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第一話~汗だくの男~

第一話~汗だくの男~

 

 蝉が生涯をとげ、木枯らしが頬をなでる。

 

そんな中、汗だくの男をみた。_____

 

____仕事終わりにいつものメンバーで食事に行くことにした。

今日はみんな車なので飲めない日である。

いや、飲まない日である。

居酒屋が建ち並ぶその通りは、我々に飲めと言わんばかりに文字盤が眩しく、日頃の他愛もない会話をしながら歩いていると目の前に少し古びた6階建てのビルがあった。

1階には汚い字で「フロント」と書かれた管理室のようなものがあるが誰もいない、2階は「ボーリング場」、3階は「テナント募集」、5階6階は「海空商事」という商社が入っており、一風変わった並びではあるが、我々は吸い込まれるかのように、4階にある「ひと味違う大衆食堂」という胡散臭そうな店へと入ることにし、正面のエレベーターのボタンを押した。

各階エレベーターを降りると右にトイレ、左に階段、正面がフロアとなっており、エレベーターが玄関扉の役割をしている。

4階に着くとそこは奥行きのあるビルだった為、意外と広く、背広姿の男たちでほぼ満席状態だった。

席に着きメニューを広げる。

歳の頃なら20歳くらいの女の子が人数分の水とおしぼりを持ってきた。

「お決まりになりましたら、そちらのベルでお呼び下さい」

愛想が良く、笑顔が素敵な女の子

「とりあえずビール・・・」と言いかけて、

「ウーロン茶3つ!」と言い直した。

出されたおしぼりで手を拭い、氷がカランと音を立てた。____

 

____何時間くらい喋っていただろうか、男が集まるとなぜか夢や仕事の話で熱くなる。

それでもこの店はまだ満席状態なのは変わらない

すると、一人の友達が席を立ち、どこかへ行ってしまった。

こいつはいつもそう、突然どこかへ行く

「どうせ2階のボーリング場に行ったんちゃう?」

「絶対そうやろな」

それが話の腰を折る切っ掛けとなり、トイレに行きたかったことをすっかり忘れていて

「ちょっとトイレ行ってくるわ!」

「うんこ?」

「なんでやねん!」

関西人のお決まりのパターンで返し、エレベーター横のトイレに行くと、酔っぱらったおっさん達でうまっていた。

もれそうなこともありエレベーターに飛び乗り、誰もいないであろう「3階」のトイレへ行くことにした。

3階に着くと正面のフロアはシャッターが閉まっており、階段の蛍光灯のおかげで意外と明るい。

管理人か清掃会社かわからないが、使っていないフロアの掃除も怠ってはいない。

トイレに入り少し長めの用を足す。

洗面所で手を洗い、目の前の鏡を見た。どうしても見てしまう。

すると、外から

「ズズ・・・ズズ・・ズズズ・・・」

何かを引きずっているような音が聞こえた。

とくに恐れることもなくトイレから出ると、斜め前くらいに座っていたワイシャツをめくりあげネクタイを外した男が汗だくで蛍光灯の光に灯されながら階段の方、つまり3階と4階の踊り場あたりを凝視しし、固まっていた。

私は

「なにしとんやろ?」

と、疑問には思いながら5階に止まっていたエレベーターを呼んだ。

ちょうど、ガラスにその男と凝視している踊り場が映っていたので、エレベーターを待ちながらガラス越しに見ていた。

「ズズ・・ズズズ・・・」

音がだんだん近付いてきているのがわかった。

何の音かはわからないが急に怖くなりエレベーターを見ると、私のいる3階を通り越し1階に向かっていた。

誰かが下でボタンを押したのだろう・・・

「ズズズ・・・」

「ひぃい!!」

恐怖でどこから出したかわからないようなその男の声が聞こえ、振り向いた_________。

 

第二話~走る~ に続く


第二話~走る~

第二話~走る~

 

_____「ひぃい・・・」

 

