徳の南口を降りて、静かな住宅街の中を歩いて行くと、10分ぐらいのところにある建設資材メーカーの研究所である。その研究所の裏には、低層の巨大な建物が広がっている。江戸川第2終末処理場であった。全体の景観は美しく整備されているが、要は人間のし尿などを始末する場所なのである。名取恭子はその施設の機能を、入社してしばらく経ってから知った時、気持ちが萎えるのを抑えることはできなかった。人生にとってこんなことはいくらでもある。火葬場が近かったり、お墓が林立するところに近かったりと、結構あまり好まれないような、忌み嫌うような場所は何処にでもある。それでも妙に終末処理場と言う言葉が、何時までも心に引っ掛かった。

それでも、少し足を延ばせば、宮内庁新浜鴨場や野鳥の楽園という名の異次元空間のような場所もあるから、気持ちが幾分晴れやかになる。だから時々、昼休憩の時間に会社を出て、自転車でその気持ちの晴れやかになる場所に行く事もあった。

 

小林エンジニアリングの管理部に配属されて、もう3年の月日が経つ。研究所にありがちな雰囲気はと言うと、まさに静寂の神が支配しているようなところがある。聞こえる音はパソコンのキーを叩く音や、書類を捲る音、社員のしわぶきや電話応対の声、コーヒーカップを置く音など、それぞれが極めて小さな音量だけに、一つひとつの音が自己主張して響いてくる。

建物は3階建てで、この器に総勢で100名ぐらいの社員が入っている。名取恭子はその会社の受付から見える管理部に座っている。仕事は主に庶務的な仕事だ。社員一人一人が働きやすいように、色々なお世話をする係りである。設備・備品の購入から始まって、オフィスの建物管理、福利厚生制度の整備、社内制度の改善・推進、会社主催のイベントの運営などと仕事の幅は広い。その他、地味な仕事としては、当然電話対応、来客対応、ファイリング、書類・資料作成、データ入力などがある。

そんな仕事をこなす名取恭子の机の前に座っているのが桐谷ゆり子だ。桐谷ゆり子は主に伝票処理や小口現金管理など、経理を主に担当している。桐谷ゆり子は1年前まで押上の本社にいたが、前任者の結婚で急遽転勤してきた。転勤と言っても都内近郊だから、桐谷ゆり子は快く異動を了承したようだが、本社には恋人がいたらしいという噂を名取恭子は小耳にはさんだが、本人が赴任してきても聞くことはなかった。

 

名取恭子の同期に前田重徳という技術部の社員がいた。彼は入社した時から恭子に非常に強い関心を持っているようだったが、恭子は全くタイプではなかったので、いつも適当にあしらっていた。それでも、しつっこいくらいにいつも声をかけてくる。まるで子犬が飼い主にじゃれ付くようなイメージであった。その不思議な行為は、周囲から見れば一見微笑ましいようであったが、あざとく見えることも時々あった。そのあざとさが会社の旅行の時に露見した。かなり泥酔していた恭子に関係を迫り、自分の思いを果たしてしまったのだ。それでも恭子は前田重徳を寄せ付けない距離感を持ち続けた。だから何となくボーイフレンド以上、それでも恋人未満のような付き合いが2人の関係であった。

 

そんなある日、押上の本社から広告宣伝担当の石田孝詞が転勤してきた。桜の開花する時期で、だんだんと暖かくなって過ごしやすくなった頃だった。

「失礼します」

 元気な青年らしい声が受付の方から聞こえてきた。恭子は誰が来たのかと興味津々で受付の前に近寄り男性を見た。それは、上司の星野部長から聞いていた石田孝詞であろうと恭子は想像した。

「石田孝詞ですが、今日赴任してきました」

 その人物は、昨年見学で本社に訪問した際に、見たことがあると恭子は思いだした。身長は170センチぐらいで、意外とがっしりとした体型をしていた。目が大きく、きらきらと輝いている。微笑んだ顔は人懐っこくて、一瞬にして相手の心の鎧を取り去るようなフレンドリーさがあった。恭子はその一瞬の出会いから、今まで出会った男性とは違う何かを感じた。それは、山を登り切って、最後に視界が開けた時に、眼下に深いブルーの湖が広がるような驚きのようであった。日常の些末な事柄が全部消し飛ぶほど大きな驚きであった。そしてそれは大きな関心へと変わり、胸の中の重大事項として刻まれていった。

「お疲れさまです。星野部長、石田さんが来られました」

 と言うと、その後の石田孝詞の軽やかな青年らしい動きを追い続けている自分を発見した。その青年は、星野部長に丁寧な挨拶をして、一緒に3階のフロアに階段で登って行ったが、そのシルエットが消えるまで見続けていた。そのミステリアスな行動は誰にも見られていなかったが、車で銀行に出かけている桐谷ゆり子が知ることとなれば、ちょっとした騒ぎになっていたかもしれないと、恭子は1人ほくそ笑んだ。その日から石田孝詞の事を考えると、パブロフの犬のように、条件反射で子宮が疼くような気がした。男それともオスとして恭子は孝詞を見ているのだろうか。いいや太平洋の真ん中にある孤島に二人が放置されても、自分を必ず守ってくれそうな生命力を持った人間に見えたようである。仕事もばりばり、あと顔がちょっとイケメン風であること。そして、ずっと同じ生活環境や空間を生きてきたような匂いを直感的に感じた。

 

しばらくすると、鼻歌を歌いながらゆり子が帰ってきた。恭子の顔を見ると、机の側に寄って来た。星野部長や他の人間がいないのに、小声で囁く。

「ねえ、イケメン君来た?」

「え、誰の事?もしかして石田さんのこと?」

 恭子も何故か小声である。

「そう。私の大事な孝詞君です。フッフッフッ」

 秘密めいた淫らな顔になったゆり子の顔が、近くで揺れている。

「もしかして、彼氏?」

「誰にも言わないで。恭子だけには言っとかないと、何かあったら協力してもらえないし、親友だから白状します。本社勤務の時にお付き合いを始めたの・・・・・・

 恭子のさっきまでの希望的な喜びは、一瞬にして萎んでいくような気がした。

「へぇー、意外ですね。それにしても良かったじゃないの。一緒に仕事ができるしね」

 そう言いつつも恭子は心の中で舌打ちをしたくなるほど嫌な気持ちになった。それって嫉妬なのか。ゆり子は確かに親しいけど、自分の秘密を喋るほど仲が良いわけではない。せいぜい2割ぐらいしか自分の事をさらけ出していないのに、親友と言われるとなおさら嫌悪感が強まった。でも顔はにこやかに。

 それから、怒涛のようにゆり子は孝詞との出逢いなどや、デートの事や、好きなところとかを喋り出した。聞いている恭子の心は尋常ではないほどかき乱された。どこかで爆発して、「うるさい!」と叫びたくなるような感情の起伏が何回か心の中で起こった。もう我慢できそうもないくらいになった時、助け舟がやって来た。星野部長が戻ってきたのである。話し込んでいるゆり子の姿を見て、少し睨んだ顔をしたが、自分の席に座るとパソコンを打ち始めた。ゆり子も星野部長の体から出てくる威圧感のようなものを感じ、自分の席に戻った。

 恭子はパソコンに入力する仕事を再開すると、キーを打ちながら頭の中で嫉妬心やら孝詞とゆり子の艶めかしいやり取りの妄想や、自分が孝詞とベットインしたらどうなるのだろうかと、淫らな考えに取りつかれていった。その妄想の中に、悔しさと寂しさを織り交ぜながらも、一目見た時からの強烈な欲望が増強され、この人が私の運命を左右する人だという希望的な確信が湧きあがって来た。

それに反して、今の彼であるような前田重徳は、残念な男だと思った。あざとい男で、恭子と無理やりに関係を持っておいて、いかにもお前の彼氏であるように彼女の前で振る舞う。といってそれほど害毒はないし従順だから、恭子も上手く利用しているところがある。夜中に呼び出して、アイスクリームなんかを買ってこさせたりするのだ。それでもにこにこしてついてくるから、ペットのように扱っている。いいやペットには申し訳ない。それより下なような気がする。いずれにしても前田重徳には全くない独特な魅力を、孝詞の発するオーラから強く感じとっていた。

 

孝詞が赴任してきたその日から、ゆり子は余計に元気に活発になった。誰にも言わないでとゆり子は恭子に言ったが、明らかに孝詞と付き合っているという事実は、勘の鋭い人間であれば容易に見抜けた。ゆり子の体から発散する孝詞へ恋のレーザービームは隠しようがないのである。ゆり子は隠したい気持ちがあるのだが、それとは裏腹な行動をしてしまう甘さがあった。恭子はそんなゆり子を見ていると、自分に対して素敵な孝詞を見せびらかしているような気にさえなった。確かに恭子にとっては、孝詞は素敵で神々しくて、姿を見たり考えるだけで何故か子宮が疼くのである。だから、ゆり子が陰に隠れて孝詞といちゃいちゃしているような場面を見つけると、嫉妬心が湧きあがり、めらめらと同僚への憎しみの心を抱くのであった。

