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人物紹介

私……主人公。30歳くらいの男性。「ゴーストハンタ」の一員。

 

相棒……私の相棒。同じく「ゴーストハンター」の一員。

 

少女……私立若葉学園の図書委員。不幸にも事件に巻き込まれる。


独白、無意味な文章の集合体

 何から書き始めればよいだろうか。一般に3年以内に命を落とすといわれているこの業界に身をおいてから既に6年ほどたつだろうか。そのなかでもこの前の事件は特に悲惨なものだった。

 傍らにおいてある五芒星にそっと触れる。長年の使用からか、一端が欠けてしまっている。

 筆を取りたいが、どうしてもこの前の事件のことを思うと相棒のことを思い出してしまい、その思考を無意識のうちにシャットアウトしてしまう。気分転換に湯を沸かし、インスタントコーヒーを入れる。部屋が暗くなってきたので、電気をつけることにする。わたしが今座っている机と、あとは簡単な食事が作れるテーブル以外には小さめの窓しかないこの部屋がパッっと明るくなる。たった8畳程度の部屋だが、私にはこれで十分だ。そろそろ家族を作らないといけない歳だろうか。

 そんなことを思っていると湯が沸いた。インスタントのブラックコーヒーにそっと口をつける。

 熱ッ、私は猫舌なのに入れたてのコーヒーをすぐ飲むなんて。全く、どうにかしている。

 

 さて、続きをかいていこうか。どこまでいっただろうか、いや、まったく殆ど何も進んでいないではないか。むしろ凡そ必要のない文章しか書いていない。まあ取るに足りない私の生涯を残すという意味では、このような無駄な文章もそれなりに意味のあるものかもしれないが。

 そうだな、相棒との出会いは……やはりこの前の事件から書いていこうとしよう。


悲劇の始まり

「ここなんだな」

 路肩に車を置き、相棒に語りかける。

「敷地内から、やつらの反応がします。どうやって入りますか?」

「正面からに決まっている。一刻の猶予もないのだろう」

 車のドアを閉めると、走りながら鍵のボタンを押す。ドアロックの音を置き去りにして校門を抜ける。

「待ちなさい、君たちは一体何なのだね?」

 守衛が私達を静止する。無理もない、必死の形相をした中年2人がいきなり学園内に入ろうとしたのだから。

「私たちはこういうものです」

 その答えを予想していた私と相棒は、偽の警察手帳を守衛の鼻先に突きつける。警察沙汰には巻き込まれたくないのだろうか、一瞬ついてくるそぶりをしたが、それだけで私達を通した。

「そこの茂みを左、通路をさらに左に行った建物内です」

 相棒の誘導に従い、「現場」へ走り出す。幸い夏休みであるため、学園内には人が殆どいない。いるとすれば、運動場で練習している陸上部と野球部くらいだろうか。

 その建物は二階建てであった。明らかに本公舎から離れている。かといって体育館ほどの大きさはない。図書館だろうか。視聴覚室といったところだろう。

 その扉は開いていた。靴箱には一足の靴が入れられていた。見たところ運動靴だ。

「ここの突き当たり、そこからやつらの臭いがします」

 数メートルの廊下を走り抜け、扉を開けようとする。すると、扉が独りでに横に開いた。刹那、何かがぶつかる音とぶちまける音、そして女性の悲鳴。相棒の動きが止まったため、危うくその背中にぶつかりそうになる。

「いったぁ……一体何事ですか」

 相棒の肩越しに何があったか見ると、ひざを立て、尻餅をついている少女がいた。まわりに本が散らかっているところをみると、どうやら本を運んでいたときにぶつかったのだろう。

「申し訳ない、お嬢さん。立てるかい?」

 相棒がしゃがみこみ、少女に手を差し伸べる。困惑しながらも、少女はその腕に引かれて立ち上がらされる。

「あ、ありがとうございます……」

 俯きつつも、少女は礼を言う。

「あなたたちは、一体だれでしょうか。見かけない顔なのですが」

 その声はひどく弱々しかった。

「私たちは古本を回収しにきた業者だよ。連絡いってなかったかな?」

 こういったときの相棒は本当に口が上手い。以前は営業職として働いていたと言っていた気がする。

「ええっと、すみません、ちょっとそのような話は伺っていないです。なにせ、今日は私だけですので」

 すみませんと、直角になるまで頭を下げられる。

 すっと二人の横を通り過ぎ、散らばった本を片付ける。どれもが薄汚れていた。どうやら書庫の整理でもしていたのだろう。少女の服装も、制服と思われるものの上からエプロンをつけている。