「どうしたんですか!!?」

男は震える手で踊り場の方を指差した。

踊り場までは光が届かなく、薄暗い中で何か大きな黒い影が見えた。

一気に全身から汗が噴き出し、エレベーターのボタンを連打した。
連打するゲームがあるなら、かなり高得点を叩き出せただろう。

1階で止まったままのエレベーターは中々動かない。

階段には黒い影がいて少しずつ動いている。

怖い、怖い、怖い

これが本当の恐怖を感じた時の感覚なのだろう。

あれはなんなのか

生き物なのか違うのか

飛ぶのか飛ばないのか

早いのか遅いのか

賢いのか賢くないのか

全くの情報がないこの状態は本当に怖い

例えるなら、天井にいたゴキブリを叩こうと近付いた瞬間に飛ばれるくらいの恐怖である。

私に残された選択肢は一つしかなかった。

動けないでいる男を尻目に、恐る恐る階段を下りることにした。

一段・・・一段・・・

人生最大の慎重さをここで使った。

吹き抜ける微かな風でさえも私の体を重くした_____

 

____何とか2階のボーリング場に下りることが出来た。

全身びっしょりと汗をかき、変な目でみられるが気にしていられない

私は走った。

人をかき分け、人をかき分け、

「いた!!」

そこにはちょうどボーリングを終え、首にタオルをかけた友達

友達も私に気付いたようだ。

「お前もボーリングしとったん?」

「なんでやねん!一人ボーリングとか寂しすぎやろ!てか、そんなんどうでもええねん、4階戻るぞ!」

「なんでそんな焦ってんねん!銀行強盗でもしてきたんか?」

「なんでやねん!どのタイミングで銀行強盗するねん!」

「まあ、ちょうど終わって喉乾いてたから戻るとこやってん」

3階で止まってるエレベーターを呼んだ。

階段では4階に行けない。

エレベーターしか方法はない。

すぐに到着したエレベーターに乗り、友達が「4」を押そうとした。

「ちょっと待って!とりあえず5階行って!」

「なんでやねん!5階会社やん、着いた瞬間、なんか変なん来たーって思われるやん」

「ええから一回、5階行って!!」

「え?1階?」

「一回!!5階!!!!!」

スーと扉が閉まった。

そう、あの黒い何かが4階に行ってるかもしれないことを考えての5階である。

静かに動くエレベーターの中で、私は固唾を飲んだ。

私と友達は扉のガラス部を見ていた。

エレベーターが3階に差し掛かったその時、我々は言葉を失った_____

 

第三話~カブゾウ?~に続く


第三話~カブゾウ?~

エレベーターのガラスの先に、黒い影が姿をみせた。

そこには汗だくの男の姿はなく、代わりに見たこともない生物がいた。

私よりも一回りは大きく、カブトムシの体に6本ある手足のうち、上下4本と角はゾウである。

完全に腰を抜かしてしまった友達とは裏腹に私はそれを見て、「カブゾウ」と、脳裏によぎった。

______私が5歳の頃

蝉の鳴き声が一段とうるさく近所のお兄ちゃんたちと遊ぶのが日課だった。

「明日カブトムシ取りにいこうぜ!」

「うん、行きたい!行きたい!」

早速私は家に帰り母にそのことを告げた。

「お母さ~ん、明日お兄ちゃんたちとカブトムシ取りに行く約束した~」

「あぶないから、ダメに決まってるでしょ」

「え~行きたい~行きたい~」

「ダメです!お父さんも何とか言ってあげて」

「まだ早いぞ、もう少し大きくなったら取りにこうな」

「うん・・・」

頬をつたう一筋の光が、その日の終わりを告げた。

 

______次の日

木漏れ日が綺麗に輝くころ公園に出向くと、いつものお兄ちゃんたちが手に黒い何かを持っていた。

「なにそれ~?みせてみせて!」

図鑑でしか見たことがなく、触るのに少し抵抗があったが、私は目をキラキラさせて夢中になった。

日の光が影を長くさせるころ、自分もほしいという願望と、虚しさを胸に解散した。

「ただいま・・」

「おかえり~先に手洗って、うがいしてよ~」

「は~い・・・」

手洗いうがいを済ませ、リビングに向かい机に積まれた図鑑を開く

「カブトムシかっこいいな・・・」

少しして、お父さんが帰ってきた。

「ただいま~」

虫かごに入った黒いものが、私の心を晴らした。

「カブトムシ!!!!!」

「たまたまお店に売っててな、大事に育てるんだぞ」

「ありがとう、お父さん!!」

いつもピカピカの革靴がこの日だけは泥がついていた。

 