 

恭子は残念な男の前田重徳の家にも時々行く。好きでもないのに行くのは何故だろうか。その答えは割と簡単だった。恭子は性欲が異常に強いのである。だから、セックスをしたくなると、とりあえず重徳の家に行く。重徳の家は行徳駅前3丁目だから、研究所からそれほど遠くない。歩いても15分はかからない。会社が引けると時々出かけていく。大洋マンションの306号室が彼の部屋だ。割と大きな公園が近くにあって、シンプルで綺麗なマンションである。

 

ある日そのマンションで、重徳とコンビニで買った缶ビールを飲んでいると、彼の母が突然現れた。玄関のチャイムが鳴って、重徳が出ていくと、小太りだが、可愛らしい顔をした婦人と戻ってきたので、恭子は前々から聞いている母親に間違いないから、ばつの悪いような気がした。しかし、重徳は紹介することに何の躊躇もなく、

「僕の付き合っている名取恭子さんです」

 と言った。するとその母は、

「まあ、綺麗な方ね。この方が私の重徳の心を奪っているのね?」

 と返したので、恭子は彼が母にどんなことを言っているのだろうかと想像すると、顔が一瞬にして赤くなったが、すぐに正気に戻った。

「おふくろ、今日は紹介だけにして、悪いけど帰ってくれる?」

「あら、冷たいのね、少しぐらい彼女と話をしてもいいでしょう?」

 と言いつつ、恭子の姿を上から下までじろじろ見ている。その視線は一見優しそうに見えるが、敵愾心のようなギラギラしたものが含まれていることを恭子は嗅ぎ取った。

「この子は、一人っ子で寂しがり屋ですから、お嬢さんよろしくお願いしますね。あ、私の名前をまだ言っていませんでした。光代と申します。よろしくね」

 今度は手に持った袋を重徳に渡して、

「美味そうなイチゴをいただいたから食べてね」

 と言って重徳の少しめくれていたカーディガンの襟をゆっくりと直した。そうされていることに重徳は特段嫌な顔をせず、にこにこしてされるがままになっている。恭子はこの親子はちょっとやばいような気がしたが、見て見ぬふりをしている。

「それじゃ帰るから。あ、そうそうお父さんから手紙があって、5月には日本に一回戻ってくるって言っていたわ。それじゃお嬢さん突然失礼しました。ゆっくりしていってください」

 突然来て、帰る時も素早い光代に、恭子は少し不快さを感じたが、初めての親との接触も、このくらいの方が良いのかもしれないと思った。光代は近くの一戸建てに住んでいると聞いている。

 光代と言う人物は、その口調や仕草から、一人っ子である彼を自分の恋人のように溺愛しているのが良く判った。もし重徳が本当に結婚相手に心奪われたとしたら、その嫁に対して、心の奥底に潜む敵愾心をむき出しにしかねないような性格が直感で判った。あり得ない話だが、万が一将来、残念な男と結婚することがあるならば、多分恭子にとっては大きな障害の一つになるような予感がした。まあそれでも、恭子の本心は何倍も孝詞の方が好きで、重徳には何の愛情もなかったからまずないと思うが、結婚という契約で生活を安定させてもらう事になったとしたら、ただ一緒に居るだけのカップル、唯のセックスフレンドになるということだけで、それ以上は考えないことにした。


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愛の分岐点でもう戻れない二人

5月のある日、建設機材の展示会が松戸市であった。孝詞は小林株式会社の広告宣伝担当として運営に携わった。さまざまな細かい準備を終えて、展示会の当日、松戸市の現場に向かっていた。孝詞の隣では、説明担当として起用された恭子が、ハンドルを握っている。車の運転が出来るという事で、ライオンズマンションの西船橋シティに住んでいた孝詞を迎えに行き、松戸に向かっているのである。

「すみません。迎えに来てもらって」

「いいえ、私は運転が好きだから、今回のお仕事でお役にたてて嬉しいです」

 恭子はそう言いながら、横にいる孝詞の事で胸がいっぱいだった。孝詞との淫らな交わりの妄想は妄想を呼び、体の芯がジンジンしてくる自分がエロいと思った。車を何処か人のいないところに停めれば、孝詞がいきなり自分を抱きしめて、キスをするのではないかと想像した。恭子にとって車という密室は、愛欲という際限のない欲望を激しくかきたてるようだ。

「ゆり子さんがお手伝いでなくて寂しいでしょう?」

 恭子は艶っぽい眼差しを孝詞に向けて言った。

「いいえ、大丈夫です。まいったな・・・・・・。ゆり子さんは恭子さんとは親友と言っていましたから、付き合っていることは隠せないですね・・・・・・。でも、そんなにいつも一緒に居たら大変ですよ・・・・・・

 と言いながら孝詞は意味深な笑いをしている。多分、いつも二人は抱き合ってばかりいるに違いないと恭子は思って、心が熱く高ぶるような気がした。

 

展示会場は最寄駅から遠く、交通の便があまり良くなかったが、それでも臨時バスなどが出て、毎日数千人規模の来場者があった。野外展示が多いのだが、昨年と比べると会期中は全て晴天続きだったため、昨年の来場者を上回っている。孝詞は運営側だから忙しくしていたが、昼食や休憩やカタログの補充の時には、恭子と一緒に仕事をすることが多かった。そんな時の恭子はいつも孝詞を盗み見していた。その視線に気がついて孝詞が視線を返すと、周りに判らないように25歳とは思えないほど艶めかしく笑って見せた。孝詞は恭子が自分に強い関心を持っているという事に嬉しさを感じたが、自分にはゆり子と言う女性がいるのだから、脱線はしないようにと思っていた。自分はモテるんだから、しょうがないとも考えていた。確かに恭子はゆり子と違った魅力に満ちていた。ゆり子が癒し系だとしたら、恭子は頭の良い行動力のある女性に見えた。その利発さに孝詞は尊敬できるものを感じていた。時々、女性らしい色っぽさも見せたが、それは軽薄なものではなく、充分に理知的な輝きの上に咲いている深紅の花のような魅力であった。だから、もし恭子から強いアプローチがあったら、孝詞はゆり子の事を忘れて、のめり込んでしまうような怖れも感じていた。

 

最終日は通常会期中よりも一時間早く展示会が終了し、展示物の片付けが始まった。搬入の時とは比べものにならないスピード感で、撤去の作業は進められた。展示物を分解し、手際よくトラックに社員達が載せていく。孝詞はカタログやユニフォーム、ノベルティやプレスリリースセット、製品パネル、食器、ナプキン、栓抜き、コーヒーメーカー、作業台、余った飲み物、掃除用品、ゴミ箱などを回収し、レンタル会社には什器等を返却した。あらかた作業が終わると、疲れがどっと出てきた反面、緊張の糸も緩んだのか、穏やかな気分が脳の中を支配した。すると、恭子の姿が何故か何倍にも魅力的に見えた。恭子はいくつかの紙袋を両手に下げてにこにこしている。孝詞も両手に荷物を持つと、他の社員達に挨拶をして車の方へ一緒に向かった。

紺色の乗用車は、夕暮れの太陽の光線を受けて、穏やかに反射して輝いていた。荷物をトランクに積みこむと恭子は運転席に、孝詞は助手席に座ってシートベルトを締めた。

「ご協力ありがとうございました。恭子さん、お疲れではありませんか?」

「大丈夫です。総務の仕事って、意外と体力を使いますから・・・・・・。でも接客の方はやっぱり疲れました。そうそう、今日の変なおじさん、ずっと私の所を離れなくて、製品のことや、会社の業績など細かく聞いてくるので辟易したわ。終いにはあなたはどこに住んでいるのって・・・・・・

「あ、その変なおじさんと話していたの知っているよ。なんかしつこかったようだね。間違いなく恭子さんは美人だから、口説かれていたんだよ」

 と孝詞は言いながらクスクス笑っている。

「冗談じゃないわよ。あとでちょっと気持ち悪くなったし・・・・・・

 と恭子は片目を瞑った。それは色っぽいウィンクのようにも受け取れる。

 孝詞はどぎまぎして、視線を外に向けた。

 車は勢いよく走りだした。夕日の方へ向かって走るから眩しかった。新八柱駅に近づくと、左に車は曲がり、市川市の方へと向かった。

「本当に恭子さんは美人だから、周りの男は放っておかないね」

「そんなことないわ。ゆり子さんは私より絶対可愛いし、気立ても良くて、あまり人の事を疑うこともないでしょう?」

「うん。まあ結構のんびりかも知れない。でも、多分裏切ったら怖いことになるかも。大学時代に、付き合っていた男が裏切った時、相当凄い復讐をしたらしいよ。中身は言えないけど、ちょっと鳥肌が・・・・・・

