閉じる


試し読みできます

失踪

 

ある朝の事、それは突然だった。

今までならば寝坊などで遅刻する時は必ず連絡をよこしていた"三田(葵)"が、それもないまま一向に姿を現さないのである。

ほどんどの運転手が出発の準備を整えてしまう頃になっても事態は変わらず、"小鳥"は電話を掛けようかどうか迷っていた。

事務所に入ると、すでに伝票整理や一服をする運転手達が"三田(葵)"の話をしていて、

「 もしかして、また失踪したじゃねぇらねぇ 」

と誰かが言った時、最奥の机に静かに構えていた所長は、

「 おぅい! ちょっと誰か電話してみてくれるか?」

誰にともなく指示を出した。

「 ほぃじゃ俺が掛けてみますよぉ 」

その声に応えたのは北部運輸社員の"竜巻"という男。アイロンパーマをかけた毛髪部と額の生え際はかつては剃り込みをしていたのだろうと誰もが推測しそうなエッジの効いたM字型で、しかも目は細く、大概マスクを掛けている為昭和のヤンキー感がハンパない。

その"竜巻"が受話器を耳に当ててしばらく、

「 駄目だこりゃ、電源が入ってません 」

所長に報告する。

それを見守っていた一同が静かに動きを業務に戻す中、誰かの放った失踪というフレーズがどうにも引っ掛かった"小鳥"は、

「 あの・・ こういう事は前にもあったですか?」

"竜巻"にそっと近付き小声で尋ねた。
 
「 ん? あぁ、"葵"ちゃんも普段は明るく振舞ってるけど、たまぁには疲れちまう事もあるさよ 」

「 そうっすよね 」

"竜巻"は多くを語らなかったが、"三田(葵)"を擁護しているのは伝わって来た。

この件に関して、北部運輸としてはただじっと"三田(葵)"からの連絡が来るのを待つ事に落ち着いた様で、それが"三田(葵)"の人徳なのか、欠勤や遅刻に無断がタブーとされる社会のはずなのに騒ぎ立てる者は一人も見当たらず、"小鳥"もその対応を反感も覚えず受け入れていた。

その後、

「 "三田(葵)"から連絡が来たぞ 」

と所長から伝わったのは一週間も過ぎてからの事だったが、"小鳥"はこの時、

( 良かったぁ・・)

心からほっとしている自分に気付く事になった。
 
 

試し読みできます

No look future

 

"三田(葵)"の失踪は意外な所で"小鳥"にも影響を及ぼしていた。

予てから"三田(葵)"に昼飯を支給されていた"小鳥"は、いつしかそれを当てにして昼食代に使うべき予算を浪費してしまい、"三田(葵)"の失踪期間中は予定外の出費に早代わりしてしまった昼食代を稼ごうとして、

( くそっ・・)

金を儲けようとした途端にパチンコに冷たくあしらわれ、それを何度か喰らう内にすっかり金欠に陥っていたのである。

その為、昼食の支給をしてくれる"三田(葵)"の復帰は、地獄に垂れて来た蜘蛛の糸の様に思えた。

しかし、数日経っても何故かそれは行われず、

" 一寸先は闇 "

ならぬ、

" 一寸先は乞食 "