______数日後

今日は家族で動物園にいくこととなった。

「おいていきなさい」

「連れていく~」

「もう、死んでも知らないからね」

あの日から出かける時も必ず連れていくカブトムシ
ある程度、園内を回り、ゾウの檻の前に来た。

「うわ~大きいな~」

「お父さんが肩車してあげよう」

小さな体を軽々しく持ち上げる腕にぬくもりを感じていたその時
虫かごの蓋が開き、ゾウの方へと飛んで行ったのである。

「カブ~~~~!!」

「だからおいてきなさいって言ったでしょ」

ゾウの鼻で叩き落されたカブトムシはもうビクともしていなかった。

「カブ・・・ゾウ!!!!」

 

______というようなわけのわからない回想シーンが入る話でも何でもなく、ただ単にその生物の容姿を見て「カブゾウ」というネーミングが浮かんだだけである。

その姿が目に焼き付いたまま、エレベーターは5階へと到着し、私たちが下りると同時にエレベーターは下へと行った。

そこで私は、どこから湧いたかわからない正義感で叫んだ。

「にげろ!3階にカブ・・変な生物がいる」

完全に静まり返ったこの会社は、他の階と違い奥に6階へ行き来出来るように階段があり、そして1階からの直通のエレベーターもある。

ざわざわしだしたが誰も逃げようとはせず、これが集団心理というものなのだ。

そんな中、リーダー格のような男と他10名ほどが私たちの元へとやってきた。

「君ら大丈夫か?変な生物ってなんやねん、3階?ほんまかいな」

疑り深い顔で私たちを覗き込んだ。

「社長~ちょっと3階みてきまーす」

そう言うと、男はエレベーターのボタンを押した。

他の10名もぞろぞろとやってきて、私たちを階段の方へと押しのけた。

4階・・・5階、エレベーターが到着した、先客を乗せて・・・

第四話~逃げる~に続く


第四話〜にげる〜

 第四話~にげる~

 

「うわー!!」

 

エレベーターが着くと同時に悲鳴が響く

 

そう、カブゾウである。

 

我々が恐怖で震えていると、カブゾウの真ん中2本の足が俊敏に動きながら伸びる。

 

予想外だった。

 

やはりカブトムシの体にゾウの手足と鼻なわけなので、そのゾウの部分が何かしらの何かしらがあるのだと思っていた。

 

まさかのカブトムシ側の足がそんな動きするとは思ってもいなかった。

 

「えっ?そこ伸びるん?そんでめっちゃ早く動くやん」

 

「ほんまそれ!右上のゾウの足がロケットパンチ的なことなるんやと思っとったし」

 

「いやいや、それはない。下2本が伸びて、ちょっと走り出す感じちゃうん?」

 

「それこそないやろ!てか、もうあいつ「カブゾウ」でいいん?」

 

「俺、子供の頃おやじのことカブゾウって呼んどったで」

 

「なんの話やねん!おやじ可哀想すぎやろ!!・・・・」

 

震えながらも、そんな緊張感のないやりとりをやっていると、なんとその足で男たちを次々と突き刺していったのだ。

 

我々は運よく階段側にいたこともあり4階へ急いでおりる。

 

「ひと味違う大衆食堂」、看板の文字が霞んで見えた。

 

一人でスマホを片手にビールをあおぐ友達

 

我々は何も言わず、両腕をとり引きずった。

 

「えっ?なになに?」

 

戸惑う友達

 

「ちょちょちょ、ほんまなんなんっ!?どないしてん!?」

 

我々の行動が異常に見えたのだろう、先ほどまでの賑わいはどこにもなく我々の声しか聞こえない。

 

いや、むしろ我々は無言で引きずっているだけなので、声はこの友達の

 

「なんなん!?」

 

「なんやねん!?」

 

この二言が壊れたCDかのように繰り返されている。

 

「ほんまなんやねん!」

 

我々は友達の言葉に耳を貸すこともなく、そのまま店を出ようとした。

 

そのとき

 

「お客様!お勘定・・・」

 

笑顔が素敵な女の子である。

 

「そんなことより、今すぐ逃げろ!」

 

「はい?」

 