「うそでしょ。彼女がそんなことないわよ」

「想像にお任せします」

 取り留めもない話をしていると、もう中山競馬場に向かう一本道に車は入った。渋滞が続いたので、辺りはもうすっかり暗くなっている。

 恭子はレストランやガソリンスタンドの側を通り過ぎると、急に左の小道に入った。車も余り行き来しなさそうな道である。うっそうと茂った木の下に車を停めた。

「どうしたの?恭子さん」

 孝詞は胸騒ぎのようなものを感じながら聞いた。さっきまで、楽しい会話をやり取りしていた時の恭子の目は、何か思いつめたような眼差しに変わっていた。

 横にいる孝詞の方に体を向けて、シートベルトを勢いよく外した。スルスルという音がしてベルトが巻き込まれていく。その音が車内に異様に響く。

「ごめんなさい、突然。孝詞さん私のこと好きですか?」

唐突な言葉に孝詞は狼狽したが、なんとなくこうなる予感もしていたから嬉しいという気持ちも湧いてきた。

「恭子さんは覚えているか判りませんが、本社に来られた時、素晴らしく素敵な人だという第一印象を持ちました。エンジニアリングにもこんな美人がいるんだと思いましたよ。嫌いか好きかって言うなら、好きに決まっています」

「ゆり子さんと比べたらどうですか?」

「ゆり子さんとはもう付き合いもある程度長いですから、情もあるし、慣れ親しんでいるから、好きと言う感情も定着しています。でも、今から同時に2人に巡り合ったとしたら、どちらを好きになるかと言うと、判りません・・・・・・。巡り合いはタイミング次第ですね。多分

孝詞の口から意外な言葉が出てきた。リセットしたら恭子の方がタイプであるというようなニュアンスで話しているのだ。しかし、実際の所、恭子のことが気になって仕方がない孝詞がいたのも事実だ。恭子はその孝詞の心の揺れを引きずり出そうと、感情をこめて、いいや愛情を込めて話しだした。

「ゆり子には本当に申し訳ないけど、私は孝詞さんを一目見た時から好きでした。この気持ちはずーっと隠してきました。でも、運命の悪戯であなたはエンジにやってきました。きっとゆり子は自分がその運命を引き寄せたと思っているかもしれないけど、間違いなく私がエンジに引き寄せたと思っています。だから、孝詞さんがどんなにゆり子とラブラブでも気にしていません。貴方が好きだという感情は、もう抑えることはできません」

「嘘でしょう。君には重徳君と言う立派な彼氏がいるじゃないか。そんなことを言われても重徳君のことを考えると・・・・・・

「重徳さんは関係ないわ。唯の友達、恋人未満。重徳さんが恋しいなんて言う感情はほとんどありません。存在をすぐに忘れてしまうくらいだから。違うんです。私の胸を締め付けていつもキュンキュンさせているのは孝詞さんなんです。嗚呼、とうとう言ってしまった・・・・・・。好きです。孝詞さん、来て

孝詞は感極まったものがあったのか、感情が激しく起伏していく自分をやはり抑えきれなかった。シートベルトを外すのももどかしそうにしていたが、バックルから金具が抜けると、ベルトを巻き込む音がやはり奇怪な響きを立てた。孝詞の心の中のパニックの世界を表すような音だ。恋焦がれているうるんだ眼をした恭子を、孝詞は強引に引き寄せて肩を抱き、唇を激情溢れるままに奪った。窮屈な姿勢で恭子も孝詞に抱きついた。2人は人気のない暗がりに停めた車の中で、しばらく激しく抱き合って、ディープキスを何度も何度も重ねた。2人の唾液が絡み合って、一つの液体になるほど長く続けられた。唇を離したり吸い付いたりしているうちに、もう二人は一つの物体と化していた。そして、孝詞も恭子も身体の中心の奥底で、何かが熱くなって行くような感覚を味わった。

すると孝詞は恭子の紺色のタイトスカートの中に手を入れた。恭子の秘所をまさぐり始めたのである。負けずと恭子は、孝詞のグレーのズボンのチャックのあるところを、上から触り始めた。もうすでにその部分は、硬直化を始めてズボンは膨らんでいた。もう2人の暴走を止めることはできなかった。走り出した欲望は、最終地点までは止まらない。恭子の事がずっと気になっていた孝詞は、もうすっかりゆり子の事を忘れて、鋭く荒々しく恭子の体を露わにし、唇で首から肩から乳首へと吸い、そしてショーツを剥ぎ取った秘所に向かい始めた。座席はすでに倒されて広がった空間の中で、孝詞は恭子の体の上に乗り、這いずり回っていた。窮屈な空間、非日常的なシチュエーションほど性的興奮を高めるものはない。時折、幹線道路の方からクラクションの音や雑多な機械音などが聞こえてくるが、二人には閉ざされた空間のなかで起きてくるお互いの肉体の求め合う擦れる音しか聞こえていない。人気のない細い道と言えども、誰かに見つかるかもしれない。その小さな不安でさえもが愛を掻き立てる。

 お互いの体臭の発する酸っぱいような匂いも、いじらしい相手への愛欲となる。秘所に孝詞は自分の舌を這わせようとすると、恭子は手で軽く制止する。しかし、その手を優しく押しのけて、恭子の目を野獣のように一瞬見たかと思うと、舌が縦横無尽に動き出した。恭子は小さな叫び声をあげた。そして、うめきのような声がしばらく続いた。その声は孝詞の欲望をさらに高めて行くような卑猥な誘惑の響きである。

 孝詞の執拗なその攻撃が続くと、恭子の内部はやがて蜜のような潤いに満ちて行く。そして、知的で美しい恭子は貪欲な肉欲の虜に変貌していった。

欲しいの・・・・・・。めちゃくちゃにして・・・・・・

 その声は孝詞の男性部分を痺れさせた。理性など本当に消し飛んでしまった。もどかしく、ズボンを引きずり下ろすと、アンバランスな姿勢で器用に孝詞は恭子の秘所に突入した。もう、そこにはお互いゆり子や重徳への罪悪感や遠慮などなかった。唯あるのは目の前に居る人間が、とても愛おしいのである。肉体が結合することによって、初めてその相手に対する愛おしさが倍加する気が二人ともした。

 偽りのない自分が一番好きなもの同士が思いを遂げた時、その行為の熱烈さ、高揚感はすさまじいスピードで暴走した。恭子の中に侵入した愛おしい孝詞のものは、突き上げてくるたびに下半身が全速力で痺れて行くのが判った。孝詞もあの最後の体の中心部を突き抜けるような快感が、起こり始めているのが感じ取れた。

「もうだめだ・・・・・・

「私も逝きそう」

 恭子はもう悲鳴に近いほど呻いている。

「来て、愛している孝詞さん。孝詞さん好き・・・・・・

 

 二人は同時に果てていた。恭子は最後の絶叫のような声を出すと、シートにぐったりとして横たわった。

 孝詞は、その恭子の首のあたりを指で愛撫しながら、ゆっくりと彼女の体から離れて助手席に戻った。いつの間にか付けていたコンドームには、数限りない未来の可能性の命が吐き出されていた。

 二人はそれぞれの大事な部分を綺麗にすると、衣服を付けた。行為が終わると何か今までの狂ったような情熱は、何処に行ったんだろうと不思議になるが、それはそれで愛し合ったもの同士が日常の平らかな感情に戻るという事で、侘しいものではないと恭子は思った。だから、車のエンジンをかけ、幹線道路に戻った頃には、もう何事もなかったように二人はたわいのない話をしてふざけ合った。どんな大惨事が起こるか判らない分岐点での、未来につながる幾つかの道のうちの一つを、二人は選んでしまったからもう戻れない。

 

 西船橋駅の側のJR線の高架下を通り過ぎて、デニーズの店舗に近づくと、恭子はハザードランプを押して車を停めた。孝詞のマンションはすぐ側だ。

「今日は会社には帰らないので、申し訳ないけど荷物は適当に事務所内に置いてもらえますか?」

「大丈夫です。私は意外と力持ちだから、孝詞さんのストックエリアに移動しておきます」

「すまんな。疲れているのに・・・・・・」 

 意味深な言葉に恭子は噴き出した。

「ところで、これから逢う時のお互いの時間の連絡方法はどうします?」

「そうですね。電話だと聞かれたりして危ないから、伝言メモでどうかしら。私は総務だから、文房具の在庫置場がある男子のロッカーの部屋に入ってもおかしく思われないから、入れとくね。まさかあなたのロッカーを開ける人はいないでしょう?」 

「判った。確認したらすぐシュレッダーでメモは処分するよ。OKの返事は管理部の部屋に行く時、君に見えるように赤いボールペンを胸に挿しておくから・・・・・・。NOだったら、青いボールペン。その時には直ぐに僕のロッカーを覗いてください。それでOKなら今度恭子さんが赤のボールペンを胸ポケットに挿してください。その段取りでどうですか。それから、待ち合わせ場所は決めておきたいけど、どうだろう、君が車で来てくれるなら、今、JR線の高架下を通り過ぎたけど、その線に沿った西側の方に行くとあまり人通りもないし、道も広いからそこで何時と言ってくれれば。そこでどう?