を思い知る事になった。

タバコを買う金も無い状況で給料日まではあと数日もある。飲まず食わずを貫かなければならないプレッシャーでテンションは低く、心なしかロレツも少し回らない。

「 "小鳥"ぃ、元気無いじゃん、どうしたでぇ?」

すっかり元気な様子の"三田(葵)"に声を掛けられ、

「 あっ、何でも無いっす 」

必死に平静を装うも、

「 嘘言っちょぉ~( 嘘を言うな )」

更なる問い詰めには思わず、

「 いや大した事じゃないっすから 」

と何かはあるのだと思わせる台詞が出る。

「 ほれみろしぃ、やっぱり何か隠してるズラァ 」

「 はい 」

「 まさか体の具合が悪いじゃないらねぇ?」

"三田(葵)"が気にしていたのは体調の方らしく、

「 いや、それは無いっす、ただその・・ 給料日前で金が無いだけっす 」

心配を掛けまいとしての弁解が真相の自供を兼務する。

「 なぁんでぇ、そんな事けぇ、まさか一円も無い訳じゃないらぁ?」

「 一円位はあるっすけど、ジュース代も無いもんで絶食中なんすよ 」

「 マジけぇ~、まったくおまんはおもしろいじゃんねぇ、ちっと待ってろしぃ 」

そう言ってその場を離れた"三田(葵)"は、すぐに戻って来て"小鳥"の手に何かを握らせると、

「 それで給料日まではもつらぁ?」

と微笑んだ。

開いた手には一万円札があり、

「 いや、これは受け取れないっす 」

「 ばぁか、誰もあげるとはいっちゃいんらぁ? ちゃんと給料貰ったら返すだよぉ 」

「 マジでいいっすか?」

「 いいからほれ、何でもいいからちゃんと食えし 」

「 はい、ほいじゃすんません、お借りします 」

様子を気に掛けてくれた"三田(葵)"によって金欠のピンチを見事乗り越える事が出来た"小鳥"は、ますます"三田(葵)"を慕う様になった。

" 気持ちを態度で示す "

が如く、道にも仕事にも慣れて効率が良くなっている所に不景気による担当エリアの物量減少が重なっていた為、その分の余力を"三田(葵)"の朝の積み込みと夕方の積み下ろしを手伝う事に捧げた。

「 "小鳥"、ありがとうね 」

その言葉に喜びを覚えると、その奉仕はまるで日課になった。

するとある夕方、いつもなら業務終了後は足早に帰宅していた"三田(葵)"が、

「 "小鳥"ぃ、ビールでも飲むけ?」

何故かこんな事を言い出した。

「 おっ! いいっすねぇ、でも何処で?」

「 箱の中なら見えんから此処で飲むじゃん 」

「 はい 」

「 よっしゃ、ほいじゃ買いに行かざぁ 」

「 はい 」

二人ですぐ近くの酒屋まで行った後に、トラックの箱の中に隠れての静かな乾杯。

仕事中に飲むアルコールは格別で、

" ゲプッ "

"小鳥"の口から思わずゲップが出ると、それを見て"三田(葵)"は笑い、

( かわいいかも・・)

そんな事をふと思う。

しかし、相手は会社の先輩である。

その意識を前にしてはただの息抜きとして過ぎるのみ。二人は空き缶を潰して解散となった。

 

試し読みできます

奥付


 
  著者 : k.kaminari
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/gethope/profile

 
k.kの小説はコチラから ↓ ↓ ↓
人生とは  1巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/59409/read
人生とは   2巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/61178/read
人生とは   3巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/62939/read
人生とは   4巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/65155/read
人生とは   5巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/69837/read
人生とは   6巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/89048/read
人生とは   7巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/89857/read
人生とは   8巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/90325/read
人生とは   9巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/90887/read
人生とは  10巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/91632/read
人生とは  11巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/92426/read
人生とは  12巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/92972/read
人生とは  13巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/93002/read
人生とは  14巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/98096/read
人生とは  15巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/100291/read
人生とは  16巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/100351/read
人生とは  17巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/100381/read
人生とは  18巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/100486/read
人生とは  19巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/100543/read
人生とは  20巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/100846/read
人生とは  21巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/113873/read
人生とは  22巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/113916/read
人生とは  23巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/114010/read
人生とは  24巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/114116/read
人生とは  25巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/114440/read
人生とは  26巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/114593/read
人生とは  27巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/114768/read
人生とは  28巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/115021/read
人生とは  29巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/115115/read
人生とは  30巻 ⇔ http://p.booklog.jp/book/121727/read
 
人生とは   1章 ⇔ http://p.booklog.jp/book/112348/read
人生とは   2章 ⇔ http://p.booklog.jp/book/113331/read
人生とは   3章 ⇔ 
 
 
k.kの詩作品はコチラから ↓ ↓ ↓
歩道         ⇔ http://p.booklog.jp/book/100563/read
コンシステンシー  ⇔ http://p.booklog.jp/book/100598/read
孤独のしるべ      ⇔ http://p.booklog.jp/book/100766/read
イーストヘッド      ⇔ http://p.booklog.jp/book/110530/read
voice              ⇔ http://p.booklog.jp/book/110668/read
カミナリ興し       ⇔ http://p.booklog.jp/book/112008/read
 
 

感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/59409

ブクログ本棚へ入れる
http://booklog.jp/item/3/59409



電子書籍プラットフォーム : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社ブクログ

 

 

 


試し読みはここまでです。続きは購入後にお読みいただけます。

この本は有料です。閲覧するには購入する必要があります。
購入するにはしてください。
有料本の購入に関しては、こちらのマニュアルをご確認ください。
販売価格10円(税込)
人生とは 15巻 』 を購入した方は 50円(税込)

読者登録

k.kさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について