 片付けた本を少女に渡すと、またしても深くお辞儀をされてしまった。

 その時、部屋の奥から何かの音が聞こえた。

 相棒に目配せをする、間違いなくやつらだ。


やつらの襲来

「何か今、音が聞こえたような……」

 振り返り、音の発信源に歩み寄ろうとする。その肩を相棒がつかみ、そっと遠ざける。

 身体を突き抜ける違和感、今まで対峙してきたものとは明らかに違う緊張感。埃っぽい部屋を包み込む威圧感。それらが一挙に精神へと負荷をかけてくる。

 ふっ、と少女の身体が横に揺れる。年頃の少女にはこのような場所は似合わない。

「やつを頼む。私は少女を安全な場所まで運んでくる」

 しゃがみこみ、目を覗き込む。それは明後日の方向を向いており、私を見ていなかった。おそらく一時的に自我を奪われたのだろう。

 手首を握り駆け出そうとする、だが、それ以上脚は進まなかった。そこから先に足場がないように、今見ている風景は実は精巧に描かれた写真で、それが壁にかけられているように。

 再び襲う威圧感。異様なものと対峙するときにこみ上げてくる恐怖感。

 懐に仕舞っていた五芒星を取り出し、それを少女に握らせる。すると、少女の目に正気が戻った。

「なに、これ。ひどく、怖い……」

 身体を私に預け、腕を回し抱きついてくる。巻き込まれた少女には悪いが、この状態ではどうしようもない。

「悪いが、代わりにこれを抱きしめてくれないだろうか」

 ゆっくりと、優しく話しかける。少女は頭を上下させ素直にも私の指示に従った。

「先輩、これは結構なつわものですよ」

 五芒星を突き出しながら頭をこちらに向けて話しかける相棒の声色は、珍しく震えていた。

 あたりを占めていた重圧が一点に凝縮していく。

「どうやら、これ以上は待ってくれないようだな」


脅威

 それはあまりにも醜悪だった。かろうじて人型を保っているが、全体的に霞みのようだった。全長は2m程度だろうか。明らかに身体には悪そうな、毒々しい色をしており、事実あたりに卵が腐ったような異臭を振りまいていた。口とおぼしき器官からは耳にするのも苦痛なひどく調子の崩れたオルガンのようなうめき声が聞こえた。

 対峙したときに私の身体を恐怖が駆け抜けた。まるで蛆虫が全身を撫で回すような不快感。耳をふさぎ、しゃがみながら奇声を発したくなる衝動に駆られる。それらをぐっと奥歯をかみ締めて押し殺す。精神の拠り所は少女にある。もしも少女がそれをなくしてしまうと、その瞬間に精神が悲鳴を上げ、自らの首を絞め殺してしまうかもしれない。

 懐からボールペンを取り出し、それを左の手の甲に突き刺す。鮮血が流れ出す。痛みとその光景のおかげで何とか気持ちが和らいだ。

 やつらはどうやら1体だけだった。

 おそらく腕に当たる器官を振り上げる。周りの本がまるで糸で引かれるように浮かび上がる。

 振り下ろされる多数の本。2,3言葉を紡いだ後、私は2人を庇うように前に出て右腕を突き出す。まるでそこに何かがあるかのように本たちが左右に分かれて次々と後ろにぶつかった。

 相棒が走り出し、それに五芒星を突き出そうとする。刹那、それが霧散した。次の瞬間、全く離れたところに再びそれが集合した。そのまま身体の一部をもってして相棒に殴りかかる。彼は飛ばされ、その勢いのまま本棚にぶつかる。

 再び襲い掛かる大量の本たち。咄嗟に腕でそれらをガードする。紙が鋭利な刃物となり、私の着ていたコートを切り裂いていく。防刃製であるため、皮膚はおろか下に着ているシャツも多分無事だろう。最も、露出している手は守れないが。

 20秒ほどの詠唱が終了したのち、対象を視界に捉え完全不可視の剃刀を走らせる。霧の破片を削ぐことは出来たものの、殆どダメージは通っていなかった。

 それがうめき声を発する。鼓膜を振動させることなく、直接脳内に響きかける。

 深淵から数多の腕は這って出、私を引きずり込もうとする。落ちていく最中、真っ暗な空間がまるで質量を持ったかのように私の皮膚を覆う。べっとりとした、タールの海におぼれていくかのような感覚。身体から力が抜け、自由落下に身を任せる。そのまま地面に叩きつけられ、一瞬のうちに頭蓋骨が割れる。あふれだした脳漿の海に、歪な、ありえない方向に曲がった腕や脚が沈み込んでいく。動かない眼球を通し、光の差し込まない、底を、哀れは成れの果てを知覚する。



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