「頭の回転が速い孝詞さんですね。グットです」

「そうだね、平日の夜に逢おう。空いている日と時間をメモして入れて置いてください」

 恭子は提案に納得して、嬉しそうに頷いた。

 

 孝詞は車を降りると、人の目もあるので、紺色の車を見送ることもなくマンションに滑り込んだ。


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仮面恋人を演じる恭子と孝詞

週明けの月曜日、孝詞は展示会の後片付けに追われた。午後になってやっとひと段落がついたので、一階の管理部の部屋に出向いた。朝方、ゆり子が3階の孝詞の側に来たが、ただ目を合わせたきりだった。恭子の事を意識しているのか冷たくしたような気がして、孝詞は努めてにこにこしてゆり子に伝票を渡した。恭子の方には視線を向けない。そのわざとらしさが、逆に恭子の胸に不思議な勝利感を与える。

孝詞とゆり子は仕事上の普通の会話をしているが、恭子には明らかにゆり子が甘えるような言葉を囁いていることに、心の中で失笑してしまった。

 

夕方、男子のロッカーの部屋に誰もいないことを確認して、恭子はメモを孝詞のロッカーに入れた。二つ折りにしたメモである。そこにはこう書いてあった。

 

明日、重徳は出張、夜は空き。午後8時に例の場所で。

 

会社の終業時間を知らせるチャイムが鳴ると、孝詞は管理部に入ってきた。ゆり子と談笑している。恭子の方にはたまに視線を投げかけるだけで、無関心を装っている。それでも、スーツの左ポケットには赤いボールペンを挿していた。スーツの胸ポケットに赤のボールペンを挿すというのは、ファッション的には格好悪い。ハンカチをさらりと入れたり、高級なペンであれば良いけど、孝詞の胸に挿した赤いボールペンは100円もしないものだから、恭子はゆり子に判らないように小さく笑ってしまった。けれども、ドキドキしてくる気持ちが起こってきて、抑えることができなかった。重徳がこんな暗号のボールペンをもし胸に挿していたら、吹き出して笑い転げるだけかもしれないのにと思いつつ。

やがて、孝詞は何処かへ出かけるような振りをしていたが、今日はゆり子と逢うようだ。嫉妬心が巻き起こるような気がしたが、ゆり子に対しての不思議な勝利感は不変であった。

 

次の日、紺色の恭子の車は指定された通り、西船橋駅の側、JR線に沿った南側の道路にハザードランプをつけて待っていた。午後8時の5分前くらいだろうか。前方の方の暗闇から、ジーンズと水色のパーカーを着た孝詞らしい人が歩いてくるのが見えた。恭子の車を避けて通り過ぎて行った車のライトの光を浴びて、水色のパーカーと凛々しい孝詞の容姿が浮かび上がった。会社を離れた異次元空間の出逢いは、ときめきの度合いが違うと恭子は思った。スーツと白いワイシャツを着ている姿とは違う、素の孝詞を見る思いがした。すると、恭子の胸はどきどきし始めた。車のソファに倒れこむほど胸が締め付けられるような気がした。その気持ちはなんだろうと思いつつも、悪いことをしている自分の存在が、胸の奥に火をつけて燃やし始めているようだ。これは、子孫を残すための本能的愛欲、それとも純粋な恋、恭子は判別がつかなかったが、確かに孝詞の事が好きでたまらなかった。特に二人がこの前に結ばれた時からの感覚は、冷静さと激情の間を行き来していた。彼の姿は恭子の子宮を疼かせた。

道路を渡って来た孝詞の目は、街灯の光の弱いルクスだけでも、ハンドルを握った恭子を焦がれるように見つめているのが判った。

助手席の窓ガラスを軽く叩いて、乗って良いかというような仕草をしてみせると、恭子は手をあげて招き入れた。車のドアが閉まって密室になった途端、二人は溜めに溜めてきた相手への情念を爆発させた。

恭子はシートベルトを外して待っていた。最初にキスをするために用意万端にしていたかのようだ。恭子は孝詞のために鼻同士がぶつからないように右に少し頭を傾けると、孝詞の燃え滾った貪欲な唇を受け入れた。唇と唇は柔らかい肉と肉の接触だ。孝詞は唇を合わせた後、自分の舌を恭子の舌に絡ませた。恭子の口の中から、フルーツのような甘い味がした。体から発散する香水も控えめで癒されるような匂いだと孝詞は思った。恭子は恭子で、孝詞の男らしい体臭や、絡む舌の口の中のはっかのような匂いに心が満たされるような気がした。そして、窮屈な車の中で抱きしめる孝詞の体の筋肉が、適度に引き締まっていることに感動すら覚えた。抱きしめてもらい、キスをすることの素晴らしさに、今初めて気づいたのである。こんな感動は重徳との抱擁時には全くなかったのである。

2人は抒情的かつ本能的なキスを終えると、車をスタートさせた。車は船橋方面へ向かった。しばらくして船橋市高野台にある小さなホテルに到着した。

 今日は火曜日だからかなり空いていた。部屋に入ると恭子はテンションが高くなっているのか、黄色い声で叫んでいる。

「へえ~思ったよりすごく綺麗なのね~~。ラブホテルに入るなんて本当は初めてです。ちょっと興奮する・・・・・・。あ、その変な意味じゃなくて・・・・・・

 と興味津々の目を輝かせて、部屋の備品やベッドやテーブルなどに触れている。まるで、少女の様な屈託の無さだ。

「こんなことを聞くのは野暮だけど、重徳君とは本当にこういうところに来たことは無いの?」

と聞くと、恭子は可愛らしく少し頬を膨らましている。

「重徳君はお金持ちの癖にケチで、私が何処でも車で移動するのは大丈夫だというのに、こういうところに入るのはもったいないと言うのです。笑える話ですけど・・・・・・

そう言いながら、部屋の中の備品を相変わらず丹念に探索していた。その後ろ姿や、細いけれどもタイトスカートにくっきりと出ている臀部の丸みに、孝詞は思わず見とれて情欲にスイッチが入る気がした。

「恭子さん、先に風呂に入りなよ」

「孝詞さん先で良いよ」

孝詞は2回目の恭子との転び合いに、気が急いているのか、風呂には入らず、熱いシャワーをさっと浴びた。

体を拭いて浴衣を着て外に出ると、テレビを見ていた恭子があわててチャンネルを変えた。慌てている動作が孝詞の欲望を擽る。孝詞はシャワーを浴びている時に、すでに恭子がアダルトビデオをまさに興味津々に見ていることは知っていた。風呂場にも聞こえる構造になっているのである。だから孝詞はわざといきなり外へ出たが、その時の恭子の顔ときたら、と一人で笑っている。恭子はその顔を見て、狐につままれたような顔である。

「僕はいつも烏の行水だから早いんだ。恭子さん入りなよ」

「じゃあ、私もお風呂に入ってきます」

「風呂に入るなら、色々面白いものがあるから観察してみて」

恭子はまた眼を瞬かせて、興味津々の気持ちをヒートアップさせているようだ。

恭子が風呂に入る前に悪戯好きの孝詞は、部屋から風呂を覗ける窓を開け、気づかれないようにタイミングよく部屋の電気を真っ暗にした。ベッドルームから窓を開けるとガラス張りになり、風呂場を覗くことができるのである。電気を消したのは、恭子側からこっちが見えないようにするためだ。

恭子は最初、孝詞と同じようにシャワー室のみを使うような素振りだったが、大きい風呂にも興味の矛先は向いた。風呂に入ってきた恭子の体は、小柄ながら女性的な丸みと均整のとれた美しさを誇っていた。胸の膨らみは大き過ぎず小さ過ぎず、適度な弾力性を持ち、乳輪は大きく綺麗な色をしていた。孝詞に覗かれているなどとは夢にも思っていない恭子は、秘所を隠すことなどまったくしないでいる。まさに露わなまま風呂の隅々を観察していた。風呂の中心に向けて強いライトの光線が照射され眩しいせいか、孝詞の十分に卑猥な視線に気づくこともない。秘所を薄く覆っている毛や陰部が、孝詞の目を釘付けにした。すらりと伸びた引き締まった両足も、細くてギリシャの彫刻のように美しかった。孝詞は恭子の肉体の芸術作品のような造形美に感嘆するとともに、下半身が熱くなりペニスが固くなるのが判った。

 