「今、5階にカブ・・変な生物がおって人が襲われとうねん!!」

 

「はい・・・」

 

「だから早よ逃げなカブ・・変な生物がおりてくる!」

 

「店長!!!食い逃げです!!!」

 

確かに信用しろというのが無理な話である。

 

とりあえず私は財布から1万円札を出し、女の子に渡し階段に向かうと

 

「ズズ・・・ズズズ・・・」

 

カブゾウだ。

 

慌てて引き返しエレベーターのボタンを連打した。

 

連打するゲームがあるなら記録をぬりかえていただろう。

 

着いたエレベーターに飛び乗る

 

「カブゾウってお前狙ってない?」

 

私は友達の言葉に心を乱され、6階のボタンを押した・・・

 

第五話~リセット~に続く


最終話~リセット~

最終話〜リセット〜

6階に着くとそこはもうパニックとなっていた。

5階で起きた惨劇、泣き叫ぶ人々、私は奥の1階に直通するエレベーターへと走った。

ボタンを押しても中々来ない

下の階では悲鳴が飛び交っている。

エレベーターの横にある、5階に続く階段を少しおりた。

そこから見た5階の景色はもう、どう表現したらいいのかわからない

しかし、カブゾウの姿がどこにも見えない

階段の一番下で私を見つめる黒い影

カブゾウである

「下2本の足が伸びてるー!」

私がそう叫ぶと、人並みの速さで階段を駆け上がってきた

やはり、足が伸びるんだということはどうでもいい

私は急いで乗ってきたエレベーターの方へ走りながら振り向くと右上の足が発射された

「右上の足がロケットパーンチ!」

やはり、ロケットパンチなんだということはどうでもいい

私は死を覚悟した

走馬灯とは本当に見れるものだ

かけがえのない友達

星の数ほどいる人間の中で、我々は出会い、共に笑い、共に泣き
共に苦難を乗り越え、共に楽しい時間を過ごした友達…

足が目の前まで来て、恐怖が最大限になったとき私はリセットボタンを押したーーー

友A「おい!なんで消すねん!!」

私「だって怖すぎやん」

友A「だからって消すことないやろ!せめてセーブしてから消せよなー」

友B「ほんまそれ、カブゾウの回想シーンのくだり長すぎるねん!あれもう一回見なあかんやん」

友A「そんで、主人公の名前なんで「私」やねん」

私「そのほうが小説っぽく話しが進むやろ?」

友A「しかも、なんで俺ら名前ないねん!なんも付けてないから「友達」って表記されとうやん!小説っぽくするなら「友人」とかにしろや」

私「そこはどうでもええかな〜と思って、てか俺の顔、福士蒼汰みたいやろ?」

友A「どこがやねん!どうみてもIKKOやんけ」

私「あー、頬骨がでとって、ブサイクの代表…」

友A「それホンコンや!」

友B「わ、わ、わたしはですね…そ、そ、そばが好きなんですね!」

私「それはサンコンや!古すぎやろ!」

友AB「もうええわ!!」

友A「てかもう18時やん!飯食いに行こっ!」

友B「じゃあその後、そのまま帰るから車で行くわ」

友「俺も」

私「じゃあ、19時に三宮の東門とこ集合なっ」

そう言うと、友人は私の家を出た。

三宮は駐車場が高いこともあり、私は神戸駅近辺に車を停め、歩いて集合場所に向かった。

神戸駅から元町商店街を歩き、私は東門前に着く。

友A「お前、家一番近いのになんで最後やねん」

私「ごめんごめん、俺も車で来て、神戸駅に停めてん」

友B「はよ飯食いに行こっ!」

今日はみんな車なので呑めない日である。いや、呑まない日である。

居酒屋が建ち並ぶその通りは、我々に呑めと言わんばかりに文字盤が眩しい

友B「やっぱり電車で来れば良かった…」

友A「呑みてー!」

私「どこの店する?俺どこでもいいねんけど」

すると目の前に少し古びた6階建てのビルが目に映った。

私「そこでええやん!」

友B「腹減った〜!そこにしよ!」

私はビルのエレベーターのボタンを押した。

1階…2階……4階。

我々はエレベーターをおりた。

「ひと味違う大衆食堂」ーー。

番外編執筆予定!



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