しばらくして、恭子は浴衣姿で戻って来た。孝詞はタイミングよく風呂につながる窓を閉め、弱めの照明を点けた。孝詞は暗闇に目が慣れていたのだが、恭子は強烈な光の世界から出て来たので、あまり見えないらしく、浴衣のあわせ衿の所が少しはだけているのに気がつかない。孝詞はその艶めかしさや、先ほどからの全裸の衝撃、さらに風呂上りの脳を刺激するような匂いに我慢できなくなった。

「恭子さん、ここに来て」

と幾分荒々しく抱きしめて、孝詞の横に倒した。

「恭子さん、僕がシャワーを浴びている間、アダルトビデオ見ていた?」

「私?見ていない」

「隠しても無駄だよ!ラブホテルはテレビをつけると、風呂場でも音が聞こえるんだよ」

「本当?ばれちゃった?」

 恭子はこんな時でも何故か明るい。

「でも、ちょっと恥ずかしい、もう、そういうことを言わないで・・・・・・

「初めてのラブホテルどう?」

「冷蔵庫に変なおもちゃみたいなものが入っていたけど、あれって何かしら?」

「おもちゃってどんな奴?」

「かまととぶって!孝詞さん。知っているくせに」

恭子はアヒル口にして拗ねている。孝詞は思わずまだ湿っている恭子の髪を軽く撫でた。恭子は孝詞をからかうように、

「疲れたから、もう寝ちゃおうかな?」

「恭子さん、君の心臓は機関車のように鼓動がしていない?それにこの素敵な小さな耳は真っ赤だよ」

「嘘ばっかり、そんなこと無いよ」

「それでは、触って見ましょう」

と言いながら孝詞は右手で浴衣の中の柔らかい胸に触れた。

「孝詞さん、いやらしい」

「違うよ。心臓の動きを確認しているだけだ。ノーブラなの?」

「いつも寝る時はつけないの」

「やっぱり、ドキドキしているんだ」

「そ・ん・な・こ・と・な・い・よ」

と恭子は優しく胸を愛撫されると、とぎれとぎれで喋る。

「恭子さん、アダルトビデオをずっと見ていたけど、どう?興奮した?」

「し・て・な・い・んっ」

「嘘をついて?見ていたアダルトビデオは凄く激しいのに、興奮しないんだ?」

「あっ・だ・め」

「じゃ、ここは、興奮していないか、見てみましょう」

と言って孝詞は悪戯っぽく笑いながら、胸を触っていた手を一気に下の方に下ろして行った。

ショーツは履いていたが、その中に手を入れていくと、秘所の部分はすでに蜜が溢れていた。温かな分泌物である。ショーツにも滲みこんでいるようだ。

「凄く濡れている」

と孝詞が言うと、恭子は恥ずかしそうにして、甘えた目つきになった。

「嫌っ!!恥ずかしい!」

「恥ずかしいと言われても・・・・・・あ、ここすごく柔らかい」

「あう・・・・・・も、・・・・・・だめ・・・・・・あっ」

「凄くいっぱい出ているね・・・・・・

 孝詞は指を恭子の秘所の奥に入れて行った。

「あうぅ・・・・・・だめ・・・・・・

孝詞は優しく恭子の顔を左手でこちらに向かせ、鋭く荒々しくキスを始めた。舌を絡めると、恭子の全身の力が、操り人形のように抜けて行った。それから数分間、粘着的にディープキスが続いただろうか。恭子も執拗に舌を絡めてきた。孝詞はもう気分はマックスだった。我慢ができない野獣のように自分の浴衣の裾を捲り上げた。パンツはすでに脱いでいたので、固くなった男の象徴が露わになった。まさにいきり立った天狗の鼻のようである。

その大きい天狗の鼻の出現に、驚いた恭子は、一瞬、気後れして恥じらいを見せた。孝詞はその動作にいじらしさを強く感じたが、構わず恭子の浴衣の裾を勢いよく引っ張ると、現れた紺色のシンプルなショーツを脱がした。

そして蜜が溢れた恭子の秘所に、自分の天狗の鼻の先をあてると、コンドームを付けずに一気に差し込んだ。その挿入の時には何の抵抗も無かった。すっと奥まで入って行った。

「あっ!・・・・・・

恭子の声は、ホテルの館内に響き渡るほど大きかった。

「恭子さんのそこ、あったかい。びちょびちょに濡れているから、僕のあそこが、言葉で表現できないほど柔らかい素晴らしいもので、しっかり包まれているような感じがするよ」

「そうなの?そんなこと言われたことないよ」

「凄く気持ちいいよ。こんな感触味わったことない。恭子さんは、気持ちいい?」

「うん、とっても気持ちいい・・・・・・なんか、多分孝詞さん、大きいみたい?」

「いや、そんなことは言われたことない。普通だと思うよ。比べたことないし。判らない。標準サイズだと思う」

・・・・・・恭子さん、この間はあっという間だったし、コンドームもつけていたから良く判らなかったけど、なんか奥の方であたっている感じがする・・・・・・。恭子さん、確かにぶつかっているよ。締め付けも凄い・・・・・・

「初めて言われたことだから良く判らない。判らないけど、とっても気持ち良くなってきた・・・・・・

「僕も気持ちいいよ。でも、もう危ないからコンドーム付けるよ・・・・・・」

「孝詞さん、大丈夫。中に出しても。今日は平気な日だから」

 そう言いながら、恭子は孝詞の腰のあたりに回した手を強めた。もう頂点に登りつめそうになったのか、声はうなぎ登りに大きくなって行った。

「あ、孝詞さん、もう逝きそう・・・・・・。早すぎるかな?あ、あ、逝く・・・・・・

「僕も我慢できない。逝きそうだ・・・・・・。一緒に逝くよ

「あ、あ、あぅ、あぅ・・・・・・

互いに引き合う感情が強烈なのか、あっという間に二人とも失神するかのように昇りつめてしまった。恭子は数秒間、目を瞑ったまままったく動かない。その美しい長い首を、孝詞は締めて殺してしまったのかと思うほどの錯覚を抱かせた。しかし、にこやかな顔をして孝詞に視線を向けた時には、相手への深い感謝の念さえ浮かべているような印象を与えた。

「逝ってしまったね?気持ち良かった?」

・・・・・・私、本当のこと言うと、指以外で逝ったのは2回目なのです」

「え、本当に?ひょっとして車の時と、今回僕が逝かせたものかな?」

・・・・・・そうよ、重徳との時はなかった。こんなことを言うのは恥ずかしいけど・・・・・・。でもね、そう、孝詞さんだと不思議なの。凄く気持があっという間に高ぶって・・・・・・。指なんかよりも何倍も素敵で、快感が突き抜けるの・・・・・・

「恭子さんに、気持ちが良かったとか言われると、男として嬉しい。でもやっぱり恥ずかしいな」

「不思議だわ、孝詞さんだと、まるで千キロを走る駿馬に乗っているようなの。ずっとずっと乗り続けたい駿馬よ」

「はっはっ、僕が乗っているのに、乗られていたわけだ」

 二人は悪戯っ子のように笑った。そして、未来を生む分泌物などを綺麗に流すために、孝詞は恭子をお姫様抱っこで、眩しい照明を点灯させて風呂に突入した。

「孝詞さんとセックスしちゃったけど、毛穴まで見えそうな照明の中で私の裸を見られるのは、やっぱり恥ずかしい・・・・・・

「恭子さんの均整のとれた美しい裸、ずっと見ていたけど」

「え、どういう意味?」

「恭子さんは頭が良くて回転の速い人だけど、やっぱり知らないこともあるんだね。ラブホテルに関しては・・・・・・。実はベッドルームから風呂場が丸見えなのです」

「嘘?何処から?」

 恭子は慌てて辺りを見回している。

「そこ、そこのガラス張り。ベッドルームから窓を開けておくと、全部丸見えなのだ」

「孝詞さんて嫌らしい!エッチ!助平!変態!・・・・・・

思いつく相手を非難する言葉が続いたが、終いには笑い出した。

「結構高いんだから有効に使わないと」

「孝詞さんばかり狡いんだ!私が興味津々でアダルトビデオを視聴していたのを聞かれるし、私の裸も見ていたのね。いやだ・・・・・・。恥ずかしい

「じゃ、僕のこれもゆっくり見ますか?」

鋭く刺すような照明の光の中で、再びいきり立っている天狗の鼻を、恭子の鼻筋の通った白い美しい顔の前に突き出した。恭子は一瞬また驚いたような顔をしたが、今度は冷静になって言った。

「ねえ、男の人って口でされると気持ちが良いの?」

「え、まだしたことないんだ?」

「そう。ビデオでさっき見たけど、私はしたことないの。やっぱり男の人はしてもらいたいものですか?」

「そうだね、お互い相手に惚れていると、相手の喜ぶことをするという意味で、性器を舐めあうのだと思うんだ。重徳君とはしていないの?」

「してないわ。孝詞さんはゆり子さんとは?」

「求められたらするよ」

「そうか。そうだよね。私は孝詞さんが一番好きだからやってみたいわ」

「じゃあ教えてあげる。ここをこう持って・・・・・・

孝詞はその動作のレクチャーを、真剣なまなざしで聞いている恭子が無性に愛おしかった。恭子は孝詞のその部分を咥えているが、どうやるのが男に快感を与えるのかコツがまだ判らないので、孝詞は本当に初心者に教えるようにゆっくりと説明した。すると、少しずつ慣れて来たのか、含み方、舐め方などに恰好がついて来たので、孝詞は今度は余裕をもって美しい恭子の顔を見つめて、快感が差し昇ってくるその時間を楽しんでいた。恭子は自分のことはそっちのけで一生懸命だった。

収まりがつかなくなった孝詞は、恭子と一緒に風呂の中に入ると、向き合って挿入した。恭子の顔は淫乱に見えたり、美しい天使のように見えたり、千変万化している。その顔にキスをしながら、孝詞は恍惚の世界に吸い込まれていった。恭子もまた昇り始めて、逝きそうだった。一緒に逝った時には、二人はお互いの存在の境界を消失させ、もはや一体化した構造物のようになって温かいお湯の中に浮遊していた。

時計はもう11時に近かった。お互いにバスタオルで拭きあいながらベッドルームに戻ると、それぞれが服を着始めた。鏡の前で恭子は自分の姿を見ながら、ナルシストのようににこにこしている。

孝詞は最後に腕時計を付けるとベッドの上に座った。恭子も座ってキスをせがんだ。

「今日はありがとう。色んなものも見られて勉強になったし・・・・・・

「こちらこそ恭子さんには、車まで出してもらってすまなかった。ありがとう。恭子さん、君はまるで僕が誂えた女性のように、しっくりとなじむんだ。僕は神ではないけど、もし神だったらきっと造っていた僕の理想の女性そのものだよ。すごく体の相性も良いから、重徳君と別れて僕とカップルにならない?僕もいずれゆり子と別れるから・・・・・・

「そうね、私もそう思ったけど、結論と実行はゆっくりと進めましょう。お互いできれば人生に致命的な失敗をしたくないし・・・・・・。あ、私やっぱりA型のようです。思い詰めると突飛な行動をしてしまうけど、今回の貴方へのアプローチみたいに。でもね、本当はちょっぴり忍耐強くて、石橋を叩いて渡る派なのです。貴方との恋愛はずっとずっと続けたいわ。そして、将来あなたがゆり子さんと別れて、私が重徳から別れられたら、責任取ってください。お願いします」

「うん。君とじっくり話したのはそんなにないけど、直感というものを信じれば、未来なんてどうなるか判らないけど、その方向にすでにロケットが発射されたっていう感じだよ。頼りないけど責任を取る時には必ず取るよ。多分、こうやって何度も何度も体を合わせているうちに、完全に離れられなくなると思うし・・・・・・」

 

やがて、二人はホテルを出て、西船橋の孝詞のマンションに向かって車を走らせた。二人とも疲れ切っていたが、心の伴侶を見つけた思いで、充足感が車内に漂っていた。二人は思いつく心の中のざわめきを口にすると、お互いに対しての愛情がふつふつと湧いてくるのが判った。出発した時と同じ、JR線沿いの道で孝詞が降りると、恭子の紺色の車は勢いよく走りだして、すぐ左折すると見えなくなった。孝詞の足取りは思ったより軽かった。

 

それから、孝詞と恭子は、ある時は孝詞のマンションで、ある時は船橋市の海浜公園で、ある時は高野台にある小さなホテルで、それも周囲の人にばれないように、変装して時間をやりくりして逢った。逢ったというより荒々しくいつも抱き合ったという方が正解だ。

一方、エンジニアリングの社内では、努めて周りに公開しているカップルとして、恭子は重徳と、孝詞はゆり子と仲良くして見せていた。二人とも毎日芝居をしていたのである。会社やその恋人たちの前では、仮面の恋人を演じ切っていた。だが、ひとたび本当の恋人同士である二人が逢うと、熱烈に、夢中に、激しい絡み合いになり、愛がかきたてられ、情熱が迸った。

 

そんな風にして周りには内緒で、逢瀬を繰り返していた。お互い全てにおいて、この人しかいないという運命を感じるほど相性が良かったので、一緒に今の相手と別れて、本当の恋人になろうという未来図が何度も話された。


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浮気というアブナイ恋を運命の恋に変える?

 8月のある暑い日、ゆり子が帰郷しているという事で、今日は孝詞のマンションのドアの前に恭子は立っていた。暑い真夏の夜なのにサングラスをかけ、マスクをしている。風俗関係、探偵、それとも顔を外に出せないというような訳あり?の雰囲気を醸し出していたが、少なくとも人物は特定できないし、それほど目立つわけでもない。だから恭子の変装は、オーソドックスで成功している方かもしれない。502号室のドアが開くと、地味な紺色のスカートと、ノースリーブのポロシャツの恭子は、一瞬で孝詞の部屋に吸い込まれていった。

 ドアを閉めると、恭子はサングラスとマスクをシューズボックスの上に無造作に置いて、孝詞と唇を合わせた。こんな風にして抱き合う事が出来ない時間の経過していくじれったさや、表だって付き合う事の出来ない現実やさまざまな不安の要素が、2人のハートに勢いよく火をつける。抱き合い、ディープキスをして、お互いが相手の体のお尻や背中や肩や腕など、まるで愛おしい本物の恋人なのかを確認するかのように、体をまさぐっている。そして、数分経っただろうか、二人とも目一杯まさぐっていた腕の力などを、やっと抜いて体を引き離した。一旦脱力しないと、二人の体は何時までもくっついていただろう。今日は恭子の方が初めに引き離した。それは、廊下の壁に飾ってあったピンク色のハートのオブジェのようなものが、恭子を少しだけ不機嫌にしたからかもしれない。通い妻のように時々ゆり子はここに来て、孝詞と会っているようだが、ドアや壁にゆり子好みの痕跡を残すかのように、そのオブジェ達は自己主張している。ゆり子様いらっしゃいとでも言っているようで、やはり恭子には敵のセンスの無いオブジェに、良い気はしなかった。

 恭子はシャワーを借りて汗を流すと、テレビを見ていた孝詞の横に座り、缶ビールを飲んだ。缶ビールを飲み、テーブルの上に置くと、孝詞の手は恭子の若鮎のようなすべすべした体に手を伸ばした。最初から孝詞の手は秘所に直行していた。右手がそこに触れると恭子の喘ぎ声が聞こえた。恭子は恭子で孝詞のショートパンツのジッパーの部分に左手を被せている。序曲が奏でられると、もう止まらない。お互いに脱がせ合い、お互いに愛撫しあい、お互いに舌を這わせる。視覚が生み出す強烈な愛欲と、体の内部から出てくる快感が、二人の行為の中で溶け合っていく。この部屋で、孝詞とゆり子が交わっていようと、もう恭子には関係なくなった。今、目の前にいる孝詞を愛せれば幸せなのである。さまざまな方法で相手を翻弄し、貪り、快感を与え、やがて結合と言う神が生んだ最高の儀式に向かっていく。この行為は場合によっては世間でいう猥褻や姦淫となるが、今の二人には関係なかった。ただ、本当の恋人に出逢うタイミングが遅かっただけなのである。荒々しく、猛々しく、時にはリズム正しく、時には恍惚の光に溺れ、やがて、終焉のステージに降りていく。どんな行為も常に終わりがある。始めと終わり、その豊潤な波は二人の心の不安を十分に満たすのである。

 

二人は2回目の結合を終え、服を着始めた。ソファーに背を付けてフローリングに直に座ると、冷たい木の感触が心地良いと恭子は思った。

「ねえ、孝詞さん、別れさせ屋のこと知っている?」

 孝詞は聞いたことがなかったその職業のような名前に反応してしまった。

「初耳、そんな仕事があるの?」

「私たちの状況はまだそこまで行っていないけれど、今後の事もあるからこの間図書館で調べてみたの。自分は別れたいのに、相手がどうしても同意しない。離婚したいけど、状況が複雑で自分と相手だけの問題ではない時など、いろんな状況に対して探偵社の人たちが、工作のシナリオを作るらしいわ」

「何でも商売になるんだね?」

「暴力を振るう男と別れたい。ヒモになってきた彼と別れたい。浮気ばかりする旦那と別れたい。相手と別れたいけど、お金を貸しているとか、世間体があるから波風を立てずに円満に別れたい。いくら別れ話・離婚話をしても、全く納得してくれない。別れ話をしたら、ストーカーになった。別れるなら死ぬなどと脅される。怪文書を撒かれそうだとか、そんな困った事でも対処してくれるみたい」

 孝詞は恭子の話を聞きながら缶ビールを飲んでいる。恭子も飲みながら話している。時折孝詞は恭子の体にスキンシップをする。触れる部分によっては、恭子は声を出したりするが、自分の話に今は夢中だった。

「たとえば、孝詞さんがゆり子さんと別れ話をしたら、ゆり子さんは絶対に感情的になると思うの。私だってそうだわ。相手が別れたくない、離婚したくない本当の理由が判らなければ、感情が優先して何も進まないと思うの。だから、そこに探偵社の人間が工作を行うことによって、出口を見つけることが可能になるみたい。そうすれば、怒りが孝詞さんに向けられないで、工作を担当する人間に向かうから、かなり孝詞さんは楽になるっていう事です」

「そんなに上手く行くかな?」

「まあ、そんな人を雇わなくても、頭を使えば上手く行くこともあるらしい。あり得ないと思うけど、もし万が一孝詞さんがゆり子と結婚することになって、不倫という形になった場合でも、私を愛し続けてくれるかしら?」

「そんな馬鹿な。ゆり子とは結婚する気などないよ。いずれは別れるのは間違いない。ただ、上手く別れるために、タイミングを図っているのさ。お互いに求め合い必要としているから、必ず一緒になりたい。相思相愛の恋愛なんだから、僕はゆり子には後ろめたさを感じていないよ」

「そう言ってくれると嬉しい。孝詞さんがすっきりと別れられたら問題は解決するでしょうし、私もあの重徳君を上手く納得させれば済む話なんだわ。だけど、どちらも別れを拒まれることで、問題が大きく悪化することが絶対に無いなんてことはありえないかもしれないね。まあ、二人に本物の愛があれば乗り越えられる障害と考えて対処していきましょうよ」

「二人とも綺麗さっぱり別れて、言わば略奪愛みたいなものだけど、それを叶えるためには、本当に出来る限り、揉めることなくスムーズに進めたいね」

「そうね、それが私たちの理想です。略奪愛って孝詞さんは今言ったけど、悪いことをして奪うつもりはありません。相手を愛する気持ちが無いカップルが、別れる前に最愛の人に出逢ってしまって、不倫のような形式になってしまっただけのことです。私たちは、お互いに愛し合っているのですから、ちゃんと別れて、新しい人と再出発する方向に向かっている立派な恋愛なのです。だから略奪愛と言うのは何か違和感があるの。まあ、取られる方からしたら略奪愛なのでしょうけど。いずれにしても、その後、未来永劫幸せなカップルになれれば、略奪愛は真の恋愛になるのでしょう。実際、人間というのは、完璧なものではありませんから、間違った選択をしてしまう場合や、結婚して相性が悪いと気付くことだってあるはずです。それなら恥じることなく責任を果たして、もっと発展した関係を築けば良いのよ」

「恭子さん、随分力が入るじゃないか?そうだね、略奪愛を叶えるには、お互いの気持ちが同じであること、お互いを必要として求め合っている場合に成功すると僕も思う。僕たち二人もきっと成功するよ」

「そうね、誰かが言っていたけど、危険な恋を運命の恋に変える!みたいな人生って面白いと思うの。まあ、恭子の願望ですけど。いずれにしても、私は孝詞さんを愛したことについて何の後悔もありません」

「僕もだよ。後悔なんかしていない。恭子が大好きだ。だから今後の事も考えて、スムーズに未来を育みたいと本当に思っている」

「純粋な恋でも悪い方向に行くことが多いけど、あらゆることを考えて、素晴らしい未来予想図にしたいの。もう最悪の場合は探偵社を本当に使ってもいいと思っているわ」

「そうだね。場合によっては考えよう。ゆり子はおっとりしていて気性も穏やかなイメージがあるが、ところがどっこいで、昔はヤンキーだったみたいだよ。犯罪というほどではないけど、結構両親に反発して、金髪だったそうだし、煙草吸ったり、万引きしたりと、一通りの悪はやったそうだ」

「へー、それは初耳。そうね、私よりおとなしそうに見えるけど、何かの拍子に切れることがあると、凄い強い言葉を吐くのを見たことがあるわ。やっぱりそうだったの・・・・・・

「中学2年の時、学校の物置を燃やしたことがあるらしい。なんでも事務員のおじさんに服装の事で注意されたので、逆恨みして燃やしたと言っていた。高校の時には、江戸川で渡し船のオヤジと何かトラブルがあって、仲間と一緒に夜中に小さな船を燃やしたことで、補導されたとも言っていた。本人は淡い過去みたいに喋っていたが、ちょっと火にかかわる過去だからやばい気もした」

「ゆり子さんを擁護するわけではないけど、何かしら脛の傷を持っているのが人間だから、気にしない方が良いよ・・・・・・

 と恭子は言いながら、それでも寒気がするような気がした。

 

 孝詞は恭子のTシャツの隙間から見える乳首のところまで、右手を入れて弄んでいる。孝詞のショートパンツのジッパーの中のものはすでにいきり立ち、また果てしない欲望の渦に巻き込まれていった。恭子も再び若い肉体から発散してくる生命力漲る情欲に身を任せた。三回目に突入していたのである。


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孝詞を絶対にゆり子から奪って見せる

 9月のある日、管理部の部屋に入ってきた孝詞は、恭子に一瞬だけ眼差しを向けたが、その笑顔は仮面の恋人であるゆり子に直ぐ向けられた。これほど孝詞は演技がうまいのかと恭子は思ったが、今日は何故か体内の奥で、憎しみめいた嫉妬心が湧きあがるのを感じた。いつもだと簡単にゆり子への嫉妬心はセーブできていたが、自分ではどうもしがたいバイオリズムの不調からか、今日は爆発的に起きてくるような気がした。座っている自分の体が、ガタガタ震えるような錯覚を感じた。それでも顔は、いつもの美人らしい人を寄せ付けない気高さを何とか保っていた。

 星野部長や他の同僚が席を外していて、ゆり子は割と恭子は親友だと思っているせいか、平気で内輪の話をしている。

「西船橋駅で電車に乗って帰るとき、本当に怖かった。降りたら孝詞さんに電話しようと思ったくらい。でも、睨みつけてやったら、すごすごとどっかに消えてしまったの・・・・・・。変なオヤジだったの

「大丈夫?その後尾行されなかったの?」

「うん、大丈夫でした。家に着くまで後ろを振り返ったりして、警戒していたから・・・・・・

「良かった、何もなくて。やっぱり葛西の家まで送った方が安心かな?」

「いいの、いいの。そんなことしたら仕事に差し障るから、これでも腕っぷしは強いから、いざとなったらぶっとばしてやる、なんてね。本当はか弱い乙女なの・・・・・・

二人は本当に仲の良い恋人のように振る舞っていた。

『嬉しそうなゆり子、仲良くして見せつけてくれるじゃないの。孝詞さんの本当に愛している人は私なのに。ゆり子がどんなに愛しても、私に勝てるはずがない。それなのに、さも自分が彼の心を独占していると思い込んでいるのだから可哀想。でも、人の前でいちゃいちゃするのはやめて欲しいものだわ。ずっと見ていると頭にくるわ。早くこの部屋から孝詞さん立ち去って。お願い』

 恭子は心の中で、煮えたぎるような嫉妬心に翻弄されていることが癪に障っているが、自分も女だという気持が、さらに怒りを生むような思いだった。恭子はほんの数秒間だけ、孝詞を睨むような目つきをしたが、孝詞は気づかないような振りをしている。相変わらずゆり子の前で愉快そうに笑って話している。

『私といる時は、あんなに優しそうには喋らない気がするけど、気のせいかしら。いくら芝居とはいえ、私のことなどまったく眼中にないような素振り。大声出して、孝詞は私のものよ!と叫びたいくらいだわ。ちょっと孝詞さん、どさくさに紛れてゆり子の肩なんかに触らないの。ここは会社。しかも自分が一番好きだと言った私の目の前よ。演技とはいえちょっと自粛してよ。本当は私をからかって楽しんでいるの、孝詞さん!私ってそんなに存在が貴方にとって軽いのかしら。逢う時はいつも一番一番と言っているけど、本当の所はゆり子の方が本命じゃないの?私って魅力がないのかしら?美人も台無しね?駄目な女かしら?こんなことを考えるようでは?自信を持たないと。恭子!』

 恭子は珍しくイライラしているのか、ボールペンをノックし始めた。カチ、カチと言う音が部屋の中に小さく響いている。ゆり子は全く気付かない。それほど孝詞と話しているのが楽しいのだろうか。

 しかし、孝詞は気付いたようだ。恭子の孝詞に判る小さな不機嫌さを見抜いたのか、しばらくするとまた3階に登って行った。その出ていく姿にやっと安心したのか、恭子は胸を撫で下ろした。だけど、いつも目の前で二人が話していても平静でいられるのに、今日は変だと恭子は思った。そして自分の額を軽く手で叩いている。

「恭子さん、どうしたの?頭痛いの?」

 憎い敵であるゆり子に声を掛けられて吃驚した恭子であるが、直ぐに自分を取り戻してにこやかに笑って言った。

「お二人さんがあまりに仲が良いので、頭痛がしたの・・・・・・

 その言葉が、ゆり子の笑いのツボに嵌ったのか、大きな声で笑い出した。その声は星野部長が部屋に入ってくるまで、続いていたような気がする。恭子は顔は笑っていたが、心の中ではうんざりしていた。

 

 お昼休み、恭子が3階の女性用のお弁当を食べる部屋から一人出てくると、エレベーターホールで孝詞とバッタリ出逢った。孝詞も偶然1人きりだった。すると、恭子は突然何を思ったのか、エレベーターホールの横にある倉庫の部屋に、孝詞の手を引っ張って入って行った。入ると孝詞に鍵を掛けてと言う。幸い誰も見ていなかったようだが、恭子は心臓が飛び出そうなほど、自分の行為に動揺していた。会社でこんなことをするのは、万が一見つかったら大変なことになるのは十分に判っていたが、バイオリズムの狂いだろうか、狂気じみた突飛な行為だった。孝詞も急激な恭子の行動に、ドキドキしているようだ。

「私のこと好き?愛している?」

「勿論だ、恭子さん。決まっているじゃないか」

「嘘!本当はゆり子の方が好きなんでしょう?」

「そんなことあるわけないじゃないか。恭子さんだけだよ」

「今日のわざと見せつけるような態度は何?」

「しょうがないじゃないか。タイミングが悪くて、まだ別れていないと言うだけの話じゃないか。でも気に障ったようなら謝る。今後は君の前ではゆり子と今日みたいになれなれしくしないから」

「いいえ、きっと貴方は私の心を嫉妬心で燃え上がらせて、楽しんでいるに違いないわ。悔しい!!」

「違うよ。今日は話のなりゆきで、あんなくだらないたわいのないことを言って、ゆり子を安心させていたけど、視線を向けていない君の事が、好きでたまらないんだ。本当は。ゆり子の側にいるから嬉しいんではなくて、管理の部屋で、くだらないことをゆり子と話しながら、恭子さんの側にいたいだけなんだよ。この気持ちに嘘はない。ゆり子は唯のお喋り相手にしか過ぎないんだよ。君を見ていないようで見ているんだよ。君の近くにいると、君の暖かいオーラを感じることができるんだ・・・・・・

・・・・・・

「本当だよ。神に誓って僕には君しかいない。いずれは綺麗さっぱりとゆり子とは別れるから。時間がかかるけど待っていて」

「どのくらい待てばいいの・・・・・・。重徳は何とでもなると思うから、貴方次第なの。いつまで?

「今年中には、何とかしたい」

「本当?」

「機嫌を直してくれよ。恭子さん」

 この倉庫には断熱材のようなものが内側の壁全てに張ってあり、防音効果がある。だから二人の声は外には聞こえない。

 孝詞は目の前に立っている、拗ねているが美しい恭子が愛おしくなって抱きしめてキスをした。会社であることなど忘れてしまっている。誰かが、鍵を掛けて二人が入っていることに気づいたら、全てが終わりかもしれない恐怖感に、二人は逆に燃え上がるようだった。キスをして舌を絡めると、痺れるような快感が二人の体に巻き起こった。やってはいけない危険なこの場所であるからこそ、瞬時にして情欲は増幅されていった。

 孝詞の右手は、恭子の紺色のスカートの臀部の部分をまさぐっていた。弾力のある肉感的な臀部は、孝詞の心に火をつけた。恭子は両手を孝詞の体の背中に回して、きつくきつく抱きしめた。まるでこの良人を失いたくない、誰にも取られたくない、特にあのゆり子には、というような意志表示をしているかのようだった。情欲が高まった孝詞はついに爆発した。恭子のブラウスのボタンを外すと、真っ白なブラジャーに包まれた胸が出てきた。そのブラジャーを下にずらすと、ピンク色をした固くなった乳首を唇で吸い始めた。敏感な恭子は思わず声をあげてしまった。あげながら孝詞の股をさすり始めた。天狗の鼻である恭子にとって大切なものは、鉄筋のように固くなっている。恭子は孝詞のズボンのジッパーを下に引いて、トランクスのわきから彼のその部分をつかんで、手を上下に動かした。孝詞も押し寄せてきた快感に、大きな声が出そうであった。

 孝詞は恭子を後ろ向きにして、両手をストックしてあった茶色の机の天板に置かせると、紺色のスカートを捲りあげた。黒いストッキングの下には白いパンティーが透けて見えた。ストッキングを無理やり膝まで下げ、その次に白いパンティーを下げた。白くて美しい造形の恭子の尻が、見事に実を結んだ果実のように孝詞には見えた。そのお尻の割れ目の部分はすでに潤っているのか、体液で濡れそぼっている。孝詞は興奮ぎみにその濡れた秘所に指を入れ、ゆっくりと抜き差しをした。恭子の声は段々と高くなっていく。孝詞は恭子に声を出すのを抑えるように、手を彼女の口に当てる素振りをした。少しトーンは下がったが、快楽に満ちた卑猥じみた声の質は、いよいよ淫乱に染まっていく。

 指だけでも逝きそうなほど恭子は乱れている。孝詞も我慢できないところまで来ているのが判ったので、勢いよく革バンドを外して、ズボンとトランクスを膝まで下ろした。いきり立った天狗の鼻は大きくなり、固くなって血管が浮き出ているようだ。

「来て!孝詞さん!とてもスリルがあって、気持ち良くて持たないわ」

 孝詞は恭子の濡れたその部分に、いつの間にか用意していたコンドームを被せて挿入すると、力強くピストン運動を始めた。突き立てて奥にあたる度に、恭子は喘ぎの声を上げる。恭子のお尻は肌が白くて美しい。その丸みを持った柔らかいお尻が、突くたびに変形したり戻ったりするのを、孝詞は王様のような気分で見とれている。時々、露出している均整のとれた乳房に手を回して揉んだ。そのあまりにも柔らかい胸の感触に、孝詞は言いつくせないほどの幸福感に満たされた。

 何回ぐらいピストン運動をしたのだろうか。いつもの半分ぐらいの時間で、もう孝詞は逝きそうだった。会社の中で愛し合うというタブーを犯している罪悪感や不安感が、情欲を煽り立てているのであろう。

「逝きそうだよ、恭子!」

「私も逝きそう。来て、最後は一緒よ!」

 昇り詰める二人の呼吸と喘ぎ声のリズムは、ぴったりと合致していた。

「あ、逝っちゃう」

 孝詞もそれに合わせて声をあげながら、自分のものを出した。白濁の体液がコンドームの先に溜まっている。そのまましばらく二人は茫然としていた。

 呼吸が整い、孝詞が恭子の秘所の部分を持っていたテッシュで拭き、自分のものもコンドームを抜いて拭き、ズボンをはいた。恭子はスカートを元のように戻し、ブラウスのボタンをしっかりと嵌めて、孝詞を愛おしそうに見つめている。

「孝詞さん、さっき私の我儘で傷つけてごめんなさい。今の貴方と私の関係の中で、貴方が心から私を大切にしているということは、よく判っているつもりなの。だけど現実はまだ中途半端だから、貴方と将来本当に一緒になれないような気持ちになることも時々あるの。その負の感情が沸き起こると、一つの事が十個ぐらいの大変なことに見えて来てしまうの。そんなことを考えていると、疲れ果てた旅人みたいに孤独で寂しい気持ちになるの。だから、そんな未来が見えない疲れた私は、貴方に対して変なプレッシャーを、知らないうちにかけているのかもしれない。嫌な女ですよね。私って?」

「大丈夫だよ。謝らなくたって良いよ。僕はそんな君を含めても全部愛しているんだから。何も心配することはないよ。だから、いつも僕を信じてください。僕の一番愛している人は恭子さんだけだから・・・・・・

「冷静なはずの私が今日は変でした。本当にごめんなさい。バイオリズムがおかしいみたいなの。て言うか、そんなことを理由にしている自分が嫌ですが・・・・・・。こういうのを小さな自暴自棄というのかしら。孝詞さんと一緒に過ごした素敵な時間を、見事に踏みにじってしまうような事を選んでしまう心理、これって間違いなく悪魔に魅入られている恭子ですよね?本当にごめんなさい」

「もういいよ、恭子さん」

 孝詞は恭子を抱き寄せて優しくキスをした。すると恭子は少し涙ぐんでこう言った。

「本当の愛を確かめるためにも、これからもいっぱい私の事を愛してください」

「判っているよ。こちらこそよろしく」 

恭子は孝詞の顔をまじまじと見て、キスを返し抱きしめた。心の中で『孝詞は一生でたった一人の男だと思う。だから孝詞を絶対にゆり子から奪って見せる』と深く強く決意していた。



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